JP3773080B2 - 転がり軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強い腐蝕性を有する薬液中などでの使用に適した転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
セラミック材料である窒化珪素(Si3N4)が優れた転がり軸受材料であることは、従来から知られている。窒化珪素の緻密な焼結体で形成した転動体および内外輪は軽量であり、また、耐熱性、耐蝕性、耐焼付性にも優れているため、高速回転や腐蝕環境等、通常の鋼製軸受では対応できない用途で幅広く実用化されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような窒化珪素も、非常に強い酸やアルカリに対しては腐蝕が発生するため、非常に強い腐蝕性を有する薬液中などで使用する転がり軸受の材料としては用いることができない。
【0004】
窒化珪素よりも耐蝕性に優れた転がり軸受用セラミック材料としては、アルミナ(Al2O3)、炭化珪素(SiC)、ジルコニア(ZrO2)(特に、強度に優れた正方晶ジルコニア)等が考えられる。
【0005】
しかし、アルミナは、窒化珪素に比べると機械的強度が低く、したがって窒化珪素よりも耐荷重性に劣る。さらに、表面を滑らかに研磨することが困難であるため、アルミナ単体からなるセラミック材料を転がり軸受材料として使用することはできない。
【0006】
また、炭化珪素も、アルミナと同様、窒化珪素に比べると機械的強度が低く、したがって窒化珪素よりも耐荷重性に劣る。しかも、緻密に焼結することが難しいので、表面の滑らかな転動体を形成するのが困難である。このため、炭化珪素単体からなる材料も、転がり軸受材料としては不向きである。
【0007】
一方、ジルコニアは、機械的強度にも表面加工性にも優れ、油を潤滑剤とする転がり軸受材料試験では、窒化珪素に次ぐ優れた耐久性を有することも確かめられている。ところが、ジルコニアは、応力により、または、水との反応により、結晶系が正方晶から単斜晶に変化し、この結晶変態に伴う大きな体積変化により強度が低下する不具合がある。このため、ジルコニアは、耐水性と耐蝕性とが同時に要求される用途、つまり、腐蝕性薬液中での実用は困難となっている。
【0008】
つまり、現在までのところ、窒化珪素製転がり軸受では対応できない強い腐蝕性環境にも対応できる転がり軸受は開発されていない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、従来使用されていた窒化珪素よりも耐蝕性が高く、しかも十分な耐荷重性を有し、したがって、非常に強い腐蝕性を有する薬液中などでも長期にわたって良好な軸受性能を発揮できる転がり軸受を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明の転がり軸受は、内輪と外輪と転動体との少なくとも転走面が複合セラミック材料で形成されており、上記複合セラミック材料は、アルミナと炭化珪素とからなる主要構成部を備え、転動寿命を向上させるべく、上記主要構成部においてアルミナ含有量が60〜90重量%、炭化珪素含有量が40〜10重量%であり、さらに、上記主要構成部に対する割合が5重量%未満である非主要構成部を備え、上記構成部の材料粉末を常圧焼結とこれに続く加圧焼結で焼結して成り、上記アルミナの平均粒径が5μm以下、炭化珪素の平均粒径が2μm以下であることを特徴としている。
【0011】
本明細書で使用している用語「転走面」は、内輪および外輪においては、転動体が転動する軌道面、また、転動体においては、上記軌道面に転がり接触する転動体表面のことを言うものとする。
【0012】
窒化珪素よりも共に耐蝕性に優れたアルミナと炭化珪素とは、上記した理由により、いずれも単体では転がり軸受材料として用いるには問題があるが、これらの複合材料とすることで、両者の欠点を抑える一方、両者の長所を生かしたものとすることが出来る。つまり、このアルミナ/炭化珪素複合セラミック材料は、耐蝕性に非常に優れ、焼結性、表面加工性にも機械的強度にも優れたものとなる。発明者の行った耐荷重性試験では、この複合セラミック材料が、油中では窒化珪素よりは劣るものの、水中においては、窒化珪素と略同等の耐荷重性を有し、アルミナ単体あるいは炭化珪素単体と比べると、油中でも水中でも格段に優れた耐荷重性を有することが判明している。したがって、転走面がこの複合セラミック材料からなる請求項1の転がり軸受は、非常に腐蝕性の強い薬液中でも長期にわたって良好に作動する。
【0013】
ここで、複合セラミック材料の主要構成部に占めるアルミナ含有量の割合の上限を90重量%および炭化珪素含有量の割合の下限を10重量%とする理由は、複合化による強度向上の効果を確実に得るためである。本発明者の行った試験の結果によると、アルミナ/炭化珪素複合セラミック材料におけるアルミナ含有量が90重量パーセントよりも多くなり、炭化珪素含有量が10重量パーセントよりも少なくなると、複合化による強度向上の効果が低くなり、転がり軸受として使用する際の絶対的な機械的強度が不足し、良好な転動寿命を得ることができなかった。
【0014】
また、複合セラミック材料の主要構成部に占めるアルミナ含有量の割合の下限を60重量%および炭化珪素含有量の割合の上限を40重量%とする理由は、良好な焼結性を得るためである。本発明者が行った試験の結果によると、成形されたセラミック材料に常圧焼結と加圧焼結を施す場合、アルミナ含有量が60重量%よりも少なく、炭化珪素含有量が40重量%よりも多いと、常圧焼結工程において、開気孔を無くすように焼結することができず、従って、続く加圧焼結工程で、殆ど気孔の無い緻密な焼結体を得ることができなかった。その結果、研磨加工によって、滑らかな転走面を得ることができなかった。炭化珪素含有量が40重量%よりも多い場合に、緻密な焼結体を得るために焼結温度を高くすると、アルミナの粒子が大きくなってしまい、靭性の大きな材料が得られない。転がり寿命は転走面の表面粗さと材料の破壊靭性値に依存しており、転走面の表面が粗いか又は転走面における材料の破壊靭性値が低いと、寿命が短くなってしまうため、アルミナ含有量が60重量%よりも少なく、炭化珪素含有量が40重量%よりも多い複合セラミック材料で転走面が形成された転がり軸受は耐久性に劣った。
【0015】
一方、アルミナ含有量および炭化珪素含有量が上記範囲内にあり、アルミナと炭化珪素の粒径が所定の大きさ以下である場合には、転走面の表面粗さを一定の範囲内に抑えることができ、また転走面における破壊靭性値も所定値以上にすることができ、転がり軸受として良好な耐久性を得ることができた。しかも、主要成分であるアルミナと炭化珪素はいずれも窒化珪素よりも耐蝕性に優れたものであることから、請求項1の転がり軸受は耐蝕性に非常に優れ、窒化珪素では対応できない腐蝕性の強い薬液中などにおいても、長期に使用することができる。
【0016】
さらに、請求項1の転がり軸受では、上記アルミナの平均粒径が5μm以下、炭化珪素の平均粒径が2μm以下である。
【0017】
本発明者が行った試験の結果によると、アルミナと炭化珪素の平均粒径がこの範囲内にある場合には、転走面における複合セラミック材料の破壊靭性値を4.0MPa・m1/2以上とすることができると共に、炭化珪素が硬いにもかかわらず転走面を滑らかに研磨することができた。この結果、良好な転がり寿命を得ることができた。
【0018】
請求項2の転がり軸受は、内輪と外輪と転動体との少なくとも転走面が複合セラミック材料で形成されており、上記複合セラミック材料は、アルミナと炭化珪素とからなる主要構成部を備え、転動寿命を向上させるべく、上記主要構成部においてアルミナ含有量が60〜90重量%、炭化珪素含有量が40〜10重量%であり、さらに、上記主要構成部に対する割合が5重量%未満である非主要構成部を備え、上記構成部の材料粉末を常圧焼結とこれに続く加圧焼結で焼結して成り、上記転走面の表面粗さを、中心線平均粗さRaで0.07μm以下かつ最大高さRmaxで0.4μm以下としたものである。
【0019】
上述したように、転がり寿命は表面粗さと材料の破壊靭性値に依存しており、表面が粗いか又は破壊靭性値が低いと、寿命が短くなってしまう。発明者が行った試験によると、Raがたとえ0.1μm以下であってもRmaxが0.4μmよりも大きいと耐久性のばらつきが大きくなって、信頼性に欠け、Rmaxが0.4μm以下でも、Raが0.1μmよりも大きいと、耐久性に劣った。これに対して、RaとRmaxの両方がそれぞれ0 . 1μm以下と0 . 4μ m 以下のとき、特に上記範囲内にあるときには、良好な耐久性が得られた。
【0020】
請求項3の転がり軸受においては、上記転走面を形成している複合セラミック材料は破壊靭性値が4.0MPa・m1/2以上である。
【0021】
アルミナも炭化珪素もそれぞれ脆性セラミックスに分類され、特にアルミナは破壊に対する抵抗力つまり破壊靭性の低い材料である。しかし、この転がり軸受の転走面を形成しているアルミナと炭化珪素との複合セラミック材料は、複合化による効果とアルミナと炭化珪素の粒子の大きさを所定の値以下にすることで、破壊靭性が向上しており、転がり軸受の転走面材料として十分な4.0MPa・m1/2以上の破壊靭性値を有することができるのである。したがって、この転がり軸受は、耐荷重性に優れ、良好な耐久性を有することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の転がり軸受の一実施の形態であるラジアル玉軸受を示した断面図であり、1は外周面に軌道面1aを有する内輪、2は内周面に軌道面2aを有する外輪、3は上記軌道面1aと2aの間に周方向に一定間隔をあけて設けられた複数の転動体としての玉、そして4は保持器である。上記ラジアル玉軸受の転走面、つまり、上記両軌道面1a,2aおよび各玉3の表面の表面粗さは、中心線平均表面粗さRaで0.1μm以下、最大高さRmaxで0.4μm以下である。
【0024】
上記内輪1、外輪2、および、玉3の各々は、アルミナと炭化珪素とからなる主要構成部を備えた複合セラミック材料からなる。この複合セラミック材料の主要構成部に占めるアルミナ含有量の割合は60〜90重量%の範囲内にあり、炭化珪素含有量の割合は40〜10重量%の範囲内にある。アルミナの平均粒径は5μm以下、炭化珪素の平均粒径は2μm以下である。この複合セラミック材料は、アルミナと炭化珪素とからなる上記主要構成部のみで100重量%となるようにしてもよいが、焼結を促進するための焼結助剤となる成分、アルミナの粒成長を抑制する成分などを不可避不純物と合わせて、100重量%の該主要構成部に対して5重量%を超えない範囲で加えてもよい。焼結助剤としては、各種の希土類酸化物、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等を用いることができる。上記内輪1、外輪2、玉3の転走面において、上記複合セラミック材料の破壊靭性値は4.0MPa・m1/2以上である。
【0025】
上記アルミナ/炭化珪素複合セラミック材料製の内輪1と外輪2と玉3は、たとえば次のような方法によって製造できる。
【0026】
まず、アルミナの粉末と炭化珪素の粉末とを上記範囲内で所定の割合となるように秤量し、通常の方法でボールミルで混合(このとき、上述した範囲内で焼結助剤などを加えてもよい。)、乾燥した後、その混合粉体を内輪、外輪および玉に成形し、真空またはアルゴン雰囲気中で1400℃〜1800℃で常圧焼結する。次いで、熱間静水圧プレス(HIP:Hot Isostatic Pressing)法による焼結を行い、実質的に理論密度の複合焼結体を得る。そして、こうして得られた焼結体の表面を研磨加工によって滑らかにすることにより、上記内輪1、外輪2、玉3を得るのである。
【0027】
上記混合粉体の成形法としては、乾燥した粉末を所定の形状に合わせて一軸プレスする方法、静水圧プレスする方法、スリップキャスト法、射出成形法等を用い得る。また、上記常圧焼結の目的は、次いで行うHIP焼結において実質的に理論密度の焼結体が得られるように、開気孔が実質的になくなるようにすることであり、通常、相対密度が95%以上となるように温度と時間とを選ぶ。上記HIP焼結は真空またはアルゴン雰囲気で行い、その温度は通常、常圧焼結時の温度より50℃程度低い温度に設定する。こうして得られた焼結体は、殆ど気孔のない緻密なものなので、研磨加工によって滑らかな表面に加工できる。
【0028】
図2に示す試験装置を用いて油中での転動疲労試験を行い、上記複合セラミック材料からなる焼結体の転がり性能評価(耐荷重性評価)を行った。この転動疲労試験は、図2に示すように、平板状の試験片(試料)の上を3個の金属(SUJ2)製の玉が転がる方式とし、これらの玉に100Kgfの荷重をかけて、油(スピンドル油#60)の中で1200r.p.m.の回転速度で回転させるものである。なお、保持器は黄銅製のものを用いた。繰り返し応力によって、一定時間の後に、試料には剥離が生じたり、摩耗が生じたりする。その結果、試験装置の振動が大きくなる。そこで、その振動を検知し、振動が検知されるまでの時間をその試料の寿命とした。
【0029】
最初の試験では、アルミナと炭化珪素の混合割合をいろいろと変化させた試料No.1〜6を用意し、それらの寿命を調べた。表1はこの試験結果を示したものである。
【0030】
【表1】
【0031】
試料No.1〜2と試料No.6〜7は比較例、試料No.3〜5は本発明の実施例である。アルミナ含有量が95重量%よりも多く炭化珪素含有量が5重量%よりも少ない試料1(比較例)の場合には、中心線平均表面粗さRaが0.05μm以下、最大高さRmaxが0.4μmと所定の値(Ra=0.1μm,Rmax=0.4μm)以下であり、十分滑らかな表面を有するにも拘わらず、寿命はわずか28時間と非常に短かった。これは、炭化珪素含有量が余りに少ないために、複合化による機械的強度向上の効果が十分に得られないためだと考えられる。また、アルミナのみ、あるいはそれに近い状態では、たとえ焼結体が緻密になっていて滑らかな表面を有していても、荷重下での玉の転動によって、アルミナ粒子の脱落が生じるためと思われる。
【0032】
また、アルミナ含有量が60重量%よりも少なく炭化珪素の含有量が40重量%よりも多い、具体的には、それぞれの含有量が等しい試料No.6(比較例)の場合には、常圧焼結で相対密度を95%以上にすることができず、その結果HIP焼結を行っても緻密にならず、研磨加工によって滑らかな面を得ることができなかった。つまり、Raは0.15μm、Rmaxは0.48μmと、いずれも所定値(Ra=0.1μm、Rmax=0.4μm)よりも大きかった。この結果、この試料の寿命は98時間であった。試料No.6と同じアルミナ、炭化珪素の含有量で焼結温度を上げた試料No.7では、表面粗さは所定値以下にすることができたが、転がり寿命はやはり短かった。この試料では、アルミナの平均粒径が5μmを越えており、破壊靭性値は3.5MPa・m1/2であった。
【0033】
これに対して、アルミナと炭化珪素の含有量(重量%)がそれぞれ95/5、90/10、80/20、60/40である試料No.2(比較例)および試料No.3〜5(実施例)の場合には、表面粗さはRaで0.05以下、Rmaxで0.4以下と滑らかな表面を有し、また、寿命はそれぞれ、103時間、280時間、300時間、250時間と、試料No.1,6,7に比べて長く、中でも、アルミナ含有量が90〜60重量%で炭化珪素含有量が10〜40重量%の複合体(試料No.3〜5)が特に効果のあることが分かった。これらの試料でアルミナの平均粒径は3.2〜4.8μmの範囲であり、炭化珪素の平均粒径は2μm以下であった。これらの試料の破壊靭性値は4.0MPa・m1/ 2以上である。
【0034】
次に、アルミナ70重量%と炭化珪素30重量%の複合体の中心線平均表面粗さRaを0.05μm以下とし、最大高さRmaxをいろいろ変化させることによって、転がり性能(耐荷重性能)に対する最大高さRmaxの影響を調べた。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
試料No.8〜10は本発明の実施例、試料No.11は比較例であり、各試料No.についてそれぞれ5個の試料を用意した。表2中、右側の欄には、5個の試料中、耐久時間つまり寿命の最も長かった試料と最も短かった試料の耐久時間とを記載している。両数値の差が大きいほど、同一試料No.における耐久時間に大きいばらつきがあることを示す。表2から、Rmaxが0.4μm以下である試料No.8〜10(実施例)の場合には同一試料No.間のばらつきがわずか30〜55時間しかなく、したがって信頼性が高いのに対して、Rmaxが0.4μmを超える試料No.11(比較例)の場合には、最長寿命が150時間、最短寿命が50時間と、同一試料No.間で寿命が大きく(100時間)ばらついており、信頼性に欠けることがわかった。さらに、全体的傾向として、Rmaxが大きくなるにつれて軸受寿命が短くなっていることが分かる。そして、Rmaxが0.4μmを超えている試料No.11(比較例)の場合には、Rmaxが0.4μm以下の試料に比べると最長寿命は100時間以上も短かく、また最短寿命については、わずか50時間しかなく、本発明の実施例である試料No.8〜10の最短寿命が250〜195時間であるのに対して、非常に短い。このことから、最大表面粗さRmaxが軸受の寿命に密接に関係しており、Rmaxが0.4μmを超えると十分な転がり性能を得られないばかりか、寿命にばらつきが出て信頼性にも欠けることがわかった。
【0037】
次に、アルミナ70重量%と炭化珪素30重量%の複合体の最大高さRmaxを0.4μm以下とし、中心線平均表面粗さRaをいろいろ変化させることによって、転がり性能(耐荷重性能)に対する中心線平均表面粗さRaの影響を調べた。その結果を表3に示す。試料No.12〜14は本発明の実施例、試料No.15,16,17は比較例である。各試料No.についてそれぞれ3個の試料を用意し、これら3個の寿命の平均をその試料No.の寿命とした。
【0038】
【表3】
【0039】
表3から、Raが大きくなるにつれて寿命が短くなっていることが分かる。そして、Raが0.1μmを超えている試料No.16,17(比較例)の場合には、寿命はそれぞれわずか32時間,28時間しかなく、実用に耐えるものではないことが分かった。試料No.12〜16はHIPしたアルミナ/炭化珪素複合体の研磨の程度を変えて表面粗さを変化させた場合であるが、試料No.17はアルミナと炭化珪素の比率は同じ70/30重量%とし、炭化珪素として平均2μm以上の原料を用いて製造した複合体を試料No.12と同じ条件で研磨したものである。この試料No.17では硬い炭化珪素が大きいために、最善の研磨を施してもRaが0.1〜0.15と大きく、その結果転がり寿命は短かった。このことから、Raは0.1μm以下であるべきであること、また炭化珪素は2μm以下であるべきことが分かった。また、Raが0.01〜0.07μmの範囲内にある試料No.12〜14の場合に特に良好な結果(265〜223時間)が得られたことから、Raは0.1μm以下の範囲の中でも特に0.07μm以下において効果のあることがわかった。
【0040】
以上の試験結果において、Raがたとえ0.1μm以下であっても、Rmaxが0.4μmよりも大きいと耐久性(寿命)のばらつきが大きくなり、Rmaxが0.4μm以下であっても、Raが0.1μmよりも大きいと平均的な耐久時間(寿命)が短くなったことから、Raの値とRmaxの値がそれぞれ、0.1μm以下、0.4μm以下という条件を同時に満たす必要があることがわかった。
【0041】
以上の試験結果は、アルミナを60〜90重量%、炭化珪素を40〜10重量%含有したアルミナ/炭化珪素複合セラミック材料が、緻密な焼結体を得られる点、焼結体の表面を滑らかに加工できる点、また、十分な機械的強度と破壊靭性(4.0MPa・m1/2以上)、つまり耐荷重性を得られる点で優れた転がり軸受材料であることを示した。また、転走面の表面粗さがRaで0.1μm以下、特に0.07μm以下、Rmaxで0.4μm以下の場合に転がり軸受が耐久性を有することも示した。しかも、上記複合セラミック材料は、従来使用されていた窒化珪素よりも耐腐蝕性に優れたアルミナおよび炭化珪素を含有したものである。したがって、本実施の形態の玉軸受は強い耐蝕性を有する。
【0042】
表1〜3に示した試験結果は、アルミナと炭化珪素とからなる主要構成部のみで100重量%にした試料に関するものであるが、焼結助剤を不可避不純物と合わせて、100重量%の該主要構成部に対して5重量%を越えない範囲で加えた場合も、同様に良好な結果を得ることができた。
【0043】
次に、複数種類のセラミック材料を試料として、図2に示す試験装置を用いて油中と水中での転動疲労試験を行い、油中と水中での転がり性能評価(耐荷重性評価)を行った。この転動疲労試験は、前述の試験と同様に平板状の試験片(試料)の上を3個の金属製の玉が転がる方式とし、これらの玉に荷重をかけて、油(スピンドル油#60)と水道水の中でそれぞれ1200r.p.m.の回転速度で回転させるもので、荷重の大きさを100時間毎に40Kgf→100Kgf→250Kgf→400Kgfと段階的に増加させた。なお、上記玉は、油中試験ではSUJ2製のものを、水中試験ではSUS440C製のものを用いた。そして、保持器は油中試験においても水中試験においても黄銅製のものを用いた。繰り返し応力によって、一定時間の後に、試料には剥離が生じたり、摩耗が生じたりする。その結果、試験装置の振動が大きくなる。そこで、その振動を検知し、振動が検知されるまでの時間をその試料の寿命とした。試料は、本実施形態の転がり軸受に使用するアルミナ/炭化珪素複合セラミック材料(Al2O3−SiC)のほか、比較例として、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al2O3)、および窒化珪素(Si3N4)の計4種類を用いた。油中での試験結果を図3に、水中での試験結果を図4に示す。
【0044】
図3に示すように、油中では、やはり窒化珪素が最も優れた転がり性能を発揮し、荷重が400Kgfに変わって100時間を経過、つまり、試験開始から400時間を経過しても異常は検知されなかった(図中、○印はそこで試験が打ち切られたことを示す)。一方、炭化珪素単体およびアルミナ単体はそれぞれ荷重40Kgfで損傷し、その寿命は50時間に遥かに及ばなかった。これに対して、本実施の形態である転がり軸受の材料であるアルミナ/炭化珪素複合セラミック材料は、250Kgfの荷重で損傷したものの、100Kgfの荷重に対しては異常を示さず、耐久時間が200時間余りと、転がり軸受材料として満足の行くものであることを示した。
【0045】
一方、水中での試験では、図4から明らかなように、アルミナ/炭化珪素複合セラミック材料が最も優れた耐久性を示した。具体的には、窒化珪素もアルミナ/炭化珪素複合セラミック材料も荷重100Kgfで損傷(摩耗)したが、その寿命は窒化珪素が約150時間であったのに対して、アルミナ/炭化珪素複合セラミック材料は200時間近くあった。なお、炭化珪素単体およびアルミナ単体は、油中の場合と同様に、それぞれ荷重40Kgfで損傷(摩耗)し、その寿命は50時間に遥かに及ばなかった。このように、アルミナ/炭化珪素複合セラミック材料は水中においては窒化珪素よりも優れた耐久性を有する。したがって、この材料で形成した本実施の形態の転がり軸受は、窒化珪素では対応できない強い腐蝕性を有する薬液の中においても、長期にわたって良好に機能できる。
【0046】
以上、内輪1と外輪2と玉3の全体を上記アルミナ/炭化珪素複合セラミック材料で形成した実施の形態について説明したが、内輪1と外輪2と玉3のそれぞれの転走面のみ、つまり、軌道面1a,2aと玉3の表面のみをこの材料で形成するようにし、その他の部分は他の成分からなるセラミックで形成してもよい。あるいは、上記と同一の成分を用いるが、転走面とその他の部分とで混合比のみを変えるようにしてもよい。また、内外輪1、2の表面部分全体を上記アルミナ/炭化珪素複合セラミック材料で形成し、内部を金属で形成することもできる。
【0047】
また、上記実施の形態においては、アルミナ粉末と炭化珪素粉末とを混合し、この混合粉体を成形して焼結したが、炭化珪素粉末の代わりに炭化珪素ウィスカーを用いてもよい。あるいは、炭化珪素粉末と炭化珪素ウィスカーの両方を用いてもよい。
【0048】
なお、上記説明はラジアル玉軸受について行ったが、本発明はそれ以外のあらゆる転がり軸受に適用できることは言うまでもない。
【0049】
【発明の効果】
以上より明らかなように、請求項1の転がり軸受の転走面を形成しているアルミナと炭化珪素との複合セラミック材料は、耐蝕性に非常に優れ、しかも、焼結性、表面加工性にも機械的強度にも優れているので、請求項1の転がり軸受は、窒化珪素製の転がり軸受では対応できないような非常に腐蝕性の強い薬液中でも長期にわたって良好に作動することができる。
【0050】
また、請求項1の転がり軸受は、上記アルミナの平均粒径が5μm以下、炭化珪素の平均粒径が2μm以下であるので、転走面における複合セラミック材料の破壊靭性値ならびに転走面の表面粗さを、良好な転がり寿命を得ることを可能とするものにできる。
【0051】
また、請求項2の転がり軸受は、上記転走面の表面粗さが、中心線平均粗さRaで0.07μm以下かつ最大高さRmaxで0.4μm以下であるので、ばらつきのない優れた耐久性を有することができる。
【0052】
また、請求項3の転がり軸受は、転がり接触する転走面における材料の破壊靭性値が4.0MPa・m1/2以上であるから、耐荷重性に優れ、良好な耐久性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態であるラジアル玉軸受の断面図である。
【図2】 転動疲労試験を行うための試験装置を示す図である。
【図3】 油中での試験結果を示したグラフである。
【図4】 水中での試験結果を示したグラフである。
【符号の説明】
1…内輪、1a…内輪の軌道面、2…外輪、2a…外輪の軌道面、3…転動体、4…保持器。
Claims (3)
- 内輪と外輪と転動体との少なくとも転走面が複合セラミック材料で形成されており、上記複合セラミック材料は、アルミナと炭化珪素とからなる主要構成部を備え、転動寿命を向上させるべく、上記主要構成部においてアルミナ含有量が60〜90重量%、炭化珪素含有量が40〜10重量%であり、さらに、上記主要構成部に対する割合が5重量%未満である非主要構成部を備え、上記構成部の材料粉末を常圧焼結とこれに続く加圧焼結で焼結して成り、上記アルミナの平均粒径が5μm以下、炭化珪素の平均粒径が2μm以下であることを特徴とする転がり軸受。
- 内輪と外輪と転動体との少なくとも転走面が複合セラミック材料で形成されており、上記複合セラミック材料は、アルミナと炭化珪素とからなる主要構成部を備え、転動寿命を向上させるべく、上記主要構成部においてアルミナ含有量が60〜90重量%、炭化珪素含有量が40〜10重量%であり、さらに、上記主要構成部に対する割合が5重量%未満である非主要構成部を備え、上記構成部の材料粉末を常圧焼結とこれに続く加圧焼結で焼結して成り、上記転走面は、表面粗さが中心線平均粗さRaで0 . 07μm以下かつ最大高さRmaxで0.4μm以下であることを特徴とする転がり軸受。
- 上記転走面を形成している複合セラミック材料は破壊靭性値が4.0MPa・m1/2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の転がり軸受。
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