JP3769978B2 - 開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法 - Google Patents

開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、缶体の缶蓋に形成された開口部を破断して開缶する、飲料用缶や食缶の缶蓋に使用される、開缶性に優れたイージーオープン缶蓋の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
各種飲料や食品を収容する缶の缶蓋として、缶蓋に形成された開口部を、指先等で缶蓋に取り付けられたタブを引き上げることにより破断し、開缶するイージーオープン缶蓋が広く使用されている。
【0003】
イージーオープン缶蓋は、主として飲料缶蓋に使用されるパーシャルオープンタイプの缶蓋と、主として食缶に使用されるフルオープンタイプの缶蓋とに大別される。
【0004】
パーシャルオープンタイプの缶蓋は、プルトップ・タブ・タイプの缶蓋と、ステイオン・タブ・タイプの缶蓋とに大別される。
【0005】
図6は、プルトップ・タブ・タイプ缶蓋の一例を示す概略平面図である。図6に示すプルトップ・タブ・タイプの缶蓋の開口は、次のようにして行われる。
【0006】
鋼、アルミニウム合金等の金属板からなる缶蓋1の中央パネル部9の中心にリベット機構8により取り付けられているタブ3を指先等で引き上げることによって、中央パネル部9に開口用溝2が刻設されている破断開口部5を、てこの作用により、タブ3の作用端が押し下げる。その結果、開口用溝2は破断し、更にタブ3を引張ることによって、破断した開口片は缶蓋1から完全に切り離される。
【0007】
図7は、ステイオン・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。図7に示すステイオン・タブ・タイプ缶蓋の開口は、次のようにして行われる。
【0008】
鋼、アルミニウム合金等の金属板からなる缶蓋1の中央パネル部9の中心にリベット機構8により取り付けられているタブ3を指先等で引き上げることによって、中央パネル部9に開口用溝2が刻設されている破断開口部5を、てこの作用により、タブ3の作用端が押し下げる。その結果、開口用溝2は破断し、更にタブ3の引起こし端を引き上げることによって破断を進行させ、その際に生じた破断開口片の一部を缶蓋1に連結させたまま缶内に押し込む。
【0009】
また、フルオープンタイプの缶蓋は、缶蓋の外周縁に沿って開口用溝が刻設されており、缶蓋外周縁近くのパネル部に取り付けられたタブを指先等で引き上げることによって、プルトップ・タブ・タイプの場合と同様に、開口片を缶蓋から切り離すようになっている。
【0010】
このようなイージーオープン缶蓋における開口用溝の形成は、従来、図8に示すように、所定の開口部輪郭が形成された刃先状突起を有する加工工具10を使用し、缶蓋の表面側より蓋板11の厚さの1/2以上の深さの開口用溝が形成されるような高い荷重でプレスにより押圧成形することによって行われており、これによって断面V字状の開口用溝2が形成されていた。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、開口用溝の形成は、加工工具を使用しプレスによる高荷重の押圧成形で行われるために、両面に樹脂フィルム層が形成された鋼板からなる缶蓋の場合には、押圧成形時に、缶蓋の、特に缶外面側となる面に形成されている樹脂フィルム層が損傷し、耐食性が劣化するといった問題点が生ずる。従って、耐食性の劣化を防止するために、押圧成形後に補修塗装を行わなければならず、多くの手間および費用を要していた。
【0012】
最近は、缶蓋の材料に、缶外面側となる面に形成されている樹脂フィルム層が損傷を受けても錆の生じないアルミニウム合金が使用されているが、アルミニウム合金の使用は、コスト高となる上、リサイクルの点からも問題がある。
【0013】
樹脂フィルム層が形成された表面処理鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に生じる上述した問題の対策として、特開平6−115546号、特開平6−115547号、特開平6−115548号公報には、複合押出し加工によって開口用溝を形成する方法が開示されている。上記公報の記載によれば、複合押し出し加工によって開口用溝が形成されるので、樹脂フィルム層の損傷がなく補修塗装が不要であるとされているが、複合押出しの加工条件や溝形成の詳細が不明であり、安定して開日用溝が形成される再現性の判断が困難である。
【0014】
また、特開平8−99140号公報には、肩半径が0.1〜1.0mmの上下金型により温間加工によって開口用溝を形成し、開口用溝の最薄部の板厚を元板厚の1/2以下にする方法が開示されている。肩半径が0.1〜1.0mmの金型を使用することは、樹脂フィルム層の損傷に対しては効果があるが、開缶力は開口用溝の最薄部の板厚の絶対値および強度によって決まるために、元板厚の1/2以下にしても良好な開缶性を示すとは限らない。
【0015】
実公昭63−40439号公報には、指の挿入および指掛け挟持部の挟持を容易にするために、缶蓋の中央パネル部とタブの指掛け挟持部との間隔を広める目的で、指挿入用凹部をタブの指掛け挟持部の下方の中央パネル部に形成することが提案されている。
【0016】
また、実開平5−40133号公報には、タブの中心軸が破断開口部の中心軸からずれた開口不可位置から、タブの中心軸と破断開口部の中心軸とが一致する開口可能位置に回転移動可能な程度にタブをリベット留めし、タブが開口不可位置から開口可能位置に移動する間に、リベットとタブの指掛け挟持部の間に位置する中央パネル部に設けたテーパー状の突起によってタブの指掛け挟持部を浮き上がらせることにより、缶蓋の中央パネル部とタブの指掛け挟待部との間隙への指の挿入および指掛け挟持部への指掛かりを容易にすることが提案されている。
【0017】
上記缶蓋によれば、指挿入用凹部またはテーパー状の突起が形成されていることにより、それらが形成されていないものと比較して、缶蓋の中央パネル部とタブの指掛け挟持部との間隙への指の挿入、および、指掛け挟持部への指掛かりは容易になるが、開缶時の引上げ力は変わらないために、開缶力の低減までには至っていない。
【0018】
従って、この発明の目的は、上述した問題点を解決し、両面に樹脂フイルム層が形成された鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に、缶蓋の両面に形成されているメッキ層および樹脂フィルム層の損傷による耐食性劣化を防止するための補修塗装を必要とせず、しかも、子供や老人でも容易に開缶することができる、開缶性に優れたイージーオープン缶蓋の製造方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上述した問題点を解決し、開缶性に優れしかも衝撃破壊の生ずることがなく、且つ、樹脂フィルム層の損傷を抑制し得るイージーオープン缶蓋の製造方法を開発すべく鋭意研究を重ねた。
【0020】
従来、開缶時における開口用溝の破断は、せん断変形によって生ずると考えられており、そのような考えに基づいて開口用溝の形状を設計していた。しかしながら、本発明者等による研究の結果、開口用溝の破断は、せん断変形によって生ずるのではなく、主として引張り変形によって生ずることが明らかになった。
【0021】
従って、開缶力を低減させるためには、開口用溝の最薄部の板厚および強度を小さくすることが効果的であることがわかった。また、樹脂フィルム層の損傷を抑制するためには、開口用溝を加工するための金型の先端半径を大きくすること、加工時に生ずる面圧を小さくすることが有効な手段であることがわかった。
【0022】
この発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0023】
請求項1記載の発明は、缶蓋の表面または裏面に開口用溝が形成され、前記開口用溝を破断して開缶するイージーオープン缶蓋の製造方法において、鋼板の両面に、上層に、エステル反復単位の95%以上がエチレンテレフタレート単位である厚さ1μm以上のポリエステルフィルムを有し、下層に、エステル反復単位の75〜82%がエチレンテレフタレート単位である厚さ10μm以上のポリエステルフィルムを有する、総厚みが15〜100μmであり、厚み比(上層フィルム厚み/下層フィルム厚み)が0.5以下である二層からなるポリエステル樹脂フィルムが形成された樹脂被覆鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下何れか一方の金型が先端半径0.1〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる一対の金型を使用して押圧加工を施し、前記開口用溝を形成すること、および、前記押圧加工が施された前記缶蓋パネルの加工最薄部の鋼板の板厚t(mm)が、下記(1)および(2)式、
2.5≦P≦5.0 -----(1)
P=t×TS×{exp(n)/(nn)}
×〔2/√3×|In{1+(t−t)/t}|〕 -----(2)
但し、上記(1)及び(2)式において、
:鋼板厚(mm)、
n :均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数、
TS:引張強度(kgf/mm
を満足することに特徴を有するものである。
【0024】
請求項2記載の発明は、缶蓋の両面に開口用溝が形成され、前記開口用溝を破断して開缶するイージーオープン缶蓋の製造方法において、鋼板の両面に、上層に、エステル反復単位の95%以上がエチレンテレフタレート単位である厚さ1μm以上のポリエステルフィルムを有し、下層に、エステル反復単位の75〜82%がエチレンテレフタレート単位である厚さ10μm以上のポリエステルフィルムを有する、総厚みが15〜100μmであり、厚み比(上層フィルム厚み/下層フィルム厚み)が0.5以下である二層からなるポリエステル樹脂フィルムが形成された樹脂被覆鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下の金型が何れも先端半径0.1〜1.0mmの曲面型である一対の金型を使用して押圧加工を施し、前記開口用溝を形成すること、および、前記押圧加工が施された前記缶蓋パネルの加工最薄部の鋼板の板厚t(mm)が、下記(1)および(2)式、
2.5≦P≦5.0 -----(1)
P=t×TS×{exp(n)/(nn)}
×〔2/√3×|In{1+(t−t)/t}|〕 -----(2)
但し、上記(1)及び(2)式において、
:鋼板厚(mm)、
n :均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数、
TS:引張強度(kgf/mm
を満足することに特徴を有するものである。
【0025】
請求項3記載の発明は、前記ポリエステル樹脂は、フィルムの破断伸びが100%以上、引張強度が10kgf/mm2以上、引張弾性率が100kgf/mm2以上であることに特徴を有するものである。
【0026】
【発明の実施の形態】
次に、この発明のイージーオープン缶蓋の製造方法を、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、請求項1に記載の、この発明のイージーオープン缶蓋の製造方法の一実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【0028】
この実施態様においては、図lに示すように、両面に樹脂フィルム層7を有する、鋼板厚さt0の缶蓋1の表面1a側に、半径(R)が0.1〜1.0mmの曲面型である金型を、裏面側に平型を用いて、その最薄部2aの鋼板厚がtであり、底断面が曲面形状の開口用溝2を、上記金型を押圧成形することにより形成する。
【0029】
このとき、缶蓋1をなす鋼板の均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数をn、引張強度をTS(kgf/mm2)とした場合に、tが下記(1)および(2)式を満足するように形成する。
【0030】
Figure 0003769978
図2は、請求項2に記載の、この発明のイージオープン缶蓋の製造方法の一実施態様を示す、缶蓋に形成した開口用溝部分の断面図である。
【0031】
この実施態様においては、図2に示すように、両面に樹脂フィルム層7を有する、鋼板厚さt0の缶蓋1の表面1aおよび裏面1bに、各々半径(R)が0.1〜1.0mmの曲面型である金型を用いて、その最薄部2aの鋼板厚がtであり、底断面が曲面形状の開口用溝2、2を、上記金型を押圧成形することにより形成する。
【0032】
このとき缶蓋1をなす鋼板の均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数をn、引張強度をTS(kgf/mm2)とした場合に、tが下記(1)および(2)式を満足するように形成する。
【0033】
Figure 0003769978
缶蓋1の表面1aまたは表面1aおよび裏面1bに、上述した半径(R)の、曲面形状の開口用溝2を形成することによって、子供や老人でも容易に開缶することができる程度にまで開缶力が安定して低減化し、しかも、衝撃破壊の発生が防止される。
【0034】
缶蓋1の表裏面の何れかまたは両面に開口用溝2を形成するときの、開口用溝2を形成するための金型の半径(R)が0.1mm未満では、樹脂フィルム層を損傷することなく、缶蓋パネルに上記開口用溝2を形成することが困難になる。
【0035】
一方、上記金型の半径(R)が1.0mmを超えると、缶蓋1における薄肉部の面積が大きくなるために、開口部の破断位置が不安定になって開口形状が悪化する上、破断部の一部が垂れ下がる「だれ」が大きくなる問題が生じ、また、限られたスペースの缶蓋パネル上に1.0mmを超える幅の開口用溝2を形成することは実用上困難である。
【0036】
また、開口用溝2の最薄部2aの鋼板厚tは、缶蓋1をなす鋼板の均一伸びの40〜90%の領域における加工硬化指数をn、引張強度をTS(kgf/mm2)とした場合に、tが下記(1)および(2)式を満足するように形成する。
【0037】
Figure 0003769978
開口用溝2は、上述した形状の金型を缶蓋1をなす鋼板に押圧成形することにより得られるが、このような成形を施すと、加工により得られた最薄部2aでは加工硬化が生じて、強度が増大する。加工硬化の程度は、鋼板の元の板厚t0と加工後の板厚tとの比によって異なり、tが小さいほど最薄部の強度は大きくなる。
【0038】
最薄部2aの相当応力をσ、相当ひずみをεとすると、
σ=K×εn -----(3)
と表される。缶蓋1に用いられる鋼板の均一伸びの40〜90%の領域における加工硬化指数をn、引張強度をTS(kgf/mm2)とすると、
TS=K×nn/exp(n)であるので、
K=TS×[exp(n)/(nn)] -----(4)
となる。
【0039】
開口用溝形成加工による板厚方向のひずみεtsは、
εts=In[1+(t−t0)/t0] -----(5)
となる。
【0040】
開口用溝最薄部相当ひずみεは、平面ひずみと仮定して、
ε=2/√3×|In[1+(t−t0)/t0]| -----(6)
となる。
【0041】
上記式(3)、(4)および(6)から、最薄部2aの相当応力σは、
Figure 0003769978
となる。
【0042】
開口用溝の最薄部2aを主として引張り変形により破断させる際の引張り破断力Pは、
P=σ×t -----(8)
で表されるから、
Figure 0003769978
となる。
【0043】
従って、Pは小さい方が開缶力を低減化でき、その効果はPが5.0以下のときに安定して得られる。Pが5.0を超えると、大きな開缶力が必要となり、問題が生じる。また、Pが2.5未満では、成形された缶蓋が取り付けられた缶体を落としたり、缶体が外部から衝撃等を受けたときに、その開口部が破断する危険性がある。
【0044】
従って、缶蓋の表裏面の何れかまたは表裏両面に開口用溝を形成するには、鋼板厚をt0(mm)、均一伸びの40〜90%の領域における加工硬化指数をn、引張強度をTS(kgf/mm2)として、両面に樹脂フィルム層が形成された鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下何れか一方の金型が先端半径0.1〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる一対の金型、または、上下の金型が何れも先端半径0.1〜1.0mmの曲面型である一対の金型を使用し、加工最薄部の鋼板厚t(mm)となるように押圧成形を施すことにより、開口用溝を形成し、且つ、下記(1)および(2)式、
Figure 0003769978
を満たすことが必要である。
【0045】
上述した缶蓋の製造方法において用いられる鋼板は、特に限定されるものではなく、目的に応じて選択することができる。イージーオープン缶蓋には、通常開口用のタブが取り付けられているが、取付け方法としてリベット機構が用いられている場合には、リベット成形性の観点から、鋼板の均一伸びの40〜90%の領域における加工硬化指数nが0.15以上であることが望ましい。また、樹脂フィルム層の損傷を抑制するためには、開口用溝加工時の面圧を小さくすることが望ましく、そのためには、
Figure 0003769978
を満たすことが好ましい。
【0046】
更に、耐食性の確保や樹脂フィルム層との密着性の確保を目的として、鋼板の表裏面の何れかあるいは両面に、種々のメッキや化成処理を施すこともできる。
【0047】
鋼板の両面に形成されるフィルムは、ポリエステル樹脂フィルムであり二層構成である。ポリエステル樹脂フィルムに限定した理由は、成形加工性・耐熱性・耐レトルト性等に優れ、EOE用途として最も適性が優れているためである。この発明に適用されるポリエステル樹脂フィルムは、分子鎖中に二重結合を含まない飽和ポリエステル樹脂で、ジカルボン酸とジオールの縮重合で得られる線状熱可塑性ポリエステルフィルムであり、ポリエチレンテレフタレートで代表されるものである。
【0048】
鋼板と接する下層フィルムは、エステル反復単位の75〜82%がエチレンテレフタレート単位であるフィルムを用いる。エステル反復単位の75〜82%と限定することで、EOE用途として、十分な密着性・成形加工性を得ることができる。75%未満とすると、成形加工性が飽和するとともに、耐衝撃性が劣化してしまうため不適である。また、82%を超えると、成形加工性が劣化し開口用溝成形時にフィルムが破断してしまう。
【0049】
エチレンテレフタレート単位以外の18〜25%のエステル反復単位は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セパシン酸、2,6ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ジフェニルカルボン酸、1,4シクロヘキサンジカルボン酸、無水トリメット酸の1種あるいは2種以上の酸性分と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4プタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6へキサンジオール、プロビレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの1種あるいは2種以上の飽和多価アルコールが挙げられる。酸性分およびアルコール成分の何れか一方あるいは両方が、テレフタル酸以外の酸性分およびエチレングリコール以外の多価アルコールであれば良い。
【0050】
下層フィルムの厚みは、10μm以上とする。10μm未満では、上層フィルムの影響が強く現れ、成形加工性が不十分となるとともに、加工後密着性が劣化する。
【0051】
上層フィルムは、エステル反復単位の95%以上がエチレンテレフタレート単位であるフィルムを用いる。エステル反復単位の95%以上でない場合は、レトルト処理等の加熱処理を行ったときに、フィルムからオリゴマー(低分子量成分)が溶出し易く、蓋内面にラミネートされている場合には、内容物にオリゴマーが移行し、食品の味に影響を及ぼし、蓋外面にラミネートされている場合には、フィルム表面にオリゴマーが析出し外観か損なわれるため好ましくない。また、耐熱性も不十分である。
【0052】
エチレンテレフタレート単位以外の%未満のエステル反復単位については、上層フィルムと同様の成分から構成される。
【0053】
上層フィルムの厚みは、1μm以上とする。1μm未満とすると、上記の効果が十分に得られないためである。
【0054】
上記フィルムの2層構成であるポリエステル樹脂フィルムの特性としては、破断伸びが100%以上、引張強度が10kgf/mm2以上、引張弾性率が100kgf/mm2以上であることが必要である。この樹脂フィルムはプレス加工による開口用溝成形時に、密着性よく素地に追随し優れた加工性を有することにより、加工後も素地を完全に被覆しており、従来必要であった補修塗装を不要とするものである。
【0055】
樹脂フィルムの特性として、破断伸びが100%未満では、後述する開口用溝成形に対して、伸び不足により、樹脂フィルムに多数の欠陥を生じることになり不適である。従って、100%以上、より好ましくは200%以上であることが望ましい。なお、樹脂フィルムの伸び率は、ASTM‐D882に準じた方法で測定される値を採用する。
【0056】
更に、引張強度は10kgf/mm2以上、引張弾性率は100kgf/mm2以上であることが望ましい。なお、引張弾性率とは引張比例限度内における引張応力とこれに対応する歪みの比であり、引張試験における応力・歪み曲線に直線部分がない場合には、変形開始点における接線の傾斜により求められる。引張強度・引張弾性率の値は、ASTM‐D882に準じた方法による測定値を採用する。引張強度が10kgf/mm2未満では加工による破断を生じやすく、引張弾性率が100kgf/mm2未満では、金型との摩擦部分での削れ、傷入りが避けらず、不適である。
【0057】
樹脂フィルムの総厚みは、薄すぎる場合には加工によリフィルムの破断が生じやすく、逆に100μm以上のフィルムになった場合には、開缶後にフェザー性の劣化を招きやすく、また経済面からもコストアップとなり好ましくない。従って、10〜100μmの範囲内であることが望ましい。更にフィルム厚み比(上層フィルム厚み比/下層フィルム厚み比)は0.5以下とする。0.5以上となると、成形加工性が不十分となる。
【0058】
なお、ラミネート方法としては、フィルム自体を熱接着するか、熱硬化型接着剤を塗布して鋼板表面に貼り付けるものとする。
【0059】
缶蓋パネルに開口用溝形成加工を施すに際し、固体あるいは液体の潤滑材を使用すれば、金型と樹脂フィルムとの間の摩擦カが小さくなるので、樹脂フィルムに発生するせん断力が小さくなり、樹脂フィルム層と鋼板との界面における剥離の発生を抑制し、耐食性の劣化を抑制することができる。
【0060】
上述した缶蓋の製造方法は、図6に示すプルトップ・タブ・タイプ缶蓋、図7に示すステイオン・タブ・タイプ缶蓋、あるいはフルオープン・タイプ缶蓋の何れにも適用することができる。
【0061】
また、図3(a)に示すように、タブ3を缶蓋1にタブ留め4を中心として回転可能に、タブ留め4の位置を缶蓋1の中心から破断開口部5の反対側に所定長さずらして取り付け、且つ、タブ3のタブ留め4からタブ指掛け挟持部までの長さを従来よりも長くすることによって作用点における発生力を大となし、図3(b)に示すように、タブ3を開口可能位置に回転させたときに、タブ3の引起こし側端部を、缶蓋外周よりも外側に位置するようにした缶蓋に、この発明の方法により開口用溝を形成すれば、開缶力を一段と低下させることができる。
【0062】
タブの素材は特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム合金板、ステンレス薄板、鋼板あるいは各種表面処理鋼板や、それらに塗装、ラミネート等の方法により、樹脂鋼板被膜を積層した金属板を用いることができる。この場合、前述の表面処理鋼板としては、錫、亜鉛、ニッケル、クロム、あるいはそれらの合金を、1種または2種以上、鋼板表面にめっきしたものや、更に、上層にクロメート処理やリン酸塩処理のような各種化成処理を施したものが好適である。また、タブをプラスチック等の樹脂によって作製しても良い。
【0063】
【実施例】
次に、この発明を実施例により比較例と対比しながら更に説明する。
【0064】
(実施例l)
板厚t0:0.170〜0.30mm、引張り強さTS:29〜56kgf/mm2、均一伸びの40〜90%の領域における加工硬化指数n:0.10〜0.23の薄鋼板の両面に、クロメート処理によって100〜120mg/m2の量の金属クロム層と、その上層の金属クロム換算で14〜18mg/m2の量のクロム水和酸化物層とからなるクロメート皮膜が形成されたティンフリースチールの両面に、表1に示すポリエステル樹脂フィルムをラミネートした。
【0065】
このように樹脂フィルムがラミネートされた鋼板を缶蓋パネルとし、この缶蓋パネルに対して、両方の金型が先端半径0.1〜1.0mmの曲面型、あるいは一方の金型が先端半径0.1〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる一対の金型を使用し、最薄部の鋼板厚tを、Pが2.5〜5.0の範囲内となるように、潤滑材を使用しまたは使用することなく押圧加工を施して、表1に示す、本発明の範囲内の製造方法によって得られたステイオン・タブ・タイプのイージーオープン缶蓋(以下、「本発明例」という)No.1、2、4、6、7〜24を調製した。
【0066】
【表1】
Figure 0003769978
比較のために、上記ティンフリースチールに対し、本発明の範囲外である樹脂フィルムをラミネートして作製した缶蓋パネルに対して、上記金型を使用し、最薄部の鋼板厚tを、Pが本発明の範囲外となるように、潤滑材を使用しまたは使用することなく押圧加工を施して、表2に示す、本発明の範囲外の製造方法によって得られたステイオン・タブ・タイプのイージーオープン缶蓋(以下、「比較例」という)No.25〜44を調製した。
【0067】
また、上記金型の先端半径が本発明の範囲外の金型を使用し、最薄部の銅板厚tを、Pが本発明の範囲内となるように、潤滑材を使用しまたは使用することなく押圧加工を施して、表2に示す、本発明の範囲外の製造方法によって得られたステイオン・タブ・タイプのイージーオープン缶蓋(以下、「比較例」という)No.45〜48を調製した。
【0068】
【表2】
Figure 0003769978
上述した本発明例および比較例の缶蓋に関して、開缶性、衝撃破壊の有無、樹脂フィルム損傷の有無、オリゴマー溶出の有無を、それぞれ、下記によって評価し、その結果をそれぞれ表3および表4に示した。
【0069】
【表3】
Figure 0003769978
【0070】
【表4】
Figure 0003769978
開缶性は、ポップ値(缶蓋のタブを一定の力で引張ったときに、缶蓋開口部が開き始める最初の力をいう)を測定し、市販の6種類のアルミニウム合金製イージーオープン缶蓋のポップ値の最大値(2.4kg)以下のものを○、それ以外を×とした。衝撃破壊は、図4に示すように、缶6を高さ1mの位置からコンクリート床面上に、缶蓋1を下方に向けた斜めの姿勢で落下させ、缶蓋1に図5に矢印で示す方向に衝撃力が付加されたときの衝撃破壊の有無によって評価し、衝撃破壊を生じなかったものを○、衝撃破壊を生じたものを×とした。また、樹脂フィルム損傷は、缶蓋に耐食性試験を施し、表裏面の開口用溝およびその近傍での錆の発生の有無によって評価し、表裏面ともに全く錆の発生しなかったものを○、表裏面の何れかあるいは両面にわずかでも錆の発生したものを×とした。
【0071】
オリゴマー溶出については、各供試体を蒸留水に浸漬し、加熱処理(120℃×60分)を行い、風乾後のフィルム表面状態をルーペにて観察し、オリゴマー溶出の有無を判定した。
【0072】
表4から明らかなように、樹脂フィルムの特性が本発明の範囲外である比較例25〜31は、樹脂フィルムに損傷が生じ耐食性試験で開口用溝に錆が発生したり、オリゴマー溶出が生じた。また、開口用溝の最薄部の鋼板厚tが、Pが2.5未満になるように成形された比較例No.32〜38は、衝撃破壊が発生した。また、開口用溝の最薄部の銅板厚tが、Pが5.0を超える範囲になるように成形された比較例No.39〜43は、開缶性が劣っていた。更に、少なくとも一方の金型の先端半径が本発明の範囲外である一対の金型を使用して押圧成形を施して調製した比較例No.44〜48は、耐食性試験で開口用溝に錆が発生し、樹脂フィルム層に損傷が生じていた。
【0073】
これに対して、表3から明らかなように、本発明例であるNo1、2、4、6、7〜24は、何れも、開缶性に優れ、衝撃破壊を発生せず、更に、缶蓋表裏面の開口用溝およびその近傍に全く錆が発生せず、樹脂フィルム層に損傷は認められなかった。
【0074】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、両面に樹脂フィルム層が形成された鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に、缶蓋の両面に形成されているメッキ層および樹脂フィルム層の損傷による補修塗装を必要とせず、しかも、子供や老人でも容易に開缶することができる、開缶性に優れたイージーオープン缶蓋が得られる、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1記載の発明の製造方法によって得られる缶蓋の一実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【図2】請求項2記載の発明の製造方法によって得られる缶蓋の一実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【図3】この発明の製造方法によって得られる開口用溝を有するイージーオープン缶蓋の一例を示す平面図であり、図3(a)は、タブをタブ留めを中心として回転させた状態を示す平面図であり、図3(b)は、タブを開口可能位置に回転させた状態を示す平面図である。
【図4】衝撃試験方法を示す説明図である。
【図5】缶蓋に対する衝撃力の付加位置を示す説明図である。
【図6】プルトップ・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。
【図7】ステイオン・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。
【図8】イージーオープン缶蓋における開口用溝の従来の形成方法を示す説明図である。
【符号の説明】
1:缶蓋
1a:表面
1b:裏面
2:開口用溝
3:タブ
4:タブ留め
5:破断開口部
6:缶
7:樹脂フイルム層
8:リベット機構
9:中央パネル部
10:加工工具
11:蓋板

Claims (3)

  1. 缶蓋の表面または裏面に開口用溝が形成され、前記開口用溝を破断して開缶するイージーオープン缶蓋の製造方法において、
    鋼板の両面に、上層に、エステル反復単位の95%以上がエチレンテレフタレート単位である厚さ1μm以上のポリエステルフィルムを有し、下層に、エステル反復単位の75〜82%がエチレンテレフタレート単位である厚さ10μm以上のポリエステルフィルムを有する、総厚みが15〜100μmであり、厚み比(上層フィルム厚み/下層フィルム厚み)が0.5以下である二層からなるポリエステル樹脂フィルムが形成された樹脂被覆鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下何れか一方の金型が先端半径0.1〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる一対の金型を使用して押圧加工を施し、前記開口用溝を形成すること、および、前記押圧加工が施された前記缶蓋パネルの加工最薄部の鋼板の板厚t(mm)が、下記(1)および(2)式、
    2.5≦P≦5.0 -----(1)
    P=t×TS×{exp(n)/(nn)}
    ×〔2/√3×|In{1+(t−t)/t}|〕 -----(2)
    但し、上記(1)及び(2)式において、
    :鋼板厚(mm)、
    n :均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数、
    TS:引張強度(kgf/mm
    を満足することを特徴とする、開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法。
  2. 缶蓋の両面に開口用溝が形成され、前記開口用溝を破断して開缶するイージーオープン缶蓋の製造方法において、
    鋼板の両面に、上層に、エステル反復単位の95%以上がエチレンテレフタレート単位である厚さ1μm以上のポリエステルフィルムを有し、下層に、エステル反復単位の75〜82%がエチレンテレフタレート単位である厚さ10μm以上のポリエステルフィルムを有する、総厚みが15〜100μmであり、厚み比(上層フィルム厚み/下層フィルム厚み)が0.5以下である二層からなるポリエステル樹脂フィルムが形成された樹脂被覆鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下の金型が何れも先端半径0.1〜1.0mmの曲面型である一対の金型を使用して押圧加工を施し、前記開口用溝を形成すること、および、前記押圧加工が施された前記缶蓋パネルの加工最薄部の鋼板の板厚t(mm)が、下記(1)および(2)式、
    2.5≦P≦5.0 -----(1)
    P=t×TS×{exp(n)/(nn)}
    ×〔2/√3×|In{1+(t−t)/t}|〕 -----(2)
    但し、上記(1)及び(2)式において、
    :鋼板厚(mm)、
    n :均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数、
    TS:引張強度(kgf/mm
    を満足することを特徴とする、開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法。
  3. 前記ポリエステル樹脂は、フィルムの破断伸びが100%以上、引張強度が10kgf/mm以上、引張弾性率が100kgf/mm以上であることを特徴とする、請求項1または2記載の、開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法。
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