JP3769977B2 - 樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、缶体の缶蓋に形成された開口部を破断して開缶する、飲料用缶や食缶の缶蓋に使用されるイージーオープン缶蓋およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ビール、ジュース、コーヒー等の各種飲料を収容する缶の缶蓋として、缶蓋に形成された開口部を指で破断し開缶するイージーオープン缶蓋が広く使用されている。イージーオープン缶蓋は、主として飲料缶に使用されるパーシャルオープンタイプの缶蓋と、主として食缶に使用されるフルオープンタイプの缶蓋とに大別される。
【0003】
パーシャルオープンタイプの缶蓋は、プルトップ・タブ・タイプの缶蓋と、ステイオン・タブ・タイプの缶蓋とに大別される。
【0004】
図9は、プルトップ・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。図9に示すプルトップ・タブ・タイプの缶蓋の開口は、以下のようにして行われる。
【0005】
鋼、アルミニウム等の金属板からなる缶蓋1の中央パネル部11の中心にリベット機構9により固定されているタブ3を指先等により引き上げることによって、中央パネル部11に開口用溝2が刻設されている破断開口部10を、てこの作用により、タブ3の作用端が押し下げる。その結果、開口用溝2は破断し、更にタブ3を引張ることによって、破断した開口片は缶蓋1から完全に切り離される。
【0006】
図10は、ステイオン・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。図10に示すステイオン・タブ・タイプ缶蓋の開口は、以下のようにして行われる。
【0007】
鋼、アルミニウム等の金属板からなる缶蓋1の中央パネル部11の中心にリベット機構9により固定されているタブ3を指先等により引き上げることによって、中央パネル部11に開口用溝2が刻設されている破断開口部10を、てこの作用により、タブ3の作用端が押し下げる。その結果、開口用溝2は破断し、更に、タブ3の引起こし端を引き上げることによって破断を進行させ、その際に生じた破断開口片の一部を缶蓋1に連結させたまま缶内に押し込む。
【0008】
また、フルオープンタイプの缶蓋は、缶蓋の外周縁に沿って開口用溝が刻設されており、缶蓋外周縁近くのパネル部に取り付けられたタブを指先等で引き上げることによって、プルトップタイプの場合と同様に、開口片を缶蓋から切り離すようになっている。
【0009】
このようなイージーオープン缶蓋における開口用溝の形成は、従来、図11に示すように、所定の開口部輪郭が形成された刃先状突起を有する加工工具12を使用し、缶蓋の表面側より蓋板13の厚さの1/2以上の深さの開口用溝2が形成されるような高い荷重でプレスにより押圧成形することによって行われており、これによって断面V字状の開口用溝2が形成されていた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このように、開口用溝の形成は、加工工具を使用し、プレスによる高荷重の押圧成形で行われるために、両面に樹脂被膜が形成された鋼板からなる缶蓋の場合には、押圧成形時に、缶蓋の両面に形成されている樹脂被膜が損傷し、耐食性が劣化する問題が生ずる。従って、耐食性の劣化を防止するために、押圧成形後に補修塗装を行わなければならず、多くの手間および費用を要していた。
【0011】
最近は、缶蓋の材料に、樹脂被膜が損傷を受けても錆の生じないアルミニウムが使用されているが、アルミニウムの使用は、コスト高となる上、リサイクルの点からも問題がある。
【0012】
樹脂被膜が形成された表面処理鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に生ずる、上述した問題の対策として、特開平6−115546号、特開平6−115547号および特開平6−115548号公報には、複合押出し加工によって開口用溝を形成する方法が開示されている。上記公報の記載によれば、複合押出し加工によって開口用溝が形成されるので、樹脂被膜の損傷がなく補修塗装が不要であるとされているが、複合押出しの加工条件や溝形状の詳細が不明であり、安定して開口用溝が形成される再現性の判断が困難である。
【0013】
また、特開平8−99140号公報には、肩半径が0.1〜1.0mmの上下金型により温間加工によって開口用溝を形成し、最薄部の板厚を元厚の1/2以下にする方法が開示されている。しかしながら、肩半径が0.1〜1.0mmの金型を使用することは、樹脂皮膜の損傷に対しては効果があるが、開缶力は、開口用溝の最薄部の板厚の絶対値によって決まるために、元厚の1/2以下にしても良好な開缶性を示すとは限らない。
【0014】
実公昭63−40439号公報には、指の挿入および指掛け挟持部の挟持を容易にするために、缶蓋の中央パネル部とダブの指掛け挟持部との間隙を広める目的で、ダブの指掛け挟持部の下方の中央パネル部に指挿入用凹部を形成することが開示されている。
【0015】
また、実開平5−40133号公報には、ダブの中心軸が破断開口部の中心軸からずれた開口不可位置から、ダブの中心軸と破断開口部の中心軸とが一致する開口可能位置に回転移動可能な程度にタブをリベット止めし、タブが開口不可位置から開口可能位置に移動する間に、リベットとダブの指掛け挟持部の間に位置する中央パネル部に設けたテーパー状の突起によってタブの指掛け挟持部を浮き上がらせ、かくして、缶蓋の中央パネル部とタブの指掛け挟持部との間隙への指の挿入および指掛け挟持部への指掛かりを容易にすることが提案されている。
【0016】
上記缶蓋によれば、指挿入用凹部またはテーパー状の突起が形成されていることにより、それらが形成されていないものと比較して、缶蓋の中央パネル部とタブの指掛け挟持部との間隙への指の挿入および指掛け挟持部への指掛かりは容易になるが、開缶時の引き上げ力は変わらないために、開缶力の低減までには至っていない。
【0017】
従って、この発明の目的は、上述した従来技術の有する問題点を解決し、両面に樹脂フィルム層が形成された鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に、缶蓋の両面に形成されているめっき層および樹脂フィルム層の損傷による補修塗装を必要とせず、しかも、子供や老人でも容易に開缶することができる、樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋およびその製造方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上述した問題点を解決し、開缶性に優れしかも衝撃破壊の生ずることがないイージーオープン缶蓋を開発すべく鋭意研究を重ねた。
【0019】
従来、開缶時における開口用溝の破断は、せん断変形によって生ずると考えられており、そのような考えに基づいて開口用溝の形状を設計していた。しかしながら、本発明者等による研究の結果、開口用溝の破断は、せん断変形によって生ずるのではなく、主として引張り変形によって生ずることが明らかになり、従って、開缶力を低下させるためには、開口用溝の最薄部の厚さの絶対値を小さくすることが最も効果的であることがわかった。
【0020】
この発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0021】
請求項1記載の発明は、上層に、エステル反復単位の95%以上がエチレンテレフタレート単位である厚さ1μm以上のポリエステルフィルムを有し、下層に、エステル反復単位の75から82%がエチレンテレフタレート単位である厚さ10μm以上のポリエステルフィルムを有する、総厚みが15から100μmであり、厚み比(上層フィルム厚み/下層フィルム厚み)が0.5以下である二層からなるポリエステル樹脂フィルムを、両面に被覆した鋼板からなる缶蓋の表面および裏面の少なくとも一方に開口用溝が形成され、前記開口用溝の底断面形状が、半径0.1から1.0mmの曲面であり、且つ、前記開口用溝の最薄部の厚さが0.025から0.080mmの範囲内であることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項2記載の発明は、二層からなる前記ポリエステル樹脂フィルムの破断伸びが100%以上、引張強度が10kg/mm2以上、引張弾性率が100kg/mm2以上であることに特徴を有するものである。
【0023】
請求項3記載の発明は、上下少なくとも一方の金型が半径0.1から1.0mmの曲面型である1対の金型を使用し、最薄部の厚さが0.025から0.080mmの範囲となるように押圧形成を施すことによって、前記開口用溝を形成し、かくして、請求項1に記載された樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋を製造することに特徴を有するものである。
【0024】
請求項4記載の発明は、前記開口用溝の押圧形成加工を、液体または固体の潤滑剤を使用して行なうことに特徴を有するものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
この発明を更に詳細に説明する。
【0026】
缶蓋の材質としては、一般に、0.15から0.30mmの板厚のアルミニウム板や、表面に金属メッキが施された表面処理鋼板等が使用される。
【0027】
また、タブの素材は特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム合金板、ステンレス薄板、鋼板あるいは各種表面処理鋼板や、それらに塗装、ラミネート等の方法により、樹脂鋼板被膜を積層した金属板を用いることができる。この場合、前述の表面処理鋼板としては、錫、亜鉛、ニッケル、クロム、あるいはそれらの合金を、1種または2種以上、鋼板表面にめっきしたものや、更に、上層にクロメート処理やリン酸塩処理のような各種化成処理を施したものが好適である。また、タブをプラスチック等の樹脂によって作製しても良い。
【0028】
鋼板の両面に形成されるフィルムは、ポリエステル樹脂フィルムであり二層構成である。ポリエステル樹脂フィルムに限定した理由は、成形加工性・耐熱性・耐レトルト性等に優れ、EOE用途として最も適性が優れているためである。
【0029】
本発明に適用されるポリエステル樹脂フィルムは、分子鎖中に二重結合を含まない飽和ポリエステル樹脂で、ジカルボン酸とジオールの縮重合で得られる線状熱可塑性ポリエステルフィルムであり、ポリエチレンテレフタレートで代表されるものである。
【0030】
鋼板と接する下層フィルムは、エステル反復単位の75〜82%がエチレンテレフタレート単位であるフィルムを用いる。エステル反復単位の75〜82%に限定することによって、EOE用途として、十分な密着性・成形加工性を得ることができる。エステル反復単位の75%未満とすると、成形加工性が飽和するとともに、耐衝撃性が劣化してしまうため不適である。また、エステル反復単位の82%を超えると、成形加工性が劣化し開口用溝成形時にフィルムが破断してしまう。
【0031】
エチレンテレフタレート単位以外の18〜25%のエステル反復単位は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セパシン酸、2,6ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ジフェニルカルボン酸、1,4シクロヘキサンジカルボン酸、無水トリメット酸の1種あるいは2種以上の酸性分と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6へキサンジオール、プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの1種あるいは2種以上の飽和多価アルコールが挙げられる。酸性分及びアルコール成分の何れか一方あるいは両方が、テレフタル酸以外の酸性分およびエチレングリコール以外の多価アルコールであれば良い。
【0032】
下層フィルムの厚みは、10μm以上とする。10μm未満では、上層フィルムの影響が強く現れ、成形加工性が不十分となるとともに、加工後密着性が劣化する。
【0033】
上層フィルムは、エステル反復単位の95%以上がエチレンテレフタレート単位であるフィルムを用いる。エステル反復単位の95%以上でない場合は、レトルト処理等の加熱処理を行ったときに、フィルムからオリゴマー(低分子量成分)が溶出し易く、蓋内面にラミネートされている場合には、内容物にオリゴマーが移行し、食品の味に影響を及ぼし、蓋外面にラミネートされている場合には、フィルム表面にオリゴマーが析出し外観が損なわれるため好ましくない。また、耐熱性も不十分である。
【0034】
エチレンテレフタレート単位以外の5%未満のエステル反復単位については、上層フィルムと同様の成分から構成される。
【0035】
上層フィルムの厚みは、1μm以上とする。1μm未満とすると、上記の効果が十分に得られないためである。
【0036】
上記フィルムの2層構成であるポリエステル樹脂フィルムの特性としては、破断伸び100%以上、引張強度10kg/mm2以上、引張弾性率100kg/mm2以上であることが必要である。この樹脂フィルムはプレス加工による開口用溝成形時に、密着性よく素地に追随し優れた加工性を有することにより、加工後も素地を完全に被覆しており、従来必要であった補修塗装を不要とするものである。
【0037】
樹脂フィルムの特性として、破断伸びが100%未満では、後述する開口用溝成形に対し、伸び不足により、樹脂フィルムに多数の欠陥を生じることになり不適である。従って、100%以上、より好ましくは200%以上であることが望ましい。なお、樹脂フィルムの伸び率はASTM‐D882に準じた方法で測定される値を採用する。
【0038】
更に、引張強度は10kg/mm2以上、引張弾性率は100kg/mm2以上であることが望ましい。なお、引張弾性率とは引張比例限度内における引張応力とこれに対応する歪みの比であり、引張試験における応力・歪み曲線に直線部分がない場合には、変形聞始点における接線の傾斜により求められる。引張強度・引張弾性率の値は、ASTM‐D882に準じた方法による測定値を採用する。引張強度が10kg/mm2未満では加工による破断を生じやすく、引張弾性率が100kg/mm2未満では、金型との摩擦部分での削れ、傷入りが避けられず不適である。
【0039】
樹脂フィルムの総厚みは、薄すぎる場合には加工によリフィルムの破断が生じやすく、逆に100μmを超える厚さのフィルムになった場合には、開缶後にフェザー性の劣化を招きやすく、また経済面からもコストアップとなり好ましくない。従って、樹脂フィルムの総厚みは、10〜100μmの範囲内であることが望ましい。更に、フィルム厚み比(上層フィルム厚み/下層フィルム厚み)は0.5以下とする。0.5を超えると、成形加工性が不十分となる。
【0040】
なお、ラミネート方法としては、フィルム自体を熱接着するか、熱硬化型接着剤を塗布して鋼板表面に貼り付けるものとする。
【0041】
次に、この発明のイージーオープン缶蓋およびその製造方法を、図面を参照しながら説明する。
【0042】
図1は、この発明のイージーオープン缶蓋の一実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【0043】
この実施態様においては、図1に示すように、両面に樹脂フィルム層8を有する、厚さt0の缶蓋1の表面1aに、半径(R)が0.1〜1.0mmであって、その最薄部2aの厚さ(ts)が0.025〜0.080mmの範囲内の、断面が曲面形状の開口用溝2が形成されている。
【0044】
図2は、この発明のイージーオープン缶蓋の他の実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【0045】
この実施態様においては、図2に示すように、両面に樹脂フィルム層8を有する、厚さt0の缶蓋1の表面1aおよび裏面1bに、各々半径(R)が0.1〜1.0mmであって、その最薄部2aの厚さ(ts)が0.025〜0.080mmの範囲内の、断面が曲面形状の開口用溝2、2が形成されている。
【0046】
缶蓋1の表面1aまたは表面1aおよび裏面1bに、上述した半径(R)の、曲面形状の開口用溝2が形成されていることによって、子供や老人でも容易に開缶することができる程度にまで開缶力を安定して低減化することができ、しかも、衝撃破壊の発生が防止される。
【0047】
開口用溝2の半径(R)が0.1mm未満では、樹脂フィルム層を損傷することなく、缶蓋パネルに上記開口用溝2を形成することが困難になる。一方、開口用溝2の半径(R)が1.0mmを超えると、缶蓋1における薄肉部の面積が多くなるために、開口部の破断位置が不安定になって開口形状が悪化する上、破断部の一部が垂れ下がる「だれ」が大きくなる問題が生じ、また、限られたスペースの缶蓋パネル上に1.0mmを超える幅の開口用溝2を形成することは実用上困難である。
【0048】
また、開口用溝2の最薄部2aの厚さが0.025m m未満では、成形加工時に樹脂フィルムが損傷し、また、缶蓋パネルが破断する恐れがあり、このような缶蓋が取付けられた缶体を落としたり、缶体が外部から衝撃等を受けたときに、その開口部が破断する危険性が生ずる。一方、開口用溝2の最薄部2aの厚さが0.080mmを超えると、大きな開缶力が必要になる問題が生ずる。
【0049】
従って、缶蓋の表面および裏面の少なくとも一方の面に形成された間口用溝の断面形状は、半径0.1〜1.0mmの曲面で且つその最薄部の厚さが0.025〜0.080mmの範囲内であることが必要である。
【0050】
この発明の缶蓋は、上下少なくとも一方の金型が先端半径0.1〜1.0m mの曲面型である1対の金型を使用し、最薄部の厚さが0.025〜0.080mmの範囲内になるよう、両面に樹脂フィルム層が形成された缶蓋パネルにプレス加工を施すことによって形成することができる。曲面型金型を上記寸法形状としたのは、缶蓋に前記寸法形状の開口用溝を形成するためであって、開口用溝の寸法形状の限定理由は、前述した通りである。
【0051】
缶蓋パネルにプレス加工を施すに際し、潤滑剤を使用すれば、金型と樹脂との間の摩擦カが小さくなるので、樹脂に発生するせん断力が小さくなり、樹脂と鋼板との界面における剥離の発生を抑制することができる。
【0052】
上述した断面曲面形状の開口用溝を有するこの発明の缶蓋は、図9に示すプルトップ・タブ・タイプ缶蓋、または、図10に示すステイオン・タブ・タイプの缶蓋の何れにも適用することができる。また、図3(a)に示すように、タブ3を缶蓋1にタブ留め4を中心として回転可能に、タブ留め4の位置を缶蓋1の中心から開口部5の反対側に所定長さずらして取付け、且つ、タブ3のタブ留め4から先端までの長さを従来よりも長くすることにより作用点における発生力を大となし、図3(b)に示すように、タブ3を開口可能位置に回転させたときに、タブ3の引起こし側端部を、缶蓋外周よりも外側に位置させるようにした缶蓋に、この発明の曲面形状の開口用溝を形成すれば、開缶力を一段と低下させることができる。
【0053】
【実施例】
次に、この発明を実施例により比較例と対比しながら更に説明する。
【0054】
(実施例1)
板厚0.25mmで、引張り強さが440MPaの薄鋼板の両面に、クロメート処理によって120mg/m2の量の金属クロム層と、その上層の金属クロム換算で15mg/m2の量のクロム水和酸化物層とからなるクロメート皮膜が形成されたティンフリースチール鋼板の両面に、表1に示す二層ポリエステル樹脂フィルムをラミネートした。
【0055】
このように、この発明の方法により、二層ポリエステル樹脂フィルムがラミネートされた鋼板に対し、少なくとも一方の金型が先端半径0.1〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる1対の金型を使用し、最薄部の厚さが0.025〜0.080mmの範囲内になるように、缶蓋パネルに、潤滑剤を使用しまたは潤滑剤を使用することなくプレス加工を施して、その表面に開口用溝を形成し、本発明の範囲内のステイオンタプタイプのイージーオープン缶蓋の供試体(以下、本発明供試体という)No.1、2、4、6〜13、14、15〜19、21〜24を調製した。
【0056】
【表1】
比較のために、上記ティンフリースチール鋼板に対し、樹脂フィルムの構成および特性、曲面型金型の開口用溝の半径および/または最薄部の厚さが本発明の範囲外であり、他方が平型からなる1対の金型を使用し、缶蓋パネルに、潤滑剤を使用しまたは潤滑剤を使用することなくプレス加工を施して、その表面に開口用溝を形成し、表2に示す、ステイオンタブタイプのイージーオープン缶蓋の供試体(以下、比較用供試体という)No.1から22を調製した。
【0057】
【表2】
上述した本発明供試体および比較用供試体の各々のポップ値、フィルム損傷、フィルム剥離、オリゴマー溶出性および衝撃破壊の有無を、下記によって調ベ、その結果をそれぞれ表3および表4に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
ポップ値(Kg)は、缶蓋のタブを一定の力で引っ張ったときに缶蓋開口部が開き始める最 初の力によって評価し、衝撃破壊は、図4に示すように、缶6を高さ1mの位置からコンクリート床面上に、缶蓋1を下方に向けた斜めの姿勢で落下させ、缶蓋1に図5に矢印で示す方向に衝撃力が付加されたときの衝撃破壊の有無によって評価した。また、フィルム損傷は、缶各供試体に対し耐食性試験を施し、錆の発生の有無によって評価し、そして、フィルム剥離は、フィルム剥離発生の有無を断面観察によって評価した。オリゴマー溶出については、各供試体を蒸留水に浸漬し、加熱処理(120℃×60分)を行い、風乾後のフィルム表面状態をルーペにて観察し、オリゴマー溶出の有無を判定した。
【0060】
表4から明らかなように、樹脂フィルムの特性が本発明の範囲外である比較用供試体No.1〜7は、何れもフィルム損傷・フィルム剥離が発生し、断面曲面形状の開口用溝の半径が本発明の範囲を外れて小さい比較用供試体No.8〜12は、何れもフィルム損傷およびフィルム剥離が発生し、最薄部の厚さが本発明の範囲を外れて小さい比較用供試体No.8および11は、衝撃破壊が発生した。
【0061】
開口用溝の半径が本発明の範囲を外れて小さく且つ最薄部の厚さが本発明の範囲を外れて大きい比較用供試体No.13は、ポップ値が2.8で高かった。最薄部の厚さが本発明の範囲を外れて小さい比較用供試体No.14〜17、19は、何れもフィルム損傷、フィルム剥離および衝撃破壊が発生した。最薄部の厚さが本発明の範囲を外れて大きい比較用供試体No.18、20は、ポップ値が2.8以上で高かった。開口用溝の半径が本発明の範囲を外れて大きい比較用供試体No.19〜22は、何れも開口形状が悪く、そして最薄部の厚さが本発明の範囲を外れて小さい比較用供試体No.19、21は、衝撃破壊が発生した。
【0062】
これに対し、表3に示すように、本発明供試体は、何れもポップ値が2.6以下で低く、且つ、フィルム損傷、フィルム剥離および衝撃破壊は発生せず、開口形状も良好であった。
【0063】
(実施例2)
板厚が0.25mmで、引張り強さが290MPaおよび440MPaの薄鋼板の表面に、クロメート処理によって、120mg/m2の墨の金属クロム層と、その上層に金属クロム換算で15mg/m2の量のクロム水和酸化物層とからなるクロメートフィルムが形成され、且つ、クロメート皮膜の上に、二層PETフイルム[(上層フイルム:工チレンテレフタレート比率97%であるポリエチレン樹脂フィルム・厚み3μm)(下層フィルム:エチレンテレフタレート比率82%であるポリエチレン樹脂フィルム・厚み25μm)破断伸び200%、引張強度23kg/mm2、引張弾性率300kg/mm2]がラミネートされた、ティンフリースチール鋼板に対し、この発明の方法により、一方の金型が先端半径0.1〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる1対の金型を使用し、最薄部の厚さを変えて、図8に示すような開口用溝2を有する引張り試験片7を調製し、試験片7の最薄部の厚さと引張り強度との関係を調ベ、その結果を図6に示した。図6において、○印は、引張り強さが290MPaの試験片であり、□印は、引張り強さが440MPaの試験片である。
【0064】
比較のために、従来の開口用溝が形成された表5に示す市販のイージーオープン缶蓋No.1〜8の試験片について、その最薄部の厚さと引張り強度との関係を調べ、その結果を図6に併せて示した。
【0065】
【表5】
図6から明らかなように、市販缶の試験片の引張り強度は4〜6Kgf/mmであるのに対し、本発明試験片の引張り強度は、最薄部の厚さが0.025〜0.080mmの場合に約2〜5Kgf/mmであり、市販缶に比較して引張り強度が低く、開缶力に優れていた。
【0066】
(実施例3)
板厚0.25mmで、引張り強さが440MPaの薄鋼板の表面に、クロメート処理によって120mg/m2の量の金属クロム層と、その上層の金属クロム換算で15mg/m2の量のクロム水和酸化物層とからなるクロメート皮膜が形成され、且つ、クロメート皮膜の上に、二層PETフイルム[(上層フィルム:工チレンテレフタレート比率97%であるポリエチレン樹脂フィルム・厚み3μm)(下層フィルム:エチレンテレフタレート比率82%であるポリエチレン樹脂フィルム・厚み25μm)破断伸び200%、引張強度23kg/mm2、引張弾性率300kg/mm2]がラミネートされた、ティンフリースチール鋼板に対し、一方の金型が曲面型で、他方の金型が平型からなる1対の金型を使用し、一方の金型の先端半径および最薄部の厚さを変えてブレス加工を施したときの、フィルム損傷の有無を調ベ、その結果を図7に示した。
【0067】
図7から明らかなように、開口用溝の先端半径が0.1〜1.0mmで、且つ、最薄部の厚さが0.025〜0.080mmの範囲内の場合には、フィルム損傷は発生しなかった。
【0068】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、両面に二層ポリエステル樹脂フィルム層が形成された鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に、缶蓋の両面に形成されているめっき層および樹脂フィルム層の損傷による補修塗装を必要とせず、しかも、子供や老人でも容易に開缶することができる、開缶性の優れたイージーオープン缶蓋が得られる、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の缶蓋の一実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【図2】この発明の缶蓋の他の実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【図3】この発明の開口用溝を有するイージーオーブン缶蓋の一例を示す平面図である。
【図4】衝撃試験方法を示す説明図である。
【図5】缶蓋に対する衝撃力の付加位置を示す説明図である。
【図6】試験片の最薄部の厚さと引張り強度との関係を示すグラフである。
【図7】金型の先端半径および最薄部の板厚とフィルム損傷の有無との関係を示すグラフである。
【図8】引張り試験片の平面図である。
【図9】プルトップ・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。
【図10】ステイオン・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。
【図11】イージーオープン缶蓋における開口用溝の従来の形成方法を示す説明図である。
【符号の説明】
1:缶蓋
1a:表面
1b:裏面
2:開口用溝
2a:最薄部
3:タブ
4:タブ留め
5:開口部
6:缶
7:引張り試験片
8:樹脂フィルム層
9:リベット機構
10:破断開口部
11:中央パネル部
12:加工工具
13:蓋板
Claims (4)
- 上層に、エステル反復単位の95%以上がエチレンテレフタレート単位である厚さ1μm以上のポリエステルフィルムを有し、下層に、エステル反復単位の75から82%がエチレンテレフタレート単位である厚さ10μm以上のポリエステルフィルムを有する、総厚みが15から100μmであり、厚み比(上層フィルム厚み/下層フィルム厚み)が0.5以下である二層からなるポリエステル樹脂フィルムを、両面に被覆した鋼板からなる缶蓋の表面および裏面の少なくとも一方に開口用溝が形成され、前記開口用溝の底断面形状が、半径0.1から1.0mmの曲面であり、且つ、前記開口用溝の最薄部の厚さが0.025から0.080mmの範囲内であることを特徴とする、前記開口用溝を破断することによって開缶する樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
- 二層からなる前記ポリエステル樹脂フィルムの破断伸びが100%以上、引張強度が10kg/mm2以上、引張弾性率が100kg/mm2以上であることを特徴とする、請求項1記載の樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
- 上下少なくとも一方の金型が半径0.1から1.0mmの曲面型である1対の金型を使用し、最薄部の厚さが0.025から0.080mmの範囲となるように押圧形成を施すことによって、前記開口用溝を形成し、かくして、請求項1に記載された樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋を製造することを特徴とする、樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋の製造方法。
- 前記開口用溝の押圧形成加工を、液体または固体の潤滑剤を使用して行なうことを特徴とする、請求項3記載の、樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋の製造方法。
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