JP3700463B2 - 開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、缶体の缶蓋に形成された開口部を破断して開缶する、飲科用缶や食缶の缶蓋に使用される、開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ビール、ジュース、コーヒー等の各種飲料や食品を収容する缶の缶蓋として、缶蓋に形成された開口部を、指先等により缶蓋に取り付けられたタブを引き上げることにより破断して、開缶するイージーオープン缶蓋が広く使用されている。イージーオープン缶蓋は、主として飲料缶蓋に使用されるパーシャルオープンタイプの缶蓋と、主として食缶に使用されるフルオープンタイプの缶蓋とに大別される。
【0003】
パーシャルオープンタイプの缶蓋は、プルトップ・タブ・タイプの缶蓋と、ステイオン・タブ・タイプの缶蓋とに大別される。
【0004】
図6は、プルトップ・タブ・タイプ缶蓋の一例を示す概略平面図である。図6に示すプルトップ・タブ・タイプの缶蓋の開口は、以下のようにして行われる。
【0005】
鋼、アルミニウム合金等の金属板からなる缶蓋1の中央パネル部9の中心にリベット機構8により取り付けられているタブ3を指先等で引き上げることによって、中央パネル部9に開口用溝2が刻設されている破断開口部5を、てこの作用により、タブ3の作用端が押し下げる。その結果、開口用溝2は破断し、更にタブ3を引っ張ることによって、破断した開口片は缶蓋lから完全に切り離される。
【0006】
図7は、ステイオン・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。図7に示すステイオン・タブ・タイプ缶蓋の開口は、以下のようにして行われる。
【0007】
鋼、アルミ二ウム合金等の金属板からなる缶蓋1の中央パネル部9の中心にリベット機構8により取り付けられているタブ3を指先等で引き上げることによって、中央パネル部9に開口用溝2が刻設されている破断開口部5を、てこの作用により、タブ3の作用端が押し下げる。その結果、開口用溝2は破断し、更にタブ3の引起こし端を引き上げることによって破断を進行させ、その際に生じた破断開口片の一部を缶蓋1に連結させたまま缶内に押し込む。
【0008】
また、フルオープンタイプの缶蓋は、缶蓋の外周縁に沿って開口用溝が刻設されており、缶蓋外周縁近くのパネル部に取り付けられたタブを指先等で引き上げることによって、プルトップ・タブ・タイプの場合と同様に、開口片を缶蓋から切り離すようになっている。
【0009】
このようなイージーオープン缶蓋における開口用溝の形成は、従来、図8に示すように、所定の開口部輪郭が形成された刃先状突起を有する加工工具10を使用し、缶蓋の表面側より蓋板11の厚さのl/2以上の深さの開口用溝が形成されるような高い荷重でプレスにより押圧成形することによって行われており、これによって断面V字状の開口用溝2が形成されていた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、開口用溝の形成は、加工工具を使用し、プレスによる高荷重の押圧成形で行われるために、両面に樹脂皮膜が形成された鋼板からなる缶蓋の場合には、押圧成形時に、缶蓋の、特に、缶外面側となる面に形成されている樹脂皮膜が損傷し、耐食性が劣化する問題点が生ずる。従って、耐食性の劣化を防止するために、押圧成形後に補修塗装を行わなければならず、多くの手間および費用を要していた。
【0011】
最近は、缶蓋の材料に、缶外面側となる面に形成されている樹脂皮膜が損傷を受けても錆の生じないアルミニウム合金が使用されているが、アルミニウム合金の使用は、コスト高となる上、リサイクルの点からも問題がある。
【0012】
樹脂皮膜が形成された表面処理鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に生じる、上述した問題の対策として、特開平6−115546号、特開平6−115547号、特開平6−115548号公報には、複合押出し加工によって開口用溝を形成する方法が開示されている。上記公報の記載によれば、複合押出し加工によって開口用溝が形成されるので、樹脂皮膜の損傷がなく補修塗装が不要であるとされているが、複合押出しの加工条件や溝形成の詳細が不明であり、安定して開口用溝が形成される再現性の判断が困難である。
【0013】
また、特開平8−99140号公報には、肩半径が0.1〜1.0mmの上下金型により温間加工によって開口用溝を形成し、最薄部の板厚を元板厚の1/2以下にする方法が開示されている。しかしながら、肩半径が0.1〜1.0mmの金型を使用することは、樹脂皮膜の損傷に対しては効果があるが、開缶力は、開口用溝の最薄部の板厚の絶対値および強度によって決まるために、元板厚の1/2以下にしても良好な開缶性を示すとは限らない。
【0014】
実公昭63−40439号公報には、指の挿入および指掛け挟持部の挟持を容易にするために、缶蓋の中央パネル部とタブの指掛け挟持部との間隙を広める目的で、タブの指掛け挟持部の下方の中央パネル部に指挿入用凹部を形成することが開示されている。
【0015】
また、実開平5−40133号公報には、タブの中心軸が破断開口部の中心軸からずれた開口不可位置から、タブの中心軸と破断開口部の中心軸とが一致する開口可能位置に回転移動可能な程度にタブをリベット留めし、タブが開口不可位置から開口可能位置に移動する間に、リベツトとタブの指掛け挟持部の間に位置する中央パネル部に設けたテーパー状の突起によってタブの指掛け挟持部を浮き上がらせ、かくして、缶蓋の中央パネル部とタブの指掛け挟持部との間隙への指の挿入、および、指掛け挟持部への指掛かりを容易にすることが開示されている。
【0016】
上記缶蓋によれば、指挿入用凹部またはテーパー状の突起が形成されていることにより、それらが形成されていないものと比較して、缶蓋の中央パネル部とタブの指掛け挟持部との間隙への指の挿入、および、指掛け挟持部への指掛かりは容易になるが、開缶時のタブの引上げ力は変わらないために、開缶力の低減までには至っていない。
【0017】
従って、この発明の目的は、上述した従来技術の有する問題点を解決し、両面に樹脂皮膜が形成された鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に、缶蓋の両面に形成されているメッキ層および樹脂皮膜の損傷による耐食性劣化を防止するための補修塗装を必要とせず、しかも、子供や老人でも容易に開缶することができる、開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上述した問題点を解決し、開缶性に優れしかも衝撃破壊の生ずることがなく、且つ、樹脂皮膜の損傷を抑制し得るイージーオープン缶蓋の製造方法を開発すべく鋭意研究を重ねた。
【0019】
従来、開缶時における開口用溝の破断は、せん断変形によって生ずると考えられており、そのような考えに基づいて開口用溝の形状を設計していた。しかしながら、本発明者等による研究の結果、開口用溝の破断は、せん断変形によって生ずるのではなく、主として引張り変形によって生じ、従って、開缶力を低減させるためには、開口用溝の最薄部の板厚および強度を小さくすることが効果的であることを知見した。更に、樹脂皮膜の損傷を抑制するためには、開口用溝を加工するための金型の先端半径を大きくすること、および、加工時に生ずる面圧を小さくすることが有効な手段であることを知見した。
【0020】
この発明は、上述した知見に基づいてなされたものである。
【0021】
請求項1記載の発明は、缶蓋の表面または裏面に開口用溝が形成され、前記開口用溝を破断して開缶するイージーオープン缶蓋の製造方法において、鋼板の両面に熱可塑性樹脂の1種または2種以上から構成され、200%以上の破断伸び、10kg/mm2以上の引張強度、100kg/mm2以上の引張弾性率、および、10μm〜100μmの厚みを有する樹脂皮膜が形成された樹脂被覆鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下何れか一方の金型が先端半径0.1mm〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる一対の金型により押圧加工を施して、前記開口用溝を形成すること、および、前記押圧加工が施された前記缶蓋パネルの加工最薄部の鋼板の板厚t(mm)が、下記(1)および(2)式
2.5≦P≦5.0 -----(1)
P=t× TS× [exp(n)/(nn)]
×〔2/√3×|ln[1+(t‐to)/to]|]n -----(2)
但し、上記(1)及び(2)式において、
to:鋼板厚(mm)
n:均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数
TS:引張強度(kgf/mm2)
を満足することに特徴を有するものである。
【0022】
請求項2記載の発明は、缶蓋の両面に開口用溝が形成され、前記開口用溝を破断して開缶するイージーオープン缶蓋の製造方法において、鋼板の両面に熱可塑性樹脂の1種または2種以上から構成され、200%以上の破断伸び、10kg/mm2以上の引張強度、100kg/mm2以上の引張弾性率、および、10μm〜100μmの厚みを有する樹脂皮膜が形成された樹脂被覆鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下の金型が何れも先端半径0.1mm〜1.0mmの曲面型である一対の金型により押圧加工を施して、前記開口用溝を形成すること、および、前記押圧加工が施された前記缶蓋パネルの加工最薄部の鋼板の板厚t(mm)が、下記(1)および(2)式
2.5≦P≦5.0 -----(1)
P=t× TS× [exp(n)/(nn)]
×〔2/√3×|ln[1+(t‐to)/to]|]n -----(2)
但し、上記(1)及び(2)式において、
to:鋼板厚(mm)
n:均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数
TS:引張強度(kgf/mm2)
を満足することに特徴を有するものである。
【0023】
請求項3記載の発明は、前記樹脂皮膜が、単層あるいは二層以上のポリエステル樹脂から構成されることに特徴を有するものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
次に、この発明のイージーオープン缶蓋の製造方法を、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図lは、請求項1記載の、この発明のイージーオープン缶蓋の製造方法の一実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【0026】
この実施態様においては、図1に示すように、両面に樹脂皮膜7を有する、鋼板厚さtoの缶蓋1の表面1a側に、半径(R)が0.1mm〜1.0mmの曲面型である金型を用い、裏面側に平型を用いて、その最薄部2aの板厚がtであり、底断面が曲面形状の開口用溝2が上記金型を押圧成形することにより形成されている。
【0027】
このとき、最薄部2aの鋼板の板厚t(mm)は、下記(l)および(2)式を満足するようにする。
【0028】
2.5≦P≦5.0 -----(1)
P=t× TS× [exp(n)/(nn)]
×〔2/√3×|ln[1+(t‐to)/to]|]n -----(2)
但し、上記(1)及び(2)式において、
to:鋼板厚(mm)
n:均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数
TS:引張強度(kgf/mm2)
図2は、請求項2記載の、この発明のイージオープン缶蓋の製造方法の一実施態様を示す、缶蓋に形成した開口用溝部分の断面図である。
【0029】
この実施態様においては、図2に示すように、両面に樹脂皮膜7を有する、鋼板厚さtoの缶蓋1の表面1aおよび裏面1bに、各々半径(R)が0.1mm〜1.0mmの曲面型である金型を用いて、その最薄部2aの鋼板厚がtであり、底断面が曲面形状の開口用溝2、2が上記金型を押圧成形することにより形成されている。
【0030】
このとき、最薄部2aの鋼板の板厚t(mm)は、下記(l)および(2)式を満足するようにする。
【0031】
2.5≦P≦5.0 -----(1)
P=t× TS× [exp(n)/(nn)]
×〔2/√3×|ln[1+(t‐to)/to]|]n -----(2)
但し、上記(1)及び(2)式において、
to:鋼板厚(mm)
n:均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数
TS:引張強度(kgf/mm2)
缶蓋1の表面1aまたは表面1aおよび裏面1bに、上述した半径(R)の、曲面形状の開口用溝2または2、2を形成することによって、子供や老人でも容易に開缶することができる程度にまで開缶力が安定して低減化し、しかも、衝撃破壊の発生が防止される。
【0032】
缶蓋1の表裏面の何れかまたは両面に開口用溝を形成するときの、開口用溝2を形成するための金型の半径(R)が0.1mm未満では、樹脂皮膜を損傷することなく、缶蓋パネルに上記開口用溝2を形成することが困難になる。
【0033】
一方、上記金型の半径(R)が1.0mmを超えると、缶蓋1における薄肉部2aの面積が大きくなるために、開口部の破断位置が不安定になって開口形状が悪化する上、破断部の一部が垂れ下がる「だれ」が大きくなる問題が生じ、また、限られたスペースの缶蓋パネル上に1.0mmを超える幅の開口用溝を形成することは実用上、困難である。
【0034】
また、上述したように、開口用溝2の最薄部2aの鋼板厚tは、缶蓋1をなす鋼板の均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数をn、引張強度をTS(kgf/mm2)とした場合に、2.5≦P≦5.0、但し、P=t×TS×[exp(n)/(nn)]×〔2/√3×|ln[1+(t−to)/to]|〕nを満たすように形成される。
【0035】
開口用溝2は、上述した形状の金型を缶蓋1をなす鋼板に押圧成形することにより得られるが、このような成形を施すと、加工により得られた最薄部2aでは加工硬化が生じ、強度が増大する。加工硬化の程度は、鋼板の元の板厚toと加工後の板厚tの比によって異なり、tが小さいほど最薄部の強度は大きくなる。
【0036】
最薄部2aの相当応力をσ、相当ひずみをεとすると、
σ=K×εn -----(3)
と表される。
【0037】
缶蓋1に用いられる鋼板の均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数をn、引張強度をTS(kgf/mm2)とした場合に、
TS=K×nn/exp(n)より、K=TS×[exp(n)/(nn)]
-----(4)
と表わされ、開口用溝形成加工による板厚方向のひずみεtsは、
εts=ln[1+(t−to)/to] -----(5)
と表わされ、開口用溝最薄部相当ひずみεは、平面ひずみと仮定して、
ε=2/√3×|ln[1+(t−to)/to]| -----(6)
と表わされる。
【0038】
式(3)、(4)および(6)から、最薄部2aの相当応力σは、
σ=TS×[exp(n)/(nn)]×〔2/√3×|ln[1+(t−to)/to]|〕n -----(7)
と表わされる。
【0039】
開口用溝2の最薄部2aを主として引張り変形により破断させる際の引張り破断力Pは、
P=σ×t -----(8)
で表されるから、
P=t×TS×[exp(n)/(nn)]×〔2/√3×|ln{1+(t‐to)/to}|〕n -----(2)
となる。
【0040】
従って、Pは小さい方が開缶力を低減化でき、その効果はPが5.0以下のときに安定して得られる。Pが5.0を超えると、大きな開缶力が必要となり、問題が生ずる。また、Pが2.5未満では、成形された缶蓋が取り付けられた缶体を落としたり、缶体が外部から衝撃等を受けたときに、その開口部が破断する危険性がある。
【0041】
従って、缶蓋の表裏面の何れかまたは表裏両面に開口用溝を形成するには、鋼板厚をto(mm)、均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数をn、引張強度をTS(kgf/mm2)とした場合に、両面に樹脂皮膜が形成された鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下何れか一方の金型が先端半径0.1mm〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる一対の金型、または、上下の金型が何れも先端半径0.1mm〜1.0mmの曲面型である一対の金型によって、加工最薄部の鋼板厚t(mm)となるように押圧成形を施すことにより、開口用溝を形成し、且つ、
2.5≦P≦5.0
但し、P=t×TS×[exp(n)/(nn)]×〔2/√3×|ln{1+(t‐to)/to}|〕nを満たすことが必要である。
【0042】
上述した缶蓋の製造方法において用いられる鋼板は、特に限定されるものではなく、目的に応じて選択することができる。イージーオープン缶蓋には、通常開口用のタブが取り付けられているが、取り付け方法としてリベット機構が用いられている場合には、リベット成形性の観点から、鋼板の均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数nが0.15以上であることが望ましい。また、樹脂皮膜の損傷を抑制するためには、開口用溝加工時の面圧を小さくすることが望ましく、そのためには、
TS×[exp(n)/(nn)]×〔2/√3×|ln{1+(t−to)|}n≦70
を満たすことが好ましい。
【0043】
更に、耐食性の確保や樹脂皮膜との密着性の確保を目的として、鋼板の表裏面の何れかあるいは両面に、種々のメッキや化成処理を施すこともできる。
【0044】
鋼板の両面に形成される樹脂皮膜としては、破断伸びが200%以上、引張強度が10kg/mm2以上、および、引張弾性率が100kg/mm2以上のもであることが必要である。この樹脂皮膜はプレス加工による開口用溝成形時に、密着性よく素地に追随し優れた加工性を有することにより、加工後も素地を完全に被覆しており、従来必要であった補修塗装を不要とするものである。
【0045】
樹脂皮膜の物性として、破断伸びが200%未満では、後述する開口用溝成形に対し、伸び不足により、樹脂皮膜に多数の欠陥を生じることになり不適である。従って、200%以上である必要がある。なお、樹脂皮膜の伸び率はASTM‐D882に準じた方法で測定される値を採用する。
【0046】
なお、引張弾性率とは、引張比例限度内における引張応力とこれに対応する歪みの比であり、引張試験における応力−歪み曲線に直線部分が無い場合には、変形開始点における接線の傾斜により求められる。引張強度・引張弾性率の値は、ASTM‐D882に準じた方法による測定値を採用する。引張強度が10kg/mm2未満では加工による破断を生じやすく、引張弾性率が100kg/mm2未満では、金型との摩擦部分での削れ、傷入りが避けられず、不適である。
【0047】
樹脂皮膜の厚みは、薄すぎる場合には加工により皮膜の破断が生じやすく、逆に100μm以上の皮膜になった場合には、開缶後にフェザー性の劣化を招きやすく、また経済面からもコストアップとなり好ましくない。従って、樹脂皮膜の厚みは、10μm〜100μmの範囲内であることが望ましい。
【0048】
適用する樹脂皮膜としては、食品衛生性・耐食性・加工性等の性能から、ポリエステル・ポリアミド等の熱可塑性樹脂の1種または2種以上から構成される樹脂フィルムを用いる。より好ましくは、単層及び二層以上のポリエステル樹脂から構成されたフィルムを用いることが、フィルム破断伸び・引張強度・引張弾性率等のフィルム物性を高い水準でバランスするため、望ましい。
【0049】
具体的に使用されるポリエステル樹脂フィルムとしては、ジカルボン酸とジオールの縮重合で得られる線状熱可塑性ポリエステルフィルムであり、ポリエチレンテレフタレートで代表されるものである。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等の単独または混合物であり、ジオール成分としては、エチレングリコール、ブタジエングリコール、デカンジオール等の単独または混合物である。2種以上のジカルボン成分やジオール成分による共重合体や、ジエチレングリコール等の他のモノマーやポリマーとの共重合体であっても良い。なお、ラミネート方法としては、フィルム自体を熱接着するか、熱硬化型接着剤を塗布して鋼板表面に貼り付けるものとする。
【0050】
缶蓋パネルに開口用溝形成加工を施すに際し、固体あるいは液体の潤滑剤を使用すれば、金型と樹脂皮膜との間の摩擦力が小さくなるので、樹脂皮膜に発生するせん断力が小さくなり、樹脂皮膜と鋼板との界面における剥離の発生を抑制し、耐食性の劣化を抑制することができる。
【0051】
上述した缶蓋の製造方法は、図6に示すプルトップ・タブ・タイプ缶蓋、図7に示すステイオン・タブ・タイプ缶蓋、あるいはフルオープン・タイプ缶蓋の何れにも適用することができる。
【0052】
また、図3(a)に示すように、タブ3を缶蓋1にタブ留め4を中心として回転可能に、タブ留め4の位置を缶蓋1の中心から破断開口部5の反対側に所定長さずらして取り付け、且つ、タブ3のタブ留め4からタブ指掛け挟持部までの長さを従来よりも長くすることによって作用点における発生力を大きくし、図3(b)に示すように、タブ3を開口可能位置に回転させたときに、タブ3の引き起こし側端部を、缶蓋外周よりも外側に位置するようにした缶蓋に、この発明の方法により開口用溝を形成すれば、開缶力を一段と低下させることができる。
【0053】
【実施例】
次に、この発明を実施例により比較例と対比しながら更に詳細に説明する。
【0054】
(実施例1)
板厚to:0.170〜0.30mm、引張強度TS:29〜56kgf/mm2、均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数n:0.10〜0.23の薄鋼板の両面に、クロメート処理によって100〜120mg/m2の量の金属クロム層と、その上層の金属クロム換算で14〜18mg/m2の量のクロム水和酸化物層とからなるクロメート皮膜が形成されたティンフリースチールの両面に、表1に示す各種樹脂フィルムをラミネートした。
【0055】
このように樹脂フィルムがラミネートされた鋼板を缶蓋パネルとし、この缶蓋パネルに対して、両方の金型が先端半径0.1mm〜1.0mmの曲面型、あるいは一方の金型が先端半径0.1mm〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる一対の金型を使用し、最薄部の板厚tを、Pが2.5〜5.0の範囲内となるようにし、潤滑剤を使用しまたは使用することなく押圧加工を施して、表1に示す、本発明の範囲内の製造方法によって得られたステイオン・タブ・タイプのイージーオープン缶蓋(以下、「本発明例」という)No.1〜6、13〜16および19を調製した。
【0056】
【表1】
【0057】
比較のために、上記ティンフリースチールに対し、本発明の範囲外である樹脂フィルムをラミネートして作製した缶蓋パネルに対して、上記金型を使用し、最薄部の鋼板厚tを、Pが本発明の範囲外となるように、潤滑剤を使用しまたは使用することなく押圧加工を施して、表2に示す、本発明の範囲外の製造方法によって得られたステイオン・タブ・タイプのイージーオープン缶蓋(以下、「比較例」という)No.20〜38を調製した。
【0058】
【表2】
【0059】
また、上記金型の先端半径が本発明の範囲外の金型を使用し、最薄部の鋼板厚tを、Pが本発明の範囲内となるように、潤滑剤を使用しまたは使用することなく押圧加工を施して、表2に示す、本発明の範囲外の製造方法によって得られたステイオン・タブ・タイプのイージーオープン缶蓋(以下、「比較例」という)No.39〜43を調製した。
【0060】
上述した本発明例および比較例の缶蓋に関して、開缶性、衝撃破壊の有無、および、樹脂皮膜損傷の有無を、下記によって評価し、その結果を表1および表2に示す。
【0061】
開缶性は、ポップ値(缶蓋のタブを一定の力で引張ったときに、缶蓋開口部が開き始める最初の力をいう)を測定し、市販の6種類のアルミニウム合金製イージーオープン缶蓋のポップ値の最大値(2.4kg)以下のものを○、それ以外を×とした。衝撃破壊は、図4に示すように、缶6を高さ1mの位置からコンクリート床面上に、缶蓋1を下方に向けた斜めの姿勢で落下させ、缶蓋1に図5に矢印で示す方向に衝撃力が付加されたときの衝撃破壊の有無によって評価し、衝撃破壊を生じなかったものを○、衝撃破壊を生じたものを×とした。また、樹脂皮膜損傷は、缶蓋に耐食性試験を施し、表裏面の開口用溝およびその近傍での錆の発生の有無によって評価し、表裏面ともに全く錆の発生しなかったものを○、表裏面のいずれかあるいは両面にわずかでも錆の発生したものを×とした。
【0062】
表2から明らかなように、樹脂フィルムの特性が本発明の範囲外である比較例20〜26は、樹脂フィルムに損傷が生じ耐食性試験で開口用溝に錆が発生した。また、開口用溝の最薄部の鋼板厚tが、Pが2.5未満になるように成形された比較例No.27〜33は、衝撃破壊が発生した。また、開口用溝の最薄部の鋼板厚tが、Pが5.0を超える範囲になるように成形された比較例No.34〜38は、開缶性が劣っていた。更に、少なくとも一方の金型の先端半径が本発明の範囲外である一対の金型を使用して押圧成形を施して調製した比較例No.39〜43は、耐食性試験で開口用溝に錆が発生し、樹脂皮膜に損傷が生じていた。
【0063】
これに対して、表1から明らかなように、本発明例であるNo.1〜6、13〜16および19は、いずれも開缶性に優れ、衝撃破壊を発生せず、更に、缶蓋表裏面の開口用溝およびその近傍に全く錆が発生せず、樹脂皮膜に損傷は認められなかった。
【0064】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、両面に樹脂皮膜が形成された鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に、缶蓋の両面に形成されているメッキ層および樹脂皮膜の損傷による補修塗装を必要とせず、しかも、子供や老人でも容易に開缶することができる、開缶性に優れたイージーオープン缶蓋が得られる、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1記載の、この発明の製造方法によって得られる缶蓋の一実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【図2】請求項2記載の、この発明の製造方法によって得られる缶蓋の一実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。
【図3】この発明の製造方法によって得られる開口用溝を有するイージーオープン缶蓋の一例を示す平面図であり、図3(a)は、タブをタブ留めを中心として回転させた状態を示す平面図であり、図3(b)は、タブを開口可能位置に回転させた状態を示す平面図である。
【図4】衝撃試験方法を示す説明図である。
【図5】缶蓋に対する衝撃力の付加位置を示す説明図である。
【図6】プルトップ・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。
【図7】ステイオン・タブ・タイプの缶蓋の一例を示す概略平面図である。
【図8】イージーオープン缶蓋における開口用溝の従来の形成方法を示す説明図である。
【符号の説明】
1:缶蓋
1a:缶蓋の表面
1b:缶蓋の裏面
2:開口用溝
2a:開口用溝の最薄部
3:タブ
4:タブ留め
5:破断開口部
6:缶
7:樹脂皮膜
8:リベット機構
9:中央パネル部
10:加工工具
11:蓋板
Claims (3)
- 缶蓋の表面または裏面に開口用溝が形成され、前記開口用溝を破断して開缶するイージーオープン缶蓋の製造方法において、
鋼板の両面に熱可塑性樹脂の1種または2種以上から構成され、200%以上の破断伸び、10kg/mm2以上の引張強度、100kg/mm2以上の引張弾性率、および、10μm〜100μmの厚みを有する樹脂皮膜が形成された樹脂被覆鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下何れか一方の金型が先端半径0.1mm〜1.0mmの曲面型で、他方の金型が平型からなる一対の金型により押圧加工を施して、前記開口用溝を形成すること、および、前記押圧加工が施された前記缶蓋パネルの加工最薄部の鋼板の板厚t(mm)が、下記(1)および(2)式
2.5≦P≦5.0 -----(1)
P=t× TS× [exp(n)/(nn)]
×〔2/√3×|ln[1+(t‐to)/to]|]n -----(2)
但し、上記(1)及び(2)式において、
to:鋼板厚(mm)
n:均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数
TS:引張強度(kgf/mm2)
を満足することを特徴とする、開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法。 - 缶蓋の両面に開口用溝が形成され、前記開口用溝を破断して開缶するイージーオープン缶蓋の製造方法において、
鋼板の両面に熱可塑性樹脂の1種または2種以上から構成され、200%以上の破断伸び、10kg/mm2以上の引張強度、100kg/mm2以上の引張弾性率、および、10μm〜100μmの厚みを有する樹脂皮膜が形成された樹脂被覆鋼板を素材として成形された缶蓋パネルに、上下の金型が何れも先端半径0.1mm〜1.0mmの曲面型である一対の金型により押圧加工を施して、前記開口用溝を形成すること、および、前記押圧加工が施された前記缶蓋パネルの加工最薄部の鋼板の板厚t(mm)が、下記(1)および(2)式
2.5≦P≦5.0 -----(1)
P=t× TS× [exp(n)/(nn)]
×〔2/√3×|ln[1+(t‐to)/to]|]n -----(2)
但し、上記(1)及び(2)式において、
to:鋼板厚(mm)
n:均一伸びの40%〜90%の領域における加工硬化指数
TS:引張強度(kgf/mm2)
を満足することを特徴とする、開缶性に優れた無補修型イージーオープン缶蓋の製造方法。 - 前記樹脂皮膜が、単層あるいは二層以上のポリエステル樹脂から構成されることを特徴とする請求項1または2記載のイージーオープン缶蓋の製造方法。
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