JP3766681B2 - 視力改善装置 - Google Patents

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Description

【技術分野】
【0001】
本発明は視力改善装置、特に仮性近視及び老視の改善装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6(a)、(b)には、人の目の概略構造の部分断面図が示される。図6(a)は遠点を見ているときの図であり、毛様体筋(輪状筋)102の弛緩により脈絡膜104の張力でレンズ100が引っ張られ、厚さが薄くなって曲率が小さくなる。他方、図6(b)は近点を見ているときの図であり、毛様体筋(輪状筋)102の収縮により脈絡膜104によるレンズ100を伸展させる張力が緩和され、レンズ100が自らの弾性により収縮し厚さが厚くなり、曲率が大きくなる。このような機構により、目で見る対象物からの距離に応じてレンズ100の曲率(焦点距離)を調節し、各対象物をはっきり感知することができるようになっている。更に対象物をより鮮明に感知するために虹彩(図8参照)を用いて瞳孔の直径を調節し、対象物の距離に応じて両眼注視線の角度を調節し輻輳(内よせ)・開散(外よせ)を行う。
【0003】
なお、上記遠点とは、レンズ100の厚さの調節をまったくしていない時に網膜の中心窩に結像する外界の点をいう。また、近点とは、レンズ100の厚さの調節を極度にした時に網膜の中心窩に結像する外界の点をいう。
【0004】
ところで、近年は、若年時よりテレビ、テレビゲーム、パーソナルコンピュータ等のディスプレイを見る時間が多くなり、仮性近視を経て近視に移行する子供の数が多くなっている。近視の原因はいくつかいわれているが、例えば、近点で対象物を見る時間が長くなると上述した毛様体筋102の萎縮状態が長期化し、レンズ100の曲率が大きく(厚さが厚く)なった状態が長く続いて眼軸(レンズ100から網膜までの距離)が長くなること等が考えられている。
【0005】
また、個人差もあるが年齢が40歳を過ぎる頃より近点が遠ざかり手近なものをはっきり感知できなくなる老視が進行してくる。この主原因の1つとして、毛様体筋102の衰弱があげられている。
【0006】
なお、下に示す非特許文献1にも近視、老視の原因につき記載がある。
【0007】
従来より、上記近視等によって低下した視力を回復させる装置が提案されている。例えば特許文献1には、マークが表示された注視板を往復移動させ、使用者が近接・離間するマークを注視していることにより、眼のトレーニングを行なう視力回復装置が開示されている。
【特許文献1】
特開平6−339501
【非特許文献1】
現代の眼科学 改訂第7版 所敬、金井淳 金原出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来の視力回復装置においては、注視板に表示されたマークの大きさが一定であるので、特にマークが使用者に近づく時にマークに焦点を合わせ難く、はっきり見ることが困難になるという問題があった。これは、マークが使用者に近づく時には、マークを見ている使用者の目の網膜上に形成されるマークの像の大きさが大きくなり、脳に入る情報量が増加して、毛様体筋102等の目の結像調節機能の制御が難しくなるためと考えられる。
【0009】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、目の結像調節機能を向上させる使用しやすい視力改善装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、視力改善装置であって、接眼部と、接眼部から目視でき、適宜な図形を表示できる標的と、接眼部からそれぞれ所定の距離にある遠点と近点との間を、標的を適宜な早さで移動させる標的移動手段と、前記標的の移動中に使用者の網膜上に一定の大きさの像が形成されるように、標的と接眼部との距離に比例して標的に表示される図形の大きさを前記標的の移動に伴って変化させる表示制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、標的と接眼部との距離に比例して図形の大きさが変化するので、標的を動かす際に図形に目の焦点を合わせやすくなり、使用しやすい視力改善装置を提供できる。
【0012】
また、上記視力改善装置において、前記接眼部は2つ設けられており、各々に前記標的の視認を遮断する遮断手段が備えられていることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、視力改善装置を使用する際に、両眼視と片眼視とを容易に選択できる。
【0014】
また、上記視力改善装置において、前記標的は、前記接眼部から目視できる図形を表示する電子的表示手段を備えることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、視力改善装置を使用する際に、選択できる図形の数を豊富化でき、より鮮明な図形を提供できる。
【0016】
また、上記視力改善装置において、前記標的移動手段は、駆動手段により前記標的を移動させることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、標的の移動を容易化できる。また、正確な速度で標的を移動できるので、視力改善効果をより高くすることができる。
【0018】
また、上記視力改善装置において、前記駆動手段は前記標的の移動速度を段階的にまたは連続的に変化させることができることを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、使用者に最適な移動速度を容易に設定できる。
【0020】
また、上記視力改善装置において、前記接眼部には、凸レンズが備えられていることを特徴とする。
【0021】
また、上記視力改善装置において、前記標的は接眼部と同方向を向いており、標的と接眼部とに向き合う反射手段と、標的移動手段に代えて、所定の2点間を、反射手段を適宜な早さで移動させる反射手段移動手段と、が設けられ、標的から出た光が反射手段により反射されて接眼部に入射することを特徴とする。
【0022】
上記各構成によれば、視力改善装置の小型化を図ることができる。
【0023】
また、視力改善装置であって、適宜な図形を表示できる電子的表示手段と、使用者との距離を測定する距離測定手段と、前記標的の移動中に使用者の網膜上に一定の大きさの像が形成されるように、使用者との距離に比例して電子的表示手段に表示される図形の大きさを前記標的の移動に伴って変化させる表示制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、携帯電話と同様な機能と形態を有する小型かつ手軽な視力改善装置を実現でき、携帯電話にその機能を組み込むことによっても実現できる。
【0025】
また、上記視力改善装置において、前記図形は、赤、緑又は青のいずれかの色で表示され、前記図形の背景は黒とされていることを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、使用者が図形に集中しやすい視力改善装置を実現できる。
【0027】
また、上記視力改善装置において、前記図形はリング状であることを特徴とする。
【0028】
また、上記視力改善装置において、前記図形は前記接眼部からの距離が25cmのときに最大径が1cm以内の大きさであることを特徴とする。この図形としては、アルファベットの大文字Gの形状であるのが好適である。
【0029】
また、上記視力改善装置において、前記図形は白色で表示され、前記図形の背景は黒とされていることを特徴とする。
【0030】
上記各構成によれば、使用者の年齢等の条件に応じて、リング状、小さなアルファベットの大文字G等の図形を使い分けることにより、適切な視力回復トレーニングを実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に好適な実施の形態(以下、実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0032】
図1には、本発明にかかる視力改善装置の斜視図が示される。なお、図1では、内部の構成がわかるように装置の壁面を透視している。図1において、壁面の1つに接眼部10が設けられ、この接眼部10から目視できる位置に標的12が配置されている。接眼部10は、ここに使用者が目を当て、標的12を見るためのものであり、少なくとも1つ、好ましくは2つ設けられる。また、接眼部10には、標的12の視認を遮断する遮断手段14が備えられており、接眼部10が2つ設けられた構成において、片方の目のみで標的12を目視できるようになっている。すなわち、2つの遮断手段14を開とすれば両眼で標的12を目視でき、一方の遮断手段14を閉とすれば、閉とされていない接眼部10に当てた方の目で標的12を目視できる。この、遮断手段14の開閉は、手動つまみで板状の遮断部材を動かすことにより実現してもよいし、自動のシャッター機構を使用して実現してもよい。なお、接眼部10には透明な平板ガラスが使用されるが、後述するように凸レンズを使用することもできる。
【0033】
標的12は、接眼部10から目視できる適宜な図形を表示できる構成となっている。例えば、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、発光素子を使用したディスプレイ等の電子的表示手段で構成するのが好適である。電子的表示手段により、図形の大きさの制御や着色等が可能となり、より使用しやすい視力改善装置を提供できる。また、標的12に表示される図形としては、各種の文字、記号、絵等がある。これらの図形は、特に限定されるものではなく、接眼部10から目視しやすく、使用者が目の焦点を合わせやすいまたは焦点が合っているか否かを確認しやすいものであればよい。なお、標的12に表示された図形を見やすくするために、照明手段16を設けるのも好適である。
【0034】
上記標的12は、標的移動手段18によって接眼部10からそれぞれ所定の距離にある遠点と近点との間を、適宜な早さで移動させることができる。この遠点と近点とは、前述したとおり、目のレンズ100の厚さの調節をまったくしていないとき、及びレンズ100の厚さの調節を極度にしたときに、それぞれ網膜の中心窩に結像する外界の点をいう。また、標的移動手段18については後述する。
【0035】
使用者は、目を接眼部10に当て、遮断手段14を開閉することにより両眼または片眼で標的12に表示された図形を見る。この時、使用者は図形がはっきり見えるよう努力して目の焦点を合わせる。このように目の焦点を図形に合わせた状態で、標的移動手段18により標的12を遠点から近点へ移動させ、次に近点から遠点に移動させることを繰り返す。使用者が標的12の移動の間も図形に目の焦点を合わせるように努力することにより、毛様体筋102や瞳孔、輻輳・開散等の目の結像調節機能を稼働させることができ、結像調節機能を向上させることができる。これにより、近視の場合の遠方の対象物及び老視の場合の近傍の対象物のような、それまではっきり見ることが困難であったものをはっきり見ることが可能となる。このように、毛様体筋102等のレンズ100の曲率制御組織を運動させ、瞳孔径の調節や輻輳・開散を行うことにより、網膜を含む眼球全体の運動を行わせることができ、目の機能を活性化することができる。なお、上記遠点、近点間の標的12の移動は、ドライアイとなることを防止するため20往復程度を1セットとし、休みを入れながら2から3セットを1日2回程度行うのが好適である。
【0036】
なお、パソコンのディスプレイを長時間見つめたり、本などを長時間読んだ後などにも、本装置による毛様体筋の運動、瞳孔調節、輻輳・開散を行うことにより目の機能を回復させることができる。
【0037】
図2(a)には、図1に示された本実施形態にかかる視力改善装置の一例の断面図が示される。図2(a)において、標的12は、支柱その他の適宜な支持手段20で台座22に固定されている。台座22は、プーリー26とベルト等で構成された搬送手段24に載置されている。プーリー26は電動機30で駆動されて標的12を移動する構成となっている。この電動機30が、本発明にかかる駆動手段に相当する。また、台座22、搬送手段24、電動機30により、本発明にかかる標的移動手段18が構成されている。この場合、標的移動手段18を床36で覆ってもよく、床36に形成された図1に示される細長形状の隙間38を介して標的12と台座22とを支持手段20で結合してもよい。以上のような構成により、標的12が前述した遠点、近点の間を移動できる。なお、本実施形態にかかる視力改善装置は、筐体28の中に収容されていてもよい。
【0038】
上述した駆動手段としての電動機30および電子的表示手段である標的12は、制御手段32によりその動作が制御される。図2(b)には、制御手段32の構成のブロック図が示される。図2(b)において、キーボード、ディスプレイ上の領域指定手段、入力スイッチ等の入力手段34から、使用者が視力改善装置の制御情報を入力する。この制御情報は、制御入力部40が受け取り、電子的表示手段である標的12に表示される図形に関する制御情報は表示制御部42に、駆動手段である電動機30に関する制御情報は駆動制御部44に入力される。なお、上記入力手段34は、使用者が手元に置いて使用できるように構成しておく。
【0039】
駆動制御部44では、移動方向制御部46により標的12が遠点から近点への方向と近点から遠点への方向のいずれに移動するかを制御し、位置制御部48により標的12の位置を制御し、また遠点と近点とを設定し、速度制御部50により標的12の移動速度を制御する。
【0040】
移動方向制御部46は、入力手段34から視力改善装置の起動信号が入力されると、標的12が遠点から近点へ移動し、次に近点から遠点に移動する動作を繰り返すときの移動方向を制御する。なお、起動信号が入力された際の移動方向は、その時に標的12が遠点にあれば近点に向かう方向となり、近点にあれば遠点に向かう方向となる。また、標的12が遠点と近点の間にあれば、いずれかの方向を移動方向制御部46が選択するが、予めデフォルトの設定としておくこともできる。
【0041】
位置制御部48は、上記遠点及び近点の位置を接眼部10からの距離として設定するが、遠点及び近点は個人差があるので使用者ごとに調整する必要がある。このため、遠点は接眼部10から500〜1000mmの範囲で、近点は接眼部10から100〜200mmの範囲でそれぞれ制御できるように構成されている。これらの値は、使用者が入力手段34から入力する。また、接眼部10から標的12までの距離は電動機の回転数等適宜な方法により位置制御部48が求める。なお、接眼部10から標的12までの距離は表示制御部42にも入力される。
【0042】
速度制御部50は、標的12の移動速度を制御するが、移動速度を段階的に変化させることができる構成及び連続的に変化させることができる構成のいずれも好適である。移動速度を段階的に変化させることができる構成の場合、例えば、10mm/秒、20mm/秒、40mm/秒、80mm/秒、160mm/秒、250mm/秒のいずれかの移動速度から使用者が自分に最適な移動速度を選択できるようにしておく。これにより、効果的に視力改善を図ることができる。また、移動速度を連続的に変化させることができる構成の場合、使用者が自分に最適な移動速度の微妙な調整を行うことができ、さらに使用しやすい視力改善装置を得ることができる。これらの移動速度の値は、使用者が入力手段34から入力する。
【0043】
以上の移動方向制御部46、位置制御部48、速度制御部50の各制御出力は、駆動手段である電動機30に入力され、所定の制御が行われる。なお、移動方向制御部46、位置制御部48、速度制御部50の各制御を組み合わせ、標的12の移動時に小刻みな前後の振動を入れると、使用者が標的12に表示された図形に自分の目の焦点を合わせやすくなると同時に、合っているか否かを判断しやすくなる。
【0044】
表示制御部42には、入力手段34から入力された表示図形に関する制御情報が、制御入力部40を介して入力される。また、位置制御部48から、接眼部10と標的12との間の距離も入力される。表示制御部42では、入力された制御情報に基づき、予め記憶手段43に格納された図形データから所定の図形を選び出し、選んだ図形とその大きさに関する情報を標的12の電子的表示手段に表示させる。また、接眼部10から標的12までの距離も表示制御部42が標的12に表示させる。このように、標的12に接眼部10から標的12までの距離と標的12に表示された図形の大きさ等の情報を表示することにより、標的12上のどの図形がどの程度の距離までよく見えるようになったかを使用者に把握させることができる。これにより、使用者に達成感を与え、視力改善努力への動機付を行うことができる。
【0045】
また、表示制御部42では、標的12と接眼部10との距離に比例して標的12に表示される図形の大きさを変化させるような制御が行われる。図3には、このような制御が行われた場合の、図形の大きさと目の網膜上に形成される像の大きさとの関係が示される。接眼部10から標的12を見ている眼球106のレンズ100から距離lの位置(例えば遠点)に大きさhの図形が標的12によって表示されると、毛様体筋102等の目の結像調節機能の作用により、網膜上に像が形成される。次に、図形を表示した標的12を標的移動手段18により目に近づけるときにレンズ100と図形との距離に比例して図形の大きさを小さくして行くと、網膜上に形成される像の大きさは一定となる。すなわち、見ている図形の接近に伴い、目の結像調節機能の作用により網膜上に図形が結像するようにレンズ100の焦点距離は調節されるが、レンズ100の中心を通過する光の入射角度は変化しないので、像の大きさは一定に保たれる。例えば、レンズ100からlの距離にあるときの図形の大きさをhとし、レンズ100からlの距離にあるときの図形の大きさをhとすると、l:l:l=h:h:hの関係となるように図形の大きさを制御すると、網膜上の像の大きさは常に一定となる。なお、標的12を目から遠ざける場合は、レンズ100と図形との距離に比例して図形の大きさを大きくして行く。
【0046】
このように、目の網膜上に形成される像の大きさを一定に保つと、脳に入る視覚情報の量を抑制でき、使用者が図形に目の焦点を合わせやすくなる。このため、使用者にとって見やすく、使用しやすい視力改善装置を実現できる。この効果は、特に標的12が使用者に近づくときに大きくなる。これは、標的12が使用者に近づく場合、図形の大きさが一定であると、網膜上に形成される像の大きさが大きくなり、網膜から脳に入る情報量が次第に多くなるが、上述の制御により図形の大きさを変化させると像の大きさが一定となり、網膜から脳に入る情報量の増加を抑制できるからである。なお、上述のように図形の大きさを制御しても、図形に目の焦点を合わせるために結像調節機能を稼働させることができるので、視力回復の効果を損なうことはない。
【0047】
さらに、表示制御部42は、標的12に表示される図形及び図形の背景の色も制御する。図形及び図形の背景の色に関するデータも予め記憶手段43に格納されており、入力手段34から入力された制御情報に基づいて表示制御部42が色に関するデータを取得する。この場合、図形の色を赤、緑又は青のいずれかとし、図形の背景の色を黒とすると、すなわち黒い表示画面に赤、緑又は青のいずれかの色の図形を表示すると使用者が図形に集中しやすくなる。これは、人の目の網膜内の光受容器が赤、緑、青の3種類の色のそれぞれの波長の光に対する吸収特性を有する錐体と明暗を識別する杆体からなっているので、この光受容器の特性から赤、緑又は青の図形は見やすいからである。また、背景を黒色とすることにより、図形の識別をより容易にすることができ、使用者が図形にさらに集中しやすくなる。
【0048】
上述したレンズ100と図形との距離は、標的12と接眼部10との距離で代表できるので、本実施形態にかかる視力改善装置の表示制御部42では、標的12と接眼部10との距離に比例させて図形の大きさを制御している。
【0049】
以上に述べた本実施形態にかかる視力改善装置は、その奥行きが遠点により550〜1050mm程度になり、かなり大型化する。そこで、接眼部10に凸レンズを備え、虚像を作ることにより奥行きを小さくし、装置の小型化を図るのが好適である。
【0050】
実施例.
以下、図1に示された本実施形態にかかる視力改善装置を用いて実施した視力改善試験の結果を説明する。
【0051】
本実施形態にかかる視力改善装置を使用し、10歳代15人、20歳代23人、30歳代25人、40歳代14人、50歳代16人に対し、以下の視力回復トレーニングを実施した。
【0052】
トレーニング内容
接眼部10と標的12との距離20cmから65cmの間を、標的12を250mm/秒の速度で15往復させ、使用者に黒い背景中の白色の円盤状の図形に目の焦点をあわせて見てもらう。図形の大きさは、遠点(接眼部10からの距離65cm)で直径80mmとし、近点(接眼部10からの距離20cm)で直径24.6mmとして、接眼部10からの距離に応じて直線的に縮小、拡大させた。
【0053】
各被験者の視力は、LogMAR近距離視力表(日本点眼薬研究所)の100%、25%、6%(数字は記号の濃度を表す)の3種類及び文字判別表の数字、小文字アルファベット、大文字アルファベット、平仮名、片仮名、漢字の6種類(各5文字でフォントサイズ14から1までで構成)、合計9種類の試験項目につき、視力の指標の各段階で正解率が50%を超えた場合、その視力段階を合格(その人の視力)とし、50%以下の場合は、その1段階下をその人の視力として決定した。この基準で、上記トレーニングの前後の各被験者の視力を測定した。測定結果が図9に示される。図9において、総合+は、上記9種類の試験項目について、上記トレーニング後の視力がトレーニング前の視力より向上した項目が低下した項目より多い場合であり、総合±は、上記トレーニング後の視力がトレーニング前の視力と同じ(向上した項目が低下した項目と同数を含む)場合であり、総合−は、上記トレーニング後の視力がトレーニング前の視力より向上した項目が低下した項目より少ない場合である。
【0054】
図9に示されるように、各年代の被験者において、総合+であった者が90%を超えており、総合±であった者は10%未満であった。また、総合−の者はいなかった。この結果から、本実施形態にかかる視力改善装置を用いて上記トレーニングを行うと、高い視力改善効果が得られることが証明される。
【0055】
図4には、本発明にかかる視力改善装置の他の実施形態の断面図が示され、図2(a)と同一要素には同一符号が付されている。図4において特徴的な点は、標的12の図形を表示する面が接眼部10と同方向を向き、その標的12と接眼部10とに向き合う平面鏡等の反射手段52が設けられている点である。この反射手段52は、支柱その他の適宜な支持手段20で台座22に固定されている。台座22に固定された反射手段52は、搬送手段24により所定の2点間を適宜な早さで移動される。台座22、搬送手段24、電動機30により、本発明にかかる反射手段移動手段が構成されている。
【0056】
図4に破線で示されるように、標的12から出た光は、反射手段52により反射されて接眼部10に入射する。したがって、使用者は、接眼部10から反射手段52を介して間接的に標的12の図形を目視することになる。また、標的12から反射手段52で反射されて接眼部10に到達するまでの光の通過距離すなわち使用者が接眼部10から見た標的12までの距離は、反射手段52の位置を移動させることにより調節できる。したがって、反射手段52が移動する所定の2点間として、光の通過距離が前述した遠点と近点になるように設定することができる。その際の接眼部10と反射手段52との実際の距離は、反射手段52により光が折り返されることにより、光の通過距離よりも短くできる。このような構成により、使用者が接眼部10から見た標的12までの距離について所定の遠点を確保しつつ、視力改善装置の奥行きを小さくし、装置の小型化を図ることができる。なお、反射手段52の位置は、図2(b)に示された位置制御部48と同様の構成により検出することができる。このため、図2(b)に示された制御手段32と同様の構成により、標的12に表示される図形の大きさを上述した光の通過距離に比例して変化させる制御を行うことができる。また、図形及び図形の背景の色の制御も同様に行うことができる。
【0057】
図5(a)には、本発明にかかる視力改善装置のさらに他の実施形態の構成図が示される。図5(a)においては、上述した標的12に代わって、携帯電話54に備えられている液晶表示装置等の電子的表示手段に図形が表示されるように構成される。使用者は、携帯電話54を手に持ち、腕を曲げ伸ばしする等により図形を適宜な速さで往復移動させ、その図形に目の焦点を合わせながら見ることにより、視力回復訓練を行う。
【0058】
携帯電話54には、使用者56との間の距離を測定するための距離測定手段が備えられている。距離測定手段としては、例えば携帯電話54に発光素子、受光素子を組み込み、図5(a)に示されるように、発光素子から発射され使用者56の顔で反射して戻ってくる光58を受光素子で検出し、発光素子から光を発射してから受光素子で反射光を検出するまでの時間を測定して距離を測定する構成、または携帯電話54にカメラ機能59を持たせ、対象画面の中から特定の部分だけを抽出し記憶させ、距離が変わった時その特定部分の長さの比に基づいて、距離を算出する構成等が適用可能である。ただし、距離測定手段はこれに限られるものではなく、携帯電話54に組み込める大きさのものであれば限定されない。本実施形態においては、距離測定手段により測定された携帯電話54と使用者56との間の距離に比例して電子的表示手段に表示される図形の大きさを変化させるように構成されている。これにより、前述した各実施形態と同様に、使用者が表示される図形に目の焦点をあわせやすく、使用しやすい視力改善装置を実現できる。
【0059】
図5(b)には、図5(a)に示される実施形態を実現するための構成のブロック図が示される。なお、図5(b)では、携帯電話機能を実現する部分は省略されている。図5(b)において、上述したカメラ機能59等で構成される距離計測部60により携帯電話54と使用者56との間の距離の計測が行われ、距離計測部60の出力が距離算出部62に入力されて上記距離が算出される。ここで、距離計測部60と距離算出部62とにより本発明にかかる距離測定手段が構成される。距離算出部62で算出された距離データは表示制御部42に入力される。この表示制御部42が、本発明にかかる表示制御手段に相当する。表示制御部42では、入力された距離データに基づき、電子的表示手段64に表示される図形の大きさを、携帯電話54と使用者56との間の距離に比例して変化するように制御する。この際に電子的表示手段64に表示される図形は、図2(b)の場合と同様に、記憶手段43に格納されている図形データから表示制御部42により選択される。また、図形及び図形の背景の色についても、図2(b)の場合と同様に制御することができる。
【0060】
なお、本実施形態は携帯電話で視力改善装置を実現する例を示したが、携帯電話に限るものではない。使用者が携帯でき、かつ適宜な図形を表示できるもの、例えばPDA(Personal Digital Assistance)等に、図5(b)に示される構成を組み込むことにより本実施形態にかかる視力改善装置を実現できる。
【0061】
図7(a)、(b)には、本発明にかかる視力改善装置のさらに他の実施形態の構成図が示される。図7(a)において、標的12には、本実施形態における図形66が表示されている。本実施形態で特徴的な点は、図形66の形状が、図7(a)に示されるように、中央部分に穴のあいた円形状すなわちリング状となっている点である。また、図形66を表示する標的12の画面68は、図形66の背景を黒く表示している。
【0062】
図8には、人の目の詳細な構造の部分断面図が示される。図8において、目に侵入する光は、角膜70、水晶体72及び硝子体74を介して、網膜76に対象物の像を結ぶ。網膜76には、そのほぼ中央部に視力のもっともよい中心窩78が存在する。また、対象物をより鮮明に感知するために、水晶体72の前面にある虹彩79により瞳孔直径を調節する。
【0063】
図7(a)に示されたリング状の図形66を人の目で見た場合、その像80は、凡そ図8に示される位置に結像する。上述したように、図形66はリング状であり、その中央部分に円形の穴があいた形状となっている。このため、図形66の像80は、目の中心窩78の領域には結像せず、中心窩78への刺激が抑制され、中心窩78の周囲の網膜刺激により像80を感知する。これにより、特にある程度年配すなわち老視が進行した使用者にとって図形66を見やすくなり、図形66を見ることに集中しやすくなる。このため、毛様体筋102等の目の結像調節機能を効率的に稼働させることができ、結像調節機能をより向上させることができる。
【0064】
図7(a)に示された図形66は、単一のリングであるが、これを2重のリングとするのも好適である。2重のリングとすると、図形66に目の焦点が合っているか否かの判断が容易となり、図形66に目の焦点をあわせて目の結像調節機能をより効率的に稼働させることが可能になるからである。もし、図形66に目の焦点が合っていないと、毛様体筋102等の目の結像調節機能を十分に稼働させることができなくなる。
【0065】
なお、図形66の大きさは、中心窩78の周囲の網膜を刺激できる大きさであれば特に限定されるものではない。
【0066】
以上に述べた図7(a)のリング状の図形66は、主として老視が問題となる年配者に適したものであった。これに対して、若年すなわち近視が問題となる使用者にとっては、目の中心窩78を刺激する光の方が集中しやすい場合もある。図7(b)には、目の中心窩78を刺激するのに適した図形の例が示される。図7(b)において、標的12には、その画面68のほぼ中央部にアルファベットの大文字Gの形状の図形67が、黒い背景の中に表示されている。この図形67の大きさは、接眼部10から図形67(標的12の画面68)までの距離が25cmのときに最大径が1cm以内とするのが好適である。このような大きさにすると、目に入射した図形67からの光が、ほぼ全て中心窩78を刺激するようにできる。また、図形67を、図7(b)に示されるように、アルファベットの大文字Gとすると、その中央部の“T”の横線により目の焦点が合っているか否かの判断が容易となり、目の結像調節機能をより効率的に稼働させることが可能となる。なお、この図形67は、必ずしもアルファベットの大文字Gに限られるものではなく、例えば上記の大きさの円盤状とすることもできる。
【0067】
以上に説明した図形66、67は、その色を白色とし、上述の通り背景を黒とするのが好適である。これにより、図形66、67の目に対する刺激が強くなり、使用者がより図形66、67を集中して見やすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明によれば、標的と接眼部との距離に比例して図形の大きさが変化するので、標的を動かす際に図形に目の焦点を合わせやすくなり、使用しやすい視力改善装置を提供できる。
【0069】
また、視力改善装置を使用する際に、遮断手段により両眼視と片眼視とを容易に選択できる。
【0070】
また、標的に電子的表示手段を使用することにより、選択できる図形の数を豊富化でき、より鮮明な図形を提供できる。
【0071】
また、駆動手段により標的を移動させることにより、標的の移動を容易化できるとともに、正確な速度で標的を移動できるので、視力改善効果をより高くすることができる。その際、標的の移動速度を段階的にまたは連続的に変化させることができるので、使用者に最適な移動速度を容易に設定できる。
【0072】
また、接眼部に凸レンズを使用し、または標的と接眼部との間に反射手段を設けることにより視力改善装置の小型化を図ることができる。
【0073】
また、本発明にかかる視力改善装置を携帯電話等に組み込むことにより、小型かつ手軽な視力改善装置を実現できる。
【0074】
また、使用者の年齢等の条件に応じて、リング状、小さなアルファベットの大文字G等の図形を使い分けることにより、適切な視力回復トレーニングを実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明にかかる視力改善装置の斜視図である。
【図2】図1に示された視力改善装置の一実施形態の断面図である。
【図3】図形の大きさと目の網膜上に形成される像の大きさとの関係を示す図である。
【図4】図1に示された視力改善装置の他の実施形態の断面図である。
【図5】本発明にかかる視力改善装置のさらに他の実施形態の構成を示す図である。
【図6】人の目の概略構造の部分断面図である。
【図7】本発明にかかる視力改善装置のさらに他の実施形態の構成を示す図である。
【図8】人の目の詳細な構造の部分断面図である。
【図9】視力の測定結果を示す図である。

Claims (14)

  1. 接眼部と、
    前記接眼部から目視でき、適宜な図形を表示できる標的と、
    前記接眼部からそれぞれ所定の距離にある遠点と近点との間を、前記標的を適宜な早さで移動させる標的移動手段と、
    前記標的の移動中に使用者の網膜上に一定の大きさの像が形成されるように、前記標的と前記接眼部との距離に比例して前記標的に表示される図形の大きさを前記標的の移動に伴って変化させる表示制御手段と、
    を備えることを特徴とする視力改善装置。
  2. 請求の範囲1記載の視力改善装置において、前記接眼部は2つ設けられており、各々に前記標的の視認を遮断する遮断手段が備えられていることを特徴とする視力改善装置。
  3. 請求の範囲1または請求の範囲2記載の視力改善装置において、前記標的は、前記接眼部から目視できる図形を表示する電子的表示手段を備えることを特徴とする視力改善装置。
  4. 請求の範囲1から請求の範囲3のいずれか一項記載の視力改善装置において、前記標的移動手段は、駆動手段により前記標的を移動させることを特徴とする視力改善装置。
  5. 請求の範囲4記載の視力改善装置において、前記駆動手段は前記標的の移動速度を段階的に変化させることができることを特徴とする視力改善装置。
  6. 請求の範囲4記載の視力改善装置において、前記駆動手段は前記標的の移動速度を連続的に変化させることができることを特徴とする視力改善装置。
  7. 請求の範囲1から請求の範囲6のいずれか一項記載の視力改善装置において、前記接眼部には、凸レンズが備えられていることを特徴とする視力改善装置。
  8. 請求の範囲1から請求の範囲6のいずれか一項記載の視力改善装置において、
    前記標的は前記接眼部と同方向を向いており、
    前記標的と前記接眼部とに向き合う反射手段と、前記標的移動手段に代えて、所定の2点間を、前記反射手段を適宜な早さで移動させる反射手段移動手段と、が設けられ、
    前記標的から出た光が前記反射手段により反射されて前記接眼部に入射することを特徴とする視力改善装置。
  9. 適宜な図形を表示できる電子的表示手段と、
    使用者との距離を測定する距離測定手段と、
    前記標的の移動中に使用者の網膜上に一定の大きさの像が形成されるように、前記使用者との距離に比例して前記電子的表示手段に表示される図形の大きさを前記標的の移動に伴って変化させる表示制御手段と、
    を備えることを特徴とする視力改善装置。
  10. 請求の範囲1から請求の範囲9のいずれか一項記載の視力改善装置において、
    前記図形は、赤、緑又は青のいずれかの色で表示され、前記図形の背景は黒とされていることを特徴とする視力改善装置。
  11. 請求の範囲1から請求の範囲9のいずれか一項記載の視力改善装置において、
    前記図形はリング状であることを特徴とする視力改善装置。
  12. 請求の範囲1から請求の範囲9のいずれか一項記載の視力改善装置において、
    前記図形は、前記接眼部からの距離が25cmのときに最大径が1cm以内の大きさであることを特徴とする視力改善装置。
  13. 請求の範囲12記載の視力改善装置において、
    前記図形は、アルファベットの大文字Gの形状であることを特徴とする視力改善装置。
  14. 請求の範囲11から請求の範囲13のいずれか一項記載の視力改善装置において、
    前記図形は白色で表示され、前記図形の背景は黒とされていることを特徴とする視力改善装置。
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