JP3765119B2 - 高含水油中水型乳化組成物及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高含水油中水型乳化組成物及びその製造方法に関する。詳しくは、水の重量割合が93%以上と比率が高い高含水油中水型乳化組成物及びその製造方法に関する。
本発明の組成物は、医薬品、化粧品、食品等に使用される。
【0002】
【従来の技術】
従来、医薬・化粧品として使用されるクリーム類のうち、油中水型のものは、皮膚に適用したときに最外相が油性であることにより汗・水に強くもちが良い等の利点がある反面、べたべたした油っぽさが問題で、これを感じさせない性質が要求される。このような要求を満たすために、揮発性の油性基剤等を用いる方法の他、分散相である水性成分量を増加し、高含水量の油中水型乳化組成物を調製するという方法も採られる。また、食品分野においても、油中水型乳化物としてマーガリンやファットスプレッド、乳化型調味料等があるが、近年の消費者の低カロリー志向から、油性成分含量が低く水分含有率の高い製品も見られるるようになった。しかしながら、安定な乳化状態を得るためにはこのような高含水油中水型乳化物を得ることは難しい。
【0003】
中でも、水性成分の割合が90重量%を越えるような高含水系は一般的に乳化分散が困難であるが、非イオン性活性剤の中では乳化力が強いと言われるポリオキシエチレン系の界面活性剤が、90重量%を越える水性成分を容易に乳化・分散することが知られている(H.Kunieda et al.,Colloid
and Surfaces,24,225(1987))。しかしながら、その場合、活性剤成分の配合量が対油相で最低でも20重量%は必要となる。更に、ポリオキシエチレン系乳化剤は、経時的にポリオキシエチレン鎖が分解してホルマリンを生成するため、安全性の面での問題が有り、例えば、多量水性成分を配合するクリーム類等に応用すると、得られた乳化組成物の皮膚への刺激性が高くなる等の問題があった。また、これらの活性剤を食品系に応用することは不可能である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、多量の水性成分を少量の活性剤でも安定に乳化分散し、且つ安全性が高く、皮膚への刺激性等の心配がない高含水油中水型乳化組成物が従来から求められていた。
本発明の課題は、医薬、化粧品、食品分野で利用可能で、多量の水性成分を少量の活性剤で安定に乳化分散し、且つ安全性が高く、皮膚への刺激性のない高含水油中水型乳化組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、油中水型乳化組成物において水性成分量の割合が90重量%より多いときに少量の活性剤成分でも乳化安定に優れた乳化物を得るべく鋭意研究した結果、乳化剤として特定のショ糖脂肪酸エステルを使用することにより高含水の油中水型乳化組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、(a)ショ糖脂肪酸エステル、(b)油性成分及び(c)水を必須成分としてなる乳化組成物において、
(1) (a)成分、(b)成分及び(c)成分の合計量に対し、(c)成分が93重量%以上であること、
(2) (a)成分の構成脂肪酸の少なくとも20重量%が炭素数8〜18の飽和脂肪酸又は炭素数16〜22の不飽和脂肪酸であること、且つ
(3) (a)成分中のポリエステルが95重量%以上であること、
を特徴とする高含水油中水型乳化組成物及び(a)成分、(b)成分及び(c)成分を含む混合物系に前記三成分の合計量に対し0.01〜10容量%の該混合物に不溶な固体物を添加し、撹拌することにより乳化組成物を得る高含水油中水型乳化組成物の製造方法にある。
以下、本発明の組成物及びその製造方法について詳細に説明する。
【0006】
【発明の実施の態様】
1.高含水油中水型乳化組成物
(ショ糖脂肪酸エステル)
本発明で用いられるショ糖脂肪酸エステルは、構成脂肪酸の少なくとも20重量%以上が炭素数8〜18の飽和脂肪酸又は炭素数16〜22の不飽和脂肪酸を有するものである。
ショ糖脂肪酸エステルの具体例としては、ショ糖カプリル酸エステル、ショ糖カプリン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルを挙げることができ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。ジエステルを含むポリエステル(以下、ポリエステルと略記する。)の割合については100重量%であることが望ましいが、少なくとも95重量%以上、好ましくは97重量%以上、そしてより好ましくは99重量%以上のものであれば、本発明を満足し得る。
【0007】
ショ糖脂肪酸エステル類は、親水基が水酸基を含むショ糖であるため、従来医薬、化粧品分野のエマルジョン調製に主に用いられているポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤と比べて疎油性が高く、油性成分への単分散溶解濃度が低い。そのため、油性成分中に添加した場合、活性剤成分がより有効に油/水界面に吸着し、塩類や他の界面活性剤成分等を添加することなく、含水量の高い安定な油中水型エマルジョンが得られる。このことは、ショ糖脂肪酸エステルの油中でもポリオキシエチレン系活性剤に比べ低濃度で液晶を形成し易い性質からも裏付けられる。
【0008】
(油性成分)
本発明で用いられる油性成分は特に限定されないが、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、シクロヘキサン、ヘキサデカン、流動パラフィン、ワセリン、スクアレン、スクアラン等の炭化水素類、ジヘプチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールジブチルエーテル等のジエーテル類、スフィンゴシン等の長鎖アミノアルコール、長鎖アルデヒド、長鎖ケトン、テルペノイド、ステロイド、カロチノイド、ワックス、アシルグリセロール、エーテルグリセリド、セラミド、リン脂質、糖脂質、リン糖脂質、硫脂質、アミノ酸脂質等が挙げられ、魚油等の動物油脂、大豆油等の植物油脂、鉱物油等の混合物でも差支えない。
本発明においては、化粧品やマーガリンやファットスプレッド、乳化型調味料のような食品等に用いられる、n−オクタン、n−デカン、ヘキサデカン、スクアレン、スクアラン、流動パラフィン等の炭化水素類や、2−エチルヘキサン酸トリグリセライド、オリーブ油等の油脂類について特に安定な高含水油中水型乳化組成物を形成できる。
【0009】
(添加剤)
本発明の高含水油中水型乳化組成物については、ショ糖脂肪酸エステル、油性成分、水の他に、必要に応じて塩類や両親媒性物質等を添加してもよい。水相に炭素数1〜3の一価のアルコール類やグルコースやオリゴ糖等の糖、グリセロールやソルビトールやエチレングリコール等の直鎖ポリオール、マルチトールや還元オリゴ糖等の糖アルコール、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、コンドロイチン硫酸やヒアルロン酸等のムコ多糖、サポニン等の配糖体等も必要に応じて添加しても差支えない。
また、本発明に係わる高含水油中水型乳化組成物が応用された製品には、必要に応じて、香料、色素、防腐剤、薬剤、増粘剤、キレート剤等が適宜添加される。
【0010】
(組成)
本発明の高含水油中水型乳化組成物は、組成物中の水((c)成分)の割合が極めて大きく、(c)成分の割合は、(a)成分(ショ糖脂肪酸エステル)、(b)成分(油性成分)及び(c)成分の合計量に対し93重量%以上、好ましくは95重量%以上である。そして、大量の水性成分を安定に乳化することができることにより、油中水型乳化物の不快感の問題を低減し、さっぱりした感触を与えることが期待される。
【0011】
また、残りの(a)成分と(b)成分との合計量の割合は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の合計量に対し、7重量%以下、好ましくは5重量%以下である。そして、(a)成分と(b)成分との組合わせは広い範囲から選ぶことができることが特徴であり、例えば、(a)と(b)との合計量に対し、(a)が2〜60重量%の範囲で選ぶことができ、同2〜20重量%の活性剤濃度が低い範囲でも、安定な組成物を選ぶことが可能である。
このように、従来の高含水油中水型乳化系に対して遙かに少量の界面活性剤で大量の水を安定に分散できるため、安全性が極めて高いものであると言うことができる。
【0012】
2.組成物の製造方法
乳化物は、いわゆる準安定な組成物であり、その製造方法により製造の成否が左右される場合が多い。かかる高含水油中水型乳化組成物は、(a)成分、(b)成分、(c)成分の混合物系に不溶な固体物を前記三成分の合計量に対し0.01〜10容量%添加し攪拌する工程により、より容易に得られる。このとき、(a)成分は系内に完全に溶解していなければならず、常温で固体のものは、必要に応じて加熱するか、(b)成分に溶解してから混合する。
不溶な固体物とは、例えば、上記混合系と化学的に相互作用しない小球状又は繊維状のガラス或いは綿等が挙げられる。これらの添加量は、請求項4に記載の範囲内で研究者がより適切な量を任意に選ぶことができる。これらの固体物は、乳化後容易に系外に取り除くことが可能である。
この方法により、一度に系全体を均一に強力攪拌する場合より容易に目的の組成物を得ることができる。例えば、系全体にかなり大きな機械的剪断力をかけて乳化してもよいが、請求項4に記載の方法を採ることによって、安定な乳化物が容易に得られる。
【0013】
高含水油中水型乳化組成物は、乳化初期に大量の水相と少量の油相で形成される不安定なO/Wエマルジョンの水滴中に、徐々に水相が取り込まれること、即ち、W/O/W型エマルジョンを経て得られると考えられる。よって、特に水性成分が90重量%を越えるところの目的の組成物を得る場合、一度に所望の組成を量り採って乳化するより、最初は水性成分を対全量6〜70重量%程度から乳化を開始し、それ以降徐々に水性成分を添加する、という方法を採った方が容易に得られる。
攪拌の際には、少量であれば手振盪のみでもよく、大量の場合も特殊な乳化機を用いる必要はなく、簡単な攪拌機があれば容易に調製できる。
このように本方法の特徴は機械的剪断力によらず、容易にしかもより安定な系が得られる点が挙げられ、同時に製造プロセスの省力化を図れることである。
【0014】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
また、乳化系が油中水型であることの確認は、顕微鏡による観察(油/水相の容積比、ベックライン法(H.Kunieda et al.,Colloids and Surfaces,24,225(1987)))及び組成物の水への拡散試験により行った。
【0015】
実施例1
ショ糖脂肪酸エステルとしてショ糖ラウリン酸エステル(L−195、三菱化学フーズ(株))をn−デカン(特級、東京化成工業(株))に均一溶解し、これに蒸留水を混合してネジ口試験管に入れ、脱脂綿を約0.5容量%添加して25℃で手振盪乳化し、油中水型乳化組成物を得た。
この時の各成分の配合量比及び油水比は、第1表に示した通りである。
本発明の方法で調製した油中水型乳化組成物は25℃、1カ月間分離せず安定であった。なお、用いたショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸組成とポリエステル分率は第2表に示す。
【0016】
実施例2
ショ糖脂肪酸エステルとしてショ糖ラウリン酸エステル(L−195、三菱化学フーズ(株))をn−デカン(特級、東京化成工業(株))に均一溶解し、これに蒸留水を混合してネジ口試験管に入れ、25℃で手振盪乳化し、油中水型乳化組成物を得た。
この時の各成分の配合量比及び油水比は、第1表に示した通りである。
本発明の方法で調製した油中水型乳化組成物は25℃、1カ月間分離せず安定であった。
【0017】
実施例3
ショ糖脂肪酸エステルとしてショ糖オレイン酸エステル(O−170、三菱化学フーズ(株))をn−デカン(特級、東京化成工業(株))に均一溶解し、これに蒸留水を混合してネジ口試験管に入れ、25℃で手振盪乳化し、油中水型乳化組成物を得た。
この時の各成分の配合量比及び油水比は、第1表に示した通りである。
本発明の方法で調製した油中水型乳化組成物は25℃、1カ月間分離せず安定であった。
【0018】
実施例4
ショ糖脂肪酸エステルとしてショ糖オレイン酸エステル(O−170、三菱化学フーズ(株))を2−エチルヘキサン酸トリグリセライド(TEH、日清製油TIO))に均一溶解し、これに蒸留水を混合してネジ口試験管に入れ、25℃で手振盪乳化し、油中水型乳化組成物を得た。
この時の各成分の配合量比及び油水比は、第1表に示した通りである。
本発明の方法で調製した油中水型乳化組成物は25℃、1カ月間分離せず安定であった。
【0019】
実施例5
ショ糖脂肪酸エステルとしてショ糖ステアリン酸エステル(S−070、三菱化学フーズ(株))をn−デカン(特級、東京化成工業(株))に均一溶解し、これに蒸留水を混合してネジ口試験管に入れ、25℃で手振盪乳化し、油中水型乳化組成物を得た。
この時の各成分の配合量比及び油水比は、第1表に示した通りである。
本発明の方法で調製した油中水型乳化組成物は25℃、1カ月間分離せず安定であった。
【0020】
比較例1
ショ糖脂肪酸エステルとしてショ糖ステアリン酸エステル(S−270、三菱化学フーズ(株))を流動パラフィン(一級、和光純薬工業(株))に均一溶解し、これに蒸留水を混合してネジ口試験管に入れ、70℃で手振盪乳化した。
この時の各成分の配合量比及び油水比は、第1表に示した通りである。
比較例1では調製直後に油水相が分離してしまい、油中水型乳化組成物は得られなかった。
【0021】
比較例2
ショ糖脂肪酸エステルとしてショ糖ラウリン酸エステル(L−595、三菱化学フーズ(株))をn−デカン(特級、東京化成工業(株))に均一溶解し、これに蒸留水を混合してネジ口試験管に入れ、25℃で手振盪乳化した。
この時の各成分の配合量比及び油水比は、第1表に示した通りである。
比較例2では調製直後に油水相が分離してしまい、油中水型乳化組成物は得られなかった。
【0022】
【表1】
Figure 0003765119
【0023】
【表2】
Figure 0003765119
【0024】
【発明の効果】
以上に詳述したように、本発明はショ糖脂肪酸エステル、油性成分及び水を必須成分としてなる油中水型乳化組成物であり、従来の油中水型乳化組成物では困難とされていた水性成分が93重量%以上の高含水条件下での安定性が得られると共に、食品添加物として広く使用されている界面活性剤のみで水性成分を安定に配合できるため、安全性や機能的な側面でも実用性の高いものであると言える。また、工業分野では、調製が容易であるために効率的である点で、利用価値が極めて高い。特に、本発明はその有する利点のために、クレンジングローション、マッサージローション、エモリエントローション等の乳液類の外、食品、医薬品等の製品に使用することができる。更に得られた組成物の低カロリー化や、本組成物を乳液類に応用した場合に水性成分を多量に配合できるため、通常の油中水型乳化化粧料を皮膚に適用した際のべたつき感が少ない、等の効果も得られる。

Claims (4)

  1. (a)ショ糖脂肪酸エステル、(b)油性成分及び(c)水を必須成分としてなる乳化組成物において、
    (1) (a)成分、(b)成分及び(c)成分の合計量に対し、(c)成分が93重量%以上であること、
    (2) (a)成分の構成脂肪酸の少なくとも20重量%が炭素数8〜18の飽和脂肪酸又は炭素数16〜22の不飽和脂肪酸であること、且つ
    (3) (a)成分中のポリエステルが95重量%以上であること、
    を特徴とする高含水油中水型乳化組成物。
  2. (a)成分の構成脂肪酸の少なくとも20重量%がラウリン酸又はオレイン酸である請求項1に記載の高含水油中水型乳化組成物。
  3. (a)成分と(b)成分との合計量に対し、(a)成分が2〜60重量%である請求項1又は2に記載の高含水油中水型乳化組成物。
  4. (a)成分、(b)成分及び(c)成分を含む混合物系に前記三成分の合計量に対し0.01〜10容量%の該混合物に不溶な固体物を添加し、撹拌することにより乳化組成物を得る請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高含水油中水型乳化組成物の製造方法。
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