JP3761654B2 - 燃焼状態検出装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の燃焼状態を検出する燃焼状態検出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の駆動力は、内燃機関の燃焼室における燃料と空気の混合ガスの燃焼により得ている。燃焼室に導入された混合ガスの点火は、イグニションコイルに通電して放電用エネルギーを蓄積し、燃焼サイクルの然るべきタイミングでイグニションコイルから燃焼室内に設けられた点火プラグの対向電極間に高電圧を印加して火花放電を発生することにより行われる。燃焼状態は車両の走行状態により絶えず変化しているため燃焼状態、特に異常燃焼を検出し、検出結果に基づいて点火プラグの点火時期や空気燃料比等を制御して燃焼状態を良好に保つことが行われている。燃焼状態の検出をする技術として、放電終了後に点火プラグの対向電極間に電圧を印加し対向電極間に流れる電流から燃焼イオンの量を検出するようにしたものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながらイグニションコイルに蓄積されるエネルギーは略一定であり、点火のための放電時間も常にほぼ等しい。このため放電終了時期が機関の回転数に応じて遅角し、高回転域において放電が例えば上死点(TDC)後まで続くこともある。このような場合、筒内圧がピークとなるタイミングの前後における燃焼イオンの挙動を精度よく検出できないおそれがある。このため上記制御に用いるには十分なものではなく、検出精度の高い燃焼状態の検出技術を利用した燃焼状態検出装置が望まれていた。
【0004】
そこで本発明では、内燃機関の回転数によらず安定して燃焼イオンの挙動を正確に検出して燃焼状態を解析することができ、しかも簡単な構成の燃焼状態検出装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明では、点火用電圧印加手段から放電可能な交流高電圧が印加される点火プラグの一対の対向電極に、放電可能電圧よりも低い交流電圧を印加せしめる測定用電圧印加手段を設ける。制御手段により放電が略一定のクランク角度になると終了し、その後測定用電圧印加手段が作動すると、電流検出手段より出力される電流信号から対向電極間に存在する燃焼イオンの量の増減を検出する燃焼イオン検出手段と、これより出力される燃焼イオン信号の挙動から燃焼状態を解析する燃焼状態解析手段とを設ける。
【0006】
放電が略一定のクランク角度に終了すると、その後測定用電圧印加手段が作動する。しかして機関の回転数に関係なく、燃焼イオンの検出可能な期間が安定化する。よって測定用の対向電極を別に設けない簡単な構成で、精度よく燃焼イオンの量の増減を知ることができる。また、上記点火用電圧印加手段が上記点火プラグの対向電極間に交流電圧を印加する構成とすることで、点火プラグの放電終了時期が容易に制御できる。
【0007】
放電終了時期は、請求項2記載の発明のように上死点に設定することで、燃焼室内の混合ガスへ確実に着火するとともに、筒内圧のピーク前後における燃焼状態の検出を精度よく行うことができる。
【0009】
請求項記載の発明では、上記点火用電圧印加手段と上記測定用電圧印加手段とは、直流電源が一次側巻線に接続され上記点火プラグの対向電極が二次側巻線に接続されたトランスと、直流電源からのトランスの一次側巻線への給電を断続せしめるスイッチング手段とを共用し、放電期間においては第1のスイッチング信号発生手段がスイッチング手段を高周波でオンオフ作動せしめてトランスの二次側電圧が放電可能電圧となるようにし、放電終了時期になると制御手段により第1のスイッチング信号発生手段から第2のスイッチング信号発生手段に切り換えられて第2のスイッチング信号発生手段がスイッチング手段を第1のスイッチング信号発生手段よりも高い周波数でオンオフ作動せしめてトランスの二次側電圧を放電可能電圧よりも低くする。
【0010】
点火用電圧印加手段と測定用電圧印加手段とで、トランスとスイッチング手段とが共用され、電圧値の切り換えが2つのスイッチング信号発生手段によりスイッチング手段の作動周波数を変更するだけでよいので、構成が一層簡単である。
【0011】
請求項記載の発明では、上記点火用電圧印加手段は、自励式の発振回路の発振出力を上記点火プラグの対向電極間に印加せしめるように構成し、放電期間においては高い供給電圧の電源から発振回路に給電して放電可能な電圧の発振出力を得、放電終了時期になると制御手段により低い供給電圧の電源から発振回路に給電して発振出力を放電可能な電圧よりも低くする。
【0012】
点火用電圧印加手段と測定用電圧印加手段とで発振回路が共用され、電圧値の切り換えが発振回路への供給電圧を変更するだけでよいので、構成が一層簡単である。
【0013】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
本発明の第1の燃焼状態検出装置を図1に示す。点火プラグ1は内燃機関の燃焼室に面して対向電極11、12が設けてあり、対向電極の一方11には点火用電圧印加手段2Aを構成するトランス22の二次側巻線22bが接続してある。一方、対向電極の他方12は、対向電極11、12に流れる電流を検出する電流検出手段たる検出抵抗4を介してトランス22の二次側巻線22bの他方の端子と接続してある。
【0014】
点火用電圧印加手段2Aは、トランス22の一次側巻線22aの中点に直流電源たるバッテリ21が接続されトランス22に給電するようになっている。一次側巻線22aの両端にはそれぞれにダイオード231,232とトランジスタ241,242とが直列に接続してあり、各トランジスタ241,242のエミッタは接地されている。
【0015】
トランジスタ241,242はNPNパワートランジスタで、バッテリ21のトランス22への給電を断続するもので、これらトランジスタ241,242のベースには第1のスイッチング信号発生手段26から制御用の信号が入力せしめてある。第1のスイッチング信号発生手段26は、第1の発振器261の出力信号がANDゲート回路2621および入力抵抗251を介して一方のトランジスタ241のベースに入力せしめてある。他方のトランジスタ242のベースには、第1の発振器261の出力信号が、インバータ回路263により反転してANDゲート回路2622および入力抵抗252を介して入力せしめてある。第1の発振器261は10kHz の矩形パルスを出力する無安定マルチバイブレータで、この周波数でトランジスタ241,242がオンオフするようになっている。各トランジスタ241,242のベースに入力する矩形パルスは互いに反転作動するから、トランジスタ241とトランジスタ242とは位相が180°ずれている。
【0016】
このようにプッシュプル接続されたトランジスタ241,242のオンオフにより、トランス22の二次側巻線22bには高電圧が発生する。ここでトランス22の二次側電圧は点火プラグ1の対向電極11,12間に放電が発生する電圧としてある。またトランス22は一次側巻線22aの巻数が5回程度のもので、自己インダクタンスを抑えている。
【0017】
ANDゲート回路2621,2622の他方の入力端子には制御手段たる放電期間制御部31から所定のタイミングで所定の長さの矩形信号が入力し、矩形信号が入力している期間中のみ第1の発振器261からの矩形パルスがトランジスタ241,242のベースに入力せしめてあり、上記期間中のみトランス22の二次側巻線22bに接続された点火プラグ1の対向電極11,12間に高電圧が印加され、放電可能としてある。
【0018】
各トランジスタ241,242の入力抵抗251,252には、それぞれ第1の発振器261が発する矩形パルスとは別の信号が第2のスイッチング信号発生手段27から入力するようになっている。第2のスイッチング信号発生手段27は、無安定マルチバイブレータである第2の発振器271の出力信号がANDゲート回路2721を介して一方のトランジスタ241の入力抵抗251に入力せしめてある。他方の入力抵抗252には、第2の発振器271の出力信号がインバータ回路273により反転してANDゲート回路2722を介して入力せしめてある。
【0019】
ANDゲート回路2721,2722の他方の入力端子には制御手段たる測定期間制御部32から所定のタイミングで所定の長さの矩形信号が入力し、矩形信号が入力している期間中のみ、第2の発振器271が発する矩形パルスが入力抵抗251,252を介してトランジスタ241,242のベースに入力するようになっている。測定期間制御部32は、その矩形信号の立ち上がりのタイミングが放電期間制御部31が発する矩形信号の立ち下がりとなるように設定してあり、立ち下がりのタイミングがATDC90°に設定されている。しかして放電期間制御部31の出力がHからLに変わるタイミングで第2の発振器271が発する矩形信号によりトランジスタ241,242が30kHz でプッシュプル作動し、トランス22の二次側巻線22bに電圧が誘起される。第2のスイッチング信号発生手段27は、入力抵抗251,252からトランス22までの構成を点火用電圧印加手段2Aと共用して測定用電圧印加手段2Bを構成している。
【0020】
トランス22は一般的なトランスのごとく高周波数側で出力電圧が低下する周波数特性を有する。トランス22はトランジスタ241,242の作動周波数が30kHz のとき、対向電極11,12間電圧は100〜500Vで、放電しないようにしてある。
【0021】
検出抵抗4は、トランス22の二次側巻線22b側が、燃焼イオン検出手段5Aを構成するサンプルホールド回路51の入力端子と結線され、検出抵抗4における電圧降下分が電流信号としてサンプルホールド回路51に入力するようになっている。
【0022】
燃焼イオン検出手段5Aは、サンプルホ−ルド回路51が第2の発振器271からANDゲート回路2721を介して矩形信号が入力するようにしてあり、矩形信号のHレベルからLレベルへの変化がトリガーとなって検出抵抗4から出力される電流信号をホールドするようになっている。サンプルホ−ルド回路51の出力は燃焼状態解析手段たる解析部6Aに入力するようにしてある。
【0023】
解析部6Aは、サンプルホ−ルド回路51の出力がピ−クホ−ルドモニタ61に入力せしめてある。ピ−クホ−ルドモニタ61は現在までの最大値をホールドし、ホ−ルド値が1燃焼サイクル開始時にはリセットするようにしてある。
【0024】
ピ−クホ−ルドモニタ61の出力は、これを二値判定する比較部62を構成するコンパレ−タ621の+入力端子に入力するようにしてある。コンパレ−タ621の−入力端子には可変抵抗器623が接続してある。可変抵抗器623は、可変抵抗器623におけるバッテリ622の電圧降下が、失火と認められる燃焼イオン電流のピ−ク値の下限値に相当するように予め調整してある。コンパレ−タ621の出力は判定部64に入力するようにしてある。
【0025】
解析部6Aにはまた、コンパレ−タ63が設けてあり、その+入力端子にサンプルホ−ルド回路51の出力が入力するようにしてある。コンパレ−タ63は−入力端子が燃焼イオン信号の0に対応する接地電圧としてある。コンパレ−タ63の出力は判定部64に入力するようにしてある。判定部64はコンピュータで構成され、これらの入力する信号に基づき燃焼状態を判定するものである。
【0026】
次に上記燃焼状態検出装置の作動を説明する。まず吸気管を経て燃焼室に導入される燃料と空気の混合ガスに着火するイグナイタとしての機能について説明する。
【0027】
点火プラグ1の火花放電期間はエンジンの運転状態により変化し、図略の制御用コンピュータにおいて開始時期および放電時間が演算され、放電期間制御部31が開始時期および放電時間を規定するHレベルの矩形信号を発する(図2の(A))。これにより第1の発振器261から出力される10kHz の矩形波信号(図2の(B))によりトランジスタ241,242がオンオフ作動を開始する。
【0028】
点火プラグ1の対向電極11,12間には、放電開始時の容量放電(ブレークダウン、図2の(E)中、矢印)後、10kHz の交流の高電圧による放電が行われる(図2の(E))。
【0029】
ここで放電開始時期および放電時間の設定について説明する。放電開始時期は、例えばエンジン回転数600(rpm)のアイドリング時においてはBTDC60°とする。また低負荷時、エンジン回転数1500(rpm)、吸気負圧300(mmHg )においてはBTDC40°とする。中負荷時、エンジン回転数2000(rpm)、吸気負圧200(mmHg )においてはBTDC25°とする。
【0030】
また高負荷時においては、出力重視のためエンジンは、混合ガスの濃度が高くEGR量も減らして運転されている。かかる条件下では放電開始と同時に点火がされるので、放電開始時期を必要以上に進角すると、ノッキングを生じ運転不能となるおそれがある。そこで高負荷時は、例えばエンジン回転数1000(rpm)においてBTDC5°とする。エンジン回転数2000(rpm)においてBTDC10°とする。エンジン回転数3000(rpm)においてBTDC25°とする。
【0031】
図3は放電時間ATと失火率MRの関係を示すもので、aが低負荷時、bが中負荷時、cが高負荷時のものである。低負荷側ほど失火率は高いが、低負荷時においても放電時間ATを10msとすれば5%以下にでき、エンジンが安定して運転を維持できる。そこで確実な点火が行えるように制御用コンピュータに最適放電開始時期、必要最小限の放電時間をマップとして記憶しておき、エンジン回転数、吸気負圧に応じて最適放電開始時期、必要最小限の放電時間を放電期間制御部31に出力する。放電期間制御部31は、これら放電開始時期および放電時間に基づいて矩形信号を出力するが、矩形信号の立ち上がりは放電開始時期に、立ち下がりはクランク角センサよりTDCを検知してTDCとなるように設定する。
【0032】
図4、図5、図6は設定された放電期間の一例を示すもので、それぞれ低負荷時、中負荷時、高負荷時の場合を示している。また同じ条件下におけるイグニションコイルによる直流電圧印加方式の点火装置の放電期間を併せて示す。なお図中、ACA点火は本実施形態を示し、普通点火は直流電圧印加方式の点火装置を示す。本実施形態は交流電圧による連続放電のため、イグニションコイルによる直流電圧印加方式の普通点火に比して進角の自由度が大きく、特に低負荷域において高い燃費を実現することができる。また進角しても確実な着火が行われるのでTDCで放電期間を終了しても問題は生じない。また燃焼室温度が高くなるTDC以後に放電しないので点火プラグの電極の消耗が抑えられる。
【0033】
なお高圧縮比化等によって放電開始時期の遅角化の進んだ近年のエンジンでは、放電終了時期をTDCに固定するのでは着火が困難になる。このようなエンジンでは、放電終了時期をTDC後として着火に必要な放電時間を確保する。例えば着火に必要な放電時間は1.5ms程度であるから、アイドリング時のエンジン回転数を600rpmとすればこれをクランク角度に換算すると5.4°CAとなる。そこで放電開始時期が例えばBTDC5°以降となる場合には放電終了時期を放電時間が1.5msとなるように設定する。なお放電期間をこのように設定することにより、アイドリング時に放電終了時期がTDC以降となる場合があるが、アイドリング時には燃焼速度が遅いため、TDC後に燃焼イオンの測定が開始されても検出される燃焼イオンの増減の挙動が正確さを損ねるということはない。
【0034】
放電期間制御部31の出力がHレベルからLレベルに変化し(図2の(B))、測定期間制御部32から矩形信号が出力され(図2の(C))、第2の発振器271より出力される30kHz の矩形波信号によりトランジスタ241,242がオンオフ作動し(図2の(D))、トランス22の二次側巻線22bに、電磁誘導により矩形波信号と同じ周波数で、点火プラグ1の対向電極11,12間に放電が生じないレベルの低い電圧の交流電圧が印加される(図2の(E))。トランス22は一次側巻線22aの巻数を少なくして自己インダクタンスが抑えてあるから、印加電圧の切り換えすなわち放電から測定への移行は即座に行われる。
【0035】
次に燃焼状態検出機能について説明する。図7の(A)は第1の発振器271が出力する矩形波信号を示すもので、図7の(B)は電極11,12間に印加する交流電圧を示すものである。交流電圧はトランジスタ241,242やトランス22、これらの実装状態における浮遊容量により、矩形波信号とくらべ波形がなまり100〜500V程度の正弦波となる。この正弦波は位相が矩形波信号に対し約90°遅れる。
【0036】
印加された交流電圧により対向電極11、12に電流が流れる。図7(C)は上記電流のうち容量電流成分を示すもので、上記交流電圧の時間微分に比例した電流となるから交流電圧の周波数が高いほど振幅が大きくなる。また容量電流成分は燃焼イオンの量によらず振幅と交流電圧に対する位相が一定で、トリガーたる上記矩形波信号のHレベルからLレベルへの変化が起きる位相で0となる。図7の(D)は、対向電極11,12間に存在する燃焼イオンにより流れる燃焼イオン電流成分を示すもので、実線は燃焼イオンが多い場合を示し、破線は燃焼イオンが少ない場合を示している(以下のタイムチャ−トについても同様とする。)。燃焼イオン電流が正側に比べ負側に微小電流しか流れていないのはマイナスの燃焼イオンがプラスの燃焼イオンよりはるかに存在量が少ないためと認められる。燃焼イオン電流は、振幅が対向電極11,12間に存在してキャリアとなる燃焼イオンの量に比例するとともに、上記交流電圧と同位相で振動し、上記矩形波信号がHレベルからLレベルに変化する位相で最大となる。
【0037】
容量電流と燃焼イオン電流の和が対向電極11、12を流れる電流である。図7の(E)は、上記電流を示すもので、燃焼イオンの量が多い場合と少ない場合とで波形が異なるものとなる。電流は検出抵抗4における電圧降下として検出され、電流信号としてサンプルホールド回路51に入力する。サンプルホ−ルド回路51は上記発振器信号がHレベルからLレベルへ変化する時に入力した信号をホ−ルドする。検出抵抗4で検出される電流は同一位相では容量電流成分の大きさが一定で、1周期中では上記発振器信号がHレベルからLレベルへ変化する時に容量電流が0で燃焼イオン電流が正側に流れる時のピ−ク値と等しい。サンプルホ−ルド回路41がホ−ルドした信号は、発振器271から出力される矩形波信号がHレベルからLレベルへ変化する時に入力した信号であるから上記交流電圧による周期的な変化を伴わず、また容量電流成分も含まない燃焼イオン電流のピ−ク値となる。しかして燃焼イオン電流が効率よく抽出される。
【0038】
次に解析部6Aの作動を説明する。図8(A)は1燃焼サイクル中の燃焼室の筒内圧の経時変化を示すもので、実線は正常燃焼を示し、破線は吹き消えを示している(図8(B)、図8(C)において同じ)。いずれの燃焼も筒内圧は、点火後上昇し最大値となった後は減衰するという傾向は同じであるが正常燃焼と比較すると、吹き消えをする場合では燃焼が拡大する途中で減衰、失火するため、筒内圧は正常燃焼よりも速く減衰に転じる。
【0039】
図8(B)は上記燃焼サイクル中における燃焼イオン電流の経時変化を示すもので、交流電圧を印加した電流であるから一定の周期で振動している。上記のとおりサンプルホ−ルド回路51(図1)の出力は上記交流電圧による周期的な変化を伴わず、容量電流成分も含まない燃焼イオンの量のみで増減する燃焼イオン電流のピ−ク値である。
【0040】
図8(C)は燃焼の減衰期における燃焼イオン電流ピ−ク値の経時変化の様子を示すものである。完全失火の場合には燃焼が起きないので、燃焼イオン電流ピ−ク値は実質的に0である。ピークホールドモニタ61より出力される燃焼イオン電流ピ−ク値の最大値Ip が、可変抵抗器623により設定される下限値Irより小さければコンパレータ621はLレベルを出力し、判定部64が完全失火と判定する。吹き消えの場合には正常燃焼に比べて点火から消火するまでの減衰期間TR が短い。判定部64はコンパレータ63がHレベルからLレベルに変わるまでの時間をカウントして減衰期間TR を得、これが正常な燃焼と認められる減衰期間の下限値Tr より短かければ吹き消えと判定する。
【0041】
このように本発明では機関回転数によらず、略一定のクランク角度以降の燃焼状態が検出されるから、測定用の対向電極を別に設けることなく、精度よく燃焼イオンの量の増減を知り、正確に燃焼状態を判断することができる。
【0042】
(第2実施形態)
本発明の第2の燃焼状態検出装置の一部を図9に示す。図9の燃焼状態検出装置は図1に示した燃焼状態検出装置において、燃焼イオン検出手段5Aを別の構成の燃焼イオン検出手段5Bに代え、別の燃焼イオン信号を出力するようにしたものであり、また解析部6Aを解析部6Bに代え、ノッキングを検出するようにしたものである。なお第1実施形態と実質的に同じ要素については図1と同一番号を付し、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0043】
燃焼イオン検出手段5Bは、検出抵抗4の電圧降下として出力する電流信号がコンパレータ52を介して積分回路53に入力するようにしてある。積分回路53を構成するコンデンサ531の両端子間にはアナログスイッチ56が設けてあり、積分回路53の積分区間を与えるリセット信号を出力するようになっている。アナログスイッチ56には、これを作動せしめる第3の発振器54がカウンタ55を介して入力するようにしてある。また積分回路53の出力は反転回路57に入力せしめてある。反転回路57の出力はサンプルホ−ルド回路58に入力せしめてあり、サンプルホールド回路58はコンパレ−タ52の出力がHレベルからLレベルに変化すると反転回路57の出力のホ−ルド値を更新するようになっている。
【0044】
サンプルホ−ルド回路58の出力は燃焼イオン信号として、解析部6Bを構成するバンドパスフィルタ65に入力せしめてある。バンドパスフィルタ65は出力がノッキング振幅の最大値を検出するピ−クホ−ルドモニタ66に入力するようにしてあり、ピ−クホ−ルドモニタ66はバンドパスフィルタ65の出力の最大値を更新し、そのホ−ルド値が1燃焼サイクル開始時にリセットするようにしてある。ピ−クホ−ルドモニタ66の出力は判定部67に入力するようにしてある。
【0045】
本燃焼状態検出装置の作動を説明する。先ず、燃焼イオン検出手段5Bの作動を図9と、図10のタイムチャ−トにより説明する。
【0046】
図略の第1の発振器から図10の(A)に示す矩形波信号が発せられると第1実施形態のごとく図10(D)に示す燃焼イオン電流が流れる。実線は燃焼イオンが多量に発生している場合を示し、破線は燃焼イオンが少ない場合を示している(以下のタイムチャ−トについても同様とする)。図略の対向電極には図10の(E)に示す電流が流れる。検出抵抗4には、電流信号として上記電流に比例した電圧降下が発生する。燃焼イオン電流は負側には僅かしか出力されないから、検出抵抗4で検出される電流は、正値を出力している期間が燃焼イオン電流に応じて大きく変化する。本実施形態は電流が正値をとる時間(以下、位相差という)を燃焼イオン信号とするものである。検出抵抗4の電圧降下である電流信号が、コンパレ−タ52の+入力端子に入力する。コンパレ−タ52は−入力端子が接地電位としてあるから上記+入力端子に入力する電流信号が正の時にHレベルを出力する。図10の(F)はコンパレ−タ52の出力を示すもので、Hレベルを出力している期間が上記位相差と等しい。
【0047】
コンパレ−タ52の出力は、積分回路53に入力し、積分回路53はコンパレ−タ52のHレベル信号を積分する。アナログスイッチ56が積分回路53を構成するコンデンサ531をリセットすると積分回路53の出力は0となる。図10の(H)は第3の発振器54の出力を示すもので、周波数300kHz の矩形波を発生する。図10の(I)はカウンタ55の出力を示すもので、コンパレ−タ52の出力がLレベルの間、カウンタ55は第3の発振器54の3パルス毎に1パルスのHレベル信号を発し、上記アナログスイッチ56を作動する。
【0048】
しかして積分回路53はコンパレ−タ52がHレベルを出力している時間に比例した負値の鋸波信号を出力する。該鋸波信号を反転回路57が符号を反転し正値とする。図10の(J)は反転回路57の出力を示すもので、波高値が位相差に比例する。コンパレ−タ52がHレベルからLレベルに変化するタイミングに、反転回路57の出力を、サンプルホ−ルド回路58がホ−ルドし燃焼イオン信号として出力する。図10の(K)はサンプルホ−ルド回路58の出力を示すもので,燃焼イオン電流の増加(図10の(D))により検出抵抗4で検出される電流が正から負に変化するタイミングの時間遅れるに比例して増加する。
【0049】
次に、解析部6Bの作動を説明する。図11(A)は燃焼室における筒内圧とクランク角の関係を示すもので,クランク角が進むと筒内圧は上昇してその後一転して減少する傾向を示す。図11(B)は上記サンプルホ−ルド回路58の出力すなわち上記位相差とクランク角との関係を示すもので、筒内圧と同様にクランク角が進むと位相差は上昇してその後一転して減少する傾向を示す。このように筒内圧と位相差の間には対応関係が認められる。図11(A)に示されるようにノッキングによる異常振動が筒内圧が高くなるクランク角で発生していれば、同時に燃焼イオン電流もノッキングによる異常振動が生じており、図11(B)に示されるように上記位相差が異常振動する。
【0050】
このノッキングによる位相差の異常振動は数kHz の周波数域に集中しており、該周波数域の振動をサンプルホ−ルド回路58の出力からバンドパスフィルタ65が分離する。図11(C)はバンドパスフィルタ65の出力を示すもので、バンドパスフィルタ65はノッキング振動成分のみ通過し数kHz の周波数以外の振動成分と直流成分を除去する。バンドパスフィルタ65を通過したノッキング振動成分はピ−クホ−ルドモニタ66に入力し、ピ−クホ−ルドモニタ66は点火時からのノッキング振動の最大値すなわちノッキング振動の振幅の最大値を更新または保持する。燃焼サイクル終了時には1燃焼サイクル中におけるノッキング振動の振幅の最大値(図例ではP2)が判定部67に入力し、判定部67は、入力する上記最大値の大きさからノッキングの強さを判定する。
【0051】
なお第2の発振器271の周波数は30kHz に限定されるものではないが、ノッキング時の周波数が数kHz であることから10数kHz 以上であることが望ましい。
【0052】
(第3実施形態)
点火用電圧印加手段、測定用電圧印加手段、制御手段は、上記各実施形態とは別の構成とすることもできる。図12に本発明の第3の実施形態を示す。点火プラグ1の一方の電極11は、発振回路たる圧電式高周波発振部71から電圧が印加される構成としてある。圧電式高周波発振部71に給電する電源部72は、電圧の異なる一対の電源721,722からなり、電圧の高い方721が点火用で、低い方722が測定用である。これら電源721,722と圧電式高周波発振部71間には切り換えスイッチ73が介設してある。切り換えスイッチ73は制御手段たる制御用コンピュータ74により制御される。
【0053】
制御用コンピュータ74は基本的に第1実施形態の制御用コンピュータと同じもので、放電期間および測定期間を決定し、所定のタイミングで切り換えスイッチ73を点火用電源721側と測定用電源722側のいずれかに切り換えるものである。圧電式高周波発振部71と点火用電源721とで点火用電圧印加手段7Aを構成し、圧電式高周波発振部71と測定用電源722とで測定用電圧印加手段7Bを構成する。
【0054】
圧電式高周波発振部71は切り換えスイッチ73からの電源電圧を入力として100回巻程度の小型の巻線トランス711が設けてある。巻線トランス711の一次側巻線711aは一方の端子が切り換えスイッチ73と接続してあり、他方の端子がトランジスタ712を介して接地してある。
【0055】
巻線トランス711の二次側巻線711bは一方の端子が、検出抵抗4の一端に接続され、端子の出力電圧が電流信号として図略のサンプルホールド回路に出力される。二次側巻線711bは他方の端子が直列に接続した圧電素子714,715を介してトランジスタ712のベースにフィードバックしている。トランジスタ712のベースと切り換えスイッチ73間には抵抗713が介設してある。
【0056】
圧電素子714,715はチタン酸鉛系の圧電式振動子で、振動部を円柱形状に成形してその両端面に銀電極を焼き付けたものである。まったく同一の組成および形状とすることにより略同じ共振特性としている。圧電素子714,715の接続中点には点火プラグ1の一方の電極11が接続してある。
【0057】
上記回路構成において、切り換えスイッチ73が何れかの電源721,722と圧電式高周波発振部71とを接続すると、その際に生じるトランジスタ712のベース電圧の微小な変動によりトランジスタ712のコレクタ−エミッタ間が導通し、巻線トランス711の一次側巻線711aへ通電する。これにより巻線トランス711の二次側巻線711bには相互誘導作用による電圧が誘起される。この誘起電圧が圧電素子714に印加されると圧電素子714は伸縮し、伸縮に対する圧電効果によりその両端面電極7141,7142にそれぞれ符号の異なる同量の電荷が発生する。
【0058】
ここで点火プラグ1は浮遊容量を有しているが、値が小さいので、Q=CV(Q:電荷、C:静電容量、V:電圧)の関係より電極11,12間に点火用の高電圧が得られる。
【0059】
このとき圧電素子715も上記高電圧により同時に伸縮しているが、伸縮により両端面電極7151,7152に発生する電荷は互いに逆極性となる。すなわち端面電極7151と端面電極7152とでは電圧が180度位相がずれ、電極7151が正のとき電極7152は負である。
【0060】
また圧電素子715の電極7152は静電容量の大きな電源72に結線されているから逆相の電圧によりトランジスタ712が非導通となる。これにより巻線トランス711の一次側巻線711aの通電が遮断し、二次側巻線711bには上記の場合と逆の極性の電圧が誘起され、この誘起電圧により、圧電素子714の両端面電極7141,7142には上記の場合とは逆の符号の電荷が帯電する。しかして圧電素子714の電極7142電圧は反転し負となる。また圧電素子715の端面電極7152電圧は反転し正となり、トランジスタ712のベース側電圧がトランジスタ712をスイッチングするレベルとなり、この電圧レベルにより抵抗713からのベース電流が制御され、トランジスタ712が再び導通する。
【0061】
このように巻線トランス711の二次側の出力をトランジスタ712に帰還せしめることにより上記動作が交互に繰り返され、圧電素子714,715の共振周波数を発振周波数とする自励発振回路が成立する。圧電素子714,715の接続中点には高周波交流電圧が発生し、点火プラグ1の電極11,12間に印加される。このとき圧電式高周波発振部71に給電する電源が点火用電源721のときは電極11,12間電圧が放電可能電圧となるように、また測定用電源722のときは電極11,12間電圧が放電可能電圧未満となるように巻線トランス711の巻線比、圧電素子714,715の仕様等を設定しておく。
【0062】
制御用コンピュータ74は第1実施形態と同様に放電開始時期になると切り換えスイッチ73を制御して点火用電源721と圧電式高周波発振部71とを接続する。点火プラグ1の電極11,12間に高周波の放電可能な高電圧が印加され点火プラグ1の対向電極11,12間の放電により混合ガスに着火する。TDCになると制御用コンピュータ74は切り換えスイッチ73を測定用電源722側に切り換える。放電可能電圧よりも低い高周波電圧が点火プラグ1の電極11,12間に印加され、検出抵抗4により燃焼イオンの量に応じた電流が検出される。ATDC90°になると制御用コンピュータ74は切り換えスイッチ73を制御して電源721,722を圧電式高周波発振部71から切り離す。
【0063】
また検出抵抗4から燃焼イオン電流を抽出するには、第1、第2実施形態の構成が基本的に用いられ得る。例えば第1実施形態のごとくサンプルホールド回路により検出抵抗4の出力電圧をトランジスタ712のオンオフに基づいて圧電素子714,715の振動周期の所定の位相でホールドすればよい。
【0064】
なお上記各実施形態では放電終了時期をTDCに設定したが必ずしもこれに限定されるものではない。放電終了時期は、要求される精度に応じて燃焼状態の解析に必要な測定期間が得られるように適宜設定し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の燃焼状態検出装置の回路図である。
【図2】本発明の第1の燃焼状態検出装置の作動を説明する第1のタイムチャートである。
【図3】本発明の第1の燃焼状態検出装置の作動を説明する第1のグラフである。
【図4】本発明の第1の燃焼状態検出装置の作動を説明する第2のグラフである。
【図5】本発明の第1の燃焼状態検出装置の作動を説明する第3のグラフである。
【図6】本発明の第1の燃焼状態検出装置の作動を説明する第4のグラフである。
【図7】本発明の第1の燃焼状態検出装置の作動を説明する第2のタイムチャートである。
【図8】(A),(B),(C)は本発明の第1の燃焼状態検出装置の作動を説明する第5,第6,第7のグラフである。
【図9】本発明の第2の燃焼状態検出装置の部分回路図である。
【図10】本発明の第2の燃焼状態検出装置の作動を説明するタイムチャートである。
【図11】(A),(B),(C)はそれぞれ本発明の第2の燃焼状態検出装置の作動を説明するグラフである。
【図12】本発明の第3の燃焼状態検出装置の部分回路図である。
【符号の説明】
1 点火プラグ
11,12 対向電極
2A 点火用電圧印加手段
2B 測定用電圧印加手段
21 電源
22 トランス
241,242 トランジスタ(スイッチング手段)
26 第1のスイッチング信号発生手段
27 第2のスイッチング信号発生手段
31 放電期間制御部(制御手段)
32 測定期間制御部(制御手段)
4 検出抵抗(電流検出手段)
5A,5B 燃焼イオン検出手段
6A,6B 解析部(燃焼状態解析手段)
7A 点火用電圧印加手段
7B 測定用電圧印加手段
71 圧電式高周波発振部(発振回路)
721,722 電源
73 切り換えスイッチ(切り換え手段)
74 制御用コンピュータ(制御手段)

Claims (4)

  1. 内燃機関の燃焼室内に面して一対の対向電極が設けられた点火プラグと、対向電極間に放電が可能な交流高電圧を印加して放電を発生させる点火用電圧印加手段と、対向電極間に放電可能電圧よりも低い交流電圧を印加する測定用電圧印加手段と、上記対向電極を流れる電流を検出し電流信号を出力する電流検出手段と、上記電流信号から上記対向電極間に存在する燃焼イオンの量の増減を検出してこれに対応した燃焼イオン信号を出力する燃焼イオン検出手段と、燃焼イオン信号の挙動から燃焼状態を解析する燃焼状態解析手段と、点火プラグの対向電極間の放電をクランク角度で略一定の時期に終了してその後測定用電圧印加手段を作動せしめる制御手段とを具備する燃焼状態検出装置。
  2. 請求項1記載の燃焼状態検出装置において、上記制御手段は、放電終了時期をクランク角度の上死点に設定した燃焼状態検出装置。
  3. 請求項1または2記載の燃焼状態検出装置において、上記点火用電圧印加手段は、直流電源が一次側巻線に接続され上記点火プラグの対向電極が二次側巻線に接続されたトランスと、直流電源からのトランスの一次側巻線への給電を断続せしめるスイッチング手段と、スイッチング手段を高周波でオンオフ作動せしめる第1のスイッチング信号発生手段とで構成し、上記測定用電圧印加手段は、点火用電圧印加手段と共用する上記トランスおよび上記スイッチング手段と、スイッチング手段を第1のスイッチング信号発生手段よりも高い周波数でオンオフ作動せしめる第2のスイッチング信号発生手段とで構成するとともに、第1のスイッチング信号発生手段のオンオフ周波数をトランスの二次側電圧が放電可能電圧となるように設定し、第2のスイッチング信号発生手段のオンオフ周波数をトランスの二次側電圧が放電可能電圧よりも低くなるように第1のスイッチング信号発生手段のオンオフ周波数よりも高く設定し、かつ上記制御手段は、放電終了時期になると第2のスイッチング信号発生手段により上記スイッチング手段がオンオフ作動するように設定した燃焼状態検出装置。
  4. 請求項1または2記載の燃焼状態検出装置において、上記点火用電圧印加手段は、自励式の発振回路であってその発振出力を上記点火プラグの対向電極間に印加せしめる発振回路と、発振回路への供給電圧が異なる一対の発振回路用の電源と、電源をいずれかに切り換える切り換え手段とで構成するとともに、上記一対の電源は、一方の供給電圧を発振出力が放電可能電圧となるように設定し、他方の供給電圧を発振出力が放電可能電圧未満となるように設定し、かつ上記制御手段は、放電終了時期になると電圧の低い電源に切り換えるように設定した燃焼状態検出装置。
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