JP3761355B2 - 圧電磁器組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電磁器組成物に係り、特に高い圧電歪定数を持ち、耐久性、粒界強度が優れた圧電アクチュエータを構成するのに好適な圧電磁器組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、この種の用途に用いられる圧電磁器組成物としては、PbTiO3 −PbZrO3 系の組成物が知られている。例えばPbTiO3 −PbZrO3 系材料にSb2 5 、Nb2 5 、WO3 などを添加したもの、PbTiO3 −PbZrO3 系材料のPbの一部をBa、Sr、Ca、Laで置換したものや、第三成分としてPb(Ni1/3 Nb2/3 )O3 、Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 などの複合ペロブスカイト化合物を固溶させたものが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
例えば、圧電アクチュエータ用(以下単にアクチュエータと称する)に圧電磁器組成物を用いる場合には、特性として高い圧電歪定数(例えば、長辺方向伸び振動モードの圧電歪定数(d31)が200×10-12 m/v以上)を持ち、機械的品質係数(Qm)が低い(例えば100以下)ことが要求される。
【0004】
一般に高い圧電歪定数を持つ磁器組成物はキュリー温度(Tc)が低く(Tc<230℃)なるという特徴がある。例えば従来より知られている長辺方向伸び振動モードの圧電歪定数(d31)が200×10-12 m/vを超えるような圧電磁器組成物はキュリー温度が200℃前後になり、150℃〜200℃に達するような環境では圧電特性が急激に低下し実用できないということがあった。また圧電歪定数(d31)が高く、機械的品質係数(Qm)が低く、キュリー温度が比較的高い圧電磁器組成物も知られているが、これらをアクチュエータとして150℃前後の温度で使用した場合変位劣化が大きいという問題があった。
【0005】
また、従来より知られている圧電歪定数が高い(d31≧200×10-12 m/v)圧電磁器組成物を積層型のアクチュエータ用に用いる場合、粒子径が大きく、層間が薄い(例えば10μm以下)積層体を構成することが困難であるという問題があった。さらに粒界強度が弱く、アクチュエータの加工時に割れ・カケ不良が発生し易く、アクチュエータ駆動時にもクラックが入り易いという問題があった。
【0006】
したがって本発明では、これらの問題を解決すべく、長辺方向伸び振動モードの圧電歪定数(d31)が200×10-12 m/vを超え、キュリー温度が十分に高く、アクチュエータとしての変位の劣化が少なく、さらに粒界強度が強い素子が得られる圧電磁器組成物を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明では、Pbx〔(Co1/3 Nb2/3 )a Tib Zr1−a−b〕O3 (但し、0.98≦x≦0.999、0.01≦a≦0.03、0.43≦b≦0.49)を主成分とし、主成分1モルの重量に対し、副成分としてW、Sb、Nb、Taのうち少なくとも一種をWO3 、Sb2 3 、Nb2 5 、Ta2 5 に換算して0.1〜1.2重量%添加し、さらに副成分としてSiをSiO2 に換算して0.01〜0.1重量%添加した圧電磁器組成物及び、Pbx〔(Co1/3 Nb2/3 )a Tib Zr1−a−b〕O3 (但し、0.98≦x≦0.999、0.01≦a≦0.03、0.41≦b≦0.48)を主成分とし、Pbの一部をSr、Baのうち少なくとも一種で0.01〜0.06mol置換し、主成分1モルの重量に対し、副成分としてW、Sb、Nb、Taのうち少なくとも一種をWO3 、Sb2 3 、Nb2 5 、Ta2 5 に換算して0.1〜1.2重量%添加し、さらに副成分としてSiをSiO2 に換算して0.01〜0.1重量%添加した圧電磁器組成物を提供するものである。
【0008】
この構成によりキュリー温度が十分に高く、長辺方向伸び振動モードの圧電歪定数(d31)が200×10-12 m/vを超える圧電磁器が得られ、150℃前後の温度での使用に問題がなく、加工時のクラックやカケが少ないアクチュエータを作製することが可能となる。
【0009】
チタン酸ジルコン酸鉛に第三成分としてPb(Co1/3 Nb2/3 )O3 を添加することにより、構成したアクチュエータを高温(150℃前後)での使用した場合の劣化を少なくすることができる。
【0010】
また副成分としてW、Sb、Nb、Taのうち少なくとも一種をWO3 、Sb2 3 、Nb2 5 、Ta2 5 に換算して主成分1モルの重量に対し0.1〜1.2重量%添加することにより圧電歪定数を大きくすることができ、焼成後の粒子径をより小さくすることが可能となる。
【0011】
さらに副成分としてSiをSiO2 に換算して主成分1モルの重量に対し0.01〜0.1重量%添加することにより、圧電磁器内の粒子間の結合力を大きくすることができ、その結果加工時のクラックやカケを少なくし、アクチュエータを構成した場合の駆動時のクラック発生を少なくすることが可能となる。
【0012】
Pbの一部をSr、Baのうちの少なくとも一種で0.01〜0.06mol置換することにより、前述の利点を損なうことなく、更に圧電歪定数を高くすることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例について説明する。出発原料として化学的に純粋なPbO、TiO2 、ZrO2 、CoO、Nb2 5 、Sb2 3 、Ta2 5 、WO3 、BaCO3 、SrCO3 を用い、焼成後の成分が表1、表2に示す所定の組成になるように秤量し、ボールミルにて湿式混合を行った。それから混合粉を空気中850℃〜950℃で仮焼成した後、ボールミルにて湿式粉砕した。
【0014】
次に、このようにして得られた粉体に有機バインダーを加え造粒を行い、2000kg/cm2 の圧力にて成形した。この成形体を空気雰囲気中で1100℃〜1240℃の温度で焼成した。
【0015】
このようにして得られた焼結体を厚さ1mmに研磨した後、得られた素子の両端に銀の焼付電極を形成後、縦横12×3mmの矩形に加工し、80℃〜150℃の絶縁油中で、電圧2kv/mm〜3kv/mm、30分の条件で分極処理を行った。
【0016】
そして得られた評価用素子をインピーダンスアナライザーにより素子静電容量(c)、共振周波数(fr)、反共振周波数(fa)を測定した。この測定結果をもとに電圧歪定数(d31)、機械的品質係数(Qm)を計算により求めた。以上の方法で得られた結果を表1、表2に示す。
【0017】
キュリー温度については熱分析装置を用いて測定を行った。
【0018】
また圧電磁器基板の粒子や破断面の状態を走査型電子顕微鏡にて観察した。
【0019】
高温による変位の劣化度の測定としては積層型アクチュエータ(層間20μm−20層−縦横15×2.5mm)を作製し、150℃の温度で層間厚みに対し2kv/mmになる直流矩形波を印加する高温負荷試験を行った。そして試験前と250時間連続試験後の素子の変位を変位計にて測定し、その差より変位の変化率を測定した。結果を表1、表2に示した。この値がゼロに近い程素子の耐久性が良いと判断できる。なお表1、表2において*印は本発明の範囲外の比較例である。また表1、表2においてc=1−a−bである。
【0020】
【表1】
Figure 0003761355
【0021】
Figure 0003761355
【0022】
本発明における各数値限定は下記の理由によるものである。
【0023】
xが0.98より小さくなると、圧電歪定数(d31)が所望よりも小さくなり、高温負荷試験後の変位の変化率も大きくなる(試料No.1、27参照)。
【0024】
ところで図1は、図1におけるA、B
A:Pbx〔(Co1/3 Nb2/3 0.015 Ti0.47Zr0.515 〕O3 +Sb2 3 0.6wt%+SiO2 0.05wt%
B:(PbxSr0.03)〔(Co1/3 Nb2/3 0.015 Ti0.46Zr0.525 〕O3 +Sb2 3 0.6wt%+SiO2 0.05wt%
の組成の圧電磁器組成物において、その値を変化させた場合の3点曲げ強度試験の結果を示す。図1より明らかなように、xが0.98〜0.999の場合は、いずれも3点曲げ強度が12(kgf/mm2 )より大きな値を示し、xが0.98よりも小さくなる場合及びxが0.999よりも大きくなる場合は強度が低下することがわかる。
【0025】
aが0.01よりも小さい場合変位変化率が大きくなり、高温負荷による変位劣化防止の効果が得られない(試料No.5、31参照)。
【0026】
逆にaが0.03よりも大きい場合、機械的品質係数(Qm)が大きくなり、また圧電歪定数も小さくなる(試料No.8、34参照)。
【0027】
Ba、Srのうちの一種も含まない場合において、bが0.43より小さくなると、圧電歪定数が小さくなり、機械的品質係数も大きくなり(試料No.23参照)、同じくbが0.49よりも大きくなると、これまた圧電歪定数が小さくなり、機械的品質係数も大きくなる(試料No.26参照)。
【0028】
Ba、Srのうちの少なくとも一種を含む場合において、bが0.41より小さくなると、圧電歪定数が小さくなり、機械的品質係数も大きくなり(試料No.56参照)、同じくbが0.48よりも大きくなると、これまた圧電歪定数が小さくなり、機械的品質係数も大きくなる(試料No.59参照)。
【0029】
また、副成分の含有量が主成分1モルに対してW、Sb、Nb、Taのうち少なくとも一種がWO3 、Sb2 3 、Nb2 5 、Ta2 5 に換算して0.1重量%未満の場合は圧電歪定数が小さくなり(試料No.9、35参照)、逆に1.2重量%を超える場合は圧電歪定数が小さくなり高温負荷試験後の変位の劣化が大きくなる(試料No.12、38参照)。
【0030】
図2は本発明の実施例である試料No.11の研磨面をエッチング処理した電子顕微鏡写真であり、図3は比較例である試料No.9を同様に観察した電子顕微鏡写真である。
【0031】
本発明の実施例を示す図2における粒径が比較例を示す図3に比べ半分以下であり、また実施例の粒子の大きさも比較例に比べ均一になっていることが分かる。この比較から、本発明における副成分を添加することによる粒子系の微細化・均一化効果は明らかである。
【0032】
またPbの一部をBa、Srの少なくとも一種で置換した場合も、同様の効果が得られる。
【0033】
図4は本発明の実施例である試料No.15の素子破断面の電子顕微鏡写真、図5は比較例として試料No.15のSiO2 添加量をゼロとし、本発明の実施例と同様の手法で作製した素子の破断面の電子顕微鏡写真である。
【0034】
副成分であるSiO2 が存在する場合の、本発明の実施例に対する図4の場合では、破断面に粒子の形がほとんど見られず、粒子内で破断していることがわかる。これは粒子同士の結合力が強いことを意味している。
【0035】
一方、比較例である、副成分としてSiO2 を添加していない図5の場合では、粒子の形がはっきりしており、破断が粒界で起こっていることがわかる。これは粒子間の結合力が弱いことを意味している。このように図4と図5との比較により副成分のSiO2 の添加効果は明らかである。
【0036】
またPbの一部をBa、Srの少なくとも一種で置換した場合も同様の効果が得られる。
【0037】
副成分としてSiをSiO2 に換算して0.01〜0.1重量%に限定したのは、0.01重量%未満では粒子間の結合力が強いという本発明の効果がなく(図4、図5参照)、また0.1重量%を超えると圧電歪定数が200×10-12 m/v以下と小さくなり、高温負荷試験後の変位劣化も大きくなる(絶対値で2.0%を超えると信頼性が悪い)ためである(試料No.14、40参照)。
【0038】
ところでPbの一部をBa、Srの少なくとも一種で置換する場合、その量が0.01molより少ない場合は圧電歪定数を大きくする効果が得られず(試料No.44、45を比較参照することにより、No.44にSrを0.01mol添加したときに圧電歪定数が200→235(×10-12 m/v)に向上することがわかる)、焼成時のPb蒸発量を減らす効果も得られない。
【0039】
また0.06molを超えると高温負荷試験後の変位劣化が大きくなる(試料No.47参照)。
【0040】
熱分析装置による測定により、本実施例の圧電磁器組成物はすべて280℃以上のキュリー温度を有することがわかった。
【0041】
このような理由により特許請求の範囲の請求項1、2の数値範囲を限定した。
【0042】
このように本発明では、高い圧電歪定数(d31)を持ち、機械的品質係数(Qm)が低く、劣化が少なく、粒子径が微細・均一でかつ粒界強度が強く、キュリー温度の高い圧電磁器組成物が得られる。
【0043】
これらのことより、本発明によれば、高い圧電歪定数を持ち、高温での変位の耐久性がよく、粒子系が均一で粒界強度が強く、加工時のワレ・カケの少なく、且つ層間が薄く、駆動時にクラックが入りにくい積層型アクチュエータの構成が可能となる。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば下記の効果を奏することができる。
【0045】
(1)キュリー温度が十分に高く、長辺方向伸び振動モードの圧電歪定数(d31)が200×10-12 m/vを超える圧電磁器が得られ、150℃前後の温度での使用に問題がなく、加工時のクラックやカケが少ないアクチュエータを作製することが可能となる。
【0046】
チタン酸ジルコン酸鉛に第三成分としてPb(Co1/3 Nb2/3 )O3 を添加することにより、構成したアクチュエータを高温(150℃前後)での使用した場合の劣化を少なくすることができる。
【0047】
また副成分としてW、Sb、Nb、Taのうち少なくとも一種をWO3 、Sb2 3 、Nb2 5 、Ta2 5 に換算して主成分1モルの重量に対し0.1〜1.2重量%添加することにより圧電歪定数を大きくすることができ、焼成後の粒子径をより小さくすることが可能となる。
【0048】
さらに副成分としてSiをSiO2 に換算して主成分1モルの重量に対し0.01〜0.1重量%添加することにより、圧電磁器内の粒子間の結合力を大きくすることができ、その結果加工時のクラックやカケを少なくし、アクチュエータを構成した場合の駆動時のクラック発生を少なくすることが可能となる。
【0049】
(2)Pbの一部をSr、Baのうちの少なくとも一種で0.01〜0.06mol置換することにより、前述の利点を損なうことなく、更に圧電歪定数を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Pbの値を横軸にしたときの三点曲げ強度の値を示すものである。
【図2】試料No.11(実施例)の素子粒子径を観察した電子顕微鏡写真である。
【図3】試料No.9(比較例)の素子粒子径を観察した電子顕微鏡写真である。
【図4】試料No.15(実施例)の素子破断面を観察した電子顕微鏡写真である。
【図5】前記試料No.15のSiO2 添加量をゼロとして作製した素子の破断面を観察した電子顕微鏡写真である。

Claims (2)

  1. Pbx〔(Co1/3 Nb2/3 )a Tib Zr1−a−b〕O3
    (但し、0.98≦x≦0.999、0.01≦a≦0.03、0.43≦b≦0.49)を主成分とし、
    主成分1モルの重量に対し、
    副成分としてW、Sb、Nb、Taのうち少なくとも一種をWO3 、Sb2 3 、Nb2 5 、Ta2 5 に換算して0.1〜1.2重量%添加し、
    さらに副成分としてSiをSiO2 に換算して0.01〜0.1重量%添加含有していることを特徴とする圧電磁器組成物。
  2. Pbx〔(Co1/3 Nb2/3 )a Tib Zr1−a−b〕O3
    (但し、0.98≦x≦0.999、0.01≦a≦0.03、0.41≦b≦0.48)を主成分とし、Pbの一部をBa、Srのうち少なくとも一種で0.01〜0.06mol置換し、
    主成分1モルの重量に対し、
    副成分としてW、Sb、Nb、Taのうち少なくとも一種をWO3 、Sb2 3 、Nb2 5 、Ta2 5 に換算して0.1〜1.2重量%添加し、
    さらに副成分としてSiをSiO2 に換算して0.01〜0.1重量%添加含有していることを特徴とする圧電磁器組成物。
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