JP3757273B2 - MgB2超電導材料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、MgB2超電導材料の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、Mgの酸化及び蒸発をできる限り抑制し、MgB2超電導材料の製造を容易化するとともに、超電導性能の向上が望め、製造コストの低減を図ることもできるMgB2超電導材料の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
MgB2超電導材料は、粉末冶金技術ではこれまで次のようにして製造されている。
【0003】
すなわち、マグネシウム(Mg)とボロン(B)の粉末を原子比で1:2となるように調合、混合した後、圧粉して成形体を作製する。Mgは、周知の通り、容易に酸化して酸化マグネシウム(MgO)などの酸化物になるため、この酸化を防止するために、成形体は、次いで鉄(Fe)、タンタル(Ta)、タングステン(W)などから形成された金属カプセルに詰められる。そして、真空脱気後、アルゴンガスを1/3〜1/2気圧程度封入し、長時間高温に保持して焼結している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、以上の製造方法には次のような問題がある。
【0005】
第一に、原料のMg粉末には、保存中の酸化を少しでも抑制するために、粗い粉末が用いられているが、その結果として、MgB2焼結体を得るまでの熱処理時間が長くなっている。これは、MgB2超電導材料の製造コストに反映する。
【0006】
第二に、Mgは高温で蒸発しやすく、したがって、あまり高温で長時間の熱処理を行うと、焼結体中のMgとBの組成比率が変動し、超電導性能に影響を及ぼす。
【0007】
第三に、熱処理中の雰囲気が良好な非酸化性雰囲気でないと、Mgの酸化が避けられないが、真空にしてしまうと、蒸発を助長することになり、取扱いが難しい。
【0008】
この出願の発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、Mgの酸化及び蒸発をできる限り抑制し、MgB2超電導材料の製造を容易化するとともに、超電導性能の向上が望め、製造コストの低減を図ることもできるMgB2超電導材料の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明の発明者らは、以上の課題を解決するために、すなわち、Mgの酸化及び蒸発をできる限り抑制し、できる限り短時間にMgとBを反応させてMgB2超電導材料を合成するために、研究を重ねた。
【0010】
この出願の発明の発明者の一人は、炭化物、ホウ化物などの自己伝播高温合成に成功している(たとえば、特許第1816876号)。自己伝播高温合成とは、粉末混合物をその一部において強熱して点火し、初期反応を生起させると、この時発生する生成熱が次々に伝播して連鎖反応が起こり、粉末混合物の全体が、炭化物、ホウ化物などの化合物に合成されるというものである。
【0011】
そこで、MgB2超電導材料についても自己伝播高温合成の適用を様々に試みたが、実現は簡単ではなかった。その原因を多方面から検討したところ、MgB2の生成熱が、他のホウ化物の生成熱に比べ、1/3程度しかないことが主因であると判明した。ホウ化物の生成熱は、たとえば、TiB2で-279.9kJ/mol、ZrB2で-326.6kJ/mol、HfB2で-328.9kJ/molである。これに対し、MgB2の生成熱は、-92.0kJ/molと小さい。このことから、Mg+2B→MgB2で示される反応及びその伝播は起こりにくいと結論される。
【0012】
他の要因は、やはりMgが蒸発しやすいということである。初期反応を生起させるために、原料の粉末混合物の一部を強熱して点火しようとすると、Mgは蒸発してしまい、この蒸発が、Mg+2B→MgB2で示される反応に必要な熱を奪ってしまうのである。また、Mgの蒸発にともない、前述した通り、原料中のMgとBの組成比率が変動し、これが、自己伝播高温合成をより一層難しくするのである。
【0013】
これらの原因究明に基づき、この出願の発明の発明者らは、鋭意検討を加えた結果、TiとBの自己伝播高温合成を利用することにより、以上の問題が解消され、MgB2超電導材料の自己伝播高温合成が実現されることを見出した。
【0014】
前述の通り、TiB2の生成熱は-279.9kJ/molであり、自己伝播高温合成は容易に起こる。自己伝播高温合成時の断熱温度は2917℃であり、また、Ti+2B→TiB2で示される反応及びその自己伝播高温合成時の反応熱により、Mg+2B→MgB2で示される反応及び自己伝播高温合成が誘発されるのである。つまり、MgB2の生成熱は、ホウ化物の中でも小さいが、MgとBの自己伝播高温合成に必要な熱が、TiB2の生成熱により補われるのである。
【0015】
このようにTiB2の自己伝播高温合成に誘発されるMgとBの自己伝播高温合成は、Mg粉末とB粉末を原子比で1:2の割合に混合し、圧粉して作製した成形体が数グラム〜数十グラム程度の時、所要時間は1秒以下の短時間であり、したがって、Mgの酸化及び蒸発を最小限に抑えることができる。
【0016】
この出願の発明は、以上の通りの技術知見に基づいて完成されたものである。
【0017】
すなわち、この出願の発明は、Mg粉末とB粉末を原子比で1:2の割合に混合し、この原料混合粉末を圧粉して作製した成形体をTiとBの粉末混合物中に埋設した後、TiとBの粉末混合物をその一部において強熱して点火し、Ti+2B→TiB2で示される反応を生起させ、その時発生する生成熱が次々に伝播して連鎖反応する自己伝播高温合成によりTiとBの粉末混合物全体をTiB2に合成する一方、この時放出される生成熱によりMg+2B→MgB2で示される反応を誘起させ、この反応もまた自己伝播高温合成させて、前記成形体の全体を超電導性能を有するMgB2焼結体とすることを特徴とするMgB2超電導材料の製造方法(請求項1)を提供する。
【0018】
またこの出願の発明は、MgB2の自己伝播高温合成を、真空中、室温以上300℃以下の条件で行わせること(請求項2)、真空度を5×10-1Torr以下とすること(請求項3)、TiとBの粉末混合物をあらかじめ真空中で加熱し、粉末混合物中に含まれる水分及び揮発性不純物を除去すること(請求項4)をそれぞれ一態様として提供する。
【0019】
以下、実施例を示しつつ、この出願の発明のMgB2超電導材料の製造方法についてさらに詳しく説明する。
【0020】
【発明の実施の形態】
この出願の発明のMgB2超電導材料の製造方法では、前記の通り、Mg粉末とB粉末を原子比で1:2の割合に混合し、この原料混合粉末を圧粉して作製した成形体をTiとBの粉末混合物中に埋設する。次いで、TiとBの粉末混合物をその一部において強熱して点火し、Ti+2B→TiB2で示される反応を生起させ、その時発生する生成熱が次々に伝播して連鎖反応する自己伝播高温合成によりTiとBの粉末混合物全体をTiB2に合成する。その一方、この出願の発明のMgB2超電導材料の製造方法では、TiB2の自己伝播高温合成時に放出される生成熱によりMg+2B→MgB2で示される反応を誘起させ、この反応もまた自己伝播高温合成させて、前記成形体の全体を超電導性能を有するMgB2焼結体とする。
【0021】
具体的には、この出願の発明のMgB2超電導材料の製造方法を実施する際には、図1に概略を示した自己伝播高温合成装置を使用することができる。
【0022】
図1に示したように、自己伝播高温合成装置は、真空容器(1)を備えている。真空容器(1)は、シーリング機構(2)によりシールされ、給排気系(3)に接続されて、内部の給排気が可能とされている。この真空容器(1)の内部には、ヒーター(4)及び熱電対(8)を備えた電気炉(5)が配設されている。電気炉(5)には、その内部に耐火性るつぼ(6)が配置される。耐火性るつぼ(6)には、TiとBの粉末混合物(10)が充填される。
【0023】
また、自己伝播高温合成装置には、TiとBの粉末混合物(10)の一部を強熱し、点火させるタングステン線、ニクロム線などから形成することのできる電熱コイル(7)が配設され、通常、この電熱コイル(7)は、耐火性るつぼ(6)に充填されたTiとBの粉末混合物(10)の上端部に接触するように配置される。
【0024】
なお、以上のヒーター(4)、電熱コイル(7)及び熱電対(8)は、いずれも、気密状態が保持されるようにして真空容器(1)から外部に引き出され、電源、制御器などに電気的に接続され、外部から操作可能とされている。
【0025】
MgB2超電導材料の製造に際しては、Mg粉末とB粉末を原子比で1:2の割合に混合し、この原料混合粉末を圧粉して成形体(9)を作製する。この成形体(9)は、耐火性るつぼ(6)に充填したTiとBの粉末混合物(10)中に埋設する。なお、TiとBの粉末混合物(10)は、成形体(9)の埋設に先立ち、あらかじめ真空中で加熱し、粉末混合物(10)中に含まれる水分及び揮発性不純物を除去しておくと、より良質のMgB2超電導材料が得られる。
【0026】
その後、耐火性るつぼ(6)を電気炉(5)の内部に配置し、真空容器(1)をシーリング機構(2)によりシールする。そして、真空容器(1)の内部を給排気系(3)の作動により真空排気する。この時の真空度は、MgB2超電導材料の自己伝播高温合成を生起させるのに適当なものとするのが好ましく、たとえば、5×10-1Torr以下が例示される。真空度は、高めれば高めるほど、MgOなどの酸化物の生成を抑えるのに有効となる。
【0027】
次いで、TiとBの粉末混合物(10)の一部、具体的には、図1に示したような上端部に電熱コイル(7)を接触させて配置し、通電して強熱し、TiとBの粉末混合物(10)の上端部、すなわち、一部を点火する。着火後、TiとBの粉末混合物(10)では、Ti+2B→TiB2で示される反応が起こり、その時発生する生成熱が次々に伝播し、連鎖反応を起こし、自己伝播高温合成が起こる。そして、最終的にTiとBの粉末混合物(10)の全体がTiB2となる。一方、TiとBの粉末混合物(10)の自己伝播高温合成時に放出される生成熱により、Mg+2B→MgB2で示される反応が誘起され、成形体(9)もまた、生成熱が小さいのに関わらず、自己伝播高温合成を起こし、その全体が、超電導性能を有するMgB2焼結体となる。一般に、成形体(9)が数グラム〜数十グラム程度であると、MgB2の自己伝播高温合成に要する時間は、1秒以下と非常に短い。
【0028】
なお、MgB2の自己伝播高温合成は、前述の通り、真空中で行うことが好ましいが、これに加え、電気炉(5)内の温度をヒーター(4)により室温以上300℃以下に保持すると、MgB2超電導材料の収率がほぼ90%〜100%となる。
【0029】
以上の通り、生成熱が小さいことから自己伝播高温合成が不可能であったMgB2超電導材料を、自己伝播高温合成により製造することができ、所要時間は短時間となり、これまでの粉末冶金技術における長時間の熱処理が解消される。したがって、Mgの酸化及び蒸発をできる限り抑制することが可能となり、MgB2超電導材料の製造が容易化される。また、MgとBの組成比率がほぼ安定化し、超電導性能の向上が望める。しかも、上記製造の容易化とともに、MgB2の自己伝播高温合成に用いられるTi粉末、B粉末は、いずれも、特に高価なものではないため、製造コストの低減が図られる。
【0030】
【実施例】
平均粒径が約400μmの角状のMg粉末、平均粒径が約1μmのアモルファスボロン(B)粉末、平均粒径が30μmの角状のTi粉末を使用した。上記Mg粉末とB粉末を原子比で1:2の割合に混合し、原料混合粉末をポリウレタンゴム型に詰め、冷間等方圧プレス(CIP)により300MPaに1分間保持し、圧粉して成形体を作製した。また、Ti粉末とB粉末を混合し、この粉末混合物を200℃に12時間保持して乾燥させた。
【0031】
そして、図1に示したような自己伝播高温合成装置の耐火性るつぼ(6)に、TiとBの粉末混合物(10)を入れ、その中にMgとBの成形体(9)を埋設した。この後、耐火性るつぼ(6)を電気炉(5)の内部に配置し、TiとBの粉末混合物(10)の上端部に、線径0.6mmのタングステン線から形成された電熱コイル(7)を接触させて配置した。この状態において、真空容器(1)をシーリング機構(2)によりシールし、真空容器(1)の内部を給排気系(3)により真空排気し、1×10-3Pa以下の真空度に常時保った。そして、電熱コイル(7)に20A程度の電流を通電し、TiとBの粉末混合物(10)の上端部を強熱して点火した。
【0032】
着火後、Ti+2B→TiB2で示される反応が生起し、その時発生する生成熱が次々に伝播し、連鎖反応を起こして粉末混合物(10)の全体が、短時間の内にTiB2に自己伝播高温合成された。さらに、このTiB2の自己伝播高温合成時に放出される生成熱により、成形体(9)においてMg+2B→MgB2で示される反応が誘発され、自己伝播高温合成を起こし、成形体(9)の全体がMgB2焼結体となった。
【0033】
図2は、図1に示した自己伝播高温合成装置の電気炉を室温に保持して作製したMgB2焼結体の帯磁率の温度変化をプロットした図である。
【0034】
この図2から確認されるように、MgB2焼結体は、超電導遷移温度が39Kであり、帯磁率の変化が大きく、良好な超電導性能を有していると理解される。
【0035】
図3は、図1に示した自己伝播高温合成装置の電気炉を150℃に保持して作製したMgB2焼結体の帯磁率の温度変化をプロットした図である。
【0036】
この図3から確認されるように、MgB2焼結体は、超電導遷移温度が39Kであり、帯磁率の変化が大きく、良好な超電導性能を有していると理解される。
【0037】
図4は、図1に示した自己伝播高温合成装置の電気炉を200℃に保持して作製したMgB2焼結体の帯磁率の温度変化をプロットした図である。
【0038】
この図4から確認されるように、MgB2焼結体は、超電導遷移温度が39Kであり、帯磁率の変化が大きく、良好な超電導性能を有していると理解される。SQUID(超電導量子干渉計)で測定したMgB2の収率は100%であった。
【0039】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施形態及び実施例によって限定されるものではない。自己伝播高温合成装置の構成及び構造、自己伝播高温合成時の条件、使用する粉末の形状及び粒径などの細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0040】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この出願の発明によって、Mgの酸化及び蒸発をできる限り抑制し、MgB2超電導材料の製造を容易化するとともに、超電導性能の向上が望め、製造コストの低減を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明のMgB2超電導材料の製造方法に適用可能な自己伝播高温合成装置の概要を示した断面図である。
【図2】図1に示した自己伝播高温合成装置の電気炉を室温に保持して作製したMgB2焼結体の帯磁率の温度変化をプロットした図である。
【図3】図1に示した自己伝播高温合成装置の電気炉を150℃に保持して作製したMgB2焼結体の帯磁率の温度変化をプロットした図である。
【図4】図4は、図1に示した自己伝播高温合成装置の電気炉を200℃に保持して作製したMgB2焼結体の帯磁率の温度変化をプロットした図である。
【符号の説明】
1 真空容器
2 シーリング機構
3 給排気系
4 ヒーター
5 電気炉
6 耐火性るつぼ
7 電熱コイル
8 熱電対
9 成形体
10 TiとBの粉末混合物
Claims (4)
- Mg粉末とB粉末を原子比で1:2の割合に混合し、この原料混合粉末を圧粉して作製した成形体をTiとBの粉末混合物中に埋設した後、TiとBの粉末混合物をその一部において強熱して点火し、Ti+2B→TiB2で示される反応を生起させ、その時発生する生成熱が次々に伝播して連鎖反応する自己伝播高温合成によりTiとBの粉末混合物全体をTiB2に合成する一方、この時放出される生成熱によりMg+2B→MgB2で示される反応を誘起させ、この反応もまた自己伝播高温合成させて、前記成形体の全体を超電導性能を有するMgB2焼結体とすることを特徴とするMgB2超電導材料の製造方法。
- MgB2の自己伝播高温合成を、真空中、室温以上300℃以下の条件で行わせる請求項1記載のMgB2超電導材料の製造方法。
- 真空度を5×10-1Torr以下とする請求項2記載のMgB2超電導材料の製造方法。
- TiとBの粉末混合物をあらかじめ真空中で加熱し、粉末混合物中に含まれる水分及び揮発性不純物を除去する請求項1、2又は3いずれかに記載のMgB2超電導材料の製造方法。
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