近年、バイオテクノロジーとエレクトロニクスを融合させたバイオエレクトロニクスの研究が活発に行われ、酵素等のタンパク質を用いたバイオセンサー等、すでに実用化されているものもある。
そういったバイオテクノロジーを他分野に応用する試みの1つとして、金属化合物を保持する機能を持つタンパク質であるアポフェリチンに金属または金属化合物からなる微粒子を取り込ませ、nmオーダーの均一なサイズの微粒子を作製しようという研究がある。微粒子の用途に応じて種々の金属あるいは金属化合物等をアポフェリチンに導入すべく研究が進められている。
ここで、アポフェリチンについて説明する。アポフェリチンは、生物界に広く存在するタンパク質であり、生体内では必須微量元素である鉄の量を調節する役割を担っている。鉄または鉄化合物とアポフェリチンとの複合体はフェリチンと呼ばれる。鉄は必要以上に体内に存在すると生体にとって有害であるため、余剰の鉄分はこのフェリチンの形で体内に貯蔵される。そして、フェリチンは必要に応じて鉄イオンを放出し、アポフェリチンに戻る。
図1は、フェリチン(鉄−アポフェリチン複合体)の構造を示す模式図である。同図に示すように、フェリチンは、1本のポリペプチド鎖から形成されるモノマーサブユニットが非共有結合により24個集合した分子量約46万の球状タンパク質であり、その直径は約12nmで、通常のタンパク質に比べ高い熱安定性と高いpH安定性を示す。この球状のタンパク質(外殻2)の中心には直径約6nmの空洞状の保持部4があり,外部と保持部4とはチャネル3を介してつながっている。例えば、フェリチンに二価の鉄イオンが取り込まれる際、鉄イオンはチャネル3から入り、一部のサブユニット内にあるferrooxidase center(鉄酸化活性中心)と呼ばれる場所で酸化された後、保持部4に到達し、保持部4の内表面の負電荷領域で濃縮される。そして、鉄原子は3000〜4000個集合し、フェリハイドライト(5Fe2O3・9H2O )結晶の形で保持部4に保持される。 なお、本明細書中では、保持部に保持された金属原子を含む微粒子を「核」と称する。ここで、図1に示す核1の直径は保持部4の直径とほぼ等しく、約6nmとなっている。
また、この核1は比較的簡単な化学操作で除去され、核1が除かれて外殻2のみとなった粒子は、アポフェリチンと呼ばれる。このアポフェリチンを用いて、人工的に鉄以外の金属や金属化合物を担持させたアポフェリチン−微粒子複合体も作製されている。
現在までに、マンガン(P.Mackle,1993,J.Amer.Chem.Soc.115,8471-8472; F.C.Meldrumら,1995,J.Inorg.Biochem.58,59-68),ウラン(J.F.Hainfeld,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,11064-11068),ベリリウム(D.J.Price,1983, J.Biol.Chem.258,10873-10880),アルミニウム(J.Fleming,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7866-7870),亜鉛(D.Price and J.G.Joshi,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1982,79,3116-3119),コバルト(T.Douglas and V.T.Stark,Inorg.Chem.,39,2000,1828-1830)といった金属あるいは金属化合物のアポフェリチンへの導入が報告されている。これらの金属あるいは金属化合物からなる核1の直径も、アポフェリチンの保持部4の直径とほぼ等しく、約6nmとなる。
自然界において、鉄原子を含む核1がフェリチン内に形成される過程の概略は次の通りである。
フェリチン粒子の外部と内部とを結ぶチャネル3(図1参照)の表面には、pH7−8の条件でマイナス電荷を持つアミノ酸が露出しており、プラス電荷を持っているFe2+イオンは静電相互作用によりチャネル3に取り込まれる。このチャネル3は、1つのアポフェリチンあたり8個存在している。
フェリチンの保持部4の内表面には、チャネル3の内表面と同じく,pH7−8でマイナス電荷を持つアミノ酸残基であるグルタミン酸残基が多く露出しており、チャネル3から取り込まれたFe2+イオンはferroxidase centerで酸化され、さらに内部の保持部4へと導かれる。そして、静電相互作用により鉄イオンは濃縮されて、フェリハイドライト(5Fe2O3・9H2O)結晶の核形成が起こる。
その後、順次取り込まれる鉄イオンがこの結晶の核に付着して酸化鉄からなる核が成長し、直径6nmの核1が保持部4内に形成される。以上が、鉄イオンの取り込みと酸化鉄からなる核形成の概略である。
次に、アポフェリチンへ鉄を導入するための操作を以下で説明する。
まず、HEPES緩衝液、アポフェリチン溶液、硫酸アンモニウム鉄(Fe(NH4)2(SO4)2)溶液の順に各溶液を混合してフェリチン溶液を作製する。このフェリチン溶液中では、それぞれの最終濃度が、HEPES緩衝液は100mmol/L(pH7.0)に、アポフェリチンは0.5mg/mLに、硫酸アンモニウム鉄は5mmol/Lになっている。尚、フェリチンを調製するための操作は、すべて室温にて行ない、攪拌はスターラーにて行なう。
次に、鉄イオンのアポフェリチン内部への取り込み反応及び取り込まれた鉄の酸化反応を完了させるため、フェリチン溶液をそのまま一晩放置する。この操作により、アポフェリチンの保持部に均一な大きさの酸化鉄が導入され、フェリチン(アポフェリチンと微粒子の複合体)が生成される。
次に、フェリチン溶液を容器に入れ、遠心分離機を用いて毎分3,000回転、15−30分の条件で遠心分離し、沈殿を除去する。続いて、沈殿を除去した後の上澄み液をさらに毎分10,000回転、30分の条件で遠心分離し、フェリチンが凝集した不要な集合体を沈殿させてから除去する。このとき、上澄み液中には、フェリチンが分散された状態で存在している。
次に、この上澄み液の溶媒をpH7.0、100mmol/LのHEPES緩衝液から150mmol/LのNaCl溶液へと透析により置換して、新たなフェリチン溶液を作製する。ここでのpH調整は特に行わなくてよい。
続いて、このフェリチン溶液を1−10mg/mLの任意の濃度に濃縮した後、この溶液に最終濃度が10mmol/LとなるようにCdSO4 を加え、フェリチンを凝集させる。
次に、フェリチン溶液を毎分3,000回転、20分の条件で遠心分離し、溶液中のフェリチン凝集体を沈殿させる。その後、溶液の緩衝成分を150mmol/LのNaClが入ったpH8.0、10−50mmol/LのTris緩衝液へと透析により置換する。
次に、フェリチン溶液を濃縮後、ゲルろ過カラムによりフェリチン溶液をろ過することにより、フェリチン粒子の凝集体が除かれ、酸化鉄を内包した単体のフェリチンが得られる。
尚、ここまで鉄イオンのフェリチンへの取り込みメカニズム及び酸化鉄を内包したフェリチンの調製法について述べたが、これまでに導入が報告されている他の金属イオンは、いずれもプラスイオンであることから、これらの金属イオンのアポフェリチンへの取り込みは、鉄イオンとほぼ同じメカニズムで進むと考えられる。よって、他の金属イオンも、基本的に鉄イオンと同様の操作によりアポフェリチン内に導入される。
ところで、アポフェリチンは、それが由来する生物種によって保持可能な粒子のサイズが若干異なる。また、アポフェリチンと類似の構造を有し、内部に無機物微粒子を保持可能な球殻状タンパク質も存在する。この中にはリステリア菌由来のリステリアフェリチンやDpsタンパクなどがある。また、球状でなくても、CCMVなどのウイルスの外殻タンパク質等、フェリチンと同様に内部に無機物粒子を保持可能なタンパク質もある。
本明細書中では、このような球殻状タンパク質やウイルスの外殻タンパク質など、内部に無機物微粒子を保持可能なタンパク質を総称して「かご状タンパク質」と称することとする。
これらのかご状タンパク質にも、鉄を含む無機物粒子を保持させることが可能である。その他、関連する先行文献として、Levi, S. et al., Biochem. Journal (1996)317,467-473を挙げることができる。
P.Mackle,1993,J.Amer.Chem.Soc.115,8471-8472; F.C.Meldrumら,1995,J.Inorg.Biochem.58,59-68
J.F.Hainfeld,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,11064-11068
D.J.Price,1983, J.Biol.Chem.258,10873-10880
J.Fleming,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7866-7870
D.Price and J.G.Joshi,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1982,79,3116-3119
T.Douglas and V.T.Stark,Inorg.Chem.,39,2000,1828-1830
Levi, S. et al., Biochem. Journal (1996)317,467-473
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、以下に説明する。
−リコンビナント(組み換え)アポフェリチンの作製−
発明者らは、アポフェリチン内に金(Au)原子を導入する上で、主に次のような2つのことが障害となっていると考えた。
1つは、クロロ金酸イオン(AuCl4)-とアポフェリチンとの間の静電相互作用である。図1に示すフェリチン(アポフェリチン−鉄複合体)のチャネル3の内表面及び保持部4の内表面には、各々グルタミン酸やアスパラギン酸といったマイナスの電荷を持つアミノ酸が露出している。マイナスイオンである(AuCl4)-のアポフェリチン内への取り込みは、これらのマイナス電荷を持つアミノ酸との間の静電相互作用により阻害されている。
もう1つは、(AuCl4)-のサイズが鉄イオンよりも大きいことである。そのため、アポフェリチンのチャネル3のサイズを広げなければ、(AuCl4)-をチャネル3に取り込むことが物理的に難しい。
これらの問題を解決するため、発明者らは、遺伝子組み換えの手法を用いて以下のようにアポフェリチンの改質を行なった。以下、本明細書中で、「組み換えアポフェリチン」と表記するときは、遺伝子組み換え技術によって変異を導入したアポフェリチンのことを指す。また、本明細書中アミノ酸残基の部位を示すときは、特に指定のない限り、変異の入っていないウマ肝臓由来のアポフェリチンにおける部位を意味する。また、アポフェリチンは24個のモノマーサブユニットから構成されているため、本明細書中で「アポフェリチンのアミノ酸配列」と書くときは、モノマーサブユニットのアミノ酸配列を意味する。
ウマ肝臓由来のアポフェリチンをコードする遺伝子配列及びアポフェリチンのアミノ酸配列は既知であり、立体構造についても解明されている。ワイルドタイプのアポフェリチンのアミノ酸配列を、配列番号3に記載する。アポフェリチンのモノマーは、175残基のアミノ酸残基から構成され、そのうち、128番目のアスパラギン酸(Asp)と、131番目のグルタミン酸(Glu)とは共にチャネル3の内表面に位置し、58番目,61番目及び64番目の各グルタミン酸は、共に保持部4の内表面に位置している。また、アポフェリチンの1〜8番目のアミノ酸残基は、生体内においてプロセシングを受けて欠失している。
次に、アポフェリチンにおける静電相互作用について説明する。
上述のように、中性の溶液中では、アポフェリチンの保持部4及びチャネル3の内表面には、負電荷を有するアスパラギン酸やグルタミン酸が配置されているため、アポフェリチンの内表面全体の電位Vinは、アポフェリチンの外部の電位Voutに比べて低くなっている。すなわち、ΔV=Vin−Voutで定義されるアポフェリチンの内外電位差ΔVは、ΔV<0(mV)となっている。
ここで、(AuCl4)-は、負電荷を有しているため、アポフェリチン内部の(AuCl4)-濃度をCin、溶液中の(AuCl4)-濃度をCoutとすると、Cin、Cout及びΔVの関係は次式(1)で表されることが知られている。
Cout/Cin=e-ΔV/kT (1)
式(1)において、eは自然対数、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。この式から、ΔVを大きくすることで、温度が一定の場合、アポフェリチン内部における(AuCl4)-濃度を指数関数的に増加させられることが分かる。例えば、ΔVが正の値であるとき、ΔVが4倍になれば、Cout/Cinは約80となる。
一方、アポフェリチンの内表面での(AuCl4)-→Auの還元反応は、アポフェリチン内部の濃度が増加すれば加速される。
本願発明者らは以上の条件を考慮し、溶液中でアポフェリチンの保持部4に金粒子を効率良く生じさせるためには、少なくともCinが、Coutの3倍以上であることが必要である、との結論に達した。室温において、この条件を満たすΔVは約25(mV)以上である。特に、十分な速度で保持部4に金粒子を生じさせるためには、ΔVが約100(mV)以上であることが好ましいと考えられた。
ここで、ΔVは、アポフェリチンの内表面に存在する塩基の電荷を、その位置を考慮して総和することで求められる。例えば、アポフェリチンモノマーにおいて、保持部4に位置するグルタミン酸の3つをリジン(Lys)に置き換えることで、アポフェリチンにおけるΔVは約200(mV)になると試算される。これは、アポフェリチンの保持部4に金粒子を生じさせるのに十分な電位差であると考えられる。
本願発明者らは、以上のような計算に基づいて、以下の金粒子を保持可能な組み換えアポフェリチンを作製した。
図2(a)〜(c)は、上述の知見に基づいて作製された組み換えアポフェリチンの構造を模式的に示した図である。
まず、図2(a)に示されているのは、配列番号3に記載されたウマ肝臓由来のアポフェリチン(以下、アポフェリチンと略す)において、128番目のアスパラギン酸と131番目のグルタミン酸の両アミノ酸をセリン(Ser)に置換したものである。ここで、アスパラギン酸あるいはグルタミン酸をセリンに置換しても、アポフェリチンの立体構造は保持することができる。また、アポフェリチンの1〜8番目のアミノ酸は、アポフェリチンの外表面上に突き出ており、2次元結晶化などの高次構造の作製に支障を及ぼすおそれがあるため、欠失させている。この組み換えアポフェリチンを、以下fer-8-serと表記する。
ここで、チャネル3の内表面に存在したマイナス電荷を持つアスパラギン酸及びグルタミン酸が、電荷を持たないセリンに置換されることにより、静電的な反発力がなくなり、マイナス電荷を持つ(AuCl4)-(図2(a)の7)がチャネル3内に取り込まれやすくなっている。また、セリン残基はアスパラギン酸残基,グルタミン酸残基の両残基に比べてサイズが小さいため、チャネル内へ(AuCl4)-を取り込む際の物理的な障害が少なくなっている。
次に、図2(b)に示されているのは、fer-8-Serのアミノ酸配列の58番目,61番目,64番目のグルタミン酸をそれぞれアルギニン(Arg)に置換した組み換えアポフェリチンである。この組み換えアポフェリチンを、以下fer-8-Ser-Argと表記する。
ここで、アポフェリチンの保持部4の内表面部に存在していた58番目,61番目,64番目のグルタミン酸をプラス電荷を持つアルギニンに置換することにより、チャネル3に取り込まれた(AuCl4)-をアポフェリチンの保持部4へと誘導することが可能になる。このとき、グルタミン酸からアルギニンへ置換しても、アポフェリチンの立体構造は保持される。ここで保持部4へ誘導された(AuCl4)-7は、順次還元されて金(Au)原子7’となる。なお、58番目,61番目,64番目のグルタミン酸と置き換えるアミノ酸としては、負電荷を持たないものであればよく、塩基性アミノ酸であるLysのほか、Alaなどの非極性アミノ酸、及び中性アミノ酸などであってもよい。
次に、図2(c)に示されているのは、fer-8-Ser-Argのアミノ酸配列の54番目のグルタミン酸と65番目のアルギニンの両方をシステインに置換した組み換えアポフェリチンである。以下、この組み換えアポフェリチンをfer-8-Ser-Arg-Cysと表記する。
ここで、fer-8-Ser-Argのアミノ酸配列の54番目のグルタミン酸と65番目のアルギニンとは、アポフェリチンの保持部4の内表面に存在するため、これらのアミノ酸を還元作用を持つシステインに置換することにより、保持部4に取り込まれた(AuCl4)-7を還元して保持部4内に金の微粒子を析出させることができる。これにより、後述の操作により保持部4内に金からなる核1を形成することができる。
尚、上述の組み換えアポフェリチンの作製には、以下に説明するように、公知の遺伝子組み換え技術及びタンパク質の発現方法を用いる。
まず、Takedaらにより作製され、ウマ肝臓由来のアポフェリチンのDNAが組み込まれたプラスミドTakeda99224(S.TakedaらBiochim.Biophys.Acta.,1174,218-220,1993参照)から、適当な制限酵素を用いてアポフェリチンのアミノ酸配列をコードするDNA断片を切り出す。
次に、このDNA断片をタンパク質発現用のベクタープラスミドであるpMK-2に挿入してアポフェリチン発現用のプラスミドを作製する。
続いて、このアポフェリチン発現用のプラスミドを鋳型とし、所望の変異を組み込んだ1本鎖DNAの断片をプライマーとしてPCR(polymerase chain reaction)を行ない、アポフェリチンのアミノ酸をコードするDNAの目的の位置に部位特異的に所望の変異を導入する。こうしてアポフェリチンの1〜8番目までのアミノ酸をコードする部分のDNAを欠失させた変異アポフェリチン遺伝子のDNAの断片を含むプラスミドを作製する。このアポフェリチン遺伝子のDNA断片は、必要な場合には切り出し、別のベクタープラスミドに組み込んでもよい。
続いて、作製されたプラスミドを市販の大腸菌(E.coliの1種、Nova Blue)に導入し、形質転換を行なった後、この大腸菌をジャーファーメンター(大量培養装置)を用いて37℃にて大量培養する。なお、形質転換された大腸菌はアンピシリンに耐性を持つため、これを指標として形質転換されていない大腸菌と区別し、選択することができる。
この大腸菌内では、プラスミドに組み込まれた組み換えアポフェリチンのDNAが発現し、1〜8番目までのアミノ酸残基が欠失したアポフェリチン(以下fer-8と表記する)が大量に生産されている。fer-8は、後述する手順により大腸菌の菌体内から抽出・精製される。
次に、fer-8-Serを作製するために、先の操作で得られた,fer-8のアミノ酸配列をコードするDNAが組み込まれたプラスミドを鋳型とし、アポフェリチンの128番目のアスパラギン酸と131番目のグルタミン酸の両アミノ酸をセリンに置き換えたアミノ酸配列をコードする1本鎖DNA断片をプライマーとして用いたPCRを行なう。
次に、fer-8の作製と同様の操作により、fer-8-Serのアミノ酸配列をコードするDNAを挿入したプラスミドを作製し、これを大腸菌(Nova Blue)に導入し、形質転換する。形質転換した大腸菌を大量培養した後、後述する手順により大腸菌の菌体内からfer-8-Serを抽出・精製する。
以下、同様の手順により、fer-8-Ser-Argのアミノ酸配列をコードするDNAを挿入したプラスミドとfer-8-Ser-Argを得、次いで、fer-8-Ser-Arg-Cysのアミノ酸配列をコードするDNAを挿入したプラスミドとfer-8-Ser-Arg-Cysを得る。
尚、上述の操作における変異アポフェリチンの抽出・精製手順は以下の通りである。
まず、培養終了後の大腸菌の培養液を遠心チューブに移して遠心分離器内にセットし、4℃、10,000回転/分、25分間の条件で遠心分離し、大腸菌の菌体を沈殿させる。
次に、沈殿した菌体を集めた後、液中で超音波破砕器を用いて菌体を破砕してアポフェリチンを液中に溶出させる。次いで、菌体を破砕した液を遠心チューブに移して遠心分離器内にセットし、4℃、10,000回転/分、25分間の条件で遠心分離し、破砕されずに残った菌体を沈殿させる。
次に、遠心チューブから上清(上澄み液)を採取し、この液を60℃、15分間
熱処理した後遠心チューブに移し、4℃、10,000回転/分、25分間の条件で遠心分離する。この操作により不要なタンパク質が変性してチューブの底部に沈殿する。
続いて、遠心チューブから上清を採取した後、4℃下、Q-sepharose HP(ゲルろ過カラム)を用いたカラムクロマトグラフィを行ない、上清中に含まれるアポフェリチン画分を採取する。このアポフェリチン画分をさらに25℃下、Sephacryl S-300(ゲルろ過カラム)に流してカラムクロマトグラフィを行なうことにより精製する。この操作により、不純物が除かれ、精製された組み換えアポフェリチンが得られる。
なお、本発明において、改質されたアポフェリチンをコードするDNAが一旦得られれば、公知の技術によりこのDNAを増幅することができる。従って、組み換えアポフェリチンを量産する場合には、再度遺伝子の組み替えを工程を行なう必要はない。
−金粒子を保持するアポフェリチンの作製−
まず、組み換えアポフェリチン溶液とKAuCl4溶液(またはHAuCl4)とを混合し、それぞれの最終濃度が、組み換えアポフェリチンは0.5mg/mL、KAuCl4は3mmol/L、pHが7−9となるように溶液を調製した後、溶液を室温で24時間以上放置して金粒子をアポフェリチン内部へ取り込ませ、金−アポフェリチン複合体を形成させる。ここで、緩衝剤としては、pH7−8であれば100mMのリン酸が、pH8−9では100mMのTris−Hclがそれぞれ好ましく用いられる。
このとき、NaBH4を1mM以下の濃度になるように溶液に加えるか、エタノール等のアルコールを10%以下(v/v)の濃度になるように加えるか、光または紫外線を照射するかのいずれか1つを行なうことで、(AuCl4)-の還元反応を加速して反応時間を短縮することもできる。但し、NaBH4の濃度が1mMを越える場合、または、エタノール濃度が10%(v/v)を越える場合は、(AuCl4)-がアポフェリチン内部に取り込まれる前に還元されてしまい、アポフェリチンの外表面上に金粒子が析出する可能性がある。アポフェリチンの外表面上に析出した金粒子のサイズはアポフェリチンの保持部4で形成される金粒子のサイズと比べると、ばらつきが大きい。
なお、アポフェリチン内部において、析出した金粒子の表面は自身が(AuCl4)-の還元反応を触媒する(自己触媒作用)。これにより、アポフェリチンの保持部4が満たされるまで(AuCl4)-の還元反応が継続する。
また、ここで溶液のpHを7−9とするのは、溶液のpHが6以下では(AuCl4)-の還元が非常に起こりにくくなり、pHが10以上では逆に(AuCl4)-の還元の進行が制御できなくなるからである。
その後、鉄を包含したフェリチンの精製と同様の手順で副反応物や金粒子を保持していないアポフェリチンを除去し、得られた溶液をゲルカラムクロマトグラフィーにより分画して、金粒子を包含するアポフェリチンを溶液として採取する。このときに、保持部4ではなく外表面上に金粒子が形成されたアポフェリチン、あるいは少量ではあるが、保持部4と外表面上との両方に金粒子が形成されたアポフェリチンも同時にそれぞれ得られる。
金粒子をアポフェリチンに取り込ませる反応で、組み換えアポフェリチンとしてfer-8-Ser及びfer-8-Ser-Argを用いた場合は、金粒子を内部に包含したアポフェリチンと同様、金粒子が外表面上に形成されたアポフェリチンも生成される。これは、アポフェリチンの外表面上で金が析出する反応の速度が、アポフェリチンの保持部4に金粒子が形成される反応に比べて速いためと考えられる。
これに対し、組み換えアポフェリチンとしてfer-8-Ser-Arg-Cysを用いることにより、金粒子を内部に包含したアポフェリチンの収率が大幅に向上する。これは、保持部4へ導入されたシステイン(Cys)の還元作用により、アポフェリチンの保持部4での(AuCl4)-の還元反応が加速されるためである。尚、アポフェリチン内に包含された金粒子の直径は、約6nmと均一である。つまり、本実施形態において作製された組み換えアポフェリチンfer-8-Ser-Arg-Cysを使用することにより、ナノメーターオーダーの均一な大きさの金粒子が効率よく形成できる。微細な金粒子は、後に述べるDNAセンサーへの応用など、他の金属にはない用途や利点がある。
本実施形態において、使用したアポフェリチンはウマの肝臓由来のものを用いたが、他の臓器由来のものを用いることもできる。
これに加え、内部に金属などを保持可能なかご状タンパク質であれば、本実施形態で行ったように、チャネルと内部の電荷を変えることにより、金粒子を保持させることが可能である。
また、12個のモノマーサブユニットからなり、内部に無機物を保持する保持部を備えたDpsタンパクなど他のフェリチンファミリータンパクの場合も、アポフェリチンと同様の遺伝子組み換え技術を用いて貴金属粒子を保持させることが可能である。
また、本実施形態においては、アポフェリチンのチャネル3の内表面に存在する128番目のアスパラギン酸と131番目のグルタミン酸の両方をセリンに置換したが、セリンの代わりとして分子量がより小さい中性アミノ酸であるグリシンまたはアラニンに置換してもよい。
また、本実施形態においては、組み換えアポフェリチンとしてfer-8-Ser-Argを挙げたが、アポフェリチンのアミノ酸配列の58,61,64番目の各グルタミン酸を置換するアミノ酸は、リジンやアラニン等、負電荷を持たない塩基性または非極性あるいは中性アミノ酸であればよい。アミノ酸配列の58,61,64番目の各グルタミン酸をリジンで置換した組み換えアポフェリチンは以下、fer-8-Ser-Lysと表記する。
また、アミノ酸配列の58,61,64番目の各グルタミン酸をアラニンで置換した組み換えアポフェリチンは、fer-8-Ser-Alaと表記する。
尚、fer-8-Ser-Lysの54番目のグルタミン酸と65番目のアルギニンの両方をシステインで置換した組み換えアポフェリチンは、fer-8-Ser-Lys-Cysと表記する。また、fer-8-Ser-Alaの54番目のグルタミン酸と65番目のアルギニンの両方をシステインで置換した組み換えアポフェリチンは、fer-8-Ser-Ala-Cysと表記する。
このうち、fer-8-Ser-Lys-Cysのアミノ酸配列をコードするDNA配列を配列番号1に、fer-8-Ser-Lys-Cysのアミノ酸配列を配列番号2にそれぞれ記載する。尚、配列番号2のアミノ酸配列は、9番目のチロシンから始まっている。
なお、本実施形態において作製されたfer-8-Ser-Lys-Cysにおいて、58,61,64番目(配列番号2においては50,53,56番目)のLysをコードするDNA配列は共に”aag”であるが、これに代えてLysをコードする”aaa”であってもよい。128,131番目(配列番号2においては120,123番目)のSerや、54,65番目(配列番号2においては46,57番目)のCysについても、これらのアミノ酸をコードするDNA配列であれば配列番号1に示す配列と異なっていてもよい。これは、他の組み換えアポフェリチンについても同様である。
また、本実施形態において作製されたfer-8-Ser-Arg-Cys,fer-8-Ser-Lys-Cys及びfer-8-Ser-Ala-Cys等の組み換えアポフェリチンの127番目のシステインはアポフェリチンの外表面に位置しており、このシステインがアポフェリチンの外表面上に金粒子を析出させていると推定される。よって、fer-8-Ser-Arg-Cys,fer-8-Ser-Lys-Cys及びfer-8-Ser-Ala-Cysの127番目のシステインを当該システインよりも還元機能が小さい物質にすることにより、金粒子のアポフェリチン外表面上での析出が抑制され、金粒子を内包したアポフェリチンの収率をさらに向上させることができると考えられる。この方法としては、127番目のシステインを例えばアラニン等のアミノ酸で置換してもよいし、システイン残基と反応して還元機能を抑える化学物質等と反応させてもよい。
また、本実施形態において、金−アポフェリチン複合体を作製したが、アポフェリチンに(AuCl4)-を導入する代わりに、クロロ白金酸(PtCl4 )2-を組み換えアポフェリチンに導入することにより、白金粒子を保持したアポフェリチンを作製することもできる。但し、(PtCl4 )2-はpH7−9の溶液中で容易に還元されて溶液中に白金が析出するため、溶液のpHは7よりも低くしておく必要がある。このとき緩衝液としては、pH4付近にする場合は100mMの酢酸が、pH3付近にする場合は100mMのβ−アラニンがそれぞれ用いられる。
本実施形態において作製された貴金属粒子を保持する組み換えアポフェリチンの産業上の利用例を以下の実施形態で述べる。
(第2の実施形態)
まず、本実施形態におけるヌクレオチド検出装置の構成について説明する。図5は、本実施形態のヌクレオチド検出装置の構造を示す断面図である。
同図に示すように、本実施形態のヌクレオチド検出装置10はDNAセンサであり、図5に示すように、基板11と、基板11の表面上に高密度、且つ、高精度(隣接する粒子と互いに約12nm間隔)で配置されたナノメーターサイズ(直径6nm程度)の金粒子12と、端部に硫黄原子を有する1本鎖DNA(チオールDNA)13とからなり、金粒子12にチオールDNA13を結合させたものである。
次に、本実施形態のヌクレオチド検出装置10の作製方法を説明する。本実施形態のヌクレオチド検出装置10を作製するためには、直径6nm程度の金粒子12を、基板11の表面上に2次元状に高密度且つ高精度に配列および固定する必要がある。
まず、第1の実施形態の金粒子12を保持する組み換えアポフェリチン(fer-8-Ser-Arg-Cysと金粒子との複合体;以下、金内包アポフェリチン15と称する)を、後述の方法により基板11の表面上に配置する。
図3は、基板11上に配置された金内包アポフェリチン15を模式的に示す図であり、図4は、基板11上に配置された金内包アポフェリチン15の電子顕微鏡写真を示す図である。
図4の撮影に際しては、アポフェリチンに取り込まれない大きさの金グルコースを染色に用いた。ここで、金グルコース染色を用いたのは、通常の色素で染色すると、アポフェリチン内部に色素が入り込んで金粒子の存在を確認できないからである。
この操作により、図3または図4に示すように高密度、且つ高精度で配置された金内包アポフェリチン15の膜が基板11上に形成される。図4から、このときのアポフェリチンの外径は約12nmであることが分かる。
続いて、金内包アポフェリチン15のうちのタンパク質からなる外殻2を除去して、金粒子12のみを残存させる。次いで、金粒子12にチオールDNA13を結合させる。ここで使用されるDNAは1本鎖DNAである。
本実施形態において、金内包アポフェリチン15を基板11の表面上に2次元状に高密度、且つ高精度で配置及び固定するためには既知の方法を用いることができる。
例えば、以下に説明する吉村らにより開発された転写法(Adv.Biophys.,Vol.34,p99-107,(1997))による方法を用いることができる。
この方法では、まず、濃度2%のシュークロース溶液に、金内包アポフェリチン15を分散した液体を、シリンジを用いて注入する。すると、液体は、シュークロース溶液の液面に向かって浮上する。
次に、最初に気液界面に到達した液体は変性したアポフェリチンからなるアモルファス膜を形成し、後から到達した液体はアモルファス膜の下に付着していく。
次に、アモルファス膜の下に、金内包アポフェリチン15の2次元結晶を形成する。次いで、アモルファス膜と金内包アポフェリチン15の2次元結晶とからなる膜の上に、基板11(シリコンウエハ、カーボングリッド、ガラス基板等)を載置すれば、この金内包アポフェリチン15からなる膜は、基板11の表面に転写される。
この方法により、図3に示すように、基板11上に金内包アポフェリチン15を高密度、高精度で配置することができる。
このとき、基板11の表面を疎水性に処理しておくことで、より簡単に基板11の表面に膜を転写することができる。
次に、タンパク質からなる外殻2の除去を行なう。タンパク質分子は、一般に熱に弱いので、以下に示す熱処理により外殻2を除去することができる。
例えば、窒素等の不活性ガス中において、400〜500℃にて、約1時間静置すると、外殻2、およびタンパク質からなるアモルファス膜が焼失し、基板11上には金粒子12が2次元状に、高密度で、且つ高精度で規則正しく配列したドット状に残存する。
以上のようにして、金内包アポフェリチン15に保持させた金粒子12を、基板11上に2次元状に出現させ、高密度且つ高精度に配列させることができる。
次に、本実施形態のヌクレオチド検出装置10の形成について以下に説明する。
本実施形態のヌクレオチド検出装置10は、上述のようにして基板11上に配置された金粒子12に、チオールDNA13を結合させたものである。
金粒子12とチオールDNA13との結合方法は、金粒子12を配置した基板11と、チオールDNA13の水溶液とを接触させ、所定の時間放置するだけでよい。これは、硫黄が金と反応し易いので、このチオールDNA13またはチオールRNAの端部において金粒子12と容易に共役結合を形成するからである。
具体的には、水溶液中のチオールDNA13と、基板11上の金粒子12とが接触すると、チオールDNA13の硫黄原子Sと金粒子12とが1対1で共有結合し、チオールDNA13が極めて高密度・高精度で基板11上に配置される。基板11上の金粒子12は、2次元状に高密度且つ高精度で配列されているので、金粒子12と結合したチオールDNA13も2次元状に高密度且つ高精度で配列され、粒子の大きさに応じて単位面積当たりの粒子数を均一に配置したヌクレオチド検出装置10が得られる。
なお、この工程で、チオールDNA13の代わりにチオールRNA、端部をチオール化したPCRプライマーなどのヌクレオチドを用いてもよい。
上記工程において、チオールDNA13の水溶液中における濃度は、理論的には、基板11上の金粒子12の数とチオールDNA13の数とが一致すればよい。しかし、実際には、チオールDNA13の数が金粒子12の数より多数となるようにすることが好ましい。従って、本実施形態では、液体中に分散した状態で含まれる金内包アポフェリチン15の分子数以上のチオールDNA13が含まれるように、高濃度のチオールDNA13の水溶液を使用する。
また、チオールDNA13の水溶液の温度が高いほど、チオールDNA13の硫黄原子Sと金粒子12との結合が促進される。しかし、余り高温であると、対流が激しくなる等、チオールDNA13の水溶液の取扱いが困難となる。また、エネルギー消費の観点からも不利となるので、一般には、チオールDNA13の水溶液を20〜60℃程度に加温して行なうことが好ましい。
以上のようにして、検出したいDNAまたはRNAを簡便に検出することができる本実施形態のヌクレオチド検出装置10が得られる。
次に、ヌクレオチド検出装置10をDNAセンサとしたときの、DNA検出方法を説明する。
まず、検出対象となるDNA群(被検出DNA群)を含む溶液を用意し、予め被検出DNA群を蛍光ラベル処理しておく。
蛍光ラベルした被検出DNA群の溶液を、チオールDNA13を配置したヌクレオチド検出装置10に接触させて放置する。
一定時間を経ると、ヌクレオチド検出装置10のチオールDNA13とハイブリダイズするDNAが被検出DNA群の中に存在する場合は、ヌクレオチド検出装置10のチオールDNA13と被検出DNA群の中のDNAとが、2重螺旋を構成し、安定な結合を完成する。
次に、ヌクレオチド検出装置10を水等の蛍光物質を含まない溶液で洗浄すれば、被検出DNA群のうちのヌクレオチド検出装置10のチオールDNA13と結合しなかったDNAと、ヌクレオチド検出装置10上に残っていた微量の蛍光物質とが除去される。
この後、ヌクレオチド検出装置10の表面にレーザ等の光源を照射して蛍光を観察する。このとき、ヌクレオチド検出装置10のチオールDNA13とハイブリダイズする配列を有するDNAが、上記の被検出DNA群に存在していれば、蛍光を発する。
以上のように、蛍光を発するか否かで、被検出DNA群中に所定の配列を有するDNAが存在するか否かを検出することができる。
特に、本実施形態のヌクレオチド検出装置10は、チオールDNA13が高密度で、且つ高精度で、基板全体に亘って均一に配置されている。このため、蛍光強度が高く、且つ高精度で均一となり、SN比が非常に高い高性能DNAセンサとして利用することができる。従って、本実施形態のヌクレオチド検出装置10をDNAセンサとして利用した場合、所定の値よりも高い蛍光強度が得られれば、被検出DNA群中に所定の配列を有するDNAが存在すると判定できる。つまり、所定の配列を有するDNAの有無の判定を誤る可能性がほとんどない。
さらに、本実施形態のヌクレオチド検出装置10は、チオールDNA13が高密度且つ高精度で、基板全体に亘って均一に配置されているとともに、所定の配列を有するDNAのハイブリダイズ後の蛍光強度は、基板毎に異なることがほとんどない。従って、ハイブリダイズしたDNAの有無の判定のために、蛍光強度のしきい値の設定を基板毎に変更する必要が無く、蛍光検出器の調整の手間を大幅に削減することができるという著効を発揮する。
なお、本実施形態では、ヌクレオチド検出装置10をDNAセンサとした場合について説明したが、検出対象となるDNA群の代わりに、RNA群を用いることによって、ヌクレオチド検出装置10をRNAセンサとすることができる。
また、従来は、DNAチップなどのヌクレオチド検出装置は使い捨てであるが、本実施形態のヌクレオチド検出装置10においては、基板とDNA(またはRNA)が硫黄原子および金粒子を介して強固に固定されているため、100℃の温度でもこの固定を維持することができる。従って、ハイブリダイズしたDNAをチオールDNAから解離させて洗い流すことによって、繰り返し使用することもできる。
また、本実施形態において用いられた金内包アポフェリチン15の代わりに、第1の実施形態において得られた、外表面上に金粒子が成長した金−アポフェリチン複合体を用いてもよい。アポフェリチンの外表面上で成長した金粒子は、サイズは均一ではないが、本実施形態で用いられる金粒子12と同様に、高密度且つ高精度で金粒子を基板上に配置することができる。第1の実施形態において、fer-8-Ser-Argを用いると、非常に高い収率で外表面上に金粒子が成長したfer-8-Ser-Argが得られるので、金内包アポフェリチン15を用いる場合に比べ、ヌクレオチド検出装置10の製造コストを下げることが可能となる。
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態において作製された金内包アポフェリチンを利用して形成されるドット体をフローティングゲートとして含む不揮発メモリセルについて説明する。尚、本実施形態の不揮発メモリセル及びその製造方法は、特開平11−233752号公報に記載のものである。
図6は、ドット体をフローティングゲートとして利用した不揮発性メモリセルの構造を示す断面図である。同図に示されるように、p型Si基板21上には、制御ゲートとして機能するポリシリコン電極26と、約6nmの粒径を有する金の微粒子により構成されフローティングゲート電極として機能するドット体24と、p型Si基板21とフローティングゲートとの間に介在してトンネル絶縁膜として機能するゲート酸化膜23と、制御ゲートとフローティングゲートとの間にあって制御ゲートの電圧をフローティングゲートに伝える電極間絶縁膜として機能するシリコン酸化膜25とが設けられている。そして、p型Si基板21内には、ソースもしくはドレインとして機能する第1,第2n型拡散層27a及び27bとが形成されていて、p型Si基板21内の第1,第2n型拡散層27a,27b間の領域はチャネルとして機能する。また、図示されているメモリセルと隣接するメモリセルとの間には、電気的分離のため、選択酸化法等を用いて形成された素子分離酸化膜22が形成されている。第1,第2n型拡散層27a,27bは各々タングステンプラグ30を介して第1,第2アルミニウム配線31a,31bとそれぞれ接続されている。図6には示されていないが、ポリシリコン電極26やp型Si基板21もアルミニウム配線と接続されており、このアルミニウム配線等を用いてメモリセルの各部の電圧を制御するように構成されている。
このメモリセルの以下のように、容易に形成される。
まず、LOCOS法により、活性領域を取り囲む素子分離酸化膜22を形成した後、基板上にゲート酸化膜23を形成する。その後、第1の実施形態において作製された金内包アポフェリチンを用いて、ドット体24を基板全体に形成する。この際に、金粒子を内包したアポフェリチンを用いることにより、従来の金属酸化物を内包するアポフェリチンを用いたときに必要であったドット体の還元を行なう工程を省くことができる。
次に、基板上に、CVD法により、ドット体24を埋めるシリコン酸化膜及びポリシリコン膜を堆積する。
次に、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜のパターニングを行なって電極間絶縁膜となるシリコン酸化膜25及び制御ゲート電極となるポリシリコン電極26を形成する。その後、フォトレジストマスク及びポリシリコン電極26をマスクとして不純物イオンの注入を行なって、第1,第2n型拡散層27a,27bを形成する。
その後、周知の方法により、層間絶縁膜28の形成と、層間絶縁膜28へのコンタクトホール29の開口と、コンタクトホール29内へのタングステンの埋め込みによるタングステンプラグ30の形成と、第1,第2アルミニウム配線31a,31bの形成とを行なう。
本実施形態のメモリセルは、制御ゲートとして機能するポリシリコン電極26と、ソースもしくはドレインとして機能する第1,第2n型拡散層27a,27bとからなるMOSトランジスタ(メモリトランジスタ)を備え、フローティングゲートとして機能するドット体24に蓄えられた電荷の量で上記メモリトランジスタの閾値電圧が変化することを利用した不揮発性メモリセルである。この不揮発性メモリセルは、二値を記憶するメモリとしての機能が得られるが、ドット体24に蓄えられる電荷の有無のみだけでなく電荷の蓄積量を制御することで、三値以上の多値メモリを実現することもできる。
データの消去の際には、酸化膜を介したFN(Fowler-Nordheim )電流や直接トンネリング電流を利用する。
また、データの書き込みには、酸化膜を介したFN電流や直接トンネリング電流あるいはチャネルホットエレクトロン(CHE)注入を用いる。
本実施形態の不揮発性メモリセルによると、フローティングゲートが量子ドットとして機能できる程度に粒径の小さい金微粒子により構成されているので、電荷の蓄積量がわずかである。したがって、書き込み,消去の際の電流量を小さくでき、低消費電力の不揮発性メモリセルを構成することができる。
また、本実施形態の不揮発性メモリセルにおいて、フローティングゲートを
構成する金微粒子のサイズが均一であるため、電荷の注入、引き抜きの際の特性が各金微粒子間で揃っており、これらの操作において制御が容易に行えるようになる。
また、上記ドット体24は、互いに接触しながら連続的につまり全体として膜を構成するような状態で形成されていてもよいし、互いに離れて分散的に形成されていてもよい。本実施形態においては、金微粒子を包含するアポフェリチンを用いているので、基板の所望の部分に疎水処理を施してからアポフェリチンを配置させるなどの方法により、このような微細なドット体パターンを容易に形成することができる。
尚、本実施形態では、ドット体の構成材料として金を用いたが、これに代えて白金を用いてもよい。金内包アポフェリチンに代えて第1の実施形態において作製される白金内包アポフェリチンを用いることで、直径が約6nmの均一サイズの白金からなるドット体を形成することができる。この場合も、金内包アポフェリチンを用いたときと同様に、ドット体の還元工程が不要という利点がある。
(第4の実施形態)
本実施形態として、第1の実施形態の金内包アポフェリチンを利用して金粒子を基板上に配置させ、この金粒子をエッチングマスクとして使用する方法について述べる。
図7(a)−(c)は、金粒子をマスクとして微小構造体を形成する方法を示す断面図である。
まず、図7(a)に示す工程で、第2の実施形態と同様の方法により、シリコン基板34上に金内包アポフェリチンを所望の位置に配置させた後、熱処理することにより、タンパク質からなる外殻を除去する。これにより、直径約6nmの金粒子33が基板34上に残る。
ここで、金を内包したアポフェリチンを用いることにより、金属酸化物内包アポフェリチンを用いたときに行なう還元工程が不要になる。
続いて、図7(b)に示す工程で、SF6 ガスを用いて、シリコン基板34に対し、5分間イオン反応性エッチング(RIE)を行なうことにより、シリコン基板34が選択的に削られる。これは、金粒子33がシリコン基板34に比べエッチングされにくいためである。
次に、図7(c)に示す工程で、さらにエッチングが進むと最終的には金粒子33も除去され、所望のパターンを施されたシリコン基板34が残る。本実施形態の方法により、上面の直径が約6nmで均一な微細柱状のパターン(以下「微細柱状のパターン」を「微細柱」と称する)を基板上に正確に形成することができる。つまり、従来困難であったサイズが均一で且つ微細な構造体の形成(すなわち、微小構造体の精密加工)が本実施形態の方法により可能となる。
本実施形態の方法により形成された微小構造体は、例えば後述する量子効果を利用した発光素子等に利用することができる。
尚、本実施形態においては、エッチングマスクとして金粒子を用いたが、これに代えて白金粒子を用いることもできる。このためには、工程(a)において、金内包アポフェリチンに代えて、第1の実施形態の白金内包アポフェリチンを用いればよい。
尚、状況によってはFeを内包するフェリチン及びNi、Coなどを内包するアポフェリチンを用いても還元工程が不要であることがあるが、本実施形態の貴金属内包アポフェリチンを用いることにより、いずれの状況下でも、還元工程を省くことができる。
尚、本実施形態の工程(a)において、金内包アポフェリチンの外殻を除去するために熱処理を用いたが、これに代えてオゾン分解あるいは臭化シアン(CNBr)による化学分解を用いてもよい。
(第5の実施形態)
第5の実施形態として、第4の実施形態の加工方法により形成された微細柱を用いて、江利口らにより報告された特開平08−083940号公報に記載の光半導体装置を製造する方法について以下に説明する。
図8は第4の実施形態により形成された上面の直径が6nmの半導体微細柱を用いた光半導体装置の断面図である。
まず、第4の実施形態において、基板としてn型シリコンの一部にp型ウェル51が形成され、さらにp型ウェル51上にn型ウェルを形成したものを用いる。この基板を第4の実施形態の方法により加工し、n型シリコンからなる半導体微細柱42を高密度で形成する。
次に、熱酸化法により半導体微細柱42の側面をシリコン酸化膜からなる絶縁層43で覆った後、半導体微細柱42間の隙間を絶縁層43で埋め、その先端面を平坦化する。
さらに、絶縁層43のうち平坦化された半導体微細柱42先端部の表面の絶縁層を除去し、その上に透明電極44を形成する。
尚、シリコン基板41上の量子化領域Rqaの側方はあらかじめ形成された絶縁分離層49によって他の領域と区画されている。また、絶縁分離層49を貫通する側方電極50も前もって形成され、各半導体微細柱42の上部電極である透明電極44に対し下部電極として機能するシリコン基板41に接続されている。
これにより、光半導体装置が形成され、透明電極44と側方電極50との間に順方向の電圧を印加すると、室温でエレクトロルミネッセンスが生じる。さらに、キャリア注入電圧を変化させることにより、赤、青、黄色、それぞれの発光に対応した可視光のエレクトロルミネッセンスが生じる。
本実施形態によれば、これまで実施が困難であった高い発光効率を持った光半導体装置を実現することができる。
(その他の実施形態)
第1の実施形態の金−アポフェリチン複合体の作製過程において、外表面上と保持部の両方に金粒子を保持する金−アポフェリチン複合体が少量得られる。
図9は、外表面上と保持部の両方に金粒子を保持する金−アポフェリチン複合体を示す図である。同図で、保持部に保持されている第1の金粒子61の直径は約6nm、アポフェリチンの外表面上に形成されている第2の金粒子62の大きさはばらつきがあるが、少なくともアポフェリチンに内包される第1の金粒子61よりもサイズが大きい。また、保持部に保持されている第1の金粒子61はアポフェリチンの外殻63で囲まれている。
この金−アポフェリチン複合体をシリコン基板等の上に、第2の金粒子62が上にくるように膜状に配置する。
この基板をさらに加工し、第1の金粒子61及び第2の金粒子62をフローティングゲートとして有するダブルドットタイプの不揮発メモリセルを作製することができる。この不揮発メモリセルは、データの保持時間が長いことが特徴であるが、これは、サイズが異なる粒子では電荷の入りやすさ及び放出しやすさが互いに違うため、入力された情報を電荷を放出しにくい方の金粒子に保持しておけるからである。ここで、金−アポフェリチン複合体を用いることで、保持時間の長い不揮発メモリセルを容易に作成することができる。
また、アポフェリチンを用いることにより、ナノメーターサイズの金粒子をフローティングゲートとして使用することができるので、メモリセルを微細化することもできる。
また、本実施形態では金−アポフェリチン複合体のみを用いたが、他の金属とアポフェリチンとの複合体を金−アポフェリチン複合体と組み合わせて使用することにより、準位の異なったドットを作製することができ、保持時間の長い不揮発メモリを容易に作成することができる。
尚、本実施形態において、外表面上と保持部とに金を保持するアポフェリチンの代わりに外表面上と保持部とに白金を保持するアポフェリチンを用いてもよいし、これと金を保持するアポフェリチンとを組み合わせて使用してもよい。