JP3753499B2 - 磁気探傷装置及び方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電性の被検査体の亀裂、欠陥などを検査する磁気探傷装置及び該装置を用いた磁気探傷方法に係り、特に、建築物内部の耐火被覆に覆われた鉄骨の損傷を、耐火被覆を剥がすことなく容易かつ高精度に検出することが可能な磁気探傷装置及び磁気探傷方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、鋼材の損傷部を非破壊で検査する方法が多種多様に提案、実施されているが、そのほとんどが接触型の非破壊検査方法である。例えば、鉄骨溶接部の検査は、一般に超音波探傷法で行われるが、耐火被覆から超音波を発進した場合、鉄骨との距離が大きく、また鉄骨表面からの反射を無視できないので、亀裂の有無を正確に探査するためには、超音波を発進・受信する探傷子を検査体に接触させておかなければならない。これに対し、X線装置を用いた非破壊検査法は非接触型であるが、大型の装置を用いなければならず、簡便ではないという問題がある。そして、他の非接触型の検査法は、検査体との距離を2〜3mmしか離すことができない、などの制限がある。
【0003】
一般に鉄骨部分は、火災を想定して耐火性能が要求されるため、耐火被覆材(厚さ65mm:3時間耐火)を吹きつける方法やコンクリートで保護する方法が採られているので、従来の接触型及び非接触型のいずれの検査法でも検査がきわめて困難である。このため、鉄骨部材を探傷検査する場合には、探傷前に耐火被覆材の除去、検査後の復旧などの作業が必要であり、多大な労力と時間がかかる。さらに、作業時に発生する塵埃や騒音に対する処置も必要となる。
【0004】
このような問題を解決する有力な手法として、被覆材の上から亀裂の探知が可能な電磁誘導法がある。例えば、「被災鉄骨造の非接触損傷調査方法に関する研究」(日本建築学会大会学術講演梗概集;1996年9 月, 倉持 貢他) で示された電磁誘導法によれば、建造物の調査対象部分の耐火被覆材やコンクリートスラブ上に磁気探傷用のコイルをその軸方向が被検査体の面に対して略垂直となるように配置し、該コイル(以下、「励磁コイル」という)に交流電流を流すと共に前後左右に走査させる。
【0005】
この励磁コイルの両端部から漏れ出た交流磁界は耐火被覆材やスラブなどを貫通し、電磁誘導作用によって鉄骨に同心円状の渦電流を発生させる。鉄骨に損傷がある場合、この渦電流が傷により遮られ、形状が変化してしまうため、この変化を、測定器のモニターにより検出することによって、鉄骨の損傷状況を被覆材を剥がすことなく正確に探知できるというものである。
【0006】
なお、上記従来の磁気探傷方法で用いられる磁気探傷用のセンサー(以下、「検出センサー」という)は、交流電流を流すことにより渦電流を発生させるためのコイル(励磁コイル)及び該励磁コイルの軸方向と同方向或いは同軸方向に配置された測定用のコイル(検出コイル)から構成することができる。このうち検出コイルには、励磁コイルの交流磁界により発生した渦電流に起因する交流磁界が差交し、誘導起電力が発生するので、この誘導起電力を測定すれば、損傷状況の影響を受ける渦電流の変化を検出でき、よって損傷の有無を判断することができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の電磁誘導法では、以下のような問題点がある。
【0008】
すなわち、探傷検査作業において、検出コイルの高さ(計測する鉄骨との距離)が一定でも検出コイルと鉄骨の端面との距離が変化すると、コイル出力が変化するので、端面からの距離変化による出力変化と探傷による出力変化との区別が困難となり、検査精度を低下させる。検出コイル1個で亀裂を正確に検出するためには、予め亀裂のない鉄骨を用い、端面による出力変化を測定して校正曲線を作成し、実際の探傷結果と校正曲線とを比較して亀裂の有無を判断しなければならず、上記の電磁誘導法においても検査に多大の労力を要することになる。
【0009】
また、鉄骨部分は、一般に耐火被覆材を吹き付ける方法で保護されているが、この厚さはばらつきが大きく、表面の凹凸も激しいため、鉄骨からの検出コイルの高さが一定に保てず、検査精度が低下する。逆に、検査精度を保とうとすれば、耐火被覆表面を平滑にする必要があり、多大な労力と時間がかかる。そして、平滑作業時に発生する塵埃や騒音に対する処置(検査対象箇所の閉鎖など)も必要となってくる。
【0010】
さらに、励磁コイルと検出コイルとを同軸或いは同方向に配置することにより、励磁コイル、検出コイル直下の損傷を探傷することに主眼を置くため、検出センサーの前方或いは後方の損傷を探傷することが困難であった。
【0011】
本発明は、上記事実に鑑みなされたもので、現状の耐火被覆を剥がしたり平滑にしたりすることなく、容易かつ正確に部材の損傷状況を検査することを可能とすると共に検出センサーの前方或いは後方の損傷を探傷することを可能とした磁気探傷装置及び方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
(本発明の構成)
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、交流電流を印加可能な励磁コイルと、前記励磁コイルの両端部近傍の各位置に、該励磁コイルの軸方向と略直交する軸方向となるように各々略等方向に配置された2個の検出コイルと、から構成された検出センサーと、前記検出センサーを、前記2個の検出コイルの軸方向が導電性の被検査体に対し略垂直となるように配置し前記励磁コイルに交流電流を印加したときに、前記2個の検出コイルに誘起した出力信号の間の出力差及び位相差の少なくともいずれかを検出する検出手段と、を含んで磁気探傷装置を構成したものである。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記励磁コイルの端部から前記2個の検出コイルまでの各間隔を任意に変更可能としたことを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明は、交流電流を印加可能な励磁コイルと、前記励磁コイルの両端部近傍の各位置に、該励磁コイルの軸方向と略直交する軸方向となるように各々略等方向に固定された2個の検出コイルと、から構成される検出センサーを用いて導電性の被検査体の損傷状況を検査する磁気探傷方法において、
前記検出センサーを、前記2個の検出コイルの軸方向が被検査体に対して略垂直となるように被検査体周囲の任意位置に配置する配置工程と、
前記励磁コイルに交流電流を供給する供給工程と、
前記2個の検出コイルに誘起した出力信号の間の出力差及び位相差の少なくともいずれかを検出する検出工程と、
検出された前記出力差及び位相差の少なくともいずれかに基づいて、被検査体の損傷状況を検査する検査工程と、
からなることを特徴とする。
【0016】
請求項4の発明は、請求項3の前記検査工程において、前記検出工程で検出された出力差に基づいて、前記検出センサーが配置された位置に対応する被検査体の位置近傍に損傷が有るか否かを判断することを特徴とする。
【0017】
請求項5の発明は、請求項3の前記検査工程において、被検査体とは異なる方向に走る他の部材が被検査体に接合されている場合、被検査体と該部材との接合部の近傍で検出された位相差に基づいて、該接合部に損傷が有るか否かを判断することを特徴とする。
【0018】
請求項6の発明は、請求項3乃至請求項5のいずれか1項の前記配置工程において、被検査体からの高さを一定に調節されて被覆材に固定された非導電体のガイド板の上の任意位置に、前記2個の検出コイルの軸方向が該ガイド板に対し略垂直となるように前記検出センサーを配置することを特徴とする。
(本発明の原理)
請求項1の発明では、検出センサーに2個の検出コイルを用いているため、自己校正型センサーとなり、2個の検出コイルの出力の比較により、鉄骨の端面からの距離変化による出力の変化を1回の測定で校正することが可能となる。従って、従来のように予め亀裂の無い鉄骨を用いて校正曲線を作成しておくという手間が省略でき、探傷作業を容易に行うことができる。
【0019】
また、このように検出コイル2個を用いる場合、励磁コイルによって鉄骨に発生する2つの渦電流からの磁場を用いて損傷を検出するが、損傷側の磁場が変化すると他方の磁場は逆方向に変化するため、検出コイル1個の場合よりも大きな出力が得られ、より高精度の探傷ができる。例えば、試作装置で概算すると、検出コイル1個に比べて7%の出力向上が得られている。
【0020】
さらに、どちらの検出コイル上に損傷が存在しても出力変化が得られるため、1回の走査でより広い範囲を探傷でき、検出コイル1個の従来と比べて走査回数を1/2以下に減らすことができる。
【0021】
請求項1の発明の検出センサーで探傷作業を実行する場合には、請求項3の発明のように、検出センサーを、2個の検出コイルの軸方向が導電性の被検査体(例えば、鋼板等)に対し略垂直となるように配置する(配置工程)。この場合、励磁コイルは被検査体に対して略平行となる。そして、この状態で励磁コイルに交流電流を供給する(供給工程)。
【0022】
このとき、励磁コイルの両端から漏れ出た交流磁界の一部は被検査体を貫流し、これにより、該被検査体の表面には渦電流が誘導される。そして、この渦電流により2個の検出コイルを差交する交流磁界が発生し、2個の検出コイルには誘導起電力が発生する。
【0023】
励磁コイルは、被検査体の面とほぼ平行に設置されているため、被検査体に損傷が無い場合には、励磁コイルの両端部からそれぞれ漏れ出た交流磁界により発生する各々の渦電流もほぼ等しくなり、よって、2個の検出コイルの出力信号の電圧及び位相も似通ってくる(図11(a)参照)。
【0024】
しかし、被検査体に亀裂がある場合には、一方の検出コイルが亀裂箇所の上を通過していくと、被検査体表面に発生している渦電流の流れは亀裂で遮断されるため、渦電流によって生じる磁界も変化し、2個の検出コイルの出力信号間のバランスが崩れる(図11(b)参照)。よって、2個の検出コイルの出力信号を比較することによって、被検査体の周囲を厚く覆う耐火被覆の上からでも被検査体の亀裂を高精度に検出することが可能となる。
【0025】
さらに、上記配置工程における検出センサーの配置方法では、励磁コイルの両端部から漏れ出た交流磁界は、検出センサーの直下だけでなく検出センサーの前方及び後方にも広がることになる。これにより、検出センサーの前方又は後方にある損傷の探傷できるので、柱梁の入隅部分などの損傷の探傷が可能となる。
【0026】
ここで、柱を連結させた柱−柱モデルを用いた実験で、柱に1か所亀裂があった場合に検出された出力差のグラフ及びこの実験での検出センサーの設置状態を図2(a)に示す。同図において、横軸は、亀裂を原点とした場合の検出センサー先端の距離(X座標)、縦軸は、2個の検出コイルの出力差を各コイルの誘起電圧の差として示したものである。図に示すように、亀裂の位置付近で差動出力電圧が大きな値を示し、請求項4の発明のように、検出コイルの出力差を用いることによって、高精度に亀裂位置を検出できることがわかる。
【0027】
なお、この出力差は、検出コイル1個の絶対出力よりも、亀裂位置を敏感に反映するので、従来の検出センサーよりも検査精度が高くなる。また、校正用の曲線と比較せず、出力差のみで亀裂の有無を判断できるため、熟練しなくても探傷作業ができるという利点がある。
【0028】
また、柱と梁とを接合した柱−梁モデルを用いた実験で、柱と梁との接合部で亀裂がある場合と無い場合とで検出された位相差のグラフ及びこの実験での検出センサーの設置状態を図2(b)に示す。同図において、横軸は、接合部の亀裂を原点とした場合の検出センサー先端の距離(X座標)、縦軸は、2個の検出コイルの出力信号の位相差を、各々等しい振幅に調整された2出力信号の同時点での出力電圧差として表したものである。
【0029】
このような柱−梁モデルでは、その付け根部分には、検出センサーが通過できない上、柱の近傍で検査すると、柱にも渦電流が誘起されるため、柱に近い側の検出コイルの信号は変化し、出力差が大きくなる。この場合には、出力差による接合部の亀裂の有無の判定は困難となる。
【0030】
ここで、接合部に亀裂が無い場合は、梁部分の渦電流は柱部分の渦電流よりも位相が進むのに対し、接合部に亀裂がある場合は、梁部分の渦電流は柱部分の渦電流よりも位相が遅れる。この位相の変化は、図2(b)に示すように、接合部の亀裂の有無による位相差の違いとして現れる。よって、請求項5の発明のように個々の検出コイル間の位相差に基づいて接合部での亀裂の有無を判定することが可能となる。
【0031】
なお、亀裂の無い正常な被検査体を用いて予め2個の検出コイルの出力及び位相を一致させておく方が好ましい。
【0032】
被検査体を取り巻く耐火被覆の厚さは、その耐火基準によって異なるため鉄骨と検出センサー間の距離(センサ高さ)が離れることがある。ここで、センサ高さ(20〜100mm間)によって励磁コイルから発生した磁界の垂直方向成分が変化する様子をシミュレーションした結果を図3に示す。同図に示すように、被検査体上で渦電流を発生させる垂直方向成分は、検出センサーから距離が離れると最大ピーク点が外側へ移動していることがわかる。そこで、請求項2の発明では、励磁コイルと検出コイルとの間隔を可変可能とし、垂直方向成分の最大ピーク点、すなわち、最も渦電流が強くなる点の上に検出コイルの中央部をセンサ高さに応じて配置することを可能とした。これにより、検出感度を向上させることができる。
【0033】
また、請求項6の発明では、被検査体からの高さを一定に調節されて被覆材に固定された非導電体のガイド板の上の任意位置に、検出センサーを配置するようにしたため、被覆材を平滑にしなくても一定のセンサ高さが得られる。よって、簡単に高精度の検査ができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明に係る実施の形態を説明する。
【0035】
図1には、本発明の実施の形態に係る磁気探傷装置の構成ブロックが示されている。同図に示すように、本実施の形態の磁気探傷装置は、耐火被覆34に覆われた鉄骨(鋼板)35の損傷による磁気的変化を検出するための検出センサー14と、該センサーの検出した信号を処理することにより位相差出力信号30及び差動出力信号31を出力する信号処理器33と、から構成される。
【0036】
ここで、検出センサー14は、中央部に配置された励磁コイル11、該励磁コイルの両端部近傍の各位置に配置された検出コイル12及び検出コイル13から構成される。これらのコイルは、長筒状の物体に絶縁被覆線を巻き付けることにより実現できる。なお、検出コイルの断面形状は、任意好適に変更可能であり、例えば角形でも良い。
【0037】
さらに、検出センサー14を構成する各コイルの位置関係を図5(a)の側面図に示す。同図の励磁コイル11、検出コイル12及び検出コイル13の軸方向(コイル中空部の中心を通って開口部と直交する線の方向)をそれぞれP方向、Q方向、R方向とすると、P方向に対してQ方向及びR方向は略直交すると共にQ方向とR方向は、略等しい方向に設定されている。また、励磁コイル11の一方の端部から検出コイル12の中心軸までの間隔d1 及び他方の端部から検出コイル13の中心軸までの間隔d2 は、略等しくなるように設定される。
【0038】
また、本実施の形態に係る検出センサー14は、間隔d1 及び間隔d2 を所定の範囲内で任意に変更可能とする調整機能を有している。この調整機能を実現する手段を備えた検出センサー14の1例を図5(b)に示す。同図に示す検出センサー14は、検出コイル12、13が固定されたスライド板と、励磁コイル11の軸方向と略一致する方向に各スライド板をスライド可能なように構成され、かつその中央部に励磁コイル11が固定されたスライド支持体と、を備えている。
【0039】
このスライド支持体は、各スライド板を固定させるためのストッパーと、励磁コイル11の端部から各検出コイルまでの間隔を示すスケールとを備えている。オペレータは、ストッパーを緩め、スケールを見ながら検出センサー12、13を移動させ、あるスケール値となったところでストッパーを締めることにより、間隔d1 、d2 を自在に設定することができる。なお、ねじやヘリコイド等を用いることにより間隔d1 、d2 の微調整ができるように構成しても良い。
【0040】
また、図1に示すように、信号処理器33は、励磁コイル11に交流電流を供給する交流信号発生部23と、検出コイル12、13の出力信号を処理する検出信号処理部32と、から構成される。
【0041】
ここで、交流信号発生部23は、所定周波数の交流信号を生成する発振回路22と、該発振回路22により生成された交流信号を一定電流の交流電流に増幅する定電流回路21と、からなる。定電流回路21は、励磁コイル11と接続されており、定電流回路21から供給される交流電流により、励磁コイル11には、交流磁界が発生する。
【0042】
検出信号処理部32は、検出コイル12と接続され、該コイルの出力信号を増幅可能な増幅器24、増幅器24により増幅された検出コイル12の出力信号の位相を調整可能な位相調整器26、検出コイル13と接続され、該コイルの出力信号を増幅可能な増幅器25、及び増幅器25により増幅された検出コイル13の出力信号の位相を調整可能な位相調整器27を備えている。
【0043】
さらに、検出信号処理部32は、入力された2つの交流信号の位相差を検出し、検出した位相差情報を位相差出力信号30として出力する位相検波器28と、入力された2つの交流信号の出力差(電圧差、パワー差等)を検出し、検出した出力差を増幅して差動出力信号31として出力する差動増幅器29と、を備えている。
【0044】
位相検波器28には、発振回路22、位相調整器26及び位相調整器27の少なくともいずれか2つの機器が接続されており、接続されている2つの機器の出力信号を入力信号とすることができる。すなわち、位相検波器28に、発振回路22といずれかの位相調整器とが接続されている場合には、位相検波器28は、発振回路22から出力される基準となる交流信号と、接続されているいずれかの検出コイルの出力信号との位相差を検出する。そして、位相検波器28に、位相調整器26、27が接続されている場合には、位相検波器28は、検出コイル12の出力信号と検出コイル13の出力信号との位相差を検出する。
【0045】
なお、検出精度を高めるため、位相調整器26、27を位相検波器28に接続した後者の場合が好ましい。また、位相検波器28が、位相差を示す量として、ある位相(同時点)における2つの入力信号の出力差を検出するようにしても良い。
【0046】
また、差動増幅器29には、位相調整器26及び位相調整器27が接続されており、差動増幅器29は、検出コイル12及び検出コイル13の増幅・位相調整された出力信号の出力差を検出する。
【0047】
なお、以上述べた増幅器24、25、位相調整器26、27、位相検波器28、及び差動増幅器29は、信号処理器33に備えられた調整用つまみ(図示せず)によって、増幅率や位相を調整可能とされている。
【0048】
次に、信号処理器33の出力端にデータ表示・解析用の装置を接続することにより磁気探傷システムを構成した例を図4に示す。同図に示すように、信号処理器33には、位相差出力信号30及び差動出力信号31の少なくともいずれかを表示・記録可能なX−Yレコーダ50、オシロスコープ52、及びコンピュータ54のいずれかが接続されている。勿論、他の表示装置、例えばデジタル表示器などを用いることもできる。オペレータは、これらの装置により表示・記録された信号波形を観察することにより、被検査体(鉄骨35)の損傷状況を判断できる。
【0049】
なお、コンピュータ54は、位相差出力信号30や差動出力信号31の波形を、ディスプレイに表示したり図示しないプリンタに出力したりするだけでなく、位相差出力信号30や差動出力信号31に基づいて自動的に被検査体の損傷状況を判断したり、各出力信号や損傷状況をデータベース化する処理等を行うことが可能である。
【0050】
次に、本実施の形態の磁気探傷装置を用いて損傷状況の検査を実行する際のセンサー設置例を図6に示す。ここでは、図5(c)に示すように、励磁コイル11をI次形コイルで構成した検出センサー14を用いることとする。なお、図6において、数字はmm単位であり、それぞれ指定された部分の寸法を示している。また、I字形コイル11の断面形状は円形又は角形のいずれでも良い。
【0051】
図6に示すように、まず、被検査体の柱又は梁を覆う耐火被覆にガイド板17を設置し、そのガイド板17の上に検出センサー14を配置する。すなわち、検出センサー14は、このガイド板17の上を検出方向15に沿って走査される。また、ガイド板17には、検出センサー14の位置決めに用いる浅い溝が設けられており、この溝に沿って位置スケールも表示されている(図示せず)。
【0052】
ガイド板17の溝を検査方向15に合わせ、この溝に沿って検出センサー14を走査し、位置スケールにより検出センサー14の位置を読み取ることで正確な位置を再現し、これによって検査精度をさらに高めることができる。なお、ガイド板17の材料は、非導電体のアクリル樹脂などのプラスチック製品が望ましい。
【0053】
次に、図6のように配置された検出センサー14を用いて被検査体の損傷状況を検査したときの磁気探傷方法の流れを図10のフローチャートを用いて説明する。
【0054】
図10のフローチャートに示すように、まず、検査を開始する前に検出コイル12、13の出力調整、位相調整及び間隔調整を行っておく(ステップ200)。この調整時において、検出センサー14を損傷の無い正常な平鋼板の上に置き、励磁コイル11に交流電流を供給し、これにより検出コイル12、13に誘起電圧を生じさせる。
【0055】
このとき、位相調整では、信号処理器33が出力した位相差出力信号30が零に一致又は略一致するように、位相調整器26、27を調整して各出力信号の位相を揃え、出力調整では、差動出力信号31が零に一致又は略一致するように、増幅器24、25の増幅率を調整して各出力信号の出力を揃える。これらの調整は、図示しない調整つまみを回すだけの簡単な操作であり、初心者でも十分に可能である。
【0056】
そして、間隔調整では、被検査対象となる鋼板からの検出センサー14の高さに応じて定まる垂直方向磁界のピーク位置(図3参照)に検出コイル12、13の中央軸部がくるように間隔d1 、d2 (図5(a)、(b)参照)を調整する。
【0057】
次に、検出センサー14を、耐火被覆の上のスタート位置Xs に配置する(ステップ202)。ここでは、図6に示すように、柱と梁の接合部を原点とし、原点から梁鋼板の長手方向(検査方向15)に沿って検出センサー14の先端部までの距離をXとする。すなわち、ステップ202では、X←Xs とする。なお、検出センサー14の向き(励磁コイル11の軸方向)は、検査方向15に略一致させておく。
【0058】
そして、交流信号発生部23から励磁コイル11に交流電流を供給する(ステップ204)。これにより、励磁コイル11には、交流磁界が発生し、図11(a)に示すように、その両端部から漏れ出た磁界41、42の一部は、鋼板35に貫流し、これにより鋼板35に渦電流43、44が生成される。そして、この渦電流43、44により、反磁界45、46が発生する。この反磁界45、46は鋼板の面に対して略垂直な軸を有する検出コイル12、13と差交し、差交した反磁界45、46の時間的変化により検出コイル12、13には、誘導電圧が発生し、出力信号として出力される。
【0059】
なお、図11(a)は、損傷が無い位置を検査した場合の磁界を示すものであり、渦電流43、44がほぼ等しいため反磁界45、46も等しく、各検出コイルの出力信号は、同位相、同出力振幅を示すことがわかる。但し、図11(a)に示された磁界は交流磁界なので、磁界方向を示す矢印の向きは交互に入れ換わることとなる(後述する図11(b)も同様)。
【0060】
また、励磁コイル11の両端部から漏れ出た磁界41、42は、検出コイル12、13の位置にも至るが、この位置では磁界41、42の垂直方向の成分はきわめて小さいので、磁界41、42によって、励磁コイル11の垂直方向に向いた検出コイル12、13に誘起される電圧は無視できる。
【0061】
検出コイル12、13で発生した各々の出力信号は、図1の増幅器24、25により増幅され、位相調整器26、27により位相調整される。そして、差動増幅器29により、各出力信号から検出された差動出力信号31が出力されると共に、位相検波器28により、各出力信号から検出された位相差出力信号30が出力される。
【0062】
そこで、図10のフローチャートに示すように、信号処理器33の後段に接続されている表示・記録装置(図4参照)により、位置Xに検出センサー14を配置したときの差動出力信号S(X)を検出すると共に(ステップ206)、位相差出力信号P(X)を検出する(ステップ208)。このとき、図4のX−Yレコーダ50を用いて、検出したデータを順次、記録紙に記録したり、オシロスコープ52やデジタル表示器に表示された検出値を紙にプロットする。また、コンピュータ54の記憶装置に検出値を記憶しても良い。
【0063】
次に、検出センサー14の現時点の配置位置Xが検査終了位置Xe に一致しているか否かを判定する(ステップ210)。なお、図6の場合、検査終了位置Xe は、検出コイル12の先端部が柱と梁との接合部を覆う被覆材の角に至ったときの検出センサー14の位置に相当する。
【0064】
現時点の位置Xが検査終了位置Xe でない場合(ステップ210否定判定)、検出センサー14を所定距離ΔXだけ検査方向15へ移動させる。これにより、検出センサー14の位置XはXs −ΔXとなる。そして、ステップ206、208に戻り、更新された位置Xについて再び差動出力信号S(X)及び位相差出力信号P(X)を検出し、同様の処理を実行する。
【0065】
このようにして、順次、スタート位置Xs から終了位置Xe までΔX刻みに差動出力信号S(X)及び位相差出力信号P(X)が得られていく。ここで、亀裂が無い位置を検査した場合は、検出コイル12、13の出力信号は、ほぼ同位相であり、出力振幅レベルも近いため、差動出力信号S(X)及び位相差出力信号P(X)は、小さい値となる。
【0066】
これに対し、例えば、図11(b)に示すように、損傷部80に検出センサー14が近づくと、亀裂部分の抵抗値が大きくなっているため、磁界41により生じる渦電流は、亀裂が無い場合と比較して電流値が小さくなる。また、検出センサー14の接近と共に、損傷部80を境にして渦電流が43aから43bへと変化し、これによって生じる反磁界45、46も変化する。この結果、検出コイル12を差交する磁束が検出コイル13を差交する磁束と異なってくるため、差動出力信号が大きくなる。
【0067】
そこで、図10のフローチャートに示すように、現時点の位置Xが検査終了位置Xe に一致した場合(ステップ210肯定判定)、位置Xs からXe までの差動出力信号S(X)に基づいて損傷位置を検出する(ステップ214)。
【0068】
一方、検出センサー14が柱と梁との接合部に近づいた位置では、被検査対象(梁)と垂直に交わる柱に励磁コイル11の端部から漏れ出た磁界が貫流し、柱に発生した渦電流によって柱に近い検出コイルに誘起される電圧が変化し、接合部の亀裂の有無に係わらず差動出力信号が変化する。しかし、出力電圧の絶対値は、センサ高さや被検査体の大きさなどで変化するため、差動出力信号によっては接合部の亀裂の有無を判定することは困難となる。既に図2により説明したように、柱と梁との接合部における亀裂(図6の損傷部82)の有無により、位相差出力信号の出力パターンが反転するという実験結果が得られている。
【0069】
そこで、図10のフローチャートに示すように、位相差出力信号P(X)に基づいて、柱と梁との接合部の亀裂の有無を判定し(ステップ216)、検査を終了する。なお、ステップ214、216の損傷位置の検出において、オペレータは、X−Yレコーダ50等により記録された波形を見、該波形の変化パターン、記録信号の絶対値が基準値を越えたか否か、或いは信号の出力パターンにより、損傷位置を判定する。なお、この判定基準をプログラム化し、コンピュータ54が自動的に損傷位置を判断するようにしても良い。
【0070】
なお、本実施の形態では、2個の検出コイルを用いるため、検出コイル1個の従来技術よりも大きな検出値を得ることができ、より高精度の探傷が可能となる。この大きな出力が得られる理由として、励磁コイルによって鋼板に発生する2つの渦電流からの磁場のうち損傷側の磁場が変化すると他方の磁場は逆方向に変化する性質を有していることが挙げられる。試作装置で概算した場合、検出コイル1個に比べて約7%の出力向上が得られている。
【0071】
ここで、本実施の形態に係る磁気探傷装置の一実測例を図12(a)〜図12(f)に示し、上記ステップ214、216において高精度に亀裂を検出できることを示す。
【0072】
図12(a)は、一部に亀裂のある鉄骨の上から高さ50mmで検出センサーを走査したときの2個の検出コイルの各々の出力変動を表したグラフであり、図12(b)は、同一条件下で前記2個の検出コイルの出力を差動増幅器29に入力して得た差動出力信号のグラフである。図12(a)では、縦軸を拡大してあるので僅かに変化しているのがわかるが、差動処理することにより、変化は顕著に捕らえられることがわかる。
【0073】
また、図12(c)はセンサ高さ50mmで一箇所全破断した鉄骨の上を走査したときの差動出力電圧のセンサ位置に対する変化であり、図12(d)は、同一条件下でセンサ高さ100mmとしたときの差動出力電圧の変化である。なお、横軸は、亀裂位置から検出センサー14の先端までの距離をmm単位で表したものである。
【0074】
図12(c)、(d)において、差動出力電圧のピークが2つあるのは、2つの検出コイルが亀裂部分をそれぞれ通過したときに差動出力電圧がピークとなるからであり、2つのピーク間の距離は、検出コイル12、13の軸部の間の距離に等しくなっている。図12(c)より、センサ高さ50mmにおいて、差動出力電圧が、基準値1.1Vを越えたときの一方の検出コイル先端の位置を亀裂位置と判定できることがわかる。勿論、この基準値は、センサ高さによって変更する。被検査体とセンサとの距離が離れている図12(d)の場合でも、電圧の絶対値は小さくなるものの図12(c)と同様の電圧変化パターンを示し、いずれの場合においても亀裂を正確に検出できることがわかる。
【0075】
なお、亀裂位置の判定において、基準値を越えたか否かだけでなく、差動出力電圧の変化パターンも考慮することにより、精度の高い判定が可能となる。
【0076】
また、図12(e)は、柱と梁の境界部分近傍に亀裂がある場合と無い場合との差動出力電圧のセンサ位置に対する変化である。亀裂の有無に係わらず、接合部に近づくと差動出力電圧は増加する。差動出力電圧の絶対値は、センサ高さや被検査体の大きさなどで変化するため、差動出力電圧による接合部の亀裂の有無の判断は困難であることがわかる。
【0077】
これに対し、図12(f)は、柱と梁の境界部分近傍に亀裂がある場合と無い場合との位相差出力電圧のセンサ位置に対する変化を示すもので、位相差出力の変化は、僅差ではあるが接合部の亀裂の有無に応じて出力パターンが反転する。従って、位相差出力電圧の出力パターンを検知することにより、接合部における亀裂の有無を高精度で検出できることがわかる。
【0078】
このように本実施の形態では、高精度に亀裂の位置等を検出することが可能であるが、図12(c)と図12(d)とを比較すると、センサ高さにより差動出力信号が異なるので、精度を維持するためには、検査時においてセンサ高さを一定にしておかなければならないことがわかる。
【0079】
そこで、センサ高さを一定にするためのガイド板の取付け方法を図7〜図9を用いて説明する。
【0080】
図7には、断面が矩形状をなした所謂ボックス柱に、ガイド板を取り付けた状態の例が示されている。同図において、62はガイド板、60はガイド板62をボックス柱に取り付けるための取付板、64はガイド板62と取付板60とを接合するための六角ボルト、66は高さ調整用の丸棒である。
【0081】
このボックス柱へのガイド板の取付け方法は、手順▲1▼として、まず、ガイド板の位置を決定した後、高さ調整用丸棒を用いてボックス柱の鉄骨(ボックス柱の中心や最も近い鉄骨の表面を基準点とする)からガイド板までの高さを正確に調整する。このとき、ガイド板の高さが、始端から終端まで正確に同じ高さになるように調整する。
【0082】
次に手順▲2▼として、高さ調整されたガイド板62に合わせて取付板60の位置を決定し、高さ調整用丸棒を用いてガイド板に接続されるように取付板60の高さ調整を行い、六角ボルト64によって取付板とガイド板とを固定する。このように高さを正確に調整されたガイド板をボックス柱にしっかりと固定することによって、磁気探傷方法を実行している間でも、ガイド板が動かず、よって被検査体からの検出センサー14の高さが一定に保たれ、高精度の検査が可能となる。
【0083】
また、図8には、断面がH字状をなした所謂H綱の梁に、2個のガイド板を取り付けた状態の例が示されている。この場合、2個のガイド板の上を検出センサー14を走査することにより、H綱の2つの検査面の探傷状況を検査することができる。
【0084】
同図において、70は第1のガイド板、72は第2のガイド板としてのアクリル板、61は第1のガイド板70と第2のガイド板72とを取り付けるための取付板、68は取付板61の位置決め用六角ボルトであり、他は図7と同様である。
【0085】
このH綱の梁への第1及び第2のガイド板の取付け方法は、手順▲1▼として、まず、第2のガイド板72の位置を決定した後、高さ調整用丸棒66を用いてH綱の鉄骨から第2のガイド板72までの高さを正確に調整する。このとき、ガイド板の高さが、始端から終端まで正確に同じ高さになるように調整する。
【0086】
次に手順▲2▼として、高さ調整されたガイド板72に合わせて取付板61の位置を決定し、高さ調整用丸棒を用いてガイド板に接続されるように取付板60の高さ調整を行い、六角ボルト64によって取付板とガイド板とを固定し、位置決め用六角ボルト68によってH綱に固定する。
【0087】
次に、手順▲3▼として、取付板61に合わせて、第1のガイド板70の位置を決定した後、高さ調整用丸棒66を用いてH綱の鉄骨から第1のガイド板70までの高さを正確に調整する。そして、六角ボルト64により、第1のガイド板70を取付け板61に固定する。
【0088】
このように高さを正確に調整された第1及び第2のガイド板をH綱にしっかりと固定することによって、本磁気探傷方法を実行している間でも、各ガイド板が動かず、よって被検査体からの検出センサー14のH綱からの高さが一定に保たれ、簡単に高精度の検査が可能となる。
【0089】
さらに、図9には、下フランジ上面へ走査治具(ガイド板及びその支持体)を取付けた状態が示されている(数字はmm単位)。同図において、90はガイド板の支持体として機能するウェブ面プレート、91はガイド板として機能する走査面プレートである。
【0090】
この走査治具の取付け手順は、まず、ウェブ面プレート90をフランジの耐火被覆上を滑らせながらウェブ面と略平行となるように取り付け、次に、走査面プレート91をウェブ面プレート90に添わせてフランジと略平行となるように取り付けるというものである。このように走査治具が取り付けられた状態で走査面プレート91上を検出センサー14を走査することにより磁気探傷が実行される。
【0091】
このような走査治具を用いることによってフランジ幅の変化に容易に対応できることがわかる。但し、ウェブ面プレートはウェブ面と平行な面(基準面とする)を作るためのものであり、ウェブの軸方向に対して必ずしも平行である必要はない。
なお、図7〜図9のいずれの構成部材も、交流磁界に対して影響の無い非導電体、例えばアクリル樹脂などのプラスチック材料を用いる。また、図7〜図9の走査治具は、取り付ける部材が特殊形状であっても若干の改良により対応できる。
【0092】
以上が本発明の実施の形態であるが、本発明は上記例にのみ限定されるものではない。例えば、励磁コイル11として、上記実施の形態では、図5(c)に示したようなI字形コイルを用いたが、U字形コイルなどの他の形態のコイルを用いることもできる。
【0093】
また、上記実施の形態では、図6の検査方向15が、鉄骨の長手方向と略一致する場合を例にしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、長手方向以外の方向、例えば、鉄骨の板巾方向を検査方向として選ぶこともできる。
【0094】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、磁気探傷に用いる検出センサーを、励磁コイル及び該コイルの軸方向と略直交する2個の検出コイルで構成したので、従来のように予め亀裂の無い被検査体を用いて校正曲線を作成しておくという手間が省略されて探傷作業を容易に行うことができるという効果が得られる。また、検出コイル2個を用いることにより、検出コイル1個の場合よりも大きな出力が得られ、より高精度の探傷が可能となると共に、どちらの検出コイル上に損傷が存在しても出力変化が得られるため、1回の走査でより広い範囲を探傷でき、検出コイル1個の従来と比べて走査回数を1/2以下に減らすことができる。
【0095】
また、請求項1の発明は、2個の検出コイルに誘起した出力信号の間の出力差及び位相差の少なくともいずれかを検出するようにしたので、被覆材を剥ぐこと無く、容易かつ正確に損傷状況を検査することができる、という効果が得られる。
【0096】
さらに、請求項2の発明によれば、励磁コイルと検出コイルとの間隔を可変可能としたので、垂直方向成分の最大ピーク点、すなわち、最も渦電流が強くなる点の上に検出コイルの中央部をセンサ高さに応じて配置することが可能となり、検出感度を向上させることができる、という効果が得られる。
【0097】
また、請求項3の発明によれば、2個の検出コイルに誘起した出力信号の間の出力差及び位相差の少なくともいずれかを検出し、この検出値に基づいて被検査体の損傷状況を検査するようにしたので、被覆材を剥ぐこと無く、容易かつ正確に損傷状況を検査することができる、という効果が得られる。
【0098】
さらに、請求項3の発明によれば、励磁コイルの軸方向と略直交する2個の検出コイルを備えた検出センサーを、2個の検出コイルの軸方向が被検査体に対して略垂直となるように配置するため、励磁コイルの両端部から漏れ出た交流磁界は、検出センサーの直下だけでなく検出センサーの前方及び後方にも広がり、よって検出センサーの前方又は後方にある損傷の探傷が可能となる。
【0099】
さらに、請求項4の発明によれば、2個の検出コイルの出力信号の間の出力差に基づいて、検出センサーが配置された位置に対応する被検査体の位置近傍に損傷が有るか否かを判断するようにしたので、高精度に損傷位置の検出ができる、という効果が得られる。
【0100】
さらに、請求項5の発明によれば、被検査体とは異なる方向に走る他の部材が被検査体に接合されている場合、接合部の近傍で検出された位相差に基づいて、接合部に損傷が有るか否かを判断するようにしたので、接合部の上を検出センサーを配置できない場合でも、比較的容易に接合部の亀裂の有無を判定することができる、という効果が得られる。
【0101】
また、請求項6の発明によれば、被検査体からの高さを一定に調節されて被覆材に固定された非導電体のガイド板の上の任意位置に、検出センサーを配置するようにしたので、被覆材を平滑にしなくてもセンサ高さが一定となり、よって、簡単に高精度の検査ができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気探傷装置の構成ブロックを示す図である。
【図2】本発明の原理を説明するための図であって、(a)は、柱−柱モデルで探傷状況の検査を行う場合のセンサ配置図及びセンサ先端の位置に対する差動出力電圧のグラフ、(b)は、柱−梁モデルで柱と梁との接合部の亀裂の有無を検査する場合のセンサ配置図及びセンサ先端の位置に対する位相差出力の亀裂の有無別のグラフである。
【図3】励磁コイルに交流電流を流したときに鋼板に生じた渦電流により発生した磁界の、センサ高さ毎の垂直方向の磁界分布である。
【図4】本発明の実施の形態に係る磁気探傷システムの構成例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る検出センサーの概略図であって、(a)は励磁コイルと検出コイルとの位置関係を示す図、(b)は励磁コイルと検出コイルとの間隔の調整機能を有する場合の構成図、(c)は励磁コイルとしてI字形コイルを用いた場合の外観図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る磁気探傷方法により被検査体の探傷状況の検査を行う場合の検出センサー及び被検査体の概略の設置図である。
【図7】探傷状況の検査時に、検出センサーのガイド板として機能するアクリル板を、ボックス柱に取り付けた場合の状態図及び該アクリル板の取付け手順を示す図である。
【図8】探傷状況の検査時に、検出センサーのガイド板として機能するアクリル板を、H綱の梁に取り付けた場合の状態図及び該アクリル板の取付け手順を示す図である。
【図9】走査治具を下フランジ上面へ取付けた状態を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る磁気探傷方法の流れを示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態に係る励磁コイルに交流電流を流したときに発生する磁界、鋼板に発生する渦電流、及び渦電流により生じた反磁界の分布を示す図であっって、(a)は損傷部が検出コイルの位置の近傍にはない場合の図、(b)は損傷部が検出コイルの近傍にある場合の図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る信号処理器が出力した信号の、亀裂から検出センサー先端までの距離に対する変化を示すグラフであって、(a)は一部破断試験体を用いた場合の個々のセンサ出力電圧、(b)は一部破断試験体を用いた場合の差動出力電圧、(c)は全破断試験体を用いた場合のセンサ高さ50mmでの差動出力電圧、(d)は全破断試験体を用いた場合のセンサ高さ100mmでの差動出力電圧、(e)は柱−梁接合部に亀裂がある場合の差動出力電圧、(f)は柱−梁接合部に亀裂がある場合の位相差出力電圧の変化のグラフを示す。
【符号の説明】
11 励磁コイル
12 検出コイル
13 検出コイル
14 検出センサー
21 定電流回路
22 発振回路
23 交流信号発生部
24 増幅器
25 増幅器
26 位相調整器
27 位相調整器
28 位相検波器
29 差動増幅器
30 位相差出力信号
31 差動出力信号
32 検出信号処理部
33 信号処理器
50 X−Yレコーダ
52 オシロスコープ
54 コンピュータ

Claims (6)

  1. 交流電流を印加可能な励磁コイルと、
    前記励磁コイルの両端部近傍の各位置に、該励磁コイルの軸方向と略直交する軸方向となるように各々略等方向に配置された2個の検出コイルと、
    から構成された検出センサーと、
    前記検出センサーを、前記2個の検出コイルの軸方向が導電性の被検査体に対し略垂直となるように配置し前記励磁コイルに交流電流を印加したときに、前記2個の検出コイルに誘起した出力信号の間の出力差及び位相差の少なくともいずれかを検出する検出手段と、
    を含む磁気探傷装置。
  2. 前記励磁コイルの端部から前記2個の検出コイルまでの各間隔を任意に変更可能としたことを特徴とする請求項1記載の磁気探傷装置。
  3. 交流電流を印加可能な励磁コイルと、
    前記励磁コイルの両端部近傍の各位置に、該励磁コイルの軸方向と略直交する軸方向となるように各々略等方向に固定された2個の検出コイルと、
    から構成される検出センサーを用いて導電性の被検査体の損傷状況を検査する磁気探傷方法であって、
    前記検出センサーを、前記2個の検出コイルの軸方向が被検査体に対して略垂直となるように被検査体周囲の任意位置に配置する配置工程と、
    前記励磁コイルに交流電流を供給する供給工程と、
    前記2個の検出コイルに誘起した出力信号の間の出力差及び位相差の少なくともいずれかを検出する検出工程と、
    検出された前記出力差及び位相差の少なくともいずれかに基づいて、被検査体の損傷状況を検査する検査工程と、
    からなることを特徴とする磁気探傷方法。
  4. 前記検査工程において、
    前記検出工程で検出された出力差に基づいて、前記検出センサーが配置された位置に対応する被検査体の位置近傍に損傷が有るか否かを判断することを特徴とする請求項3記載の磁気探傷方法。
  5. 前記検査工程において、
    被検査体とは異なる方向に走る他の部材が被検査体に接合されている場合、被検査体と該部材との接合部の近傍で検出された位相差に基づいて、該接合部に損傷が有るか否かを判断することを特徴とする請求項3記載の磁気探傷方法。
  6. 前記配置工程において、
    被検査体からの高さを一定に調節されて被覆材に固定された非導電体のガイド板の上の任意位置に、前記2個の検出コイルの軸方向が該ガイド板に対し略垂直となるように前記検出センサーを配置することを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか1項記載の磁気探傷方法。
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