JP3753071B2 - レーダ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、連続波を周波数変調した電波を送受信して物標の探知を行うレーダに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
連続波(CW)を周波数変調(FM)した電波を送受信して物標の探知を行うFM−CWレーダは、周波数が次第に上昇する上り変調区間と、周波数が次第に下降する下り変調区間とが、時間的に三角波状に繰り返し変化する送信信号を送信し、物標からの反射信号を含む受信信号を受信するようにし、送信信号と受信信号との周波数差の信号であるビート信号の周波数スペクトルに基づいて物標の相対距離および相対速度を求めるものである。また、上記の動作を所定方位を向く1つのビームについて行い、そのビーム方位を順次変化させることによって、所定方位角範囲について分布する物標の探知を行う。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
物標が単一である場合には、上り変調区間と下り変調区間において、物標からの反射波に基づくビート信号の周波数スペクトルにそれぞれ単一の突出部が生じる。従って、その突出部のピーク周波数を、上り変調区間のビート信号の周波数(以下「アップビート周波数」という。)と下り変調区間のビート信号の周波数(以下「ダウンビート周波数」という。)とに基づいて、物標の相対距離および相対速度を求めることができる。
【0004】
ところが、探知範囲内に複数の物標が存在する場合には、同一ビームについて、上り変調区間と下り変調区間のそれぞれにおいて、周波数スペクトルに多数の突出部が生じる。そのため、複数のアップビート周波数と複数のダウンビート周波数との組み合わせ(以下「ペアリング」という。)にミスが生じるおそれがあった。
【0005】
そこで、▲1▼特許第2765767号には、互いに略同一信号強度を有する周波数スペクトル上の突出部を、同一物標によるものとして選出するものが示されている。また、▲2▼特開2000−65921には、上り変調区間での周波数スペクトル上に現れる突出部と、下り変調区間における周波数スペクトル上に現れる突出部とを、代表ビーム方位の等しいもの同士でペアリングするものが示されている。
【0006】
ところが、▲1▼のレーダでは、周波数スペクトル上に同一信号強度の突出部が複数存在する場合には、適切なペアリングでができないという問題があった。また、▲2▼のレーダにおいては、代表ビーム方位が等しい突出部グループが複数存在する場合には、適切なペアリングができないという問題があった。
【0007】
この発明の目的は、略同一信号強度の突出部が周波数スペクトル上に存在しても、また代表ビーム方位の等しい突出部グループが複数組存在しても、適切なペアリングを可能としたレーダを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、所定ビーム方位の上り変調区間と下り変調区間のそれぞれについて、周波数スペクトルに現れる突出部のピーク周波数を求め、各物標に対応する所定ビーム方位方向に隣接する複数ビーム分について、ピーク周波数に等しい周波数における信号強度プロファイルをそれぞれ抽出し、下記の式に基づいて上り変調区間での各プロファイルと下り変調区間での各プロファイルとのそれぞれの正規化した相関係数を求め、それぞれの前記プロファイルに対して求められた前記相関係数のうち、該相関係数が最も大きい組み合わせとなる前記上り変調区間でのプロファイルと前記下り変調区間のプロファイルとをペアとして選定するペアリング手段を設けたことを特徴とする。
【0009】
このように、所定ビーム方位方向に隣接する複数ビーム分について、周波数スペクトルに現れる突出部のピーク周波数に等しい周波数における信号強度プロファイルをペアリングのための元データとして用いる。すなわち、この上り変調区間での信号強度プロファイルと、下り変調区間での信号強度プロファイルとの相関係数を求め、正規化された相関係数の最も高い組み合わせを、同一物標からの反射波に起因して生じたものと見なす。このことにより、ペアリングミスを抑える。
【0010】
また、この発明は、前記突出部がビーム方位方向に連続する部分を突出部グループとして抽出する手段を設け、該突出部グループの信号強度プロファイルを抽出することを特徴とする。このように1つの突出部グループについて、1つの信号強度プロファイルを用いてペアリングすることにより、扱うべきデータ量および演算処理量を削減する。
【0011】
また、この発明は、前記相関係数を求める計算の対象とする、前記突出部のビーム方位方向の信号強度のデータ数を、単一のビーム幅に含まれるビーム本数に略等しい数とすることを特徴とする。例えば1本のビームが形成するビーム幅(ビーム方位方向の幅)が、N本分のビームに亘って走査される時、ビーム方位方向の幅が最も狭い物標では、ビーム走査に伴い、N本分のビームに亘って反射波が生じる。すなわち、周波数スペクトル上の突出部は、ビーム方位方向の連続するN個のビーム分について突出部が生じる。したがって、N個の信号強度データに基づいて相関係数を求めることによって、小さな物標に対しても、同一物標に起因して生じた信号強度プロファイル同士の相関係数を大きくし、小さな物標で対してもペアリング精度を向上させる。
【0012】
また、この発明は、前記相関係数を求める計算の対象とする、突出部のビーム方位方向の信号強度のデータ数を、物標の距離が遠くなる程、少なくなるようにすることを特徴とする。物標の距離が遠くなる程、ビーム方位方向に連続する突出部の数が減少するので、それに合わせて相関係数を求める計算の対象とするデータ数を加減することにより、同一物標からの反射波に起因する信号強度プロファイル同士の相関係数をより高めて、ペアリング精度を高める。
【0014】
また、この発明は、前記走査範囲の端付近で前記突出部のビーム方位方向の前記ピーク信号強度のデータ数が、前記相関係数を求めるのに必要な数に達しないとき、不足分のデータを無視して相関係数を求めることを特徴とする。これにより、ビーム走査範囲の端付近でも、相関係数を利用したペアリングを可能とする。
【0015】
また、この発明は、ビームの走査範囲の端付近で、前記突出部の方位方向の前記信号強度のデータ数が、前記相関係数を求めるのに必要な数に達しないとき、不足分のデータを所定のデータで補足して相関係数を求める。例えば、不足分のデータを走査範囲の内側の信号強度データで補足するか、一定値のデータで補足する。これにより、相関係数の算出に必要なデータ数を固定したまま、同じ計算方法で算出可能とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
この発明の実施形態に係るレーダの構成を、各図を参照して以下に説明する。
【0017】
図1はレーダの構成を示すブロック図である。図1において1は、ミリ波信号の送受信を行うフロントエンド、2はフロントエンド1に接続したレーダ制御部である。レーダ制御部2内において、101で示す部分はビート信号の信号処理部,102で示す部分は、送信信号の変調およびビーム方位の検出を行う制御部、103はビーム走査および通信制御を行う部分である。タイミング生成部11は送信信号の変調のためのタイミング信号を生成する。変調制御部12はそのタイミング信号に同期して各時点で必要な送信周波数のミリ波信号を送信するための制御データ(値)をLUT13へ出力する。このLUT13はルックアップテーブルであり、予め入力値に対する出力値の関係をテーブル化したものである。DAコンバータ14はルックアップテーブル13から出力された値に応じたアナログ電圧信号をフロントエンド1へ与える。フロントエンド1には電圧制御発振器(VCO)を備えていて、DAコンバータ14から出力された電圧をVCOに対する制御電圧として入力し、その電圧に応じた周波数のミリ波信号を送信する。
【0018】
フロントエンド1には、送信信号にカップリングして取り出したローカル信号と受信信号とをミキシングしてビート信号を出力するミキシング回路が備えている。ADコンバータ15は、そのビート信号を所定のサンプリング周期でサンプリングすると共にデジタルデータ列に変換する。信号処理部101はデジタル信号処理回路(DSP)から構成していて、この信号処理部101内部での信号処理は積和演算を主としてプログラム処理により行われる。
【0019】
FFT処理部16では、入力した所定サンプリングデータ数のデータを高速フーリエ変換して、離散周波数分析を行いパワースペクトルを求める。
【0020】
突出部検出部17は、周波数スペクトルに現れる信号強度の突出部のピーク周波数およびピーク周波数の信号強度を検出する。グルーピング部18は、周波数スペクトルに現れる突出部がビームを方位方向に連続するグループを、突出部グループとして抽出する。
【0021】
ペアリング部19は、上り変調区間での複数の突出部グループと、下り変調区間での複数の突出部グループとの組を照合し、同一物標に起因して生じた突出部グループ同士の組み合わせを決定する。
【0022】
距離・速度算出部20は、ペアリングした突出部グループについて、上り変調区間でのピーク周波数と、下り変調区間でのピーク周波数とから、その突出部グループを生じさせた物標の相対距離および相対速度を算出する。
【0023】
モーター(ビーム方位)制御部22は、フロントエンド1に対してビーム方位の制御データを与える。フロントエンド1にはビーム方位を変化させるモーターを備えていて、モーター(ビーム方位)制御部22からの制御データに基づいて指定された方位にビームを向ける。また、フロントエンド1にはビーム方位の検出用信号を出力する手段を備えていて、角度読み取り部23はその信号を読み取って現在のビーム方位を求める。
【0024】
通信制御部21は、ビーム方位と、そのビーム方位における各物標の相対距離および相対速度のデータを上位システム(ホスト装置)へ出力する。また、通信制御部21は、上位システムから制御データを受け取って、変調・ビーム方位検出制御部102へ与える。例えばビーム方位の変化速度の設定や上り変調区間と下り変調区間の繰り返し速度の設定などを行う。
【0025】
図2は、物標までの距離と相対速度に起因する、送信信号と受信信号の周波数変化のずれの例を示している。送信信号の周波数上昇時における送信信号と受信信号との周波数差がアップビートの周波数fBUであり、送信信号の周波数下降時における送信信号と受信信号との周波数差がダウンビートの周波数fBDである。この送信信号と受信信号の三角波の時間軸上のずれ(時間差)が、アンテナから物標までの電波の往復時間に相当する。また、送信信号と受信信号の周波数軸上のずれがドップラシフト量であり、これはアンテナに対する物標の相対速度に起因して生じる。この時間差とドップラシフト量によってアップビートfBUとダウンビートfBDの値が変化する。すなわち、このアップビートとダウンビートの周波数を検出することによって、レーダから物標までの距離およびレーダに対する物標の相対速度を算出する。
【0026】
図3は、レーダの送受信ビームの方位と複数の物標との関係の例を示している。ここで、Boは自車に搭載されたレーダの正面方向である。B+1,B+2・・・は、正面から右方向にビーム方位を変異させた時の各ビーム方位を示している。同様に,B-1,B-2・・・は、正面から左方向にビーム方位を変異させた時の各ビーム方位を示している。
【0027】
図3において四角く表している物標OB1〜OB3は、自車の前方に存在する他車である。矢印はそれらの走行方向を示している。
【0028】
図4は、上り変調区間と下り変調区間について、方位の異なるビームごとの周波数スペクトル上に現れる突出部のピーク周波数を示す図である。横軸にビーム方位、縦軸に周波数スペクトルに含まれる突出部のピーク周波数をとって、直角座標で表している。ここで、Gu1,Gu2,Gu3は、3つの物標に起因して生じた上り変調区間での周波数スペクトル上の突出部がビーム方位方向に連なった突出部グループである。またGd1,Gd2,Gd3は、3つの物標に起因して生じた下り変調区間での周波数スペクトル上の突出部がビーム方位方向に連なった突出部グループである。
【0029】
このように、所定ビーム方位方向に隣接する複数ビーム分について信号強度プロファイルを抽出する。例えば、図4の(C)において、ビーム方位Bj、周波数Fiについて、5本のビーム分について信号強度プロファイル(以下、単に「プロファイル」という。)を求める場合には、そのビーム方位Bjを中心とするビーム方位Bj-2〜Bj+2の5本のビームについて、同一周波数Fiの信号強度を求める。また、例えばビーム方位Bj+1、周波数Fiについて信号強度プロファイルを抽出する場合には、そのビーム方位Bj+1を中心とするビーム方位Bj-1〜Bj+3について、周波数Fiの信号強度のデータ列をプロファイルとして抽出する。
【0030】
このようにして、周波数スペクトルに現れる突出部の各点についてプロファイルを抽出する。そして、上り変調区間について求めたプロファイルと、下り変調区間について求めたプロファイルとの全ての組み合わせについて相関度を求め、最も相関度の高い組み合わせを選定する。図4の(A),(B)には、各突出部グループのプロファイルも示している。これらのプロファイル同士の相関度の最も高い組み合わせが、同一物標からの反射波に起因して生じたプロファイル同士であるものと見なせる。
【0031】
上述のプロファイルの求め方では、すべての突出部のピーク周波数について、それぞれプロファイルが求まる。しかし、1本のビームのビーム幅が、ビーム走査による隣接ビーム間の間隔より広い場合には、単一の物標であっても、その反射波に起因して生じる突出部は、図4の(A),(B)に示したように、ビーム方位方向に複数ビーム分連続して現れる。
【0032】
そこで、周波数スペクトル上に現れる突出部がビーム方位方向に連続する突出部グループを抽出し、その突出部グループのプロファイルを求めるようにすれば、求めるべきプロファイルの総数を大幅に削減でき、プロファイルの抽出処理に要する時間および相関度を求めるための演算処理の量を大幅に削減することができる。
【0033】
図5は、上述の突出部グループを求める例について示している。ここで、Gu′は1つの物標に起因して生じた、ビーム方位方向および周波数方向に広がる、上り変調区間での突出部グループである。Gd′は、その下り変調区間での突出部グループである。移動体の相対速度が大きい場合には、このようにビーム走査中にピーク周波数が変位する。しかし、この実施形態では、同一周波数でビーム方位方向に連続する突出部をグループ化するので、上り変調区間ではGuで囲むようにグループ化し、下り変調区間ではGdで囲むようにグループ化する。
【0034】
そして、その後、グループを含む所定ビーム分についてプロファイルを抽出する。したがって、図5に示した例では、Gu′,Gd′は、周波数が1レンジ ビン異なった2つの突出部グループとして扱われるが、それぞれについて相対距離および相対速度が正しく求められるので、物標の単一性の識別が要求されない限り問題とはならない。
【0035】
上述の例では、同一周波数でビーム方位方向に連続する突出部をグループ化したが、移動体の相対速度が大きい場合には、図5に示したように、ビーム走査中にピーク周波数が変位する。そこで、所定周波数範囲内で、ビーム方位方向に隣接する突出部をグループ化するようにしてもよい。図6は、その場合の例について示している。すなわち、図6において、Gu′,Gd′は単一物標に起因して生じたグループである。このグループGu′,Gd′について、代表ビーム方位を求める。例えば、グループの中心方位を代表ビーム方位としたり、グループ内で信号強度の最も高い突出部のビーム方位を代表ビーム方位とする。そして、その代表ビーム方位の突出部の周波数について、代表ビーム方位を中心とする、ビーム方位方向に隣接する複数ビーム分のデータ(このデータ数については後述する。)の信号強度をプロファイルとして抽出する。図6のGu,Gdは、プロファイルとして抽出した範囲の例を示している。この図6には、グループGu,Gdのプロファイルも示している。相関度は、このプロファイルGu,Gd同士について求めればよい。
【0036】
図7は、相関度を求めるために、上記信号強度プロファイルとして抽出すべき突出部のビーム方位方向の信号強度のデータ数をどのようにして決定するかを示している。
図7の(A)において、Pで示すパターンは、アンテナの位置OからBo方向にビームが向いている時の送受信総合指向特性を示している。すなわち、ビームの中心方位Boでは最も感度が高く、それから左右方向にずれる程、感度は急激に低下する。例えば、実際に利用可能なビーム幅3.5度のビームを0.5度単位で走査した場合、1つの物標からの反射による受信信号は、3.5/0.5=7で、約7本のビームによって観測されることになる。したがって、ビーム方位方向の幅が0.5度未満の物標であれば、(B)に示すように、ビーム方位方向に連続して約7つ突出部が生じる。これは、1つの、物標が7本のビームにより観測されることを意味する。このことから、方位方向の幅の狭い物標について、これ以上の本数のビームを使っても、すなわち7個以上のデータ列を用いて、相関度を計算しても、対象となる物標とは無関係の領域を含むこととなる。
【0037】
したがって、信号強度プロファイルを抽出する際の処理対象を中心とし、その前後3つずつ、合計7つの信号強度データの列をプロファイルとして扱えばよい。その結果、ビーム方位方向の幅が狭い物標であっても、同一物標に起因して生じたプロファイルであれば、高い相関度が得られる。その結果、ペアリング精度が向上する。
【0038】
次に、物標の距離に応じて、相関度を求めるために抽出する信号強度プロファイルのデータ数の設定について説明する。
図3に示した例で、物標OB1〜OB3は、それぞれの車幅が同一の車両であるが、自車からの距離によって、ビームの中心を遮る本数が異なる。例えば、物標OB1は、ビームの中心を4本遮るが、物標OB3は、ビームの中心を2本だけ遮る。このように、物標の幅が同じであっても、その距離が遠くなる程、ビームの中心を遮る本数が減る。したがって物標の距離が遠くなる程、プロファイルとして求めるビーム方位方向の信号強度のデータ数を少なくすることによって、物標からの反射に起因して生じるビーム方位方向の所定幅に広がるプロファイルを、どのような距離の物標であっても的確に抽出できる。そのため、同一物標に起因して生じたプロファイルであれば、高い相関度が得られる。その結果、ペアリング精度が向上する。
【0039】
特に、車載用レーダでは、観測すべき主な物標が車両であり、その車両は点反射物の集合体と考えられる。したがって、プロファイルは上り変調区間と下り変調区間とで略一致する。そこで、車両の幅に対応するデータ数からなるプロファイルを用いることによって、高精度なペアリングが可能となる。
【0040】
例えば、±10度の領域を0.5度間隔で41本のビーム走査を行っている時、
車幅1.7[m]の物標が10m離れているとき、
tan -1 (1.7[m]/2/10[m])*2/0.5[度] =19.4[ 本] ≒19[本]
30m離れているとき、
tan -1 (1.7[m]/2/30[m])*2/0.5[度] =6.5[本] ≒7 [本]
50m離れているとき、
tan -1 (1.7[m]/2/50[m])*2/0.5[度] =3.8[本] ≒4 [本](奇数である必要がある場合には、3[本]または5[本])
となる。
【0041】
但し、遠距離になると、1台の車両幅に対応するビーム本数が少なくなり、相関演算の精度が低下する。そこで、前述の図7に示した方法を組み合わせて、車両幅がビーム幅より広い、比較的短距離領域においては、車両幅程度のビーム本数を用い、車両幅がビーム幅より狭い、比較的遠距離領域では、ビーム幅程度のビーム本数を用いるようにしてもよい。
【0042】
例えば、図7に示したように、ビーム方位方向の幅が最小であっても、ビーム幅とビーム走査間隔に応じて、突出部はビーム方位方向に複数本分現れるので、図8に示すように、物標がビームの中心を例えば3本に亘って遮るような場合に、単一のビーム幅に含まれるビーム本数が、その左右に3本づづ増えるのなら、3+3×2=9で、ビーム方位方向に9つの信号強度データ列をプロファイルとして求める。
【0043】
上述のように、信号強度プロファイルは、ビーム方位方向に隣接する複数ビーム分について所定数のデータ列として求めるので、ビームの走査範囲の端付近での扱いが問題となる。すなわち、周波数スペクトルに現れる信号強度の突出部のビーム方位方向のピーク信号強度のデータ数が、相関度を求めるために必要な数に達しない領域が生じる。例えば±10度の領域を0.5度間隔で、41本分のビーム方位に亘って走査を行っている時、±10度付近では、必要なデータ数が得られない。
【0044】
図9において、G2,G4で示す部分は、この例では5つのデータについて不足なくプロファイルが求められるが、G1で示す部分については所定ビーム方位・所定周波数のP1で示す点について、その前後5つのデータ列からなる信号強度プロファイルを求める際、4つのデータしか存在しない。また、G3で示す部分については所定ビーム方位・所定周波数のP3で示す点について、その前後5つのデータ列からなる信号強度プロファイルを求める際、3つのデータしか存在しない。
【0045】
このような場合には、得られたデータ数についてのみ、信号強度プロファイルを求める。このようなデータ数の足りないプロファイルであっても、同一物標に起因して生じたプロファイルであれば、上り変調区間と下り変調区間のいずれでも同じデータ数のプロファイルとして求められる。したがって、そのプロファイル同士の相関度は高くなり、ビーム走査範囲の端部分に存在する物標についてもペアリングが可能となる。
【0046】
図10に示す例では、G1について、5つのデータのうち左端部のデータが欠落するが、この欠落が生じないように、ビーム走査範囲の内側にビーム一本分ずらした範囲G1′についてプロファイルを求める。また、G3に示す部分では、右側の2つのデータが欠落するので、この欠落が生じないように、ビーム走査範囲の内側にビーム二本分ずらした範囲G3′についてプロファイルを求める。
【0047】
また、図11に示す例では、G1について、5つのデータのうち左端部のデータが欠落するが、これを右端部のデータで補完する。すなわち、左端データの信号強度を右端の信号強度に等しいものとする。また、G3に示す部分では、右側の2つのデータが欠落するので、右端の信号強度を左端の信号強度に等しいものとし、右端から2番目のデータを、左端から2番目のデータに等しいものとする。
【0048】
このように、ビームの指向特性はビームの中心を対称軸として左右対称形をなすので、信号強度プロファイルもおおまかには左右対称形を示す。そのため、上述のように不足分のデータを左右対称位置のデータで補完することによって、補完精度が高まり、ペアリング精度の低下を補うことができる。
なお、欠落したデータを、一様なデータで補完してもよい。
【0049】
このように不足分のデータを補完することによって、常に同じ数のデータ数で相関度を求めることができる。そのため、相関演算方法(アルゴリズム)を共通にでき、高速演算が可能となる。
【0050】
上記相関度は、次の式により相互相関係数として正規化して求める。
【0051】
【数1】
【0052】
このように、−1.0〜1.0の相互相関係数を求める。この値は、ビーム方位方向に分布する信号強度プロファイルの一致度を表すものとなる。
【0053】
さて、以上に示したペアリングを含む、図1に示したレーダ制御部2の処理手順を、フローチャートとして図12に示す。まず、モータ(ビーム方位)制御部22の制御によって、ビームを初期方位に向ける(n1)。その状態で、A/Dコンバータ15により変換されたビート信号のディジタルデータを所定のサンプリング数だけ取得し、それについてFFT処理する(n2→n3)。続いて、突出部の検出を行う(n4)。すなわち、周波数スペクトルの信号強度が山型に突出する部分を検出し、そのピーク周波数における信号強度を抽出する。
【0054】
突出部が存在すれば、そのピーク周波数でビーム方位方向に前後所定幅のデータ数について信号強度プロファイルを求める(n5)。
【0055】
その後、ビーム方位をビーム1本分変位させ、同様の処理を繰り返す(n6→n7→n2→・・・)。
【0056】
以上の処理を最終ビームまで繰り返すことによって、方位方向に所定幅広がる走査範囲について、各突出部の信号強度プロファイルを求める。
【0057】
続いて、上り変調区間と下り変調区間についてそれぞれ求めた、同一ビーム方位のピーク周波数を中心とするプロファイル同士の相互相関係数を求める。(n8)。
【0058】
その後、相関係数が最も高くなるプロファイル同士の組み合わせから順にペアリングする(n9)。すなわち、対を成すプロファイルの中心方位を、その物標の方位として求め、アップビート周波数とダウンビート周波数とからその物標の相対距離および相対速度を求める。
【0059】
次に、グルーピングを含むレーダ制御部2の処理手順を、フローチャートとして図13に示す。ステップn1〜n4,n7の処理は、図12に示したものと同様である。すなわち、このステップn1〜n4,n7で、突出部のピーク周波数を各ビーム方位について求める。
【0060】
その後、ビーム方位方向に突出部の連続する範囲を1つの突出部グループとして抽出し、その突出部グループについてプロファイルを抽出する(n10→n11)。
【0061】
続いて、上り変調区間でのプロファイルと、下り変調区間でのプロファイルとの相互相関係数を求める(n12)。
【0062】
その後、相関係数が最も高くなるプロファイル同士の組み合わせから順にペアリングする(n13)。すなわち、対を成すプロファイルの中心方位を、その物標の方位として求め、アップビート周波数とダウンビート周波数とからその物標の相対距離および相対速度を求める。なお、物標の方位は、各グループの代表ビーム方位から求める。
【0063】
【発明の効果】
この発明によれば、所定ビーム方位の上り変調区間と下り変調区間のそれぞれについて、周波数スペクトルに現れる突出部のピーク周波数を求め、所定ビーム方位方向に隣接する複数ビーム分について、ピーク周波数に等しい周波数における信号強度プロファイルを抽出し、上り変調区間でのプロファイルと下り変調区間でのプロファイルとの相関係数を求め、該相関係数の最も高い組み合わせを選定するペアリング手段を設けたことにより、略同一信号強度の突出部が周波数スペクトル上に存在しても、また代表ビーム方位の等しい突出部グループが複数組存在しても、適切なペアリングが可能となる。
また、この発明によれば、正規化した相関係数を用いることにより、相関の度合いを指標化でき、ペアリングが容易となる。
【0064】
また、この発明によれば、突出部がビーム方位方向に連続する部分を突出部グループとして抽出する手段を設け、該突出部グループの信号強度プロファイルを抽出するようにしたため、1つの突出部グループについて、1つの信号強度プロファイルを用いてペアリングすることになり、扱うべきデータ量および演算処理量が削減される。その結果、演算処理能力の限られた演算処理部を用いながらも、多数の物標の探知が可能となる。
【0065】
また、この発明によれば、相関係数を求める計算の対象とする、前記突出部のビーム方位方向の信号強度のデータ数を、単一のビーム幅に含まれるビーム本数に略等しい数としたことにより、小さな物標に対してもペアリング精度が向上する。
【0066】
また、この発明によれば、相関係数を求める計算の対象とする、突出部のビーム方位方向の信号強度のデータ数を、物標の距離が遠くなる程、少なくなるようにすることにより、物標の距離に関わらず、同一物標からの反射波に起因する信号強度プロファイル同士の相関係数をより高めて、ペアリング精度を高める。
【0068】
また、この発明によれば、走査範囲の端付近で突出部のビーム方位方向のピーク信号強度のデータ数が、相関係数を求めるのに必要な数に達しないとき、不足分のデータを無視して相関係数を求めるようにすることにより、ビーム走査範囲の端付近でも、相関係数を利用したペアリングが可能となる。
【0069】
また、この発明によれば、ビームの走査範囲の端付近で、突出部の方位方向の信号強度のデータ数が、相関係数を求めるのに必要な数に達しないとき、不足分のデータを所定のデータで補足して相関係数を求めるようにすることにより、相関係数の算出に必要なデータ数が固定され、同じ計算方法で高速に算出可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】レーダの構成を示すブロック図
【図2】物標の相対距離および相対速度により変化する送信信号と受信信号の周波数変化の例を示す図
【図3】探知範囲のビームと物標との関係を示す図
【図4】上り変調区間と下り変調区間における、ビーム方位毎のピーク周波数スペクトルの例を示す図
【図5】グループ化の方法について示す図
【図6】グループ化の方法およびプロファイルの抽出について示す図
【図7】1本のビーム幅とビーム間隔との関係を示す図
【図8】物標の距離に応じて求めるべきプロファイルのデータ数を示す図
【図9】ビーム走査範囲の端における信号強度データの扱いについて示す図
【図10】ビーム走査範囲の端における信号強度データの扱いについて示す図
【図11】ビーム走査範囲の端における信号強度データの別の扱いについて示す図
【図12】レーダ制御部の処理手順を示すフローチャート
【図13】レーダ制御部の処理手順を示すフローチャート
【符号の説明】
1−フロントエンド
2−レーダ制御部
13−ルックアップテーブル
101−信号処理部
102−変調・ビーム方位検出制御部
103−走査・通信制御部
Claims (6)
- 周波数が次第に上昇する上り変調区間と、周波数が次第に下降する下り変調区間とが時間的に三角波状に繰り返し変化する送信信号を送信し、物標からの反射信号を含む受信信号を受信する送受信手段と、
前記送信信号のビーム方位を所定走査範囲に亘って変化させる走査手段と、
前記送信信号と前記受信信号との周波数差の信号であるビート信号の周波数スペクトルに関するデータを求める周波数分析手段と、
前記上り変調区間の前記周波数スペクトルに現れる突出部のピーク周波数と、前記下り変調区間の周波数スペクトルに現れる突出部のピーク周波数とに基づいて、物標の相対距離または相対速度を検出する手段とを備えたレーダにおいて、
所定ビーム方位の前記上り変調区間と前記下り変調区間のそれぞれについて、前記周波数スペクトルに現れる突出部のピーク周波数を求め、
各物標に対応する前記所定ビーム方位方向に隣接する複数ビーム分について、前記ピーク周波数に等しい周波数における信号強度プロファイルをそれぞれ抽出し、
下記の式に基づいて上り変調区間での各プロファイルと下り変調区間での各プロファイルとのそれぞれの正規化した相関係数を求め、
それぞれの前記プロファイルに対して求められた前記相関係数のうち、該相関係数が最も大きい組み合わせとなる前記上り変調区間でのプロファイルと前記下り変調区間のプロファイルとをペアとして選定する、ペアリング手段を設けたレーダ。
- 前記突出部がビーム方位方向に連続する突出部グループを抽出する手段を設け、該突出部グループについて前記信号強度プロファイルを抽出するようにした請求項1に記載のレーダ。
- 前記相関係数を求める計算の対象とする、前記突出部のビーム方位方向の信号強度のデータ数を、単一のビーム幅に含まれるビーム本数に略等しい数とした請求項1または2に記載のレーダ。
- 前記相関係数を求める計算の対象とする、前記突出部のビーム方位方向の信号強度のデータ数を、物標の距離が遠くなる程、少なくなるようにした請求項1または2に記載のレーダ。
- 前記走査範囲の端付近で、前記突出部のビーム方位方向の前記ピーク信号強度のデータ数が、前記相関係数を求めるのに必要な数に達しないとき、不足分のデータを無視して相関係数を求めるようにした請求項1〜4のいずれかに記載のレーダ。
- 前記走査範囲の端付近で、前記突出部の方位方向の前記信号強度のデータ数が、前記相関係数を求めるのに必要な数に達しないとき、不足分のデータを所定のデータで補足して相関係数を求めるようにした請求項1〜4のいずれかに記載のレーダ。
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