JP3749486B2 - レーダ信号処理方式 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、2種のパルス繰り返し周波数(Dual PRF)を用いたレーダの信号処理方式に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図4は一般的な気象レーダの構成を示すものである。図4によりその概略動作を説明する。送信器1は所定のPRF(パルス繰り返し周波数=Pulse Repetition Frequency)を有する送信パルス信号を、送信系と受信系とで経路を切り替えるサーキュレータ2を介して空中線3にて空間へ放出する。放出された送信信号の一部は気象目標から反射され、また、一部は地面や山等の気象目標以外のものからも反射される。これらは空中線3、サーキュレータ2を介して受信器4へ入力される。受信器4は受信信号の周波数をRF帯からIF帯に変換した後、信号処理装置5へ送る。
【0003】
信号処理装置5では次のような処理が行われる。すなわち、入力信号に対してI,Q(信号の実数成分Iと虚数成分Q)ベクトル作成のため位相検波51を行った後、不要信号である山や地面等からの反射信号(グランド・クラッタ)を取り除くため、クラッタ除去52を行い、パルスペア処理53にて目標のドップラ速度を算出し、速度折り返し補正54にて目標のドップラ速度に補正を加える。最終的な結果はデータ処理・表示制御装置6に送付され、表示される。
【0004】
気象レーダにおいて、空間へ放射された送信信号は、必要とされる気象目標からの反射信号となると同時に、不要とされる山や地面等からの反射信号いわゆるグランド・クラッタともなる。不要な反射信号であるグランド・クラッタを除去する場合、信号処理装置5内のクラッタ除去フィルタ、一般的にはIIRフィルタ(Infinite Impulse Response フィルタ)を用いてクラッタ除去処理52を行っている。図5は代表的なIIRフィルタを示すもので、乗算器100乃至108、遅延素子110乃至113、及び加算器120乃至123を図のように組み合わせて構成する。その周波数特性の参考例を図6に示す。
【0005】
図6に示すようにIIRフィルタの周波数特性は、サンプリング周波数に依存している。サンプリング周波数fsは次式で示される。
【数式1】
式(1)より、サンプリング周波数fsは、レーダが使用しているPRFに依存していることが分かる。
【0006】
一方、気象目標等のドップラ速度Vは次の式から得られる。
【数式2】
この結果より、レーダによる目標の観測可能なドップラ速度は、λとPRFに依存していることが分かる。この範囲外の移動速度を持つ目標が検出される場合、目標の風向が逆方向に検出されてしまうことがある。これを速度の折り返しという。
【0007】
そこで二つの異なるPRFを使用するDual PRFという技術を使用して、速度の折り返し補正を行っている。概略算出方法を以下に示す。
【0008】
二つのPRFのうち、高い周波数のPRFをH-PRF、低い周波数のPRFをL-PRFとする。H-PRFで得られたドップラ速度をV1、その最大測風をVmax1、L-PRFで得られたドップラ速度をV2、その最大測風をVmax2とすると、Vmax1及びVmax2は次式で得られる。
【数式3】
【0009】
目標の実速度がVである場合、H-PRF及びL-PRFで観測されたドップラ速度V1及びV2は次式で表される。なお図7に実速度とドップラ速度の関係図(図中K1、K2は2の倍数となる係数)を示す。
【数式4】
から、K1とK2を求めれば、(5)式または(6)式より実速度Vを求めることが出来る。
【0010】
前述の通りIIRフィルタの周波数特性は、サンプリング周波数fsに依存している。一方、速度折り返し補正のためにDual PRFを用いると、2種類のPRFを交互に切り替える度に、(1)式によりサンプリング周波数が変化してしまう。これにより、図6から明らかなように、クラッタ除去フィルタの周波数特性も変化してしまう。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従来のレーダ信号処理装置は、クラッタ除去フィルタが一つしかなかったことから、速度が比較的小さい気象目標からのエコーの場合、Dual PRF使用時にPRFの切り替わりにより、フィルタの阻止帯域が変化し、受信強度が変化してしまうという問題があった。
【0012】
この発明は、このような問題点を解消するためになされたもので、Dual PRF使用時においても、Dual PRF時のクラッタ除去フィルタの周波数特性を変化させないようにして、速度の小さい受信信号強度を安定して測定できるようにすることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るレーダ信号処理方式は、クラッタ除去フィルタを使用して信号処理を行うDual PRFレーダの信号処理方式において、上記クラッタ除去フィルタをそれぞれのPRFに対する周波数特性が同じ二つのフィルタで構成し、PRFの切り替えに合わせて、上記二つのフィルタを切り替えて使用するようにしたものである。
【0014】
また、クラッタ除去フィルタを使用して信号処理を行うDual PRFレーダの信号処理方式において、上記クラッタ除去フィルタを、一方のPRFに対して複数の周波数特性を有する第1のフィルタ群と、他方のPRFに対して複数の周波数特性を有する第2のフィルタ群とで構成し、PRFの切り替えに合わせて上記二つのフィルタ群を切り替えると共に、上記フィルタ群の中からレーダサイトの周辺環境に応じて外部から加えられる信号により適切な周波数特性のフィルタを選択して使用するようにしたものである。
【0015】
また、上記に記載のレーダ信号処理方式において、選択して使用するフィルタは、それぞれのPRFに対する周波数特性を同じにしている。
【0016】
また、上記に記載のレーダ信号処理方式において、等価フィルタ選択手段を設け、一方のフィルタ群からある特定のフィルタを選択したとき、他方のフィルタ群から上記と同じ周波数特性のフィルタを上記等価フィルタ選択手段により選択するようにしたものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ信号処理装置におけるクラッタ除去フィルタを示すブロック図である。ここでは、二つのPRFのうち、高い周波数のPRFをH-PRF、低い周波数のPRFをL-PRFとして説明する。図1において、10はクラッタ除去フィルタ、11はH-PRF用クラッタ除去フィルタ(以下Hフィルタと呼ぶ)、12はL-PRF用クラッタ除去フィルタ(以下Lフィルタと呼ぶ)、30はI,Qベクトル信号が供給される入力端、31はクラッタ除去フィルタを通ったI,Qベクトル信号を取り出す出力端、13は上記フィルタの入力端側に、また、14は上記フィルタの出力端側にそれぞれ設けられた切り替えスイッチ、15は制御装置で、PRF情報を得て、上記入力端30及び出力端31をHフィルタ11に接続するか、Lフィルタ12に接続するか切り替え制御を行う。
【0018】
なお、上記Hフィルタ11とLフィルタ12は、それぞれの使用PRFに合わせて、周波数特性(阻止帯域や抑圧度等)が同一になるように設定されている。
【0019】
上記装置の動作を説明するために、図2に従来技術におけるクラッタ除去フィルタの周波数特性(b)とこの発明によるクラッタ除去フィルタの周波数特性(a)とを比較して示している。図中、Gはグランド・クラッタ、Eは観測目標の気象エコーである。従来技術においては、Dual PRF使用時に、二つのPRFに対して一つのクラッタ除去フィルタにて信号処理を行っていた。この場合、図2(b)に示すように、H-PRFとL-PRFとの切り替えが行われる度にフィルタの周波数特性が変化してしまい、特に移動速度の遅い気象エコーは、H-PRF時にフィルタの影響を受けることがある。このため、同一目標にも関わらず、PRFが切り替わる度に、受信信号強度が変化し、安定な観測ができない可能性があった。
【0020】
これに対して、この発明では、PRFの切り替えが行われると、このPRF情報を制御装置15が受けて切り替えスイッチ13及び14を制御し、H-PRF信号が入力されるときは入力端30、出力端31をHフィルタ11側へ、L-PRF信号が入力されるときは入力端30、出力端31をLフィルタ12側へ切り替え、それぞれのPRFに対応するクラッタ除去フィルタに信号を通す。クラッタ除去フィルタの周波数特性は、図2(a)に示すように、それぞれのPRFに対して同じになるように設定されていることから、風速の遅い気象エコーを観測する場合にも、PRFの切り替えにより受信信号強度が変化することはなく、安定した目標観測が可能となる。
【0021】
上記のように、この発明ではクラッタ除去処理におけるクラッタ除去フィルタに、周波数特性が同一の二つのフィルタを用いることを特徴とし、PRFの変化にクラッタ除去フィルタ特性の影響が及ばないようにしたため、観測目標から安定した信号を得ることができる。
【0022】
実施の形態2.
本実施の形態2は、クラッタ除去フィルタとして、それぞれが周波数特性の異なる複数のフィルタを有する2群のフィルタ群、すなわちH-PRF用クラッタ除去フィルタ群(第1のクラッタ除去フィルタ群またはHフィルタ群と呼ぶ)とL-PRF用クラッタ除去フィルタ群(第2のクラッタ除去フィルタ群またはLフィルタ群と呼ぶ)とを備えることにより、クラッタ抑圧特性の選択の可能性を広げ、一層安定した目標観測を可能にしたものである。
【0023】
図3はこの発明の実施の形態2に係るレーダ信号処理装置におけるクラッタ除去フィルタを示すブロック図である。図3において、20はクラッタ除去フィルタ、21は周波数特性(阻止帯域や抑圧度等)の異なる複数のフィルタを有するHフィルタ群、22は同じく周波数特性の異なる複数のフィルタを有するLフィルタ群であり、これら第1及び第2のクラッタ除去フィルタ群21、22はそれぞれのPRFに対して互いに同一周波数特性を有する。
【0024】
32は上記それぞれのフィルタ群の中でどの周波数特性のフィルタを使用するかを選択する外部信号を入力する選択信号入力端、25は選択信号入力端32をHフィルタ群21、Lフィルタ群22のいずれかに接続する切り替えスイッチである。上記選択信号入力端32に加えられるフィルタ選択信号は、レーダサイトにおける周辺の環境、主として周囲の地形に応じて外部から入力されるもので、最適な周波数特性のフィルタを選択し、より安定した観測を行うための信号である。27はHフィルタ群21とLフィルタ群22間に挿入された等価フィルタ選択装置で、これは切り替えスイッチ25が例えばHフィルタ群21側に切り替えられ、フィルタ選択信号によりHフィルタ群21中のあるフィルタを選択した場合、他方のLフィルタ群22中からこれと同じ周波数特性のフィルタを選択する手段である。
【0025】
30、31は図1と同様のI,Qベクトル信号の入力端、出力端、23、24は図1の切り替えスイッチ13、14に相当する切り替えスイッチである。26はPRFの切り替えに応じて、切り替えスイッチ23、24を切り替える制御と、切り替えスイッチ25をHフィルタ群21側、またはLフィルタ群22側に必要に応じて切り替える信号を出力する制御装置である。
【0026】
実施の形態2では、Dual PRF使用時、PRFの切り替えが行われると、このPRF
情報を制御装置26が受けて切り替えスイッチ23、24を制御し、H-PRF信号が入力されるときは入力端30、出力端31をHフィルタ群21側へ切り替える。このとき、切り替えスイッチ25がHフィルタ群21側に接続されているとすると、Hフィルタ群21では選択信号入力端32から入力されたフィルタ選択信号により、周辺環境に適した周波数特性のフィルタが選択される。上記フィルタが選択された時点で、等価フィルタ選択装置27は上記選択されたフィルタと周波数特性が同じフィルタをLフィルタ群22から選び出しておく。入力端30に加えられたI,Qベクトル信号はHフィルタ群21のフィルタを通して信号出力端31から出力される。
【0027】
次に制御装置26が、PRFの切り替えに基づいてPRF情報を受けると、切り替えスイッチ23、24を制御し、入力端30、出力端31をLフィルタ群22側へ切り替えるが、Lフィルタ群22の中では、すでに等価フィルタ選択装置27により適切な周波数特性のフィルタが選択されているので、L-PRFの信号はそのクラッタ除去フィルタを通り出力端31から出力される。第1、第2のクラッタ除去フィルタ群(Hフィルタ群、Lフィルタ群)から選択されたクラッタ除去フィルタの周波数特性は、図2(a)に示すように、PRFの切り替えにより変化することがないことから、風速の遅い気象エコーの観測に対してもPRFの切り替えにより受信信号強度が変化することはなく、また、周辺の環境に合った安定した目標観測が可能となる。
【0028】
なお、 Hフィルタ群とLフィルタ群から選択される二つのフィルタは、周波数特性が全く同一のものでなくても、PRF切り替え時にそれらの周波数特性が実質上クラッタの除去及び信号の通過に影響を与えないものであれば、全く同一の周波数特性を有していなくてもよい。
【0029】
本実施の形態2においては、複数のHフィルタ、及びLフィルタを設けることにより、レーダサイトの周辺における観測環境に適合するH-PRF用、及びL-PRF用のクラッタ除去フィルタを選択することが可能となり、観測環境の影響を考慮して一層安定した目標観測が可能となる。
【0030】
【発明の効果】
以上のように、請求項1の発明によれば、複数の周波数特性のフィルタを有し、相互の周波数特性が同一である H-PRF 用クラッタ除去フィルタ群と L-PRF 用クラッタ除去フィルタ群とを設け、この中から、レーダサイト周辺環境に応じた同一特性のフィルタを選択使用することにより、 PRF が変化しても周波数特性が変わらず、レーダサイト周辺の観測環境に左右されない安定した目標観測が可能となる。更に一方のフィルタ群の中からいずれかのフィルタを選択することにより、自動的に他方のフィルタ群の中から同一周波数特性のフィルタを選択するようにしているため、フィルタ選択の煩雑さを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1に係るクラッタ除去フィルタを示すブロック図である。
【図2】 この発明のクラッタ除去フィルタの特性を従来技術のクラッタ除去フィルタの特性と比較して示す概念図である。
【図3】 この発明の実施の形態2に係るクラッタ除去フィルタを示すブロック図である。
【図4】 一般的な気象レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図5】 代表的なIIRフィルタの構成を示す図である。
【図6】 IIRフィルタの参考周波数特性である。
【図7】 実速度とドップラ速度の関係を示す図である。
【符号の説明】
1 送信器、 2 サーキュレータ、
3 空中線、 4 受信器、
5 信号処理装置、 6 データ処理・表示制御装置。
10 クラッタ除去フィルタ、 11 H-PRF用クラッタ除去フィルタ、
12 L-PRF用クラッタ除去フィルタ、13 切り替えスイッチ、
14 切り替えスイッチ、 15 制御装置、
20 クラッタ除去フィルタ、
21 H-PRF用クラッタ除去フィルタ群、
22 L-PRF用クラッタ除去フィルタ群、
23 切り替えスイッチ、 24 切り替えスイッチ、
25 切り替えスイッチ、 26 制御装置、
27 等価フィルタ選択装置、 30 信号入力端、
31 信号出力端、 32 フィルタ選択信号入力端、
51 位相検波、 52 クラッタ除去、
53 パルスペア処理、 54 速度折り返し補正。
Claims (1)
- クラッタ除去フィルタを使用して信号処理を行うDual PRFレーダの信号処理方式において、上記クラッタ除去フィルタは、一方のPRFに対して複数の周波数特性を有する第1のフィルタ群と、他方のPRFに対して複数の周波数特性を有する第2のフィルタ群と、一方のフィルタ群からある特定のフィルタを選択したとき、他方のフィルタ群から上記と同じ周波数特性のフィルタを自動的に選択する等価フィルタ選択手段とを備え、PRFの切り替えに合わせて上記二つのフィルタ群を切り替えると共に、上記フィルタ群の中からレーダサイトの周辺環境に応じて外部から加えられる信号により適切な周波数特性のフィルタを選択して使用するようにしたことを特徴とするレーダ信号処理方式。
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JP2002009120A JP3749486B2 (ja) | 2002-01-17 | 2002-01-17 | レーダ信号処理方式 |
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