JP3749089B2 - 犠牲防食アルミニウム合金板及びその複合材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ろう付により製造される熱交換器等に使用される犠牲防食アルミニウム合金板及びその複合材に関し、特に、自動車等のラジエータ、ヒータ、コンデンサ、エバポレータ及びオイルクーラ等に好適に使用される耐食性が優れた犠牲防食アルミニウム合金板及びその複合材に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用の熱交換器、例えばラジエータは、アルミニウム合金製の冷煤を通すチューブ管とフィンとを交互に積層し、一体ろう付される。図3は、従来のクラッド材を示す断面図である。従来、ラジエータ等の熱交換器のチューブ管では、図1に示すように、冷煤である冷却水の通路部は耐食性確保のため、純Al又はAl−Zn系の犠牲陽極材12を心材11にクラッドした材料が使用されている。
【0003】
また、近年、地球環境保護の観点から、これらのクラッド材を使用した熱交換器等は、軽量及び小型化の方向にあり、材料の薄肉化が進んでいる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、小型化及び軽量化に伴う材料の薄肉化により、従来の犠牲材では耐食性が充分でないという問題点がある。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、薄肉化されたものであっても優れた犠牲防食効果を有する犠牲防食アルミニウム合金板及びその複合材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る犠牲防食アルミニウム合金板は、アルミニウム又はアルミニウム合金板に重ねられ、自己が優先的に腐食されて前記アルミニウム又はアルミニウム合金板を防食する犠牲防食アルミニウム合金板において、Ti:0.05乃至0.3質量%及びZr:0.05乃至0.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなることを特徴とする。
【0007】
本発明の参考例に係る犠牲防食アルミニウム合金板は、アルミニウム又はアルミニウム合金板に重ねられ、自己が優先的に腐食されて前記アルミニウム又はアルミニウム合金板を防食する犠牲防食アルミニウム合金板において、Ti:0.05乃至0.3質量%及びZr:0.05乃至0.3質量%を含有し、更に、Zn:0.05乃至5.0質量%及びMg:0.01乃至5.0質量%からなる群から選択された1種又は2種の金属を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなることを特徴とする。
【0008】
本発明の参考例に係る他の犠牲防食アルミニウム合金板は、アルミニウム又はアルミニウム合金板に重ねられ、自己が優先的に腐食されて前記アルミニウム又はアルミニウム合金板を防食する犠牲防食アルミニウム合金板において、Ti:0.05乃至0.3質量%及びZr:0.05乃至0.3質量%を含有し、更に、Zn:0.05乃至5.0質量%及びMg:0.01乃至5.0質量%からなる群から選択された1種又は2種の金属を含有し、更に、Si:0.05乃至1.0質量%、Fe:0.05乃至1.0質量%、Mn:0.05乃至1.0質量%、Ni:0.05乃至1.0質量%からなる群から選択された1種又は2種以上の金属を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る複合材は、アルミニウム合金からなる心材の片面に請求項1に記載の犠牲防食アルミニウム合金がクラッドされていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る他の複合材は、アルミニウム合金からなる心材の一方の面にAl−Si系合金、Al−Si−Zn系合金又はAl−Si−Mg系合金のろう材がクラッドされ、他方の面に請求項1に記載の犠牲防食アルミニウム合金がクラッドされていること特徴とする。
【0011】
本発明に係る他の複合材は、アルミニウム合金からなる心材の片面又は両面にAl−Si系合金、Al−Si−Zn系合金又はAl−Si−Mg系合金のろう材を有し、前記心材と前記ろう材との間に請求項1に記載の犠牲防食アルミニウム合金がクラッドされていることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明の第1の実施例に係る複合材を示す模式的断面図である。本実施例の複合材においては、アルミニウム合金からなる心材1の一方の面にろう材2がクラッドされ、他方の面に犠牲防食アルミニウム合金板3がクラッドされている。
【0013】
心材1としては、Si:0.05乃至1.0質量%、Cu:0.05乃至1.0質量%及びMn:0.5乃至2.0質量%を含有し、更に、Mg:0.01乃至0.6質量%、Cr:0.05乃至0.3質量%、Zr:0.05乃至0.3質量%及びTi:0.05乃至0.3質量%からなる群から選択された1種以上の金属を含有するものが好ましい。また、ろう材2としては、Al−Si系合金、Al−Si−Zn系合金又はAl−Si−Mg系合金を使用することができる。
【0014】
犠牲防食アルミニウム合金板3としては、Ti:0.05乃至0.3質量%及びZr:0.05乃至0.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を使用することができる。また、このアルミニウム合金に更にZn:0.05乃至5.0質量%及びMg:0.01乃至5.0質量%の1種又は2種を含有したものを使用することもできる。また、更にSi:0.05乃至1.0質量%、Fe:0.05乃至1.0質量%、Mn:0.05乃至1.0質量%、Ni:0.05乃至1.0質量%の1種又は2種以上を含有したものを使用してもよい。
【0015】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図2は、本実施例に係る複合材を示す模式的断面図である。図2に示すように、本実施例の複合材においては、アルミニウム合金からなる心材1の両面にろう材2を有し、このろう材2と心材1との間に犠牲防食アルミニウム合金板3が夫々クラッドされている。本実施例の心材1、ろう材2、及び犠牲防食アルミニウム合金板3は、第1の実施例と同様の構成とすることができる。また、複合材の用途に応じて心材の片面のみに犠牲防食アルミニウム合金板3が形成されるか、又はろう材2及び犠牲陽極アルミニウム合金板3が心材1の片面のみにクラッドされていてもよい。
【0016】
以下、本発明の犠牲防食アルミニウム合金の組成限定理由について説明する。
【0017】
Ti:0.05乃至0.3質量%且つZr:0,05乃至0.3質量%
Tiは単独で添加しても犠牲防食アルミニウム合金板の耐食性を向上する効果を有するが、Zrと共存することにより、犠牲防食アルミニウム合金板の腐食形態を層状腐食とすると共に、その腐食速度を低減する効果を有し、これにより犠牲防食アルミニウム合金板の耐食性を向上させる効果がある。このように、犠牲防食アルミニウム合金板の耐食性を向上させることにより、心材にクラッドする犠牲防食アルミニウム合金板を極めて薄くしても、自己腐食が速すぎて犠牲防食効果が早期に失われるというような問題が生じず、犠牲防食効果を長期に亘って保つことができ、心材を防食するする効果を著しく高めることができる。しかし、Ti及びZrが夫々0.05質量%未満では、層状腐食の形態とならず、犠牲防食アルミニウム合金板の耐食性を向上させることができない。一方、Ti及びZrが夫々0.3質量%を超えると、粗大な金属間化合物を形成し、加工性を阻害する。従って、Ti及びZrの添加量は、Ti:0.05乃至0.3質量%且つZr:0.05乃至0.3質量%とする。
【0018】
次に、本発明の参考例の犠牲防食アルミニウム合金板の組成について説明する。
Zn:0.05乃至5.0質量%
Znは、その添加によりアルミニウム合金の電位を卑とし、心材に対する犠牲防食効果に寄与する。しかし、0.05質量%未満ではその効果が小さく、5.0質量%を超えるとその効果が飽和するばかりでなく、自己消耗が大きくなり、却って腐食寿命が低下する。また、加工性も低下する。従って、Znの添加量は、0.05乃至5.0質量%とする。
【0019】
Mg:0.01乃至5.0質量%
Mgは、その添加によりZnと同様にアルミニウム合金の電位を卑とし、心材に対する犠牲防食効果に寄与する。しかし、0.01質量%未満ではその効果が小さく、5.0質量%を超えるとその効果が飽和する。また、Mgはその添加により強度を向上させる効果も有する。更にSiと共存するか、又は拡散によりSiと化合し、Mg2Siを形成して折出することにより、アルミニウム合金の強度を向上する効果は更に大きくなる。しかし、0.01%未満ではその効果が小さく、5.0質量%を越えるとその効果が飽和するばかりではなく、加工性も低下する。従って、Mgの添加量は、0.01乃至5.0質量%とする。
【0020】
Si:0.05乃至1.0質量%、Fe:0.05乃至1.0質量%、Mn:0.05乃至1.0質量%、Ni:0.05乃至1.0質量%
これらの元素は、その添加により強度を向上させる効果を有する。また、Siは上述の通り、Mgと化合しMg2Siを形成し、析出することにより、強度を向上する効果は更に大きくなる。しかし、これらの元素の添加量が夫々0.05質量%未満では、その効果が小さい。また、これらの元素は固溶により電位を貴にする効果を有し、夫々1.0質量%以上では心材との電位バランスにより耐食性が低下する。従って、夫々の添加量は、Si:0.05乃至1.0質量%、Fe:0.05乃至1.0質量%、Mn:0.05乃至1.0質量%、Ni:0.05乃至1.0質量%とする。
【0021】
次に、上述した犠牲防食アルミニウム合金が犠牲材としてクラッドされる心材については特に限定しないが、アルミニウム合金を使用する場合は、以下の組成が好ましい。
【0022】
Si:0.05乃至1.0質量%
Siは、単独の添加でも固溶強化により、心材の強度を向上させる。更に、Mgと化合しMg2Siを形成して析出することにより、強度を向上させる効果が更に大きくなる。しかし、0.05質量%未満ではその効果が小さく、1.0質量%を超えるとろう付時にろう材が心材を浸食するエロージョンが発生しやすくなる。従って、Siの添加量は、0.05乃至1.0質量%とすることが好ましい。
【0023】
Cu:0.05乃至1.0質量%
Cuは、Siと同様に固溶強化に寄与し、その添加により心材の強度を向上させる効果を有する。また、心材の電位を貴とする効果が大きく、心材と犠牲用アルミニウム合金との電位差を確保することができる。しかし、0.05質量%未満ではその効果が小さく、1.0質量%を超えるとSiと同様にろう付時にろう材が心材を侵食するエロージョンが発生しやすくなる。従って、Cuの添加量は、0.05乃至1.0質量%とすることが好ましい。
【0024】
Mn:0.05乃至2.0質量%
MnもSi、Cuと同様に固溶強化に寄与し、その添加により心材の強度を向上させる効果を有する。また、電位を貴とする効果もある。しかし、0.05質量%未満ではその効果が小さく、2.0質量%を超えると粗大な化合物を形成し、加工性が低下する。従って、Mnの添加量は0.05乃至2.0質量%とすることが好ましい。
【0025】
Mg:0.01乃至0.6質量%
Mgは、その添加により強度を向上させる効果を有し、Siと共存するか、又は拡散によりSiと化合し、Mg2Siを形成して析出することにより、心材の強度を向上させる効果が更に大きくなる。しかし、0.01質量%未満ではその効果が小さく、0.6質量%を超えると非腐食性フラックスろう付の場合、フラックスと反応し、ろう付性を阻害する。従って、Mgの添加量は、0.01乃至0.6質量%とすることが好ましい。
【0026】
Cr:0.05乃至0.3質量%、Zr:0.05乃至0.3質量%、Ti:0.05乃至0.3質量%
これらの元素は、心材の耐食性(自己耐食性)を向上させる効果を有する。0.05質量%未満ではその効果が小さく、0.3質量%を超えると粗大な金属間化合物を形成し、加工性を阻害する。従って、各元素の添加量は、夫々Cr:0.05乃至0.3質量%、Zr:0.05乃至0.3質量%、Ti:0.05乃至0.3質量%とすることが好ましい。
【0027】
なお、その他の元素として、Fe≦0.5質量%、Ni≦0.5質量%等は、この範囲であれば諸特性を低下させないものであり、含有しても構わない。
【0028】
本発明において、製造方法は特に限定されるものではなく、鋳造(半連続鋳造(DC法)、連続鋳造(キャスター法等))、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍等の通常の工程により製造される。また、ろう材の設置方法は、クラッド圧延でのみ形成されるものではなく、例えば、ろう材粉末とバインダーとを混合し、心材の片面又は犠牲防食アルミニウム合金板上に塗布してもかまわない。更に、フラックスろう付の場合は、ろう材粉末及びバインダーと共にフラックスを混合し、塗布してもよい。
【0029】
【実施例】
以下、本発明の複合材を実際に製造した実施例について、本発明範囲から外れる比較例と比較してその効果について説明する。
【0030】
先ず、下記表1及び2に示す犠牲防食アルミニウム合金、下記表3に示す心材、下記表4に示すろう材を通常法で溶解、鋳造、均熱化処理し、犠牲防食アルミニウム合金がそのクラッド率15%、ろう材がそのクラッド率10%となるように、開始温度480℃で熱間圧延し、その後、心材の夫々の面に開始温度480℃で熱間圧延クラッドし、最終板厚0.2mmのH14相当材とした。なお、表1乃至4において、−はJIS 1070合金に規定の不純物レベルを示す。
【0031】
次に、得られたクラッド材を縦100mm×横200mmの短冊状に切断し、アルカリ系の洗浄剤で洗浄、乾燥した後、市販の非腐食性フラックスを3g/m2塗布し、窒素雰囲気中(酸素濃度100ppm以下)にて、600℃の温度で、2分間保持してろう付加熱を行い、ろう付後相当の材料を得た。得られたろう付材について、耐食性及び強度を測定した。
【0032】
耐食試験については、得られたろう付け材を切断して、縦50mm×横70mmの矩形に切断し、犠牲防食アルミニウム合金面以外をシールテープにてシールして耐食試験用試験片を作成した。この耐食試験用試験片をOY水(Cl-:195ppm、SO4 2-:60ppm、Cu2+:1ppm及びFe3+:30ppmを含有した水溶液)の中に浸漬し、80℃の温度で8時間保持した後、室温で16時間保持することを1サイクルとし、連続90サイクル繰り返した。その後、腐食部の腐食深さを焦点深度法にて測定した。腐食深さが100μm以下のものを耐食性が優れているものとした。
【0033】
強度は、JIS5号試験片で通常法にて測定し、引張強度により評価した。その結果を下記表5及び表6に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
実施例1乃至3は、犠牲防食アルミニウム合金板及び心材合金組成が本発明の範囲内であるので、腐食深さが100μm以下である。また、参考例4乃至11及び20乃至23も、腐食深さが100μm以下である。一方、比較例12は犠牲防食アルミニウム合金板の組成が本発明範囲から外れるため、腐食深さが150μmと深くなっている。比較例13は犠牲防食アルミニウム合金板のTi及びZrの組成が本発明範囲から外れるため、正常な板が製作できず、耐食性及び強度が共に測定できなかった。比較例14は犠牲防食アルミニウム合金板のMgが過剰であるため、クラッド自体ができなかった。
【0041】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、犠牲防食アルミニウム合金材組成を規定し、耐食性を向上させたため、これを心材にクラッドした複合材の板厚が薄肉化しても、心材を犠牲防食するため、熱交換器等の耐食寿命が飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例に係る複合材を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る複合材を示す模式的断面図である。
【図3】従来の複合材を示す模式的断面図である。
Claims (4)
- アルミニウム又はアルミニウム合金板に重ねられ、自己が優先的に腐食されて前記アルミニウム又はアルミニウム合金板を防食する犠牲防食アルミニウム合金板において、Ti:0.05乃至0.3質量%及びZr:0.05乃至0.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなることを特徴とする犠牲防食アルミニウム合金板。
- アルミニウム合金からなる心材の片面に請求項1に記載の犠牲防食アルミニウム合金がクラッドされていることを特徴とする複合材。
- アルミニウム合金からなる心材の一方の面にAl−Si系合金、Al−Si−Zn系合金又はAl−Si−Mg系合金のろう材がクラッドされ、他方の面に請求項1に記載の犠牲防食アルミニウム合金がクラッドされていること特徴とする複合材。
- アルミニウム合金からなる心材の片面又は両面にAl−Si系合金、Al−Si−Zn系合金又はAl−Si−Mg系合金のろう材を有し、前記心材と前記ろう材との間に請求項1に記載の犠牲防食アルミニウム合金がクラッドされていることを特徴とする複合材。
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