JP3746080B2 - 薄膜型電子源の駆動方法 - Google Patents

薄膜型電子源の駆動方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は薄膜型電子源に関する。
【0002】
【従来の技術】
薄膜型電子源は,上部電極−絶縁層−下部電極の3層構造の薄膜の上部電極−下部電極間に電圧を印加して,上部電極表面から真空中に電子を放出させるものである。上部電極,下部電極に金属を用いたMIM(金属−絶縁層−金属)型電子源や,一方の電極に半導体を用いたMIS(金属−絶縁層−半導体)型電子源などがある。ここで、金属電極は、金属と表現できる程度まで不純物をドープした半導体の電極を含む。
【0003】
MIM型電子源については,例えば特願平5−213744号に述べられている。薄膜型電子源の動作原理を図2に示した。上部電極11と下部電極13との間に電圧を印加して,絶縁層12内の電界を1〜10MV/cm以上にすると,下部電極13中のフェルミ準位近傍の電子はトンネル現象により障壁を透過し,絶縁層12,上部電極11の伝導帯へ出現する。これらの電子のうち,上部電極11の仕事関数φ以上のエネルギーを有する電子は,真空中に放出されることになる。下部電極13から上部電極11に流れる電流をダイオード電流Id,真空中に放出される電流を放出電流Ieと呼ぶと,放射比Ie/Idは通常1/103〜1/105程度である。現在までに,Au-Al2O3-Al構造においてこの原理による電子放出が観測されている。この電子源は,上部電極11の表面が環境ガスの付着により汚染して仕事関数φが変化しても電子放出特性には大きな影響がない,などの電子源として優れた性質を有しており,新型電子源として期待されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
薄膜型電子源からの放出電流Ieは,下部電極13−絶縁層12間のポテンシャル障壁を越えるトンネル電子放出過程で支配されているので,上部電極13−下部電極11間電圧Vdを大きくすれば,Ieも大きくなる。しかし,Vdを大きくすると,絶縁層12内の電界も増加するため絶縁破壊による薄膜型電子源の破壊が発生しやすくなる。
【0005】
また,特願平5−283054に述べられているように,放出電子の運動エネルギーの広がり(エネルギー分散)は,Vdと薄膜型電子源表面の仕事関数φとの差Vd−φと対応しており,Vd−φ≦1.5eVとすることによりエネルギー分散が小さい電子ビームを得ることができる。このような観点からも,Vdを小さく保ったままでIeを大きくすることが望まれていた。
【0006】
本発明の目的は,電極間電圧Vdを小さく保ったままで放出電流Ieを大きくすることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の代表的なものにおいては、下部電極と上部電極との間に絶縁層を挟み込んだ構造を有し、上部電極に正極性の電圧を印加することにより下部電極から絶縁層に流れ込んだトンネル電子の一部が上部電極表面から放出される薄膜型電子源の駆動方法において、下部電極と上部電極との間に極性が交互に反転する電界を印加し、上部電極に負極性の電圧を印加することにより、上部電極に正極性の電圧を印加した際に絶縁層にトラップされた電子の一部は、下部電極に向けて移動・トラップされ、上部電極に正極性の電圧を印加した際、正極性の電圧印加による外部電界と、下部電極に向けて移動・トラップされた電子による外部電界と順方向の内部電界との足し合わせた電界が絶縁層に印加されることを特徴とする。
【0008】
【作用】
本発明の作用を図3(a)乃至図3(d)及び図4により説明する。図3(a)に示したように、薄膜素子の上部電極11の電位をアースとし,下部電極13に負の電圧−Vd1を印加すると,絶縁層12に高電界がかかるために,トンネル電子が下部電極13から上部電極11に向かって流れる。このとき,下部電極13から絶縁層12に流れ込んだ電子のうち大部分のものは上部電極11に到達してダイオード電流Idとなる。しかし,一部の電子は,絶縁層中の不純物準位や欠陥準位にトラップされて,絶縁層中に残る。電子を捕獲する欠陥は,金属と絶縁層との界面に特に多いため,トラップされた電子32は絶縁層内に内部電界を形成する。図3(b)からわかるように,この内部電界は外部電界とは逆方向なので,絶縁層に印加される実効的な電界強度は減少し,したがって,トンネル電流も減少する。
【0009】
ここで,図3(c)に示したように,下部電極13に印加する電圧を+Vd2にすると上部電極11から下部電極13に向かってトンネル電子が流れる。図3(b)の段階で生成したトラップされた電子32は,この外部印加電界により,下部電極13に向かって移動する。しかし,トンネル電子の一部は,下部電極13−絶縁層12間の界面の不純物準位や欠陥準位にトラップされるために,外部電界と逆方向の内部電界が発生する(図3(d))。そこで,再度下部電極13に−Vd1の電位を印加すると,この内部電界と外部電界との足し合わせた電界が絶縁層に印加されるために,多量のトンネル電子が流れ,真空中への放出電子の量も増える。
【0010】
このように,絶縁層に印加する電界の極性を交互に変えると,絶縁層にトラップされた電子32による内部電界の影響が小さくなるので,効率よく電子を放出させることができる。また,絶縁層中の不純物準位や欠陥準位に電子がたまると,絶縁層の劣化の原因となる。印加電圧の極性を交互に変えた場合には,不純物準位・欠陥準位へのトラップ電子32の蓄積を防げるので,絶縁層の劣化も防止でき,薄膜型電子源の長寿命化が達成できる。
【0011】
また、薄膜型電子源の動作モードには,フォーミング状態とフォーミングが発生していない非フォーミング状態の2つがあるが、本発明は両方の動作モードに適用可能である。フォーミング状態は、非フォーミング状態の薄膜型電子源の絶縁層に高電界が印加されることにより発生し,微視的なレベルで絶縁破壊に近い現象が起こった状態を指し、ダイオード電流と印加電圧との間に微分負性抵抗が現れることで特徴づけられる。
【0012】
本発明は、非フォーミング状態の薄膜型電子源に対して用いると、非フォーミング状態を安定化できるので特に有効である。すなわち、フォーミング状態での電子放出には,放出電流にノイズが大きいという問題がある。一方、非フォーミング状態での電子放出には,この問題がなく、さらにはダイオード電流と放出電流の比も向上するので、本発明を用いて非フォーミング状態を安定化することは有効である。非フォーミング状態での動作は、特願平5−213744号で示されているように,絶縁層の膜質を改善することにより可能である。
【0013】
次に,本発明により非フォーミング状態を安定化できる理由を示す。まず、フォーミングが発生するメカニズムを図4を用いて簡単に説明する。絶縁層12に1〜10MV/cm程度の高電界を印加すると,エレクトロマイグレーションにより上部電極11中の金属原子が絶縁層12中にしみだし,ミクロスケールの導電経路30(フィラメント)が形成される。いったん導電経路30が形成されると,そこに電界が集中するために,導電経路30はさらに延びていく。この微小導電経路30が上部電極11−下部電極13間でつながると,大きな電流が流れる。すると,この電流により発生するジュール熱で微小導電経路30が焼損する。この後,導電経路30の形成が再開する。このように,導電経路30の焼損過程が起こるために絶縁破壊には至らない。これがフォーミング現象である。このように、フォーミング状態の発生は,高電界中でのエレクトロマイグレーションに起因しているので,本発明のように絶縁層に印加する電界の極性を交互に変化させれば,エレクトロマイグレーションによる金属原子の移動を防ぐことができ、フォーミング状態の発生を防止できる。
【0014】
また、フォーミング状態の薄膜型電子源に本発明を適用した場合の第1の効果は、前述のように、放出電流が増加することである。第2の効果は、非フォ−ミング状態からフォ−ミング状態への移行は通常不可逆的であるが、本発明を用いると、フォ−ミングした薄膜型電子源が再び非フォ−ミング状態に戻り、ノイズのない電子放出が得られる場合があることである。これは,絶縁層12中にトラップされた電子が絶縁層の特性劣化を引き起こしてフォーミングが発生した場合には,逆方向電界の印加により,トラップされた電子の数が減少するために,絶縁層の特性がもとに戻るためである。
【0015】
【実施例】
実施例1
本発明の実施例1を図1を用いて説明する。絶縁性の基板14上に下部電極13としてAlを15nm形成する。Alの形成には,例えばRFマグネトロンスパッタリングを用いる。このAlの表面を陽極酸化し,絶縁層12を形成する。陽極酸化の化成電流を小さな値に制限することにより,絶縁層12の膜質を向上させることができる。次に,SiO2やAl2O3などの絶縁体を化学気相蒸着法(CVD法)などにより50nm程度の膜厚で蒸着し,保護層15とする。続いて,RFマグネトロンスパッタリングや蒸着法によりAuを5nm程度成膜し,上部電極11とする。さらに,50nm程度のAu, Al などを蒸着して電極端子16とする。
【0016】
このようにして作製した薄膜型電子放出素子を,真空度1×(1/107) Torr 程度の真空槽内にいれて,電極端子16すなわち上部電極11をアース電位として,下部電極13にパルス電圧を印加する。パルス電圧は,図5に示したように,−Vd1=−5〜−7V程度の電圧をパルス幅tw=1msの期間印加して,その次に1msの期間,Vd2=+1〜5V程度の電圧を印加する。この例では,くり返し周期T=2ms,tw=1msであるが,この値に限らない。T=2μs〜1s程度,tw=1μs〜500ms程度とすれば良い。
【0017】
図6は,Vd1=−5.6Vの時に逆バイアス電圧Vd2を0〜4Vの範囲で変えた時の放出電流Ieの変化を示したものである。Vd2が大きくなるとともに放出電流Ieも増大することがわかる。この理由は前述した。
【0018】
図7(a)および図7(b)は,Vd1=−5.6V,Vd2=0〜3.5V,tw=50μsに設定して,周期Tを変えたときの放出電流の大きさIeを測定した結果である。電子放出のデューティ比tw/Tは乗じていない。横軸には,図5に示したtI=T−tw、すなわち、逆バイアス電圧印加期間の長さをプロットした。図7(b)は図7(a)の 0 ≦ tI ≦ 5 ms の部分を拡大したものである。また,図7(a)および図7(b)において、グラフAはVd2= 0, グラフBは Vd2= 2.0 V, グラフCは Vd2= 2.5 V, グラフDは Vd2= 3.0 V, グラフEは Vd2= 3.5 Vでのデータである。いずれのVd2においても,tIを大きくすると放出電流Ieが増加するが,その増加のしかたは,Vd2が大きいほど顕著である。また,いずれのtIにおいても,Vd2を増やすとIeが増加している。したがって,本発明は印加電圧の周期Tは特に規定しない。ただし,長時間にわたって(例えば10秒)連続的に電圧を印加していると,印加電圧の大きさによっては,非フォーミング状態からフォーミング状態への移行や,絶縁破壊の進行が起こったりするので,好ましくない。
【0019】
図8は0.12A/cm2の化成電流密度で陽極酸化した絶縁層を有するMIMについて,真空中に放出した電子の電流Ieの経時変化を示したものである。Vd1=5.6V,Vd2=3V,T=4ms,tw=2msとしている。図9は,同じ条件で作成したMIM型電子源を直流電圧で動作させた時のIeの経時変化である。図9では,電子放出開始後約10分後にノイズが発生し始め,フォーミング状態に移行してしまっている。これに対し,図8では,8時間動作後もノイズがなく,非フォーミング状態を保っている。また,図8では,8時間動作期間中の放出電流のドリフトも6%程度と小さい。これは,絶縁層中の不純物準位や欠陥準位などへの電子の蓄積が起こらないためである。
【0020】
なお,本実施例において,下部電極13として高配向膜,または単結晶膜を用いると,それを陽極酸化して形成した絶縁層12の特性は一層向上し,より高性能な電子放出素子が得られる。また,絶縁層12を陽極酸化で形成する代わりに,スパッタ法や蒸着法などの気相合成法を用いて形成しも良い。
【0021】
また,図1において,下部電極13にSiを用い,絶縁層12に熱酸化等の方法で形成したSiO2膜を用い,上部電極11にAlや不純物をドープしたSiなどを用いても良い。
【0022】
実施例2
本発明の実施例2を図11および図12を用いて説明する。本実施例で用いる薄膜電子源の構造は,実施例1の場合と同じである。本実施例では,印加電圧波形(印加電界波形)に、実施例1の矩形波に代えて正弦波を用いる。ただし,正弦波の電圧振幅は正負で対称である必要はなく,適当なバイアス電圧を重畳してもよい。この場合,図11に示したように,負の電圧が一定値以上になる期間でのみ電子放出が起こる。正弦波を用いた場合には,印加電圧の急激な変化に伴う突入電流が流れないので,駆動回路消費電力の低減や薄膜電子源の電極の抵抗による電圧降下の防止などに効果がある。また,図12に示したように,正弦波の一定電圧以上を制限した波形を用いても同様な効果があることは言うまでもない。
【0023】
実施例3
本発明の実施例3を図10を用いて説明する。光に対して透明な基板14の上にAlなどで下部電極13を形成し,この表面を陽極酸化などの方法で酸化し,絶縁層12を形成する。そして保護層15を形成した後,Auなどを上部電極11として形成する。さらに,電極端子16を形成する。これらの製造プロセスは,先に述べた実施例と同様の方法で作ることができる。電極端子16,すなわち上部電極11はアースにしておき,下部電極13に図5に示した電圧波形を印加する。ただし,先の実施例の場合に比べて,Vd1を小さくし,電圧を印加しただけでは,電子放出が起こらないようにする。この状態で下部電極13に励起光40を照射すると,光アシスト・トンネリング現象により,光を照射した場所のみ電子放出が起こる。このようにすると,励起光40の空間的パターンと同じ形に整形した電子ビームを得ることができる。また,励起光40として短パルスレーザーを用いると,極めてパルス幅が狭いパルス電子ビームを得ることができる。光アシスト・トンネリングを用いた場合でも,絶縁層12には高電界が印加されるために,絶縁層の劣化が起こる。下部電極13に印加する電圧の極性を交互に変えることにより,この劣化を防ぐことができる。
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、薄膜型電子源の放出電流を増やし,かつ非フォーミング状態を安定に長時間保つことが可能になる。この結果,長時間にわたって,ドリフトおよびノイズのない放出電流を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1の薄膜型電子源の断面図である。
【図2】薄膜型電子源の動作原理の説明図である。
【図3】薄膜型電子源に電圧を印加した時の電子の動きを示す図である。
【図4】フォーミング状態への移行のメカニズムの説明図である。
【図5】本発明の実施例1の駆動電圧波形図である。
【図6】本発明の実施例1のVd2を変えた時の放出電流の変化を示す図である。
【図7】本発明の実施例1のtIを変えた時の放出電流の変化を示す図である。
【図8】本発明の実施例1の本発明の放出電流の経過変化を示す図である。
【図9】本発明の実施例1の直流電圧で駆動した時の放出電流の変化を示す図である。
【図10】本発明の実施例3の薄膜型電子源の断面図である。
【図11】本発明の実施例2の印加電圧波形図である。
【図12】本発明の実施例2の印加電圧波形図である。
【符号の説明】
10…真空,11…上部電極,12…絶縁層,13…下部電極,14…基板,15…保護層,16…電極端子,20…電源,30…導電経路,32…トラップされた電子。

Claims (4)

  1. 下部電極と上部電極との間に絶縁層を挟み込んだ構造を有し、上記上部電極に正極性の電圧を印加することにより上記下部電極から上記絶縁層に流れ込んだトンネル電子の一部が上記上部電極表面から放出される薄膜型電子源の駆動方法において、上記下部電極と上記上部電極との間に極性が交互に反転する電界を印加し、
    上記上部電極に負極性の電圧を印加することにより、上記上部電極に正極性の電圧を印加した際に上記絶縁層にトラップされた電子の一部は、上記下部電極に向けて移動・トラップされ、
    上記上部電極に正極性の電圧を印加した際、上記正極性の電圧印加による外部電界と、上記下部電極に向けて移動・トラップされた電子による上記外部電界と順方向の内部電界との足し合わせた電界が上記絶縁層に印加されることを特徴とする薄膜型電子源の駆動方法。
  2. 請求項1において、
    上記絶縁層は酸化膜で構成されることを特徴とする薄膜型電子源の駆動方法。
  3. 金属電極と半導体電極との間に絶縁層を挟み込んだ構造を有し、上記金属電極に正極性の電圧を印加することにより上記半導体電極から上記絶縁層に流れ込んだトンネル電子の一部が上記金属電極表面から放出される薄膜型電子源の駆動方法において、上記金属電極と上記半導体電極との間に極性が交互に反転する電界を印加し、
    上記金属電極に負極性の電圧を印加することにより、上記金属電極に正極性の電圧を印加した際に上記絶縁層にトラップされた電子の一部は、上記半導体電極に向けて移動・トラップされ、
    上記金属電極に正極性の電圧を印加した際、上記正極性の電圧印加による外部電界と、上記半導体電極に向けて移動・トラップされた電子による上記外部電界と順方向の内部電界との足し合わせた電界が上記絶縁層に印加されることを特徴とする薄膜型電子源の駆動方法。
  4. 請求項3において、
    上記絶縁層は酸化膜で構成されることを特徴とする薄膜型電子源の駆動方法。
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