JP3743867B2 - 2−フルオロシクロプロパンカルボン酸類の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、下式〔II〕で示される2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類の製造法に関する。
【0002】
【化3】
【0003】
(式中、Rは水素原子又は低級アルキル基を表す。)
【0004】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類は医薬、農薬等の中間体として知られた化合物であり(特開平2-78644 号公報、特開平6-65140 号公報、特開平2-231475号公報)、例えば、2-フルオロシクロプロパンカルボン酸は、2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸をラネーニッケル触媒を用いてエタノール溶媒、水素加圧下で還元して製造することも知られている(ジャーナル・オブ・フルオリン・ケミストリー(J.Fluorine Chemistry), 49,127(1990))。
【0005】
しかしながら、この公知方法においては、目的物の収率が著しく低いという難点、ラネーニッケル合金から一旦ラネーニッケル触媒を製造した後に還元反応に使用するため操作が煩雑になるという難点、更には水素を供給する必要があるという難点があった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる工業上の難点を解決すべく、2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕の還元方法について鋭意検討を重ねた結果、2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕の共存下でラネーニッケル合金を展開するという単純な操作により、高収率で容易に、しかも水素を供給することなしでも、目的とする2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔II〕を製造し得ることを見出すとともに、さらに種々の検討を加えて本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、式〔I〕
【0008】
【化4】
【0009】
(式中、Rは水素原子又は低級アルキル基を、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
で示される2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類の存在下にラネーニッケル合金を展開することを特徴とする式〔II〕
【0010】
【化5】
【0011】
(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類の工業的に優れた製造法を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下本発明について、詳細に説明する。
【0013】
本発明の原料である2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕の置換基Rとしては、例えば水素原子或いはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル等の低級アルキル基などが挙げられる。このうち低級アルキル基としては、特に炭素数1〜5のものが好ましく、より好ましくは1〜2の低級アルキル基である。
【0014】
置換基Xとしては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、塩素原子が通常使用される。
【0015】
また、シクロプロパン環上のフッ素原子とカルボキシル基の関係は、シス及びトランスのいずれであっても使用し得る。
【0016】
上記2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕の具体的な化合物としては、例えば2-クロロ-2- フルオロシクロプロパンカルボン酸、2-ブロモ-2- フルオロシクロプロパンカルボン酸、2-ヨード-2- フルオロシクロプロパンカルボン酸、2-クロロ-2- フルオロ-1- メチルシクロプロパンカルボン酸、2-ブロモ-2- フルオロ-1- メチルシクロプロパンカルボン酸、2-ヨード-2- フルオロ-1- メチルシクロプロパンカルボン酸、2-クロロ-2- フルオロ-1- エチルシクロプロパンカルボン酸、2-クロロ-2- フルオロ-1- プロピルシクロプロパンカルボン酸等が挙げられる。
【0017】
2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕は、いずれも公知の方法に従って容易に製造することができる。例えば、特開平6-9499号公報に記載の方法に従い、1-ハロ-1- フルオロエチレンとジアゾ酢酸エステル類から2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸エステル類を製造し、これを加水分解することにより製造することができる。また、前記ジャーナル・オブ・フルオリン・ケミストリー(J.Fluorine Chemistry), 49,127(1990)に記載の方法に従い、ブタジエン類とジハロフルオロメタンから2-ハロ−2-フルオロ-1- ビニルシクロプロパン類を製造し、これを過マンガン酸カリウム等で酸化することにより製造することもできる。
【0018】
本発明は、2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕の存在下にラネーニッケル合金を展開することを特徴とするものであるが、該カルボン酸類〔I〕は、ナトリウム塩、カリウム塩等の無機塩の形で通常使用される。勿論、該カルボン酸類〔I〕は、遊離の酸の形で使用してもよい。
【0019】
ラネーニッケル合金は、ニッケルとアルミニウムを主成分とするものであるが、ニッケル含量が30〜60重量%程度、好ましくは40〜50重量%程度のものが通常使用される。その使用量は、2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類 〔I〕に対して、通常 0.05 〜5 重量倍程度、好ましくは 0.1〜1 重量倍程度である。ラネーニッケル合金は、粉末状のものが通常使用される。
【0020】
ラネーニッケル合金の展開(即ち、ラネーニッケル合金から無機塩基を用いてアルミニウムを溶出させる操作)は、通常、溶媒の存在下に無機塩基を作用させることにより実施される。
【0021】
溶媒としては、通常、水が使用されるが、水にアルコール類、例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコールを含有させることもできる。水又は水−アルコール混合溶媒の使用量は、ラネーニッケル合金に対して、通常 2〜50重量倍程度、好ましくは 2〜20重量倍程度である。
【0022】
また、無機塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等が通常使用される。無機塩基は水溶液の形で通常用いられる。その際の無機塩基水溶液の濃度は広い範囲から適宜選択すればよいが、一般には、10〜50重量%程度、好ましくは15〜35重量%程度の濃度である。無機塩基は、ラネーニッケル合金に対して通常0.1 〜40重量倍程度、好ましくは0.5 〜20重量倍程度用いられる。
【0023】
また、無機塩基にアンモニア、有機塩基から選ばれる少くとも1種の塩基を併用することにより、反応を促進させることができる。有機塩基としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン等の低級アルキルアミン(特に、炭素数1〜3の低級アルキルアミン)、エタノールアミン、i−プロパノールアミン等の低級アミノアルコール(特に、炭素数1〜3の低級アミノアルコール)、エチレンジアミン等の低級アルキレンジアミン(特に、炭素数1〜3の低級アルキレンジアミン)及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0024】
また低級アルキレンジアミンを用いた場合は、アンモニアや低級アルキルアミン、低級アミノアルコール等のモノアミンを併用することが好ましく、これにより、低級アルキレンジアミンを用いた場合に惹起されるニッケルの溶出を抑制でき、排出水の着色負荷等を削減し得る。
【0025】
このように、低級アルキレンジアミンと、アンモニアや低級アルキルアミン、低級アミノアルコール等のモノアミンとを併用する場合、両者の使用割合は特に限定されるものではないが、アンモニアや該モノアミンは、通常、ニッケル溶出が抑制されるのに足る量で使用する。一般には、低級アルキレンジアミン1モルに対して、アンモニア及び上記モノアミンから選ばれる少なくとも1種を、10〜300モル程度使用するのが好ましい。
【0026】
アンモニア及び有機塩基からなる群から選ばれる少くとも1種の塩基の使用量は、2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕に対して、通常、15モル倍程度以下、好ましくは0.5 〜5モル倍程度である。
【0027】
本発明の製造法は、2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕が存在する系において、ラネーニッケル合金を展開するという簡単な操作を行なうことにより、目的とする2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔II〕を得るものである。この反応の機構は未だ完全には解明されていないが、展開操作により発生する活性な水素によって、系内に存在する2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕が効率良く還元されるものと思われる。
【0028】
上記展開操作ないし還元反応は、各種の方法により行なえるが、例えば、撹拌下に、原料である2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕を無機塩基水溶液に溶解させ、これにラネーニッケル合金を添加し、更に無機塩基を添加する方法等を採用することができる。また、アンモニアや有機塩基は、任意の段階で添加してもよく、これにより反応を促進せしめることができる。上記カルボン酸類〔I〕、ラネーニッケル合金、無機塩基水溶液、アンモニアや有機塩基の添加順序は、特に限定されず、どのような順序であってもよい。
【0029】
ラネーニッケル合金の展開温度は、通常0〜100 ℃、好ましくは20〜90℃であり、展開操作ないし還元反応に要する時間は、通常、1 〜50時間程度である。一般に展開ないし還元反応は、大気圧で行なうのが好適である。
【0030】
また、原料の添加を比較的低い温度、例えば、40℃以下で実施した場合、添加後に、より高い温度、例えば50℃以上の温度に昇温して還元反応を促進させることができる。
【0031】
また、原料添加後、必要に応じて、水素を大気圧下又は加圧下に供給することもできるが、供給しなくても還元反応は十分進行する。
【0032】
上記還元反応により、目的とする2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔II〕は、上記塩基との塩の形で生成する。
【0033】
反応後、例えば、展開により生成したラネーニッケル触媒を反応マスから濾過して除去した後、濾液を酸性化し、有機溶媒で抽出し、有機層中の有機溶媒等の低沸分を留去して除去することにより、目的物である2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔II〕を取り出すことができる。
【0034】
上記酸性化の工程でのpHは、得られた塩から遊離のカルボン酸を生成するに足るpHであれば特に限定されないが、一般には、pH2以下程度にするのが好ましい。
【0035】
また、抽出に使用する有機溶媒としては、特に制限なく広い範囲のものが使用でき、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル t−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒、塩化メチレン、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等が用いられるが、これらのうちでもエーテル系溶媒が好ましく用いられる。
【0036】
また、こうして得られた目的物は、必要に応じ、蒸留、再結晶、カラムクロマト等の慣用されている手段により、更に精製することもできる。また、精留することにより、シス体とトランス体を夫々単離することもできる。
【0037】
【発明の効果】
かくして目的物である2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔II〕が得られるが、本発明によれば、原料の2-ハロ−2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔I〕の存在下にラネーニッケル合金を展開するという単純な操作により、高収率で容易に、目的とする2-フルオロシクロプロパンカルボン酸類〔II〕を製造し得る。
【0038】
そのうえ、水素を供給することなしでも目的物を製造し得るので、本発明は工業的に極めて有利となる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、例中のシス、トランスはシクロプロパン環のフッソ原子とカルボキシル基の関係を示す。また、各実施例において、シス体/トランス体の比は、モル比であり、「%」(濃度及び含量について)は、全て「重量%」である。
【0040】
実施例1
撹拌下、2-クロロ-2- フルオロシクロプロパンカルボン酸( シス/ トランス=1.25/1) 4g と5.7 %苛性ソーダ水溶液21.2g からなる溶液にラネーニッケル合金(ニッケル含量 50 重量%)2gを加えて35℃に昇温した後、30〜40℃の温度を保ちながら、これに20%苛性ソーダ水溶液20g とエチレンジアミン8.7gを30分かけて加えた。
【0041】
次いで、30〜40℃に保温しながら7時間攪拌した後、ラネーニッケル触媒を濾過し、濾液に塩酸を加えて酸性化(pH=1)し、メチル t-ブチルエーテルで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、低沸分(抽出溶剤等)を留去することにより、目的とする2-フルオロシクロプロパンカルボン酸を 2.92g得た。
【0042】
このものをガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、反応率99.5%、純度94.9%、収率92.4%、シス体/トランス体=1.2 /1であった。
【0043】
実施例2
実施例1において、エチレンジアミンを2.7g用い、5.7 %苛性ソーダ水溶液の代わりに27%苛性ソーダ水溶液4.4g、20%苛性ソーダ水溶液の代わりに27%苛性ソーダ水溶液 9.6g を用いて、30〜40℃での保温撹拌を3時間とする以外は実施例1に準拠して実施した。
【0044】
こうして目的とする2-フルオロシクロプロパンカルボン酸を得た。このものをガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、反応率99.5%、収率84.3%、シス体/トランス体=1.06/1であった。
【0045】
なお、抽出後の排水は緑色に着色しており、ニッケル含量は0.6%であった。
【0046】
実施例3
実施例1において、エチレンジアミンを2.7g用い、30〜40℃での保温撹拌を20時間とする以外は実施例1に準拠して実施した。
【0047】
こうして目的とする2-フルオロシクロプロパンカルボン酸を得た。このものをガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、反応率99.5%、収率80.4%、シス体/トランス体=1.13/1であった。
【0048】
実施例4
実施例2において、シス体/トランス体=99/1 の2-クロロ-2- フルオロシクロプロパンカルボン酸 4g を用い、30〜40℃での保温撹拌を50℃で2時間とする以外は実施例2に準拠して実施した。
【0049】
こうして目的とする2-フルオロシクロプロパンカルボン酸を得た。このものをガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、反応率99.9%、収率 99 %、シス体100 %であった。
【0050】
実施例5
撹拌下、39.4%の2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウム(シス/トランス=1.29/1)の水溶液34.5gにラネーニッケル合金(ニッケル含量50%)5.8gを加えて60℃に昇温した後、60〜70℃の温度を保ちながら、これにエチレンジアミン0.2gと28%アンモニア水53.3gからなる溶液と45%苛性ソーダ水溶液38.3gとを4時間かけて加えた。
【0051】
次いで、実施例1に準拠して後処理を実施した。
【0052】
反応率99.9%、収率86.5%、シス体/トランス体=1.26/1であった。また抽出後の排水は無色であり、ニッケル含量は1ppm以下であった。
【0053】
実施例6
実施例5において、ラネーニッケル合金を4.4g用い、エチレンジアミンと28%アンモニア水からなる溶液の代わりに28%アンモニア水53.3gを用い、45%苛性ソーダ水溶液40gを用いる以外は実施例5に準拠して反応を実施し、次いで、実施例1に準拠して後処理を実施した。
【0054】
反応率99.8%、収率74.8%、シス体/トランス体=1.49/1であった。また抽出後の排水は無色であり、ニッケル含量は1ppm以下であった。
【0055】
実施例7
撹拌下、42.4%の2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウム(シス/トランス=1.29/1)の水溶液32.1gにラネーニッケル合金(ニッケル含量50%)5.9gを加えて40℃に昇温した後、40〜50℃の温度を保ちながら、40%メチルアミン水26.3gと45%苛性ソーダ水溶液17.3gとを4時間かけて加えた。次いで、40〜50℃で13時間、60〜70℃で5時間撹拌を続けた後、実施例1に準拠して後処理を実施した。
【0056】
反応率97.4%、収率87.4%、シス体/トランス体=1.37/1であった。また抽出後の排水は無色であり、ニッケル含量は1ppm以下であった。
【0057】
実施例8
撹拌下、42%の2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウム(シス/トランス=1.3/1)の水溶液11gにラネーニッケル合金(ニッケル含量50%)2gを加えて35℃に昇温した後、35〜40℃の温度を保ちながら、エタノールアミン8.9gと27%苛性ソーダ水溶液14.8gとを1時間かけて加えた。次いで、35〜40℃で21時間撹拌を続けた後、実施例1に準拠して後処理を実施した。
【0058】
反応率98.2%、収率86.8%、シス体/トランス体=1.47/1であった。また抽出後の排水は無色であり、ニッケル含量は1ppm以下であった。
【0059】
実施例9
実施例8において、エタノールアミンの代わりに50%ジメチルアミン13gを用い、21時間の撹拌を23時間とする以外は、実施例8に準拠して実施した。
【0060】
反応率74.5%、収率67.6%、シス体/トランス体=2.58/1であった。また抽出後の排水は無色であり、ニッケル含量は1ppm以下であった。
Claims (4)
- 展開を、アンモニア及び有機塩基からなる群から選ばれる少くとも1種の塩基の共存下に実施することを特徴とする請求項1に記載の製造法。
- 有機塩基が、低級アルキルアミン、低級アミノアルコール、低級アルキレンジアミンから選ばれる少くとも1種の塩基である請求項2に記載の製造法。
- 展開を、アンモニア、低級アルキルアミン及び低級アミノアルコールから選ばれる少くとも1種と低級アルキレンジアミンとの混合物の共存下に行うことを特徴とする請求項1に記載の製造法。
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- 1996-01-26 JP JP01145296A patent/JP3743867B2/ja not_active Expired - Fee Related
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