JP3742887B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、スクロール圧縮機に関し、特に、クランク軸内部に圧縮後のガス冷媒を通過させる通路が設けられたスクロール圧縮機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図3と図4に、圧縮後のガス冷媒を通過させる通路がクランク軸内部に設けられた従来のスクロール圧縮機を示す。図3は、特開平4−370382号公報に開示されたスクロール圧縮機を示す部分断面図である。図4は、特公平6−65880号公報に開示されたスクロール圧縮機を示す部分断面図である。なお、説明の便宜上、図3および図4には、本願発明との関連部分にのみ番号を付し、その部分の名称も本願発明に対応させて適宜変更している。
【0003】
まず図3を参照して、密閉ケーシング1内にはステータ8とロータ9とを有するモータ10が配置される。ロータ9にはクランク軸11が嵌入され、クランク軸11の一端には偏心部11aが設けられる。偏心部11a内には可動スクロール3のボス部3aが挿入され、このボス部3aの上端にはシールリング28が取付けられる。可動スクロール3下には固定スクロール2が配置される。この固定スクロール2と可動スクロール3とでガス冷媒を圧縮する圧縮室が形成される。この圧縮室と連通するように可動スクロール3に吐出ガス通路14aが形成される。この吐出ガス通路14aと連通するようにクランク軸11内に連通孔25が設けられる。
【0004】
可動スクロール3の周囲にはハウジング6aが配置され、このハウジング6a上に油溜まり15が設けられる。ハウジング6aには、リング体26,シール体29等のシール部材が取付けられる。リング体26は、ハウジング6aに設けられた凹部27に取付けられる。
【0005】
上記の構成を有するスクロール圧縮機に吸入管16を通してガス冷媒が送り込まれる。このガス冷媒は、可動スクロール3と固定スクロール2とで形成される圧縮室内で圧縮され、吐出ガス通路14aおよび連通孔25を通って密閉ケーシング1内に吐出される。そして、その後外部吐出管17を通して外部へ放出される。
【0006】
次に、図4を用いて、他の従来例について説明する。図4を参照して、本従来例では、固定スクロール2と可動スクロール3とが密閉ケーシング1の上部側に配置され、モータ10が下部側に配置されている。そして、クランク軸11の偏心部11aと可動スクロール3のボス部3aとの間にはブシュ18aが挿入されている。また、可動スクロール3および固定スクロール2はハウジング6aによって支持されている。
【0007】
そして、図4に示される従来例では、ガス冷媒は、吸入管16を通して密閉ケーシング1内に送り込まれ、その後固定スクロール2と可動スクロール3とで形成される圧縮室内に送り込まれる。この圧縮室内で圧縮されたガス冷媒は、吐出ガス通路14aを通してクランク軸11内に送り込まれ、クランク軸11に設けられた開口を通して図中の白色矢印に従って密閉ケーシング1内に放出される。その後、ガス冷媒は、モータ10を冷却した後外部吐出管17を通して密閉ケーシング1の外部に放出される。なお、図4において、黒色矢印は、潤滑油の流れを示している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の2つの従来例には、次に説明するようないくつかの問題があった。
【0009】
ここで再び図3を参照して、本従来例では、圧縮後のガス冷媒が偏心部11aの内周面とボス部3aの外周面との隙間に漏れるのを防止すべくシールリング28を設置しているが、このシールリング28は差圧を利用するタイプのものであるためスクロール圧縮機の起動初期のようにガス冷媒が十分に圧縮されていない時点では十分なシール機能を発揮しない。そのため、ガス冷媒が偏心部11aの内周面とボス部3aの外周面との隙間に入り、偏心部11aの内周面とボス部3aの外周面との隙間の潤滑油を押し退けてしまう。その結果、スクロール圧縮機の起動初期に偏心部11aの内周面とボス部3aの外周面とが潤滑油不良のため焼付くという問題があった。この問題はガス冷媒の吐出脈動が発生した場合にも懸念される。また、シールリング28はボス部3aの上端の環状溝に取付けられるが、この場合シールリング28は、その摺動により耐久性が低下し、ガス冷媒が上記隙間から漏洩して潤滑油不良による焼付を生じるという問題もあった。さらに、シールリング28等のシール部材は、スクロール圧縮機に組込まれる際に可動スクロール3から脱落することもあり、生産性を低下させる一因ともなっていた。
【0010】
次に、図4を参照して、本従来例の場合も、吐出ガス通路14aを通過後のガス冷媒が偏心部11aとブシュ18aとの間に入り、上記の場合と同様に、偏心部11aとブシュ18aとの間で焼付きが発生するという問題があった。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものである。この発明の目的は、圧縮後のガス冷媒が偏心部11aとボス部3aとの間に入るのを効果的に抑制することにより焼付きの発生を抑制することが可能となるスクロール圧縮機を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明の請求項1に記載のスクロール圧縮機は、可動スクロールと、クランク軸と、付勢手段とを備える。可動スクロールは、圧縮後のガス冷媒を吐出する吐出口を有する。クランク軸は、その一端に開口し吐出口と連通する吐出ガス通路が内部に形成され、可動スクロールを駆動させるものである。付勢手段は、クランク軸を可動スクロールに対し付勢することにより、吐出口と吐出ガス通路とが通ずる部分近傍からのガス冷媒の漏れを抑制するためのものである。
【0013】
請求項2に記載のスクロール圧縮機は、密閉されたケーシングと、このケーシング内で軸受を介してクランク軸を保持するハウジングとを備える。クランク軸は軸受の一部が当接されるフランジ部を有する。付勢手段は、軸受とハウジングとの間に配置され、軸受およびフランジ部を可動スクロールに対し付勢する。
【0014】
請求項3に記載のスクロール圧縮機は、シール部材をさらに備える。このシール部材は、クランク軸の一端と可動スクロールとの間に配置され、圧縮後のガス冷媒が吐出口と吐出ガス通路とが通ずる部分近傍から漏れるのを抑制する機能を有する。なお、上記の「クランク軸の一端」には、クランク軸の一端に凹部が設けられた場合にその凹部の底面も含まれるものと定義する。
【0015】
請求項4に記載のスクロール圧縮機では、上記のシール部材が耐摩耗性を有する材質により構成される。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図1と図2とを用いて、この発明の1つの実施の形態について説明する。図1は、この発明の1つの実施の形態におけるスクロール圧縮機を示す断面図である。なお、図示の便宜上、ハッチングを省略している部分もある。
【0017】
図1を参照して、この発明に係るスクロール圧縮機は、密閉ケーシング1を備え、この密閉ケーシング1内に、圧縮要素4と、上部ハウジング6と、クランク軸11と、モータ10と、下部ハウジング7とが組込まれる。
【0018】
圧縮要素4は、固定スクロール2と可動スクロール3とで構成され、吸入管16を通して外部から密閉ケーシング1内に送り込まれたガス冷媒を圧縮する。可動スクロール3は、ボス部3aを有する。このボス部3aの内側にブシュ18bが圧入されているクランク軸11の偏心部11aが挿入される。この偏心部11aとボス部3aとの間にはスライドブシュ18が挿入される。偏心部11aの上端(クランク軸11の上端)とボス部3aの内側に位置する可動スクロール3の背面との間には耐摩耗性を有するシール板20が設置される。
【0019】
クランク軸11は、たとえばころがり軸受である上部軸受12aとスラストプレート21とウエーブワッシャ22とを介在して上部ハウジング6に保持される。また、クランク軸11は、下部軸受12bを介して下部ハウジング7にも保持される。このクランク軸11は、モータ10のロータ9に嵌入される。ロータ9の周囲にはステータ8が存在する。なお、上記の上部ハウジング6により密閉ケーシング1内の空間が高圧室13と低圧室5とに仕切られる。また、密閉ケーシング1の底部には油溜まり15が設けられる。
【0020】
上記のような構成を有するスクロール圧縮機内に吸入管16を通してガス冷媒が送り込まれる。このガス冷媒は、固定スクロール2と可動スクロール3によって形成される圧縮室内に送り込まれ、この圧縮室内で圧縮される。そして、可動スクロール3に設けられた吐出口14を通ってクランク軸11内に形成された吐出ガス通路(図示せず)内に送り込まれる。このようにしてクランク軸11内に送り込まれた圧縮後のガス冷媒は、クランク軸11に設けられた吐出口(図示せず)から密閉ケーシング1内に放出され、外部吐出管(図示せず)を通してスクロール圧縮機の外部へと放出される。
【0021】
次に、図2を用いて、本発明の特徴部分についてより詳しく説明する。図2は、図1における領域19内を拡大した図である。
【0022】
図2を参照して、クランク軸11内には、吐出口14と連通する吐出ガス通路24と、油通路23とが設けられる。吐出ガス通路24は、クランク軸11の一端に設けられた開口からクランク軸11の内部へと延在する。圧縮された後のガス冷媒は、図中の矢印に従って圧縮室から吐出口14と上記の開口とを通って吐出ガス通路24内に送り込まれ、その後密閉ケーシング1内に放出される。一方、油溜まり15に蓄えられた潤滑油は、油通路23を通ってスライドブシュ18の表面等に供給される。
【0023】
クランク軸11は、上部軸受12a上に延在するようにフランジ部11bを有する。上部軸受12aの内輪12a1は、クランク軸11に圧入される。この内輪12a1の下にはリング状のスラストプレート21が配置され、このスラストプレート21の下にはウエーブワッシャ22が配置される。
【0024】
このウエーブワッシャ22が本発明の付勢手段として機能することとなる。このウエーブワッシャ22によってスラストプレート21および内輪12a1を介して、偏心部11aの上端が可動スクロール3のボス部の背面にシール板20を介して押付けられることとなる。
【0025】
それにより、スクロール圧縮機の起動初期や吐出脈動発生時等においても安定してクランク軸11の上端が可動スクロール3の背面にシール板20を介して押付けられ、吐出口14と吐出ガス通路24の開口端との間におけるシール性を高めることが可能となる。その結果、偏心部11aの上端近傍からガス冷媒が漏れるのを効果的に抑制することが可能となる。それにより、ブシュ18bとスライドブシュ18間における潤滑不良を効果的に抑制でき、焼付きの発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0026】
なお、付勢手段の一例としてウエーブワッシャ22を挙げたが、これ以外のものであってもクランク軸11を可動スクロール3の背面に押付ける方向の力をクランク軸11に及ぼし得るものであれば採用可能である。たとえば、ウエーブワッシャ22の代わりに板ばね等のばね材(弾性部材)を使用することも可能である。また、付勢手段としてモータ10のマグネットプルフォースを積極的に使用することも考えられる。
【0027】
また、図1および図2では、シール板20を介してクランク軸11を可動スクロール3の背面に押付ける場合を示したがクランク軸11の上端を直接可動スクロール3の背面に当接させてもよい。
【0028】
偏心部11aと可動スクロール3との間には上述のようにシール板20が設けられている。このシール板20は、たとえば耐摩耗性の高い金属製の板材により構成されてもよく、リング状の形状を有している。そして、シール板20はボス部3a内に圧入され、シール板20の外周においてもシール機能を発揮する。さらに、このシール板20の表面の面粗度は良好なものであることが好ましく、面粗度を良好なものとするのは比較的容易である。面粗度の良好な、シール板20を介在させることにより、偏心部11aと可動スクロール3の背面とを直接接触させる場合と比べ、異常摩耗の発生を効果的に抑制することが可能となる。それは、ボス部3aの内側に位置する可動スクロール3の背面の加工が困難であることから、ボス部3aの内側に位置する可動スクロール3の背面の面粗度を良好なものとし難く、この場合に異常摩耗が懸念されるからである。また、シール板20の面粗度を良好なものとすることにより、シール板20と可動スクロール3および偏心部11aとの間のシール性も良好なものとなり得る。それにより、偏心部11aの上端からガス冷媒が漏れることを効果的に抑制することが可能となる。
【0029】
以上のようにこの発明の1つの実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0030】
【発明の効果】
この発明の請求項1に記載のスクロール圧縮機では、付勢手段が設けられているので、スクロール圧縮機の起動初期や吐出脈動発生時でも安定してクランク軸を可動スクロールに対し付勢することが可能となる。それにより、クランク軸に設けられた吐出ガス通路の開口端の周囲に位置するクランク軸の一端を、吐出口の周囲に位置する可動スクロールに直接あるいは何らかの部材を介して押付けることが可能となる。そのため、上記の吐出口と上記の吐出ガス通路が通ずる部分近傍(可動スクロールとクランク軸の一端との間)におけるシール性を常に高めることが可能となり、起動初期や吐出脈動発生時においても、ガス冷媒がクランク軸の一端近傍から漏れることを効果的に抑制することが可能となる。その結果、ガス冷媒がクランク軸の偏心部と可動スクロールのボス部との間に侵入することを抑制でき、スクロール圧縮機の起動初期や吐出脈動発生時等における偏心部とボス部との間での焼付きの発生を効果的に抑制することが可能となる。なお、クランク軸を直接可動スクロールに押付けた場合には、クランク軸と可動スクロールとの間にシール部材を配置する必要がなくなる。それにより、コストダウンが図れるとともに生産性も向上させることが可能となる。
【0031】
請求項2に記載のスクロール圧縮機では、軸受を介してクランク軸を保持するハウジングが設けられ、軸受とハウジングとの間に付勢手段が配置される。それにより、付勢手段によって軸受とクランク軸のフランジ部とを可動スクロールに対し付勢することができ、結果としてクランク軸の一端を可動スクロールに直接または何らかの部材を介在して間接的に押付けることが可能となる。それにより、請求項1の場合とほぼ同様の効果が得られる。
【0032】
請求項3に記載のスクロール圧縮機では、シール部材がクランク軸の一端と可動スクロールとの間に配置されている。このシール部材はクランク軸あるいは可動スクロールとは別部材であり、その面粗度を良好に仕上げることは容易に行なえる。そして、面粗度が良好なシール部材をクランク軸と可動スクロールとの間に配置することにより、クランク軸と可動スクロールとが直接接触する場合と比べ、シール性を高めることが可能となる。それにより、クランク軸の一端近傍からガス冷媒が漏れることを効果的に抑制することが可能となる。
【0033】
請求項4に記載のスクロール圧縮機では、上記のシール部材が耐摩耗性を有する材質により構成されている。それにより、クランク軸の一端と可動スクロールとが直接接して摺動する場合と比べ、クランク軸の一端と可動スクロールとの間の焼付きや異常摩耗の発生を効果的に抑制することが可能となる。それにより、可動スクロールに耐摩耗性の高い材料を使用する必要がなくなり、加工性を向上させることが可能となる。それに伴い、別部材としてのシール部材に要する費用はかかるものの結果としてコストダウンを図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の1つの実施の形態におけるスクロール圧縮機を示す断面図である。
【図2】図1における領域19を拡大した図である。
【図3】従来のスクロール圧縮機の一例を示す部分断面図である。
【図4】従来のスクロール圧縮機の他の例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
1 密閉ケーシング
2 固定スクロール
3 可動スクロール
3a ボス部
4 圧縮要素
5 低圧室
6 上部ハウジング
7 下部ハウジング
10 モータ
11 クランク軸
11a 偏心部
11b フランジ部
12a 上部軸受
12a1 内輪
14 吐出口
14a 吐出ガス通路
20 シール板
21 スラストプレート
22 ウエーブワッシャ
Claims (4)
- 圧縮後のガス冷媒を吐出する吐出口(14)を有する可動スクロール(3)と、
一端に開口し前記吐出口(14)と連通する吐出ガス通路(24)が内部に形成され、前記可動スクロール(3)を駆動させるクランク軸(11)と、
前記クランク軸(11)を前記可動スクロール(3)に対し付勢することにより、前記吐出口(14)と前記吐出ガス通路(24)とが通ずる部分近傍からのガス冷媒の漏れを抑制するための付勢手段(22)と、
を備えた、スクロール圧縮機。 - 前記スクロール圧縮機は、密閉されたケーシング(1)と、該ケーシング(1)内に設けられ軸受(12a)を介して前記クランク軸(11)を保持するハウジング(6)とを備え、
前記クランク軸(11)は前記軸受(12a)の一部(12a1)が当接されるフランジ部(11b)を有し、
前記付勢手段(22)は、前記軸受(12a)と前記ハウジング(6)との間に配置され、前記軸受(12a)および前記フランジ部(11b)を可動スクロール(3)に対し付勢する、請求項1記載のスクロール圧縮機。 - 前記クランク軸(11)の一端と前記可動スクロール(3)との間には、圧縮後の前記ガス冷媒が前記吐出口(14)と前記吐出ガス通路(24)とが通ずる部分近傍から漏れるのを抑制するためのシール部材(20)が設置された、請求項1または2記載のスクロール圧縮機。
- 前記シール部材は耐摩耗性を有する材質により構成される、請求項3記載のスクロール圧縮機。
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