JP3740107B2 - 超伝導トンネル接合素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超伝導トンネル接合素子に関し、さらに詳細には、各種の検出に用いて好適な超伝導トンネル接合素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ジョセフソン素子の一種である超伝導トンネル接合(Superconducting Tunnel Junction:STJ)素子は、各種検出器として用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−71821号公報(図3)
超伝導トンネル接合素子は、トンネル障壁と称される薄い絶縁体層を2つの超伝導体層で挟み込んだ構造を有し、X線などが超伝導体層に入射すると、入射した光のエネルギーが吸収され、当該超伝導体層中のクーパー対の解離と音響量子(フォノン)の発生とが引き起こされる。この際、準粒子が生じ、当該準粒子が量子力学的トンネル効果で絶縁体層を通過することにより、入射した光のエネルギーに比例した電荷が発生し、所定の回路系を用いて信号として取り出されて検出器として動作するものである。
【0004】
そして、光子検出用の超伝導トンネル接合素子としては、例えば、準粒子の捕集効果(トラッピング効果)を得るために、超伝導体層をNb(ニオブ)により形成して電極として用い、トンネル接合に向かって徐々にエネルギーギャップの小さな超伝導体を配置する構成が提案されている。
【0005】
具体的には、トラッピング効果を有する超伝導トンネル接合素子は、絶縁体層たるAlOX層の上下に隣接して、Nbのエネルギーギャップに比べて小さいエネルギーギャップのAl(アルミニウム)層を形成し、このAl層の外側に超伝導体層たるNb層が位置するようになされている。
【0006】
こうした構成の超伝導トンネル接合素子においては、Nb層で生じた準粒子がAl層に留まってトラップされる。その結果、超伝導トンネル接合素子内部の準粒子の分布は、Al層付近、即ち、トンネル障壁であるAlOX層付近に偏るので、準粒子が効率よくトンネルされてトンネル確率が向上し、準粒子の捕集効果が得られるものである。
【0007】
上記した絶縁体層たるAlOX層の上下に隣接してAl層が形成される超伝導トンネル接合素子においては、所定の特性を維持するために、AlOX層の上下に隣接して形成されるAl層の厚みを、100nm程度にする必要がある。
【0008】
従って、AlOX層の上下に隣接してAl層が形成される超伝導トンネル接合素子は、その製造工程のCF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)の際に、ガス圧力を下げ、イオン衝撃によって物理的にエッチングを進めて加工することが欠かせないものであった。
【0009】
こうしたAlOX層の上下に隣接してAl層が形成される超伝導トンネル接合素子においては、反応性イオンエッチングの際のイオン衝撃により、トンネル接合近傍へのダメージが生じ、素子の特性に影響する恐れがあった。
【0010】
また、AlOX層の上下に隣接してAl層が形成される超伝導トンネル接合素子においては、反応性イオンエッチングによるAl層部分のエッチングの際に、残渣を形成し易く、こうした残渣によって不要な電気的な電流経路が形成される恐れがあった。
【0011】
このため、上記した絶縁体層たるAlOX層の上下に隣接してAl層が形成される超伝導トンネル接合素子においては、Al層を形成するために複数回に分けてエッチングを行うとともに、エッチング部分の酸素プラズマ処理などによる絶縁化の工程を付加的に行わなければならず、製造工程が非常に煩雑で長時間に及ぶという問題点があった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な工程で製造することができる超伝導トンネル接合素子を提供しようとするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、トンネル障壁たる絶縁体層と、上記絶縁体層を挟み込む2つの超伝導体層と、上記絶縁体層の上面ならびに下面の少なくとも一方の面に隣接するとともにβ−Taにより形成され、上記超伝導体層において生じて移動した準粒子を留まらせるトラップ層とを有するようにしたものである。
【0014】
従って、本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチングが容易なβ−Taにより形成されるトラップ層が、絶縁体層の上面のみ、絶縁体層の下面のみ、あるいは、絶縁体層の上面ならびに下面に隣接して形成されるので、上記「従来の技術」の項に記載した超伝導トンネル接合素子の絶縁体層たるAlOX層の上下に隣接するAl層を形成する場合のように、イオン衝撃によって物理的にエッチングを進めて加工する必要がないとともに、Al層を形成するために複数回に分けてエッチングを行うことや、エッチング部分の酸素プラズマ処理による絶縁化の工程を付加的に行う必要がなくなるので、簡単な工程で製造することができる。
【0015】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記超伝導体層は、上記トラップ層を形成するβ−Taのエネルギーギャップよりも大きなエネルギーギャップを有するようにしたものである。
【0016】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、上記超伝導体層はNbにより形成され、上記絶縁体層はAlOXにより形成されるようにしたものである。
【0017】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、Si基板上に形成されたNbよりなる下部超伝導体層と、上記下部超伝導体層の上面に形成されたAlよりなるバッファー層と、上記バッファー層の上面に形成されたβ−Taよりなる下部トラップ層と、上記下部トラップ層の上面に形成されたAlOXよりなる絶縁体層と、上記絶縁体層の上面に形成されたβ−Taよりなる上部トラップ層と、上記上部トラップ層の上面に形成されたNbよりなる上部超伝導体層とを有するようにしたものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による超伝導トンネル接合素子の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0019】
図1には、本発明による超伝導トンネル接合素子の実施の形態の一例を示す概略構成断面図が示されている。
【0020】
この超伝導トンネル接合素子10は、基板12と、基板12の上面12aに形成されたバッファー層14と、バッファー層14の上面14aの所定領域に形成された下部超伝導体層16と、下部超伝導体層16の上面16aの所定領域に形成されたバッファー層18と、バッファー層18の上面18aに形成された下部トラップ層20と、下部トラップ層20の上面20aに形成されたトンネル障壁たる絶縁体層22と、絶縁体層22の上面22aに形成された上部トラップ層24と、上部トラップ層24の上面24aに形成された上部超伝導体層26とを有して構成されている。
【0021】
そして、絶縁層28が所定領域に形成され、下部超伝導体層16には外部配線のための下部電極30が接続されており、上部超伝導体層26には外部配線のための上部電極32が接続されている。
【0022】
超伝導トンネル接合素子10の下部超伝導体層16の配線以外の部分、バッファー層18、下部トラップ層20、絶縁体層22、上部トラップ層24ならびに上部超伝導体層26は、正規分布形状に構成されている。
【0023】
そして、超伝導トンネル接合素子10の基板12は、Si基板により形成されており、バッファー層14は、所定の膜厚で薄膜状に形成されたAl2O3よりなり、下部超伝導体層16ならびに上部超伝導体層26は、所定の膜厚で薄膜状に形成されたNbよりなり、バッファー層18は、所定の膜厚で薄膜状に形成されたAlよりなり、下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24は、所定の膜厚で薄膜状に形成された超伝導転位温度が0.5Kの正方晶構造を有するβ−Taよりなり、絶縁体層22は、所定の膜厚で薄膜状に形成されたトンネル障壁たるAlOXよりなり、絶縁層28は、所定の膜厚で薄膜状に形成されたSiO2よりなり、下部電極30ならびに上部電極32は、所定の膜厚で薄膜状に形成されたNbよりなる。
【0024】
こうしたNb,Al,β−Ta,AlOX,β−Ta,Nbという順序で薄膜を積層した構造を有する超伝導トンネル接合素子10は、トンネル障壁たる絶縁体層22(即ち、AlOX)を2つの超伝導体層である下部超伝導体層16(即ち、Nb)ならびに上部超伝導体層26(即ち、Nb)で挟み込んだ構造を有している。さらに、絶縁体層22のAlOXの上下に隣接して、即ち、絶縁体層22の上面22aならびに下面22bそれぞれに隣接して、β−Taよりなる上部トラップ層24ならびに下部トラップ層20が形成されている。
【0025】
ここで、下部超伝導体層16ならびに上部超伝導体層26を構成するNbのエネルギーギャップは、下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24を形成するβ−Taのエネルギーギャップよりも大きいものである。
【0026】
このため、下部超伝導体層16において生じた準粒子が下部トラップ層20に移動すると、下部トラップ層20は当該準粒子を下部トラップ層20に留まらせることができ、準粒子を高効率に収集することが可能となる。また、上部超伝導体層26において生じた準粒子が上部トラップ層24に移動すると、上部トラップ層24は当該準粒子を上部トラップ層24に留まらせることができ、準粒子を高効率に収集することが可能となる。
【0027】
また、バッファー層18を形成するAlは、バッファー層18の下方に位置する下部超伝導体層16を形成するNbの結晶性が、バッファー層18の上方に位置する下部トラップ層20に伝わるのを防ぐものである。このバッファー層18を形成するAlによって、Nbに積層されるTaがβ−Taとして提供されるものである。
【0028】
なお、超伝導トンネル接合素子10の各層の膜厚の比率は、超伝導トンネル接合素子10が動作する際の温度によって規定されるエネルギーギャップに基づいて設定されるものである。
【0029】
ここで、膜厚150nmのNbと、膜厚2.5nmのAlと、膜厚10nm〜20nmのβ−Taと、膜厚10nmのAlOXと、膜厚10nm〜20nmのβ−Taと、膜厚200nmのNbとを順次積層して超伝導トンネル接合素子10を形成する手法の一例を説明する。この際、超伝導トンネル接合素子10は、例えば、基板12の大きさに応じて、100μm×100μm程度以下の大きさとすることができる。
【0030】
まず、基板12としての厚さ400μmのSi基板の表面をスパッタリングにより洗浄し、それから、Si基板上に、バッファー層14として、RFマグネトロンスパッタリングにより膜厚9nmのAl2O3の薄膜を形成する。
【0031】
その後、バッファー層14たるAl2O3の薄膜上に、下部超伝導体層16として、DCマグネトロンスパッタリング(堆積速度95nm/分)によって膜厚150nmのNbの薄膜を形成する。
【0032】
次に、下部超伝導体層16たるNbの薄膜上に、バッファー層18として、DCマグネトロンスパッタリング(堆積速度30nm/分)により膜厚2.5nmのAlの薄膜を形成する。
【0033】
そして、バッファー層18たるAlの薄膜上に、下部トラップ層20として、DCマグネトロンスパッタリング(堆積速度120nm/分)により膜厚10nm〜20nm程度のβ−Taの薄膜を形成する。
【0034】
形成された下部トラップ層20たるβ−Taの薄膜上に、絶縁体層22としてAl2O3を、膜厚10nmのAlの薄膜を形成した後、熱酸化により形成する。より詳細には、Alの堆積速度30nm/分ならびにバックグラウンド圧力5×10−5Paで形成されたAlの薄膜を、1500Paの酸素雰囲気中に1000分間放置して熱酸化させることにより、トンネル障壁として機能するAlOXの薄膜が形成される。
【0035】
次に、絶縁体層22たるAlOXの薄膜上に、上部トラップ層24として、DCマグネトロンスパッタリング(堆積速度120nm/分)により膜厚10nm〜20nmのβ−Taの薄膜を形成する。
【0036】
さらに、上部トラップ層24たるβ−Taの薄膜上に、上部超伝導体層26として、DCマグネトロンスパッタリングによって膜厚200nmのNbの薄膜を形成する。
【0037】
なお、上記した下部超伝導体層16、バッファー層18、下部トラップ層20、絶縁体層22、上部トラップ層24ならびに上部超伝導体層26の積層薄膜は、大気に露出することなく連続して堆積される。そして、形成された下部超伝導体層16、バッファー層18、下部トラップ層20、絶縁体層22、上部トラップ層24ならびに上部超伝導体層26の積層薄膜は、フォトリソグラフィーによるパターン露光の後、圧力20PaでCF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)と、圧力6.7PaでCF4ガスを用いたAlの薄膜の物理エッチングによってパターンニングを行う。
【0038】
そして、絶縁層28として、RFマグネトロンスパッタリングによって膜厚350nmのSiO2の薄膜を形成する。
【0039】
その後、反応性イオンエッチング(RIE)によってコンタクトホールを形成して、DCマグネトロンスパッタリング(堆積速度95nm/分)により膜厚500nmのNbの薄膜を形成し、下部電極30ならびに上部電極32としてパターンニングした。
【0040】
以上の構成において、超伝導トンネル接合素子10を光子検出に用いた場合、X線などが上部超伝導体層26に入射すると、入射した光のエネルギーが吸収され、上部超伝導体層26中のクーパー対の解離と音響量子(フォノン)の発生とが引き起こされる。この際、準粒子が生じ、当該準粒子が量子力学的トンネル効果で絶縁体層22を通過することにより、入射した光のエネルギーに比例した電荷が発生し、所定の回路系を用いて信号として取り出すことにより検出器として動作する。
【0041】
ここで、超伝導トンネル接合素子10においては、絶縁体層22たるAlOXの薄膜の上下に隣接して下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24であるβ−Taの薄膜が形成されている。これら下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24を形成するβ−Taのエネルギーギャップは、Nbのエネルギーギャップに比べて小さく、超伝導トンネル接合素子10は、トンネル接合に向かって徐々にエネルギーギャップの小さな超伝導体を配置する構成を有している。
【0042】
こうした構成の超伝導トンネル接合素子10においては、上部超伝導体層26たるNbの薄膜で生じた準粒子が上部トラップ層24に移動すると、当該準粒子は上部トラップ層24に留まり、上部トラップ層26たるβ−Taの薄膜にトラップされる。
【0043】
その結果、超伝導トンネル接合素子10内部の準粒子の分布は、上部トラップ層24たるβ−Taの薄膜付近、即ち、トンネル障壁である絶縁体層22のAlOXの薄膜付近に偏るので、準粒子が効率よくトンネルされてトンネル確率が向上し、準粒子の捕集効果(トラッピング効果)が得られる。
【0044】
上記したように、本発明による超伝導トンネル接合素子10においては、β−Taにより形成される下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24を有するようにしたので、準粒子の捕集効果(トラッピング効果)が得られる。
【0045】
しかも、本発明による超伝導トンネル接合素子10は、下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24はβ−Taにより形成されており、上記「従来の技術」の項に記載した超伝導トンネル接合素子のように絶縁体層たるAlOX層の上下に隣接する厚いAl層は形成されない。
【0046】
従って、本発明による超伝導トンネル接合素子10は、Al層を形成するために複数回に分けてエッチングを行うことや、エッチング部分の酸素プラズマ処理による絶縁化の工程を付加的に行う必要がない。
【0047】
また、本発明による超伝導トンネル接合素子10においては、下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24たるβ−Taの薄膜を形成する際に、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチングを用いるが、Al層を形成する場合のようにイオン衝撃によって物理的にエッチングを進めて加工する必要はない。
【0048】
つまり、本発明による超伝導トンネル接合素子10は、下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24のβ−Taの薄膜を、下部超伝導体層16ならびに上部超伝導体層26のNbの薄膜を形成するのと同様に、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)により容易に形成することができる。
【0049】
また、本発明による超伝導トンネル接合素子10は、下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24を形成するβ−Taの薄膜の膜厚はおよそ20nmとすることができ、上記「従来の技術」の項に記載した超伝導トンネル接合素子のAlOX層の上下に隣接して形成されるAl層の厚み100nmに比較して十分に薄いものである。
【0050】
こうした本発明による超伝導トンネル接合素子10は、簡単な工程で製造することができる。このため、本発明による超伝導トンネル接合素子10は、加工精度がよく、製造時間が短くて済むとともに、高い信頼性を有し、再現性もよい。また、本発明による超伝導トンネル接合素子10は、反応性イオンエッチングの際のイオン衝撃がないので、製造工程におけるダメージがなく、素子の特性を高品質に維持することができる。
【0051】
また、簡単な工程で製造することができる本発明による超伝導トンネル接合素子10は、その製造時間が短くて済むので、超伝導トンネル接合素子の開発過程において素子を製造してはその性能を確認し、その結果に基づいて改善して製造しては性能を確認するというフィードバックのサイクルを早めることができるので、非常に有益である。
【0052】
なお、本発明による超伝導トンネル接合素子10において、下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24を形成する超伝導転位温度が0.5Kの正方晶構造を有するβ−Taは、超伝導転位温度が4.48Kの体心立方晶構造のbcc−Taとは、容易に区別して形成することが可能なものであり、製造工程は何ら複雑化しないものである。また、β−Taは、Nbに比べて準粒子寿命が長く、また、X線に対する吸収断面積も大きいため、本発明による超伝導トンネル接合素子10を、X線検出に用いても好適なものである。
【0053】
さらに、本発明による超伝導トンネル接合素子10において、下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24を形成するβ−Taのエネルギーギャップは、Alのエネルギーギャップに比べて小さく、本発明による超伝導トンネル接合素子10によれば、最適なエネルギーギャップを容易に実現することができる。
【0054】
そして、準粒子をトラップする効率は、上記「従来の技術」の項に記載した超伝導トンネル接合素子のAlOX層の上下に隣接して形成されるAl層に比べて、本発明による超伝導トンネル接合素子10のβ−Taにより形成される下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24の方がよい。
【0055】
ここで、図2には、Ta電極の膜厚とエネルギーギャップとの関係を示したグラフが示されている。
【0056】
より詳細には、いずれもTaを電極材料としているが、一方の超伝導トンネル接合素子は、Nb,bcc−Ta,AlOX,Nbという順序で薄膜を積層した構造を有しており、他方の超伝導トンネル接合素子は、Nb,AlOX,β−Ta,Nbという順序で薄膜を積層した構造を有するようにする。そして、これら2つの異なる構造を有する超伝導トンネル接合素子それぞれの、電流−電圧特性から求めたNbからの近接効果によって増大したTaのエネルギーギャップのTa膜厚依存性が図2には示されている。
【0057】
図2から明らかなように、TaをNbとの積層構造にすると、Nbからの近接効果によるエネルギーギャップは、Taの膜厚が増大するとともに小さくなり、100nm以上の膜厚では、本来のTaのエネルギーギャップをもつことがわかる。
【0058】
そして、0.4Kにおけるbcc−Ta薄膜中のコヒーレンス長を数値フィッティングにより求めると21nmとなり、0.4Kにおけるβ−Ta薄膜中のコヒーレンス長を数値フィッティングにより求めると15nmとなった。これら値は、Alにおける約70nmに比較して小さな値である。これにより、0.5meVのエネルギーギャップを得るために必要なトラップ層の膜厚が、Alの場合には100nm必要であるのに対して、β−Taの場合には20nmでよいことが明らかである。
【0059】
図3には、正規分布形状のNb,Al,β−Ta,AlOX,β−Ta,Nbという順序で薄膜を積層した構造を有する超伝導トンネル接合素子、即ち、上記した実施の形態の超伝導トンネル接合素子10に、0.3Kにおいて5.9keVのX線照射したときの応答信号を示すグラフが示されている。
【0060】
この際、B=4mTと磁場が小さいにもかかわらず、230mVの出力電圧が得られている。この出力電圧は、β−Taを用いていない超伝導トンネル接合素子の出力電圧(例えば、およそ60mV)の数倍になっている。
【0061】
また、図4には、ダイヤモンド形状のNb,Al,β−Ta,AlOX,β−Ta,Nbという順序で薄膜を積層した構造を有する超伝導トンネル接合素子に、0.3Kにおいて5.9keVのX線照射したときの応答信号を示すグラフが示されている。この際、応答信号が最大となるように磁場を印加していった結果、B=35mTで450mVの出力信号が得られた。
【0062】
これら図3ならびに図4に示す結果から、β−Taが、X線照射によって発生した準粒子を収集してトンネル電流を増加させ、トラップ層として用いて好適なことが明らかである。
【0063】
そして、図5には、ダイアモンド形状のNb,Al,β−Ta,AlOX,β−Ta,Nbという順序で薄膜を積層した構造を有する超伝導トンネル接合素子(素子の面積A=10,000μm2)による5.9keVのX線スペクトルを示すグラフが示されている。観測されたエネルギー分解能は測定系のノイズを考慮すると52eVとなり、β−Taを用いていない従来の超伝導トンネル接合素子と比較して、同等以上のエネルギー分解能が得られている。
【0064】
上記図3乃至図5からも明かなように、β−Taにより形成されたトラップ層を有する本発明による超伝導トンネル接合素子10は、従来の超伝導トンネル接合素子よりも超伝導トンネル接合素子の検出感度とエネルギー分解能とを向上させることができる。つまり、本発明による超伝導トンネル接合素子10においては、従来より用いられているAlトラップ層と同等以上の準粒子のトラッピング効果を期待することができる。
【0065】
また、図3に示すように、本発明による超伝導トンネル接合素子10の下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24を形成するβ−Taの場合には、膜厚を少し変化させるだけで、超伝導トンネル接合素子が動作する際の温度によって規定されるエネルギーギャップを変化させることができる。
【0066】
このため、本発明による超伝導トンネル接合素子10は、動作温度に対する制御性が高く、動作温度に応じて任意にβ−Taの薄膜の膜厚を設定して形成することにより、各種検出に用いることが可能となる。
【0067】
例えば、本発明による超伝導トンネル接合素子10は、一光子分光なので、X線領域や極端紫外線領域、可視光領域におけるエネルギー分散型の検出器として用いることができる。特に、エネルギーの低い可視光領域では、低いエネルギーに比例して準粒子の発生個数も少なくなるので、β−Taにより形成される下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24を有し、トラッピング効果を奏するする本発明による超伝導トンネル接合素子10は好適なものである。
【0068】
また、本発明による超伝導トンネル接合素子10は、ポテンシャルエネルギーをもったイオンの検出や、重イオンの検出、運動エネルギーをもった中性子や分子などのエネルギー測定、微量分析、あるいは、破損しやすいサンプルの測定を短時間で行うなど各種検出に用いることができる。
【0069】
なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(5)に説明するように変形することができる。
【0070】
(1)上記した実施の形態においては、超伝導トンネル接合素子10は正規分布形状を有するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、例えば、上記図4ならびに図5に示したようなダイヤモンド形状や、あるいは、ひし形の形状としてもよく、良好な検出性能を維持するように超伝導トンネル接合素子の2次元形状を適宜変更するようにしてもよい。また、超伝導トンネル接合素子全体の大きさも、当該超伝導トンネル接合素子が配置される位置や、測定する光子のエネルギー、スポットサイズなどに応じて適宜変更するようにしてもよい。
【0071】
(2)上記した実施の形態においては、超伝導トンネル接合素子10の各層の膜厚やその形成方法について示したが、これに限られるものではないことは勿論であり、超伝導トンネル接合素子10に必要とされる検出感度やエネルギー分解能に応じて、各種薄膜製造技術、例えば、電子ビーム蒸着法を用いるなどし、任意に設定した所定の膜厚で形成するようにしてもよく、薄膜堆積プロセスの最適化によって高い検出感度やエネルギー分解能を維持することができる。
【0072】
(3)上記した実施の形態においては、超伝導トンネル接合素子10の各層を形成する薄膜の種類や基板の種類について示したが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0073】
例えば、基板12は、Si基板に代わってAl2O3基板により形成するようにしてもよい。バッファー層14は、Al2O3に代わってMgOにより形成するようにしてもよい。下部超伝導体層16ならびに上部超伝導体層26は、Nbに代わってbcc−Taにより形成するようにしてもよい。バッファー層18は、Alに代わってW(タングステン)などの非晶質であって導電性のある材料により形成するようにしてもよい。絶縁体層22は、AlOXに代わってAlNにより形成するようにしてもよい。絶縁層28は、SiO2に代わってポリイミドにより形成するようにしてもよい。下部電極30ならびに上部電極32は、Nbに代わってNbNにより形成するようにしてもよい。
【0074】
具体的には、図6に示すように、上記した超伝導トンネル接合素子10の下部超伝導体層16ならびに上部超伝導体層26を、Nbに代わってbcc−Taによって形成するようにしてもよい。このように、下部超伝導体層16ならびに上部超伝導体層26は、下部トラップ層20ならびに上部トラップ層24を形成するβ−Taのエネルギーギャップよりも大きなエネルギーギャップを有する超伝導体によって形成すればよい。
【0075】
(4)上記した実施の形態の超伝導トンネル接合素子10(図1参照)においては、絶縁体層22のAlOXの上下に隣接してβ−Taよりなる上部トラップ層24とβ−Taよりなる下部トラップ層20が形成されるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、超伝導トンネル接合素子10の絶縁体層22の上面22aあるいは下面22bのいずれか一方にのみ隣接してβ−Taよりなるトラップ層を形成するようにしてもよい。また、その際には、当該β−Taよりなるトラップ層が形成されていない側の絶縁体層22の面に、厚み100nm程度の厚いAl層を形成するようにしてもよい。こうして絶縁体層22の上下に隣接してβ−Taよりなるトラップ層を形成しない超伝導トンネル接合素子においても、準粒子のトラッピング効果は維持されるものである。
【0076】
(5)上記した実施の形態ならびに上記(1)乃至(4)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【0077】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、簡単な工程で製造することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による超伝導トンネル接合素子の実施の形態の一例を示す概略構成断面図である。
【図2】Ta電極の膜厚とエネルギーギャップとの関係を示したグラフである。
【図3】正規分布形状のNb/Al/β−Ta/AlOX/β−Ta/Nb構造を有する超伝導トンネル接合素子に、0.3Kにおいて5.9keVのX線照射したときの応答信号を示すグラフである。
【図4】ダイヤモンド形状のNb/Al/β−Ta/AlOX/β−Ta/Nb構造を有する超伝導トンネル接合素子に、0.3Kにおいて5.9keVのX線照射したときの応答信号を示すグラフである。
【図5】ダイアモンド形状のNb/Al/β−Ta/AlOX/β−Ta/Nb構造を有する超伝導トンネル接合素子(素子の面積A=10,000μm2)による5.9keVのX線スペクトルを示すグラフである。
【図6】本発明による超伝導トンネル接合素子の実施の形態の他の例を要部を中心に示した概略構成断面図である。
【符号の説明】
10 超伝導トンネル接合素子
12 基板
14 バッファー層
16 下部超伝導体層
18 バッファー層
20 下部トラップ層
22 絶縁体層
24 上部トラップ層
26 上部超伝導体層
28 層間絶縁層
30 下部電極
32 上部電極
Claims (4)
- トンネル障壁たる絶縁体層と、
前記絶縁体層を挟み込む2つの超伝導体層と、
前記絶縁体層の上面ならびに下面の少なくとも一方の面に隣接するとともにβ−Taにより形成され、前記超伝導体層において生じて移動した準粒子を留まらせるトラップ層と
を有する超伝導トンネル接合素子。 - 請求項1に記載の超伝導トンネル接合素子において、
前記超伝導体層は、前記トラップ層を形成するβ−Taのエネルギーギャップよりも大きなエネルギーギャップを有する
ものである超伝導トンネル接合素子。 - 請求項2に記載の超伝導トンネル接合素子において、
前記超伝導体層はNbにより形成され、前記絶縁体層はAlOXにより形成される
ものである超伝導トンネル接合素子。 - Si基板上に形成されたNbよりなる下部超伝導体層と、
前記下部超伝導体層の上面に形成されたAlよりなるバッファー層と、
前記バッファー層の上面に形成されたβ−Taよりなる下部トラップ層と、
前記下部トラップ層の上面に形成されたAlOXよりなる絶縁体層と、
前記絶縁体層の上面に形成されたβ−Taよりなる上部トラップ層と、
前記上部トラップ層の上面に形成されたNbよりなる上部超伝導体層と
を有する超伝導トンネル接合素子。
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