JP3734380B2 - 透過電子顕微鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、透過電子顕微鏡に係り、特に、対物レンズによる球面収差を補正するための光学系の構成に関する。
【0002】
【従来の技術】
透過電子顕微鏡(TEM)では分解能dの値は小さいことが望まれる。例えば、結晶等の原子配列をTEMで直視する場合には、分解能dとしては 0.1nm程度が要求される。
【0003】
ところで、透過電子顕微鏡(TEM)の分解能dは、電子の波長λと対物レンズの球面収差係数CS により、次式に従って決定される。
d=0.65CS 1/4λ3/4 …(1)
従って、TEMの分解能dを小さくするためには、(1) 式より、電子の波長λを短くするか、球面収差係数CS を小さくすればよいことが分かる。
【0004】
しかし、現在のTEMのポールピースは、ほぼポールピースの加工限界まで最適化されており、球面収差係数CS をより小さくすることは非常に難しいものである。
【0005】
これに対して、加速電圧を高くすることは比較的容易である。そして、上述したところから、加速電圧を高くすれば電子の波長λを短くできるので、分解能dを小さくすることができる。実際、加速電圧が1000kVのTEMでは 0.1nm程度の分解能が得られている。しかし、加速電圧を高くすると装置自体が大きくなってしまう。
【0006】
そこで、広く普及している、加速電圧が 200kVクラスの比較的小型のTEMにおいても 0.1nm程度の分解能が望まれるのであるが、このクラスのTEMでは、λ=0.00251nm、CS =0.5mm程度であり、従って分解能dは0.19nm程度であるのが現状である。
【0007】
以上のように、TEMのポールピースはほぼ加工限界まで最適化されており、従って、 0.1nm程度の分解能を得ようとすると加速電圧を高くせざるを得ないので、装置が大型化してしまうのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ポールピースとして現状のものを使用し、加速電圧が 200kV程度であっても、球面収差を補正することができれば、分解能を向上させることができるが、回転対称磁界型レンズを使用しているTEMでは球面収差を補正することはできない。
【0009】
即ち、通常、TEMの対物レンズとしては回転対称磁界型レンズが使用されているが、回転対称磁界型レンズでは凹レンズを形成することができないので、回転対称磁界型レンズを如何様に組み合わせても球面収差を補正することはできないのである。
【0010】
そこで、球面収差補正の可能性として、多極子コイルによる回転対称でない磁場を導入することが既に提案されている(例えば、O.Scherzer,Optik 2(1947)114 )。これは、例えば多極子コイルとして6極子コイルを用いた場合、6極子コイルが電子に与える本来の軌道の収差項として、対物レンズの球面収差係数CS の補正効果が現れることを利用したものである。具体的には、2組のダブレット(doublett)レンズと、2個の6極子コイルを組み合わせて球面収差を補正することが提案されている(M.Haider,G.Braunshausen and E.Schwan,Optik 99(1995)167 )。
【0011】
しかし、2組のダブレットレンズと、2個の6極子コイルを組み合わせた光学系では構成が複雑になるばかりでなく、鏡筒が長くなるので装置が大型化してしまうという問題がある。ここで、装置が大型化することの理由は概略次のようである。即ち、1組のダブレットレンズは2個の伝達レンズで構成されるが、ダブレットレンズの焦点距離をfT とすると、この1組のダブレットレンズを配置するためには、鏡筒には4fTの長さの空間が必要となる。従って、2組のダブレットレンズの焦点距離が何れもfT であるとすると、これら2組のダブレットレンズを配置するためには、鏡筒に8fTの長さの空間が必要となる。そして、ダブレットレンズの焦点距離fT は30mm〜50mm程度であるので、fT =30mmとしても2組のダブレットレンズを配置するだけで、鏡筒には24cmの長さが必要となってしまうのである。
【0012】
そこで、本発明は、加速電圧が 200kV程度であっても、球面収差を補正することができ、しかも鏡筒の長さを上述した従来のものよりも短く抑えることができる透過電子顕微鏡を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の透過電子顕微鏡は、試料上の電流密度によらず、電子回折のクロスオーバーが対物レンズの後焦点面に常に固定されて形成されるように連動して制御される照射レンズ及び補助照射レンズと、対物レンズと、対物レンズによって形成される6極子場であって、その磁場の中心が後焦点面に一致するように形成される6極子場と、その磁場の中心が、前記6極子場の磁場の中心である後焦点面と共役な位置に配置された3回対称の磁場を生じる多極子コイルと、前記6極子場と、前記多極子コイルとの間に配置され、前記6極子場の磁場の中心である後焦点面に形成された電子回折を、前記多極子コイルの磁場の中心の位置に移すダブレットレンズとを備えることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ発明の実施の形態について説明する。なお、以下においては多極子コイルとして6極子コイルを使用した場合について説明する。
【0015】
図1、図2は本発明に係るTEMの光学系を示し、図1はその照射光学系、図2はその結像光学系を示す。図中、1は照射絞り、2は照射レンズ、3は補助照射レンズ、4は対物レンズ、5は対物レンズ4の前方レンズ、6は対物レンズ4の後方レンズ、7は試料、8は対物レンズ4の前焦点面、9は対物レンズ4の後焦点面、10は6極子場、11はダブレットレンズ、12、13はそれぞれダブレットレンズ11の伝達レンズ、14は6極子コイル、S0 は光源、f0 は対物レンズ4の焦点距離、Oは光軸を示す。なお、図1、図2では各レンズは主面のみを示している。また、照射光学系は、一般には試料から電子銃側の光学系を称するのであるが、ここでは便宜的に図1の6極子場10までを照射光学系とする。また、説明の便宜上図2に示す結像光学系にも6極子場10を示している。
【0016】
まず、図1を参照して照射光学系について説明する。
図1では光軸Oを横軸にとってあり、光軸O上の左端に光源S0 がある。この光源S0 は、照射レンズ2より電子銃側で、最も照射レンズ2に近いクロスオーバー点である。
【0017】
光源S0 からの電子は、照射絞り1による制限を受けて、照射レンズ2、補助照射レンズ3、及び対物レンズ4の前方レンズ5によって試料7に照射されるが、ここで、照射レンズ2の励磁と、補助照射レンズ3の励磁は、クロスオーバー点が前焦点面8の光軸O上の位置に固定点として形成されるように連動して制御されるようになされている。具体的には、照射レンズ2の励磁が強くなされると、補助照射レンズ3の励磁は弱くなされ、逆に照射レンズ2の励磁が弱くなされると、補助照射レンズ3の励磁は強くなされる。なお、図1では、前焦点面8の光軸O上の位置をS1 で示している。
【0018】
従って、試料7上の電流密度を変えようとするときには照射レンズ2の励磁が変えられることになるが、そのときには補助照射レンズ3の励磁も連動して変わるので、試料7上の電流密度によらずクロスオーバー点は常に前焦点面8の光軸上の位置S1 に固定される。
【0019】
そして、クロスオーバー点S1 を通過した電子は、試料7に照射し、試料7を透過した電子は後焦点面9に電子回折を形成する。図1に示すように、前焦点面8と前方レンズ5の距離、前方レンズ5と試料7の距離、試料7と後方レンズ6の距離、後方レンズ6と後焦点面9の距離は、何れも対物レンズ4の焦点距離f0 であるので、クロスオーバー点S1 を通過した電子は、前方レンズ5の作用によって光軸Oに平行となされて試料7に照射し、後焦点面9に電子回折を形成するのである。従って、図1においてS2 で示す後焦点面9の光軸上の位置は電子回折のクロスオーバーとなる。
【0020】
以上のことから、クロスオーバー点となる前焦点面8と、電子回折が形成される後焦点面9とは共役であることが分かる。従って、試料7上の電流密度が変化しても、電子回折は後焦点面9に固定的に形成される。
【0021】
なお、図1において、実線の光線図は照射レンズ2の励磁が強く、補助照射レンズ3の励磁が弱い場合の電子の軌道を示し、破線の光線図は照射レンズ2の励磁が弱く、補助照射レンズ3の励磁が強い場合の電子の軌道を示している。
【0022】
ここで、対物レンズ4は無限遠結像で使用される。このように対物レンズ4を無限遠結像とするのはTEMにおいて通常のことである。
【0023】
また、対物レンズ4は、後方レンズ6より像面側に6極子場10を形成するように構成されている。図1において6極子場10を一点鎖線で示しているのは、6極子場を発生するコイルが実際に配置されるのでなく、対物レンズ4によって6極子場10が形成されることを示しているものである。
【0024】
そして、この対物レンズ4によって形成される6極子場の磁場の中心は後焦点面9に一致するようになされる。即ち、6極子場10の磁場の光軸方向の長さをZ1 とすると、6極子場10の光軸方向の長さZ1 の中心位置は後焦点面9に一致するようになされている。
【0025】
このように、6極子場10の磁場の中心を後焦点面9に一致するように構成するためには、例えば、対物レンズ4の下極を図3、図4に示すように加工すればよい。図3、図4において、21はポールピースの上極、22はポールピースの下極、31は凸部、32は凹部を示す。
【0026】
図3は、対物レンズ4の光軸Oを含む面での断面を示し、図4は下極22の後焦点面9における断面を示しており、対物レンズ4の上極21と下極22のギャップの略中央には試料7が配置され、図3には図示していないが、試料7より電子銃側(図3の上側)の磁場分布により前方レンズ5(図3には図示せず)が形成され、試料7より像面側(図3の下側)の磁場分布により後方レンズ6(図3には図示せず)が形成され、後方レンズ6の主面の位置から像面側に焦点距離f0 だけ離れた位置が後焦点面9となる。
【0027】
この後焦点面9は下極22が配置されている間にあるのが通常である。そこで、図4に示すように、後焦点面9の位置に、凸部31と凹部32を光軸Oに対して対称とした対を、光軸Oの回りに 120°間隔で3対形成するのである。そして、この際、凸部31の頂点、及び凹部32の頂点が後焦点面9の位置になるように設計する。
【0028】
対物レンズ4の下極22をこのように加工することによって、その磁場の中心が後焦点面9の位置に一致する6極子場10を形成することができる。つまり、下極22にこのような加工を行うことによって、本来は回転対称な磁場を発生するレンズに、3回対称な磁場を発生する6極子場10を形成することができ、等価的には図1に示すように表すことができる。
【0029】
そして、凸部31の形状、凸部の高さ、及び凹部32の形状、凹部32の深さ等を制御することによって、6極子場10の強度、光軸方向の磁場の長さ等を制御することができる。
【0030】
ここで、照射レンズ2としては、TEMに通常設けられているコンデンサレンズを用いればよく、補助照射レンズ3としては、TEMに通常設けられているコンデンサミニレンズを用いればよい。従来、コンデンサレンズとコンデンサミニレンズを連動させて用いることはなされていないが、上述したように連動させることによって、試料7の直前のクロスオーバー点S1 の位置を固定的に形成することができるものである。
【0031】
以上のように、この照射光学系では、電子回折は、試料7上の電流密度の如何にかかわらず後焦点面9に形成され、その後焦点面9の位置には対物レンズ4によって発生される6極子場10が形成されているのであるが、このような構成とする理由は次のようである。
【0032】
試料7を透過する電子の中には、試料7から何等の作用も受けずに、図5のイで示すように試料7を直進して透過するものがある。このような電子は0次透過電子と称されている。また、試料7からの作用を受けて、図5のロで示すように0次透過電子からある角度φだけ傾いて試料7を出射する電子もある。
【0033】
そして、電子が試料7から出射するときの0次透過電子からの角度φを便宜的に試料出射角と称することにすると、対物レンズ4から受ける球面収差によるボケ量は、電子の試料出射角φの3乗に比例することが知られている。即ち、球面収差によるボケ量は、
(球面収差によるボケ量)∝CSφ3 …(2)
であることが知られている。このことから、試料出射角が 0°である0次透過電子には球面収差が生じることはなく、球面収差が生じるのは、 0°でない試料出射角を有する電子だけであることが分かる。
【0034】
さて、例えば、図5のロと、ハで示すように、試料7上の異なる位置に入射した電子が同じ試料出射角φで試料7から出射したとすると、これらの電子に生じる球面収差によるボケ量は同一量となる。従って、球面収差を補正するためには、これらロで示す電子、及びハで示す電子に対しては同一の補正量を与えなければならない。
【0035】
そのためには、対物レンズ4の後方レンズ6の作用によって、同じ試料出射角の電子が収差補正面上で同一位置に収束するようにすれば、それら試料出射角の同じ電子に対して、同一の補正量を容易に与えることができることが期待される。また、その収束位置は、試料7上の電流密度を変化させても移動せず、固定されていることが望ましい。この収束位置が移動してしまうと、後述する結像光学系による作用が異なってしまい、球面収差を補正することができなくなってしまうからである。
【0036】
そこで、照射光学系を上述した構成とし、試料7上での電流密度を変化させても、対物レンズ4で形成される試料7の電子回折を常に後焦点面9に位置するようにしているのである。そして、この照射光学系によって、0次透過電子のクロスオーバーは図1のS2 の位置に形成され、試料出射角が 0°でない角度φを持つ散乱電子のクロスオーバーは後焦点面9上の試料出射角φに応じた位置に散在することになる。
【0037】
以上が照射光学系であり、次に、図2を参照して結像光学系を説明する。
6極子場10から出射した電子は、2個の伝達レンズ12、13から構成されるダブレットレンズ11を通過して、6極子コイル14に入射する。ここで、伝達レンズ12、13の焦点距離は共にfT であり、6極子場10の磁場の中心と伝達レンズ12の距離、及び伝達レンズ13と6極子コイル14の磁場の中心との距離は共にfT であり、伝達レンズ12と伝達レンズ13との距離は 2fT である。なお、ここでは、6極子コイル14の光軸方向の磁場の長さをZ2 とする。また、6極子場10と、6極子コイル14は同じ形で配置されるが、このことについては後述する。
【0038】
この結像光学系により、6極子場10と、6極子コイル14は共役な位置に配置されることになり、更に、共役面上の電子軌道の傾き、及び倍率まで等しくなる。
【0039】
従って、6極子場10の磁場の中心である後焦点面9上に形成された電子回折は、ダブレットレンズ11により、6極子コイル14の磁場の中心である図2のS3 で示す点を含む光軸Oに直交する面(以下、この面を単にS3 面と称す)上に、180° 回転された状態で移されることになる。
【0040】
上述したように、前焦点面8のクロスオーバー点S1 と、電子回折が形成される後焦点面9とは共役であり、6極子場10と6極子コイル14とは共役な位置に配置されるから、S3 面の位置は常に固定されており、試料7上の電流密度が変化しても移動しない。
【0041】
なお、図2において、実線で示す光線図は軸外の 0次透過電子の軌道を示し、破線で示す光線図は軸外の 0次より高次のg次散乱電子の軌道を示し、一点鎖線で示す光線図は軸上のg次散乱電子の軌道を示している。
【0042】
以上の構成により球面収差が補正されるのであるが、以下、球面収差の補正について説明する。
【0043】
まず、6極子コイルの構成、及びその一般的な作用について概略説明する。6極子コイルの構成及びその作用は周知であるが、6極子コイルとは、6極子場を作るために偏向コイルを光軸回りに配置したものである。その構成例を図6(a)に示す。6極子コイルは、通常、6極子場の位相角ξを自由に制御できるように8個以上のコイルを用いて構成されるが、図6(a)では説明の簡易化のため、6個のコイルを光軸回りに等間隔に配置したものを示している。6極子場は3回対称の磁場である。このことは周知である。また、光軸Oと各コイルの先端までの距離をボア半径といい、図ではaで表している。更に、6極子場の位相角ξとは、図6(a)に示すように、後述の軌道方程式を導くために定めた基準軸からの位相基準軸のなす光軸回りの角度である。図中での6極子場の位相角ξはπ/3 としてある。また、図6(b)に示すように、6極子場の光軸方向の長さをZとする。
【0044】
いま、図6(b)に示すように、光軸Oからr0 の距離のところに、6極子コイルに対して傾きr0′ で電子が6極子コイルに入射したとし、6極子コイルの6極子場の位相角がξ=π/3 であるすると、この電子が6極子コイルから出射する際の光軸Oからの距離r1 、そのときの6極子コイルに対する傾きr1′ は、4次項以上を無視して次のように表される。
r1=r0(1+t)+kr0 2Z2Lcos3θ+k2r0 3Z4M …(3)
r1′=r0′+kr0 2ZNcos3θ+k2r0 3Z3P …(4)
ここで、θは6極子場の基準軸から見た電子の入射角、Zは6極子コイルが発生する6極子場の光軸方向の長さ、kは6極子場の強度を示す。また、t、L、M、N、Pは軌道の入射条件で決まる定数であり、次のように表される。
t=(r0′/r0)Z …(5)
L=1/2+t/3 +t2/12 …(6)
M=1/12+t/12+t2/36+t3/252 …(7)
N=1+t+t2/3 …(8)
P=1/3+5t/12+t2/6+t3/36 …(9)
(3) 式の右辺の第1項の「r0(1+t)」は 0次項である。即ち、電子が6極子場による作用を受けずに素通りする成分を表している。(3) 式の右辺の第2項の「kr0 2Z2Lcos3θ」は6極子場によるプライマリな効果、即ち6極子場によって生じる本来の効果の成分を表している。6極子場は3回対称な磁場であるから、丸い電子は概略3角形状になるが、これがこの第2項の効果である。また、(3) 式の右辺の第3項の「k2r0 3Z4M」は6極子場による収差の成分を表す収差項である。そして、第3項の収差項はr0 の3次項で、回転対称性を示している。
【0045】
(4) 式についても同様であり、(4) 式の右辺の第1項の「r0′」は 0次項、第2項の「kr0 2ZNcos3θ」は6極子場によるプライマリな効果の成分、第3項の「k2r0 3Z3P」は6極子場による収差項である。そして、第3項の収差項はr0 の3次項で回転対称性を示している。
【0046】
対物レンズ4により形成される6極子場10は、6極子コイル14とは、物理的な構成は異なるものの、機能的には同じである。従って、6極子場10の作用についても、(3) 式及び(4) 式の第1項に相当する 0次項、第2項に相当するプライマリな効果の成分、及び第3項に相当する収差項が現れる。そして、収差項は回転対称性を示す。
【0047】
以上が6極子コイルの一般的な構成、作用であるが、次に、図2に示す結像光学系の作用について説明する。
まず、上述したように、6極子場10と、6極子コイル14は同じ形で配置されるが、これは、6極子コイル14が図6(a)に示されるように配置される場合、6極子場10は等価的には図6(a)で表されるように対物レンズ4の下極に形成されることを意味している。
【0048】
さて、対物レンズ4の球面収差係数CS によって生じる球面収差というのは、試料7から 0°でない試料出射角φで出射した電子の軌道が、無限遠結像に設定された焦点距離f0 の対物レンズ4の球面収差係数CS によって、更に角度δだけ傾けられることに他ならず、この角度δは
δ=−(CS/f0)φ3 …(10)
で表されることが知られている。
【0049】
従って、6極子場10と6極子コイル14とによって生じる電子の軌道の傾きのうち、球面収差と同次数の変化が−δになるようにすれば、球面収差によって生じる電子の軌道の傾きδをキャンセルできるので、球面収差を補正することができることが分かる。
【0050】
そこで、6極子場10と6極子コイル14によって、球面収差と同次数における電子の軌道の傾きがどれだけ変化するかを考える。まず、電子が6極子コイル14を通過するときに、その球面収差と同次数における軌道の傾きの変化量は(4) 式の右辺の第3項の収差項で表される。上述したように、(4) 式の右辺の第1項は 0次項であるので軌道の傾きには関係のない成分であり、第2項は6極子場によるプライマリな効果の成分であり、球面収差より一つ下の次数における軌道の傾きの変化を与える。従って、電子が6極子コイル14を通過するとき、6極子コイル14の6極子場の強度をk2 とすると、電子の軌道の傾きのうち球面収差の補正に有効な成分のみに着目すれば、k2 2r0 3Z2 3Pだけ変化することになる。プライマリな効果の消去については後述する。
【0051】
6極子場10についても同様であり、6極子場10の強度をk1 、当該磁場の光軸方向の長さをZ1 、電子が6極子場10に入射する位置の光軸からの距離をr0 とすると、電子が6極子場10を通過するときには、その軌道の傾きのうち球面収差の補正に有効な成分のみに着目すればk1 2r0 3Z1 3Pだけ変化することになる。プライマリな効果の消去については後述する。
【0052】
しかし、対物レンズ4のポールピースは強い磁界を局所的に発生させるものであるため、図1に示す照射光学系で意図的に導入される6極子場10の磁場の光軸方向の長さZ1 は数mm程度である。それに対して、6極子コイル14の磁場の光軸方向の長さZ2 は数十mm程度とすることができ、Z1 に対して十分大きく設計できる。しかも、(4) 式の右辺の第3項に示されているように、電子の軌道の傾きのうち、球面収差と同次数のものの変化は6極子場の光軸方向の長さの3乗に比例するので、
k1 2r0 3Z1 3P≪k2 2r0 3Z2 3P …(11)
とすることができる。従って、電子が6極子場10に入射してから6極子コイル14を出射するまでの間に、どれだけ球面収差と同次数の軌道の傾きが変化するか、その変化量を求めるについては、6極子場10による軌道の傾きは無視することができ、6極子コイル14による軌道の傾きの変化のみを考慮すればよいことになる。
【0053】
以上のことから、
k2 2r0 3Z2 3P+δ= 0 …(12)
となるように6極子コイル14を設計すれば、球面収差を補正できることが分かる。ここで、対物レンズ4は無限遠結像であるので、電子が6極子コイル14に入射するときの入射条件として、r0′ = 0とすることができる。このことはTEMにおいては軸外電子に対しても近似的に成り立つことが知られている。
【0054】
そこで、r0′ = 0を(4) 式、(5) 式、及び(9) 式に代入すると、t= 0、P=1/3となるので、(12)式は
k2 2r0 3Z2 3/3 +δ= 0 …(13)
となる。
【0055】
そして、(13)式をk2 について解くと、
k2 =(3CSφ3/f0r0 3Z2 3)1/2 …(14)
となるが、ここで、対物レンズ4が無限遠結像であることから、
r0 =φf0 …(15)
であるので、(15)式を(14)式に代入すると、
k2 =(3CS/Z2 3f0 4)1/2 …(16)
となる。
【0056】
つまり、6極子コイル14の6極子場の強度を(16)式で与えられる強度とすることによって、対物レンズ4によって生じる球面収差を補正することができるのであり、図2の結像光学系においては、6極子コイル14の6極子場の強度k2 は(16)式で与えられる強度となされているのである。
【0057】
なお、この6極子コイル14の6極子場の強度k2 は、実際の物理量を用いて次のように表される。
k2 =3u0I/a3R …(17)
ここで、u0 は真空の透磁率、Rは電子の磁気剛性、Iは6極子コイル14のコイルアンペアターン、aはそのボア半径である。
【0058】
以上のようであるので、対物レンズ4の球面収差係数CS によって生じる球面収差は補正することができるのであるが、図1、図2に示す光学系ではもう一つ考慮しなければならない事項がある。
【0059】
それは、6極子場10、及び6極子コイル14によるプライマリな効果である。このプライマリな効果は、6極子場10、及び6極子コイル14によって形成される磁場が3回対称な磁場であることに起因している。従って、丸い電子が6極子場10を通過すると、6極子場10のプライマリな効果によって、出射したときには当該電子は概略3角形状に変形されることになる。そして、この6極子場10のプライマリな効果は、(4) 式の右辺の第2項と同様に、
k1r-1 2Z1Ncos3θ1 …(18)
という形で表される。なお、ここでr-1は電子が6極子場10に入射する位置の光軸Oからの距離、θ1 は当該入射位置における6極子場10の位相入射角である。
【0060】
そして、6極子場10のプライマリな効果によって概略3角形状となされた電子はダブレットレンズ11を通過し、更に6極子コイル14を通過するのであるが、6極子コイル14のプライマリな効果によって、更に概略3角形状に変形される。そして、この6極子コイル14のプライマリな効果は、(4) 式の右辺の第2項のように、
k2r0 2Z2Ncos3θ2 …(19)
で表される。ここで、θ2 は電子が6極子コイル14に入射する位置における位相入射角である。
【0061】
従って、(18)式の値と、(19)式の値が、絶対値が同じで符号が逆となるようにすれば、6極子場10によるプライマリな効果と、6極子コイル14によるプライマリな効果をキャンセルすることができ、6極子コイル14を出射した電子は丸くなる。
【0062】
ところで、上述したように、6極子場10と、6極子コイル14は共役な位置に配置にあって、電子軌道の傾き、及び倍率は等しく、また、6極子場10の磁場の中心である後焦点面9上に形成された電子回折は、ダブレットレンズ11により、6極子コイル14の磁場の中心である図2のS3 面上に、180° 回転された状態で移され、さらに、6極子場10と、6極子コイル14は同じ形で配置されるのであるから、(18)式、(19)式において、Nの値は同じであり、更に
r-1=r0 …(20)
θ2 =θ1+180° …(21)
であるから、
k1Z1=k2Z2 …(22)
であれば、6極子場10によるプライマリな効果と、6極子コイル14によるプライマリな効果をキャンセルすることができることが分かる。
【0063】
そして、図1、図2に示す光学系においては、6極子場10と6極子コイル14は(22)を満足するように設計されているのである。上述したように、6極子コイル14の磁場の軸方向の長さZ2 は、6極子場10の磁場の光軸方向の長さZ1 より十分大きいので、6極子場10の磁場の強度k1 は6極子コイル10の磁場の強度k2 より十分大きくする必要があるが、6極子場10の磁場の強度k1 は対物レンズ4のポールピースの下極に形成する凸部の高さ、凹部の深さ等により制御することができるので、これらの数値を(22)式を満足するように設計すればよい。
【0064】
以上のようであるので、この透過電子顕微鏡によれば、対物レンズによる球面収差が補正できるので、像観察時の分解能を向上させることができる。また、ダブレットレンズは1組使用すればよく、また、6極子場10は対物レンズ4の下極を加工することで形成することができるので、鏡筒の長さを必要最小限とすることができる。更に、照射光学系としては、従来TEMに使用されている照射光学系の使用形態を変えるだけでよいので、構成上の変更を加える必要はないものである。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では6極子コイルを用いるものとしたが、3回対称の磁場を発生する多極子コイルを用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る透過電子顕微鏡の照射光学系の実施形態を示す図である。
【図2】 本発明に係る透過電子顕微鏡の結像光学系の実施形態を示す図である。
【図3】 後焦点面9の位置に6極子場10を形成するための対物レンズの加工の例を示す図であり、対物レンズ4の光軸Oを含む面での断面を示す断面図である。
【図4】 後焦点面9の位置に6極子場10を形成するための対物レンズの加工の例を示す図であり、図3の下極22の後焦点面9における断面を示す断面図である。
【図5】 照射系光学系を図1に示す構成とする理由を説明するための図である。
【図6】 6極子コイル14の構成、作用を説明するための図である。
【符号の説明】
1…照射絞り、2…照射レンズ、3…補助照射レンズ、4…対物レンズ、5…対物レンズ4の前方レンズ、6…対物レンズ4の後方レンズ、7…試料、8…対物レンズ4の前焦点面、9…対物レンズ4の後焦点面、10…対物レンズ4に形成される6極子場、11…ダブレットレンズ、12、13…ダブレットレンズ11の伝達レンズ、14…6極子コイル、S0 …光源、f0 …対物レンズ4の焦点距離、O…光軸。
Claims (1)
- 試料上の電流密度によらず、電子回折のクロスオーバーが対物レンズの後焦点面に常に固定されて形成されるように連動して制御される照射レンズ及び補助照射レンズと、
対物レンズと、
対物レンズによって形成される6極子場であって、その磁場の中心が後焦点面に一致するように形成される6極子場と、
その磁場の中心が、前記6極子場の磁場の中心である後焦点面と共役な位置に配置された3回対称の磁場を生じる多極子コイルと、
前記6極子場と、前記多極子コイルとの間に配置され、前記6極子場の磁場の中心である後焦点面に形成された電子回折を、前記多極子コイルの磁場の中心の位置に移すダブレットレンズと
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。
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