JP3734130B2 - 焼結含油軸受の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スピンドルモータの駆動軸等の、比較的高速で回転する軸を高精度で支持する際に用いて好適な焼結含油軸受の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
焼結含油軸受は、含有された潤滑油が回転軸との摺動面である軸孔の内周面にしみ出して油膜が形成されることにより、摩擦抵抗が低減して騒音や振動が抑えられるといった特性を有する。また、振動や騒音の抑制効果をさらに高めた焼結含油軸受として、軸孔の内周面の軸方向中央部に、回転軸が接触しない逃げの隙間(以下、中膨らみ部と称する)を形成して回転軸を両端部で支持する2点支持構造とし、摩擦抵抗の低減と回転軸の支持力をより安定化させたものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで上記2点支持構造の軸受では、例えば、軸方向長さが限られたスペースに設置する場合等には、実質的な軸受部分が短くなって安定した回転軸の支持が達成されにくくなる。そこで、このような欠点を補うものとして、回転軸を支持する内周面に溝や凹部等の動圧発生凹部を設け、その凹部において、回転軸の回転に伴い流動する潤滑油に動圧を発生させ、軸受としての剛性の向上を図る技術が知られている。ところが、この動圧発生凹部を形成するには、金型成形では困難であるから、切削や転造といった後加工によって形成しているが、この加工も容易ではなく、かつ工程が増加するので、製造コストの上昇を招くものであった。
【0004】
したがって本発明は、動圧が発生しやすく、かつその動圧が高くなって回転軸の支持力がより安定する動圧発生凹部を有する焼結含油軸受、およびその動圧発生凹部を容易に形成することができて製造性の向上が図られる焼結含油軸受の製造方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、軸方向両端部の内径を該両端部の間よりも小径化することにより、軸受の両端部に回転軸が摺動する軸受部を形成するとともに、これら軸受部の間に回転軸が接触しない中膨らみ部を形成する工程と、軸受部の軸孔に、動圧発生凹部を形成するための凸部を有するピン状部材を挿入して、軸受部の内周面に、軸受端部に開放する動圧発生凹部を形成する工程と、当該軸受の端面を軸孔の内部方向に押圧変形させ、端面への動圧発生凹部の開放部の一部または全部を閉塞する工程とを備えることを特徴としている。この製造方法によれば、ピン状部材を軸受部の軸孔に挿入すると、その内周面がピン状部材の凸部に押圧されて変形し、凸部に倣った形状の動圧発生凹部が内周面に形成される。動圧発生凹部は、ピン状部材の挿入・引き抜きにより軸受の端面に開放している。次いで、軸受の端面を軸方向に圧縮し塑性流動を生じさせることにより、端面への動圧発生凹部の開放部の一部または全部を閉塞させる。本発明では、軸孔へのピン状部材の挿入、軸方向への圧縮といった容易な動作で動圧発生凹部を形成することができ、製造性の向上が図られる。
本発明の焼結含油軸受の製造方法によれば、軸方向両端部に、回転軸が摺動する軸受部が形成され、これら軸受部の間に、回転軸と接触しない中膨らみ部が形成されるとともに、軸受部の内周面に、該内周面において閉塞する動圧発生凹部が形成された焼結含油軸受が得られる。この焼結含油軸受によれば、軸方向両端部の軸受部により回転軸を2点支持する構造に加え、これら軸受部の内周面に形成された動圧発生凹部による動圧効果により、回転軸の支持力が相乗的に高まり、より安定した回転軸の支持が達成される。動圧発生凹部は、軸受部の内周面において閉塞している、つまり、該凹部を区画する縁部が内周面内で閉じており軸受の端面および中膨らみ部に開放していないので、凹部内に流入した潤滑油が凹部外へ漏出しにくくなって高い動圧が常に確保される。
【0006】
また、本発明の焼結含油軸受の製造方法によれば、軸方向両端部に回転軸が摺動する軸受部が形成され、これら軸受部の間に、回転軸と接触しない中膨らみ部が形成されるとともに軸受部の内周面に、その深部が前記中膨らみ部および/または当該軸受の端面に開放する動圧発生凹部が形成された焼結含油軸受が得られる。この構成は、上記第1の発明形態と相反するものであるが、動圧のリークはある程度生じるものの、軸受内部を循環する潤滑油を動圧発生凹部に供給することができ、少ない潤滑油量でも安定した動圧を得ることができる。
【0007】
上記各焼結含油軸受では、動圧発生凹部を、回転軸の回転方向に応じて次のように形成すると好ましい。すなわち、回転軸が一方向のみに回転する場合には、回転軸の回転方向の逆方向側の端部を最深部とし、この最深部から回転軸の回転方向に向かってしだいに浅くなるよう傾斜させる。また、回転軸が正逆双方向に回転する場合には、周方向の中間部を最深部とし、この最深部から周方向両端部に向かってしだいに浅くなるよう傾斜させる。このように形成された動圧発生凹部は、横断面が回転軸の回転方向に向かって浅くなるくさび状の隙間となり、動圧のくさび効果、すなわち凹部の浅い先端部に潤滑油が集中して動圧が高くなる効果を得ることができる。
【0008】
本発明の焼結含油軸受の製造方法による動圧発生凹部は、軸受部の内周面に少なくとも一つ形成されるが、回転軸をより安定して支持する観点から、内周面の周方向に複数配置されていることが好ましい。その数は任意であるが、バランスよく回転軸を支持することができることから3〜5個が好ましく、さらに、周方向に等間隔をおいて配置されるとより好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明に係る軸受の製造方法の一実施形態を、工程にしたがって説明する。
(1)軸受素材の製造
粉末を圧縮して得た円筒状の圧粉体を焼結し、この焼結体を加工して、図1(a)の符合1Aで示す軸受素材を製造する。この軸受素材1Aは、軸方向両端部に図示せぬ回転軸を支持する軸受部2を有し、これら軸受部2の間に、回転軸と接触しない中膨らみ部3を有し、さらに、両端面における軸孔2aの開口縁部に環状突起4を有する。軸受素材1Aは、単純な円筒状の焼結体の軸孔(内空)に、軸孔よりも細く、形成すべき軸受部2の内径(軸孔2aの径)と同等の外径を有するコアロッドを挿入し、焼結体の外周面を金型で拘束した状態で、軸方向にパンチで圧縮するといったサイジング処理により製造することができる。このサイジングによれば、焼結体の両端部がパンチで圧縮されて塑性流動し、その内周面がコアロッドに密着するまで内側に膨出して軸受部2が形成され、同時に中膨らみ部3が形成される。この場合、パンチの圧縮面には、環状突起4を形成する溝が形成されている。なお、軸受部2の内径は、最終仕上がり寸法と同等であってもよいが、僅かに大径か、もしくは僅かに小径であってもよい。いずれの場合も、後述する動圧発生凹部の開放部の閉塞工程で仕上がり寸法にサイジングされるが、小径の場合には、内周面の気孔が潰されて緻密化する利点がある。
【0011】
軸受素材1Aの製造方法は、上記製造方法に限られない。例えば、中央部が大径のコアロッドを円筒状焼結体の軸孔に挿入し、焼結体の外周面を拘束した状態で軸方向にパンチで圧縮して焼結体の内周面全面をコアロッドに密着させるサイジング処理を施す。コアロッドを引き抜いた後には、再圧縮体にスプリングバックが生じ、コアロッドの大径部により中膨らみ部3が形成された軸孔素材1Aを得る。また、円筒状焼結体の軸方向中央部の外周面に周溝を形成し、これを、軸受素材1Aの外周面を形成する金型に収納し、軸孔にコアロッドを挿入した状態で、軸方向にパンチで圧縮し、周溝部分を外側に膨出させて中膨らみ部3を形成する製造方法を採用してもよい。
【0012】
(2)動圧発生凹部の形成
上記のような方法により軸受素材1Aを製造したら、この軸受素材1Aの軸受部2の内周面2bに、動圧発生凹部を形成する。本実施形態では、図1に示すピン10を軸受部2の軸孔2aに挿入することによって動圧発生凹部を形成する。このピン10は、軸孔2aに挿入可能な外径を有する円柱部10aを主体とし、この円柱部10aの外周面に、形成すべき動圧発生凹部に対応した横断面形状を有する複数の凸部10bが、周方向を等分する複数箇所(この場合3箇所)に一体成形されている。凸部10bは、円柱部10aの先端から僅かな間隔をおいた位置より軸方向に延びており、その横断面形状は、図2(ピン10の下面図)に示すように、円柱部10aの外周面を始点としてそこから周方向に向かうにしたがって徐々に高くなり、終点の端縁は円柱部10aの径方向に沿って切れ込み、段差が形成されている。また、凸部10bの軸方向先端は、斜めに形成されている。
【0013】
上記ピン10を、図1(a)に示すように、両端の軸受部2の軸孔2aに先端を向けてセットし、次いで図1(b)に示すように、凸部10bが軸受部2を通過しない深さまでピン10を軸孔2aに挿入する。ピン10の円柱部10aは内周面2bを摺動するが、凸部10bは内周面2bを押圧し、これにより内周面2bには凸部10bに倣った形状の動圧発生凹部5が形成される。次いで、図1(c)に示すように、ピン10を軸受素材1Aから引き抜く。軸受部2の内周面2bには、ピン10の凸部10bによって動圧発生凹部5が周方向に等間隔おきに3個形成される。この時点で動圧発生凹部5は、ピン10の凸部10bが軸孔2aに挿入され、かつ引き抜かれることにより、必然的に軸受部2の端面に開放している。
【0014】
(3)動圧発生凹部の開放部の閉塞
次に、動圧発生凹部5の端面への開放部を閉塞する。それには、図3(a)に示すように、ダイ20内に軸受素材1Aをセットして外周面を拘束し、内部にコアロッド21を挿入した状態から、上下のパンチ22により軸方向に圧縮する。すると、図3(b)に示すように、環状突起4がパンチ22により圧縮されて消滅し、その分の肉が塑性流動によって動圧発生凹部5の端面への開放部に移行し、開放部が閉塞される。以上により、図4(a),(b)に示す軸受1を得る。この軸受1は、軸方向両端部に回転軸を支持する軸受部2を有し、これら軸受部2の間に、回転軸と接触しない中膨らみ部3を有し、さらに、軸受部2の内周面2bに動圧発生凹部5を有する。動圧発生凹部5は、この場合、深さが浅くなる周方向に向かって縦断面が徐々に短くなる略台形状に形成される。
【0015】
上記製造方法によれば、軸孔2aへのピン10の挿入といった容易な動作で動圧発生凹部5を形成することができ、製造性の向上が図られる。また、当該軸受1によれば、両端部の軸受部2により回転軸を2点支持する構造に加え、これら軸受部2の内周面2bに形成された複数の動圧発生凹部5に生じる動圧効果により、回転軸の支持力が相乗的に高まり、その結果、より安定した回転軸の支持が達成される。
【0016】
動圧発生凹部5は、端面および中膨らみ部3のいずれにも開放せず、軸受部2の内周面2bにおいて閉塞している。したがって、動圧発生凹部5内に流入した潤滑油が外部へ漏出しにくくなって高い動圧が常に確保される。また、動圧発生凹部5は、図5に示すように、周方向の一端部がピン10の凸部10bの段差によって最深部5aに形成され、一周方向(図5で右方向)に向かってしだいに浅くなるよう傾斜している。軸受1は、図5の矢印Rで示す回転軸の回転方向が、最深部5aから浅くなる方向に向かうよう機器にセットされる。このため、動圧発生凹部5の浅い先端部に潤滑油が集中して動圧が高くなるくさび効果を得ることができ、軸受性能の向上が図られる。さらに、動圧発生凹部5は、軸受部2の内周面2bに、周方向を等分する3箇所に配置されているので、回転軸をバランスよく安定して支持することができる。
【0017】
上記軸受1は本発明の一実施形態であり、次に、軸受ならびに動圧発生凹部の様々な形態を例示する。
図6(a)〜(c)は、動圧発生凹部5が軸受部2の内周面2bで閉塞している例を示している。図6(a)の軸受は、軸受部2の端面が山形状に面取りされている。図6(b)の軸受は、端面の内周側および外周側が面取りされているとともに、動圧発生凹部5に対応する箇所に、外周面に開放する円弧状溝6が形成されている。また、図6(c)の軸受は、端面の内周側および外周側が面取りされている。いずれの場合も、動圧発生凹部5の開放部を閉塞する工程において端面加工を施し、これによって動圧発生凹部5の確実な閉塞を図ったものである。
【0018】
図7(a),(b)は、動圧発生凹部5が端面に開放している例を示している。図7(a)の動圧発生凹部5は、細溝状の連通部11を介して端面に連通している。また、図7(b)の動圧発生凹部5は、細溝状の連通部11を介して端面および中膨らみ部3の双方に連通している。連通部11は、いずれの場合も動圧発生凹部5の最深部に通じている。このように動圧発生凹部5が端面や中膨らみ部3に開放している形態では、軸受内部を循環する潤滑油が、開放部すなわち連通部11を介して動圧発生凹部5から軸受部2の内周面に十分に供給される。したがって、例えば回転軸が高速回転仕様で潤滑油の循環が活発であるような場合に有効な構成である。また、連通部11が動圧発生凹部5の最深部に通じているので、潤滑油の供給状態および流動性がより良好となる。
【0019】
上記一実施形態では、図1で示した動圧発生凹部の形成工程において、凸部10bが中膨らみ部3に貫通するまでピン10軸孔2aに挿入することにより、動圧発生凹部5を端面および中膨らみ部3に開放させることができる。
【0020】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の焼結含油軸受によれば、軸方向両端部の軸受部により回転軸を2点支持する構造に加え、これら軸受部の内周面に形成された動圧発生凹部による動圧効果により、回転軸の支持力が相乗的に高まり、軸受性能が大幅に向上する。また、本発明の焼結含油軸受の製造方法によれば、軸孔へのピン状部材の挿入といった容易な動作で軸受部の内周面に動圧発生凹部を形成することができるので、製造性の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態に係る焼結含油軸受の製造方法における動圧発生凹部の形成工程を、(a)〜(c)の順で示す縦断面図である。
【図2】 動圧発生凹部形成用のピンの下面図である。
【図3】 本発明の一実施形態に係る焼結含油軸受の製造方法における動圧発生凹部の開放部の閉塞工程を、(a),(b)の順に示す縦断面図である。
【図4】 本発明の一実施形態に係る焼結含油軸受の製造方法によって得られた焼結含油軸受を示し、(a)はその縦断面図、(b)はその縦割り一部斜視図である。
【図5】 動圧発生凹部の底部形状を示す軸受部の一部横断面図である。
【図6】 本発明に係る焼結含油軸受の他の形態例を示す縦割り一部斜視図である。
【図7】 本発明に係る焼結含油軸受のさらに他の形態例を示す縦割り一部斜視図である。
【符号の説明】
1…焼結含油軸受、1A…軸受素材、2…軸受部、2a…軸受部の軸孔、
2b…軸受部の内周面、3…中膨らみ部、5…動圧発生凹部、
5a…動圧発生凹部の最深部、10…ピン(ピン状部材)、
10b…ピンの凸部。
Claims (1)
- 軸方向両端部の内径を該両端部の間よりも小径化することにより、両端部に回転軸が摺動する軸受部を形成するとともに、これら軸受部の間に回転軸が接触しない中膨らみ部を形成する工程と、前記軸受部の軸孔に、動圧発生凹部を形成するための凸部を有するピン状部材を挿入して、軸受部の内周面に、軸受端部に開放する動圧発生凹部を形成する工程と、当該軸受の端面を軸孔の内部方向に押圧変形させ、端面への動圧発生凹部の開放部の一部または全部を閉塞する工程とを備えることを特徴とする焼結含油軸受の製造方法。
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