JP3731352B2 - パワープラントのバランサ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、往復運動型エンジンにバランスシャフトを設けて、往復動慣性質量により発生する振動を低減させるパワープラントのバランサ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、エンジンとトランスミッションからなるパワープラントと、エンジンに回転可能に装着されたバランスシャフトとからなるパワープラントのバランサ装置として、特開平5−172187号公報に開示されたものがある。
このものは、図3に示すように、パワープラント1の重心2からエンジン3が発生する慣性力の中心4までの距離Lfよりも、パワープラント1の重心2からバランスシャフト5が発生する慣性力の中心6までの距離Lxを長くし、パワープラント1の重心2に作用する両慣性力によるモーメントを釣り合わせるようにしたものである。
【0003】
即ち、エンジンの発生する慣性力Fによる、パワープラント1の重心2回りのピッチングモーメントMEは、ME=FLfである。一方、バランスシャフト5の発生する慣性力Fxによる、パワープラント1の重心2回りのピッチングモーメントMBは、MB=FxLxである。両慣性力によるピッチングモーメントを相殺させた場合は、FLf=FxLxである。
【0004】
ここで、上記のように、Lx>Lfとすることにより、Fx<Fとすることができる。
従って、バランスシャフト5の重量を、従来必要とされていたFに対応する重量から、それよりも小さいFxに対応する重量に、ピッチングモーメントの発生を伴うことなく、低減できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来のパワープラントのバランサ装置においては、ピッチングモーメントの発生を抑えることができるが、上下方向の並進力(F−Fx)が残留してしまい、次の問題がある。
この並進力の値は、次のように演算される。
【0006】
即ち、FLf=FxLxであるから、Fx=F(Lf/Lx)となり、これから、F−Fx=[1−(Lf/Lx)]Fとなる。
このような並進力の残留によって、例えばFF車等の横置きエンジンの前端部(クランク軸方向の一側)に設定されたエンジンマウント(エンジン取付部)における上下振動の発生を十分に抑制できないため、車室内のこもり音の低減を図ることができない。
【0007】
即ち、図4は、本発明者らがFF車(排気量2000cc)の車室内こもり音の入力部位別の寄与率を実験により求めたグラフであり、エンジン前端部に設定されたエンジンマウント部位の車室内こもり音に対する寄与率が51%と高い。
従って、エンジン前端部に設定されたエンジンマウント部における並進力を原因とする上下振動の発生を抑制しなければ、車室内のこもり音の低減を図ることができない。
【0008】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、車室内こもり音に対して寄与率の高いクランク軸方向の一側のエンジンマウント部における慣性力Fによる振動を抑制すると同時に、バランスシャフトの重量の軽減を図ることができるパワープラントのバランサ装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1に係る発明は、
クランク軸方向の一側にマウント部が設定された横置きエンジンと、このエンジンの他側に締結されたトランスミッションとを含むパワープラントと、前記エンジンに回転可能に装着されたバランスシャフトとからなるパワープラントのバランサ装置において、
前記パワープラントの重心からエンジンが発生する慣性力の中心までの距離よりも、パワープラント重心からバランスシャフトが発生する慣性力の中心までの距離を長くする一方、
前記エンジンが発生する慣性力Fと、パワープラント重心からエンジンが発生する慣性力の中心までの距離L 1 と、パワープラント重心からバランスシャフトが発生する慣性力の中心までの距離L 2 と、パワープラント重心から前記マウント部までの距離L 3 と、パワープラントの慣性モーメントIと、パワープラントの重量mと、から、
前記マウント部における前記エンジンが発生する慣性力による上下振動の発生を抑制するように前記バランスシャフトが発生する慣性力F B を、次式により求めることを特徴とする。
F B =[(I+m・L 1 ・L 3 )/(I+m・L 2 ・L 3 )]・F
【0011】
請求項1に係る発明において、エンジン前端部に設定されたエンジンマウント部位の車室内こもり音に対する寄与率は高く、エンジンマウント部における慣性力Fを原因とする上下振動の発生を抑制すれば、車室内のこもり音の低減を図ることができる。
本発明においては、慣性力Fにより発生するマウント部の振動を0とするバランスシャフトが発生する慣性力FB を、演算式(FB =[(I+m・L1 ・L3)/(I+m・L2 ・L3 )]・F)によって設定し、これを満足するバランスシャフトを用いることにより、エンジンマウント部における不平衡力を原因とする上下振動の発生を抑制でき、車室内のこもり音の低減を図ることができる。
【0012】
一方、上記のように、L2 >L1 とした結果、上記の演算式から、FB <Fが明らかである。
即ち、バランスシャフトの重量を、従来必要とされていたFに対応する重量から、それよりも小さいFB に対応する重量に低減でき、バランスシャフトの軽量化を図れると共に、バランスシャフトの小型化によって、バランスシャフトのエンジンにおける設置スペースの縮小化を図れる。
【0013】
以上によって、バランスシャフトの発生する慣性力FB をパワープラント重心からバランスシャフトが発生する慣性力の中心までの距離L2 の位置で発生するようなバランスシャフトを適用することによって、エンジンマウント部の上下振動を発生させることなく、バランスシャフトの軽量化を図ることができ、ひいては燃費の向上、動力性能の向上を図ることができる。
【0014】
請求項2に係る発明において、上記のように、L2 >L1 とした結果、バランスシャフトは従来よりもエンジンのクランク軸方向の一側に寄って配設される。このため、バランスシャフトが内部に配設されるオイルパン自体の位置をエンジンのクランク軸方向の一側に移動することができ、シリンダブロック下部において、オイルパン設置部と隣り合う部位のスペースを拡大することができる。
【0015】
又、バランスシャフトの軽量化、即ち、小型化によって、オイルパン内部におけるバランスシャフトの設置スペースを縮小することができ、これによって、オイルパン自体の小型化が図れ、これによっても、シリンダブロック下部において、オイルパン設置部と隣り合う部位のスペースを拡大することができる。
シリンダブロック下部において、オイルパン設置部と隣り合う部位のスペースには、排気管や車体のメンバ等が配置され、このスペースの拡大により、排気管や車体のメンバ等のレイアウトが容易となる等、これらの配置の自由度が増し、配置し易くなる。
【0016】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によれば、車室内こもり音に対して寄与率の高いクランク軸方向の一側のエンジンマウント部におけるエンジンの発生する慣性力Fによる振動を抑制すると同時に、バランスシャフトの重量の軽減を図ることができ、ひいては燃費の向上、動力性能の向上を図ることができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、シリンダブロック下部において、オイルパン設置部と隣り合う部位のスペースの拡大により、このスペースに配置される排気管や車体のメンバ等のレイアウトが容易となる等、これらの配置の自由度が増し、配置し易くなる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1及び図2において、クランク軸方向の一側(前端部)がマウント部10に設定された横置きエンジン(例えば、直列4気筒エンジン)11とトランスミッション及びアクスルが一体的に設けられたトランスアクスル12とは、一体的に連結されてパワープラント13を構成している。
【0019】
エンジン11のシリンダブロック14下部に結合されたオイルパン15内部には、バランスシャフト16がエンジン11のクランク軸17の中心軸と平行に該クランク軸17の両側に対応する下側に配設されており、クランク軸17の回転に同期させて回転されることによって、エンジン11のピストン・コネクティングロッド系の質量の往復動によって生じる振動を低減している。
【0020】
ここで、本発明においては、パワープラント13の重心18からエンジン中心(エンジンが発生する慣性力の中心)19までの距離L1 よりも、パワープラント13の重心18からバランスシャフト16が発生する慣性力の中心20までの距離L2 を長くする(L2 >L1 )。
更に、本発明においては、エンジン11が発生する慣性力をF、パワープラント13の重心18からマウント部10までの距離をL3 、パワープラント13の慣性モーメントをI、パワープラント13の重量をmとしたときに、バランスシャフトが発生する慣性力FB を次式により求める。
【0021】
FB =[(I+m・L1 ・L3 )/(I+m・L2 ・L3 )]・F
かかる式は、次のようにして導かれる。
【0022】
【外1】
【0023】
次に、かかる構成の作用・ 効果について説明する。
前述したように、エンジン11の前端部に設定されたエンジンマウント部位の車室内こもり音に対する寄与率は高く、マウント部10におけるエンジンの発生する慣性力Fを原因とする上下振動の発生を抑制すれば、車室内のこもり音の低減を図ることができる。
【0024】
本発明においては、エンジンの発生する慣性力Fを原因とするマウント部10の振動を0とするFB を、(5)式によって設定し、これを満足するバランスシャフト16を用いることにより、マウント部10におけるエンジンの発生する慣性力Fを原因とする上下振動の発生を抑制でき、車室内のこもり音の低減を図ることができる。
【0025】
【外2】
【0026】
一方、上記のように、L2 >L1 とした結果、(5)式から、FB <Fが明らかである。
即ち、バランスシャフト16の重量を、従来必要とされていたFに対応する重量から、それよりも小さいFB に対応する重量に低減でき、バランスシャフト16の軽量化を図れると共に、バランスシャフト16の小型化によって、バランスシャフト16のエンジン11における設置スペースの縮小化を図れる。
【0027】
以上によって、バランスシャフト16の発生する慣性力FB をパワープラント13の重心18からバランスシャフト16が発生する慣性力の中心20までの距離L2 の位置で発生するようなバランスシャフト16を適用することによって、エンジンの発生する慣性力Fを原因とするマウント部10の上下振動を発生させることなく、バランスシャフト16の軽量化を図ることができ、ひいては燃費の向上、動力性能の向上を図ることができる。
【0028】
特に、本実施形態においては、バランスシャフト16がオイルパン15内に配設されるものに本発明のバランサ装置を適用することにより、次のような利点がある。
即ち、上記のように、L2 >L1 とした結果、バランスシャフト16は従来よりもエンジン11の前方に配設される。このため、バランスシャフト16が内部に配設されるオイルパン15自体の位置をエンジンの前方に移動することができ、エンジン11のシリンダブロック14のオイルパン15後方のスペースを拡大することができる。
【0029】
又、バランスシャフト16の軽量化、即ち、小型化によって、オイルパン15内部におけるバランスシャフト16の設置スペースを縮小することができ、これによって、オイルパン15自体の小型化が図れ、これによっても、オイルパン15後方のスペースを拡大することができる。
オイルパン15後方のスペースには、図2に示すように、排気管21や車体のメンバ22等が配置され、このスペースの拡大により、排気管21や車体のメンバ22等のレイアウトが容易となる等、これらの配置の自由度が増し、配置し易くなるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るパワープラントのバランサ装置の一実施形態を示す概略正面断面図
【図2】 同上の実施形態の詳細正面断面図
【図3】 従来のパワープラントのバランサ装置の一例を示す概略正面断面図
【図4】 FF車における車室内こもり音の入力部位別寄与率を表すグラフ
【符号の説明】
10 マウント部
11 横置きエンジン
12 トランスアクスル
13 パワープラント
14 シリンダブロック
15 オイルパン
16 バランスシャフト
17 クランク軸
18 パワープラントの重心
19 エンジン中心(エンジンが発生する慣性力の中心)
20 バランスシャフトが発生する慣性力の中心
Claims (2)
- クランク軸方向の一側にマウント部が設定された横置きエンジンと、このエンジンの他側に締結されたトランスミッションとを含むパワープラントと、前記エンジンに回転可能に装着されたバランスシャフトとからなるパワープラントのバランサ装置において、
前記パワープラントの重心からエンジンが発生する慣性力の中心までの距離よりも、パワープラント重心からバランスシャフトが発生する慣性力の中心までの距離を長くする一方、
前記エンジンが発生する慣性力Fと、パワープラント重心からエンジンが発生する慣性力の中心までの距離L 1 と、パワープラント重心からバランスシャフトが発生する慣性力の中心までの距離L 2 と、パワープラント重心から前記マウント部までの距離L 3 と、パワープラントの慣性モーメントIと、パワープラントの重量mと、から、
前記マウント部における前記エンジンが発生する慣性力による上下振動の発生を抑制するように前記バランスシャフトが発生する慣性力F B を、次式により求めることを特徴とするパワープラントのバランサ装置。
F B =[(I+m・L 1 ・L 3 )/(I+m・L 2 ・L 3 )]・F - 前記バランスシャフトはエンジンのオイルパン内部に配設されていることを特徴とする請求項1記載のパワープラントのバランサ装置。
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