JP3729062B2 - 植生ネット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生分解性を有するポリ乳酸繊維からなる植生ネットに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在最も広く利用されている植生ネット用繊維素材は、ポリエチレンや、ポリプロピレンなどの合成樹脂である。
【0003】
合成樹脂は大量に安価に製造できるというメリットがある反面、使用後の廃棄方法をめぐる問題がある。すなわち、上述した合成樹脂からなる繊維は自然環境中では殆ど分解せず、又、回収して焼却をすると高い燃焼熱を発生する恐れがある。
【0004】
そこで、最近では生分解性を有する合成樹脂であるポリカプロラクトンやポリ乳酸等を繊維用途に利用する提案がなされている。確かにこれらの合成樹脂は生分解性を有するという長所があるが、従来の(非生分解性)合成樹脂に較べて耐熱性が悪いなど、実用性という点では問題が多い。
【0005】
また、天然繊維系の素材の強度不足を補うためにポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維といっしょに使用する場合があるが、この場合は植生ネットの役割を終えた後も合成繊維部が残ってしまう問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、繊維の原料となるポリ乳酸の物性を厳しく吟味し、特定の物性・繊維形態のポリ乳酸を用いる事によって、強度、伸度等の物性値がポリエチレン、ポリプロピレン繊維並みの物性を有し、織編み等の後工程でも、ポリエチレン、ポリプロピレン繊維並みの加工性を得る事ができ、得られた植生ネットも実使用には問題がなく、植生ネットの役割を終えた後に分解する、環境負荷が少ないポリ乳酸植生ネットを提供するにある。
【0007】
【課題を解決する為の手段】
上述の目的は、相対粘度が2.7〜4.0であり、モノマー量が0.5重量%以下であり、Sn(錫)の含有量が30ppm以下であり、L体の比率が95%以上であり、直鎖状であるポリ乳酸樹脂からなる事を特徴とするポリ乳酸繊維からなる、植生ネットにより達成できる。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に用いるポリ乳酸は直鎖状の構造を有する。すなわち分岐構造を殆ど持たないものである。従来の提案では、溶融粘度や重合度を改良する目的でポリ乳酸を重合する際に少量の分岐剤を添加する事が行われていた。しかしながら、分岐構造が僅かでも存在するポリ乳酸は分岐構造が無い物に比べると引っ張り強度が弱いという問題がある。
【0009】
分岐構造を排する為には、ポリマーの原料に分岐構造を生成させるもの、3価、4価のアルコールやカルボン酸等を一切利用しないのが良いが、何らかの理由でこれらの構造を持つ成分を使用する場合であっても、紡糸時の糸切れ等、紡糸操業性に影響を及ぼさない必要最小限度の量にとどめることが肝要である。
【0010】
本発明に用いるポリ乳酸は、ポリマー中のSnの含有量が30ppm以下である必要があり、好ましくは20ppm以下である。Sn系の触媒はポリ乳酸の重合触媒として使用されるが、30ppmを超える量存在すると、紡糸時に解重合が起きてしまい、紡糸操業性が著しく低下する。
【0011】
Snの量を少なくする為には、重合時に使用する量を少なくしたり、チップを適当な液体で洗浄すればよい。
【0012】
本発明に用いるポリ乳酸はL−乳酸、D−乳酸あるいは乳酸の2量体であるL−ラクチドやD−ラクチドあるいはメゾラクチドを原料とするものであるが、結晶性を有するポリ乳酸を用いることで、引張強度を上げ、乾熱収縮率を下げるため、ポリ乳酸のL−体の比率は95%以上必要であり、好ましくは98%以上である。これはL−体の比率が低下すると非晶構造になり、紡糸・延伸工程で配向結晶が進まず、得られる繊維の物性が劣る為である。特に引張強度が著しく低下したり、乾熱収縮率が過大となり、植生ネットとして使用する事が不可能である。
【0013】
本発明に用いるポリ乳酸は、モノマーの含有量が0.5重量%以下、好ましくは0.3重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以下である。本発明に言うモノマーとは後述するGPC分析により算出される分子量1000以下の成分である。モノマー量が0.5重量%を超えると、モノマー成分が紡糸工程で熱により分解する為、繊維の強度が弱くなる。
【0014】
ポリ乳酸中のモノマー量を少なくする為には、重合反応完了間際に反応槽を真空吸引して未反応のモノマーを取り除く、重合チップを適当な液体で洗浄する、固相重合を行うなどの方法を行う。
【0015】
本発明に用いるポリ乳酸は、その相対粘度(ηrel)が2.7〜4.0である。この範囲より低いとポリマーの耐熱性が悪くなり、繊維の強度が弱くなる。逆に高くなると紡糸温度を上げねばならず、紡糸時のポリマーの熱劣化が大きい。好ましくは3.0〜3.8が良い。
【0016】
本発明に用いるポリ乳酸植生ネットは、マルチフィラメント、モノフィラメント、紡績糸、フラットヤーン糸のうち、用途に応じて任意の1種または複種類を交撚した糸などを用いて織編みしてなるものであり、特に、編みの中でもラッセル編みは、使用時に目ずれが起きないなどの良い点があり好ましい。
【0017】
又、本発明のポリ乳酸ネットは、ジュート等の天然繊維との組み合わせも共に生分解する事から好ましく、ポリ乳酸よりも分解の早い天然繊維を組み合わせ、分解速度の差を持たせた植生ネットも可能である。
【0018】
本発明に用いるポリ乳酸繊維は、引張強度2.5cN/dT以上が好ましい。引張強度が2.5cN/dT以上は織編工程などで糸切れ等が発生せず、又得られた植生ネットを実施に使用しても植物が根づき、成長するまで破れないので好ましい。
【0019】
本発明に用いるポリ乳酸繊維は、100℃での乾熱収縮率が植生ネットの寸法安定性の為に10%以下が好ましく、さらに好ましくは7%以下である。
【0020】
【発明の効果】
本発明のポリ乳酸繊維を用いて植生ネットを製造すれば、優れた生分解性繊維を有する植生ネットを得る事が出来る。すなわち、強度、伸度、乾熱収縮等の物性値がポリエチレン、ポリプロピレン繊維並みの物性を有し、織編等の工程でも、ポリエチレン、ポリプロピレン繊維並みの加工性を持ち、実際に使用しても植物が根づき、育成するまで破れないポリ乳酸植生ネットを得る事ができる。
【0021】
【実施例】
以下、実施例により具体的に本発明を説明する。最初に、ポリマー物性の分析方法を紹介する。
【0022】
<モノマー量>
試料を10mg/mLの濃度になるようクロロホルムに溶かした。クロロホルムを溶媒として東ソー製 HLC8120GPCによるGPC分析を行いMw、Mnを測定した。検出器はRIを用い、分子量の標準物質としてポリスチレンを用いた。
分子量分布の測定から、分子量1000以下の成分の割合からポリマー中のモノマー量を算出した。
【0023】
<相対粘度ηrel>
フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒に試料を1g/dlの濃度になるよう溶解し、20℃でウベローデ粘度管を用いて相対粘度を測定した。
【0024】
(Sn含有量)
0.5gの試料を硫酸/硝酸により湿式灰化した。これを水で希釈して50mL溶液とし、セイコー製 SPS1500VR ICP発光分析法により測定した。
【0025】
(強伸度の測定)
島津製作所製引っ張り試験機(RTM−100)を用い、試料長20cm、速度20cm/minで引っ張り試験を行った。破断強度を引っ張り強度、破断伸度を伸度とした。
【0026】
(乾熱収縮率)
試料を100℃の熱風乾燥機中に10分間入れ、取り出して5分間風乾した後、次式により乾熱収縮率を求めた。
沸水収縮率(%)=(初期試料長−収縮後の試料長)/初期試料長×100
【0027】
(L体の測定)
樹脂を加水分解させ、メタノール性水酸化ナトリウム溶液1.0Nを溶媒として高速液体クロマトグラフィー(HPLC:島津製 LC10AD型)を使ってL体の比率を求めた。
【0028】
[ポリマーの重合]
L−ラクチド、D−ラクチドを原料として、オクチル酸スズを重合触媒として、定法によりポリ乳酸を重合した。比較の為に、架橋剤としてトリメリット酸を0.1モル%を加えたものも重合した。得られたポリマーは135℃で固相重合を行い、残存モノマー量の低減を図ったが一部は比較のために固相重合を行わなかった。
【0029】
(植生ネット)
ポリ乳酸繊維のマルチフィラメント、モノフィラメント、紡績糸、フラットヤーンのうち、任意の1種または、複数種を用いてラッセル編みでネットを作成した。
さらに、ポリ乳酸やポリ乳酸よりも分解の早い天然繊維の不織布で作成された袋を作成し、袋内に植物の種、肥料、土壌改質材等を入れネットに一定間隔で収納した。
【0030】
[総合評価]
得られた植生ネットを施設し、3段階で総合評価を行った。
◎:ネット作成、施設時でも破損や変形がなく植生ネットとして極めて優れている。
○:ネット作成、施設時でも破損や変形がなく植生ネットとして優れている。
×:ネットの作成時の破損が著しく実使用不可
【0031】
実施例1〜3,比較例1〜6
表1,2に示す物性・形態の繊維を製造し、上述の評価を行った。
【0032】
実施例1〜3はポリマー物性、繊維の物性全て良好であり、得られた植生ネットも極めて良好であり、施工も問題なかった。
【0033】
比較例1,2はポリマー粘度を変えた結果であるが、比較例1はポリマー粘度が低いために十分な引張強度が得る事が出来ず、又比較例2はポリマー粘度が高すぎて、紡糸時に溶融粘度を下げるために紡糸温度を上げねばならず、ポリマーが紡糸時に熱分解してしまい十分な引張強度を得る事が出来ず両方とも編み工程で糸切れが発生し、又得られた植生ネットも施工時に破損が見られたり、植物が根付くよりも早く分解してしまい、植生ネットとしては不十分である。
【0034】
比較例3はL体の比率が低いために、延伸時に配向結晶が進まず、乾熱収縮率が高くなってしまい、編んだネットを熱セットした時に収縮が大きく寸法安定性に欠ける。
【0035】
比較例4、5はモノマー量や錫量が多いために紡糸時に熱劣化が起こった為に、引張強度が不十分で、編み工程で糸切れが多発し植生ネットを得る事が出来なかった。
【0036】
比較例6は分岐構造を持ったポリマーを使用した結果であるが、分岐構造を持つために引張強度が不十分で、編み工程で糸切れが多発し植生ネットを得る事が出来なかった。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
Claims (3)
- ポリ乳酸の相対粘度が2.7〜4.0であり、モノマー量が0.5重量%以下であり、Sn(錫)の含有量が30ppm以下であり、L体の比率が95%以上であり、直鎖状である主としてポリ乳酸樹脂を原料とするポリ乳酸繊維からなる事を特徴とする植生ネット。
- 該ポリ乳酸繊維が、マルチフィラメント、モノフィラメント、紡績糸、フラットヤーンからなる請求項1記載の植生ネット。
- 該ポリ乳酸繊維が、引張強度が2.5cN/dT(センチニュートン/デシテックス)以上で、100℃での乾熱収縮率が10%以下である請求項1又は2記載の植生ネット。
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