JP3728893B2 - 金属板の調質圧延方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は金属板の調質圧延方法に関し、特に冷延鋼板を調質圧延する際に鋼板に生じるクロスバックルを防止すると共に板反りを防止する金属板の調質圧延方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、冷延極薄鋼板を調質圧延(スキンパス圧延)すると、鋼板には図2(a)に示すような耳波のほか、図2(b)、(c)に示すような縦すじ(=縦筋)、蛇腹などの波状の形状不良が発生する。これらのうち、縦すじ、蛇腹はクロスバックルと総称される。このクロスバックルに対しては、鋼板の用途により、発生の完全防止が必要とされる場合や或る程度までの発生は許容される場合があって、防止要求程度が多様であるが、近年では、完全防止を強く要求されるケースが多くなってきた。
【0003】
クロスバックルの波高さは、圧延圧力、圧延機出側の張力および流出角度などの操業条件によって変化することが知られており、例えば、特開平3−161107号公報には、圧延機出側のクロスバックルの大きさを実測し、この大きさを目標値に一致させるように前記操業条件を変更する方法が、また、特開平4−52004 号公報には、ワークロール径、板厚などの限定下で出側張力範囲を規定する方法が、それぞれ開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平3−161107号公報に開示される、圧延機出側の板形状によって操業条件を変更する方法は、クロスバックルを安定して防止することが難しく、歩留りが良くない。
また、流出角度の付与は特に蛇腹の防止に有効であるが、反面、板反りが大きく発生しやすくなり、この板反り量は被圧延材板厚や出側張力により変化するため、蛇腹と板反りとを同時に防止するのが非常に困難である。そのため、調質圧延機では蛇腹発生防止の方を優先して流出角度を付与し、反りの方は矯正機で除去するという作業能率の悪い方法を採用せざるを得ない。
【0005】
また、特開平4−52004 号公報に開示される方法は、ワークロール径を60〜120mm と規定するため、この規定を外れる圧延機には適用できず、また、出側張力を25kgf/mm2 以上でかつ引張強さの70%以下と規定するため、引張強さ35kgf/mm2 以下の比較的柔らかい鋼板に対しては出側張力を設定できず結果的にクロスバックルを防止できない。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の問題に鑑み、調質圧延時に鋼板に発生するクロスバックルを安定して防止でき、さらには板反りも防止できる金属板の調質圧延方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、金属板の調質圧延方法において、下記の手段(1)〜(3)のいずれかを採用することによりクロスバックルを防止することを特徴とする金属板の調質圧延方法である。
記
(1)出側張力を被圧延材降伏応力と同等とする。
(2)圧延機出側で少なくとも 2.0°以上の流出角度を付与し、かつ、出側張力を被圧延材降伏応力の70%以上とする。
(3)出側補助ロール径を被圧延材板厚の1000倍以下とし、圧延機出側で少なくとも 2.0°以上の流出角度を付与し、出側張力の被圧延材降伏応力に対する比率を、25%を下限として被圧延材の板厚および補助ロール径に応じて設定する。
【0008】
【発明の実施の形態】
まず、クロスバックルの発生メカニズムの概要を図3を用いて説明する。鋼板(金属板)2は、上下のワークロール1により調質圧延される(図3(a))とき、ロールバイト内で幅方向に広がろうとするが、表面がワークロールで拘束されているため、圧延された分だけ板幅方向に圧縮応力が生じる(図3(b))。ロールバイトを出た鋼板2では前記圧縮応力の解放に伴い塑性座屈が起こり、縦すじが発生する(図3(c))。さらに圧延方向にも同様の過程が進行すると、圧延方向に対し斜めの角度をもつ波(蛇腹)が発生する。
【0009】
このようなクロスバックルの発生メカニズムには、前述のように、圧延圧力、出側張力、流出角度などが影響する。これらのうち、圧延圧力については、その値を下げることによりクロスバックルの波高さが軽減されるものの、鋼板表面へのロール粗度転写、あるいは鋼板の降伏伸び除去などといった調質圧延の主目的を果たす必要性から、圧延圧力の採りうる値には自ずと制約があり、これをクロスバックル防止のための操作量として採用するのは好ましくない。
【0010】
そこで、クロスバックルに及ぼす出側張力および圧延機出側の流出角度の影響を詳しく調査すべく、図1に示す2重式調質圧延機にて、出側張力と流出角度θを種々変えて、降伏応力(降伏点が不明確な材料では0.2 %耐力とする)および板厚の異なる鋼板(表1のA〜C)を調質圧延し、圧延機出側で鋼板の波形状および波高さを観察・測定し、操業要因として、出側張力と降伏応力の比率(出側張力/降伏応力(%);以下、「TY比率」と記す)を採用すれば、以下に述べるように、適用範囲が広くかつ安定して実施できるクロスバックル防止条件を設定できるという知見を得て、この知見に基づいて本発明を完成したのである。なお、流出角度θは圧延機出側の補助ロール3の高さを変えて変更する。
【0011】
図4は、鋼板A〜Cについて、流出角度を付与しない条件下でのTY比率と波形状及び波高さとの関係を示すグラフである。図4から、流出角度を付与しない場合には、TY比率を100 %(すなわち、出側張力を降伏応力と同等)程度以上にすれば、鋼種、板厚によらずクロスバックルを防止できることが分かる。ただし、特に引張強さの低い鋼板A相当材に対して手段(1)を実施するには、板が破断しないよう留意する必要がある。
本発明の手段(1)はこの知見に基づいて構成された。
【0012】
図5は、鋼板Aについて流出角度を変えた場合の、流出角度で層別したTY比率と波形状及び波高さとの関係を示すグラフである。図5から、手段(1)では破断の心配がある鋼板Aに対し、流出角度を少なくとも2.0 °付与すればTY比率を50%程度まで引き下げても蛇腹の発生を効果的に防止できることが分かる。
【0013】
さらに図6は、鋼板A〜Cについて、流出角度を2.0 °付与する条件下でのTY比率と波形状及び波高さとの関係を示すグラフである。図6から、流出角度を2.0 °付与する場合、TY比率を少なくとも70%以上に引き上げれば、鋼種、板厚によらず縦すじ等も消えてフラットな鋼板が得られることが分かる。
本発明の手段(2)はこの知見に基づいて構成された。
【0014】
本発明者らは、さらに、流出角度を2.0 °付与する条件下での板反り発生条件について調査した。図7は、鋼板Aについて、補助ロール径と板厚との比(補助ロール径/板厚)で層別した板反り量とTY比率との関係を示すグラフである。図7から、TY比率が25%以上で且つ「補助ロール径/板厚」が1000以下の範囲内で、TY比率を補助ロール及び板厚に応じて所定範囲に設定すれば、板反りを非常に小さくできることが分かる。
本発明の手段(3)はこの知見に基づいて構成された。
【0015】
【実施例】
(実施例1)
図1に示す上下1対のワークロール1で構成された2段式調質圧延機にて、直径570mm 、100mm の2種類のワークロールを使用し、表1に示す鋼板A〜Cを、本発明手段(1)に従い出側張力を被圧延材降伏応力と同等(TY比率=100 %)にし、伸び率1%で調質圧延して実施例1とした。
【0016】
この結果、前記特開平4−52004 号公報開示の従来法では、出側張力を25kgf/mm2 以上でかつ引張強さの70%以下としているために、引張強さ35kgf/mm2 でその70%が24.5kgf/mm2 となる鋼板Aの出側張力を規定できずこの鋼種のクロスバックル発生を防止できなかったのに対し、実施例1では、鋼板Aに対し直径570mm のワークロールを用いた場合にクロスバックルのない安定したスキンパス圧延を行うことができた。なお、鋼板Aに対し直径100mm のワークロールを用いた場合には圧延圧力が大きくて圧延が不安定となった。鋼板B、Cに対しては、ワークロール径に関わらずクロスバックルのない安定したスキンパス圧延を行うことができた。
(実験例1)
図1に示す上下1対のワークロール1で構成された2段式調質圧延機にて、直径570mm 、100mm の2種類のワークロールを使用し、表1に示す鋼板Aを、補助ロール3(ロール径 250mm)を用いて圧延機出側で 2.0°の流出角度を付与し、伸び率1%で調質圧延して実験例1とした。出側張力は監視するのみで特に制御しなかったが通常の操業条件下で降伏応力の50〜80%の範囲で変動していた。
【0017】
この結果、鋼板Aに対しワークロール径に関わらずクロスバックルのない安定したスキンパス圧延を行うことができた。
(実施例2)
図1に示す上下1対のワークロール1で構成された2段式調質圧延機にて、直径570mm 、100mm の2種類のワークロールを使用し、表1に示す鋼板A〜Cを3コイルずつ、合計9コイルをランダムな順序で溶接し、本発明手段(2)に従い補助ロール3(ロール径 180mm)を用いて圧延機出側で 2.0°の流出角度を付与し、かつ、溶接点通過毎に出側張力を被圧延材降伏応力の70%に設定変更しながら、伸び率1%で連続して調質圧延して実施例2とした。
【0018】
その結果、溶接点通過毎に出側鋼板形状データに応じて操業条件の変更を強いられる前記特開平3−161107号公報開示の従来法では被圧延材全長に対してクロスバックル発生なくスキンパス圧延できた長さの比率が80%程度に過ぎなかったのに対し、実施例2ではこの比率を98%に到達させることができた。
(実施例3)
図1に示す上下1対のワークロール1で構成された2段式調質圧延機にて、直径570mm のワークロールを使用し、表1に示す鋼板A〜Cを3コイルずつ、合計9コイルをランダムな順序で溶接し、本発明手段(3)に従い、ロール径100mm (被圧延材板厚の1000倍以下)の補助ロール3を用いて圧延機出側で 2.0°の流出角度を付与し、かつ、TY比率を25%を下限とし被圧延材の板厚および補助ロール径に対応させたテーブル値として予め備え、溶接点通過毎に出側張力を前記テーブル値に応じた値に設定変更しながら、伸び率1%で連続して調質圧延して実施例3とした。
【0019】
その結果、溶接点通過毎に出側鋼板形状データに応じて操業条件の変更を強いられる前記特開平3−161107号公報開示の従来法では被圧延材全長に対してクロスバックルなくスキンパス圧延できた長さの比率が80%程度に過ぎず、圧延終了後には板長さ800mm 当たり最大50mmの板反りが発生していたのに対し、実施例3では被圧延材全長の98%にわたってクロスバックルのない鋼板を得ることができ、さらに、圧延終了後の板反りを板長さ800mm 当たり高々25mmに半減させることができた。
【0020】
なお、本発明は、本実施例に使用した2重式の調質圧延機に限らず、4重式、6重式など他型式の調質圧延機にも適用できることは自明であり、さらに、複数スタンドのタンデム式調質圧延機を用いる場合には、本発明を最終スタンドに適用すればよく、また、金属板の種類(鋼種)、板厚等々についても本実施例の範囲に限定されるものではない。
【0021】
【表1】
【0022】
【発明の効果】
かくして本発明によれば、調質圧延機の型式や金属板の種類、板厚に限らず、クロスバックルおよび板反りの発生しない安定した調質圧延が行えるようになるという格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】2重式調質圧延機の模式図である。
【図2】調質圧延で生じる波状の形状不良の形態説明図である。
【図3】クロスバックルの発生メカニズムの概要説明図である。
【図4】流出角度を付与しない条件下でのTY比率と波形状及び波高さとの関係を示すグラフである。
【図5】流出角度で層別したTY比率と波形状及び波高さとの関係を示すグラフである。
【図6】流出角度を2.0 °付与する条件下でのTY比率と波形状及び波高さとの関係を示すグラフである。
【図7】補助ロール径と板厚との比(補助ロール径/板厚)で層別した板反り量とTY比率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ワークロール
2 鋼板(金属板)
3 補助ロール
Claims (3)
- 金属板の調質圧延方法において、出側張力を被圧延材降伏応力と同等とすることによりクロスバックルを防止することを特徴とする金属板の調質圧延方法。
- 金属板の調質圧延方法において、圧延機出側で少なくとも 2.0°以上の流出角度を付与し、かつ、出側張力を被圧延材降伏応力の70%以上とすることによりクロスバックルを防止することを特徴とする金属板の調質圧延方法。
- 金属板の調質圧延方法において、出側補助ロール径を被圧延材板厚の1000倍以下とし、圧延機出側で少なくとも 2.0°以上の流出角度を付与し、出側張力の被圧延材降伏応力に対する比率を、25%を下限として被圧延材の板厚および補助ロール径に応じて設定することによりクロスバックルを防止することを特徴とする金属板の調質圧延方法。
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JP22790597A JP3728893B2 (ja) | 1997-08-25 | 1997-08-25 | 金属板の調質圧延方法 |
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JPH1157804A JPH1157804A (ja) | 1999-03-02 |
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1997
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