JP3727077B2 - バクテリア菌体からのカロチノイド化合物の抽出方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はカロチノイド化合物を含有するバクテリア菌体からカロチノイド化合物を抽出する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カロチノイド化合物は微生物の菌体、藻類の藻体あるいは植物および動物の組織および器官など天然界に広く分布する赤−黄色色素である。カロチノイド化合物は食品、飲料の着色剤としての食品添加物の分野およびサケあるいはマスなどの魚類の肉あるいは体表、鶏などの家禽類の卵への色付けなどを目的とした飼料添加物などとして近年その用途が拡大している。またカロチノイド化合物は抗酸化作用を持つことが知られており抗酸化剤としての用途も期待される。近年ある種のカロチノイド化合物に発癌阻止効果が見いだされており今後は医薬品としての用途も期待されている。
【0003】
カロチノイド化合物は分子中に酸素原子を含むものおよび含まないものに大別され、前者をキサントフィル化合物と称することがある。キサントフィル化合物の中では、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチンなどが合成法により工業的に生産されており(Pure and Applied Chemistry, 63 (1), 35-44 (1991)) 、色付けを目的とした飼料添加物として用いられている。
しかしながら近年安全性の問題から合成品を食品および飼料添加物として用いることはできなくなりつつあり、近年の天然物指向ともあいまってこれらの合成品を代替するために天然のカロチノイド化合物を製造する技術の開発が強く望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
天然のカロチノイド化合物を工業的に生産することを考えた場合、安定した供給、生育の早さ、生産性の高さなどを考慮するとバクテリアを培養して菌体にカロチノイド化合物を蓄積させた後菌体を回収し抽出することによる方法が最も有利であると考えられる。
【0005】
バクテリア菌体からカロチノイド化合物を抽出する方法として、特開平2−138996、特開平6−165683、特開平6−165684などが報告されているが、これらはすべて有機溶媒により抽出を行う方法である。しかしながら抽出されたカロチノイド化合物は食品添加物あるいは試料添加物として使用されるために、有機溶媒を用いた抽出においては使用する溶媒の残留の問題が生じる。そのため安全性を考慮すれば使用できる溶媒は限定される。また、カロチノイド化合物の中の一群であるキサントフィル化合物は特に安全と考えられる溶媒の中に溶解度の高い溶媒がなく溶媒残留の問題が深刻である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは、バクテリア菌体に蓄積されるカロチノイド化合物を抽出する方法を研究するうちに、超臨界流体を溶媒として用いることにより安全性に問題のある有機溶媒を用いること無しにカロチノイド化合物を効率よく抽出できることを見いだし本発明を完成させた。
【0007】
従って本発明は、カロチノイド化合物を含有するバクテリア菌体を超臨界流体と接触せしめることを特徴とするカロチノイド化合物の抽出方法を提供する。
本発明における超臨界流体としては、各種の超臨界流体を用いることができる。超臨界流体は拡散係数は気体の性質をもちながらその比重は液体に近く液体なみの溶解力を持つ流体として作用する。
【0008】
本願発明において用いる超臨界流体としては、特に超臨界二酸化炭素が好ましい。超臨界二酸化炭素とは、臨界温度(31.1℃)および臨界圧力(75.2 kgf/cm2 )以上の二酸化炭素のことである。
本願発明における抽出方法は特に限定されるものではないが、通常耐圧容器中で超臨界流体単独あるいは超臨界流体にエントレーナーとして他の溶媒を併用したものを被抽出物に接触させることにより行われる。
【0009】
エントレーナーを併用する場合の使用割合は特に限定されるものではないが、超臨界流体に対し通常、100重量%以下である。
エントレーナーとして用いる溶媒としては特に制限はないが、通常溶媒が残留した場合の安全性を考慮して水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、酢酸エチル、ヘキサンなどが好ましく用いられる。
【0010】
抽出温度は臨界温度以上であれば特に限定されるものではない。超臨界二酸化炭素を用いた場合は、二酸化炭素の臨界温度である31.1℃以上であり、通常100℃以下、好ましくは60℃以下、さらに好ましくは45℃以下である。
抽出圧力は臨界圧力以上であれば特に限定されるものではない。超臨界二酸化炭素を用いた場合は、二酸化炭素の臨界圧力である75.2 kgf/cm2 以上であり、通常500 kgf/cm2 以下、好ましくは250 kgf/cm2 以下である。
【0011】
抽出時間は特に限定されるものではないが好ましくは1秒以上、好ましくは1分以上、特に好ましくは10分以上であり、100時間以下、好ましくは10時間以下である。
抽出に用いられる超臨界流体の使用量は特に限定されるものではなく、通常バクテリア菌体1mgに対し、1mg以上、好ましくは10mg以上であり、10g以下、好ましくは5g以下である。
【0012】
本願発明の被抽出物は、カロチノイド化合物を含んだバクテリア菌体であれば特に限定されるものではない。このようなバクテリア菌体の具体例としては、E−396株(FERM BP−4283)などのアスタキサンチン、アドニキサンチン、β−カロチン、エキネノン、カンタキサンチン及びゼアキサンチンから成るカロチノイド化合物のうち少なくとも1種を生産する能力を有するバクテリアを、生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩および必要であれば特殊な要求物質(例えば、ビタミン、アミノ酸、核酸塩基等)を含む培地で培養した後に遠心分離、濾過等により分離して得た菌体、あるいはカンタキサンチン生産能を有するコリネバクテリウム(Corynebacterium)SQH348株(FERM BP−4284)などのコリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属するバクテリアを、生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩および必要であれば特殊な要求物質(例えば、ビタミン、アミノ酸、核酸塩基等)を含む培地で培養した後に遠心分離、濾過等により分離して得た菌体が挙げられる。当然のことながら本発明はこれらの具体例により限定されるものではない。
【0013】
抽出される菌体はいかなる状態で用いても差し支えない。好ましくは、湿潤状態、乾燥状態あるいは菌体を何らかの溶媒にけんだくした状態で用いる。
抽出されるカロチノイド化合物は特に限定されるものではない。特に本発明の方法によれば、通常の方法では抽出されにくいキサントフィル化合物に対しても非常に有効である。
【0014】
本発明の方法により抽出されるカロチノイド化合物としては、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、クリプトキサンチン、アドニルビン、アステロイデノン、ロドキサンチン、3−ヒドロキシエキネノン、アスタキサンチンエステル、β−カロチン、α−カロチン、γ−カロチン、リコペン、カプサンチン、β−ゼアカロテン、トルレン、フラボキサンチン、α−ドラカロテン、フコキサンチン、フォニコキサンチンなどが挙げられる。
【0015】
本発明においては、これらのカロチノイド化合物の少なくとも1種を含むバクテリア菌体が用いられる。特にアスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、クリプトキサンチン、アドニルビンおよびアステロイデノンから選ばれる少なくとも1種のカロチノイド化合物を含有するものが好ましく用いられる。
【0016】
【実施例】
以下に実施例により本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
調製例1.
アスタキサンチンおよびアドニキサンチンの生産バクテリアであるE−396株(FERM BP−4283)を酵母エキス20g/L、蔗糖30g/L、リン酸1カリウム1.5g/L、リン酸2ナトリウム1.5g/L、硫酸マグネシウム7水物0.5g/L、硫酸鉄(II)7水物0.01g/L、塩化カルシウム0.01g/Lを含み、炭酸ナトリウムを用いてpH7.0に調製した30Lの培地で5日間培養した後遠心分離により900gの湿菌体を得た。この湿菌体のカロチノイド化合物濃度は1.0mg/gであった。
得られた菌体300gを凍結乾燥することにより凍結乾燥菌体57gを得た。
【0017】
実施例1〜20.
E−396株(FERM BP−4283)乾燥菌体50mgを2.5mL容のHPLC用空カラムに充填し、超臨界クロマトグラフィー装置(日本電子(株)製)に接続した。ここに超臨界状態の二酸化炭素を92mg/min の速度で通じることにより抽出を行った。エントレーナーとして別の溶媒を同時に流す場合は超臨界状態の二酸化炭素の流速を92mg/min 、エントレーナーの流速を20μL/min に設定して抽出を行った。
【0018】
抽出温度、抽出圧力、エントレーナー条件を変えて抽出を行った結果を表1に示した。抽出効率は、抽出されたカロテノイド量と菌体に含まれているカロテノイド量の比として表した。
【0019】
実施例21〜40.
E−396株(FERM BP−4283)湿菌体100mgを短冊状に切断したメッシュに擦り付け2.5mL容のHPLC空カラムに充填し、超臨界クロマトグラフィー装置に接続した。抽出は乾燥菌体の場合と同一の条件で行った。
抽出温度、抽出圧力、エントレーナー条件を変えて抽出を行った結果を表2に示した。抽出効率は、抽出されたカロテノイド量と菌体に含まれているカロテノイド量の比として表した。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
実施例41.
E−396株(FERM BP−4283)乾燥菌体10gを100mL容の高圧容器に収容し、該容器に温度35℃、圧力150 kgf/cm2 の超臨界二酸化炭素を10g/min の速度で2時間流すことによりカロチノイド化合物の抽出を行った。その結果、カロチノイド化合物の抽出効率は75%であった。
【0023】
実施例42.
E−396株(FERM BP−4283)乾燥菌体10gを20mLのイソプロピルアルコールと混合して100mL容の高圧容器に収容し、該容器に温度35℃、圧力150 kgf/cm2 の超臨界二酸化炭素を10g/min の速度で2時間流すことによりカロチノイド化合物の抽出を行った。その結果、カロチノイド化合物の抽出効率は97%であった。
【0024】
実施例43.
E−396株(FERM BP−4283)湿菌体20gを100mL容の高圧容器に収容し、該容器に温度35℃、圧力150 kgf/cm2 の超臨界二酸化炭素を10g/min の速度で2時間流すことによりカロチノイド化合物の抽出を行った。その結果、カロチノイド化合物の抽出効率は64%であった。
【0025】
実施例44.
E−396株(FERM BP−4283)湿菌体20gを20mLのイソプロピルアルコールと混合して100mL容の高圧容器に収容し、該容器に温度35℃、圧力150 kgf/cm2 の超臨界二酸化炭素を10g/min の速度で2時間流すことによりカロチノイド化合物の抽出を行った。その結果、カロチノイド化合物の抽出効率は95%であった。
【0026】
調製例2.
カンタキサンチン生産菌体であるコリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.SQH348株(FERM BP−4284)を酵母エキス30g/L、グルコース10g/L、大豆油5mL/L、硝酸アンモニウム2.5g/L、リン酸1カリウム1.5g/L、リン酸2ナトリウム1.5g/L、硫酸マグネシウム7水物0.5g/L、硫酸鉄(II)7水物0.01g/L、塩化カルシウム0.01g/Lを含み、炭酸カルシウムでpH8.0に調製した3Lの培地で7日間培養を行い、遠心分離により湿菌体75gを得た。湿菌体のカロチノイド化合物含量は0.61mg/gであった。湿菌体40gを凍結乾燥することにより凍結乾燥菌体8.6gを得た。
【0027】
実施例45〜49.
Corynebacterium sp.SQH348株(FERM BP−4284)乾燥菌体50mgを2.5mL容のHPLC用空カラムに充填し、超臨界クロマトグラフィー装置(日本電子(株)製)に接続した。ここに超臨界状態の二酸化炭素を92mg/min の速度で通じることにより抽出を行った。エントレーナーとして別の溶媒を同時に流す場合は超臨界状態の二酸化炭素の流速を92mg/min 、エントレーナーの流速を20μL/min に設定して抽出を行った。その結果を表3に示した。
【0028】
実施例50〜54.
Corynebacterium sp.SQH348株(FERM BP−4284)湿菌体100mgを短冊状に切断したメッシュに擦り付け2.5mL容のHPLC空カラムに充填し、超臨界クロマトグラフィー装置に接続した。抽出は乾燥菌体の場合と同一の条件で行った。その結果を表3に併記した。
【0029】
【表3】
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば超臨界流体を用いることによりバクテリア菌体から効率よくカロチノイド化合物、特にキサントフィル化合物を抽出することができる。また本発明の方法により製造されるカロチノイド化合物は飼料添加物あるいは食品添加物として安全に使用することができる。
Claims (1)
- カロチノイド化合物を含有するバクテリア菌体を、エントレーナーとしてメタノールまたはイソプロピルアルコールを併用した超臨界流体と接触させることを特徴とするカロチノイド化合物の抽出方法。
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