JP3725317B2 - 試料充填ホルダ及びそれを用いたx線装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種の測定装置において測定対象となる試料を保持するために用いられる試料充填ホルダに関する。また、本発明は、その試料充填ホルダを用いたX線装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
X線回折装置その他の測定装置においては、試料を所定の測定位置に置くために試料充填ホルダが用いられる。すなわち、試料が充填された試料充填ホルダを測定装置の所定位置に装着することにより、試料が測定装置の所定の測定位置に配置される。
【0003】
上記の試料充填ホルダとして、従来、図9に示すように、ホルダ本体部分53に形成された試料収納用凹部52と、その試料収納用凹部52を覆う試料押え部材54とを有するものが知られている。測定対象となる試料Sは、試料収納用凹部52の中に充填された後、試料押え部材54によって押えられる。試料Sが充填されたこの試料充填ホルダはX線回折装置等といった測定装置の所定位置に装着される。
【0004】
この試料充填ホルダをX線回折装置に装着する場合を考えれば、図9に示すように、X線Rの進行経路上に試料Sが位置するように試料充填ホルダが装着される。試料Sに入射するX線と試料Sの結晶格子面との間でX線の回折条件が満足されると、その結晶格子面でX線が回折する。この回折X線の回折角度2θはX線カウンタによって検出される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来の試料充填ホルダにおいては、温度変化、雰囲気変化等に応じて膨張する性質を有する物質を試料とする場合に、そのような試料の膨張に応じて図10に示すように、試料Sの表面が膨らむことがある。X線回折装置によってX線測定を行っているときにそのような試料表面の膨らみが発生すると、X線検出手段によって測定されるX線の回折角度に誤差が生じるおそれがある。また、その他の測定装置に関しても、同様に測定誤差が発生することが考えられる。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、試料が膨張する場合でも信頼性の高い安定した測定を行うことができる試料充填ホルダを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
(1) 上記の目的を達成するため、本発明に係る試料充填ホルダは、試料を収納するための試料収納用凹部を備えた試料充填ホルダにおいて、前記試料収納用凹部の中に設けられていて試料が載せられる試料載置用凸部と、前記試料収納用凹部の中であって前記試料載置用凸部のまわりに設けられた試料逃げ部と、前記試料収納用凹部を測定の間覆うことによって該試料収納用凹部内の前記試料を測定の間押えると共にX線を通過可能な試料押え部材とを有し、前記試料載置用凸部の前記試料を載置する表面は外方へ突出する楕円体表面であることを特徴とする。
【0008】
この試料充填ホルダによれば、試料は試料載置用凸部に載せられた状態で各種の測定を受ける。この測定中に何等かの原因で試料が膨張するときには、その膨張分は試料逃げ部の中へ入り込み、よって、試料の表面は一定の位置を維持する。このため、測定装置によって行われる測定の条件が変化することが無くなり、信頼性の高い安定した測定を行うことができる。
【0009】
(2) 上記(1)記載の試料充填ホルダにおいて、前記試料載置用凸部の表面は楕円体表面とすることができる。こうすれば、試料は楕円体表面を滑って試料逃げ部へ向けて移動し易くなるので、試料の粘性が高い場合でもその試料が膨張するときにはその試料を確実に試料逃げ部へ逃がすことができる。なお、試料載置用凸部の表面を球面体表面とすることもできるが、その場合には試料の滑り性が非常に高くなる。
【0010】
(3) 上記(1)記載の試料充填ホルダにおいて、前記試料載置用凸部の表面は平坦な平面とすることができる。こうすれば、粘性が低いために滑り易い試料を安定に保持できる。
【0011】
(4) 上記各構成の試料充填ホルダにおいて、試料逃げ部は試料載置用凸部の裾部分に連続するリング状の凹部とすることができる。膨張のために試料載置用凸部を滑り落ちた試料は、そのリング状凹部の中に入り込む。
【0012】
(5) 上記各構成の試料充填ホルダにおいて、試料逃げ部の中に弾性変形部材を設けることができる。この弾性変形部材は、例えば金属の綿状部材、例えばアルミナ(Al2O3)の綿によって構成できる。
【0013】
試料の粘性が極めて低い場合には、試料に膨張が発生しないときにも、その試料の一部が試料載置用凸部を滑り落ちて試料逃げ部に入り込んでしまうという不都合が発生するおそれがある。特に試料載置用凸部の表面を楕円体表面等といった傾斜面にした場合にはそのような傾向が強い。このような状態では安定した測定が期待できない。
【0014】
今考えている実施形態のように試料逃げ部の中に弾性変形部材を置いておけば、膨張が発生していないにもかかわらず試料載置用凸部を滑り降りて試料逃げ部へ入り込もうとする試料をその弾性変形部材によって停止させることができ、よって、安定した測定を行うことができる。また、試料に膨張が発生した場合には、試料の膨張に伴う力によって弾性変形部材が弾性変形を生じ、この弾性変形した部分に試料の膨張分が入り込む。これにより、試料が膨張する場合でもその試料の表面を一定の位置に保持できる。
【0015】
なお、弾性変形部材は試料の膨張に伴う力によって変形し、その力が解除されたときには弾性によって元の状態に復元するという性質を有する物質でありさえすれば、どのような物質でも使用できる。しかしながら、望ましくは金属綿、より望ましくはアルミナ綿を使用する。アルミナ綿は微小量の試料の膨張に対しても変形することができ、しかも試料の膨張が無くなると容易に元の状態に復元できる。
【0016】
(6) 上記各構成の試料充填ホルダにおいて、試料収納用凹部を覆うことによってその試料収納用凹部内の試料を押える試料押え部材を設けることができる。試料押え部材によって試料の表面を押さえることにより、試料の表面を常に一定の位置に維持することができる。この試料押え部材は任意の材料によって形成することができるが、本試料充填ホルダをX線装置に用いる場合には、X線を透過できる材料、例えばベリリウム(Be)によってこの試料押え部材を形成できる。
【0017】
(7) 本発明に係るX線装置は、試料を保持する試料充填ホルダと、その試料へ向けてX線を放射するX線源と、その試料で回折したX線を検出するX線検出手段とを有するX線装置において、前記試料充填ホルダは、試料を収納するための試料収納用凹部と、その試料収納用凹部の中に設けられていて試料が載せられる試料載置用凸部と、前記試料収納用凹部の中であって前記試料載置用凸部のまわりに設けられた試料逃げ部と、前記試料収納用凹部を測定の間覆うことによって該試料収納用凹部内の前記試料を測定の間押えると共にX線を通過可能な試料押え部材とを有し、前記試料載置用凸部の前記試料を載置する表面は外方へ突出する楕円体表面であることを特徴とする。
【0018】
このX線装置では、X線源から放射したX線を試料収納用凹部に収納された試料に照射し、その試料で回折したX線をX線検出手段によって検出してX線強度に対応した電気信号に変換して出力する。何等かの原因によって試料が膨張するとき、その膨張分は試料逃げ部に入り込み、よって、試料の表面が膨らむことはない。この結果、X線が照射される試料表面は常に一定の位置に保持されることになり、そのため、常に一定の角度条件で試料に対してX線測定を行うことができ、従って、膨張する性質を有する試料に対して常に信頼性の高い安定したX線測定を行うことができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る試料充填ホルダの一実施形態を示している。ここに示す試料充填ホルダ1は、試料Sを収納するための試料収納用凹部2を備えたホルダ本体部分3と、試料収納用凹部2を覆う試料押え部材4と、その試料押え部材4を固定するための押え板6とを含んで構成される。本実施形態では、試料収納用凹部2は円形状に形成され、本体部分3はステンレスによって形成され、試料押え部材4はX線を透過できる物質であるベリリウムによって0.1mm程度の厚さに形成され、そして押え板6はステンレスによって形成される。もちろん、これらの仕様は必要に応じて種々の形状、材質等に変更できる。
【0020】
ホルダ本体部分3の試料収納側の表面にはネジ穴7が形成され、押え板6には貫通穴8が形成される。固定ネジ9を各貫通穴8に通し、さらにそれを本体部分3にねじ込むことにより、試料押え部材4を間に挟んだ状態で押え板6を本体部分3に固着でき、これにより、試料押え部材4を本体部分3に固着できる。本体部分3の側面からその内部方向へ延びる小径穴16は、試料Sの温度を測定するための熱電対を挿入するための穴である。
【0021】
試料Sとしては、例えば水素貯蔵合金、すなわち水素を貯蔵することによってエネルギが貯えられる性質を有する合金を考える。この合金は、例えばLaXNiY(X,Yは適宜の組み合わせの整数)を主成分とする合金であって、水素を含むことによって体積が20〜40%程度膨張する性質を有する。もちろん、温度、雰囲気等の変化によって膨張する性質を有する他の物質が試料になることもある。
【0022】
試料収納用凹部2の断面構造を示すと図3に示す通りであり、その凹部2の中には、試料Sを載せるための試料載置用凸部11と、その凸部11の裾部のまわりに形成されたリング状凹部12とが設けられる。このリング状凹部12は試料Sを逃がすための試料逃げ部として作用する。本実施形態では、試料載置用凸部11の表面は楕円体表面によって形成される。
【0023】
本実施形態の試料充填ホルダ1に試料Sを充填する際には、図1において、まず試料Sをホルダ本体部分3の試料収納用凹部2の中、特に試料載置用凸部11の上に載せる。そして、試料収納用凹部2の上に試料押え部材4を被せ、さらにその試料押え部材4の両側端部に重なるように押え板6を載せ、そして固定ネジ9によって押え板6を本体部分3に固定することにより試料押え部材4を本体部分3に固着する。これにより、図3に示すように、試料載置用凸部11の上に載せられた試料Sの表面が平坦な平面に成形される。
【0024】
図2は、図1の試料充填ホルダ1を使用するX線装置、具体的にはX線回折装置の一実施形態を示している。このX線回折装置は、X線を放射するX線源Fと、試料を装着するための所定位置に配設された平板状ヒータ13と、試料Sで回折するX線を検出して電気信号に変換するX線カウンタ14とを含んで構成される。X線源Fは、例えば、熱電子を放出するフィラメントと、そのフィラメントに対向して配設されるターゲットとを含んで構成でき、その場合には、フィラメントから放出される熱電子がターゲットに衝突したときにそのターゲットからX線が放射される。
【0025】
試料Sの表面の中心を通る中心軸線Lを考えるとき、X線源Fはその中心軸線Lを中心として所定の角速度で間欠的又は連続的に回転、いわゆるθ回転する。一方、X線カウンタ14は、中心軸線Lを中心としてX線源Fのθ回転と同じ角速度でそれと反対方向に間欠的又は連続的にθ回転する。平板状ヒータ13は通電によって発熱する。
【0026】
このX線回折装置によってX線回折測定を行う際には、図1のようにして試料Sを収納した試料充填ホルダ1を平板状ヒータ13の上に載せ、すなわちX線回折装置に関する所定の試料装着位置に装着し、さらに、そのヒータ13を発熱させて試料Sを所定の測定温度に制御する。試料Sが所定温度に設定された後、X線源Fのθ回転を開始し、同時にX線カウンタ14のθ回転を開始する。これらのθ回転の間、X線源FからのX線を試料Sへ照射する。照射されたX線と試料Sの結晶格子面との間でX線の回折条件が満足されると、その試料SでX線が回折し、その回折X線はX線カウンタ14によって検出されて電気信号に変換される。
【0027】
以上のX線回折測定が行われる間、試料Sは水素を吸収して膨張することがある。その場合、試料Sの膨張分は、図4に矢印Aで示すように、試料載置用凸部11を滑り落ちて試料逃げ部12に入り込む。これにより、X線が入射する試料Sの表面、すなわち試料押え部材4によって押さえられる表面は、膨らむこと無く常に一定の位置に保持され、よって、X線回折測定の測定条件が一定に維持され、その結果、常に安定した信頼性の高いX線回折測定を行うことができる。
【0028】
(第2実施形態)
図5は、本発明に係る試料充填ホルダの他の実施形態を示している。ここに示した試料充填ホルダ21が図3に示した先の実施形態と異なる点は、リング状凹部すなわち試料逃げ部12の中にリング状の弾性変形部材22を配設したことである。この弾性変形部材22は、例えば金属製の綿状部材、好ましくはアルミナの綿状部材によって形成する。
【0029】
図3に示した実施形態においては、試料Sの粘性が低い場合、試料Sが膨張しないときでもその一部が試料載置用凸部11から試料逃げ部12へ移動するおそれがある。この現象が発生すると、試料Sの表面位置が変動して測定誤差が発生するおそれがある。これに対し、図5に示す本実施形態のように、試料逃げ部12の中に弾性変形部材22を設けておけば、試料Sが試料逃げ部12へこぼれ落ちることを防止できる。
【0030】
なお、この実施形態において試料Sが何等かの原因で膨張する場合には、図6に示すように、その膨張に応じて発生する力によって弾性変形部材22が押圧されて弾性変形し、その変形部分に試料Sの膨張分が入り込み、これにより、試料Sの表面の位置変動が回避される。
【0031】
(第3実施形態)
図7は、本発明に係る試料充填ホルダに用いられるホルダ本体部分のさらに他の実施形態を示している。ここに示すホルダ本体部分23が図1に示したホルダ本体部分3と異なる点は、試料収納用凹部2の中に設けられる試料載置用凸部31の表面を平坦な平面としたことである。図7と図1との間で同じ符号は同じ部材を示しており、それらの説明は省略する。
【0032】
表面が平坦平面である試料載置用凸部31を用いた本実施形態によれば、粘性が低くて流動性の高い試料Sを試料載置用凸部31の上で安定して支持できる。また、この実施形態において試料Sに膨張が発生する場合には、図8に矢印Bで示すように、その膨張分が試料逃げ部12の中へ落下する。
【0033】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はそれらの実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。例えば、本発明の試料充填ホルダはX線装置に限られず、その他の種々の測定装置に用いることができる。
【0034】
【発明の効果】
本発明に係る試料充填ホルダによれば、何等かの原因によって試料が膨張するときには、その膨張分は試料逃げ部の中へ入り込み、よって、試料の表面は一定の位置を維持する。このため、試料に対して行われる測定の条件が変化することが無くなり、信頼性の高い安定した測定を行うことができる。
【0035】
本発明に係るX線装置によれば、何等かの原因によって試料が膨張するとき、その膨張分は試料逃げ部に入り込み、よって、試料の表面が膨らむことはない。この結果、X線が照射される試料表面は常に一定の位置に保持されることになり、そのため、常に一定の角度条件で試料に対してX線測定を行うことができ、従って、膨張する性質を有する試料に対して常に信頼性の高い安定したX線測定を行うことができる。
【0036】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る試料充填ホルダの一実施形態を分解して示す斜視図である。
【図2】本発明に係るX線装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図1のX−X線に従って試料充填ホルダの断面構造を示す図である。
【図4】図3と同じ断面構造において試料が膨張する様子を示す図である。
【図5】本発明に係る試料充填ホルダの他の実施形態を示す断面図である。
【図6】図5と同じ断面構造において試料が膨張する様子を示す図である。
【図7】本発明に係る試料充填ホルダに用いられるホルダ本体部分の他の実施形態を示す斜視図である。
【図8】図7に示す本体部分の断面構造を示す断面図である。
【図9】従来の試料充填ホルダの一例を示す断面図である。
【図10】図9の試料充填ホルダにおいて試料が膨張した様子を示す図である。
【符号の説明】
1 試料充填ホルダ
2 試料収納用凹部
3 ホルダ本体部分
4 試料押え部材
6 押え板
11 試料載置用凸部
12 試料逃げ部
13 平板状ヒータ
14 X線カウンタ
21 試料充填ホルダ
22 弾性変形部材
23 ホルダ本体部分
31 試料載置用凸部
F X線源
L 試料中心軸線
S 試料
Claims (5)
- 試料を収納するための試料収納用凹部を備えた試料充填ホルダにおいて、
前記試料収納用凹部の中に設けられていて試料が載せられる試料載置用凸部と、
前記試料収納用凹部の中であって前記試料載置用凸部のまわりに設けられた試料逃げ部と、
前記試料収納用凹部を測定の間覆うことによって該試料収納用凹部内の前記試料を測定の間押えると共にX線を通過可能な試料押え部材と、を有し、
前記試料載置用凸部の前記試料を載置する表面は外方へ突出する楕円体表面である
ことを特徴とする試料充填ホルダ。 - 請求項1記載の試料充填ホルダにおいて、前記試料逃げ部はリング状の凹部であることを特徴とする試料充填ホルダ。
- 請求項1又は請求項2記載の試料充填ホルダにおいて、前記試料逃げ部の中に弾性変形部材を設けたことを特徴とする試料充填ホルダ。
- 請求項3記載の試料充填ホルダにおいて、前記弾性変形部材は金属の綿状部材であることを特徴とする試料充填ホルダ。
- 試料を保持する試料充填ホルダと、その試料へ向けてX線を放射するX線源と、その試料で回折したX線を検出するX線検出手段とを有するX線装置において、
前記試料充填ホルダは、
試料を収納するための試料収納用凹部と、
その試料収納用凹部の中に設けられていて試料が載せられる試料載置用凸部と、
前記試料収納用凹部の中であって前記試料載置用凸部のまわりに設けられた試料逃げ部と、
前記試料収納用凹部を測定の間覆うことによって該試料収納用凹部内の前記試料を測定の間押えると共にX線を通過可能な試料押え部材と、を有し、
前記試料載置用凸部の前記試料を載置する表面は外方へ突出する楕円体表面である
ことを特徴とするX線装置。
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