JP3724325B2 - 光反応性ポリエステル及びその製造方法、光記録組成物、及び光記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な光反応性ポリエステル及びその製造方法、大量のデータ情報を光記録可能な光記録組成物及びこれを含む光記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
相変化型や光磁気型等の書換え可能な光ディスク記憶装置は、既に広く普及している。これらの光ディスク装置は、一般の磁気ディスク装置に比較して記録密度を一桁以上上げることにより大容量記憶を実現しているが、オペレーティングシステム(OS)、アプリケーションソフトの高機能化に伴う容量の増大や各種ドキュメント、プレゼンテーション用データのマルティメディア化による容量の巨大化、高精細・高密度・長時間の動画ビデオ信号のデジタル記録等将来の大容量記録の要求に対して充分な性能があるとは言えない。
【0003】
このような高密度・大容量の光ディスク記憶装置においては、記録密度を高めるために、ビームスポット径を小さくして隣接トラックあるいは隣接ビットとの距離を短くするなどの工夫を用いている。このような技術の開発によって既に実用化している例としてDVD−ROMがある。DVD−ROMは、12cmのディスクに片面で4.7GByteのデータを収容する。書き込み・消去が可能なDVD−RAMは、相変化方式により直径12cmのディスクに両面で5.2GByteの高密度記録が可能である。これは、読み出し専用であるCD−ROMの4倍以上、フロッピーディスクなら1900枚以上に相当する容量の情報の書き込みと読み出しができる。
【0004】
このように、光ディスクの高密度化は年々進んでいる。しかしながら、その一方で、上述の光ディスクは面内にデータを記録するため、光の回折限界に制限され高密度記録の物理的限界(5GBite/in2)が近づいている。
したがって、更なる大容量化を実現するためには奥行き方向も含めた3次元(体積型)記録が必要となる。
【0005】
上述したような体積型光記録媒体としては、複数の波長に独立に感応する積層体を用いた波長多重記憶媒体や、ホログラム格子の体積記録が可能な光屈折率変化材料媒体(フォトリフラクティブ材料媒体)などが有望視されている。フォトリフラクティブ材料の中には、感度が高く固体レーザーレベルの比較的弱い光を吸収して屈折率変化が生じるものが知られており、超高密度・超大容量化が可能な体積多重ホログラム記録に用いることが期待されている。
【0006】
このフォトリフラクティブ材料としては、従来、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム、BSOなどの無機強誘電体結晶が多く用いられてきた。これらの材料は、高感度・高効率の光誘起屈折率変化効果(フォトリフラクティブ効果)を示すものの、結晶育成が困難なものが多い・硬くもろい材料が多いため任意の形状に加工することができない、あるいは感応波長の調節が困難である、等の欠点があった。
【0007】
近年、これらの欠点を克服するものとして有機物よりなるフォトリフラクティブ材料(以下、「PR材料」ということがある。)が提案されている。以下に示す化合物A〜Dは、代表的なフォトリフラクティブ材料を構成する成分である。
一般に、有機フォトリフラクティブ材料は、i)光を受容して電荷を発生する電荷発生材料、ii)発生した電荷の媒体内での移動を促す電荷移動材料、iii)電荷移動により誘起された電場に感応する二色性有機色素、iv)これらの材料を坦持する高分子基材(バインダー)、v)基材の物性を変化させる添加剤(可塑剤、相容化剤など)を含んでなる。このうちの1成分が電荷移動材料兼高分子基材、電荷移動材料兼可塑剤など複数の役割を担うものもある。
【0008】
【化6】
【0009】
上記化合物において、化合物A(2,4,7−トリニトロフルオレノン(TNF))は電荷発生材料として、化合物B(ポリビニルカルバゾール(PVK))は電荷移動材料兼高分子基材(バインダー)として、化合物C(N−エチルカルバゾール(ECz))は電荷移動材料兼可塑剤として、化合物D(2,5−ジメチル−4−(4'−ニトロフェニル)アゾアニソール(DMNPAA))は2色性有機色素として、それぞれ機能する。
【0010】
図1に、光照射により誘起される屈折率変化をのメカニズムを示す。
フォトリフラクティブ効果の原理は、PR材料にコヒーレントな2光波を照射し干渉縞I(x)を形成する。光強度の強い場所ではドナー準位の電子が伝導帯へ励起され、拡散あるいはドリフトにより移動し光強度の弱い場所に捕獲される。光強度の強い場所ではプラス電荷が残り、弱い場所ではマイナス電荷が溜まる。これにより電荷分布ρ(x)が形成され、静電場E(x)を生じる。この静電場による電気光学効果の結果として、屈折率変化Δn(x)が生じる。この屈折率変化の周期は干渉縞の周期と同じであり、この屈折率格子はホログラム回折格子として作用する。このような作用により、光を吸収した電荷発生材より正負の電荷が発生し、これが存在する外場の作用によって電荷移動剤により正負に分離して内部電場が生成する。この内部電場により二色性色素の配向変化がおこり基材中の屈折率の分布に変化が生じる。
【0011】
既に、この方法を用いることにより、アリゾナ州立大のMeerholzらは回折効率を示す材料の開発に成功している(Nature,371,497(1994))。このような材料を応用することにより、原理的には高い記憶密度の体積ホログラム記憶が可能であると考えられた。
【0012】
一方、この材料においては、本質的に外部電場による色素の配向や光照射によるその変化を記録のメカニズムとして利用しているために、使用時に外部電場の印可が不可欠であるという問題がある。この電場は先のMeerholzらの研究では数百V・mm-1と極めて大きなものであり、実際にこの系を記憶装置として利用する際の大きな装置的制約となる。さらに、この材料系においては、電荷発生材、電荷移動剤、高分子基質等、異なる数種の材料が混合して用いられており、記録時又は保管時の相分離による安定性の低下が大きな問題となる。
【0013】
上述の問題点を回避するために、例えば、S.Hvilstedらは液晶形成性を有する高分子材料を用いて、ここに屈折率格子を書き込むことにより記録を達成することを提案している(Opt.Lett.,17[17],12(1992))。以下に、彼らが用いている材料系(化合物E)を示す。この材料においては、例えば、1mmの間に330本の屈折率の高低の格子が書き込めることが明らかにされており、高い記憶密度が達成されると期待される。
【0014】
【化7】
【0015】
また、屈折率二色性を誘起してホログラム記録を行うことのできる材料としては、下記一般式(α)で表される高分子化合物(M.Sato,Macromol.Rapid Commun.,15[17],21(1994))が知られている。
【0016】
【化8】
【0017】
この高分子においては、液晶−非液晶の相転移現象を極めて狭い領域に限定して起こすことが知られている。例えば、可干渉な2つのレーザー光をこの材料に照射して材料中に干渉パターンを形成させた場合には、2つのレーザー光が互いに強め合う領域のみで上記の液晶−非液晶転移に伴う屈折率変調構造が形成される。この変調構造は、二つの屈折率極大部分の距離、即ち、変調構造の周期は、照射レーザー光の波長領域に比すべきものであり、この変調構造が極めて微細なものであることが分かる。
【0018】
さらに、この変調構造はレーザー光照射を停止した後も維持される。これは、このようにして形成した液晶構造および非晶構造間の変化速度が室温では十分遅く、新たに全体的に、ないしは熱モードによるレーザー光照射により局所的に加熱しない限り、この変調構造が消失しないためである。
本発明者等も、媒体としてこの化合物からなる材料を用いることにより、極めて高密度のホログラム記録が可能であることを確認している。
【0019】
このような偏光方向に依存した記録が可能となる材料を与える分子構造上の必要かつ十分な条件については現在までにすべてが明らかになっているわけではないが、少なくとも以下のような要件を満たすことが要求される。
即ち、▲1▼用いている材料が全体として、適当な温度範囲で液晶性を有すること、▲2▼主鎖方向に芳香族性の原子団が一軸的に配列した分子構造を有し、該分子構造の配向変化により大きな屈折率二色性が誘起されること、▲3▼主鎖が柔軟な分子鎖を含み、光異性化する原子団の分子構造の変化により主鎖分子の配列が変化を起こすこと、である。
【0020】
このような材料としては、前記一般式(α)で表される化合物に代表される、光感応性の原子団として直線性のよいアゾベンゼン構造を有し、更にこのアゾベンゼン骨格にシアノ基が結合された原子団が液晶形成の際にメソゲンとして機能する、芳香族−脂肪族ポリエステルがある。
【0021】
光記録媒体の性能を表す主要の尺度としては、記録容量、読み書きするデータ転送速度、及び記録安定性(記録保持性)が挙げられる。一般的な媒体、即ちデータの読み出しがデータ記録に対して高速である場合においては、前記記録容量及びデータ転送速度は、光記録材料の性能を示す指標として、それぞれ記録密度及び記録速度に対応づけられる。
つまり、光記録媒体の性能の向上には、記録密度が高く、大容量の記録容量を備えることが不可欠な要素と考えられる。
【0022】
前記記録密度に関しては、使用する光源波長が短波長になるほど有利であるため、従来より知られている材料と比較してより光吸収が少なく、短波長側の使用可能波長領域の広い材料を用いることで大きく向上させうると考えられる。
また、光源波長の短波長化により、照射エネルギーは大きくなることから、(1)同一の光密度の光照射下における記録速度の増大、(2)光記録可能な照射光量の最低しきい値の引き上げによる、ノイズレベル(S/N比)の低減や記録保持安定性の向上などが期待できる。
【0023】
しかしながら、現在のところ、上述のような高分子系のホログラム材料における記録速度に関する系統的な知見はほとんどないといってよい。但し、高分子系材料を用いた記録のメカニズムは高分子の運動に関係していると考えられること、並びに上述のような高分子系材料は液晶状態をとることから、その光記録速度は、高分子よりなる液晶部の相転移点、高分子化合物自体の相転移点(液晶、非結晶の転移点、ガラス転移点、融点等)と密接に関係があるものと考えられる。
また、ホログラム記録において、多重記録が行えるものが特に望まれる。
【0024】
したがって、光記録可能な波長領域、特に短波長域の範囲が広く、大容量のデータ記録が可能な高密度メモリーが可能で、光記録後の記録安定性に優れ、しかもホログラム記録、特に偏光ホログラム記録に適した光記録組成物や光記録媒体は、未だ提供されていないのが現状である。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、
第一に、光の吸収が少なく、光記録に有用な新規の光反応性ポリエステル、及びその製造方法を提供することを目的とする。第二に、光又は熱に伴う光吸収変化又は屈折率変化を利用し、高密度な光記録が可能な光記録組成物を提供することを目的とする。第三に、広範な波長領域での光記録が可能で、大量のデータを高速に記録し得る高密度メモリー性を備えた光記録媒体を提供することを目的とする。第四に、光吸収に起因する損失が少なく、ノイズレベル(S/N比)が低く、光記録後の記録保持性に優れる光記録媒体を提供することを目的とする。第五に、ホログラム記録に適し、構造の光異性化による変調性、多重記録性に優れる光記録媒体を提供することを目的とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、大量データを高速に記録・再生することができる材料に関し鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
即ち、液晶−非液晶構造の相転移現象を利用した高分子系の記録材料においては、(1) 単純には、分子の運動性を高める、即ち熱的な相転移温度を低くするような分子設計が記録速度の向上に有効であるように考えられる。ところが、高分子材料の相転移温度を単に低くするのみでは、記録状態、即ち記録後の記録保持性の不安定化に繋がり、光記録媒体としての記録安定性を著しく低下させる可能性がある、(2) 光記録組成物(媒体)自体による光吸収が多いと、高速記録ができず、しかも記録状態の不安定化、ノイズレベル(S/N比)の悪化をも伴う、という知見である。
【0027】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。即ち、
<1> 下記一般式(1)で表されることを特徴とする光反応性ポリエステルである。
【0028】
【化9】
【0029】
〔一般式(1)中、Wは、エーテル結合、チオエーテル結合、置換イミノ結合、ケトン結合、スルホン結合、スルホキシド結合を表す。lは2〜18の整数を表し、nは5〜500の整数を表す。〕
【0030】
<2> 下記一般式(2)で表される光反応性ジカルボン酸モノマーと、下記一般式(3)で表されるジオール化合物とを触媒存在下で反応させて、下記一般式(1)で表される化合物を得ることを特徴とする光反応性ポリエステルの製造方法である。
【0031】
【化10】
【0032】
〔一般式(1)中、Wは、エーテル結合、チオエーテル結合、置換イミノ結合、ケトン結合、スルホン結合、スルホキシド結合を表す。lは2〜18の整数を表し、nは5〜500の整数を表す。〕
【0033】
【化11】
【0034】
〔一般式(2)中、Xは、ヒドロキシ基、低級アルキルオキシ基、置換若しくは無置換のベンジルオキシ基、置換若しくは無置換のフェニルオキシ基、低級脂肪酸の酸残基、置換若しくは無置換の安息香酸の酸残基、ハロゲン原子を表す。〕
【0035】
【化12】
【0036】
〔一般式(3)中、Wは、エーテル結合、チオエーテル結合、置換イミノ結合、ケトン結合、スルホン結合、スルホキシド結合を表す。lは2〜18の整数を表す。〕
【0037】
<3> 光照射若しくは熱印加に伴う光吸収変化又は屈折率変化を利用した光記録が可能な光記録組成物であって、下記一般式(1)で表される光反応性ポリエステルを含むことを特徴とする光記録組成物である。
【0038】
【化13】
【0039】
〔一般式(1)中、Wは、エーテル結合、チオエーテル結合、置換イミノ結合、ケトン結合、スルホン結合、スルホキシド結合を表す。lは2〜18の整数を表し、nは5〜500の整数を表す。〕
【0040】
<4> 前記<3>に記載の光記録組成物を有してなることを特徴とする光記録媒体である。
<5> ホログラム記録に用いられる前記<4>に記載の光記録媒体である。
【0041】
<6> ホログラム記録が、入射物体光及び参照光の偏光方向が水平偏光及び垂直偏光のいずれの場合も各々独立に記録可能である前記<5>に記載の光記録媒体である。
<7> 2次元的形状若しくは3次元的形状に成形された前記<4>〜<6>のいずれかに記載の光記録媒体である。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
<光反応性ポリエステル>
本発明の光反応性ポリエステルは、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0043】
【化14】
【0044】
一般式(1)中、Wは、エーテル結合、チオエーテル結合、置換イミノ結合、ケトン結合、スルホン結合、スルホキシド結合を表し、中でも、エーテル結合、ケトン結合が好ましい。
前記lは2〜18の整数を表し、中でも、4〜12の整数が好ましい。また、前記nは5〜500の整数を表し、中でも、10〜100の整数が好ましく、一般式(1)で表される光反応性ポリエステルの分子量は、該nの範囲で適宜選択することができる。
【0045】
前記一般式(1)で表される化合物は、高分子主鎖の側鎖に、分子構造の光異性化が可能で、非晶から液晶形成時にメソゲンとして機能しうる原子団として、メチル置換アゾベンゼン構造を持ち、特に短波長域での光吸収が低減され、広い記録可能波長域を有する。
更に、メチル置換アゾベンゼン構造(メソゲン)と高分子主鎖とを繋ぐ連結基に、液晶テール(尾)なる部分としてオキシテトラメチレン構造を有することにより、相転移点を高く維持しながら、熱的に安定な光記録が行え、しかも液晶部の構造変調が高効率に主鎖部に伝わるため、相変化(転移)速度(屈折率変調速度)、即ち、光記録速度の高速化が可能である。該光記録速度の向上により、ホログラム記録に使用でき、ホログラム記録用媒体を構成する組成物として特に優れた特性を示す。
【0046】
一方、前記一般式(1)で表される化合物の主鎖構造は、柔軟な脂肪族炭素鎖を含むため、側鎖の会合による液晶形成を妨げず、高分子全体で液晶性を示す。更に、側鎖部の液晶形成に伴い、主鎖部自身の部分的な配向変化が誘起されること、及び主鎖構造に屈折率を高めるp−フェニレン構造が多く含まれているため、液晶の配向方向とこれに垂直に交わる方向について大きな屈折率二色性が誘起される。
【0047】
また、式中のアゾ基は、光吸収によりシス−トランスの光異性化を起こす。シス化したアゾベンゼンは屈曲構造を有するため、もはやメソゲンとしては機能し得ない。このため、光照射により液晶性が失われる光感応性高分子化合物として機能する。この際、液晶性に起因する諸性質、例えば、液晶部の主軸方向と、これに垂直な方向の屈折率の二色性も消失する。
以上の諸性質より、光記録用の媒体に適する。
【0048】
前記メソゲンとしては、一般にシアノアゾベンゼンやメトキシアゾベンゼン等が公知であるが、前記一般式(1)で表される化合物において、メソゲンとしてメチル置換アゾベンゼン構造を含むことにより、公知のメソゲンを含む化合物に比して極大吸収波長、吸収端ともに30〜50nm短波長になるため、より広い記録可能波長領域が得られる。しかも、短波長側に記録可能な領域が得られるので、より高エネルギーの光が利用でき、高速での高密度記録が実現され、ノイズレベルを低減でき、更に記録保持性をも高めることができる。
【0049】
また、前記一般式(1)で表される光反応性ポリエステルは、ガラス転移温度(Tg)が既知の近似する構造を持つポリエステル、例えば既述の一般式(α)で表される化合物等に比して10℃程度高い、という性質を有する。
即ち、メソゲンなるメチル置換アゾベンゼン構造と結合するアルキル鎖長が短く、側鎖体積が小さいためである。したがって、相転移温度を高く維持でき、その結果、熱的に光記録が安定で記録保持性に優れる。
【0050】
光記録の熱的安定性と記録速度の両者を向上させることは相反する課題であるが、前記一般式(1)で表される化合物においては、メソゲンと繋がるアルキル鎖長が短いため、側鎖部の液晶形成に伴う主鎖部自身の部分的な配向変化が高効率に誘起されるので、前記両性質を共に向上させることができる。
【0051】
−光反応性ポリエステルの製造方法−
本発明の光反応性ポリエステルの製造方法においては、下記一般式(2)で表される光反応性ジカルボン酸モノマーと、下記一般式(3)で表されるジオール化合物とを触媒存在下で反応させて、前記一般式(1)で表される化合物を合成する。
【0052】
【化15】
【0053】
一般式(2)中、Xは、ヒドロキシ基、低級アルキルオキシ基、置換若しくは無置換のベンジルオキシ基、置換若しくは無置換のフェニルオキシ基、低級脂肪酸の酸残基、置換若しくは無置換の安息香酸の酸残基、ハロゲン原子を表す。
【0054】
前記低級アルキルオキシ基としては、炭素数1〜2のアルキルオキシ基が好ましく、例えば、メチルオキシ基、エチルオキシ基等が挙げられる。
前記ベンジルオキシ基、フェニルオキシ基、安息香酸の酸残基が置換基を有する場合の置換基としては、例えば、ベンジルオキシ基、フェニルオキシ基、トルイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メチルベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0055】
前記低級脂肪酸の酸残基としては、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチロイルオキシ基等が挙げられる。
前記ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0056】
【化16】
【0057】
一般式(3)中、Wは、エーテル結合、チオエーテル結合、置換イミノ結合、ケトン結合、スルホン結合、スルホキシド結合を表す。lは2〜18の整数を表し、4〜12の整数が好ましい。
【0058】
以下、前記一般式(1)で表される光反応性ポリエステルの製造方法の一例を示す。
【0059】
【化17】
【0060】
即ち、p−アニシジン(化学式12)を亜硝酸塩および酸の作用によりジアゾ化し(化学式13)、これをフェノール(化学式14)とカップリングさせて、化学式15で表される4'−ヒドロキシ−4''−メチルアゾベンゼンを合成する。更に、これと1,6−ジブロモブタン(化学式16)とをウイリアムソンのエーテル合成反応条件で反応させて、化学式17で表される4'−(6−ブロモブチル)オキシ−4''−メチルアゾベンゼンを合成する。
これに更に3−ヒドロキシイソフタル酸のジエチルエステル(化学式18)をやはりウイリアムソンのエーテル合成反応条件で反応させて、化学式19で表される、アゾベンゼンの結合したイソフタル酸の誘導体を合成する。ここで、前記ウイリアムソンのエーテル合成反応条件としては、プロトン性の極性溶媒(メタノール、エタノールなど)中の反応条件、非プロトン性の極性溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなど)中の反応条件、相間移動反応を用いた反応条件などを選択することができる。
【0061】
このようにして合成された、アゾベンゼンの結合したイソフタル酸の誘導体は、通常の芳香族ジカルボン酸のジエステルと同様、適当な条件で種々の脂肪族ジオール、芳香環を含むジオール、又はビスフェノールと縮合させることにより、アゾベンゼンの結合したポリエステルに導くことができる。
例えば、下記化学式20で表されるビスフェノール化合物より誘導されるジオール類と、エステル交換による高温重縮合法により反応させ、前記一般式(1)で表されるポリエステルに導くことができる。
【0062】
【化18】
【0063】
化学式20中、Wは、エーテル結合、チオエーテル結合、置換イミノ結合、ケトン結合、スルホン結合、スルホキシド結合を表す。lは、2〜18の整数を表し、4〜12の整数が好ましい。
【0064】
ここで、反応条件としては、文献に記載の標準的な反応条件を選択することができる(日本化学会編「高分子合成」(実験化学講座28,丸善(1992))p.220、大津・木下「高分子合成の実験法」(化学同人(1972))p.320など)。この際、反応触媒として酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酸化アンチモンなどエステル交換による高温重縮合法において有効とされる既知の反応触媒を用いると、より良好な結果が得られる。
【0065】
以上のように、前記一般式(1)で表される光反応性ポリエステルは、記録可能な光源波長領域が広く、既存の液晶高分子化合物と同等の大容量の光メモリー性を有する。また、該光反応性ポリエステル自体の光吸収性が低いので、高速での光記録が可能であり、相転移温度も高いので、安定に記録が行え、しかもその記録保持性にも優れる。したがって、光記録組成物及び光記録媒体を構成する材料として有用である。
【0066】
<光記録組成物>
本発明の光記録組成物は、光照射若しくは熱印加に伴う光吸収変化又は屈折率変化を利用した光記録が可能な材料であり、少なくとも前記一般式(1)で表される光反応性ポリエステルを含んでなり、必要に応じて、可塑剤やアロイ化のための高分子材料等の他の成分を含んでいてもよい。
【0067】
該光記録組成物は、前記一般式(1)で表される化合物を主成分として含んでなるので、それ自体を任意の形態に加工でき、例えば、シート状、テープ状、フィルム状、ディスク状等の2次元的形状、又は3次元立体的形状の外形に適宜成形した形態で使用できる。
適当な溶剤に溶解して液状物としての使用や、他の構成物に付随(付着)させた使用も可能であり、適宜使用時の形状、形態を選択できる。溶剤としては、後述と同様のハロゲン系溶剤、エーテル系溶剤等が挙げられる。
【0068】
<光記録媒体>
本発明の光記録媒体は、既述の一般式(1)で表される光反応性ポリエステルを含む光記録組成物を有してなり、光照射若しくは熱印加に伴う光吸収変化又は屈折率変化を利用した光記録が可能な光記録媒体である。
【0069】
前記光記録媒体の態様としては、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができ、シート状、テープ状、フィルム状、ディスク状等の2次元的形状、又は3次元立体的形状の外形のいずれの形態に成形されたものであってもよく、光記録媒体全体が光記録組成物からなる態様(態様a)であってもよいし、基板上等に光記録組成物が設けられてなる態様(態様b)であってもよい。
【0070】
前記態様bの場合、例えば、基板上に光記録組成物を含む感光層を少なくとも有してなる態様の光記録媒体であってもよい。該感光層には、相溶化剤、可塑剤、増感色素等の他の成分が含まれていてもよい。
前記感光層の層厚としては、効率のよい光記録を可能とする観点から、10μm〜5mm程度が好ましく、50〜300μm程度がより好ましい。
また、光透過性、平面性、屈折率等の光物性値、及び強度、寸法安定性等の材料物性値が、後述のように、ホログラム記録に適した物性値となるように設けられることが好ましい。
【0071】
前記基板としては、使用波長領域において透明で、即ち光吸収せず、堅牢で、通常の温度・湿度域で著しい変質や寸法変化をきたさないものであれば広く使用できる。例えば、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、カリガラス、アクリル板、ポリエステル(PET)シート等が挙げられる。
【0072】
本発明の光記録媒体は、シート状、テープ状、フィルム状、ディスク状等の2次元的形状又は3次元立体的形状の形態に成形されていることが好適であるが、具体的な成形方法としては、前記態様aの場合、前記光記録組成物の固体物をホットプレス法等により加熱圧縮して成形する方法等が、前記態様bの場合は、光記録組成物を脂肪族若しくは芳香族のハロゲン系溶剤や、エーテル系溶剤に溶解して調製された溶液を、基板上にフィルム状の薄層に塗布形成して成形する方法、前記光記録組成物の粉末、ペレット若しくはフレーク状の固体をホットプレス法等により加熱圧縮して成形する方法等が挙げられる。また、態様bの後者の方法で基板上に成形した後、基板より剥離した状態(Free-Standingな状態)で使用することもできる。
【0073】
前記ハロゲン系溶剤、エーテル系溶剤としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、o−ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、アニソール、アセトフェノン等が挙げられる。
【0074】
本発明の光記録媒体の具体的態様の例を以下に示す。本発明においては、これらに限定されるものではない。
(1)ディスク状の形状を有するものであって、これを回転させて書き込み読み取りヘッドを動径上に走査して記録・再生を行うことが可能な光記録媒体。
(2)シート状の形状を有するものであって、この上に書き込み読み取りヘッドを2次元的に走査して記録・再生を行うことが可能な光記録媒体。
(3)テープ状の形状を有するものであって、これを巻き取りながらその一定部位を書き込み読み取りヘッドで走査して記録・再生を行うことが可能な光記録媒体。
【0075】
(4)3次元のバルク形状を有するものであって、これを固定若しくは移動可能な架台(ステージ)状に固定し、その表面若しくは内部を、可動若しくは固定された書き込み読み取りヘッドで走査して記録・再生を行うことが可能な光記録媒体。
(5)フィルム状のものを適当に積層してディスク状、シート状、カード状等の2次元的形状、ドラム状、あるいはその他の3次元的形状を有するものであって、これに前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により、又はこれらを組合せた方法により、書き込み読み取りヘッドで走査して記録・再生を行うことが可能な光記録媒体。
【0076】
本発明の光記録媒体は、前記一般式(1)で表される光反応性ポリエステルを含んで構成されるので、任意の形態に成形でき、また短波長光が利用できるので、高速に高密度の記録が行え、しかも記録の不安定性が解消されるので、記録保持性にも優れる。また、高速記録が可能なため、ホログラム記録にも適する。
【0077】
−光記録−
本発明の光記録媒体への光記録としては、ホログラム記録、光吸収率変調記録、光反射率変調記録等が挙げられる。中でも、本発明の光記録媒体に好適な光記録は、ホログラム記録である。
【0078】
前記ホログラム記録としては、記録面に対する法線と入射物体光とのなす角度を変えることにより、単一の場所に複数のホログラムを記録することのできるホログラム記録、記録面に対する入射光の位置を変化させることにより重複した領域に複数のホログラムを記録可能なホログラム記録があり、本発明においては、後者のホログラム記録が好適である。
更に、本発明の光記録媒体を用いると、入射物体光及び参照光の偏光方向が水平偏光の場合と垂直偏光の場合で独立にホログラム記録が可能である。
【0079】
以下、ホログラム記録の原理を説明する。図2に、SCIENCE、Vol.265、p.749(1994)に記載のデジタルホログラムメモリの光学系を示す。
この例では、記録媒体にLiNbO3を用いている。光源6から出た光はビームスプリッタ12によって二つの光波に分けられる。ビームスプリッタ12を透過した光は、レンズ10によって口径の広い平行光となり空間光変調器4に入射する。空間光変調器4はコンピュータ11によって制御され、二次元強度分布を持つ信号光1を生成する。この信号光1はレンズ7によってフーリエ変換されて、LiNbO3よりなる記録媒体15に集光される。一方、ビームスプリッタ12によって反射された光はミラー13及び14によって反射され、記録媒体15(LiNbO3)に入射する。これが参照光(読み出し光)2となる。
【0080】
このように、信号光1と参照光2を同時に記録媒体15(LiNbO3)に入射させることによってホログラム記録を行うことができる。ホログラムの読み出しには、参照光2のみを記録媒体15(LiNbO3)に入射させると、参照光2はあたかも信号光1が記録媒体15を通過したかのように信号光1の光路上に回折され、これをレンズ8でカメラ9上に結像させる。
【0081】
データ入力には空間光変調器を用い、ビットデータの表示には微分コード法を用いている。これは、図3に示すように、2画素をペアとして使用し、例えば、0を「暗明」で、1を「明暗」で表す。このような微分コード法を用いれば、明暗の数は常に同じなので空間光変調器を通過する物体光の光量も一定となる。このため、各ページ毎に参照光の強度を調整する必要がない。また、ホログラムの再生では光量ムラが発生しやすく、白黒レベルの区切りを一様につけるのは難しいが、微分コード法ならエッジを読むだけでよくノイズにも強い。
【0082】
しかし、この方法においては、最低2画素を用いて1ビットのデータを表示するため、画素の利用効率が0.5と低い。このため、1ページに記録できるデータ密度が低下するという問題がある。さらに、微分コード法を用いる場合、ホログラム再生像をCCDなどの二次元受光素子で取り込み、シリアルな電気信号に変換した後、電気的にエッジを読み取ってビットデータに変換するため、処理に時間がかかり転送速度が低下するという問題もある。つまり、ホログラムから並列に複数のビット情報を読み取れても、電気的なデータ処理をシリアルに行うことにより、結果的に速い転送速度が達成できない。
【0083】
そこで、S偏光、P偏光で独立に記録を行いうる光記録媒体を利用することにより、光記録媒体に照射する信号光の偏光方向を制御して一枚の光記録媒体に記録を行う。これを、「偏光ホログラム記録法」と称する。
この方法によれば、前述した微分コード法を用いることなく、高いS/N比でデジタルホログラム記録が可能であり、実質的な記録密度を従来の方法に比べて2倍に向上させることができる。
【0084】
既述してきた通り、光記録媒体により大容量のデータ記録が可能となったとしても、そのデータの読み書きに非現実的な時間がかかってしまっては光記録媒体の実用性は得られない。この点でも、本発明の光記録媒体は適しており、大量データを高速に扱えるので有用である。
このデータ読み取り速度という点に関しては、偏光ホログラム記録に限らず、広くホログラムを用いた記録法は原理的に優れている。即ち、通常の記録方法が、データを一次元的な点列として扱うため、その読み取りが逐次的(シリアル)になるのに対し、ホログラム記録は、データを二次元のマトリクスとして1度に並列的(パラレル)に取り扱うことができるのである。また、データの読み取りが非接触で、かつ物質による光の屈折現象という遅延時間のない過程であることも高速のデータの読み取りに有利となる。
【0085】
一方、データの書き込みに対しては、前記ホログラム記録が、データ処理をパラレルに行うという利点があるものの、記録のメカニズムは媒体中への屈折率格子の書き込みという媒体の物理的変化に基づくものである以上、用いる物質の材料定数にその速度が依存するものとなる。
高分子材料よりなる光記録媒体への屈折率格子の書き込みのメカニズムの詳細については、その全てが現在までに明らかになっているわけではないが、高分子材料のガラス状態−結晶状態−液晶状態といった相構造の変化が重要な役割を果たしていることから、高分子の熱的性質が重要な役割を果たしていることは間違いない。
【0086】
以上のように、本発明の一般式(1)で表される光反応性ポリエステルは、記録に関わる、相構造が熱的に安定である一方、記録特性に優れるので、安定した高密度記録を実現でき、その記録安定性・保持性をも向上させることができる。
【0087】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
<5−ヒドロキシイソフタル酸ジエチルの合成>
2L(リットル)の三つ口フラスコに、5−ヒドロキシイソフタル酸182g(1mol)、エタノール1500ml、濃硫酸10mlを取り、24時間加熱還流して反応させた。反応終了後、系をロータリーエバポレーターで約1/2になるまで濃縮した。得られた無色の粘稠な溶液を約20%の冷炭酸水素ナトリウム溶液に投入すると、最初液滴が溶液中に浮遊するようになったがすぐにこれが固化して白色塊状の粗製目的物が得られたので、これをろ別して減圧乾燥した。収量229g(96%)であった。
これをエタノールにより再結晶して、5−ヒドロキシイソフタル酸ジエチル190gを得た(収率80%)。
【0089】
上記より得た化合物について、赤外線吸収スペクトル(IR)、核磁気共鳴及び融点の測定を行った。以下に測定結果を示す。
【0090】
<4'−ヒドロキシ−4''−メチル−アゾベンゼンの合成>
3L(リットル)のビーカーに6規定塩酸750mlを入れ、ここに細かく砕いた4−トルイジン107g(1mol)を入れ、攪拌して十分懸濁させておき、ここに氷約300gを加えて系を冷却した。一方、亜硝酸ナトリウム80g(1.16mol)を水500mlに溶解させておく。懸濁液中に亜硝酸ナトリウム溶液400mlを20分程度かけて投入し、滴下終了後、この溶液を5℃前後で1時間攪拌した。この溶液にフェノール94g(1mol)を2規定水酸化カリウム溶液1Lに溶解させておいたものを徐々に加え、混合後1晩反応させた。
【0091】
反応終了後、生成した沈殿をろ別し、減圧下で乾燥させて粗製の4'−ヒドロキシ−4''−メチル−アゾベンゼン210g(95%)を得た。これは、特に精製することなく、次の反応に使用した。
尚、この化合物の最大吸収波長(λmax)は345nmであった。
【0092】
<4'−(6−ブロモヘキシル)オキシ−4''−メチルアゾベンゼンの合成>
メカニカルスターラーを備えた2L(リットル)の三つ口フラスコに、実施例のように合成した4'−ヒドロキシ−4''−メチルアゾベンゼン42.4g(0.2mol)、1,4−ジブロモブタン432g(2mol)、無水炭酸カリウム212g(1.5mol)を取り、アセトン800mlを加えて攪拌して懸濁させた。この反応系をアセトンが還流するまで加熱して、ヒドロキシアゾベンゼンとブロモアルカンとを反応させた。
【0093】
20時間反応させた後、不溶の塩類をろ別して取り除き、系をロータリーエバポレーターで約1/3になるまで濃縮した。この系を冷蔵庫で冷却すると、生成した4'−(4−ブロモブチル)オキシ−4''−メチルアゾベンゼンが晶出した。生成物をろ過した後、少量の冷アセトン、冷エーテル、n−ヘキサンで順次洗浄した後、減圧乾燥して粗製の4'−(4−ブロモブチル)オキシ−4''−メチルアゾベンゼン38.2gを得た(収率55%)。
これをエタノールから再結晶して、4'−(4−ブロモブチル)オキシ−4''−メチルアゾベンゼン31g(収率44%)を得た。
【0094】
得られた化合物の融点[℃]、高速液体クロマトグラフィーによる分析から、この化合物の純度は98.6%以上であった。
更に、上記より得た化合物について、赤外線吸収スペクトル(IR)、核磁気共鳴及び融点の測定を行った。以下に測定結果を示す。
【0095】
<5−[6−{4'−(4''−メチルフェニルアゾ)フェノキシ}ヘキシルオキシ]−イソフタル酸ジエチルの合成>
1L(リットル)の三つ口フラスコに、上記より得た5−ヒドロキシイソフタル酸ジエチル16.6g(0.07mol)、上記より得た4'−(4−ブロモブチル)オキシ−4''−メチルアゾベンゼン26.1g(0.07mol)、無水炭酸カリウム15.1g(0.11mol)を取り、ここにアセトン300mlを加えた。この系を24時間加熱還流して両者を反応させた。反応終了後系を冷水1500mlに投入し、生成した5−[6−{4'−(4''−メチルフェニルアゾ)フェノキシ}ヘキシルオキシ]−イソフタル酸ジエチルをろ別、減圧乾燥した。収量28.6g(81%)であった。
これをアセトンから2回再結晶して目的物である、5−[6−{4'−(4''−メチルフェニルアゾ)フェノキシ}ヘキシルオキシ]−イソフタル酸ジエチル26.1g(74%)を得た。
【0096】
得られた化合物の融点[℃]、高速液体クロマトグラフィーによる分析から、この化合物の純度は98.5%以上であった。
更に、上記より得た化合物について、赤外線吸収スペクトル(IR)、核磁気共鳴及び融点の測定を行った。以下に測定結果を示す。
【0097】
<4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルエーテルの合成>
300mlのナスフラスコに4,4'−ジヒドロキシ−ジフェニルエーテル20.2g(0.1mol)、6−ブロモ−1−ヘキサノール36g(0.22mol)、炭酸カリウム41.4g(0.3mol)を取り、N,N−ジメチルホルムアミド150mlを加えて攪拌して懸濁させた。次いで、系をオイルバスにて150℃に加熱し、24時間反応させた。
【0098】
反応終了後、系を少量の塩酸を含む水1L(リットル)に投入し、生成した白色粉状物質をろ別、乾燥して、粗製の4,4'−ビス−[10−ヒドロキシデシルオキシ]−ジフェニルエーテル30.6gを得た(収率71%)。これを、水−N,N−ジメチルホルムアミド系より再結晶して精製し、4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルエーテル24.5gを得た。
【0099】
上記より得た化合物について、赤外線吸収スペクトル(IR)の測定を行った。以下に測定結果を示す。
【0100】
<4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルケトンの合成>
300mlのナスフラスコに、4,4'−ジヒドロキシ−ジフェニル ケトン21.4g(0.1mol)、6−ブロモ−1−ヘキサノール36g(0.22mol)、炭酸カリウム41.4g(0.3mol)を取り、N,N−ジメチルホルムアミド150mlを加えて攪拌して懸濁させた。次いで、系をオイルバスにて150℃に加熱し、24時間反応させた。
【0101】
反応終了後、系を少量の塩酸を含む水1L(リットル)に投入し、生成した白色粉状物質をろ別、乾燥して、粗製の4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルケトン38.6gを得た(収率93%)。これを、水−N,N−ジメチルホルムアミド系より再結晶して精製し、4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルケトン32.2gを得た。
【0102】
上記より得た化合物について、赤外線吸収スペクトル(IR)の測定を行った。以下に測定結果を示す。
【0103】
<4,4'−ビス−[8−ヒドロキシオクチルオキシ]−ジフェニルエーテルの合成>
300mlのナスフラスコに、4,4'−ジヒドロキシ−ジフェニルエーテル20.2g(0.1mol)、8−ブロモ−1−オクタノール46g(0.22mol)、炭酸カリウム41.4g(0.3mol)を取り、N,N−ジメチルホルムアミド100mlを加えて攪拌して懸濁させた。次いで、系をオイルバスにて150℃に加熱し、24時間反応させた。
【0104】
反応終了後、系を少量の塩酸を含む水1L(リットル)に投入し、生成した白色粉状物質をろ別、乾燥して、粗製の4,4'−ビス−[8−ヒドロキシオクチルオキシ]−ジフェニルエーテル38gを得た(収率83%)。これを、水−N,N−ジメチルホルムアミド系より再結晶して精製し、4,4'−ビス−[8−ヒドロキシオクチルオキシ]−ジフェニルエーテル29gを得た。
【0105】
上記より得た化合物について、赤外線吸収スペクトル(IR)の測定を行った。以下に測定結果を示す。
【0106】
<4,4'−ビス−[8−ヒドロキシオクチルオキシ]−ジフェニルケトンの合成>
300mlのナスフラスコに、4,4'−ジヒドロキシ−ジフェニルケトン21.4g(0.1mol)、8−ブロモ−1−ヘキサノール46g(0.22mol)、炭酸カリウム41.4g(0.3mol)を取り、N,N−ジメチルホルムアミド100mlを加えて攪拌して懸濁させた。次いで、系をオイルバスにて150℃に加熱し、24時間反応させた。
【0107】
反応終了後、系を少量の塩酸を含む水1L(リットル)に投入し、生成した白色粉状物質をろ別、乾燥して、粗製の4,4'−ビス−[8−ヒドロキシオクチルオキシ]−ジフェニルケトン43gを得た(収率90.3%)。これを、水−N,N−ジメチルホルムアミド系より再結晶して精製し、4,4'−ビス−[8−ヒドロキシオクチルオキシ]−ジフェニルケトン34gを得た。
【0108】
上記より得た化合物について、赤外線吸収スペクトル(IR)の測定を行った。以下に測定結果を示す。
【0109】
<光反応性ポリエステル(1)の合成>
5−[6−{4'−(4''−メチル−フェニルアゾ)フェノキシ}ブチルオキシ]−イソフタル酸ジエチルと、4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルエーテルとから、以下に示す順で、本発明の、一般式(1)で表される光反応性ポリエステル(1)を合成した。
【0110】
5−[6−{4'−(4''−メチル−フェニルアゾ)フェノキシ}ブチルオキシ]−イソフタル酸ジエチル5.43g(0.1mol)と、4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルエーテル4.39g(0.1mol)と、無水酢酸亜鉛0.1gとを真空減圧装置及び攪拌装置を備えた100mlの三つ口フラスコに取り、窒素雰囲気下で攪拌、加熱しつつ、140℃で2時間、約1330Pa(10Torr)の減圧下で20分反応させた。
【0111】
次いで、30分かけて系を徐々に266Pa(2Torr)まで減圧させ、最後に減圧度を保ちつつ、反応系を180℃まで昇温し、4時間反応させた。反応終了後、系をクロロホルムに溶解し熱水に投入して、粗製のポリマーを取り出した。これを、クロロホルムに溶解し、メタノールに投入して目的のポリマー(光反応性ポリエステル(1))を再沈殿させて得た(収量6.03g(収率74%))。
【0112】
得られた光反応性ポリエステル(1)の固有粘度(ηsp/c)、元素分析、吸収極大波長(λmax)、吸収端(λcut-off)の測定を行った。以下に、測定結果を示す。
ηsp/c :0.31(1,2−ジクロロエタン中、30℃)
元素分析 :C:70.84,H:6.79,N:3.21
理論計算値 :C:72.22,H:6.68,N:3.44
λmax :350nm
λcut-off :420nm
【0113】
(実施例2)
実施例1の光反応性ポリエステル(1)の合成に用いたモノマーついて、4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルエーテルに代えて、4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルケトンを相当量用いたこと以外、実施例1と同様にして、本発明の、光反応性ポリエステル(2)を合成した(収量6.93g(収率83.3%))。
【0114】
得られた光反応性ポリエステル(2)の固有粘度(ηsp/c)、元素分析、吸収極大波長(λmax)、吸収端(λcut-off)の測定を行った。以下に、測定結果を示す。
ηsp/c :0.33(1,2−ジクロロエタン中、30℃)
元素分析 :C:71.58,H:6.40,N:3.14
理論計算値 :C:72.62,H:6.58,N:3.39
λmax :353nm
λcut-off :424nm
【0115】
(実施例3)
実施例1の光反応性ポリエステル(1)の合成に用いたモノマーついて、4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルエーテルに代えて、4,4'−ビス−[8−ヒドロキシオクチルオキシ]−ジフェニルエーテルを相当量用いたこと以外、実施例1と同様にして、本発明の、光反応性ポリエステル(3)を合成した(収量7.15g(収率82.1%))。
【0116】
得られた光反応性ポリエステル(3)の固有粘度(ηsp/c)、元素分析、吸収極大波長(λmax)、吸収端(λcut-off)の測定を行った。以下に、測定結果を示す。
ηsp/c :0.24(1,2−ジクロロエタン中、30℃)
元素分析 :C:71.76,H:7.00,N:3.09
理論計算値 :C:73.08,H:7.17,N:3.22
λmax :348nm
λcut-off :419nm
【0117】
(実施例4)
実施例1の光反応性ポリエステル(1)の合成に用いたモノマーついて、4,4'−ビス−[6−ヒドロキシヘキシルオキシ]−ジフェニルエーテルに代えて、4,4'−ビス−[8−ヒドロキシオクチルオキシ]−ジフェニルケトンを相当量用いたこと以外、実施例1と同様にして、本発明の、光反応性ポリエステル(2)を合成した(収量7.33g(収率82.6%))。
【0118】
得られた光反応性ポリエステル(1)の固有粘度(ηsp/c)、元素分析、吸収極大波長(λmax)、吸収端(λcut-off)の測定を行った。以下に、測定結果を示す。
ηsp/c :0.32(1,2−ジクロロエタン中、30℃)
元素分析 :C:72.55,H:6.94,N:3.02
理論計算値 :C:73.45,H:7.08,N:3.17
λmax :355nm
λcut-off :424nm
【0119】
(実施例5)
実施例1で合成した光反応性ポリエステル(1)を用い、以下の手順でホログラム記録を行った。
まず、実施例1で得た光反応性ポリエステル(1)を塩化メチレンに溶解して調製した塗布液をガラス基板上に塗布して、厚み100μmの感光層を有する本発明の光記録媒体(1)を作製した。
次に、図2と同様にして構成された光学系を準備し、その光記録媒体15として前記光記録媒体(1)を配置した。ここで、信号光1及び参照光2の干渉により生じるホログラムを記録した。このときの試料面は、信号光1と参照光2とのなす角度が45度をなすように配置した。
【0120】
その結果、波長532nm、515のnmのいずれの入射光を用いた場合にも、ホログラムを記録することができた。即ち、空間変調器4により発生した任意のパターン情報を持った信号光1及び参照光2を光記録媒体(1)に0.08秒照射して当該パターンを記録させた後、参照光2を照射して再生したところ、空間変調器4に示したパターンが再生された。
【0121】
更に、この光記録媒体(1)に対して、その同一領域に、光記録媒体(1)の表面の法線と入射光とのなす角度を変えて複数のホログラムを記録させたところ、この角度が相互に0.1度以上異なる場合に別々のホログラムを記録・再生すること、即ち、ホログラムの多重記録を行うことができた(角度多重ホログラムの記録・再生)。
【0122】
また、ホログラム記録時の、入射光の偏光方向の依存性を以下のように評価した。
ビームスプリッタ12を偏光ビームスプリッタに変え、s偏光又はp偏光のみを参照光2側に取り出す。この際、信号光1方向に取り出される光は、参照光2とは逆の偏光特性、即ち、p偏光又はs偏光となっている。これに対して、参照光2及び信号光1が互いにs偏光又はp偏光となるようにしてホログラムを記録させたところ、信号光1若しくは参照光2と光記録媒体(1)の表面となす角度が同一の場合でも、各々独立にホログラムの記録・再生が可能であった(偏光多重ホログラムの記録・再生)。
【0123】
以上より、後述の比較例1と同様の高密度記録が可能であった。上記のいずれの場合にも、光吸収による損失は少なく、ノイズレベルも低く抑えられ、記録安定性・保持性にも優れていた。更に、構造の光異性化による屈折率変調性、多重記録性にも優れており、ホログラム記録に適した特性を有していた。
【0124】
(実施例6)
実施例5で用いた光反応性ポリエステル(1)に代えて、光反応性ポリエステル(2)を用いたこと以外、実施例5と同様にして、光記録媒体(2)を作製し、該光記録材料を用いて角度多重ホログラム及び偏光多重ホログラムの記録・再生を行った。
その結果、実施例5と同様の結果が得られた。
【0125】
(実施例7)
実施例5で用いた光反応性ポリエステル(1)に代えて、光反応性ポリエステル(3)を用いたこと以外、実施例5と同様にして、光記録媒体(3)を作製し、該光記録材料を用いて角度多重ホログラム及び偏光多重ホログラムの記録・再生を行った。
その結果、実施例5と同様の結果が得られた。
【0126】
(実施例8)
実施例5で用いた光反応性ポリエステル(1)に代えて、光反応性ポリエステル(4)を用いたこと以外、実施例5と同様にして、光記録媒体(4)を作製し、該光記録材料を用いて角度多重ホログラム及び偏光多重ホログラムの記録・再生を行った。
その結果、実施例5と同様の結果が得られた。
【0127】
(比較例1)
実施例5で用いた光反応性ポリエステル(1)に代えて、既述の一般式(α)で表される化合物を用いたこと以外、実施例5と同様にして、光記録媒体(5)を作製し、該光記録材料を用いて角度多重ホログラム及び偏光多重ホログラムの記録・再生を行った。
【0128】
その結果、波長532nmの入射光を用いた場合には、実施例5から8と同様な多重ホログラムを記録することができた。一方、波長515nmの入射光を用いた場合、ホログラムの記録・再生は可能であったが、光吸収に起因する損失が多く、記録・再生の後、光記録媒体(5)の感光層表面が白化、脱色したり、逆に黒変色する等の損傷が目視により認められた。
また、その再生されたホログラムのS/N比も、前記光記録媒体(1)〜(4)と比較し大きく劣っていた。これは、前記一般式(α)で表される化合物の吸収が前記光反応性ポリエステル(1)〜(4)と比較して長波長側にあるので、光記録媒体(5)の感光層が光を吸収し、該吸収により発生した熱により記録が消去されたか、若しくは損傷を受けたためと考えられる。
【0129】
【発明の効果】
本発明によれば、光記録材料に有用な新規の光反応性ポリエステル及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、光又は熱に伴う吸収変化又は屈折率変化を利用し、高密度な光記録が可能な光記録組成物を提供することができる。
本発明によれば、広範な波長領域での光記録が可能で、大量のデータを高速に記録し得る高密度メモリー性を備える光記録媒体を提供することができる。しかも、本発明の光記録媒体は、光吸収に起因する損失が少なく、ノイズレベル(S/N比)が低く、光記録後の記録保持性に優れ、また、ホログラム記録に適し、構造の光異性化による屈折率変調性、多重記録性にも優れるという特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 フォトリフラクティブ効果、即ち光照射により誘起される屈折率変化のメカニズムを示す図である。
【図2】 デジタルホログラムメモリの光学系を示す図である。
【図3】 微分コード法による記録の概念を示す図である。
【符号の説明】
1 信号光
2 参照光
3 回折光
4 空間光変調器
5 光記録媒体
6 光源
7,8 フーリエ変換レンズ
9 二次元受光素子
10 コリメートレンズ
11 コンピュータ
12 ビームスプリッタ
13,14 ミラー
Claims (7)
- 下記一般式(2)で表される光反応性ジカルボン酸モノマーと、下記一般式(3)で表されるジオール化合物とを触媒存在下で反応させて、下記一般式(1)で表される化合物を得ることを特徴とする光反応性ポリエステルの製造方法。
- 請求項3に記載の光記録組成物を有してなることを特徴とする光記録媒体。
- ホログラム記録に用いられる請求項4に記載の光記録媒体。
- ホログラム記録が、入射物体光及び参照光の偏光方向が水平偏光及び垂直偏光のいずれの場合も各々独立に記録可能である請求項5に記載の光記録媒体。
- 2次元的形状若しくは3次元的形状に成形された請求項4から6のいずれかに記載の光記録媒体。
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