JP3723830B2 - 高気密性セラミックス系複合材料の製造方法 - Google Patents

高気密性セラミックス系複合材料の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温高圧下で高い気密性が要求される燃焼器などの熱機関構造用部品および熱機関構造用材料などとして好適に実施することができるセラミックス系複合材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、高温高圧下で使用される燃焼器などの熱機関構造用部品は、高温強度特性および耐熱性だけではなく、高い気密性または耐リーク特性が要求される。このような熱機関構造用部品は、基材としては、炭化珪素繊維などの無機繊維を強化材とし、セラミックスをマトリックスとしたセラミックス系複合材料(Ceramics Matrix Composite;略称CMC)の適用が検討されている。
【0003】
このCMCは、高温高強度特性および耐熱性に優れるが、製造時に用いられるキシレンなどの有機溶媒の気化に伴う発泡、およびマトリックスの低収率が主原因となって生じる空隙が多く残るため、気密性(以下、耐リーク特性という場合がある)が低い。特に、強化材として3次元織物(3D織物ともいう)を用いたCMCでは、強化繊維が織成された3次元構造を成し、この強化繊維自体が気泡を捕捉して系外へ出にくくしているため、より一層、気密性の低下は顕著となる。そのため、従来では、マトリックスの強化材への含浸を複数回、繰り返す緻密化処理を行うことによって、気泡の排出を促進し、焼成前の成形材料に残存する気泡を可及的に少なくして、焼成後に生成されたCMCの緻密化の向上を図る、という手法が採用されているが、要求される気密性を得ることはできていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の技術では、マトリックスを強化繊維へ含浸させる工程を複数回、繰り返し行うので、マトリックス内に残存する気泡が排出され、その結果、CMCの密度が高くなり、高温強度が向上されるが、前記マトリックス中の有機溶媒の気化に伴う発泡は、阻止することができないため、乾燥時の前記溶媒の気化したガスの放出によって、強化繊維含浸時に溶液化されているマトリックスが内部の孔などから漏出してしまい、表面の平滑性が悪い。しかも乾燥後には前記この発泡による気泡がマトリックス内に残存し、焼成後のCMCに対して要求される高い気密性を達成することができないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、溶媒の気化したガス放出によるマトリックスの漏出を防いで表面を平滑化し、高温強度および耐熱性を向上するとともに、気密性を向上することができるようにしたセラミックス系複合材料の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の本発明は、所定の方向または無秩序に配列された無機繊維から成る繊維強化体の繊維束に、常温減圧下または常温高圧下でマトリックス前駆体溶液を含浸させて、常圧下で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して初期緻密化処理する第1工程と、
第1工程によって初期緻密化された生成物に、フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、高収率緻密化処理する第2工程とを含むことを特徴とする高気密性セラミックス系複合材料の製造方法である。
【0007】
本発明に従えば、繊維強化体にマトリックス前駆体溶液を含浸させるにあたって、第1工程で繊維束にマトリックス前駆体溶液を含浸させ、常圧下で乾燥させて焼成した初期緻密処理後の生成物に、第2工程でマトリックス前駆体の含浸、乾燥、焼成を行うので、繊維強化体を構成する各繊維内および各繊維間に前記マトリックス前駆体溶液を効率よく含浸させて、繊維内に残存するガスを可及的に少なくすることができる。マトリックス前駆体溶液が含浸された繊維強化体は、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化したガスによってマトリックス前駆体が吹出さないようにして乾燥させる。
【0008】
このように繊維強化体の乾燥を行うことによって、表面の平滑化を図り、マトリックス前駆体溶液中の溶媒などの気化したガスを除去して、焼成したときに気泡が発生して、焼成後の生成物に残存することを防止することができる。したがって焼成時の気泡の発生に起因するセラミックスマトリックス内の空隙を可及的に少なくして、高収率で気密性の高いセラミックス系複合材料を得ることができる。
【0009】
請求項2記載の本発明は、前記第2工程は、第1工程によって初期緻密化処理された生成物に、前記フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を、常温減圧下で含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、高圧の不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、高収率緻密化処理することを特徴とする。
【0010】
本発明に従えば、第1工程を経て既に初期緻密化処理された生成物に、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、常温減圧下で含浸させて空隙内に充填するようにしたので、前記初期緻密化処理された生成物内に残存する空気および溶媒などの気化したガスが除去される。これによって焼成後のセラミックスマトリックス内に空隙が残存することが防がれ、収率の向上および気密性の向上が図られる。
【0011】
請求項3記載の本発明は、前記第2工程は、第1工程によって初期緻密化処理された生成物に、前記フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を、高温高圧下で含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、高圧の不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、高収率緻密化処理することを特徴とする。
【0012】
本発明に従えば、第1工程を経て既に初期緻密化処理された生成物に、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、高温高圧下で含浸させて充填するようにしたので、付着したマトリックス前駆体溶液中に残存している溶媒などの液体がガス化することが防がれるとともに、この溶液中に混在している空気および溶媒などのガス化した気泡が、いわば押しつぶされて消滅する。これによって焼成後のセラミックスマトリックス内に空隙が残存することが防がれ、収率の向上および気密性の向上が図られる。
【0013】
請求項4記載の本発明は、前記第2工程は、第1工程によって初期緻密化処理された生成物に、前記フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を、常温減圧下で含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、高圧の不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して第1の高収率緻密化処理を行い、この第1の高収率緻密化処理後の生成物に、前記フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を、高温高圧下で含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、高圧の不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、第2の高収率緻密化処理を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明に従えば、第1の高収率緻密化処理によって、第1工程を経て既に初期緻密化処理された生成物に、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、常温減圧下で含浸させて空隙内に充填し、付着したマトリックス前駆体中に混在している空気および溶媒などの気化したガスを除去して焼成した後、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、高温高圧下で含浸させるようにしたので、付着したマトリックス前駆体溶液中に残存している溶媒などの液体がガス化することが防がれるとともに、残存する空気および溶媒などのガス化した気泡が、いわば押しつぶされて消滅する。これによって焼成後のセラミックスマトリックス内に空隙が残存することが防がれ、収率および気密性が格段に向上される。
【0015】
請求項5記載の本発明は、第2工程によって処理された生成物に、常温減圧下でガラス前駆体溶液を含浸させて、高温の大気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、緻密平滑化処理することを特徴とする。
【0016】
本発明に従えば、第2工程で生成された生成物の少なくともセラミックスマトリックス中の空隙にガラスマトリックスを充填して前記空隙を塞ぐことができるので、前記第2工程の生成物がさらに緻密化され、気密性が向上される。また第2工程の表面に存在する空隙にも前記ガラスマトリックスが充填されるので、前記表面が平滑化される。このような表面の平滑化によって、この表面の空隙の存在によるいわゆるノッチ効果によって、表面の切欠きが進展することが防がれ、セラミックス系複合材料の機械的強度の低下が防がれる。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の一形態のセラミックス系複合材料の製造方法を説明するためのフローチャートであり、図2は図1の実施の形態の製造方法の各工程における生成物M1〜M5の一部を模式的に示す図であり、図2(1)は繊維強化体製造工程によって生成された第1生成物M1の一部を拡大して示す斜視図であり、図2(2)は図1の第1生成物M1を上方から見た平面図を示し、図2(3)は第1生成物M1を初期緻密化処理して得られた第2生成物M2の一部を示し、図2(4)は第2生成物M2を第1高収率緻密化処理して得られた第3生成物M3の一部を示し、図2(5)は第3生成物M3を第2高収率緻密化処理して得られた第4生成物M4の一部を示し、図2(6)は第4生成物M4をガラスシール処理して得られた第5生成物M5の一部を示す。
【0018】
本実施の形態のセラミックス系複合材料の製造方法では、基本的に、繊維強化体製造工程と、初期緻密化処理工程と、第1高収率緻密化処理工程と、第2高収率緻密化処理工程と、ガラスシール処理工程とを含み、たとえば航空機用エンジンの燃焼器などを製造するための基材として用いられるセラミックス系複合材料(Ceramics Matrix Composite;略称CMC)の製造方法の各工程について、以下に説明する。
【0019】
まず、繊維強化体製造工程では、ステップs1において、図2(1)および図2(2)に示す第1生成物M1が強化材プリフォーム(以下、強化材前駆体という場合がある)として生成される。この第1生成物M1は、説明の便宜上、直交3軸座標系を想定したとき、この座標系の直交3軸X,Y,Zに対応して配向性を有する3方向のX糸3x、Y糸3y、Z糸3zを、たとえば予め図2(2)の紙面に垂直な略鉛直方向に配列されたZ糸3zのコリドールに、X糸3xおよびY糸3yを交互に挿入するレピア方式の製織機によって織製して構成される。
【0020】
これらのX糸3x、Y糸3y、Z糸3zには、無機繊維が用いられる。この無機繊維としては、炭素繊維、炭化珪素繊維、および窒化珪素繊維のうちの1つが用いられる。本実施の形態では、前記炭化珪素繊維であるチラノ繊維が用いられる。このチラノ繊維は、Siが45〜48wt%、Cが25〜27wt%、Oが17〜18wt%、Tiが1.5〜4wt%、Bが0.05wt%、Nが0.1〜0.2wt%の組成を有し、カルボキシランとチタノシロキシランとから成る共重合体を前駆体として溶融紡糸し、不融化後に1000〜1500℃で焼成して得られた繊維である。本発明の実施の他の形態では、前記チラノ繊維に代えて、炭化珪素繊維であるニカロン繊維が用いられてもよい。上記のようにして第1生成物M1が強化材前駆体またはプリフォームとして準備されると、次の初期緻密化工程に移る。
【0021】
前記初期緻密化工程では、上記の図2(2)に示されるように、前記ステップs1で準備した第1生成物M1の各糸3x,3y,3zの周囲には、参照符4で示すように、多くの空隙が存在しており、このような第1生成物M1の各糸3x,3y,3zの繊維束に、図2(3)に示されるように、セラミックス前駆体溶液を含浸させて、各糸3x,3y,3zの繊維間に存在する空隙4を充填する。このときの含浸条件を、次の表1に示す。
【0022】
【表1】
Figure 0003723830
【0023】
上記の表1の含浸条件において、セラミックス前駆体溶液の溶液濃度を60wt%とし、常温大気中で可撓性の容器内に貯留されるセラミックス前駆体溶液に前記第1成生物M1を浸漬して、前記容器を密閉し、容器内を50Paに減圧して脱気する。前記セラミックス前駆体溶液は、セラミックス前駆体を有機溶媒によって溶解した溶液である。セラミックス前駆体は、有機珪素ポリマーが用いられる。この有機珪素ポリマーは、キシレン系有機溶媒に比べてセラミックスなどの無機材料を溶解し易いポリカルボシラン、ポリチタノカルボシラン、ポリジラノカルボシランおよびポリシラザンのうちの1つを選択的に用いることができる。
【0024】
このようにして無機繊維強化体である第1生成物M1に、セラミックス前駆体溶液を含浸させた第2生成物M2は、雰囲気温度が180℃の大気中(=約105Pa)で180分間放置して乾燥させた後、次のステップs3で、オートクレーブによって焼成する。このときの焼成条件は、上記の表1に示されるように、オートクレーブ内に前記セラミックス前駆体溶液を含浸させた第2成生物M2を収容して、温度が1000〜1300℃の不活性ガス雰囲気中で600分間、焼成する。これによってX糸3x、Y糸3y、Z糸3zに含浸されたセラミックス前駆体溶液は、図2(3)に参照符6で示されるように各糸3x,3y,3zの周囲に付着して硬化し、X糸3x、Y糸3y、Z糸3zの繊維組織間およびその周辺の微小な空隙4が気密に塞がれる。
【0025】
このようなステップs2の含浸処理およびステップs3の焼成処理は、予め定める回数N1回、行われる。本実施の形態において、前記予め定める回数N1は、8回に選ばれ、この回数N1だけ上記の含浸処理および焼成処理を繰り返して、ステップs4でN1回に達すると、初期緻密化処理工程が完了した第2生成物M2が得られる。
【0026】
その後、ステップs5で上記の初期緻密化処理によって得られた第2生成物M2は、要求される気密性またはリーク特性などの条件に応じて、後続の第1高収率緻密化工程に移る場合と、最終工程であるガラスシール工程を経て製造工程を完了する場合とがあり、本実施の形態では、第1および第2高収率緻密化工程ならびにガラスシール工程の全工程を経て、最も高気密化されたCMCを生成するための手順について述べる。
【0027】
第1高収率緻密化工程では、ステップs6において、前記初期緻密化工程によって得られた第2生成物M2は、セラミックス前駆体溶液に浸漬して含浸処理される。ここで用いられるセラミックス前駆体溶液は、セラミックス前駆体を有機溶媒によって溶解した溶液に、フィラーを混合したスラリーである。本工程のセラミックス前駆体は、有機珪素ポリマーが用いられる。
【0028】
この有機珪素ポリマーとしては、前記初期緻密化処理工程のときと同様であり、ポリカルボシラン、ポリチタノカルボシラン、ポリジラノカルボシランおよびポリシラザンのうちの1つが選択的に用いられる。
【0029】
また前記フィラーは、セラミックス粉末が用いられる。このセラミックス粉末としては、SiC、Si、TiC、ZrC、TaC、NbCおよびHfCのうちの1つが選択的に用いられる。このセラミックス粉末の粒径は、図2(3)に示される第2成生物M2に存在する空隙6と同程度に選ばれ、たとえば約2μm〜約300μm程度である。このような粒径に選ぶことによって、セラミックス粉末が前記空隙6内に確実に侵入して、その空隙6を気密に塞いだ状態とすることができる。
【0030】
このようなセラミックス前駆体溶液への第2成生物M2の含浸条件、後述の乾燥条件および熱処理条件は、次の表2に示される。
【0031】
【表2】
Figure 0003723830
【0032】
上記の含浸処理では、前記セラミックス前駆体溶液は、濃度60wt%の溶液に前記フィラーが、溶液:フィラー=1:1の重量比で混合されている。このようなフィラー入り溶液に前記第2生成物M2を常温で浸漬した後、ステップs7で、たとえば可撓性を有する耐熱シートなどによって実現されるバッグ内に気密に収容し、オートクレーブによって乾燥する。このオートクレーブ乾燥では、上記の表2の乾燥条件に示されるように、温度が180℃、圧力が3×105Paの不活性ガス雰囲気中に前記バッグを収容して、180分間乾燥させる。前記不活性ガスは、たとえば窒素ガスが用いられる。
【0033】
このようにオートクレーブによって180℃という低い温度の高圧下で乾燥させることによって、セラミックス前駆体溶液から溶媒が急激に気化して発泡してしまうことが防がれ、短時間で高温に昇温した場合に比べて確実に発泡を防止することができる。また上記のように第2生成物M2をバッグ内に収容して外圧をかけた状態で乾燥するので、セラミックス前駆体溶液が溶媒の気化したガスの放出によって外部へ流出することが防がれ、したがって凹部および孔の発生が防がれ、平滑な表面を得ることができる。
【0034】
本発明の実施の他の形態では、前記オートクレーブに代えて高温の大気中で、たとえば15時間程度放置して、加熱乾燥させてもよい。こうして比較的長い時間をかけて前記有機溶媒を乾燥させることによって、溶媒の気化したガスが気泡化することが防がれ、マトリックスを高収率で含浸させた生成物を得ることができる。
【0035】
前記ステップs7で乾燥された第2生成物M2は、ステップs8で、オートクレーブ内で焼成される。このときの熱処理条件は、上記の表2に示されるように、1000〜1300℃の不活性ガス雰囲気中で180分間加熱され、このようなステップs6の含浸処理、ステップs7の乾燥処理およびステップs8の焼成処理は、予め定める回数N2だけ繰り返され、図2(4)に示される第3生成物M3が生成される。その後、ステップs9で前記予め定める回数N2に達すると、次のステップs10へ移り、次の第2高収率緻密化処理工程が行われる。前記予め定める回数N2は、3回に選ばれる。
【0036】
第2高収率緻密化処理では、ステップs11において、上記の第1高収率緻密化処理によって生成された第3生成物M3を、初期緻密化工程および第1高収率緻密化工程で用いられたものと同様なセラミックス前駆体溶液に浸漬して、含浸処理された後、ステップs12で、前記ステップs7と同様に、オートクレーブによって乾燥処理され、焼成するという一連の工程を、予め定める回数N3だけ繰り返し、さらに高収率で緻密化された第4生成物M4を得ることができる。このような第2高収率緻密化処理の含浸条件、乾燥条件および熱処理条件は、次の表3に示される。
【0037】
【表3】
Figure 0003723830
【0038】
前記ステップs6の含浸処理においては、セラミックス前駆体は、濃度60wt%の溶液に、フィラーが、溶液:フィラー=1:1の重量比で混合されている。温度を150℃〜180℃で含浸圧力は9×105Paとし、不活性ガス雰囲気中で含浸処理される。また前記ステップs7の乾燥処理は、温度180℃、圧力3×105Paの不活性ガス雰囲気中で、180分間行われる。さらに前記ステップs8の焼成処理は、温度1000〜1300℃の不活性ガス雰囲気中で、180分間行われる。これらの各処理で用いる不活性ガスは、前述の初期緻密化工程および第1高収率緻密化工程と同様に、窒素ガスまたはアルゴンガスである。
【0039】
このような第2高収率緻密化処理工程で生成される第4生成物M4は、図2(5)に示されるように、X糸3x、Y糸3y、Z糸3zの外部に臨む表面に発生する表面孔7は、マトリックス層8によって塞がれ、またX糸3x、Y糸3y、Z糸3z間の内部孔9は、マトリックス層10によって塞がれる。
【0040】
図3は、第1および第3生成物M1,M3の表面の一部を拡大して示す図であり、図3(1)は初期緻密化処理によって得られた第1生成物M1の表面状態を示し、図3(2)は第2高収率緻密化処理によって得られた第4生成物M4の表面状態を示す。前記初期緻密化処理を経た段階では、図3(1)に示されるように、第1生成物M1の表面にかなり多くの微細な孔(図中の白点)が存在しているのに対し、第2高収率緻密化処理を経た第4生成物M4では、図3(2)に示されるように、第4生成物M4の表面に存在する微細な孔は、第1生成物M1の半分以下に減少しており、少なくとも前記第2高収率緻密化処理によって、初期緻密化処理だけではマトリックスを充填し切れずに発生した空隙が塞がれることが確認された。
【0041】
上記のようにして第2高収率緻密化処理工程(ステップs11〜s14)によって生成された第4生成物M4は、ステップs15〜s18においてガラスシール処理され、前の工程でセラミックスマトリックスに不可避的に残存する内部および表面の空隙にガラスマトリックスを充填して緻密化され、かつ表面が平滑化される。すなわちステップs15では、次の表4の含浸条件に示されるように、前工程で生成された第4生成物M4を、常温で含浸圧力を50Paにして、ガラス前駆体溶液に浸漬して含浸させる。
【0042】
【表4】
Figure 0003723830
【0043】
前記ガラス前駆体は、PbO、B23、SiO2、Na2O、BaO、CaO、ZnO、MgO、Al23、K2O、Li2Oの中から選ばれた1または複数の組み合わせを選択的に用いることができる。本実施の形態では、Na2O−SiO2が用いられる。
【0044】
こうしてガラス前駆体が含浸された第4生成物M4は、ステップs16で上記の表4の乾燥条件に示されるように、温度150℃、圧力105Paの大気中で180分間、乾燥させた後、ステップs17で、オートクレーブ内で、表4の熱処理条件に示されるように、温度1000℃の不活性ガス雰囲気中で120分間、焼成される。
【0045】
ステップs18で、このようなステップs15〜s17の処理を予め定める回数N4だけ繰り返えされると、ガラスシール処理工程が終了し、ステップs19で、図2(6)に示されるような高気密性CMCを、第5生成物M5として得ることができる。なお、第5生成物M5を、高気密性CMCと記す場合がある。
【0046】
こうして得られた高気密性CMCの気密性を確認するために、本件発明者は、次の図4に示すように、上記の第2〜第5生成物M2〜M5が得られる各段階に相当する各供試体M2’〜M5’を製作し、各供試体M2’〜M5’内の圧力を圧力検出器によって測定し、リーク試験を行った。その結果を以下に述べる。
【0047】
図4は、本件発明者によるリーク試験で用いた供試体M’および治具11を示す断面図である。このリーク試験で用いられる各供試体M2’〜M5’(総称する場合には、供試体M’と記す)は、軸線方向一端部から軸線方向他端部に向かって、フランジ12、直円筒部13、軸線方向他端部側に先細となる第1円錐台部14、および軸線方向一端部側に先細となる第2円錐台部15が、この順序で同一軸線上に一体的に形成され、前述のステップs1〜ステップs19の各段階を経て実験的に製造された第2〜第5生成物M2〜M5と同様な生成物である。これらの供試体M2’〜M5’の形状は、直円筒部13の内径D1は57mm、第1円錐台部14と第2円錐台部15とが連なるスロート部30の内径D2は30mm、軸線方向の全長Lは120mm、厚みtは4mmである。
【0048】
このような供試体M2’〜M5’は、ゴム製のパッキン16,17を介して2枚の挟持板18,19によって挟持される。一方のパッキン16は、円環状であって、一方の挟持板18と前記フランジ12との間に介在され、他方のパッキン17は、円板状であって、他方の挟持板19と第2円錐台部15の端面との間に介在される。一方の挟持板18の中央部には、透孔20が形成され、この透孔20には管体21が気密に圧入され、供試体M’内の内部空間22と外部空間23とを連通している。管体21の前記一方の挟持板18から外部空間23側に突出する部分には、管継ぎ手24が接続され、この管継ぎ手24には図示しないガス供給源からガスが供給される。このリーク試験では、窒素ガスが用いられる。
【0049】
前記供試体M’のフランジ12上には、環状の押さえ具25が設けられ、この押さえ具25は複数のボルト26によって、前記一方の挟持板18に固定される。各挟持板18,19の周縁部には、複数のボルト挿通孔27が形成され、各ボルト挿通孔27には長手のボルト28がそれぞれ挿通される。各ボルト28の両端部付近には、各一対のナット29が螺着され、これらの各一対のナット29によって、各挟持板18,19が平行にかつ供試体M’に対して適度の挟圧力で挟持される位置に位置決めして、固定される。この状態では、供試体M’のX糸3xは軸線方向に、Y糸3yは周方向に、Z糸3zは厚み方向に配向性を有するように配置されている。
【0050】
図5は、図1〜図3で述べた初期緻密化処理、第1高収率緻密化処理、第2高収率緻密化処理、およびガラスシール処理の各処理毎の供試体M2’〜M5’ならびに初期緻密化処理およびガラスシール処理によって得られた供試体M2a’,M5a’について、図4の実験を行ったときの通気圧力の低下率ΔVp[%]を示すグラフである。上記の初期緻密化処理、第1高収率緻密化処理、第2高収率緻密化処理、およびガラスシール処理の各段階で得られる供試体M2’〜M5’の気密性またはリーク特性を評価する指標として、各供試体M2’〜M5’内の不活性ガスの初期設定圧力をVo=0.9MPaとしたとき、各供試体M2’〜M5’内の60秒後の圧力Vpの前記初期設定圧力Voに対する低下率ΔVp[%]は、ΔVo=(Vo−Vp)/Voによって求められる。
【0051】
この低下率ΔVpは、上記の初期緻密化処理された第2供試体M2’では、約9.1%であり、第1高収率緻密化処理された第3供試体M3’では、約5.7%であり、第2高収率緻密化処理された第4供試体M4’では、約2.9%であり、最後のガラスシール処理された第5供試体M5’(高気密性CMCに相当)では、約0.5%であった。
【0052】
また、前記第1および第2高収率緻密化処理を行わずに、初期緻密化処理およびガラスシール処理だけを行う場合においては、初期緻密化処理された第2供試体M2a’は、約10.3%であり、ガラスシール処理された第5供試体M5a’では、約4.9%であった。このように第1および第2高収率緻密化処理を行った場合と行わない場合とを比較すると明らかなように、第1および第2高収率緻密化処理を行った場合の方が、気密性またはリーク特性が高いことが確認された。
【0053】
以上のように本実施の形態によれば、繊維強化体である第1生成物M1にマトリックス前駆体溶液を含浸させるにあたって、常温減圧下または常温高圧下で行うので、第1生成物M1を構成する各糸3x,3y,3zの繊維内に前記マトリックス前駆体溶液を確実に含浸させて、繊維内に残存する気泡を可及的に少なくすることができる。またマトリックス前駆体溶液が含浸された繊維強化体である第2成生物M2は、マトリックス前駆体からガス放出によって漏出しないようにして乾燥させるので、平滑な表面を得ることができる。
【0054】
このようにして強化繊維にマトリックスを含浸および乾燥させて、マトリックス前駆体溶液中の溶媒などの気化したガスを除去することができるので、焼成前に気泡が残存することを防止することができ、したがって焼成後の気泡の存在に起因するセラミックスマトリックス内の空隙を可及的に少なくして、高収率で気密性の高いセラミックス系複合材料を得ることができる。
【0055】
本発明の実施の他の形態では、上記の実施の形態のように容器内を減圧するのではなく、容器外を高圧にして、繊維強化体にマトリックス前駆体溶液を常温高圧下で含浸させてもよく、同様な効果を達成することができる。
【0056】
また、第1高収率緻密化処理によって、初期緻密化処理された第2生成物M2に、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、常温減圧下で含浸させて空隙内に充填し、付着したマトリックス前駆体中に混在している空気および溶媒などの気化したガスを除去して焼成した後、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、高温高圧下で含浸させるようにしたので、付着したマトリックス前駆体溶液中に残存している溶媒などの液体がガス化することが防がれるとともに、残存する空気および溶媒などのガス化した気泡が、いわば押しつぶされて消滅する。これによって焼成後のセラミックスマトリックス内に空隙が残存することが防がれ、収率および気密性が格段に向上することができる。
【0057】
さらに、上記の第2生成物M2に対して第2高収率緻密化処理を施すことによって、さらに収率および気密性を向上することができる。
【0058】
さらに、第3生成物M3または第4生成物M4の少なくともセラミックスマトリックス中の空隙にガラスマトリックスを充填して前記空隙を塞ぐことができるので、前記生成物がさらに緻密化され、気密性が向上される。また生成物の表面に存在する空隙にも前記ガラスマトリックスが充填されるので、前記表面が平滑化される。このような表面の平滑化によって、この表面の空隙の存在によるいわゆるノッチ効果が作用して、表面の切欠きが進展することが防がれ、セラミックス系複合材料の機械的強度の低下を防ぐことができる。
【0059】
【発明の効果】
請求項1記載の本発明によれば、繊維強化体にマトリックス前駆体溶液を含浸させるにあたって、第1工程で繊維束だけにマトリックス前駆体溶液を含浸させ、常圧下で乾燥させて焼成した初期緻密処理後の生成物に、第2工程でマトリックス前駆体の含浸、乾燥、焼成を行うので、繊維強化体を構成する各繊維内および各繊維間に前記マトリックス前駆体溶液を効率よく含浸させて、繊維内に残存するガスを可及的に少なくすることができる。またマトリックス前駆体溶液が含浸された繊維強化体は、ガス放出によってマトリックス前駆体溶液が流出しないようにして乾燥させるので、表面に凹部および孔が発生することが防がれ、平滑な表面を得ることができる。このようにして、マトリックス前駆体溶液中から溶媒などの気化したガスを除去して、焼成したときに気泡が残存することを防止することができる。したがって焼成時の気泡の存在に起因するセラミックスマトリックス内の空隙を可及的に少なくして、高収率で気密性の高いセラミックス系複合材料を得ることができる。
【0060】
請求項2記載の本発明によれば、第1工程を経て既に初期緻密化処理された生成物に、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、常温減圧下で含浸させて空隙内に充填するようにしたので、前記初期緻密化処理された生成物内に残存する空気および溶媒などの気化したガスが除去される。これによって焼成後のセラミックスマトリックス内に空隙が残存することが防がれ、収率を向上し、気密性を向上することができる。
【0061】
請求項3記載の本発明によれば、第1工程を経て既に初期緻密化処理された生成物に、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、高温高圧下で含浸させて充填するようにしたので、付着したマトリックス前駆体溶液中に残存している溶媒などの液体がガス化することが防がれるとともに、この溶液中に混在している空気および溶媒などのガス化した気泡が、いわば押しつぶされて消滅する。これによって焼成後のセラミックスマトリックス内に空隙が残存することが防がれ、収率および気密性を向上することができる。
【0062】
請求項4記載の本発明は、第1の高収率緻密化処理によって、初期緻密化処理された第2生成物M2に、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、常温減圧下で含浸させて空隙内に充填し、付着したマトリックス前駆体中に混在している空気および溶媒などの気化したガスを除去して焼成した後、フィラーを混入したマトリックス前駆体溶液を、高温高圧下で含浸させるようにしたので、付着したマトリックス前駆体溶液中に残存している溶媒などの液体がガス化することが防がれるとともに、残存する空気および溶媒などのガス化した気泡が、いわば押しつぶされて消滅する。これによって焼成後のセラミックスマトリックス内に空隙が残存することが防がれ、収率および気密性が格段に向上することができる。
【0063】
請求項5記載の本発明によれば、生成物の少なくともセラミックスマトリックス中の空隙にガラスマトリックスを充填して前記空隙を塞ぐことができるので、前記生成物がさらに緻密化され、気密性を向上することができる。また生成物の表面に存在する空隙にも前記ガラスマトリックスが充填されるので、前記表面が平滑化される。このような表面の平滑化によって、この表面の空隙の存在によるいわゆるノッチ効果が作用して、表面の切欠きが進展することが防がれ、セラミックス系複合材料の機械的強度の低下が防がれる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態のセラミックス系複合材料の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1の実施の形態の製造方法の各工程における生成物M1〜M5の一部を模式的に示す図であり、図2(1)は繊維強化体製造工程によって生成された第1生成物M1の一部を拡大して示す斜視図であり、図2(2)は図1の第1生成物M1を上方から見た平面図を示し、図2(3)は第1生成物M1を初期緻密化処理して得られた第2生成物M2の一部を示し、図2(4)は第2生成物M2を第1高収率緻密化処理して得られた第3生成物M3の一部を示し、図2(5)は第3生成物M3を第2高収率緻密化処理して得られた第4生成物M4の一部を示し、図2(6)は第4生成物M4をガラスシール処理して得られた第5生成物M5の一部を示す。
【図3】第1および第3生成物M1,M3の表面の一部を拡大して示す図であり、図3(1)は初期緻密化処理によって得られた第1生成物M1の表面状態を示し、図3(2)は第2高収率緻密化処理によって得られた第3生成物M3の表面状態を示す。
【図4】本件発明者によるリーク試験で用いた供試体M’および治具11を示す断面図である。
【図5】 図1〜図3で述べた初期緻密化処理、第1高収率緻密化処理、第2高収率緻密化処理、およびガラスシール処理の各処理毎の供試体M2’〜M5’ならびに初期緻密化処理およびガラスシール処理によって得られた供試体M2a’,M5a’について、図4の実験を行ったときの通気圧力の低下率ΔVp[%]を示すグラフである。
【符号の説明】
3x,3y,3z 糸
4,6 空隙
5 セラミックス前駆体
7 表面孔
8 マトリックス層
9 内周孔
10 マトリックス層
11 治具

Claims (5)

  1. 所定の方向または無秩序に配列された無機繊維から成る繊維強化体の繊維束に、常温減圧下または常温高圧下でマトリックス前駆体溶液を含浸させて、常圧下で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して初期緻密化処理する第1工程と、
    第1工程によって初期緻密化された生成物に、フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、高収率緻密化処理する第2工程とを含むことを特徴とする高気密性セラミックス系複合材料の製造方法。
  2. 前記第2工程は、第1工程によって初期緻密化処理された生成物に、前記フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を、常温減圧下で含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、高圧の不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、高収率緻密化処理することを特徴とする請求項1記載の高気密性セラミックス系複合材料の製造方法。
  3. 前記第2工程は、第1工程によって初期緻密化処理された生成物に、前記フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を、高温高圧下で含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、高圧の不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、高収率緻密化処理することを特徴とする請求項1記載の高気密性セラミックス系複合材料の製造方法。
  4. 前記第2工程は、第1工程によって初期緻密化処理された生成物に、前記フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を、常温減圧下で含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、高圧の不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して第1の高収率緻密化処理を行い、この第1の高収率緻密化処理後の生成物に、前記フィラーが混入されたマトリックス前駆体溶液を、高温高圧下で含浸させて、前記マトリックス前駆体溶液の溶媒の気化を抑制してマトリックス前駆体溶液の流出を防止した状態で、高圧の不活性ガス雰囲気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、第2の高収率緻密化処理を行うことを特徴とする請求項1記載の高気密性セラミックス系複合材料の製造方法。
  5. 第2工程によって処理された生成物に、常温減圧下でガラス前駆体溶液を含浸させて、高温の大気中で乾燥させた後、不活性ガス雰囲気中で焼成して、緻密平滑化処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の高気密性セラミックス系複合材料の製造方法。
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