JP3723781B2 - デンプン含有水溶液の防腐方法 - Google Patents

デンプン含有水溶液の防腐方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、持続性に優れ、かつ環境汚染のおそれのない新規なデンプン含有水溶液の防腐方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
製紙工業においては、紙に印字特性や光沢、平滑性などを与えるため、一般に紙基材上にデンプンを含有する水溶液、スラリー又はラテックスや、デンプンをバインダーとし、これとタルク、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、シリカなどの無機顔料やアクリル樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子などの有機顔料を含む塗工カラー液を塗工することが行われている。しかしながら、これらのデンプンを含む紙塗工液は腐敗しやすいため、時間がたつと紙塗工液からのみならず、この紙塗工液を塗布した塗工紙から悪臭が発生する上に、このような紙塗工液は、塗工時にブリーディングやストリークを生じるという欠点がある。
【0003】
このような欠点を改善するため、これまで殺菌剤を用いてデンプンを含む紙塗工液についてその中に存在する細菌やカビ類を除去することが行われてきた。そして、この際使用される殺菌剤としては、例えば、5‐クロロ‐2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンが知られているが(特公昭46−21240号公報)、この5‐クロロ‐2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンは、安定性を欠くため、貯蔵中や使用中にpH変化や他の物質との接触により急速に分解し、所望の効果が得られなくなったり、また、急速な分解が起こらない場合も経時的な分解を起こすため長期間にわたる腐敗防止を達成し得ない上に、この化合物はエイムズ陽性であるため、作業環境破壊という上でも問題があった。
【0004】
このことは、デンプンを含む紙塗工液のみならず、工業用水を使用して調製される水性塗料、ラテックス、高分子エマルション、切削油などの金属加工油剤、皮革、捺染糊、接着剤などの分野において用いられるデンプン含有液にもみられ、特に、ラテックスの場合は、防腐剤を添加しないと短期間に腐敗し、腐敗臭がするだけでなく、これを紙塗工液に使用した場合、前記したと同様の問題を生じる原因となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもと、長期間にわたって安定した効力を発揮することができ、しかも環境汚染の問題のないデンプン含有水溶液の防腐方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、紙塗工液、特にデンプンを含む紙塗工液の防腐剤として長期間にわたって効力を持続することができ、しかも環境汚染のない防腐剤を開発すべく種々研究を重ねた結果、2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンを水又は水と水混和性有機溶媒との混合物中に溶解して添加したものは、長時間にわたって使用しても分解が極めて少なく、環境汚染の問題がない上に、エイムズ陰性であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、デンプン含有水溶液に対し、2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンを水又は水と水混和性有機溶剤との混合物中に溶解したエイムズ陰性を示す溶液を、2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンの濃度が1〜500ppmになる量で添加することを特徴とする防腐方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において有効成分として用いる2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンは、式
【化1】
Figure 0003723781
で表わされる化合物である。
この化合物は、公知であり、市販品として容易に入手することができる。
【0009】
本発明方法で用いる防腐剤は、2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンであり、これを水又は水と水混和性有機溶剤との混合物に均一に混合、溶解又は分散して、デンプン含有水溶液中に添加される。この2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンを溶解する溶媒としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、工業用水のような水単独用いてもよいし、また、水とアルコール系溶剤、ケトン系溶剤のような水混和性有機溶剤との混合を用いてもよい。この際の水混和性有機溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4‐ブタンジオール、1,5‐ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングルコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの公知の種々のポリオール又はポリオールエーテル系液状化合物、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジエチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N‐メチル‐2‐ピロリドンなどがある。
【0010】
この水又は水と水混和性有機溶剤との混合物中の2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンの濃度については均一に混合、溶解又は分散できる量であれば特に制限はなく、従来の防腐剤の場合と同じ範囲の濃度を用いることができる。この範囲は通常1〜10重量%である。
【0011】
また、本発明方法においては、2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンに、その効力をそこなわない範囲で乳化分散剤、消泡剤などを組み合わせて用いることができる。この場合の乳化分散剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などがある。このようにして調製された溶液は、エイムズ陰性すなわちエイムズ試験において陰性を示すことが必要である。本発明の防腐剤の紙塗工液その他に対する添加量は、従来の防腐剤の場合と全く同じであり、紙塗工液、水性塗料、糊料、皮革処理液の場合は、2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンの重量基準で1〜500ppmの範囲である。
【0012】
【実施例】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。
なお、各例中の物性は以下の方法によって測定したものである。
【0013】
(1)腐敗菌数の計測
水性防腐剤500ppmを含む各試料を32℃の恒温槽に保管し、経日的に各試料の一部を採取し、ワックスマン寒天培地を入れたシャーレに移し、32℃で2日間培養し、菌数を計測した。
【0014】
(2)腐敗状態の観察
上記のようにして培養した培養基の状態を観察し、以下の基準により評価した。
○:腐敗及び腐敗臭の発生なし。
△:腐敗臭の発生有り。
×:腐敗、固化又は減粘の発生有り。
【0015】
(3)有効成分残存率
各試料を40℃の恒温室に保管し、経日的に各試料の一部を採取し、液体クロマトグラフィーでイソチアゾロン化合物の残存濃度を測定した。なお、残存率は次式により算出した。
残存率(%)=(X′/X)×100
(式中のXはイソチアゾロン化合物の初期濃度、X′は2週間後、4週間後、2か月後、4か月後のイソチアゾロン化合物の濃度を示す)
【0016】
(4)DNA変異
各試料についてエイムズ試験を行い、DNA変異に対する陽性か陰性かを確かめた。
【0017】
実施例1
2‐メチル‐3‐イソチアゾロン5重量部、水90重量部、プロピレングリコール5重量部を均一に混合して防腐剤溶液を調製した。
次に、カオリン100重量部、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス6重量部(固形分として)及び分散剤(ソマール社製,SDA−40K)0.1重量部(固形分として)を混合し、全体の固形分濃度が63%になるように水を加えて紙塗工液を調製した。この塗工液のpHは9.5であった。
この紙塗工液に前記の防腐剤溶液500ppmを添加して試料とした。このようにして得た試料について物性を調べ、その結果を表1に示す。
【0018】
実施例2
蒸煮デンプンを水に蒸煮デンプンの濃度が20%になるように溶解し、水溶液を得た。この水溶液のpHは6であった。
このデンプン水溶液に、実施例1で調製した防腐剤溶液500ppmを添加して試料とした。このようにして得た試料について物性を調べ、その結果を表1に示す。
【0019】
比較例1
5‐クロロ‐2‐メチル‐3‐イソチアゾロン5重量部、水90重量部、プロピレングリコール5重量部を均一に混合して防腐剤溶液を調製した。
この防腐剤溶液500ppmを、実施例1で用いたものと同じ紙塗工液に添加し、試料とした。このようにして得た試料について物性を調べ、その結果を表1に示す。
【0020】
比較例2
比較例1で得た防腐剤溶液500ppmを、実施例2で用いたものと同じデンプン水溶液に添加し、試料とした。このようにして得た試料について物性を調べその結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
Figure 0003723781
【0022】
これらの結果から、本発明で用いた防腐剤溶液は、比較例のものに比べ、防腐対象物の物性に関係なく、有効成分の残存率が高いものであり、その結果、4か月以上という長期間、対象物を腐敗から防止できることが分る。このことから、比較例では4週間以内に薬剤を対象物中に追加添加するか、又は新たに対象物を作成する必要があるが、本発明方法では、その期間を4倍以上に延ばすことができることが分る。さらに、本発明で用いた防腐剤はエイムズ試験の結果、陰性であるので、環境汚染を生じることがない防腐剤であることが分る。
【0023】
【発明の効果】
本発明の方法で処理したデンプン含有溶液は、pHに影響されず、長期間にわたって効力が持続し、デンプン溶液の長期間保存が可能となるので防腐対象物を大量に調製することができるため、防腐対象物の製造回数を少なくすることができ、生産効率を向上させることができる上に、防腐剤自体の安定性が高いので、その保存性、輸送性も良好であるという利点がある。
さらに、DNAの変異が認められないので、環境汚染を生じることがないという利点を有する。

Claims (1)

  1. デンプン含有水溶液に対し、2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンを水又は水と水混和性有機溶剤との混合物中に溶解したエイムズ陰性を示す溶液を、2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンの濃度が1〜500ppmになる量で添加することを特徴とする防腐方法
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