JP3723708B2 - 単純遊星ローラ機構及び制動機構を備える摩擦伝動装置、該摩擦伝動装置を備える摩擦伝動式回転駆動装置及びそのシリーズ、及び摩擦伝動装置の製造方法 - Google Patents

単純遊星ローラ機構及び制動機構を備える摩擦伝動装置、該摩擦伝動装置を備える摩擦伝動式回転駆動装置及びそのシリーズ、及び摩擦伝動装置の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩擦ローラとして、太陽ローラ、遊星ローラ及びリングローラを有する単純遊星ローラ機構と、これらの摩擦ローラの回転を制動する制御機構とを備える摩擦伝動装置、この摩擦伝動装置にモータを組合せた摩擦伝動式の回転駆動装置、及びそのシリーズ、及び該摩擦伝動装置の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、単純遊星ローラ機構を備えた摩擦伝動装置が広く知られている。
【0003】
図5には、従来のこの種の摩擦伝動装置の例を模式的に示している。この摩擦伝動装置1は、摩擦ローラとして、太陽ローラ2と、太陽ローラ2の外周に転接する遊星ローラ6と、この遊星ローラ6が自身の内周に転接すると共に自身の回転が規制されたリングローラ8と、を単純遊星ローラ機構10として外部ケーシング9(全体の図示は省略する)の内部に備えている。又、支持ピンが遊星ローラ6に挿入されることでキャリア4がこの単純遊星ローラ機構10に連結されている。
【0004】
この摩擦伝動装置1は、太陽ローラ2又はキャリア4を入・出力要素とし、リングローラ8を固定要素としたものであり、太陽ローラ2を入力要素とした場合には減速機能を、太陽ローラ2を出力要素とした場合には増速機能を有することになる。なお、リングローラ8は外部ケーシング9側に固定されている。
【0005】
この摩擦伝動装置1は、各摩擦ローラ間の接触面に生ずる摩擦力を利用して動力伝達を行うものであり、歯車等による伝達構造に比べて静粛運転が可能である。
【0006】
摩擦伝動装置1によって所定の伝達トルクを確保するためには、摩擦ローラ間に十分な摩擦力を発生させなければならない。これは、リングローラ8の内径を、遊星ローラ6の直径の2倍と太陽ローラ2の直径との和より小さくして、締め代を付与することによりなされる。締め代が大きい場合は、摩擦ローラ間の「押し圧」が大きくなり、その摩擦力によって伝達可能トルク(最大伝達トルク:伝達能力)を大きくすることができ、締め代が小さい場合は、反対に小さな伝達能力となる。一方、同じ大きさで伝達可能トルクが大きい(締め代が大きい)場合は、接触面圧が大きく、各摩擦ローラの回転抵抗がより大きいことを意味し、摩擦伝動装置1の伝達効率が低下すると共に、転動疲労による耐久性の低下が問題となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、動力を伝達する装置には、その回転を停止させたり、あるいは停止状態を維持させるための制動機構を付設したいという要求がしばしば発生し、現に多くの動力伝達装置には制動機構が付設されている。
【0008】
しかしながら、(発明者の調査した範囲では)上述したような摩擦伝動装置に制動機構を組み合わせた製品は実際には製造されていないというのが実情である。これは、このような摩擦伝動装置に対して、制動機構の静止摩擦トルクを最適な値に設定する手法が確立されていなかったためと解される。
【0009】
より具体的に説明すると、単純遊星ローラ機構を備えた摩擦伝動装置は、各摩擦ローラの接触面間に生ずる摩擦力を介して動力を伝達するものであるため、大きな回転負荷がかかったような場合には、接触面に「滑り」が生じる。一方で、一般的に用いられる制動機構も又、ブレーキ輪とブレーキ片との間の摩擦によって運動エネルギを熱エネルギに変えるものであり、つまり、ブレーキ輪とブレーキ片との「滑り」によって制動力を発生するものである。
【0010】
従って、摩擦伝動装置及び制動機構は共に滑りを伴う可能性を有するため、その最適な組合せを見出すことが困難であり、又、数多くの経験や勘によっても単純遊星ローラ機構に対する制動機構の最適な制動特性を得ることは必ずしも保証されないという面がある。
【0011】
例えば、制動機構によって取り出し得る静止摩擦トルクが小さ過ぎると、摩擦伝動装置、あるいはこれに連結された相手機械(負荷)を確実に制動することができないため、安全を見込むには当該取り出し得る静止摩擦トルク(制動能力)をかなり大きめに設定しなければならない。ところが、この設定された静止摩擦トルクが大きすぎると、ただ単に制動機構の能力が(必要能力に対して)過大となって無駄なコスト上昇が生じるというだけでなく、制動が必要以上に急激に行われ、摩擦伝動装置の各ローラの摩擦面が相手機械(負荷)側の慣性力(反力)を保持し切れなくなるという問題が生じる。即ち、もし静止摩擦トルクが適正で、妥当な速度での制動であったならば問題なく制動できたにも拘わらず、静止摩擦トルクが強力過ぎたが故に摩擦伝動装置に滑りが発生してしまうということもあり得る。言うまでもなく、一度滑りが発生すると摩擦伝動装置の制動はほとんど不可能になる。
【0012】
従って単に安全を見込んで制動機構を大型にすればよいというものではないところにこの種の設計の難しさがある。
【0013】
また、更に設計を複雑化しているのは、摩擦伝動装置の伝達可能トルク(最大伝達トルク)は締め代等に依存して決定されるが、製品のばらつきにより実際の締め代が設計上の締め代から僅かにずれただけでも伝達可能トルクがかなり変わってしまうことがあるという事情である。
【0014】
したがって、制動機構を摩擦伝動装置に組み合わせようとすると、実際にはあまりにも不確定要素、あるいは不明確な要素が多く、そのため「製品」としてまとめるには、数多く試作し、あらゆる状況を想定して試運転し、摩擦伝動装置の伝達能力と制動機構の制動能力とを最適な範囲でバランスさせるという作業を行わなければならない。
【0015】
しかも、企業が「製品」としてこの種の制動機構付きの摩擦伝動装置を市場に提供する場合、一般には様々な伝達容量、あるいは様々な減速比の装置をシリーズ(製品群)として提供しなければならず、この場合、所定の設計・製造手法を開発しない限り、全体として統一のとれたシリーズを(1種1種毎の試行錯誤のみで)構築するというのは不可能に近いという事情もある。
【0016】
こうした事情は、歯車機構等の他の動力伝達装置に制動機構を組み込んだ製品でシリーズを構築するのに対し、結局はコスト的に不利になることを意味し、これが摩擦伝動装置に制動機構を今まで組み込んだ製品がこれまでなかった理由であると考えられる。
【0017】
しかしながら、一方で摩擦伝動装置には、静粛性や同軸性といった優れた特性があり、コンパクトで比較的高い減速比、しかも任意の値の減速比を容易に得ることができるなど利点も多い。従って、本発明はこれらの事情に鑑みてなされたものであり、単純遊星ローラ機構に対して実用上最適な制動特性となる制動機構を備える摩擦伝動装置及びその製造方法を提供することをその目的の1つとし、又、他の目的としては、この摩擦伝動装置とモータとを組合せた摩擦伝動式回転駆動装置及びそのシリーズを提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、摩擦ローラとして、太陽ローラ、キャリアに保持されると共に太陽ローラの外周に転接する遊星ローラ、及び遊星ローラが自身の内周に転接するリングローラ、を有する単純遊星ローラ機構と、太陽ローラに連結されてこの太陽ローラの回転を制動する制動機構と、を備える摩擦伝動装置であって、制動機構によって取り出し得る制御トルクをYとし、キャリア及び前記リングローラを固定した状態で太陽ローラに試験トルクを徐々に増大させて入力し、摩擦ローラのいずれかに最初に滑り回転が生じた際の試験トルクの値をXdとしたときに、前記静止摩擦トルクYを、0.1X<Y<0.7Xdの範囲内に設定することによって、上記目的を達成するものである。
【0019】
本発明者は、まず摩擦伝動装置の構造として、太陽ローラを入力要素、キャリア又はリングローラを出力要素とした減速機能を有し、このキャリア又はリングローラ側に連結された外部負荷(相手機械)の回転を、太陽ローラに連結される制動機構によって制動する構造の採用を考えた。それは、この構造は、入出力軸の同軸性を有し、静粛性に優れ、コンパクトで大きな減速比が得られ、且つ最も一般的な摩擦伝動装置の構造として汎用性もあるためである。
【0020】
ところでこの摩擦伝動装置は、その汎用性の高さの故に、非常に様々な使い方が考えられ、従って様々な相手機械と組み合わせて使用される可能性がある。従って、予測し得る様々な状況の下で最も合理的な特性の制動機構を組み合わせなければならない。そのため本発明者は、単純遊星ローラ機構に対して制動が行われる状況を仮想的に作り出すことにした。つまり、仮に太陽ローラが制動機構によって完全に固定され、キャリア又はリングローラ側に連結されている相手機械(外部負荷)の静止状態を、この制動機構により単純遊星ローラ機構を介して保持している状態を考えると、相手機械自身の(慣性力や、自重等により生じる)回転動力によって制動機構側に生じる反力トルクが制動機構によって取り出されているトルクに相当する。発明者らはこの反力トルクを利用すれば、単純遊星ローラ機構の伝達能力と制動機構の制動能力のバランスを最適なものにすることが出来るようになることを見出した。即ち、本発明ではこの反力トルクを、太陽ローラに「試験トルク」を加えるという形で徐々に増加させ、その結果摩擦ローラのいずれかに最初に滑り回転が生じたときに現に加えられていた値(以下これを臨界試験トルクXdという)をウォッチングする。
【0021】
この状況は勿論、現実に回転状態にある摩擦伝動装置を制動するときの状態とは必ずしも一致しない。しかし、非常に多くの追試験の結果、この臨界試験トルクXdをベースにして、これに所定の掛け率を乗じた範囲(0.1Xd<Y<0.7Xd)、好ましくは、(0.2Xd<Y<0.5Xd)の範囲に制動機構の静止摩擦トルクYが収まるように設定すれば、当該摩擦伝動装置に(実用的な)いかなる負荷が接続されている場合であっても、また(実用的な)いかなる駆動源(例えばモータ)が接続されている場合であっても、実際の使用状況を非常に再現性高く仮想した上で、制動機構の適切な設定が可能となるという知見を得たものである。
【0022】
即ち、臨界試験トルクXdに対して制動機構の静止摩擦トルクYが上記範囲に設定されていると、制動機構の能力が相対的に高すぎて、いわゆる急制動の状態となり、「制動機構が保証する制動能力の限界に達する前に、先に単純遊星ローラ機構が滑り出す」という状況がほとんど発生しないようにすることができる。
【0023】
また、駆動源の駆動能力(駆動トルク)が摩擦伝動措置に対して実用上限界に近いほど大きい場合であっても、これを「制動しきれない」という状況もほとんど発生しないようにすることができる。
【0024】
なお、このように設定された制動機構を備える摩擦伝動装置において、その太陽ローラと制動機構とを連結する連結軸を自身のモータ軸とするモータを、該連結軸の外周に配置し、この連結軸にモータの回転動力を伝達するようにして摩擦伝動式の回転駆動装置を構成してもよい(請求項2)。
【0025】
更に、この設計思想に基づいて製作された摩擦伝動式回転駆動装置であって、それぞれの伝達容量および変速比が互いに異なる複数の摩擦伝動式回転駆動装置により、摩擦伝動式回転駆動装置のシリーズを構成してもよい。
【0026】
又、本発明者によって案出された上記のような理論は、上記摩擦伝動装置の明確な製造方法を得る結果になった。
【0027】
具体的には、まず、キャリア及びリングローラを固定した状態で太陽ローラに試験トルクを徐々に増大させて入力し、摩擦ローラのいずれかに最初に滑り回転が生じた際の試験トルクの値(臨界試験トルク)Xdを測定する。
【0028】
次に、この測定された臨界試験トルクXに対して、制動機構の静止摩擦トルクYが0.1Xd<Y<0.7Xdの範囲内(好ましくは0.2Xd<Y<0.5Xd)に収まるように、制動機構の制動部を設定・製作するようにすればよい。
【0029】
以上のような2つの手順を有する摩擦伝動装置の製造方法によれば、単純遊星ローラ機構と制動機構との最適な組合せを得ることができ、制動性能が確実に保証されたコストパフォーマンスに優れた摩擦伝動装置を製造することができる。これは、摩擦伝動装置の製造過程において、単に設計理論ではなく、仮想的に作り出された使用状態(制動状態)の概念を導入したためである。
【0030】
なお、一般的に、上記の単純遊星ローラ機構の動力伝達態様としては、以下に示されるような固定・入力・出力の関係がある。
【0031】
1)太陽ローラを入力要素とした場合、リングローラを固定要素、遊星ローラを保持するキャリアを出力要素とする場合と、リングローラを出力要素、遊星ローラを保持するキャリアを固定要素とする場合があり、
2)遊星ローラを保持するキャリアを入力要素とした場合は、リングローラを固定要素、太陽ローラを出力要素とする場合と、リングローラを出力要素、太陽ローラを固定要素とする場合があり、
3)リングローラ入力要素とした場合は、遊星ローラを保持するキャリアを固定要素、太陽ローラを出力要素とする場合と、遊星ローラを保持するキャリアを出力要素、太陽ローラを固定要素とする場合がある。
【0032】
本発明の単純遊星ローラ機構は、上記の(1)の態様を採用するものであり、リングローラ又はキャリアのいずれを出力要素にしたとしても本発明を適用することができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦伝動装置20を示す部分断面図である。この摩擦伝動装置は、摩擦ローラとして、太陽ローラ30、キャリア32に保持されると共に、太陽ローラ30の外周に転接する遊星ローラ34、及びこの遊星ローラ34が自身の内周に転接すると共に自身の回転が規制されたリングローラ36、を有する単純遊星ローラ機構28と、前記太陽ローラ30に連結されて太陽ローラ30の回転を制動する制動機構22と、を備える。
【0035】
この制動機構によって取り出し得る静止摩擦トルクYは、単純遊星ローラ機構28が有する臨界試験トルクXd(詳細は後述する。)に対し、0.1Xd<Y<0.7Xdの範囲内、好ましくは0.2Xd<Y<0.5Xdの範囲内に設定するべく、具体的には0.3Xdに設定されている。
【0036】
具体的には、単純遊星ローラ機構28はケーシング38の内部に収容されており、このケーシング38の内周側に設けられたドーナツ状の突起38Aにボルト40によってリングローラ36が固定されている。
【0037】
このケーシング38は、中心軸線方向L両端側において径方向外側に広がるフランジ部38B、38Cを備えており、太陽ローラ30側のフランジ部38Bには制動機構22のケーシング42が一体的に連結されている。制動機構22は、前記ケーシング42に一体的に設けられるリング状の励磁コイル44と、ケーシング42に対して周方向に回転不能な状態で、軸方向に摺動自在のリング状のブレーキ片46と、太陽ローラ30と連結軸48を介して連結され、この太陽ローラ30と一体となって回転するブレーキ輪50と、ブレーキ片46を常時ブレーキ輪50方向に付勢するコイルばね52と、を備える。
【0038】
励磁コイル44が励磁状態の場合は、この励磁コイル44にブレーキ片46が吸い寄せられ、コイルばね52の付勢力に抗してブレーキ片46がブレーキ輪50から離隔して非制動状態となり、励磁コイル44が非励磁状態の場合は、コイルばね52によって、ブレーキ片46がブレーキ輪50に押し付けられることで制動状態になる。
【0039】
次に、試験トルクX及び臨界試験トルクXdについて説明する。
【0040】
図2に模式的に示されるように、太陽ローラ30にトルク測定器60を介してトルク発生器62(回転動力を発生することが出来るもの)を連結する。一方、キャリア32は固定部材64に連結されて回転が規制されている。なお、リングローラ36はケーシング38を介して同様に固定部材64に固定されている。
【0041】
この状態で、トルク発生器62により太陽ローラ30にトルクを徐々に増大させて入力する。この徐々に増大されてゆく入力トルクが本発明でいう「試験トルクX」である。このようにすると、各摩擦ローラの接触面における摩擦力によって単純遊星ローラ機構28側に反力トルクXoが発生し、トルク検出器60によって検出される検出トルクXrもそれに追随して徐々に増大する(X=Xo=Xr)。しかし、摩擦力によって生じる反力トルクXoが限界に達すると、各摩擦ローラのいずれかに滑り回転が発生し、たとえ試験トルクXを増大させてもこの滑りによって反力トルクXoが急激に低下するためトルク検出器60によって検出される検出トルクXrも急激に低下する。トルク検出器60によって得られた上記データ(図3参照)から、検出トルクXrが急激に低下した際(図3のPに対応する)に、それまで現に加えていた試験トルクX(検出トルクXrと一致)の値を「臨界試験トルクXd」と定義する。
【0042】
この臨界試験トルクXdは、この単純遊星ローラ機構28が外部負荷を保持することができる限界のトルクを太陽ローラ30側のトルク値に換算したものと言え、言い換えれば、太陽ローラ30を固定してキャリア32側に連結された外部負荷が回転しようとする場合に、この単純遊星ローラ機構28が耐え得る限界能力を太陽ローラ30側で数値化したものと言える。
【0043】
この摩擦伝動装置20によれば、前述したように制動機構22の制動能力(取り出しうる静止摩擦トルク)Yが臨界試験トルクXdの0.7倍より小さく設定されているため、制動機構22の制動能力が大き過ぎて急制動の傾向となったり、相手機械(負荷)の慣性力が大きくなり過ぎて摩擦伝動装置に滑りが発生してしまうというような事態がほとんど発生しない。これは多くの性能追試験において確認されている。
【0044】
またこの摩擦伝動装置20によれば、制動機構22の制動能力Yが臨界試験トルクのXdの0.1倍よりも大きく設定されているため、制動機構22の制動能力が小さ過ぎて、駆動源あるいは相手機械(負荷)を制動しきれなかったというような事態もほとんど発生しない。これも多くの性能追試験において確認されている。
【0045】
つまり、単純遊星ローラ機構28の伝達能力と制動機構22の制動特性とが最もバランスのとれた状態で設定されているので、結局は、伝達効率及び制動能力の双方に優れた、コストパフォーマンスの高い摩擦伝動装置を得ることができているものである。
【0046】
なお、この範囲はより好ましくは0.2Xd<Y<0.5Xdの範囲内であり、ベストはY=0.25Xd〜0.35Xdの付近である。
【0047】
ところで、この実施形態に係る摩擦伝動装置20では、単純遊星ローラ機構28の伝達能力と制動機構22の制動特性とが最もバランスのとれた状態で設定されているので、この制動機構22を基準として、摩擦伝動装置20に伝達される動力(回転駆動装置の容量、相手側機械の負荷等)を設定すれば、単純遊星ローラ機構28に生じる滑りを防止することができる。
【0048】
図4を参照して、この思想に立脚した本発明の第2実施形態に係る摩擦伝動式の回転駆動装置100について詳細に説明する。
【0049】
この回転駆動装置100は、単純遊星ローラ機構128と制動機構122を備えた摩擦伝動装置120における連結軸148を自身のモータ軸としたモータ126を、連結軸(モータ軸)148の外周に組み込んで、このモータ126の回転動力を連結軸148に伝達するようにしたものである。
【0050】
具体的には、第1実施形態で示した摩擦伝動装置20の連結軸48と比較して、軸方向に長い連結軸148が採用されており、この連結軸148の周囲であって単純遊星ローラ機構128と制動機構122の間の位置に、該連結軸148をモータ軸とするモータ126が組み込まれている。
【0051】
又、単純遊星ローラ機構128のケーシング138は、2分割構造となっており、その間にリングローラ136を挟持するようになっている。即ち、リングローラ136もケーシング138の一部を構成しているといえる。更に、キャリア132の軸心位置には出力軸133が突設されており、カップリング等を介して相手機械(被駆動機械)と連結できるようになっている。
【0052】
モータ126のモータケーシング126Aは、一端が制動機構122のケーシング142に連結され、他端が単純遊星ローラ機構128のケーシング138に連結されている。なお、摩擦伝動装置120のその他の構成については、既に第1実施形態で示した摩擦伝動装置20とほぼ同様であるため、同一又は類似する部分にはこの摩擦伝動装置20と下2桁を同一符号を付することで、構成・作用等の詳細な説明は省略する。
【0053】
このモータ126の定格トルクPは、ここでは制動機構122の制動能力Yの1.5分の1となるように設定されている。従って、例えば前記実施形態のように制動能力Yが臨界試験トルクXdの0.3倍に設定されている場合は、定格トルクPはこの1.5分の1、即ち臨界試験トルクXdからみると、その0.3÷1.5≒0.2倍の値に設定されていることになる。
【0054】
この数値(関係値)は制動機構付き摩擦伝動式回転駆動装置としてほぼベストモードと言えるものであり、いかなる負荷を接続した場合であっても、良好な駆動特性と制動特性を最も無駄なく発揮することができる。
【0055】
従ってこの数値を満足するように、異なる伝達容量、異なる変速比の制動機構付き摩擦伝動式回転駆動装置を複数製造すれば、どの機種においても必要かつ十分な駆動特性及び制動特性を有する制動機構付き摩擦伝動式回転駆動装置のシリーズを得ることができる。
【0056】
なお、前述したように摩擦伝動装置においては設計上得られるはずの伝達トルクと、実際に出来上がった製品において得られる伝達トルクとが必ずしも一致しない場合があるが、この点についても本発明によれば、試験トルクを実際の製品に加えていくことによって現に得られている伝達トルクを簡単に確認することができる。これは製品が所定の公差に収まっているかの確認試験の範疇に属するもので、所定の公差自体を試行錯誤によって決定するものとは次元が異なるものである。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、単純遊星ローラ機構と制動機構とのバランスが図られ、コストを低減しながら確実な制動能力を有する摩擦伝動装置を得ることができる。又、この摩擦伝動装置にモータを組み込むことで高効率な摩擦伝動式回転駆動装置を得ることができる。又、上記のような効果を有する摩擦伝動装置を確実に製造できる製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る摩擦伝動装置の部分断面図
【図2】同摩擦伝動装置における単純遊星ローラ機構の臨界試験トルクを測定する状態を示す模式図
【図3】同測定状態における検出トルクのデータを示す模式図
【図4】本発明の第2実施形態に係る摩擦伝動式回転駆動装置の部分断面図
【図5】一般的な摩擦伝動装置を示す概念図
【符号の説明】
20、120…摩擦伝動装置
22、122…制動機構
28、128…単純遊星ローラ機構
30、130…太陽ローラ
32、132…キャリア
34、134…遊星ローラ
36、136…リングローラ
38、138…ケーシング
100…回転駆動装置
126…モータ

Claims (4)

  1. 摩擦ローラとして、太陽ローラ、キャリアに保持されると共に前記太陽ローラの外周に転接する遊星ローラ、及び該遊星ローラが自身の内周に転接するリングローラ、を有する単純遊星ローラ機構と、前記太陽ローラに連結されて該太陽ローラの回転を制動する制動機構と、を備える摩擦伝動装置であって、
    前記制動機構によって取り出し得る静止摩擦トルクをYとし、
    前記キャリア及び前記リングローラを固定した状態で前記太陽ローラに試験トルクを徐々に増大させて入力し、前記摩擦ローラのいずれかに最初に滑り回転が生じた際の前記試験トルクの値をXdとしたときに、前記静止摩擦トルクYを、
    0.1Xd<Y<0.7Xd
    の範囲内に設定した
    ことを特徴とする単純遊星ローラ機構及び制動機構を備える摩擦伝動装置。
  2. 請求項1に記載の摩擦伝動装置における前記太陽ローラと前記制動機構を連結する連結軸を自身のモータ軸として備えるモータを、該連結軸の外周に配置し、
    該連結軸に該モータの回転動力を伝達するようにした
    ことを特徴とする単純遊星ローラ機構及び制動機構を備える摩擦伝動式回転駆動装置。
  3. 請求項2に記載の摩擦伝動式回転駆動装置のシリーズであって、それぞれの伝達容量および変速比が互いに異なる複数の摩擦伝動式回転駆動装置から構成された摩擦伝動式回転駆動装置のシリーズ。
  4. 請求項1記載の摩擦伝動装置の製造方法であって、
    前記キャリア及び前記リングローラを固定した状態で前記太陽ローラに試験トルクを徐々に増大させて入力し、前記摩擦ローラのいずれかに最初に滑り回転が生じた際の前記試験トルクの値Xdを測定する手順と、
    この測定された試験トルクの値Xdに対して、前記制動機構の前記静止摩擦トルクYが
    0.1Xd<Y<0.7Xd
    の範囲内に納まるように、該制動機構の制動部を設定・製作する手順と、
    を有することを特徴とする単純遊星ローラ機構及び制動機構を備える摩擦伝動装置の製造方法。
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