JP3721640B2 - 加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ステンレス鋼板の製造方法、なかでも熱延板焼鈍を省略しても高加工性が得られるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的にフェライト系ステンレス鋼板は、fcc 結晶構造を有するSUS 304 に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼板に比べて耐応力腐食割れ性に優れるとともに安価であることから、各種厨房器具、自動車部品、建材などの分野で幅広く使用されている。その一方でフェライト系ステンレス鋼板は、オーステナイト系ステンレス鋼板に比較すると、深絞り性に劣っているために、用途に制約があった。また、フェライト系ステンレス鋼板は、絞り加工を施す場合に、リジングと呼ばれる圧延方向に沿った凹凸の縞模様、しわ欠陥が発生し易く、この縞模様は商品の美観を損ねる原因となっていたため、この点でもオーステナイト系ステンレス鋼に比べ加工性に劣るとされていた。したがって、従来から▲1▼深絞り性の向上、及び▲2▼リジングの抑制、がフェライト系ステンレス鋼板における主要課題であった。
【0003】
このような背景からフェライト系ステンレス鋼板の深絞り性及び耐リジング性の向上に関する技術が以下のように提案されている。
(a) 特開平7−126757号公報には、熱延時の粗圧延に際し、最終パスの圧下率とその前のパスの圧下率との合計値を70%以上、前記粗圧延の最終パス出側の圧延速度を200 m/min 以上とし、前記粗圧延の仕上温度を1100〜800 ℃とする、耐リジング性に優れるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法が開示されている。
【0004】
(b) 特開平6−271943号公報には、Cr:9〜22%、Al:0.03〜0.2 %、N:0.005 〜0.045 %を含有するフェライト系ステンレス鋼板を1050〜1200℃に加熱後、熱間圧延に際して、900 〜1050℃の温度範囲で少なくとも1パス以上を圧下率10%以上かつ圧延速度600 mpm 以上で圧延後、750 ℃以上の温度で巻取り、冷延、仕上圧延を行う、成形性および耐リジング性に優れ、しかも異方性の小さいフェライト系ステンレス鋼板の製造方法が開示されている。
【0005】
(c) 特開平6−17992号公報には、C:0.02%以下、N:0.02以下、Cr:11〜21%を含有して更にTi,Nb及びMoを複合添加したステンレス鋼スラブを1220℃以上に加熱し、850 〜950 ℃の仕上温度で熱間圧延し、550 ℃以下で巻取り、熱延板焼鈍することなく、冷延、仕上焼鈍を行う、高温強度および成形加工性の優れたフェライト系ステンレス薄鋼板の製造方法が開示されている。
【0006】
(d) 特公平8−26436号公報には、Cr:10〜20%で、C:0.10%以下、N:0.04%以下、Al:0.002 %以下でかつTi:0.03〜0.50%、Nb:0.03〜0.50%、B:0.0005〜0.0100%などを含有したフェライト系ステンレス鋼のスラブを熱間圧延するに際し、900 ℃以下の圧下率を50%以下とし、800 ℃以下の仕上り温度で圧延を終了し、コイル巻取温度を600 ℃以上としてコイリングした後、焼鈍するか、焼鈍を省略し、その後冷間圧延と焼鈍を行う方法が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
フェライト系ステンレス鋼板は通常、所定の成分組成に溶製後、連続鋳造し、得られた連続鋳造スラブを加熱後に熱間圧延−熱延板焼鈍−冷間圧延−仕上焼鈍の工程を施して製造される。このように通常の製造工程においては、熱間圧延後に焼鈍が必ず行われていることから、普通鋼板では熱延板焼鈍が省略されていることと比較するとエネルギーを多量に要している。そこで、省エネルギー化の観点から、熱延板焼鈍を省略することもまた、フェライト系ステンレス鋼板を製造する際に強く望まれるようになってきた。
【0008】
ここに、熱延板焼鈍の省略の観点から前掲した従来技術をみると、(a) の特開平7−126757号公報の技術では、i)耐リジング性とr値向上の点から、粗圧延強潤滑強圧下が有効であることが示されているが、圧延時のスリップやかみ込み不良が生じ易く、生産性が劣る、ii) また、r値のとくに、rm1n 向上効果が少なく、熱延板焼鈍を省略すると十分な耐リジング性と成形加工性(深絞り性)とが得られない。他方、(b) の特開平6−271943号公報、(c) の特開平6−17992号公報及び(d) の特公平8−26436号公報にそれぞれ開示された技術は、熱延板焼鈍を省略可能ならしめる技術ということはできる。しかし(b) の特開平6−271943号公報に開示された技術は、AlN の熱延時の析出を積極的に用いた技術であり、しかも圧延速度が600 mpm 以上と設備的に制約も大きく、商用工程で安定して製造するのは難しく、得られた特性も十分満足なものではなかった。また、(c) の特開平6−17992号公報及び(d) の特公平8−26436号公報にそれぞれ開示された技術では、r値の異方性もやや大きく、また、十分な耐リジング性を得ることが難しいかった。
【0009】
このように、従来公知の深絞り性及び耐リジング性の向上技術では、特に、熱延板焼鈍の省略を図った場合に十分ではないのが実状である。結局のところ、鋼中の成分元素や、熱延時の特定条件に着目することのみでは、実際の使用上、十分満足するような高加工性(深絞り性と耐リジング性)を有するフェライト系ステンレス鋼板を、熱延板焼鈍を施すことなく、高生産性を確保して製造するのは困難であった。
【0010】
そこでこの発明の目的は、省エネルギー、省プロセスのために熱延板焼鈍を省略しても加工性(深絞り性と耐リジング性)に優れるフェライト系ステンレス鋼板を製造することのできる方法を提案することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この発明は、C:0.015 wt%以下、N:0.015 wt%以下及びCr:11wt%以上を含有するステンレス鋼スラブを1180℃以下に加熱し、次いで熱間圧延を、粗圧延後段の1パス以上を圧下率35%以上、かつ仕上圧延開始温度を900 ℃以下、仕上圧延終了温度を800 ℃以上で施して600℃以上で巻取った後、酸洗、冷間圧延及び仕上焼鈍の工程を施すことを特徴とする加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法である。
【0012】
ここにステンレス鋼スラブが、さらに4×(C+N)≦Ti≦0.3 wt%を満足するTiを含有するものであることが、より好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、この発明において上記要旨構成のとおりに限定した理由について説明する。
【0014】
スラブ再加熱温度(SRT)が1180℃以下、熱間圧延における粗圧延後段の1パス以上の圧下率が35%以上:
スラブ再加熱温度と粗圧延後段の圧下率は、耐リジング性の点から重要である。この知見は、以下の実験により得られた結果に基づく。
【0015】
(実験1)
16.4%Cr−0.2 %Si−0.3 %Mn−0.015 %Al−0.027 %P−0.004 %S−0.0078%C−0.0066%N−0.17%Tiの組成(%は全てwt%)になるSUS 430LX の連続鋳造スラブ(厚み195 mm)を用い、スラブ加熱温度を1050〜1225℃、粗圧延最終段の圧下率を10%〜57%の範囲で種々に変化させて熱間圧延の粗圧延を施し板厚30mmのシートバーとした後、仕上圧延により板厚4mmの熱延板を作製した。なお、ここで仕上圧延条件とコイル巻取温度は、この発明に従う条件の範囲内とした。得られた熱延板を酸洗によるスケール除去に供した後、冷間圧延により板厚0.7 mmとし、引き続き910 ℃、30秒の再結晶焼鈍を行った。
【0016】
かくして得られたフェライト系ステンレス鋼板について、耐リジング性の評価をした。この耐リジング性の評価は、圧延方向に25%の引張歪を加えた後の表面の凹凸の度合いを、大、中、小で評価した。その結果を図1に示す。スラブ再加熱温度SRTが1180℃以上では、たとえ圧下率を大きくしても十分な耐リジング性が得られないことがわかる。また、圧下率が35%未満では、たとえSRTが1180℃以下でも同様に十分な耐リジング性が得られないことが分かる。したがって、この発明ではSRTが1180℃以下で、なおかつ粗圧延後段の1パス以上の圧下率は35%以上に限定する。
【0017】
なお、SRTについては特に下限は設けないが、あまりに低すぎると強圧下時に圧延材表面に疵が入り易くなるため、好ましくは1050℃以上が良い。また、粗圧延後段(複数の圧延パスを前半、後半に2分した場合の後半のパスをいう)の圧下については、2パス以上をそれぞれ圧下率35%以上で行ってもこの発明の効果は得られるので、2パス以上の組み合わせを行っても良い。更に、粗圧延の後段で1パス以上行う35%以上の圧下の圧下率上限は設けないが、あまりに大きすぎるとロールスリップや表面疵の生成などの問題を招き易くなるので、好ましくは60%以下が良い。
【0018】
仕上圧延の開始温度が900 ℃以下、終了温度が800 ℃以上:
仕上圧延温度は、深絞り性とr値の異方性の点から重要な条件である。この知見は、以下の実験により得られた結果に基づく。
【0019】
(実験2)
実験1に用いたのとほぼ同じ組成の連続鋳造スラブを用いて、SRT及び粗圧延条件をこの発明に従う条件で熱間の粗圧延を施したのち、仕上圧延開始温度(FET)と仕上圧延終了温度(FDT)を種々に変化させて仕上圧延を行ってから、この発明に従う温度範囲でコイルを巻き取った。得られた熱延板を実験1と同様に酸洗、冷間圧延及び再結晶焼鈍を施した。かくして得られたフェライト系ステンレス鋼板について、r値をL方向、D方向、C方向にそれぞれ測定した。その結果を図2に示す。仕上圧延開始温度FETが900 ℃以下でなおかつ仕上圧延終了温度FDTが800 ℃以上の領域で深絞り性の指標となる平均r値((rL +rC +2rD )/4)が大きいことが分かる。したがって、仕上圧延開始温度を900 ℃以下、仕上圧延終了温度を800 ℃以上に限定する。なお、r値の異方性については、圧延温度範囲が低温側、すなわち仕上圧延終了温度が800 ℃以下になると大きくなる傾向があることも分かった。
【0020】
この発明に従う、仕上圧延開始温度が900 ℃以下、仕上圧延終了温度が800 ℃以上の仕上圧延条件のうち、特に850 ℃±30℃の範囲で仕上圧延が行われると平均r値がとりわけ大きく(図2の◎印)、またr値の異方性も非常に小さくなる傾向が見られることから、好ましくは圧延開始温度を880 ℃以下、圧延終了温度を820 ℃以上とする。
【0021】
巻取温度が600 ℃以上:
巻取温度(CT)は、r値の3方向中の最小値(rmin )の点から重要である。この知見は、以下の実験結果より得られた。
【0022】
(実験3)
実験1,2に用いたのとほぼ同じ成分を有する連続鋳造スラブを用いて、スラブ加熱温度、熱間粗圧延及び仕上圧延条件をこの発明に従う条件の範囲とし、巻取温度を420 〜780 ℃の種々の温度にした。得られた熱延板を実験2と同様に冷延−焼鈍を施した後、r値の測定を行った。図3に、rmin の値に及ぼす巻取温度(CT)の影響をグラフで示すが、巻取温度CTを600 ℃以上にすることより、rmin が著しく向上し、深絞り性が向上するとともに異方性も小さくなることが分かる。したがって、巻取温度CTは600 ℃以上に限定する。
熱延板をコイルに巻き取った後は、常法に従い酸洗−冷間圧延−仕上焼鈍を施せば良い。
【0023】
次に、この発明のフェライト系ステンレス鋼の化学組成については、ステンレス鋼の必須成分であるCrを11wt%以上で含有させる他は、この発明の効果を十分にかつ安定して得るためには、C:0.015 wt%以下及びN:0.015 wt%以下とし、さらに好ましくは4×(C+N)≦Ti≦0.3 wt%を満足するTiを含有するものが適用される。
【0024】
C、Nは加工性、特に深絞り性に悪影響を及ぼす成分であるため、C,NをC: 0.015 wt %以下及びN: 0.015 wt %以下に低減する。一方でTi添加によりその悪影響を低減することが可能である。したがって、特に過酷な加工に供される素材としては、C,Nを低減した上で、Tiを適正量、すなわち4×(C+N)≦ Ti ≦ 0.3 wt %とするのが好ましい。なお、Tiは過剰に添加すると熱延時にTiO2起因の表面欠陥が生じ易いので、Tiの上限は0.3 wt%とすることが好ましい。
【0025】
上記以外の成分については、目的により必要に応じて添加させることが可能であり、不純物成分も含めて以下に好ましい範囲を示すが、この発明はこれに限定されるものではない。
Si:1.0 wt%以下、Mn:1.0 wt%以下、Al:0.1 wt%以下、P:0.05wt%以下、S:0.015 wt%以下、O:0.01wt%以下、Ca:0.002 wt%以下、Mg:0.002 wt%以下、REM :0.015 wt%以下、Ni:0.7 wt%以下、Cu:0.5 wt%以下、Co:0.3 wt%以下、V:0.5 wt%以下、Zr:0.3 wt%以下、Nb:0.3 wt%以下、W:0.3 wt%以下、Ta:0.3 wt%以下、B:0.003 wt%以下、Mo:1.5 wt%以下
【0026】
【実施例】
表1に示す成分組成になる連続鋳造スラブ(厚み195 mm)を、表2に示す種々の条件で熱間圧延を行った。熱間圧延は3列からなる粗圧延機で板厚28mmまで圧延後、更に6列からなる仕上圧延機で3mm厚まで圧延してからコイルに巻き取った。得られた熱延鋼帯は脱スケール後、冷間圧延により板厚0.7 mmとし、850 〜940 ℃で仕上焼鈍を施した。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
得られた仕上焼鈍板を用いて、前述したリジングの評価とr値の測定(L方向、D方向、C方向)を行った。これらの測定結果を表2に併記する。この発明に従う適合例では、いずれもリジングの発生が抑制され、しかも深絞り性が向上していることがわかる。また、r値の異方性も少ない。一方、この発明の要件を一つでも外れる比較例では、リジングの発生の抑制、深絞り性の改善、異方性の向上の少なくとも一つが達成できず、加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼板が得られないことが分かる。
【0030】
【発明の効果】
かくしてこの発明によれば、省エネルギー、省プロセスを目的に熱延板焼鈍工程を省略しても、加工性(深絞り性と耐リジング性)に優れるフェライト系ステンレス鋼板を製造することができる。
なお、この発明によって製造されたフェライト系ステンレス鋼板に対しては、従来から適用されていたあらゆる表面仕上方法や表面処理方法が問題なく適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】スラブ加熱温度及び圧延後段の圧下率がリジング発生の程度に及ぼす影響を示す図である。
【図2】仕上圧延の開始温度と終了温度とが平均アール値に及ぼす影響を示す図である。
【図3】巻取温度がr値の最小値に及ぼす影響を示す図である。
Claims (2)
- C:0.015 wt%以下、N:0.015 wt%以下及びCr:11wt%以上を含有するステンレス鋼スラブを1180℃以下に加熱し、次いで熱間圧延を、粗圧延後段の1パス以上を圧下率35%以上、かつ仕上圧延開始温度を900 ℃以下、仕上圧延終了温度を800 ℃以上で施して600℃以上で巻取った後、酸洗、冷間圧延及び仕上焼鈍の工程を施すことを特徴とする加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- ステンレス鋼スラブが、さらに4×(C+N)≦Ti≦0.3 wt%を満足するTiを含有するものである請求項1記載の加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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