JP3717962B2 - グリセロ糖脂質化合物の製造法 - Google Patents
グリセロ糖脂質化合物の製造法 Download PDFInfo
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、マイコプラズマ・フェルメンタンス(Mycoplasma fermentans)−HTLV−I(Human T-lymphotropic virus type I) に重複感染したヒトヘルパーT細胞の脂質画分から見出された新規な『ホスホリルコリン含有α−グルコース(糖)脂質化合物』を新たに化学的に合成する方法、並びに、その合成法における新規な中間体化合物を提供するものである。
【0002】
【従来技術の説明】
従来からウイルス感染によって細胞の糖脂質糖鎖に大きな変化が生じることが知られていた。ヒトレトロウイルスであるHTLV−I、およびHIV(human immunodeficiency virus)はいずれもリンパ球のなかでもとくにヘルパーT細胞に感染しやすく、HTLV−Iではこれをモノクローナルに腫瘍化し、HIVではこれを破壊することにより発症する。
【0003】
これらのウイルス感染により細胞の脂質に変化があることを見出すことにより病態解明への手掛かりを得ようという試みられてきたが、前述のヒトレトロウイルス感染によって生じる細胞の糖脂質変化を詳しく調べているうちに、HTLV−I感染細胞において、中性スフィンゴ糖脂質が大きく減少し、一方、アルカリ不安定な糖リン脂質が特徴的にしかも異常に増加していること見出された。また、この細胞へは、HIV、HTLV−Iの病態との関連が注目されているマイクロプラズマ・フェルメンタンス(Mycoplasma fermentans)が感染していることもわかってきた。
【0004】
最近、山本直樹、松田和洋により、前述の感染による発症と密接な関連を有する可能性のある『前記の増加物質の糖リン脂質』が分離、精製されて構造解析が試みられた結果、生理活性を有する可能性のある新規な構造の物質であるホスホリルコリン含有グリセロ糖脂質化合物が見出され、特願平6−21429号として特許出願された。
【0005】
【本発明が解決しようとする問題点】
発明者らは、前記の天然に分離、精製されて構造解析がなされた新規な構造物質であるホスホリルコリン含有グリセロ糖脂質化合物を化学的に合成する方法について鋭意研究を行った結果、この発明の合成法を見出し、発明を完成した。
【0006】
【問題点を解決する手段】
本願における第1の発明は、第1段階において、構造式I
【0007】
【化6】
【0008】
〔但し、構造式Iにおいて、Aは−OH基の保護基であり、R1 及びR2 は炭素数6〜26の炭化水素基である。〕で示される化合物Iとハロゲン化アルキルホスホリルジハライドとを、塩基の存在下、溶媒中で反応させて、構造式II
【0009】
【化7】
【0010】
〔但し、構造式IIにおけるA、R1 及びR2 は前述と同様である。〕で示される化合物IIを合成し、次いで、
第2段階において、前述のようにして得られた化合物IIとトリメチルアミンとを溶媒中で反応させて、構造式III
【0011】
【化8】
【0012】
〔但し、構造式IIIにおけるA、R1 及びR2 は前述と同様である。〕で示される化合物IIIを合成し、最後に、
第3段階において、前述のようにして得られた化合物IIIを水添触媒の存在下に水素と接触させて構造式IV
【0013】
【化9】
【0014】
〔但し、構造式IVにおけるR1 及びR2 は前述と同様である。〕で示される化合物IVを生成することを特徴とするホスホリルコリン含有グリセロ糖脂質化合物の製造法に関する。
また、第2の発明は、構造式III
【0015】
【化10】
【0016】
〔但し、構造式IIIにおいて、A、R1 及びR2 は前述と同様である。〕で示されるホスホリルコリン含有グリセロ糖脂質化合物誘導体に関する。
【0017】
前記の構造式IIIで示される化合物IIIの代表的なものとして、次に示す構造式V(Aがベンジル基である)で示される1,2−ジ−O−パルミトイル−3−O−〔2, 3, 4-トリ−O−ベンジル−6−O−(2−トリメチルアミノエトキシ)−ホスフィナ−ト−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ルを挙げることができる。
【0018】
【化11】
【0019】
本発明におけるホスホリルコリン含有グリセロ糖脂質化合物誘導体(即ち、構造式IIIで示される化合物III)は、水添触媒の存在下で水素と接触させることによって、前述のようにして得られた新規な構造物質であるホスホリルコリン含有グリセロ糖脂質化合物〔即ち、前記の構造式IVで示される化合物IVにおいて、R1 及びR2 が−(CH2)14CH3 である化合物を例示できる〕などを容易に得ることができる。
【0020】
前記の各構造式において、保護基Aは、−OH基を、−OA基の状態で保護することができればどのよう種類の保護基であってもよく、例えば、そのような保護基としては、ベンジル基、パラメトキシベンジル基、トリチル基のような置換基を有してもよいアラルキル基が好適である。
【0021】
また、各構造式において、炭素数6〜25の炭化水素基R1 及びR2 は、互いに異なっていても同じであってもよく、そして直鎖状又は分岐状炭化水素基のいずれであってもよく、あるいは炭素−炭素不飽和結合を内部に有している炭化水素であってもよく、例えば、−(CH2)13−CH3 、−(CH2)14−CH3 、−(CH2)15−CH3 などの炭素数10〜20を有する直鎖状アルキル基であることが好ましく、特に−(CH2)14−CH3 が最適である。
【0022】
本発明の製造法は、例えば、次に示す反応式1(1)〜(3)によって示すことができる。なお、反応式1(1)〜(3)における各構造式中のA、R1 及びR2 は、前述に説明したとおりの定義と同じである。
【0023】
【数1】
【0024】
【数2】
【0025】
本発明の製造法における第1段階の反応としては、前記の構造式Iで示される化合物Iとハロゲン化アルキルホスホリルジハライドとを、トリエチルアミン、トリメチルアミン、エチルジイソプロピルアミンのようなトリアルキルアミン等の有機塩基と共に、ハロゲン化炭化水素等の有機溶媒中へ添加して、反応溶液を調製し、その反応溶液を約0〜60℃、特に5〜50℃の反応温度に維持して、約1〜25時間、特に2〜20時間攪拌しながら、化合物Iとハロゲン化アルキルホスホリルジハライドとを反応させて、前記の構造式IIで示される化合物IIを合成することが好ましい。
【0026】
前記のハロゲン化アルキルホスホリルジハライドとしては、例えば、2−ブロモエチルホスホリルジクロライド、2−イオドエチルホスホリルジクロライド、2−クロロエチルホスホリルジクロライドなどを挙げることができる。
前記の第1段階の反応において有機溶媒として使用されるハロゲン化炭化水素としては、トリクロロエチレン、1,2−ジクロルエタン、ジクロルメタンなどを挙げることができる。
【0027】
前記の第1段階の反応において、反応溶液中の化合物Iの濃度は、約1〜50重量%、特に2〜20重量%程度であることが好ましい。
また、前記のトリアルキルアミンの使用割合は、1モルの化合物Iに対して約0.1〜5モル、特に0.2〜2モル程度であることが好ましい。
【0028】
前記の第1段階の反応において、反応が終了した後に反応液から目的物の化合物IIを回収するためには、公知の回収方法を採用することができるが、例えば、反応が終了した後に、反応液を塩酸等の無機酸で酸性として、目的物である化合物IIをエチルエーテル等で抽出して、食塩水等で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥して、更に、その乾燥された溶液を濃縮しそして精製することによって化合物II(液状物)を得ることが好ましい。
【0029】
本発明の製造法における第2段階において、前述のようにして得られた化合物IIを、トリメチルアミンガスで飽和した有機溶媒に溶解させ、その反応溶液を、約30〜100℃、特に40〜80℃の反応温度に加熱し、その温度で約1〜20時間、特に2〜15時間で化合物IIとトリメチルアミンとを反応させて、さらに、必要であれば、その反応液を冷却した後、反応液へ炭酸銀などの銀塩を臭素陰イオン除去のために加えて、再度、40〜70℃の温度に加熱し、約0.1〜10時間、特に0.2〜5時間還流させて、前記の構造式IIIで示される化合物IIIを合成することが好ましい。
【0030】
前記の第2段階の反応において、反応溶液中の化合物IIの濃度は約1〜50重量%、特に2〜20重量%程度であることが好ましい。
また、前記のトリアルキルアミンの使用割合は、1モルの化合物IIに対して約1.0〜5.0モル、特に3〜4モル程度であることが好ましい。
【0031】
前記の有機溶媒としては、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級脂肪族アルコール、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、あるいは、それらの混合溶媒(例えば、クロロホルム−2−プロパノール−DMFの混合溶媒、1,2−ジクロロエタン−2−プロパノール−DMF)が好適である。
【0032】
前記の第2段階の反応において、反応が終了した後に反応液から目的物の化合物IIIを回収するためには、公知の回収方法を採用することができるが、例えば、反応が終了した後に、反応液を室温(約0〜40℃)まで冷却し、セライト等のフィルターを通して濾過し、その濾液を濃縮し、精製して、目的物の化合物III(液状物)を得ることが好ましい。
【0033】
本発明の製造法における第3段階において、前述のようにして得られた化合物IIIを有機溶媒などの溶媒に溶解した溶液にパラジウム系触媒等の水添触媒を添加した混合物を、0〜50℃、特に5〜40℃の温度で、約1〜20時間、特に2〜15時間、水素ガスと接触させて水添反応を行わせることによって化合物IIIの−OA基をすべて−OH基に変換させて、構造式IVで示される化合物IVを生成させることが好ましい。
【0034】
前記の水添触媒としては、水素添加反応に使用できるものであればどのようなものであってもよいが、特に、水酸化パラジウム〔Pd(OH)2 〕、パラジウムブラック、パラジウムカーボン、酢酸パラジウム、シュウ酸パラジウムなどのパラジウム系触媒を好適に挙げることができ、さらに、ニッケル系触媒、白金系触媒も挙げることができる。
その水添触媒の使用割合は、公知の水添反応における使用割合で用いればよいが、特にパラジウム系触媒の場合には、1モルの化合物IIIに対して約0.1〜0.5モル、特に0.3〜0.4モル程度であることが好ましい。
【0035】
前記の第3段階の反応において使用する溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ケトン、メチルエーテル、酢酸、酢酸メチルエステルなどの有機溶媒、水、あるいは、それらの有機溶媒と水との混合液を挙げることができ、特に、メタノール−水−酢酸の混合溶媒(例えば、メタノール:水:酢酸が、10:1:1である混合溶媒)を好適に挙げることができる。
前記の第3段階の反応において、反応が終了した後に反応液から目的物の化合物IVを回収するためには、公知の回収方法を採用することができるが、例えば反応液を濾過し、精製した後、濃縮して、目的物である化合物IV(固体:ワックス状)のを得ることができる。
【0036】
本発明の製造法によって得られる構造式IVで示される化合物IVとしては、次に示す構造式VIで示される化合物VI〔1,2−ジ−O−パルミトイル−3−O−〔6−O−(2−トリメチルアミノエトキシ)−ホスフィナ−ト−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ル〕を挙げることができる。
【0037】
【化12】
【0038】
この発明の製造法に使用する構造式Iで示される化合物Iは、反応式2(1)〜(3)、及び、反応式3(1)〜(3)に従って、製造することができる。
反応式2及び3の各構造式において、A、R1 及びR2 は、前述の定義と同様であり、X1 およびX2 は、−OH基の保護基である。
【0039】
【数3】
【0040】
【数4】
【0041】
前述の反応式2で示される反応では、グルコース環の2位、3位及び4位の−OH基が保護基A及び1位及び6位の−OH基がX1 で保護されているα−D−グルコピラノース誘導体(構造式VII:化合物VII)を出発原料として、まず、第1段階(1)で、化合物VIIとハロゲン化水素とを溶媒中で反応させて化合物VIIにおけるグルコース環の1位の−OX1 基のみをBr等のハロゲン原子に変換し構造式VIIIの化合物VIIIを生成し、次いで、第2段階(2)で、(S)−グリシドール(グリシド)と有機塩基化合物と化合物VIIIとを溶媒中で反応させて、化合物VIIIのグルコース環の1位のハロゲン原子を無水グリセロール基に変換して構造式IXの化合物IXを生成し、最後に、第3段階(3)で、その化合物IXとアルカリ金属アルコラートとをアルコール溶媒中で反応させて該化合物IXのグルコース環の6位の−OX1 基のみを−OH基に変換して、1,2-アンヒドロ−3-O−〔α−D−グルコピラノシル〕−Sn−グリセロール誘導体(構造式X:化合物X)を生成することができる。
【0042】
前述の反応式2で示される反応において、出発物質である化合物VIIのグルコース環の1位及び6位に−OX1 基を形成するための水酸基の保護剤としては、p−メトキシベンジルクロライド、p−メトキシベンジルブロマイドなどのベンジルハライド、トリフェニルメチルクロライド、tert−ブチルジメチルシリルクロライド、tert−ブチルジフェニルシリルクロライドなどの『X1 −Hal化合物』を挙げることができる。
【0043】
前述の反応式2で示される第1段階の反応で使用するハロゲン化水素としては塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素などを挙げることができるが、特に、臭化水素が好適である。
また、前記の第1段階の反応で使用する溶媒としては、塩化メチレン、トリクロロメタン等のハロゲン化炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒などを挙げることができる。
【0044】
前述の反応式2で示される第2段階の反応で使用する有機塩基化合物としては、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素などの尿素化合物、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウムなどのハロゲン化テトラアルキルアンモニウムなどの窒素系化合物を好適に挙げることができ、特にテトラメチル尿素等の尿素化合物と臭化テトラメチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウム化合物を併用することが好適である。又、この第2段階の反応で使用する溶媒としては、前述の第1段階の反応で使用する溶媒と同様の溶媒を使用することができる。
【0045】
前述の反応式2における第3段階の反応で使用するアルカリ金属アルコラートとしては、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラートなどを好適に挙げることができ、又、その第3段階の反応で使用するアルコール溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコールなどの低級脂肪族アルコール(炭素数1〜5を有する)を挙げることができる。
【0046】
また、前記の反応式2における反応は、いずれの段階に反応においても反応温度がそれぞれ0〜60℃、特に5〜50℃程度、さらに10〜40℃であることが好ましく、一方、前記反応式2の反応における反応時間が、第1段階では1〜60分間、特に5〜50分間、また、第2段階では1〜60分間、特に2〜30分間、さらに、第2段階では、1〜50時間、特に2〜40時間程度であることが好ましい。
【0047】
反応式3で示される反応では、前述の反応式2(1)〜(3)の反応で得られた『グルコース環の2位、3位及び4位が保護基Aで保護されている1,2-アンヒドロ−3-O−〔α−D−グルコピラノシル〕−Sn−グリセロール誘導体(構造式X:化合物X)』を出発原料として、まず、第1段階(1)で、化合物Xと、高級カルボン酸金属塩(R1 −COOM)との混合物を溶媒中で高温で反応反応させ、化合物Xのグリシジル基のエポキシ環を開環させて、ハーフエステル構造を有する構造式XIで示される化合物XIを生成さる。
【0048】
次いで、反応式3の第2段階(2)で、化合物XIと、トリアルキルアミン、アルキルアミノピリジン等の有機塩基とを溶解した塩化メチレン等の溶媒の溶液に、水酸基の保護剤(X2 −Hal)および高級カルボン酸ハライド(R2 −CO−Hal)の塩化メチレン等の溶媒の溶液を添加して、その結果、化合物XIと保護剤(X2 −Hal)と高級カルボン酸ハライド(R2 −CO−Hal)とを反応させて、化合物XIのグルコース環の6位の−OH基を−OX2 基に変換すると共に該化合物XIのグリセロール構造の2位の−OH基をエステル結合に変換させて構造式XIIで示される化合物XIIを生成させる。
【0049】
最後に、反応式3の第3段階(3)で、前記の化合物XIIをトリフルオロ酢酸のアルコール溶液に添加して、0〜50℃、特に5〜40℃、さらに室温付近で約1〜20時間、特に2〜15時間、十分に反応させて、前記の化合物XIIのグルコース環の6位の−OX2 基を再度−OH基に変換させて、本発明の製造法に出発物質として使用される『構造式Iで示される化合物I』を生成させるのである。
【0050】
前記の反応式3の第1段階(1)で使用される高級カルボン酸金属塩(R1 −COOM)としては、ラウリン酸、トリデシル酸、ミスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸等の高級脂肪族カルボン酸と、炭酸セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム等の炭酸金属塩とから得られた炭素数10〜20を有する高級脂肪族カルボン酸金属塩(例えば、パルミチン酸セシウム)を好適に挙げることができる。
【0051】
前記反応式3の第1段階(1)においては、反応温度が80〜200℃、特に100〜150℃程度であり、また、反応時間が1〜20時間、特に2〜15時間程度であることが好ましく、さらに、反応溶媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルホスホニウムアミド、エチレングリコールを挙げることができる。
【0052】
前記反応式3の第2段階(2)で使用される水酸基の保護剤(X2 −Hal)としては、tert−ブチルジメチルシリルクロライド、tert−ブチルジフェニルシリルクロライドなどのトリアルキルシリルハライドが好ましい。
また、前記反応式3の第2段階(2)で使用される高級カルボン酸ハライドとしては、ラウリン酸クロライド、トリデシル酸クロライド、ミスチン酸クロライド、ペンタデシル酸クロライド、パルミチン酸クロライド、ヘプタデシル酸クロライド、ステアリン酸クロライドなどの炭素数10〜20を有するカルボン酸ハライドを好適に挙げることができる。
【0053】
前記の反応式2及び3の反応において、反応中間体又は目的物である各化合物のグルコース環の2位、3位及び4位の−OA基は、いずれも−OH基に変換されることなく各反応が行われることが好ましく、前記の−OA基が各反応条件に対してかなり安定であることが好ましい。
【0054】
以下、本発明の製造法に関する実施例、及び参考例を示す。
前記の実施例及び参考例において、得られた反応生成物の融点は未補正のまま使用し、IRスペクトルはJASCO A−202分光計で測定し、 1H−NMRスペクトルはJEOL GX−400または270 MHzの分光計を用い、溶媒としてCDCl3 (重水素化クロロホルム)を用い、また内部標準(物質)としてTMS(テトラメチルシラン)を用いて測定し、さらに、旋光度は、波長586nmでJASCO J−20で測定した〔K8sel gel 60 F254 (メルク社製)をTLC分析に用いた。〕
【0055】
前記の実施例及び参考例において、濃縮は減圧下に揮発分の蒸発によって行い、濾過はセライトを通して行った。
さらに、実施例及び参考例において、反応液の後処理は、塩化メチレンで希釈し、水で洗浄し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、濃縮することによって行った。
【0056】
参考例1
〔反応式2−(1)の反応〕
2,3,4−トリ−O−ベンジル−6−O−p−ニトロベンゾイル−α−D−グルコピラノシルブロミド(化合物VIII)の合成
2,3,4−トリ−O−ベンジル−1,6−ジ−O−p−ニトロベンゾイル−D−グルコピラノ−ス(1.45g、1.94mmol)の臭化水素で飽和した塩化メチレン液(15ml)を室温中で、30分間攪拌した。セライトを通して濾過した後、溶液を減圧下濃縮し、塩化メチレン(5ml)を加えて減圧下濃縮を繰り返して、得られた化合物VIII1,2)のシロップ状の残渣を、更なる精製をすることなく次の参考例2の反応〔反応式2−(2)〕に供した。
【0057】
1)T.Ishikawa and H.G.Fletcher,J.Am.Chem.Soc.,34,563(1969).
2)R.U.Lemieux, K.B.Hendrix, R.V.Stick and k.James,J.Am.Chem.Soc.,97,4056(1975).
【0058】
〔反応式2−(2)の反応〕
1,2−アンヒドロ−3−O−〔2,3,4−トリ−O−ベンジル−6−O−p−ニトロベンゾイル−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ル(化合物IX)の合成
塩化メチレン中の(S)−グリシド−ル(グリシド)(720mg,9.7mmol)、テトラメチル尿素(338mg、2.9mmol)、臭化テトラエチルアンモニウム(440mg,3.8mg)および粉状モリキュラ−シ−ブ3A(300mg)の混合物の塩化メチレン溶液(10ml)を室温で15分間攪拌した。上記参考例1のようにして合成した1.45gの2,3,4−トリ−O−ベンジル−1, 6−O−p−ニトロベンゾイル−α−D−グルコピラノシルブロマイド(化合物VII1)の塩化メチレン溶液5mlを室温下5分間で該混合物の塩化メチレン溶液に添加し、反応混合物を一夜攪拌した。混合液は通常の後処理を行い、そして得られたシロップはシリカゲルカラムクロマトグラフィ−(溶媒;トルエン:酢酸エチル=10:1)で精製して、シロップ状の化合物IXを972mg(収率:78%)得た。
1H−NMR(ppm) :4.96(1H, d, J=3.8Hz, H-1') 、2.60(1H, dd, J=2.8, 4.9Hz, H-1a) 、2.79(1H, dd, J=4.3, 4.9Hz, H-1b)、3.22(1H, m, H-2)、3.83(1H, dd, J=3.0, 12.0Hz, H-3a )、3.50(1H, dd, J=6.3, 12.0Hz, H-3b )
【0059】
〔反応式2−(3)の反応〕
1,2−アンヒドロ−3−O−〔2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ル(化合物X)の合成
参考例2で得られた化合物IXの粗製シロップ(500mg)とナトリウムメチラ−ト10mgを含むメタノ−ル溶液(10ml)との混合物を3時間攪拌し、Amberlyst 15(H +型)で中和処理し、そしてシロップ状の化合物Xを384mg(収率:100%)得た。
〔α〕22 D :+38°(CHCl3 ,c 0.1)、
1H−NMR(ppm) :4.90(1H, d, J=3.6Hz, H-1') 、2.60(1H, dd, J=4.6, 4.8Hz, H-1a) 、2.80(1H, dd, J=4.5, 4.5Hz, H-1b)、3.21(1H, m, H-2)、3.83(1H, dd, J=3.1, 11.8Hz, H-3a )、3.50(1H, dd, J=6.3, 11.8Hz, H-3b )
【0060】
参考例2
〔反応式3−(1)の反応〕
1−O−パルミトイル−3−O−〔2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ル(化合物XI)の合成
DMF(10ml)中の化合物X(300mg、0.61mmol)、パルミチン酸(1g)および炭酸セシウム(650mg)との混合物を、8時間、120〜130℃で攪拌した。混合物を濾過しそして通常の後処理を行い、化合物XIをワックス状の固体として390mg(収率:85%)得た。
〔α〕22 D :+25°(CHCl3 ,c 0.2)、mp.:38℃、
1H−NMR:4.74(1H, d, J=3.5Hz, H-1)、3.40(1H, dd, J=7.5, 10.2Hz, H-1a)、3.77(1H, H-1b)、4.05(1H, m, H-2)、4.14(1H, dd, J=5.6, 11.7Hz, H-3a )、4.18(1H, dd, J=4.5, 11.7Hz, H-3b )、FB−MS:704(M+1)
【0061】
〔反応式3−(2)の反応〕
1,2−ジ−O−パルミトイル−3−O−〔2,3,4−トリ−O−ベンジル−6−O−tert−ブチルジメチルシリル−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ル(化合物XII)の合成
化合物XI(200mg,0.26mmol)、トリエチルアミン(0.2ml)及びN,N−ジメチルアミノピリジン(100mg)の塩化メチレン溶液10mlに攪拌下、tert−ブチルジメチルシリルクロライド(50mg、0.33mmol)の塩化メチレン溶液0.5mlを添加した。室温で12時間攪拌後、塩化パルミトイル(150mg,0.55mmol)を添加し、さらに6時間攪拌した。混合物に水0.2mlを加え、そして30分間攪拌した。有機層を分離し、通常の後処理を行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィ−(溶媒;n−ヘキサン:酢酸エチル=50:1)で精製して、シロップ状の化合物XIIを252mg(収率:86%)得た。
1H−NMR(CDCl3 、ppm ):4.75(1H, d, J=3.6Hz, H-1) 、3.53(1H, dd, J =6.1, 11.2Hz, H-3a)、3.74(1H, dd, J=5.3, 11.2Hz, H-3b )、5.24(1H, m, H-2)、4.40(1H, dd, J=3.5, 11.9Hz, H-1a )、4.20(1H, dd, J=5.8, 11.9Hz, H-1b )、FB−MS:878(M+1)
【0062】
〔反応式3−(3)の反応〕
1,2−ジ−O−パルミトイル−3−O−〔2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ル(化合物I)
化合物XII(200mg、0.18mmol)とトリフルオロ酢酸(0.1ml)との混合物のメタノ−ル溶液(0.9ml)を、室温で、12時間攪拌した。そして、その後減圧濃縮し、トルエンを加えて減圧下に繰り返し濃縮した。残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィ−(溶媒;トルエン:酢酸エチル=5:1)で精製して、ワックス状の固体として化合物Iを170mg(収率:95%)得た。
〔α〕22 D :+23°(c 0.2,CHCl3 )、 1H−NMR(ppm) :4.71(1H, d, J=3.6Hz, H-1) 、4.42(1H, dd, J=3.7, 12.0Hz, H-1a)、4.19(1H, dd, J =6.2, 12.0Hz, H-1b)、3.96(1H, t, J=9.2Hz, H-3')、0.88(6H, t, J=7Hz, CH3)、5.24(1H, m, H-2)、3.55(1H, dd, J=5.1, 10.8Hz, H-3a)、3.74(1H, dd, J=6.0, 10.8Hz, H-3b)、FB−MS:1002(M+1)
【0063】
実施例1
〔反応式1−(1)の反応〕
1,2−ジ−O−パルミトイル−3−O−〔2,3,4−トリ−O−ベンジル−6−O−(2−ブロモエトキシ)−フォスフィナ−ト−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ル(化合物II)の合成
トリエチルアミン(0.12ml)と2−ブロモエチル−ホスホリル−ジクロライド(100mg)とのトリクロロエチレン溶液2mlを化合物I(150mg、0.15mmol)のトリクロルエチレン溶液(3.2ml)に添加した。そして混合物は室温下で12時間攪拌した。エチルエ−テル(5ml)とトリエチルアミン(0.1ml)を添加した後、混合物を2時間還流した。冷却後、反応混合物は5%塩酸で酸性とし、エチルエ−テルで抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−(溶媒;クロロホルム:メタノ−ル=10:1)で精製して、シロップ状の化合物IIを141mg(収率:79%)得た。
〔α〕22 D :+11.4°(c 0.35,CHCl3 )、 1H−NMR(ppm) :0.88(6H, t, CH3) 、4.72(1H, d, J=3.7Hz, H-1')、4.40(1H, dd, J=3.3, 12.1Hz, H-1a)、4.19(1H, dd, J=6.1, 12.1Hz, H-1b)、5.23(1H, m, H-2) 、3.95(1H, t, J=9.3Hz, H-3')、4.10(2H, m, -CH2-O-P)、3.42(2H, t,-CH2-Br)、FB−MS:1188(M+1)
【0064】
〔反応式1−(2)の反応〕
1,2−ジ−O−パルミトイル−3−O−〔2, 3, 4-トリ−O−ベンジル−6−O−(2−トリメチルアミノエトキシ)−ホスフィナ−ト−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ル(化合物III)の合成
トリメチルアミン(ガス)で飽和しているクロロホルム−2−プロパノ−ル−DMF(3:5:5)混合溶液3mlに化合物II(100mg、0.08mmol)を溶解した後、70℃で8時間加熱し、その後冷却し、炭酸銀を加えた。反応混合液は加熱下(70℃)で1時間還流し、その後室温まで冷却した。そしてセライトを通して濾過した。濾液を濃縮し、残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィ−(溶媒;クロロホルム:メタノ−ル=1:1)で精製して、シロップ状の化合物IIIを61mg(収率:62%)得た。
〔α〕22 D :+30.0°(c 0.04,CHCl3)、 1H−NMR(ppm) :0.88(6H, t, CH3) 、3.17(9H, S, N(CH3)3)、3.92(1H, t, J =9.3Hz, H-3')、4.18(1H, dd, J=6.0, 12.1Hz, H-1b)、4.39(1H, dd, J=3.3, 12.1Hz, H-1a)、5.23(1H, m, H-2)、FB−MS:1175(M+1)
【0065】
〔反応式1−(3)の反応〕
1,2−ジ−O−パルミトイル−3−O−〔6−O−(2−トリメチルアミノエトキシ)−ホスフィナ−ト−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ル(化合物IV)(GGPL−I)の合成
化合物III(50mg,0.04mmol)および水酸化パラジウム〔Pd(OH)2 〕(50mg)の混合物を室温で12時間水素ガスと処理した(メタノール:水:酢酸=10:1:1である混合溶媒、5ml)。その反応液を濾過し、溶媒を濃縮してワックス状の固体として化合物IV(GGPL−I)を35mg(収率:91%)得た。
〔α〕22 D :24.9゜(c 0.06,CHCl3 :MeOH=2:1)、
FB−MS 897(M+1)
1H−NMR(DMSO−d6 ): 3.13(9H, S, N(CH3)3) 、3.53(1H, dd, J =5.4, 11.0Hz, H-3a )、3.68(1H, dd, J=5.2, 11.0Hz, H-3b )、4.32
(1H, dd, J=3.2, 11.8Hz, H-1a)、4.14(1H, dd, J=6.7, 11.8Hz, H-1b)、4.65(1H, d, J=3.6Hz, H-1' )
【0066】
【本発明の作用効果】
本発明の製造法は、水酸基が保護されているグリセロ糖脂質化合物誘導体を出発原料として天然にしか得られなかったホスホリルコリン含有グリセロ糖脂質化合物を化学的に製造することができる新規な製造法を提供するものである。
また、本発明は、その中間体である1,2−ジ−O−パルミトイル−3−O−〔2, 3, 4-トリ−O−ベンジル−6−O−(2−トリメチルアミノエトキシ)−ホスフィナ−ト−α−D−グルコピラノシル〕−sn−グリセロ−ルを含む新規な化合物に関する。
Claims (2)
- 第1段階において、構造式I
第2段階において、前述のようにして得られた化合物IIとトリメチルアミンとを溶媒中で反応させて、構造式III
【化3】
[但し、構造式IIIにおける、Aは前述と同様である。]で示される化合物IIIを合成し、最後に、
第3段階において、前述のようにして得られた化合物IIIを水添触媒の存在下に水素と接触させて構造式IV
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