JP3717377B2 - 無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体とその製造方法およびそれを用いた成形品 - Google Patents

無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体とその製造方法およびそれを用いた成形品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱成形性に優れたシート状の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体とその製造方法、並びに上記発泡体を用いて製造される成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレン系樹脂の高発泡体は公知であって、例えば
・ 高温高圧下、ポリエチレン系樹脂に揮発性発泡剤を混練した後、大気中等の低圧域に押出して発泡させたもの、
・ ポリエチレン系樹脂に、加熱によって分解してガスを発生する分解型発泡剤を、架橋剤と共に溶融混練してシート状などに成形し、次いで加熱処理や電子線処理を施して架橋した後、加熱発泡させたもの、あるいは
・ ポリエチレン系樹脂に架橋性シラン化合物を溶融混練して発泡体に成形した後、加温加湿によって架橋させたもの
などが挙げられる。
【0003】
このうち後2者の架橋ポリエチレン系樹脂発泡体は熱成形性が良く、特に深絞り成形性に優れるため、折板鋼板や洗槽タンクなどの結露防止材として広く利用されているものの、架橋しているために価格が高く、しかもマテリアルリサイクルが困難であるなどの問題がある。
一方、無架橋のポリエチレン系樹脂発泡体は安価で、かつマテリアルリサイクルも容易であるものの、これを熱成形して成形品に2次加工しようとすると亀裂、破れ、部分的なすけなどを生じて品質的に劣った成形品しか得られず、またこれを防止しようとすると、成形品の深さと口径の比で表される絞り比が小さい範囲に限られた、簡単なものしか成形できないなどの問題がある。
【0004】
無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体の熱成形性を改善するものとして、例えば特開昭59−196329号には、密度0.920〜0.966g/cm3、メルトインデックス5以下の無架橋のポリエチレン系樹脂を用い、見かけ密度0.0067〜0.10g/cm3で、かつ引き裂き強度の異方性が1.0〜1.50の発泡体が開示されており、かかる発泡体は良好な熱成形性を示すことが記載されている。
【0005】
しかしながらこの公報においては、基材となる無架橋ポリエチレン系樹脂の密度とメルトインデックスについてのみ検討されており、その範囲内におけるそれ以外の他の樹脂特性が熱成形性にどのような影響を与えるかという詳細な検討は一切、なされていない。
また上記公報では、発泡体の、引裂強度の異方性を上記の範囲内に規定することで熱成形性を向上できたとしているが、発泡体の密度や厚み、あるいは押出発泡方法や発泡成形方法の種類や条件等によっては、製造される発泡体の、引裂強度の異方性を上記の範囲内とすることが困難な場合があり、上記の構成を全ての無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体に応用できるものではない。
【0006】
さらに上記公報では、発泡体の熱成形性を評価するために単一のカップ状のものを成形しているだけであり、例えば青果や電子部品等を多数、集合包装するための複数の凹凸を含み、エッジ部のような部分的な成形伸び特性を必要とする成形についての検討はなされておらず、実質的にこのような成形品を成形するには適さないものであった。
一方、特開平11−156910号公報には、
(ア) 特定条件下で測定されるメルトインデックス、およびメルトテンションが所定の範囲にあるポリエチレン系樹脂
(イ) 応力を一定期間加えた時の歪み量と、特定条件下で測定されるメルトインデックスとが、それぞれ特定の範囲にあるポリエチレン系樹脂
(ウ) 上記(イ)に加えてさらに発泡体の長手方向(押出発泡法では押出方向)、幅方向および厚み方向の平均気泡径の比が特定の範囲にあり、なおかつ独立気泡率が特定の範囲以上であるポリエチレン系樹脂
を用いることによって、熱成形性の向上した発泡体が得られることが記載されている。
【0007】
しかしながら上記公報では、押出発泡性や発泡成形性、発泡体の諸物性を中心に上記の各特性が検討されているだけで、ポリエチレン系樹脂の樹脂特性と、発泡体の熱成形性との関係について詳細な検討はなされていない。
しかも上記の構成は、見掛け密度が0.06g/cm3以上という比較的低倍率、高密度の発泡体について有効であるものの、高い緩衝性を要求される、密度0.06g/cm3未満の高倍率、低密度の発泡体と、それから熱成形される成形品には応用できないという問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の主たる目的は、マテリアルリサイクルが可能な無架橋ポリエチレン系樹脂を用いて、これまでよりも複雑な形状を有し、しかもポリエチレン系樹脂発泡体の特徴である緩衝性、柔軟性にも優れた成形品を熱成形によって製造することが可能な、熱成形性に優れた新規な発泡体を提供することにある。
また本発明の他の目的は、上記発泡体を製造するための製造方法を提供することにある。
【0009】
また本発明のさらに他の目的は、上記発泡体を熱成形して製造された、これまでよりも複雑な形状を有し、しかも緩衝性、柔軟性に優れるとともに、マテリアルリサイクルが可能な成形品を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、発明者らは、無架橋ポリエチレン系樹脂の樹脂特性と熱成形性との関係を、例えば青果や電子部品などを多数、集合包装するための複数の凹凸などを含む、複雑な形状の成形品を熱成形する際の熱成形性を中心として詳細に検討した。また併せて発泡体の諸特性と熱成形性とについても検討した。
【0011】
その結果、加熱溶融時の樹脂自体の物性、特に伸び特性を規定する溶融時最高引取速度を特定の範囲内に規定した樹脂を使用して、特定の密度、厚み、平均気泡径および独立気泡率を有する発泡体を製造すると、かかる発泡体は熱成形性に優れるため、熱成形によって、これまでよりも複雑な形状を有し、しかもポリエチレン系樹脂発泡体の特徴である緩衝性、柔軟性に優れた成形品を製造できるものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体は、熱成形して成形品を製造するために用いるものであって、樹脂温度130℃、溶融降下速度20mm/分の条件で、引取速度を毎分20m/分の割合で増加させながら測定される溶融時最高引取速度が5〜30m/分である無架橋のポリエチレン系樹脂によって形成され、密度が0.01〜0.1g/cm3、厚みが0.5〜5mm、平均気泡径が0.2〜5.0mmで、かつ独立気泡率が50〜95%であることを特徴とする。
【0013】
無架橋ポリエチレン系樹脂の、上記の条件で測定される溶融時最高引取速度が5m/分未満では樹脂自体の伸び特性が悪く、発泡体を所定の成形品の形状に熱成形すべく引き伸ばした際に、樹脂の伸びがそれに追従できないため、各凹凸部の特にエッジ部分などに裂けや破れが生じやすなって熱成形性が悪化する。
逆に30m/分を超えた場合には、樹脂自体の伸び特性には優れるものの、発泡体を所定の成形品の形状に熱成形すべく引き伸ばした際に、局部的に引き伸ばされやすくなるため、成形品の肉厚を均一に保てなくなって、やはり熱成形性が悪化する。
【0014】
なお、溶融時最高引取速度の好ましい範囲は8〜20mm/分である。
また発泡体の密度が0.01g/cm3未満では、当該発泡体の弾性率が小さくなるため成形品が形状安定性に劣るものとなり、また取り扱い時に破損しやすいものとなる。一方、密度が0.1g/cm3を超えた場合には、発泡体の弾性率が高くなって、前記のように成形品の緩衝特性が不十分になる。
密度の好ましい範囲は0.015〜0.055g/cm3である。
【0015】
厚みが0.5mm未満では、厚み方向の気泡数が少なくクッション性がないため成形品の緩衝特性が不十分になり、また熱成形時に、部分的にさらに厚みが薄くなるため成形品の形状を維持できなくなるおそれがある。一方、厚みが5mmを超えた場合には断熱性能が高すぎて、熱成形時に均一に加熱することが困難になり、また成形時の型の出が悪くなってしまう
【0016】
平均気泡径が0.2mm未満では、気泡膜が薄く気泡膜強度が弱くなるため、発泡体を製造する際に破泡して連続気泡となりやすく、また発泡速度が速くなるためコルゲートが多数発生して、そのうち肉薄の谷の部分が成形時に破れや裂けを生じやすくなる。また気泡膜強度の低下は、熱成形時における破泡の原因となって、特にエッジ部に裂けや破れが生じやすいという問題もある。
一方、平均気泡径が5.0mmを超えた場合には、気泡が大きいために見た目の外観が悪くなり、また白色度に劣るため用途によっては敬遠されやすくなる。
【0017】
平均気泡径の好ましい範囲は0.3〜3mmである。
独立気泡率が50%未満の場合には、押出直後に発泡剤が逸散しやすく、気泡内の圧力が低下して収縮しやすくなるため、例えばシートをロール状に巻き取っている間に収縮が進行してシート間に空間ができ、そのまま巻き取ると巻き締まりが起こって蛇行する問題を生じやすい。また成形品の緩衝特性や強度が低下しやすい。
【0018】
一方、独立気泡率が95%を超えた発泡体は、それ自体を製造することが困難であり、その製造には特殊な装置を使用する必要がある。またその上、これまでよりも生産性を下げる必要もある。
独立気泡率の好ましい範囲は60〜90%である。
上記本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体は、前述した条件で測定される溶融時最高引取速度が5〜30m/分である無架橋のポリエチレン系樹脂と発泡剤とを押出機に供給し、溶融混練したのち押し出して発泡させる本発明の製造方法によって製造される。
【0019】
かかる本発明の製造方法によれば、前述した本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体を連続的に、効率よく製造することができる。
また本発明の成形品は、本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体を熱成形して製造される。
かかる本発明の成形品は、前記のようにこれまでよりも複雑な形状を有し、しかも緩衝性、柔軟性に優れるとともに、マテリアルリサイクルが可能なものとなる。したがって本発明の成形品は、例えば青果や電子部品等を多数、集合包装するための複数の凹凸を含む容器等として好適に使用することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を説明する。
〈無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体〉
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体は、前記のように樹脂温度130℃、溶融降下速度20mm/分の条件で、引取速度を毎分20m/分の割合で増加させながら測定される溶融時最高引取速度が5〜30m/分である無架橋ポリエチレン系樹脂にて形成され、その密度、厚み、平均気泡径、および独立気泡率が前記の範囲内である必要がある。この理由は前述した通りである。
【0021】
上記無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体の、その他の物性については特に限定されないが、原材料としての無架橋ポリエチレン系樹脂の、上記と同じ樹脂温度130℃、溶融降下速度20mm/分の条件で、引取速度を毎分20m/分の割合で増加させながら測定される溶融時最高張力は、20〜60gであるのが好ましい。
溶融時最高張力が20g未満では、樹脂の弾性的な性質が不足するため、加熱された際に自重によって垂れ下がりやすく、熱成形時におけるドローダウンが大きくなりやすい場合が生じる。また粘性的な性質が強いと、発泡体を所定の成形品の形状に熱成形すべく引き伸ばした際に、局部的に引き伸ばされやすくなるため、成形品の肉厚にばらつきが生じやすいおそれがある。さらには発泡体を製造する際に、発泡力に対して十分な気泡膜強度が得られないため連続気泡になりやすく、また発泡後の引き取り時に自重によって垂れ下がるなどの問題を生じるおそれもある。
【0022】
一方、溶融時最高張力が60gを超えた場合には、逆に樹脂自体の弾性的な性質が強すぎるため樹脂の伸び特性が悪くなり、破断、破泡しやすいためにエッジ部分が裂けやすくなるおそれがある。また成形による歪みが成形品に残りやすいため、成形後に反り返るなど、成形品が寸法安定性に劣るものとなるおそれもある。
なお、溶融時最高張力のさらに好ましい範囲は25〜50gである。
【0023】
また無架橋ポリエチレン系樹脂の、ゲルパーミェーションクロマトグラフによって求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnは1.5〜5であるのが好ましい。
上記Mw/Mnを1.5未満とするには、ポリマー分子をより均一な組成としなければならないため、ポリエチレン系樹脂を製造する際に特殊な触媒を使用したり、特殊あるいは複雑な製造プロセスを必要としたりする結果、樹脂の生産性が低下するおそれがある。
【0024】
一方、Mw/Mnが5を超えた場合には、一般的に弾性的な性質が強くなり、高分子鎖の絡まりが多くなってダイスウェルが大きくなるため、発泡体製造時における幅方向のコルゲートが発生しやすくなる。そしてコルゲートの山谷の差が大きくなり、そのうち薄肉の谷の部分が弱いために集中的に引き伸ばされやすくなって、熱成形時の伸びの均一性が悪化するおそれがあり、特に各凹凸部のエッジ部分に裂けや破れが生じやすくなる。また樹脂の伸び特性も悪くなるため、破断、破泡が発生しやすいおそれもある。
【0025】
Mw/Mnのさらに好ましい範囲は2〜4.5である。
無架橋ポリエチレン系樹脂の密度は、0.915〜0.935g/cm3であるのが好ましい。
密度が0.915g/cm3未満では、熱成形をする際の予備加熱時の寸法変化が大きくなって、クランプ部における破れや収縮を生じやすくなるおそれがある。また成形品の寸法精度が低下するおそれがある。
【0026】
逆に密度が0.935g/cm3を超えた場合には、樹脂の結晶性が高いために剛性が強くなって、成形品とした場合の緩衝性や柔軟性、風合い性が低下するおそれがある。またポリマー側鎖分岐が少なくなるため溶融時の張力が小さくなり、押出発泡成形性に劣るものとなって、品質の良い発泡体を得られないおそれもある。
密度のさらに好ましい範囲は0.918〜0.930g/cm3である。
【0027】
さらに無架橋ポリエチレン系樹脂の、加熱温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトインデックスは0.1〜10g/10分であるのが好ましい。
メルトインデックスが0.1/10分未満では、樹脂の溶融粘度が高すぎるために押出圧力が高くなって高トルクが必要となり、また過剰に発熱するため発泡に適した樹脂温度まで下げることが困難となって連続気泡となりやすいおそれがある。
【0028】
逆にメルトインデックスが10g/10分を超えた場合には、樹脂の溶融粘度が低すぎて背圧がかからないため、金型先端内部での発泡力を押さえ込むことができず、特に高倍率の発泡体を製造する際に内部発泡などが起こりやすくなるおそれがある。
メルトインテックスのさらに好ましい範囲は1〜5g/10分である。
かかる無架橋のポリエチレン系樹脂としては、例えばエチレンの単独重合体、エチレンと他の単量体との共重合体などの種々のポリエチレン系樹脂の中から、上記の各特性を満たすものが1種単独で、あるいは2種以上、混合して使用される。
【0029】
また特性を満たすものと満たさないものとを混合して、あるいは特性を満たさないもの同士を混合して、上記の各特性を満たす混合樹脂を調製して使用することもできる。
ポリエチレン系樹脂のうちエチレンの単独重合体としては、例えば低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。
【0030】
またエチレンと共重合体を形成する他の単量体としては、例えば酢酸ビニル、プロピレン、α‐オレフィン(1−ブテンなど)、スチレン、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、塩化ビニル等が挙げられる。共重合体としては、上記他の単量体成分の割合が30重量%以下のものが、好適に使用される。
またポリエチレン系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂を混合しても良い。
【0031】
当該他の樹脂としては、例えばポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、α−オレフィン共重合ポリエチレン、アクリル酸エステル等が挙げられる。他の樹脂は、樹脂の総量中、30重量%以下の割合で混合するのが好ましい。
上記樹脂を発泡させるための発泡剤としては、揮発性発泡剤、分解型発泡剤のいずれを使用してもよい。
【0032】
揮発性発泡剤としては、例えば不活性ガス、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、ケトン等の多岐にわたり、このうち不活性ガスとしては、例えば炭酸ガス、窒素等が挙げられる。また脂肪族炭化水素としては、例えばプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン等が挙げられ、脂環族炭化水素としては、例えばシクロペンタン、シクロへキサン等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素としては、例えば塩化メチル、トリクロロモノフルオロメタン、トリクロロトリフルオロエタン等が挙げられる。さらにエーテルとしては、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル等が挙げられ、ケトンとしては、例えばアセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0033】
上記の中でも特にノルマルブタン、イソブタン、塩化メチルのうちの1種単独、あるいは2種以上の混合物が好ましい。
また分解型発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、アジド化合物、ホウ水素化ナトリウムなどの無機系発泡剤、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸バリウムなどの有機系発泡剤が挙げられる。
【0034】
これら発泡剤は単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。
但し、無架橋ポリエチレンを押出発泡して、前記のように密度が0.1g/cm3以下という低密度の発泡体を製造する場合の発泡剤としては、揮発性発泡剤が好ましい。
揮発性発泡剤を用いる一般的な押出発泡方法は、無架橋ポリエチレンを加圧加熱下の押出機中で混練し、次いで揮発性発泡剤を圧入しつつ、大気中等の低圧域に連続的に押出して発泡させるものである。この場合、押出発泡時に、揮発性発泡剤の蒸発潜熱による溶融樹脂の冷却効果が期待でき、発泡時の気泡膜形成維持が容易となる。そのため外観が良好で連続気泡が少ない、密度0.1g/cm3以下の低密度の発泡体をつくることが可能となる。
【0035】
これに対し、分解型発泡剤を用いる場合の押出発泡方法は、無架橋ポリエチレンと分解型発泡剤とを押出機に供給し、押出機中で溶融混練しつつ、分解型発泡剤の分解温度以上に加圧加熱し、次いで低圧域に押出して発泡させるものである。この方法では、揮発性発泡剤のような発泡時の蒸発潜熱が期待できないため、発泡時の気泡膜形成維持が困難となる。したがって低密度の発泡体を得ようとして分解型発泡剤の添加量を多くしても、連続気泡が多く、外観が悪い発泡体しか得られないおそれがある。
【0036】
しかし分解型発泡剤の中でも有機系発泡剤は、脂肪族炭化水素等の揮発性発泡剤と併用した際に気泡核剤として機能して、平均気泡径が5.0mm以下の、緻密な、しかも気泡径の揃った均一な発泡体を形成するために機能する。
したがって特に好適な発泡剤としては、脂肪族炭化水素と有機系分解型発泡剤との併用系が挙げられる。
樹脂には、発泡性を阻害しない範囲で、必要に応じて発泡助剤、滑剤、収縮防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤、着色剤、無機気泡核剤、無機充填剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0037】
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体には、その強度を向上したりガスバリア性を高めたりするため、少なくとも片面に、ポリオレフィン系樹脂フィルムを積層しても良い。
積層の方法としては、例えばサーマルラミネート法、ホットメルト接着剤によるラミネート法等の、従来公知の一般的な積層法を採用することができる。
ポリオレフィン系樹脂フィルムを形成するポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどの単独重合体や、あるいは他の樹脂との共重合体が使用できる。また、成形性を阻害しない範囲で適度に延伸されたフィルムを使用しても構わない。
【0038】
フィルムの厚みは15〜200μm程度が好ましい。フィルムの厚みが15μm未満では、目的とする強度やガスバリア性の向上効果が少なく、逆に厚みが200μmを超えた場合には、熱成形時にオーブン等で予備加熱した際に、フィルムが軟化するまでに基材としての発泡体が熱ヤケしてしまうおそれがある。
〈発泡体の製造方法〉
上記本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体を製造する方法としては、従来同様に押出発泡法が用いられる。
【0039】
押出発泡に用いる押出機としては、単軸押出機や二軸押出機、あるいはこれらの押出機が複数個連結された押出機を用いることができる。特に混練性や発泡剤の均一な分散等の点から、単軸押出機を2台連結したものが望ましい。
何れの押出機においてもバレルの途中に発泡剤の圧入口を設けておき、揮発性発泡剤を使用する場合はこれを圧入口から圧入して無架橋ポリエチレン系樹脂と混練することが望ましい。
【0040】
押出機の先端にはダイスが付設される。ダイスとしてはサーキュラーダイス、およびTダイのいずれも使用できるが、幅方向の肉厚均一性を考えるとサーキュラーダイスを用いた、前記本発明の製造方法の工程を採用するのが好ましい。
本発明の製造方法では、まずポリエチレン系樹脂と発泡剤とを押出機に供給し、溶融混練したのち、上記サーキュラーダイスを通して筒状に押し出して発泡させる。
【0041】
次にこの筒状発泡体を円環状のマンドレルの外周に沿わせて引き取って冷却する。詳しくは、発泡体内側をマンドレルから空気を吹き付けるとともに、マンドレル自体を水冷して冷却し、また発泡体の外側には空気を吹き付け冷却する。
そして冷却された円筒状発泡体を回転刃等でシート状に切り開くと、本発明の発泡体が連続的に、効率よく製造される。
〈成形品〉
前記発泡体から、本発明の成形品を製造するための熱成形法としては、例えば真空成形や圧空成形、あるいはこれらの応用としてもマッチド・モールド成形、プラグアシスト成形等の、従来公知の成形法を採用することができる。
【0042】
かくして製造される本発明の成形品は、無架橋ポリエチレン系樹脂が本来的に持つ緩衝性、断熱性、柔軟性、復元性などに優れており、例えば梨、リンゴ等の青果を保護しつつ輸送するための青果用パック等に最適である。
【0043】
【実施例】
以下に本発明を、実施例、比較例に基づいて説明する。
なお本発明の各実施例、比較例で使用した無架橋ポリエチレン系樹脂、および製造した発泡体の各特性は、それぞれ下記の方法によって測定を行った。
(溶融時最高引取速度および溶融時最高張力の測定)
ポリエチレン系樹脂の溶融時最高引取速度および溶融時最高張力は、(株)東洋精機製作所製の測定装置〔キャピログラフPMD−C〕を使用して、以下のようにして測定した。
【0044】
すなわち前記のように130℃に加熱して溶融させた状態のポリエチレン系樹脂(予熱時間10分間)を、上記装置の、ピストン押出式プラストメーターのキャピラリー(直径2.095mm、長さ8.0mm、流入角度90°)から、ピストンの降下速度を一定速度に保つことで、溶融降下速度20mm/分の一定速度でひも状に押出しながら、このひも状物を、上記ノズルの下方に位置する張力検出プーリーに通過させた後、引取ロールを用いて、その引取速度を毎分20m/分の割合で増加させつつ引き取って行き、当該ひも状物が切れた時点での引取速度(m/分)および溶融張力(g)を測定して溶融時最高引取速度および溶融時最高張力とした。ただし、測定は1種の樹脂について5回行い、その平均値を各樹脂の溶融時最高引取速度および溶融時最高張力とした。
【0045】
(GPCによるMw/Mnの測定)
測定装置としてはWater社製のGPC 150−C型を使用して、以下の測定条件にて測定を行った。
測定条件
カラム:UT−806M(SHODEX社製)
カラム温度:135℃
注入温度:135℃
ポンプ温度:55℃
感度:64
使用溶媒:o−ジクロロベンゼン(1.0ml/分)
走査時間:60分
注入容積:400μ
(メルトインデックスの測定)
日本工業規格JIS K6760に記載の試験法に則って、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定を行った。
【0046】
(平均気泡径の測定)
発泡体の平均気泡径は、ASTM D−2842−69に準拠して、以下のようにして測定した。
すなわち発泡体を流れ方向、および幅方向に切断し、それぞれの断面を走査型電子顕微鏡〔日本電子(株)製のJSM T−300〕を用いて撮影した。
次いで、撮影された写真における切断面の、特定方向に沿う一直線(60mm)上にかかる気泡数から、気泡の平均弦長(t)を測定し、次式により気泡の直径(d)を算出した。
【0047】
平均弦長(t)=60/(気泡数×写真の倍率)
気泡径(d)=t/0.616
発泡体の流れ方向(MD)、幅方向(TD)および厚み方向(VD)について、それぞれ上記気泡径(d)を求め、次式により、発泡体の平均気泡径を算出した。
平均気泡径=(MD気泡径+TD気泡径+VD気泡径)/3
(独立気泡率の測定)
発泡体の独立気泡率は、ASTM D−2856に準拠して測定を行い、下記式により求めた。
【0048】
【数1】
Figure 0003717377
【0049】
但し、
Vx:発泡体サンプルの実容積(cm3
Va:発泡体サンプルの見掛け容積(cm3
ρf:発泡体サンプルの密度(g/cm3
ρs:ポリエチレン系樹脂の密度(g/cm3
である。
【0050】
(熱成形性試験)
発泡体を、プラグアシスト真空成形法によって熱成形して、次の項目について評価した。なお成形には、外寸法が430mm×300mmの矩形状で、かつ開口径70mm、深さ26mmの半球状のホールが、上記矩形の長手方向に沿って5個、4個、5個、5個の合計19個、配列された型を使用した。
成形性評価1
上記型を使用して、発泡体を成形して得られた成形品の、エッジ部における裂け、割れ、肉厚のばらつきを目視にて観察して、下記の基準で評価を行った。
【0051】
◎:裂け、割れ、肉厚のばらつきは全く発生しなかった。成形性極めて良好。
○:裂けや割れは発生せず、部分的に肉厚が薄くなっているところが見られたが実用上は差し支えなし。成形性良好。
△:部分的に裂けや割れが発生した。成形性やや不良。
×:裂けや割れが全体的に発生し、肉厚のばらつきも大きかった。成形性不良。
【0052】
なおこの成形性評価1においては、雰囲気温度140℃に保たれた加熱炉内に発泡体を入れて、加熱秒数を1秒単位で変化させて成形を繰り返すことによって、最も適した加熱秒数を見つけた上で、再度本試験を行った。
成形性評価2
雰囲気温度140℃に保たれた加熱炉内に発泡体を入れて、加熱秒数を1秒単位で増加させて成形を繰り返しても、エッジ部に裂け、割れ、肉厚のばらつきが発生しない上限の加熱秒数を求め、下記の基準で評価を行った。
【0053】
◎:4秒以上、加熱してもエッジ部に裂け、割れ、肉厚のばらつきが発生しない。成形性極めて良好。
○:2〜3秒、加熱してもエッジ部に裂け、割れ、肉厚のばらつきが発生しない。成形性良好。
×:1秒、加熱しただけでエッジ部に裂け、割れ、肉厚のばらつきが発生するか、もしくは1秒の加熱ではこれらの不良が発生しないものの、2秒、加熱すると発生した。成形性不良。
【0054】
また以下の実施例、比較例では、発泡体の原料である無架橋ポリエチレン系樹脂として、下記表1に示したA〜Hの、8種の樹脂のうち1種を使用した。
【0055】
【表1】
Figure 0003717377
【0056】
実施例1〜4、比較例1〜8
これらの実施例、比較例では、一段目の押出機として口径90mmφの単軸押出機を用い、二段目の押出機として口径115mmφの単軸押出機を用いたタンデム押出機を使用した。
そして無架橋ポリエチレン系樹脂として上記表1の樹脂A〜Hのいずれか1種を使用し、その100重量部を、気泡核剤としての、表2に示す量のアゾジカルボンアミドと混合機で混合したものを一段目の押出機のホッパーに供給した。
【0057】
次いで一段目の押出機のスクリュー回転数を80rpm、シリンダーの温度を160〜210℃に維持しつつ、当該一段目の押出機の途中に付設された2個所の圧入口から、それぞれ樹脂100重量部に対して、発泡剤としての、表2に示す量のブタンと、収縮防止剤としてのステアリン酸モノグリセライド1.0重量部とを圧入した。
次に、溶融、混合した樹脂組成物を一段目の押出機から二段目の押出機に連続的に供給し、当該二段目の押出機中で均一に冷却したのち、二段目の押出機の先端に接続した、口径100mmφ、スリット幅0.5mmのサーキュラーダイスから、表2に示す樹脂温度で、吐出量120kg/時の条件で、大気中に連続的に、円筒状に押し出しながら発泡させた。
【0058】
【表2】
Figure 0003717377
【0059】
そしてこの円筒状の発泡体を、30℃の水で冷却された、外径Mφ=410mmのマンドレルに沿わせて円筒状に引き取った。この際、マンドレルから発泡体の内側に冷却エアーを吹き付けて冷却を行うとともに、プラグ抵抗の低減を図った。また、発泡体の外径より大きなエアリングからエアーを吹き付けて円筒の外部からも冷却したのち、円周上の下側で回転刃によって切開してシート状の発泡体を製造した。
【0060】
得られた発泡体の諸特性、並びに前記成形性評価の結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
Figure 0003717377
【0062】
表より、溶融時最高引取速度が5〜30m/分の範囲を外れる樹脂D〜Hを使用した比較例3〜8、および溶融時最高引取速度が上記の範囲内である樹脂Aを使用したものの、密度、厚み、平均気泡径、および独立気泡率のいずれかが請求項1で規定した範囲を外れる比較例1、2の発泡体は、いずれも成形性が不良であった。これに対し、溶融時最高引取速度が上記の範囲内である樹脂A〜Cを使用し、かつ密度、厚み、平均気泡径、および独立気泡率がいずれも請求項1で規定した範囲内であった実施例1〜4の発泡体はいずれも、成形性が極めて良好か、もしくは良好であり、熱成形性に優れることが確認された。
【0063】
なお上記各実施例、比較例の発泡体、並びに実施例1の、上記成形性評価で得た成形品について、熱プレスを用いて加圧、除圧を繰り返して完全に脱泡した後、前記と同様にして溶融時最高引取速度および溶融時最高張力を測定したところ、表4に示すようにいずれのものも、原料樹脂のデータをほぼ維持していることが確認された。なお熱プレスによる加熱時間は20分程度とした。
【0064】
【表4】
Figure 0003717377
【0065】
【発明の効果】
以上、詳述したように本発明によれば、マテリアルリサイクルが可能な無架橋ポリエチレン系樹脂を用いて、これまでよりも熱成形性に優れ、しかもポリエチレン系樹脂発泡体の特徴である緩衝性、柔軟性に優れた成形品を製造することが可能な新規な発泡体と、その効率的な製造方法と、緩衝性、柔軟性に優れるとともに、マテリアルリサイクルが可能な成形品とが得られるという特有の作用効果を奏する。

Claims (11)

  1. 熱成形して成形品を製造するために用いる無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体であって、樹脂温度130℃、溶融降下速度20mm/分の条件で、引取速度を毎分20m/分の割合で増加させながら測定される溶融時最高引取速度が5〜30m/分である無架橋のポリエチレン系樹脂によって形成され、密度が0.01〜0.1g/cm3、厚みが0.5〜5mm、平均気泡径が0.2〜5.0mmで、かつ独立気泡率が50〜95%であることを特徴とする無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体。
  2. 発泡体を形成する無架橋ポリエチレン系樹脂の、樹脂温度130℃、溶融降下速度20mm/分の条件で、引取速度を毎分20m/分の割合で増加させながら測定される溶融時最高張力が20〜60gであることを特徴とする請求項1記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体。
  3. 発泡体を形成する無架橋ポリエチレン系樹脂の、ゲルパーミェーションクロマトグラフによって求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが1.5〜5であることを特徴とする請求項1記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体。
  4. 発泡体を形成する無架橋ポリエチレン系樹脂の密度が0.915〜0.935g/cm3であることを特徴とする請求項1記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体。
  5. 発泡体を形成する無架橋ポリエチレン系樹脂の、加熱温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトインデックスが0.1〜10g/10分であることを特徴とする請求項1記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体。
  6. 少なくともその片面に、ポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されていることを特徴とする請求項1記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体。
  7. 請求項1記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体を製造する方法であって、樹脂温度130℃、溶融降下速度20mm/分の条件で、引取速度を毎分20m/分の割合で増加させながら測定される溶融時最高引取速度が5〜30m/分である無架橋のポリエチレン系樹脂と発泡剤とを押出機に供給し、溶融混練したのち押し出して発泡させることを特徴とする無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体の製造方法。
  8. 無架橋のポリエチレン系樹脂と発泡剤とを押出機に供給し、溶融混練したのち、サーキュラーダイスを通して筒状に押し出して発泡させ、この筒状発泡体を円環状のマンドレルの外周に沿わせて引き取ることを特徴とする請求項7記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体の製造方法。
  9. 請求項1記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体を熱成形して製造されたことを特徴とする成形品。
  10. 青果の集合包装用パックであることを特徴とする請求項9記載の成形品。
  11. 電子部品の集合包装用であることを特徴とする請求項9記載の成形品。
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