JP3716428B2 - ピストン - Google Patents
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Description
この発明は、クラウン部とスカート部とを一体構造に構成したピストン本体、及び前記スカート部に嵌合した外環部材を有するピストンに関する。
背景技術
内燃機関の駆動によって発生する騒音の一つにスラップ音がある。このスラップ音は、ピストンがシリンダ内を往復運動する時に該ピストンのスカート部がシリンダライナの壁面に衝突することによって発生するものである。つまり、シリンダ内をピストンが往復運動できるように、ピストンとシリンダライナの壁面との間には隙間が形成されている一方で、燃焼室からのブローダウンを防止するため、ピストンに形成されたピストンリング溝にはピストンリングが嵌入しているので、ピストンがシリンダ内を往復運動する時、ピストンピン軸に垂直な方向即ちスラスト方向のシリンダ壁面にピストンが衝突してスラップ音が発生する。
上記のようなスラップ音を低減するため、種々のピストンが開発されている。例えば、スラップ音を低減するピストンとして、本願出願人が先に出願した特願平6−194570号に開示したピストンがある。該ピストンは、第7図に示すように、ピストンリング溝12を備えたクラウン部2とピストンピン22を挿通するピン孔4が形成されたボス部13を備えたスカート部3とから構成したピストン本体1、スカート部3に嵌合する外環部材7、ボス部13と外環部材7との間に介在され且つ外環部材7をスラスト方向に相対移動可能に支持する外環支持部材10を有するものであり、外環部材7とスカート部3との間の隙間を外環部材7の中央部で大きく且つ周辺部で小さく形成し、隙間に油圧を供給するように構成したものである。
上記ピストンは、外環部材7が外環支持部材10によってスラスト方向に相対移動可能に支持されており、しかも外環部材7とスカート部3との間の隙間に油圧が供給されるように構成されているので、ピストンをシリンダボア内に組み込み、前記隙間に油圧を供給すると、外環部材7はシリンダライナに向けて押し付けられて該シリンダライナの壁面に密着した状態になる。
上記ピストンを往復運動させると、ピストン本体1はピストンピン22の軸回りに回転運動即ち揺動運動をする。その揺動運動に伴って、ピストン本体1は外環部材7に対して相対移動する。ピストン本体1が外環部材7の方へ向かって移動すると、即ちピストン本体1が外環部材7に衝突しようとすると、前記隙間内の圧油が周辺部から押し出されるが、前記隙間は外環部材7の中央部で大きく且つ周辺部で小さく形成されているので、ピストン本体1が外環部材7に接近するにつれて前記隙間は小さくなり、前記周辺部が絞りとしての機能を発揮するようになる。このためピストン本体1は油圧による抵抗を受けて外環部材7の方へ接近しにくくなる。このようにピストン本体1がピストンピン22の軸回りに揺動した時に、ピストン本体1は油圧緩衝作用を受けてスラップ音の発生は防止され、長期にわたってスラップ音低減性能を維持することができる。
ところで、前掲特願平6−194570号に開示されたピストンには、外環部材7とスカート部3との間に形成された隙間へ油圧を供給するものであるが、スカート部3のどの箇所に油圧を供給すべきかについては特に言及していない。また、上記出願の明細書の中で従来例として触れている実開昭59−76737号公報に開示されたものについても、油圧の供給箇所についての言及はない。
ところが、ピストンに対する油圧供給箇所を誤ると、所期の目的であるところの油圧緩衝効果が十分には得られないことが判明した。即ち、ピストンのスラップ音に関する最近の研究によれば、まず第1に、スカート部3から外環部材7にスラスト荷重が加わる部位は、第9図に示すように、ピストンピン方向に直交する方向で該ピストンピン中心からやや上になる高さのスカート肩部とスカート下端付近の二箇所になるということ、第2に、ピストンは、第10図に示すように、上部の径が小さくなるようなプロフィール形状に形成されているので、ピストン本体1が反スラスト側に傾いた時にスラスト側では油膜切れが起こるということが明らかになり、スラップ音低減効果を得るうえで油圧供給箇所をどこにするかが重要であることが分かった。
そこで、ピストンに対してスラスト荷重が加わる部位について説明すると、第8図に示すような試験装置を用いて、ピストンのスカート部3とシリンダライナ44のシリンダライナ壁面17との間に感圧紙43を挟み、コンロッド11を任意のクランク角度θで固定し、ピストン頂面に荷重Pを加えることによって、スラスト荷重を計測するとともに、感圧紙43が黒くなった部位を観察したところ、第9図に示すような試験結果が得られた。即ち、第9図における(A)に示すように、上死点(θ=0°)においてはスラスト側でスカート部3の下端付近が黒くなり、反スラスト側でスカート部3の肩部が黒くなっている。また、(B)に示すように、上死点から下死点へ向かって10度(θ=10°)回転した点においては、スラスト側でスカート部3の下端付近が当たっている。更に、(C)に示すように、上死点から下死点へ向かって30度(θ=30°)回転した点においては、スラスト側でスカート部3の肩部からスカート部3の上半分ぐらいが当たっている。上記実験から分かるように、スカート部3から外環部材7にスラスト荷重が加わる部位は、一般的に、ピストンピンに直交する方向の中央で該ピストンピン中心からやや上になる高さのスカート肩部とスカート下端付近の二箇所になることが分かる。
ところが、前掲特願平6−194570号に開示されたピストンでは、第7図に示すように、油溝5がスカート部3に十字状に形成され、即ち、油溝5は荷重が加わる部位を縦断するように形成されており、それ故、荷重を受ける面積が小さくなるだけでなく、荷重が加わった時に油圧が油溝5から逃げてしまうことになる。従って、荷重の加わるスカート肩部やスカート下端部に油溝5を形成することは適切でないといえる。
次に、ピストンに対する油膜切れの問題について説明する。第11図はピストン運動をイメージ的に表現したものである。図中において、ピストンの左側がスラスト側、右側が反スラスト側である。第10図に示すように、ピストンは一般に熱膨張を考慮して上部の径が小さくなるようなプロフィール形状に形成され、また、第11図において、ピストンは吸入行程(A)、圧縮行程(B)、膨張行程(C)及び排気行程(D)の各行程において揺動運動を繰り返す。圧縮行程について見てみると、ピストンはスラスト側の矢印SPで示す部位がシリンダライナ壁面17から離れた状態で上昇していくため、矢印SP部位は油膜切れを生じる。そして、膨張行程(爆発行程)では、上死点付近(図中、360°から420°にかけての範囲)で筒内圧力によりピストンはスラスト側に急速に移動する。この時、矢印SP部位とシリンダライナ壁面17との隙間が油膜切れを起こしていると、ピストンは減速しないままシリンダライナ壁面17に衝突し、スラップ音が発生することになる。
上記のような現象は、スカート部3に外環部材7を嵌合した上記先願のタイプのピストンにおいても同様に発生するものである。したがって、油圧の供給は油膜切れを生じやすいスカート肩部にすべきであるといえる。
また、実開昭56−39837号公報には、内燃機関のピストン装置が開示されている。該ピストン装置は、クーリングギャラリ内の冷却油を導入路よりピストン本体のスカート部とシリンダライナの間に導入すると共に、スカート部の上下部に設けたシールリングにより、冷却油をスカート部とシリンダライナの間に封入したものである。しかしながら、上記ピストン装置は、閉じ込められたオイルはシリンダライナにも付着しているから、その粘性のため、スムースには移動できず、オイルの大半は上死点に達する前にシールリング隙間から下方に排出されてしまう。従って、コンロッドから給油するか、又はピストン冷却するためのオイル量よりも多量のオイルを上死点位置でも供給できるようなオイルジェット等を用いない限りピストンスラップのダンピング効果を上げることができないという問題がある。
この発明の目的は、ピストン本体のスカート部に外環部材を移動自在に嵌合し、該外環部材とスカート部との間の隙間にオイルを供給するように構成したピストンにおいて、オイルを供給する箇所として、荷重が加わる箇所を避けると共に油膜切れを生じやすい箇所を選択して油溝を形成し、更に、油溝とピストン本体に形成した冷却空洞とを連通し、冷却空洞にオイルジェットを導入することによって、油溝に常にオイルを供給し、オイルによる衝撃緩和を確実にしてスラップ音の低減を図ったピストンを提供することである。
発明の開示
この発明は、ピストンリング溝を備えたクラウン部とピストンピンを挿通するピン孔が形成されたボス部を備えたスカート部とから構成したピストン本体、前記スカート部に嵌合する外環部材、前記ボス部と前記外環部材との間に介在され且つ前記外環部材をスラスト方向に相対移動可能に支持する外環支持部材、及び前記スカート部のスラスト側及び反スラスト側の表面にそれぞれ形成された油溝を有し、前記油溝の形成箇所を前記ピストンピン中心よりも上方位置で且つ前記ピストンリング溝よりも下方位置としたことを特徴とするピストンに関する。
このピストンは、前記油溝をスカート肩部における衝突部位よりもピストンリング溝寄りの位置に設けたものである。
このピストンは、上記のように構成されているので、反スラスト側に傾いた時にも油溝にオイルが供給され、外環部材とピストン本体のスカート部との間の隙間にオイルが供給されて油膜切れは生じなくなり、従って、前記外環部材がシリンダライナに向けて押し付けられ、シリンダライナの壁面に密着した状態になり、その結果、ピストンがスラスト側に移動する時には衝突部位まわりに十分な油膜が確保されているので、衝突が緩和され、確実にスラップ音を低減できる。
ピストンをシリンダ内で往復運動させると、前記ピストン本体は前記ピストンピンの軸回りに回転運動即ち揺動運動し、ピストンの揺動運動に伴って、前記ピストン本体は前記外環部材に対して相対移動する。しかしながら、このピストンは、特に、前記スカート部のスラスト側及び反スラスト側の表面にそれぞれ形成された油溝の形成箇所を前記ピストンピン中心よりも上方位置で且つ前記ピストンリング溝よりも下方位置としたので、ピストンが反スラスト側に傾いた時でも、該スラスト側の前記隙間内に常時オイルが供給されるから、油膜切れが生じることがない。その結果、ピストン本体がその後スラスト側に傾いて前記外環部材に衝突しようとする時にも、衝突部位まわりの前記隙間には十分な油膜が確保されているから、前記隙間内のオイルが押し出され、ピストン本体はオイル緩衝作用を受けることとなり、スラップ音の発生を確実に低減することができる。
また、前記ピストン本体が前記外環部材の方へ向かって移動して前記ピストン本体が前記外環部材に衝突しようとすると、前記隙間内のオイルが前記周辺部から押し出されるが、前記隙間は前記外環部材の中央部で大きく且つ周辺部で小さく形成されているので、前記ピストン本体が前記外環部材に接近するにつれて前記隙間は小さくなり、前記周辺部が絞りとしての機能を発揮するようになる。このため、前記ピストン本体はオイルによる抵抗を受けて前記外環部材の方へ接近し難くなる。このように前記ピストン本体が前記ピストンピンの軸回りに揺動した時に、前記ピストン本体はオイル緩衝作用を受けてスラップ音の発生は効果的に防止され、長期にわたってスラップ音低減性能を維持することができる。
また、このピストンは、前記外環部材と前記スカート部との間の隙間を前記外環部材の中央部で大きく且つ周辺部で小さく形成したものであるので、ピストンの往復運動に伴ってピストンにスラスト力が作用した時に、周辺部の隙間からオイルが徐々に押し出されるため、内部のオイルはスラスト力を受けつつ緩衝作用を行うことができる。従って、このピストンは、ピストンの往復運動時に、前記隙間内の油圧が急上昇して該オイルの剛性化を招くことは起きないので、オイルを用いてもスラップ音を効果的に低減することができる。
また、このピストンは、前記外環部材は外周面の半径がシリンダボアの半径に等しく形成され、前記スカート部は半径が前記外環部材の内周面の半径よりも大きく且つ半径中心が前記ピストン本体の中心から反対方向に偏倚するように形成されている。
また、この発明によるピストンによれば、ゴム又は合成樹脂製の緩衝部材の代わりにオイルを用いてピストンスラップに対する衝撃を緩和することが可能になり、緩衝部材のへたりの問題は発生せず、長寿命の低騒音ピストンを提供することができる。
また、このピストンは、前記ピストン本体には、前記クラウン部の前記ピストンリング溝の内周側に、前記ピストンリング溝に沿った環状の冷却空洞が形成されているものである。
前記ピストン本体には、前記冷却空洞内にオイルジェットから噴射されたオイルを導く第1油路が形成されている。
更に、前記ピストン本体には、前記冷却空洞と前記油溝とを連通する第2油路が形成されている。従って、オイルジェットから噴射されたオイルは、前記第1油路を通じて前記冷却空洞へ供給され、次いで、前記冷却空洞に供給されたオイルは前記第2油路を通じて前記油溝に供給され、前記スカート部と前記外環部材との間の隙間にオイルが常に供給されることになる。
このピストンは、上記のように構成されているので、前記スカート部と前記外環部材との間の隙間即ち油溝に供給するオイルを、ピストンを冷却する目的で設けられた冷却空洞に供給されるオイルを利用することができ、オイルポンプやコンロッド等を変更することなく、低騒音を実現できる。一般に、コンロッド大端部ベアリングの潤滑は、余裕のない構造の設計であり、前記スカート部と前記外環部材との間の隙間にまでオイルを供給するとすれば、オイルポンプの能力を増強したり、前記ベアリングの面積を増大させる等の対策が必要になるが、このピストンの構造によれば、前記ベアリングへの潤滑条件を悪化させることなく、オイルを有効に利用してピストンスラップ騒音を低減させることができる。
このピストンは、上記のように、オイルをピストン本体と外環部材との隙間に保持してピストン上死点まで運ばれるため、ピストン往復移動の途中で前記隙間から排出されるおそれがなく、供給された少量のオイルを利用して確実にスラップ音を低減することができる。即ち、このピストンは、ピストン本体と外環部材との隙間にオイルが存在しているので、前記隙間が狭くなる時にオイルの粘性によって“絞り膜作用”による油膜圧力が発生し、これによってピストンスラップ騒音が緩和されることになる。
【図面の簡単な説明】
第1図はこの発明によるピストンの一実施例を示す分解斜視図、第2図は第1図のピストンにおけるピストン本体と外環部材との相互関係を示す断面図、第3図は第1図のピストンの外観を示す正面図と、第4図は第1図のピストンへ油圧を供給するための油圧供給経路を示す断面図、第5図はシリンダライナ壁面の振動実測装置を示す概略図、第6図はシリンダライナ壁面の振動実測結果を示すグラフ、第7図は先行技術のピストンの分解斜視図、第8図はスラスト荷重の加わる部位を計測するための試験装置を示す概略図、第9図は第8図の試験装置を用いて計測したときの計測結果を示す説明図、第10図はピストンプロフィール形状の一例を示す概略図、第11図はピストン運動のイメージをクランク角60°毎に描いた説明図、第12図のこの発明によるピストンの別の実施例におけるピストン本体の側面図、第13図は第12図の線A−Aにおける断面図、第14図は第13図の線B−Bにおける断面図、及び第15図はシリンダライナの振動加速度の周波数スペクトルを示す線図である。
発明を実施するための最良の形態
以下、図面を参照しながら、この発明によるピストンの実施例について説明する。この発明によるピストンの一実施例を第1図、第2図、第3図及び第4図を参照して説明する。
第1図に示すように、このピストンは、ピストンヘッド部であるクラウン部2とボス部13を備えたスカート部3とを一体構造に構成したピストン本体1、スカート部3に嵌合する外環部材7、ボス部13と外環部材17との間に介在され外環部材7をスラスト方向に相対移動可能に支持する外環支持部材10、ピストン本体1とコンロッド11とを回転自在に連結するピストンピン22、及びピストンピン22に外環支持部材10を取り付けるためのサブピストンピン23を有している。
ピストン本体1のクラウン部2には複数のピストンリング溝12が形成されており、各ピストンリング溝12にはピストンリング(図示せず)が嵌入される。スカート部3は、クラウン部2の外径よりも小さい外径を有し且つクラウン部2の下部に一体的に形成されている。また、ピストン本体1のスカート部3はピストンピン22を挿通するピン孔4が形成されたボス部13を備えている。ピストン本体1には、第3図に示すように、ピン孔4からスカート部3へ向かって延びる油路6が形成されている。そして、スカート部3には、第1図に示すように、油路6から導入された油圧をスカート部3の一面に分布させるための油溝5が形成されている。
油溝5はスカート部3のスラスト側及び反スラスト側にそれぞれ形成されている。油溝5の形成箇所はピストンリング溝12よりも下方位置であって且つピストンピン22の中心軸よりも上方位置に設定されている。もう少し具体的に述べると、スカート部3から外環部材7にスラスト荷重が加わる部位は、第3図に示すように、スカート肩部とスカート下端付近の二箇所(即ちX,Yで示す部位)である。そして、スカート肩部の衝突部位Xは、スカート部3のプロフィール形状にもよるが、概略ピン孔4の中心高さ(即ちピストンピン22中心高さ)から若干上の部位である。油溝5はスカート肩部衝突部位Xよりも少しピストンリング溝12寄りに設けられる。このように油溝5は、スカート部3から外環部材7に荷重が加わる部位X,Yを避けるように形成されるので、大きな面積で荷重を受けることができると共に、荷重が加わった時に油圧が油溝5から逃げてしまうのを避けることができる。また、油溝5の形状は、油溝5の形成箇所さえ満足すれば、第1図に示す形状に限定されるものではない。
また、油溝5がスカート肩部の衝突部位Xよりも上に形成されているので、ピストンピンが圧縮行程において反スラスト側に傾いた時にも、油溝5から供給される油圧により油膜切れを生じなくなる。その結果、その後、ピストンが爆発行程即ち膨張行程に移行してスラスト側に傾いても、外環部材7とスカート部3との隙間に供給された油圧によって、油圧緩衝効果が得られるので、スラップ音を低減することができる〔第11図の(B)及び(C)参照〕。
外環部材7は一対の半円弧面部材7bからなり、ピストン本体1のスカート部3に嵌合され、且つピストンピン22に対して対称に配置される。各半円弧面部材7bの周方向両側にはそれぞれ円周方向に延びる腕部18が形成されている。また、外環部材7がシリンダを構成するシリンダライナと同程度の熱膨張率を有する材料で製作されていることが、外環部材7とシリンダライナとの間に熱膨張差が発生せず好ましいものである。例えば、シリンダライナが鋳鉄で製作されている場合には、外環部材7は鋳鉄又は鋼等で製作し、また、シリンダライナがセラミックスで製作されている場合には、外環部材7をセラミックスで製作することができる。
外環支持部材10はピストン本体1のスカート部3に形成されたボス部13にピストンピン22を両側から挟むように配置され、外環部材7を支持するものである。外環支持部材10はピストンピン22の軸回りに回動可能に設けられている。また、外環支持部材10は外環部材7の上下方向移動を規制し且つ外環部材7のスラスト方向の相対移動を許容する案内溝19を有している。案内溝19は外環支持部材10の上部と下部にそれぞれ凸状に形成された係止部即ち鍔部20,21によって規定されている。案内溝19の幅は外環部材7の腕部18の幅と略等しく形成されているので、腕部18は案内溝19に係合可能である。腕部18の案内溝19への係合により、外環部材7は腕部18を介して外環支持部材10に形成された案内溝19に摺動可能に支持される。また、案内溝19の中央部にはスカート部3のピン孔4に整合するピン孔29が形成されている。
ピストンピン22は中心孔28を有しており、該中心孔28にはサブピストンピン23の小径部24が圧入可能になっている。また、ピストンピン22は外周面の3箇所に即ち中央部と両端部に円周状に形成された油溝8,9を有しており、各油溝8,9は油路15,16を介して中心孔28に連通する。ピストンピン22をピストン本体1及びコンロッド11に取り付けた状態においては、第4図に示すように、中央部の油溝8はコンロッド11の油路38と連通し、両端部の油溝9はピストン本体1のピン孔4からスカート部3へ向かって延びる油路6に連通する。
サブピストンピン23は、第1図に示すように、小径部24と大径部25とからなるピン部26と、大径部25の端部に形成されたキャップ部27とから構成されている。小径部24はピストンピン22の中心孔28に圧入される。また、大径部25は外環支持部材10のピン孔29に嵌合される。
このピストンの組立は以下のようにして行われる。まず、ピストン本体1のピン孔4及びコンロッド11の小径部の孔にピストンピン22を挿入して、ピストン本体1にピストンピン22を固定する。次いで、ピストンピン22を両側から挟むように外環支持部材10をピストン本体1のボス部13に当てて、サブピストンピン23の先端の小径部24をピストンピン22の中心孔28に圧入する。これにより、サブピストンピン23の大径部25が外環支持部材10のピン孔29に挿入された状態になり、この状態で、外環支持部材10はピストンピン22の軸回りに回動可能となる。その後、ピストン本体1のスカート部3を一対の外環部材7で両側から挟むようにして、腕部18を外環支持部材10の案内溝19に挿入することにより、上記ピストンは組み立てられる。なお、このピストンは、ピストン単体の状態においては、外環部材7は腕部18が外環支持部材10の案内溝19から簡単に外れてしまうが、ピストンをシリンダ内に収納した状態では、外環部材7は外環支持部材10から外れ落ちることはない。
次に、外環部材7とピストン本体1のスカート部3との関係について説明する。外環部材7とスカート部3との間には、第2図に示すように、隙間14が形成されている。隙間14には油圧が供給される。外環部材7は外周面の半径がシリンダボアの半径と等しく形成されているので、このピストンをシリンダ内に組み込んだ状態においては、外環部材7はシリンダライナに密着することになる。外環部材7の内周面の半径R1は、外環部材7の板厚をtとするとき、R1=Br−tで表される。これに対して、ピストン本体1は、スカート部3の半径R2が外環部材7の内周面の半径R1よりも大きく(R2>R1)、且つスカート部3の半径R2の中心Pがピストン本体1の中心P0から反対方向に微小距離Lsだけ離れるように即ち偏倚するように設定したものである。また、外環部材7とスカート部3との間隔(クリアランス)の取り方について、スカート部3をピストン中心に対して楕円状に形成することもできる(R2>R1)。
この結果、外環部材7とスカート部3との隙間14の間隔は、外環部材7の中央部30と周辺部31とでは異なることになる。即ち、中央部30の間隔(クリアランス)をC1、周辺部31の間隔(クリアランス)をC2で表すとすれば、中央部30の間隔C1は、C1=R1−(R2−Ls)となり、R1、R2、Lsを適当に選ぶことにより、C1>C2となり、外環部材7とスカート部3との間隔は、中央部30から周辺部31に至るに従って、C1からC2まで徐々に小さくなるように形成することができる。
次に、ピストンへの油圧供給経路について説明する。第4図に示すように、ピストン本体1は、コンロッド11の小径端に形成された孔と、スカート部3のピン孔4にピストンピン22を挿通することによって、コンロッド11の小径端に回転可能に支持される。また、コンロッド11の大径端はクランクシャフト33のクランクピン34にコンロッドベアリング32を介して回転可能に支持される。クランクシャフト33はオイルギャラリー35を備えたシリンダブロック36に回転自在に支持される。
一般に、ピストンは、オイルギャラリー35からシリンダブロック36及びクランクシャフト33を経由してクランクピン34まで油路37が形成されている。この実施例では、更にクランクピン34の油路37に連通する油路38がコンロッド11に形成され、油路38に連通する油溝8がピストンピン22の中央部周面に形成されている。ピストンピン22の中央部周面に形成された油溝8は油路39としての中心孔28に連通し、油路39は更にピストンピンの両端部周面に形成された油溝9に連通している。また、油溝9はピストン本体1におけるピン孔4からスカート部3へ向かって延びる油路6に連通している。以上のように構成されているから、オイルギャラリー35から供給された圧油は、これらの油路及び油溝を経由して、ピストン本体1のスカート部3に形成された油溝5へと導かれ、外環部材7とスカート部3との間の隙間14に次々に供給されることになる。勿論、この隙間14は密閉空間ではないから、圧油は隙間14からどんどん出ていく。この状態において、外環部材7はシリンダライナの壁面に向けて所定の圧力で押し付けられ、外環部材7の外周面がシリンダライナの壁面に密着した状態になる。なお、所定の圧力とは、外環部材7をシリンダライナの壁面に常に軽く密着させておく程度の小さな圧力をいう。
この発明によるピストンは、以上のような構成を備えており、以下のように作動する。ピストンが往復運動すると、外環部材7はピストン本体1と一体的に往復運動する。また、ピストンの往復運動に従ってピストン本体1はスラスト方向に移動し即ちピストンピン22の軸回りで揺動し、スカート部3が外環部材7を介してシリンダライナの壁面に衝突しようとする。その時、ピストン本体1は外環部材7の方へ向かって移動するので、外環部材7とスカート部3との間の隙間14に満たされている圧油はスカート部3の周辺部31の隙間C2から押し出される。ところが、その隙間14は外環部材7の中央部30(隙間C1)で大きく且つ周辺部31(C2)で小さく形成されている(C1>C2)ので、ピストン本体1が外環部材7に接近するにつれて隙間14は小さくなるとともに、周辺部31が絞りとしての機能を発揮するようになり、ピストン本体1は急に油圧による抵抗を受けて外環部材7の方へ接近し難くなる。このようにピストン本体1がピストンピン22の軸回りに揺動した時に、ピストン本体1は油圧緩衝作用を受けるので、スラップ音の発生は防止され、長期にわたってスラップ音低減性能を維持することができる。
また、このピストンは、特に、スカート部3のスラスト側及び反スラスト側の表面にそれぞれ油溝5を形成するに当たり、その形成箇所をピストンピン22の中心軸よりも上方位置で且つピストンリング溝12よりも下方位置としたので、ピストンが反スラスト側に傾いた時にも油溝5から供給される油圧により油膜切れは生じなくなる。その結果、ピストンがスラスト側に移動する時には衝突部位まわりに十分な油膜が確保されているので、衝突が緩和され、確実にスラップ音を低減することができる。
この点についての効果を確認するために、第5図に示すような装置を用いてシリンダライナ壁面17の振動を実測した。シリンダに加速度センサー40を取り付け、チャージアンプ41を介してオシロスコープ42で、ピストン作動時におけるシリンダライナ壁面17の振動を計測した。その結果を示したのが第6図である。第6図において、(a)は量産の従来ピストン(外環部材7を備えていない一般のピストン)を組み込んだ場合の振動加速度を記録したものであり、(b)は本発明のピストンを組み込んだ場合の振動加速度を記録したものである。条件は2400rpmモータリングである。上記(a)と上記(b)とを対比すると、明らかなように、上記(b)の方が矢印で示した部分において振動が大幅に低減し、油圧緩衝効果によってスラップ音が低減していることがわかる。なお、第6図における(b)において、残りの振動は動弁系、燃焼室等の要因による振動と見られる。
次に、第12図、第13図、第14図及び第15図を参照して、この発明によるピストンの別の実施例を説明する。
この実施例は、上記実施例と比較してピストン本体にオイルを供給できる冷却空洞と該冷却空洞と油溝5と連通する構成を有している以外は、同一の構成及び同一の機能を有するので、同一部品には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
このピストンは、ピストンリング溝12を備えたクラウン部2とピストンピンを挿通するピン孔が形成されたボス部13を備えたスカート部3とから構成したピストン本体1から構成されている。図示していないが、このピストンは、上記実施例と同様に、スカート部3に嵌合する外環部材(第1図の符号7)、ボス部13と外環部材との間に介在され且つ外環部材をスラスト方向に相対移動可能に支持する外環支持部材(第1図の符号10)、及びスカート部3のスラスト側及び反スラスト側の表面にそれぞれ形成された油溝5を有している。また、ピストン本体1には、クラウン部2のピストンリング溝12の内周側で且つピストンリング溝12に沿った領域に、油溝5と連通するオイルが供給される環状の通路即と冷却空洞45が形成されている。
また、ピストン本体1には、冷却空洞45内にオイルジェット(図示せず)から噴射されたオイルを導くため、スカート部3の下端の開放部48と冷却空洞45とを連通する第1油路の油路46が形成されている。ピストンがピストン下死点付近に位置している時に、シリンダブロックに設けられたオイルギャラリから加圧されたオイルを冷却空洞45に導入するため、オイルギャラリと連通するオイルジェットノズルは、ピストン下死点付近で開放部48に挿入されるように構成されている。従って、オイルギャラリから加圧されたオイルは、油路46を通じて冷却空洞45に確実に供給される。
更に、ピストン本体1には、冷却空洞45に存在するオイルを油溝5に供給するため、冷却空洞45とスカート部3に形成された油溝5とを連通するように、冷却空洞45から下方に延びる第2油路の油路47が形成されている。冷却空洞45内のオイルは、加圧されていないので、油路47と通じた油溝5へのオイル供給は、強制的に行われない。
しかしながら、ピストンの上下運動によって、冷却空洞45内のオイルは上下方向に交互に慣性力を受け、ピストンが上昇した時にオイルが下向きの慣性力を受け、冷却空洞45内のオイルが油路47を通じて油溝5へ供給されることになる。また、このピストンは、その横方向の移動によって、スカート部3と外環部材との隙間(第2図の符号14)が拡がる時に発生する呼吸作用によって、冷却空洞45に存在するオイルが油路47を通じて吸い出されることによって、オイルが油溝5へ供給されることもある。従って、このピストンでは、冷却空洞45のオイルを油路47を通じてスカート部3と外環部材との隙間、即ち、油溝5へ確実に供給することができる。
このピストンは、上記のように構成されており、冷却空洞45にはオイルジェットによってオイルが供給され、冷却空洞45に供給されたオイルによってピストンが冷却されるものであるが、特に、冷却空洞45に供給されたオイルを油路47を通じてスカート部3と外環部材との隙間、即ち、油溝5に確実に且つスムースに供給することができ、一旦、油溝5へ供給されたオイルは、スカート部3と外環部材との間に油膜を形成し、スカート部3と外環部材とが一緒に上下運動するため、オイルは油溝5から強制的に押し出されない限り保持される。従って、ピストン上死点近傍において、ピストンがスラスト側に衝突する際には、隙間や油溝5に保持されたオイルによってスラップを減衰させ、ピストンスラップ騒音を低減させることが可能になる。従って、このピストンは、オイルポンプやコンロッドを変更することなく、冷却空洞45、油路46,47を形成するだけで低騒音ピストンを実現できる。
また、このピストンについて、シリンダライナの振動加速度の周波数スペクトルを測定したところ、第15図に示すような結果を得ることができた。従来品として、油溝及び油溝に連通する油路を設けていないピストンを使用した。測定条件として、計測場所は、第5図に示すように、第2気筒のシリンダライナ外壁のスラスト側の位置にセンサー40を配置し、また、運転条件として1900rpmでモータリングした。第15図の線図から分かるように、周波数(ヘルツHz)に対する振動加速度(デシベルDB)は、周波数が低い時に、本発明品はスラップ騒音を低減できることが分かる。
産業上の利用可能性
この発明によるピストンは、上記のように構成されているので、ピストンが反スラスト側に傾いた時にも油溝からオイルが供給され、外環部材とピストン本体のスカート部との間の隙間に油膜切れは生じなくなる。その結果、ピストンがスラスト側に移動する時には衝突部位まわりに十分な油膜が確保されているので、衝突が緩和され、確実にスラップ音を低減することができ、内燃機関のピストンとして有用である。
Claims (6)
- ピストンリング溝を備えたクラウン部とピストンピンを挿通するピン孔が形成されたボス部を備えたスカート部とから構成したピストン本体、前記スカート部に嵌合する外環部材、前記ボス部と前記外環部材との間に介在され且つ前記外環部材をスラスト方向に相対移動可能に支持する外環支持部材、及び前記スカート部のスラスト側及び反スラスト側の表面にそれぞれ形成された油溝を有するピストンにおいて、
前記油溝の形成箇所を前記ピストンピン中心よりも上方位置で且つ前記ピストンリング溝よりも下方位置としたことを特徴とするピストン。 - 前記ピストン本体には、前記クラウン部の前記ピストンリング溝の内周側で前記ピストンリング溝に沿った領域に前記油溝と連通するオイルが供給される環状の冷却空洞が形成されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のピストン。
- 前記外環部材と前記スカート部との間の隙間を前記外環部材の中央部で大きく且つ周辺部で小さく形成したことを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項に記載のピストン。
- 前記外環部材は外周面の半径がシリンダボアの半径に等しく形成され、前記スカート部は半径が前記外環部材の内周面の半径よりも大きく且つ半径中心が前記ピストン本体の中心から反対方向に偏倚するように形成されていることを特徴とする請求の範囲第1〜3項のいずれかの1項に記載のピストン。
- 前記ピストン本体には、前記冷却空洞内にオイルジェットから噴射されたオイルを導く第1油路が形成されていることを特徴とする請求の範囲第2〜4項のいずれかの1項に記載のピストン。
- 前記ピストン本体には、前記冷却空洞と前記油溝とを連通する第2油路が形成されていることを特徴とする請求の範囲第2〜5項のいずれかの1項に記載のピストン。
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