JP3714876B2 - 耐熱性フィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エレクトロニクス用部材等として好適な耐熱性フィルムに関する。さらに詳細には、低温(≦260℃)での熱融着性が良好であり、かつPCT(プレッシャークッカー試験)処理後のはんだ耐熱性と端裂抵抗値のバランスに優れた耐熱性フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂に代表される結晶性ポリアリールケトン樹脂は、耐熱性、難燃性、耐加水分解性、耐薬品性などに優れている為、航空機部品、電気・電子部品を中心に多く採用されている。しかしながら、ポリアリールケトン樹脂は原料価格が非常に高価な上、樹脂自体のガラス転移温度が約140〜170℃程度と比較的低いことから、耐熱性の改良検討が種々行われてきた。その中でも良好な相溶性を示す系として、非晶性ポリエーテルイミド樹脂とのブレンドが注目されてきた。本発明者らは、特開2000−38464号公報、特開2000−200950号公報等で上記混合組成物を用いたプリント配線基板及びその製造方法を提案した。
【0003】
しかしながら、上記の特許公報で記載されている結晶性ポリアリールケトン樹脂と非晶性ポリエーテルイミド樹脂との混合組成物(通常、寸法安定性向上のため無機充填材等を含む)からなり、結晶性が制御されたフィルムを用いれば、低温(≦260℃)での熱融着性が良好であり、フレキシブルプリント配線基板を作製すると、寸法安定性や耐熱性等は良好なものの、機械的強度、特に端裂抵抗値は必ずしも充分なレベルにはなく、耐折性、耐屈曲性が損なわれるため基板の接続信頼性が確保出来ず、用途範囲が限定されてしまうという問題や基板加工工程でのハンドリング適性が不充分などの問題があり、その改良が望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、低温(≦260℃)での熱融着性が良好であり、かつPCT(プレッシャークッカー試験)処理後のはんだ耐熱性と端裂抵抗値のバランスに優れたエレクトロニクス用部材として好適な耐熱性フィルムを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、結晶性ポリアリールケトン樹脂と特定の2種類の非晶性ポリエーテルイミド樹脂からなる混合樹脂組成物を主成分として用いることで、上記課題を解決することのできる耐熱性フィルムを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨とするところは、下記構造式(1)の繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂(A−1)と下記構造式(2)の繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂(A−2)および結晶融解ピーク温度が260℃以上であるポリアリールケトン樹脂(B)の少なくとも3成分からなる樹脂組成物100重量部に対して充填材を5〜50重量部の範囲で混合したフィルムであって、各成分の混合重量比が{(A−1)+(A−2)}/(B)=70〜30/30〜70、かつ(A−1)/(A−2)=70〜30/30〜70であることを特徴とする耐熱性フィルムに存する。
【0006】
【式1】
【0007】
【式2】
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のフィルムは、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(A−1)、(A−2)と結晶性ポリアリールケトン樹脂(B)とからなる樹脂組成物100重量部に対して充填材を5〜50重量部の範囲で混合したフィルムであって、各成分の混合重量比が{(A−1)+(A−2)}/(B)=70〜30/30〜70、かつ(A−1)/(A−2)=70〜30/30〜70であることを特徴とするフィルムである。本発明でいうフィルムには肉厚が比較的厚い500μm程度以上のシートも含んでいる。
ここで、本発明を構成する非晶性ポリエーテルイミド樹脂は、その構造単位に芳香核結合、エーテル結合及びイミド結合を含む非晶性熱可塑性樹脂であり、具体的には、下記構造式(1)、(2)に示す繰り返し単位を有するポリエーテルイミドが適用され、それぞれ、ゼネラルエレクトリック社製の商品名「UltemCRS5001」、「Ultem 1000」として市販されている。
【0009】
【式1】
【0010】
【式2】
【0011】
非晶性ポリエーテルイミド樹脂の製造方法は特に限定されるものではないが、通常、上記構造式(1)を有する非晶性ポリエーテルイミド樹脂は、4,4´−[イソプロピリデンビス(p−フェニレンオキシ)ジフタル酸二無水物とp−フェニレンジアミンとの重縮合物として、また上記構造式(2)を有する非晶性ポリエーテルイミド樹脂は、4,4´−[イソプロピリデンビス(p−フェニレンオキシ)ジフタル酸二無水物とm−フェニレンジアミンとの重縮合物として公知の方法によって合成される。また、上述した非晶性ポリエーテルイミド樹脂には、本発明の主旨を超えない範囲で共重合可能な他の単量体単位を導入してもかまわない。
また、結晶性ポリアリールケトン樹脂は、その構造単位に芳香核結合、エーテル結合及びケトン結合を含む熱可塑性樹脂であり、その代表例としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等があるが、本発明においては、下記構造式(3)に示す繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンが好適に使用される。この繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンは、VICTREX社製の商品名「PEEK151G」、「PEEK381G」、「PEEK450G」などとして市販されている。なお、使用する結晶性ポリアリールケトン樹脂は、1種類を単独で、2種類以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0012】
【式3】
【0013】
ここで、非晶性ポリエーテルイミド樹脂の合計重量が70重量%を超えたり、結晶性ポリアリールケトン樹脂が30重量%未満では、組成物全体としての結晶性自体が低く、また結晶化速度も遅くなり過ぎ、結晶融解ピーク温度が260℃以上であってもはんだ耐熱性が低下するため好ましくない。
また、非晶性ポリエーテルイミド樹脂の合計重量が30重量%未満であったり、結晶性ポリアリールケトン樹脂が70重量%を超えると組成物全体としてのガラス転移温度を向上させる効果が少ないため寸法安定性が不充分となり易かったり、結晶化に伴う体積収縮(寸法変化)が大きくなり回路基板としての信頼性が低下し易いため好ましくない。このことから本発明においては、上記結晶性ポリアリールケトン樹脂65〜35重量%と非晶性ポリエーテルイミド樹脂35〜65重量%とからなる樹脂組成物がエレクトロニクス用部材として特に好適に用いられる。
【0014】
さらに、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(A−1)と非晶性ポリエーテルイミド樹脂(A−2)との混合重量比の関係において、(A−2)成分に対する(A−1)成分が70%を超えると、低温での熱融着により作製した多層基板は、PCT(プレッシャークッカー試験)処理後のはんだ耐熱性試験において、層間の樹脂界面でふくれ等が発生しやすく好ましくない。一方、30%未満では端裂強度を向上させる効果が不充分となり好ましくない。このことから非晶性ポリエーテルイミド樹脂(A−1)と非晶性ポリエーテルイミド樹脂(A−2)との好適な混合重量比は、(A−1)/(A−2)=65〜35/35〜65である。
【0015】
また、上述した樹脂組成物100重量部に対して混合する充填材が50重量部を超えると、フィルムの可とう性、端裂抵抗値が著しく低下するため好ましくない。一方、5重量部未満では、線膨張係数を低下して寸法安定性を向上させる効果が少ないため好ましくない。このことから好適な充填材の混合量は、上述した樹脂組成物100重量部に対して10〜45重量部であり、さらにフィルムの寸法安定性と可とう性あるいは端裂抵抗値とのバランスを重視する場合には、20〜40重量部の範囲で制御することが好ましい。
【0016】
本発明のフィルムをプリント配線基板などのエレクトロニクス用基板の基材として適用する場合には、線膨張係数が30×10−6/℃以下であり、かつ端裂抵抗値が縦方向及び横方向ともに少なくとも40MPa以上、好適には50MPa以上であることが好ましい。
ここで、線膨張係数が30×10−6/℃を超えると、金属箔を積層した場合にカールやそりが生じやすく、また寸法安定性が不充分となる。好適な線膨張係数の範囲は、使用する金属箔の種類や表裏面に形成する回路パターン、積層構成などによって異なるが、概ね10×10−6〜25×10−6/℃程度である。また、端裂抵抗値が40MPa未満であると、フレキシブルプリント配線基板などの薄肉基板においては、接続信頼性が不充分となり易かったり、基板加工工程でのハンドリング適性が不充分となり易く好ましくない。なお、本発明における端裂抵抗値は、JIS C2151の端裂抵抗試験に準拠して、厚さ75μmのフィルムから幅15mm、長さ300mmの試験片を切り出し、試験金具Bを用いて、引張速度500mm/分の条件で測定した値である。
【0017】
本発明に用いる充填材としては、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。例えば、タルク、マイカ、クレー、ガラス、アルミナ、シリカ、窒化アルミニウム、窒化珪素などの無機充填材、ガラス繊維やアラミド繊維などの繊維が挙げられ、これらは1種類を単独で、2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、用いる充填材には、チタネートなどのカップリング剤処理、脂肪酸、樹脂酸、各種界面活性剤処理などの表面処理を行ってもよい。特に、本発明をプリント配線基板に適用する場合には、平均粒径が1〜20μm程度、平均アスペクト比(粒径/厚み)が20〜30程度以上、特に50以上の無機充填材が好適に用いられる。
【0018】
本発明フィルムを構成する樹脂組成物には、その性質を損なわない程度に、他の樹脂や充填材以外の各種添加剤、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、着色剤、滑剤、難燃剤等を適宜配合しても良い。また充填材を含めた各種添加剤の混合方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、(a)各種添加剤を結晶性ポリアリールケトン樹脂及び/又は非晶性ポリエーテルイミド樹脂などの適当なベース樹脂に高濃度(代表的な含有量としては10〜60重量%程度)に混合したマスターバッチを別途作製しておき、これを使用する樹脂に濃度を調整して混合し、ニーダーや押出機等を用いて機械的にブレンドする方法、(b)使用する樹脂に直接各種添加剤をニーダーや押出機等を用いて機械的にブレンドする方法などが挙げられる。上記混合方法の中では、(a)のマスターバッチを作製し、混合する方法が分散性や作業性の点から好ましい。さらに、フィルムの表面にはハンドリング性の改良等のために、エンボス加工やコロナ処理等を適宜施してもかまわない。
【0019】
本発明フィルムの製膜方法としては、公知の方法、例えばTダイを用いる押出キャスト法やカレンダー法等を採用することができ、特に限定されるものではないが、フィルムの製膜性や安定生産性等の面から、Tダイを用いる押出キャスト法が好ましい。Tダイを用いる押出キャスト法での成形温度は、組成物の流動特性や製膜性等によって適宜調整されるが、概ね融点以上、430℃以下である。また、該フィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、通常10〜800μm程度である。
【0020】
【実施例】
以下に実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示されるフィルムについての種々の測定値および評価は次のようにして行った。ここで、フィルムの押出機からの流れ方向を縦方向、その直交方向を横方向とよぶ。
【0021】
(1)ガラス転移温度(Tg)、結晶融解ピーク温度(Tm)
パーキンエルマー(株)製DSC−7を用いて、試料10mgをJIS K7121に準じて、加熱速度を10℃/分で昇温した時のサーモグラムから求めた。
【0022】
(2)端裂抵抗値
JIS C2151の端裂抵抗試験に準拠して、多層基板作製時のプレス条件と同様に温度250℃、時間30分の条件で結晶化処理した厚さ75μmのフィルムから幅15mm、長さ300mmの試験片を切り出し、試験金具Bを用いて、引張速度500mm/分の条件で縦方向及び横方向を測定した。
【0023】
(3)接着強度
JIS C6481の常態の引き剥がし強さに準拠して測定した。
【0024】
(4)はんだ耐熱性
JIS C6481の常態のはんだ耐熱性に準拠し、260℃のはんだ浴に多層基板を銅箔側とはんだ浴とが接触するように20秒間浮かべ、室温まで冷却した後、膨れやはがれ等の有無を目視によって調べ、良否を判定した。
【0025】
(5)PCT処理後のはんだ耐熱性
プレッシャークッカー試験機を用い、温度:121℃、湿度:100%RH、気圧:202650Pa(2atm)の条件で作製した多層基板を4時間処理した後に取り出し、JIS C6481の常態のはんだ耐熱性に準拠し、260℃のはんだ浴に多層基板を銅箔側とはんだ浴とが接触するように20秒間浮かべ、室温まで冷却した後、膨れやはがれ等の有無を目視によって調べ、良否を判定した。
【0026】
(実施例1)
表1に示すようにポリエーテルイミド樹脂[ゼネラルエレクトリック社製、Ultem−CRS5001、Tg:226℃](以下、単にPEI−1と略記することがある 本発明のA−1に対応する)30重量部、ポリエーテルイミド樹脂[ゼネラルエレクトリック社製、Ultem−1000、Tg:216℃](以下、単にPEI−2と略記することがある 本発明のA−2に対応する)20重量部、ポリエーテルエーテルケトン樹脂[ビクトレックス社製、PEEK381G、Tg:143℃、Tm:334℃](以下、単にPEEKと略記することがある 本発明のBに対応する)50重量部および市販のマイカ(平均粒径:10μm、アスペクト比:50)25重量部とからなる混合組成物を、Tダイを備えた押出機を用いて設定温度380℃で、厚さ75μmのフィルムに押出し、同時に銅箔(厚さ:18μm、表面粗面化)をラミネートすることにより片面銅箔積層フィルムを得た。また、評価用に厚さ75μmのフィルム単体も得た。次いで得られた片面銅箔積層フィルムをA4サイズに切り出し、エッチングにより所望の回路を形成後、スールホールを加工し、導電性ペーストを充填した。さらに導電性ペーストを充填した片面銅箔積層フィルムを3枚(銅箔/樹脂フィルム/銅箔/樹脂フィルム/銅箔/樹脂フィルム/銅箔)積層し、温度250℃、時間30分、圧力2.94MPaの条件で真空プレスし、多層基板を作製した。得られた多層基板を用いて評価した結果を表1に示す。
【0027】
(比較例1)
表1に示すように、実施例1において使用した樹脂組成物をPEI−1/PEEK=50/50重量部に変更した以外は、実施例1と同様に多層基板を得た。得られた多層基板を用いて評価した結果を表1に示す。
【0028】
(比較例2)
表1に示すように、実施例1において使用した樹脂組成物をPEI−1/PEI−2/PEEK=10/40/50重量部に変更した以外は、実施例1と同様に多層基板を得た。得られた多層基板を用いて評価した結果を表1に示す。
【0029】
(比較例3)
表1に示すように、実施例1において使用した樹脂組成物をPEI−2/PEEK=50/50重量部に変更した以外は、実施例1と同様に多層基板を得た。得られた多層基板を用いて評価した結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1より、本発明で規定するポリアリールケトン樹脂と2種類のポリエーテルイミド樹脂を有し、かつそれらの混合重量比が規定の範囲内にある実施例1のフィルムは、低温熱融着におけるPCT処理後のはんだ耐熱性と端裂抵抗値ともに優れていることが分かる。これに対して、本発明で規定するポリエーテルイミド樹脂がどちらか一方しか含有されない場合は、低温熱融着におけるPCT処理後のはんだ耐熱性が不良となったり(比較例1)、端裂抵抗値が劣る(比較例3)ことが分かる。また、本発明で規定するポリアリールケトン樹脂と2種類のポリエーテルイミド樹脂を含有しても、それらの混合重量比が規定の範囲内になければ、両者の特性をバランスよく満足できないことが分かる(比較例2)。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、低温(≦260℃)での熱融着性が良好であり、かつPCT(プレッシャークッカー試験)処理後のはんだ耐熱性と端裂抵抗値のバランスに優れたエレクトロニクス用部材として好適な耐熱性フィルムが提供できる。
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