JP3713164B2 - 炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維用サイジング剤溶液、炭素繊維およびそれを用いた炭素繊維シート状物並びに炭素繊維強化樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素繊維シート状物ないし炭素繊維強化樹脂組成物、およびそれらに用いられる炭素繊維、さらにそのサイジング剤およびサイジング溶液に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、繊維強化複合材料の一つに炭素繊維と樹脂からなる炭素繊維強化樹脂組成物がある。
炭素繊維強化樹脂組成物を構成するマトリックス樹脂としては、一般的に広く使用されているエポキシ樹脂のほか、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂などのラジカル重合系樹脂など多くの樹脂が用いられている。
炭素繊維強化樹脂組成物に使用されている炭素繊維は、化学組成の大部分(90%以上)が炭素よりなる繊維であり、再生セルロース、ポリアクリロニトリル(PAN)、ピッチなどから得られ、高強度炭素繊維、高弾性炭素繊維などに区別される。この炭素繊維は、軽量で、比強度および比弾性率に対して特に優れた性質を有している。加えて、耐熱性、耐薬品性にも優れていることなどから、強化材として有効であり、広範囲に用いられている。
【0003】
しかしながら、この炭素繊維は、伸度が小さく脆い材料であるため、その使用に際し、機械的摩擦などによって毛羽が発生しやすいという不都合がある。また、炭素繊維は、一般にマトリックス樹脂に対する接着性に乏しいため、これを使用した炭素繊維強化樹脂組成物において、炭素繊維の有する優れた性質を十分に発揮させることが困難であるという不都合が生じる。
これらの不都合を軽減するため、従来から炭素繊維に対してサイジング剤による処理が施されている。この炭素繊維用サイジング剤は、炭素繊維の取扱性を向上させるために、また、マトリックス樹脂に対する接着性を向上させて、炭素繊維強化樹脂組成物の性質を向上させるために使用されるもので、マトリックス樹脂と炭素繊維の含浸性を向上させ、また、接着性を向上させるなどの性能を有している。
このような炭素繊維に使用されるサイジング剤として、例えば、ポリグリシジルエーテル類などを用いるもの(参照:特公昭57−15229号公報等)(以下、「サイジング剤1」と略記する)や、分子内に少なくとも三つのエポキシ基を有するエポキシ化合物と、ビニル基含有カルボン酸との反応生成物を主成分とするもの(参照:特開昭55−84476号公報等)(以下、「サイジング剤2」と略記する)などの種々のものが提案されている。
上記サイジング剤1は、その使用に際し、優れた含浸性や界面接着力などの利点を有している。
サイジング剤2は、マトリックス樹脂、特に不飽和ポリエステル樹脂との接着性を向上させることができ、また、従来からの懸念であるエポキシ樹脂をマトリックス樹脂として用いた場合の硬化条件変動による炭素繊維強化樹脂組成物の物性変動を低減することができる優れたサイジング剤である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記サイジング剤1では、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂などのラジカル重合系樹脂に対する接着性は十分ではなく、それらの樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維強化樹脂組成物に対しては適当ではない。
また、サイジング剤2は、分子内にエポキシ基とビニル基が必ず一つ以上有していない場合があること、これらの官能基が主鎖末端と分枝支鎖末端のいずれかに存在する可能性があり、しかも分子としての嵩高さが大きく、また炭素繊維とマトリックス樹脂界面層に架橋網を形成しやすいなど、安定した物性の発現が望めないおそれがあった。
【0005】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、エポキシ樹脂だけでなく、特に、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂との樹脂含浸性が良く、また、これらの樹脂と炭素繊維との接着力に優れ、さらに、安定した物性改善効果が得られる炭素繊維、炭素繊維シート状物ならびにこの炭素繊維を強化材料とした炭素繊維強化樹脂組成物、その為のサイジング剤等を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の炭素繊維用サイジング剤は、下記一般式(4)で示される化合物を含有することを特徴とするものである。
【化2】
本発明の炭素繊維用サイジング剤溶液は、この炭素繊維用サイジング剤が水溶液中に分散してなることを特徴とするものである。
本発明の炭素繊維は、上記炭素繊維用サイジング剤が付着されていることを特徴とするものである。
本発明の炭素繊維シート状物は、この炭素繊維を用いてなるものであり、炭素繊維強化樹脂組成物はこの炭素繊維を有することを特徴とするものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のサイジング剤は、下記一般式(4)で示される化合物を含有するものである。
【0008】
【化3】
【0009】
このような化合物であると、上記一般式(4)で示される化合物の二重結合がラジカル重合系樹脂とラジカル反応して結合し、環状脂肪族エポキシ基が炭素繊維表面の活性基と物理的あるいは化学的結合を形成することになる。
この一般式(4)で示される化合物のように、分子の一方の端部に二重結合が、他方の端部に環状脂肪族エポキシ基をそれぞれ配したような分子構造をとることによって、マトリツクス樹脂、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂などのラジカル重合系樹脂などと炭素繊維をより強力に結合する。
【0010】
また、本発明のサイジング剤の骨格は、一般式(4)のようなビスフェノールA型である必要がある。
このビスフェノールA型骨格は、その構造が比較的剛直であることから、これを骨格としてなる上記化合物を主成分としたサイジング剤は、炭素繊維に対して良好な力学的特性を付与することができる。また、このビスフェノールA型骨格は、π共役系を有していることにより、微小なグラファイト結晶で構成されている炭素繊維に対して良好な親和性を有しているため、優れた界面接着性を発現する。
【0011】
このような化合物を主成分として構成してなる炭素繊維用サイジング剤にあっては、その主成分として、その化合物の1種類を単独で用いることもできるが、複数種の化合物を組み合わせて混合物として使用することもできる。
サイジング剤としては、上述した化合物を主成分として含有していればよく、サイジング剤中、40重量%以上あればよい。この主成分と併用される他の成分としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂を用いることができる。
【0012】
このような上記一般式(4)で示される化合物を主成分とした炭素繊維用サイジング剤は、上記の二種類の官能基を必ずそれぞれ一つ有しているものであるため、炭素繊維に対しても、また、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂などのマトリックス樹脂に対しても優れた親和性を有している。したがって、本サイジング剤を付着させて処理した炭素繊維は前記マトリックス樹脂に対し良好な濡れ性を示し、その結果、優れた力学的特性を有する複合材料を得ることができる炭素繊維とすることができる。
【0013】
このサイジング剤を炭素繊維に付着する際には、水、あるいはアセトンなどの有機溶剤などに分散させてサイジング剤溶液として使用することが適当である。特に、サイジング剤を水溶液中に分散させて水エマルジョン系としたものが、アセトンなどの有機溶剤溶液などとした場合と比較して、工業的にも、また安全性の面からも優れているため好ましい。
このような前記炭素繊維用サイジング剤を水溶液中に分散させてなるサイジング剤溶液を調製する際には、分散性を高め、溶液安定性を良好にするため、界面活性剤を利用することが好ましい。ここで使用される界面活性剤としては、ノニオン系、カチオン系、アニオン系のいずれのものも用いることができる。特に、ノニオン系の界面活性剤は、これを用いたサイジング溶液を使用した炭素繊維強化樹脂組成物を形成する場合においてプリプレグ状態などでの優れた貯蔵安定性を有しているため、また、熱可塑性樹脂との複合化などを行う場含にトラブル発生要因となる塩類を有していないことから扱いやすいなどのため好ましい。
【0014】
ここでの炭素繊維用サイジング剤と界面活性剤との配合比率は、重量比でサイジング剤/界面活性剤=95/5〜70/30であり、好ましくは、サイジング剤/界面活性剤=85/15〜75/25である。この範囲にあっては、それを使用して得られるサイジング剤溶液の安定性がよく、なおかつ、サイジング剤の効果に悪影響を与えることがなく好ましい。この配合比率において、界面活性剤の配合比率が上記範囲未満となる場合には、それを使用して得られるサイジング剤溶液の安定性が低下する。一方、上記範囲を越える場合では、それを使用して得られるサイジング剤溶液で炭素繊維を処理するに際し、炭素繊維の表面が界面活性剤に被覆されるという不都合が生じて、サイジング剤が有効に作用することができないため、炭素繊維の界面接着性向上効果に対して悪影響を与える。
さらに、このような上記サイジング剤溶液に対して、平滑剤を配合することで、耐擦過性を向上させた炭素繊維を得ることもできる。
【0015】
本発明の炭素繊維は、上記炭素繊維用サイジング剤または上記サイジング剤溶液を用いてその表面を処理してサイジング剤をその表面に付着させたものである。
このようなサイジング剤溶液を使用して処理される炭素繊維は、ピッチ、レーヨンあるいはポリアクリロニトリルなどのいずれの原料物質からなるものでもよい。またその種類は、例えば、高強度タイプ(低弾性率炭素繊維)、中高弾性炭素繊維および超高弾性炭素繊維などのいずれの種類のものでもよい。さらに、その形態は、長繊維、短繊維あるいは織物、編み物、不繊布などのシート状形態を有するものなどいずれのものでもよく、特に限定されない。
【0016】
この炭素繊維に付着させる炭素繊維用サイジング剤の付着量は、0.1重量%〜5.0重量%であり、好ましくは、0.2重量%〜3.0重量%である。この範囲の付着量にあっては、炭素繊維に対して、サイジング剤の効果を十分に付与することができる。この炭素繊維用サイジング剤の付着量は、0.1重量%未満では、炭素繊維の収束性、耐擦過性が十分に得られないため、機械的摩擦などによって毛羽が発生して好ましくない。また、樹脂との親和性、界面接着力が不十分であるため、これを使用してなる炭素繊維強化樹脂が良好な力学的特性を得ることができないなどの不都合が生じる。一方、5.0重量%を越える場合では、収束性が強すぎることにより、炭素繊維束の開繊性が悪くなって、マトリックス樹脂との複合化の際に束内部への樹脂の含浸が阻害されることになるなどの不都合が生じる。
このような上記サイジング剤溶液を使用して炭素繊維の表面を処理し、炭素繊維用サイジング剤を付着させた炭素繊維は、機械的摩擦などによる毛羽などが発生しにくく、さらに、マトリックス樹脂に対する親和性や接着性に優れたものである。
【0017】
炭素繊維用サイジング剤による炭素繊維の処理は、ローラー浸漬法、ローラー接触法など一般に工業的に用いられている方法などを適用でき、炭素繊維の表面に炭素繊維用サイジング剤が付着する。
炭素繊維に対する炭素繊維用サイジング剤の付着量は、サイジング剤溶液の濃度調整や、絞りコントローラーなどの通過工程の調整などの方法によって調節される。
炭素繊維用サイジング剤の付着した炭素繊維は、続いて乾燥処理され、サイジング剤を付着させる際に同時に付着したサイジング剤溶液に含まれていた水、あるいは有機溶媒などの除去が行われた後に、炭素繊維強化樹脂組成物等に使用されるものとなる。
ここでの乾燥処理は、熱風、熱板、ローラー、各種赤外線ヒーターなどを熱媒として利用した方法などによって行われる。
【0018】
本発明の炭素繊維シート状物は、上述したサイジング剤で処理された炭素繊維を用いたことを特徴とするものであり、織布、一方向配列シート、不織布、マット等、これらを組み合わせたものが挙げられる。
織り組織は特に限定はされず、平織り、綾織り、朱子織り等の他、これら原組織を変化させたものでもよい。また、緯、経糸共に上記炭素繊維でもよく、また他の炭素繊維あるいは炭素繊維以外の繊維との混織でもよい。炭素繊維以外の繊維としては、ガラス繊維、チラノ繊維、SiC繊維などの無機繊維、アラミド、ボリエステル、PP、ナイロン、アクリル、ポリイミド、ビニロンなどの有機繊維などを挙げられる。2種以上からなる複合繊維でもよい。
また、本発明に係る炭素繊維を経糸として、取扱性、樹脂含浸性を良好に保つ目的で、該経糸より低い引張弾性率の繊維を緯糸とする炭素繊維シート状織物が好ましい。緯糸として用いられる繊維の引張弾性率が高い場合には、経糸が長手方向に蛇行し易くなり、補強用シートとして十分に強度を発現しにくくなるからである。
【0019】
炭素繊維シート状物としては、炭素繊維を一方向に引き揃えて形成したものが好ましく、単に一方向に炭素繊維を一定間隔で引き揃えること、あるいは幅方向に緯糸を配する、あるいは緯糸として熱融着性繊維を利用して横方向に配置後熱融着で固定する、あるいは熱融着性のウェブあるいはネットをシート表面に配する等の手段によりシート状に形成される。
特に本発明においては、炭素繊維を一方向に配列してなるシート状物が、(a)一方向に引き揃えた炭素繊維のシート状物の少なくとも一方の面に、炭素繊維と直行する方向に熱融着性繊維を等間隔で配置し熱融着したもの、(b)一方向に引き揃えた炭素繊維のシート状物の少なくとも一方の表面に、熱可塑性樹脂からなるあるいは熱可塑性樹脂で被覆されたネット状支持体、ウェブ状支持体などの融着性繊維布を熱融着したものが好ましく用いられる。
本発明の炭素繊維シート状織物は、高い強度を発揮し、橋梁、橋脚、建造物の柱等の補強用シート材用途にも用いられ得る。
【0020】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、上述したサイジング剤で処理された炭素繊維を用いたことを特徴とするものである。炭素繊維が補強繊維となって、マトリックス樹脂と複合化され、一方向プリプレグ、クロスプリプレグ、トウプレグ、短繊維強化樹脂含浸シート、短繊維マット強化樹脂含浸シートなどの炭素繊維強化樹脂組成物となる。
マトリックス樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ラジカル重合系樹脂であるアクリル樹脂、ビニルポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが使用される。また、熱可塑性アクリル樹脂などでも良い。さらに、一般に用いられているエポキシ樹脂などでも良い。
このようなサイジング剤で処理された炭素繊維を用いた炭素繊維強化樹脂組成物を製造するには、一般に通常行われている方法を採用することができ、例えば、ホットメルト法、溶剤法、シラップ法、あるいはSMCなどに用いられる増粘樹脂法などの方法を適用でき、炭素繊維をマトリックス樹脂に含浸して行われる。
【0021】
このような炭素繊維強化樹脂にあっては、上述したサイジング剤で処理された炭素繊維を用いているため、マトリックス樹脂として、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂などを使用しても、前記サイジング剤の主成分である化合物の有する環状脂肪族エポキシ基が炭素繊維と、一般式(4)で示される化合物の二重結合がマトリックス樹脂と強靱に接着することから、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面接着力が強く、良好な力学的特性を示す。
また、例えば、土建用コンクリート補強材のような補強用シート材として用いる場合には、炭素繊維強化複合材をコンクリートの支柱等の周囲に巻き付けて用いられるが、この際、炭素繊維強化複合材どうしの重ね合わせた部分の剥離強度が他の重ね合わされていない部分の引張強度よりも同等以上であることが必要とされる。本発明の炭素繊維強化樹脂組成物を用いてなる複合材であると、そのような重ね合わせた部分の強度が高く、特に補強用シート材として有用なものである。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を、実施例および比較例によって具体的に詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
[比較例1]
アクリロニトリル97重量%とメタクリル酸3重量%からなるアクリロニトリル共重合体をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解して、紡糸ノズルより吐出させ、乾−湿式紡糸方式で、洗、沸水延伸し、続いて沸水洗浄、乾燥して、単糸デニール0.7の前駆体繊維を製造した。次いで、この前駆体繊維を、空気中、200℃〜300℃で耐炎化して耐炎繊維とした後、窒素ガス中、最高温度1400℃で炭素化して炭素繊維とした。このようにして作成された炭素繊維に対し、電気化学的に表面酸化処理を施して炭素繊維束を得た。
この炭素繊維束を、サイジング剤溶液にローラー浸漬し、熱風乾燥して、サイジング剤付着糸とした。炭素繊維束に対するサイジング剤の付着量は1.50重量%とした。
【0023】
サイジング剤溶液としては、上記一般式(2)で示される化含物(「M−100」ダイセル化学(株)製)に、ノニオン系の界面活性剤を20重量%配合し、水で希釈して2wt%の水性エマルジョン溶液に調製したものを使用した。
このサイジング剤付着糸を製繊して、200g/m2の目付を有する平織りクロスとして炭素繊維シート状物を製造した。
また、メタクリルシラップ(メチルアクリレートプレポリマー液(「ビーズレジンBR−73」三菱レイヨン(株)製を20重量部と、メチルメタクリレートを80重量部とからなる))を100重量部に対して、硬化剤(50%希釈ベンゾイルパーオキサイド(「カドックスB−CH50」化薬アクゾ(株)製))を4重量部と、硬化促進剤(ジメチル−p−トルイジン)を1重量部混合してマトリックス樹脂を調製した。
そして、上記炭素繊維シート状物にこのマトリックス樹脂を含浸させて、繊維体積含有率VF40%の炭素繊維強化樹脂組成物を製造し、これを0.05mm厚のポリエステルフィルム間で、室温にて25分間静置して硬化させてシート状の複合材とした。
【0024】
この複合材について、曲げ試験、断面の観察、破断断面の走査型電子顕微鏡による観察(以下、「SEM観察」と略記する)を行った。
曲げ試験は、JIS K7074に準ずる方法により曲げ強度の測定を行った。
その結果、曲げ強度は600MPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部は全く確認されなかった。SEM観察から、樹脂の疑集破壊様式が確認された。
【0025】
[比較例2]
上記比較例1において、サイジング剤溶液中、上記一般式(2)の化合物に代えて上記一般式(3)で示される化合物(「A−200」ダイセル化学(株)製)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、炭素繊維を製造し、炭素繊維シート状物ないし炭素繊維強化樹脂組成物を製造し、シート状の複合材を得た。
さらに、上記比較例1と同様の方法により、曲げ試験、断面の観察、さらに破断断面のSEM観察を行った。
その結果、曲げ強度は550MPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部は全く確認されなかった。さらに、SEM観察から、樹脂の凝集破壊様式が確認された。
【0026】
[実施例1]
上記比較例1において、サイジング剤溶液中、上記一般式(2)の化合物に代えて上記一般式(4)で示される化合物を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、炭素繊維を製造し、炭素繊維シート状物ないし炭素繊維強化樹脂組成物を製造し、複合材を得た。
さらに、上記比較例1と同様の方法により、曲げ試験、断面の観察、さらに破断断面のSEM観察を行った。
その結果、曲げ強度は620MPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部は全く確認されなかった。さらに、SEM観察から、樹脂の凝集破壊様式が確認された。
【0027】
[比較例3]
上記比較例1で製造したサイジング剤付着糸と、マトリックス樹脂からなる引抜き成形品を成形して、炭素繊維強化樹脂組成物からなる複合材を製造した。マトリックス樹脂としては、ビニルエステル樹脂(「デックライト3505」大日本インキ化学工業(株)製)を使用した。
複合材について、引張試験、断面の観察、さらに破断断面のSEM観察を行った。
その結果、引張強度は1400MPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部は全く確認されなかった。さらに、SEM観察から、樹脂の凝集破壊様式が確認された。
【0028】
[比較例4]
上記一般式(2)で示される化合物に対してノニオン系の界面活性剤20重量%を配合して、水で希釈して2wt%の水性エマルジョン溶液としてサイジング剤溶液を調製した。
このサイジング剤溶液に、炭素繊維(三菱レイヨン(株)製「パイロフィルTR30X」(引張強度4.9GPa、引張弾性率235GPa、フィラメント数12,000本))をローラー浸漬し、熱風乾燥して、炭素繊維束に対するサイジング剤の付着量を1.50重量%としたサイジング剤付着糸とした。
この炭素繊維を経糸として10本/インチ、緯糸にガラス繊維(引張弾性率72.5GPa、融点840℃)と低融点ナイロン繊維(マルチフィラメント、融点125℃)の交絡糸(0.03g/m)を6本/インチで製織した後、180℃の熱をかけて簾状炭素繊維織布を得た。
得られた織物はしなやかで多少乱暴に扱っても繊維の乱れや目崩れの起きない極めて取り扱い易いものであった。
【0029】
また、メチルメタクリレートを70重量部と、1,3−ブチレングリコールジメタクリレートを2重量部と、末端にメタクリル基を有する数平均分子量が6000のn−ブチルアクリレートマクロモノマーを25重量部と、n−パラフインを1重量部と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを1重量部とを均一になるまで十分に混合し、最後にN,N−ジメチル−p−トルイジンを1重量部添加混合し、反応性混合物を得た。この反応性混合物100重量部に対して、ベンゾイルパーオキサイド2重量部を添加混合し、上記製造した簾状織物に含浸し、炭素繊維強化樹脂組成物を製造し、室温で1時間放置して硬化し、複合材を得た。
【0030】
得られた複合材から切り出して、図1に示すような、全長250mm、幅12.5mmの引張試験片を作製し、室温にて引張強度を測定した。
繊維含有率100%に換算した(織物の理論厚みで割り返した)引張強度は4100MPaであった。
また、上記炭素繊維強化樹脂組成物から、矩形状の2枚のシート状物を切り出し、未硬化のまま、図2に示すように、100mmの継手重なり部10を形成するように重ね合わせ、室温で1時間放置して一体硬化させて継手引張強度試験片を作製し、室温にて継手引張強度を測定した。
繊維含有率100%に換算した(織物の理論厚みで割り返した)継手引張強度は4050MPaであり、継手部のない引張強度とほぼ同等であった。破断は、継手部破断と母材の引張破断の混合で、コンクリート補強材等にも適するものであった。
【0031】
[比較例5]
比較例4と同様なサイジング剤付着糸である炭素繊維を2.5mm間隔300mm巾で、目板及び櫛を使って一方向に引き揃え、その両表面にガラス繊維(引張弾性率72.5GPa、融点840℃)と低融点ナイロン繊維(マルチフィラメント、融点125℃)の交絡糸(0.03g/m)を片面当たり25mm間隔(シートとしては12.5mm間隔で両表面に交互に緯線は配置される)で配置して熱プレスにより180℃で熱融着させることによって炭素繊維シート状物を得た。
得られた炭素繊維シート状物はしなやかで多少乱暴に扱っても繊維の乱れや目崩れの起きない極めて取り扱い易いものであった。
比較例4と同様に上記反応性混合物100重量部に対して、ベンゾイルパーオキサイド2重量部を添加混合し、上記炭素繊維シート状物に含浸し、炭素繊維強化樹脂組成物を製造し、室温で1時問放置して硬化し、複合材を得た。
本炭素繊維シート状物の樹脂含浸性は優れたものであった。
【0032】
上記同様に、図1に示した引張試験片と図2に示した継手引張強度試験片を作製し、室温にて、引張強度と、継手引張強度を測定した。
繊維含有率100%に換算した(織物の理論厚みで割り返した)引張強度は4200MPaであった。継手引張強度は4100MPaであり、継手部のない引張強度とほぼ同等であった。破断は、継手部破断と母材の引張破断の混合であった。
【0033】
[比較例6]
上記比較例1において、サイジング剤溶液の主成分を市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(「エピコート828」油化シェル製)としたこと以外は、比較例1と同様にして炭素繊維を製造し、炭素繊維シート状物ないし炭素繊維強化樹脂組成物を製造した。
得られた炭素繊維強化樹脂組成物に関し、上記比較例1と同様の方法により、曲げ試験、断面の観察、さらに破断断面のSEM観察を行った。
その結果、曲げ強度は300MPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部が確認された。さらに、SEM観察から、炭素繊維と樹脂との界面の剥離が明らかに確認された。
【0034】
[比較例7]
上記比較例1におけるサイジング剤溶液の主成分を下記一般式(7)で示される化合物としたこと以外は、比較例1と同様にして炭素繊維を製造し、炭素繊維シート状物ないし炭素繊維強化樹脂組成物を製造した。
【化4】
得られた炭素繊維強化樹脂組成物について、曲げ試験、断面の観察、さらに破断断面のSEM観察を行った。
その結果、曲げ強度は450MPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部は全く確認されなかった。しかし、SEM観察から、炭素繊維と樹脂との界面の剥離が明らかに確認された。
【0035】
[比較例8]
上記比較例6で用いたものと同様のサイジング剤の付着された炭素繊維と、マトリックス樹脂からなる引抜き成形品を成形して、炭素繊維強化樹脂組成物からなる複合材を製造した。マトリックス樹脂としては、上記比較例3と同様ものを使用した。
そして、得られた複合材について、上記比較例1と同様に、引張試験、断面の観察、さらに破断断面のSEM観察を行った。
その結果、引張強度は1200MPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部が一部存在することが確認された。さらに、SEM観察から、炭素繊維と樹脂との界面の剥離が明らかに確認された。
【0036】
[比較例9]
炭素繊維束に対するサイジング剤の付着量を0.05重量%としたこと以外は上記比較例1と同様にして炭素繊維を製造し、炭素繊維シート状物ないし炭素繊維強化樹脂組成物を製造し、複合材を得た。
得られた複合材について、上記比較例1と同様の方法により、曲げ試験、断面の観察、さらに破断断面のSEM観察を行った。
その結果、曲げ強度は340MPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部が一部存在することが確認された。さらに、SEM観察から、炭素繊維と樹脂との界面の剥離が明らかに確認された。
【0037】
[比較例10]
炭素繊維束に対するサイジング剤の付着量を6.00重量%としたこと以外は上記比較例1と同様にして炭素繊維を製造し、炭素繊維シート状物ないし炭素繊維強化樹脂組成物を製造し、複合材を得た。
得られた複合材について、上記比較例1と同様の方法により、曲げ試験、断面の観察、さらに破断断面のSEM観察を行った。
その結果、曲げ強度は350MPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部が一部存在し、上記炭素繊維束内に樹脂が十分に含浸していないことが確認された。一方、SEM観察から、樹脂の凝集破壊様式が観察され、接着性が十分であることが確認された。
[比較例11]
上記比較例4におけるサイジング剤の主成分を市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(「エピコート828」油化シェル製)としたこと以外は、比較例4と同様にして、炭素繊維を製造し、炭素繊維シート状物ないし炭素繊維強化樹脂組成物を製造した。
得られた炭素繊維強化樹脂組成物から、引張強度試験片と継手引張強度試験片をそれぞれ作製し、引張強度と継手引張強度を測定した。
その結果、引張強度は4300MPaであったが、継手引張強度は3300MPaでかなり小さな値になった。継手引張強度試験片の破断は全て継手部の剥離であった。
【0038】
[比較例12]
上記比較例4におけるサイジング剤の主成分を市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(「エピコート828」油化シェル製)としたこと以外は比較例4と同様にして、炭素繊維を製造し、その炭素繊維を用いて、比較例5と同様にして、炭素繊維シート状物ないし炭素繊維強化樹脂組成物を製造した。
得られた炭素繊維強化樹脂組成物から、引張強度試験片と継手引張強度試験片を作製し、引張強度と継手引張強度を測定した。
その結果、引張強度は4200MPaであったが、継手引張強度は3400MPaでかなり小さな値になった。継手引張強度試験片の破断は全て継手部の剥離であった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
以上の結果から、本発明の実施例においては十分な強度が得られ、またボイド、未含浸部は全く確認されず、さらに、SEM観察から樹脂の凝集破壊様式を確認することができて、比較例に比べて優れていることが確認できた。
【0043】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のサイジング剤を用いた炭素繊維は、エポキシ樹脂だけでなく、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂などのマトリックス樹脂に対しても優れた親和性を有し、炭素繊維とマトリックス樹脂の両方に対し、濡れ性を向上させることができ、また、安定した効果を得ることができるものである。
また、本発明の炭素繊維が処理されるサイジング剤溶液は、炭素繊維用サイジング剤を水溶液中に分散させてなるものであるので、炭素繊維に本サイジング剤の効果を付与する処理に際して、工業的にも、また安全性の面からも優れたものとすることができる。
さらに、本発明の炭素繊維シート状物ならびに炭素繊維強化樹脂組成物は、それに使用する炭素繊維を、本発明の炭素繊維用サイジング剤を用いて処理したものとしているので、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面に強い接着力を得ることができることから、優れた力学的特性を有するものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 引張試験片を示すもので、図1(a)は側面図、図1(b)は平面図である。
【図2】 継手引張強度試験片を示すもので、図2(a)は側面図、図2(b)は平面図である。
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