JP3712638B2 - 弦楽器のネック部の補強構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、弦楽器のネック部の補強構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に弦楽器は、ボディ部と、このボディ部に接合されたネック部ならびにその先端のヘッド部を有し、ボディ部に設けられたブリッジと、ヘッド部の糸巻ナットの間に弦を張設する構造となっている。従って、糸巻ナットとブリッジの間で弦は張力を生じ、この張力がネック部を上方に曲げ変形させる原因となる。ネック部が上方に反ってしまうと、正しい音程が出なかったり、各弦のボディ部側の高ポジションが弾きにくくなったりする。また、ネック部の強度が低いと、調音する際にネック部が少しずつ変形するため、正しい音程を得るのに時間が要するという問題がある。
【0003】
このような問題に対して、トラスロッドと呼ばれる棒状の鉄心をネック部内に埋設する構造がもっとも一般的な対策として採用されている。この構造はネックの反りを防止できるだけでなく、鉄心にある程度の反発力を与えているため、強度としても働いている優れた機構である。
【0004】
また、ネック部の中央に強度の強いブビンガーという木材を挟み込んだり、あるいは特開2001−13957号公報に見られるような凸字状にプレスした金属板をネックに補強材として埋設する方法がとられている。
【0005】
しかるに、近年、特にギターにおいてネック部の細化が市場の要請として高まっており、この細いネック部では上述したような各種の補強材を内部にたやすく埋設することが困難となる。また、弦楽器一般において、簡易なネック部の補強構造が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、このような点に鑑みなされたもので、極めて簡易な構造で強度が高く、かつネック部の反りが生じにくい弦楽器のネック部の補強構造を提案するものである。また、この発明は、あわせてネック部の反りを矯正し調整する機能を備えた弦楽器のネック部の補強構造を提案するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、請求項1の発明は、弦楽器のネック部の指板下側にネック部の長さ方向に沿って縦長に埋設される剛性のある板棒状体であって、前記板棒状体にはヘッド側の所定部分を残してボディ側から切り溝部が形成されていて、該切り溝部によって該板棒状体をヘッド側溝無し部分およびボディ側溝上半部分ならびにボディ側溝下半部分に区分しており、前記ヘッド側溝無し部分および前記ボディ側溝上半部分をネック部と一体に接着するとともに、前記ボディ側溝下半部分については、ネック部と一体に接着することなくそのボディ側端部がネック部に固定保持されていることを特徴とする弦楽器のネック部の補強構造に係る。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1において、前記板棒状体がボディ側の折り曲げ部を介して右側板棒状部及び左側板棒状部を有する平面視略U字状に形成されている弦楽器のネック部の補強構造に係る。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2において、前記右側板棒状部及び左側板棒状部の切り溝部の端部位置が左右変えて形成されている弦楽器のネック部の補強構造に係る。
【0010】
さらに、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ボディ側下半部分をボディ側に引張する引張手段を有する弦楽器のネック部の補強構造に係る。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下添付の図面に従ってこの発明を詳細に説明する。
図1はこの発明の一実施例を示す電気ギターの指板部分を一部省略した全体斜視図、図2はこの発明に用いられる板棒状体の一例を示す全体斜視図、図3は板棒状体の作用を模式的に表す部分断面図、図4は引張手段を設けた板棒状体の一例を示す全体斜視図、図5は図4に示す引張手段の一部拡大図、図6は図4に示す板棒状体を取り付けた電気ギターのネック部の断面図、図7は板棒状体の他の例を示す全体斜視図、図8はさらに板棒状体の別の例を示す全体斜視図、図9は固定引張手段の一部拡大図、図10は図7または図8に示す板棒状体を取り付けた電気ギターのネック部の拡大断面図である。
【0012】
図1に示すように、以下の実施例では、弦楽器の一例として電気ギター10を例示する。図1の符号11はボディ部、12はネック部、13はヘッド部、15は前記ネック部12の上面に貼設された指板、16はブリッジ、17は糸巻ナット、19は弦を表す。説明のため、指板15及び弦19は一部を切り欠いて示してある。この発明に係る補強構造は、図示のように、このネック部12の指板15下部にネック部12の長さ方向に沿って縦長に剛性のある板棒状体Rを埋設した構造に係る。なお、図1の板棒状体Rは後の実施例で説明する板棒状体40が図示される。
【0013】
板棒状体Rの一例が図2に符号20として示される。この板棒状体20は、金属板あるいはカーボン素材等のヤング率の高い剛性のある素材よりなる。図示のように、板棒状体20は、ヘッド側13sの所定部分を残してボディ側11sから切り溝部25が形成されていて、該切り溝部25によって、該板棒状体20をヘッド側溝無し部分21及びボディ側溝上半部分22ならびにボディ側溝下半部分23の3つの部分に区分している。そして、前記ヘッド側溝無し部分21及び前記ボディ側溝上半部分22をネック部12と一体に接着(図2中の網掛け表示は接着部分を表す)するとともに、前記ボディ側溝下半部分23については、ネック部12と一体に接着することなく、そのボディ側端部23eがネック部12に固定保持されている。図2のボディ側溝下半部分23に関し符号26はネジ孔、27は該ネジ孔26に取り付けられる固定ネジである。
【0014】
すなわち、この発明構造にあっては、板棒状体R(20)のヘッド側溝無し部分21及びボディ側溝上半部分22は、図中網掛け部で示すように、ネック部12と一体に接着されているが、一方、ボディ側溝下半部分23については、ネック部12と一体に接着されることなく、そのボディ側端部23eがネック部12に固定保持されている。このような構成よりなる板棒状体R(20)をネック部12の指板15下部に埋設することにより、次のような作用を生ずる。
【0015】
図3に示したように、まず、ネック部12と一体に接着されたヘッド側溝無し部分21及びボディ側溝上半部分22は、ネック部12と一体化されているため、当該ネック部12の強度保持部材として機能する。ここで、前記したようにネック部12は弦19の張力によって上方へ反りやすく、かつヘッド側13sにおいてその反りが大きいものであるが、該ネック部12の上側部分(指板15の下側部分)とヘッド側13sに、ネック部12を構成する木材に比し高い剛性のあるヘッド側溝無し部分21及びボディ側溝上半部分22の一体化部分が形成されることにより、該ネック部12の上側部分及びヘッド側13sの強度が高くなり、反りが生じにくくなる。
【0016】
さらに、ネック部12の下側部分に位置するボディ側溝下半部分23については、ネック部12と一体化されていないため、当該板棒状体20の材質独自の作用を果たす。すなわち、ネック部12が弦19の張力により図3の矢印aのように上方へ反り変形しようとするときに、ネック部12と一体に接着されたヘッド側溝無し部分21及びボディ側溝上半部分22にネック部12と一体に上方へ変形しようとする力a1,a2が働く。そのとき同時に、ボディ側溝下半部分23においては固定部である固定ネジ27と反対方向の長さ方向に伸ばす力bが生じる。しかしながら、板棒状体20はネック部12を構成する木材に比して高い剛性を有するものであるから、実際にはほとんど伸びることはなく、反対に、ヘッド側溝無し部分21及びボディ側溝上半部分22に働く上方へ変形しようとする力a1,a2を阻止する力、つまり上方へ変形しようとする力aと反対方向の抗力cとして働く。
【0017】
このように、この発明構造における板棒状体R(20)は、剛性のある材料という点からの補強と同時に、力学的な抗力という点からの補強を同時に達成することができ、極めて簡易な構造で強度が高く、かつネック部の反りが生じにくい補強構造とすることができる。
【0018】
次に、請求項2の発明について説明すると、この構造は、図7に図示のように、前記の板棒状体R(40)がボディ側11sの折り曲げ部41を介して右側板棒状部50及び左側板棒状部60を有する平面視略U字状に形成されているものである。弦楽器のネック部は幅のあるものであるから、幅方向に2本の板棒状体部50,60を並置することによって、ネック部全体としてより高い強度の補強構造とすることができる。なお、前述した例のような板棒状体20を独立して2本並列してもよいが、この発明構造のように、ボディ側11sの折り曲げ部41を介して平面視略U字状の単一部材として形成すれば、製作及び組み付け上有利となる。
【0019】
図7において、符号45は切り溝部で、この切り溝部45はボディ側11sの折り曲げ部41からヘッド側13sの所定部分を残して形成される。図の符号51は右側板棒状部50のヘッド側溝無し部分、52は右側板棒状体部50のボディ側溝上半部分、53は右側板棒状体部50のボディ側溝下半部分であり、また符号61は左側板棒状部60のヘッド側溝無し部分、62は左側板棒状体部60のボディ側溝上半部分、63は左側板棒状体部60のボディ側溝下半部分であり、さらに符号42は折り曲げ部溝上半部分、43は折り曲げ部溝下半部分である。
【0020】
そして、これらの各部分は、前記したと同様に、ヘッド側溝無し部分51及び61、ボディ側溝上半部分52及び62ならびに42がネック部12と一体に接着され(図7中の網掛け表示は接着部分を表す)、ボディ側溝下半部分53及び63ならびに43については、ネック部と一体に接着することなくそのボディ側端部(ここでは折り曲げ部41)がネック部12に固定保持される。符号70は固定部材を兼ねるカム部材(後述)である。これらの各部の作用については、前記したところと同様である。
【0021】
また、請求項3の発明は、図8に図示したように、上記した構造において、前記右側板棒状部50及び左側板棒状部60の切り溝部45Aの端部位置46及び47が左右変えて形成されている板棒状体R(40A)に係る。弦楽器に張設される弦19は低音側が太く、高音側が細く、当然その張力はネック部の幅方向の左右において異なる。そこで、必要により、前記した板棒状体各部の左右における作用を考慮して、切り溝部45Aの端部位置46及び47が決定される。なお、図8において、図7と同一部材は共通符号を付して説明を省略する。
【0022】
さらに、請求項4の発明は、前記した板棒状体R(20,40,40A)において、そのボディ側下半部分(23,53,63)をボディ側11sに引張する引張手段Pを有する弦楽器のネック部の補強構造に係る。なお、1本の板棒状体R(30)の引張手段Pの例が図4ないし図6に示され、平面視略U字条の板棒状体R(40又は40A)の引張手段Pの例が図9及び図10に示される。以下、それぞれ説明する。
【0023】
まず、1本の板棒状体R(30)の引張手段Pの例について説明すると、図4に図示したように、該板棒状体R(30)は、前記したような切り溝部34によって、ヘッド側溝無し部分31、ボディ側溝上半部分32、ボディ側溝下半部分33の各部分に区分されている。そして、前記ボディ側溝下半部33のボディ側11s端部33eにはロ字状のカム装着部35が形成され、該カム装着部35に固定部材を兼ねる偏心カム36が回転自在に取り付けられている。
【0024】
偏心カム36は、図5の拡大図に示すように、大径部36a及び小径部36bを有し、矩形の取付孔36cによって取付部材37に一体に取り付けられている。なお、実施例の偏心カム36の大径部36a及び小径部36bの差は1mmである。そして、取付部材37をレンチ(図示せず)等で回動して偏心カム36を所定角度回動すると、その大径部36aがカム受け部材38を押圧してカム装着部35を介してボディ側溝下半部分33をボディ側11sに引張する。図の符号39は偏心カム36と取付部材37とを緊締する固定ナットである。
【0025】
図6はこの引張手段Pを備えたギター10Aのネック部12の断面図であるが、前記偏心カム36は通常はボディ側溝下半部分33の固定部材として機能している。偏心カム36を上記のように操作することにより、板棒状体R(30)のボディ側溝下半部分33をボディ側11sに引張することができる。この引張手段Pによる引張力は、前記しかつ図3に図示したところの抗力cを板棒状体R(30)に生じさせ、ギターのネック部12に一体に接着されたヘッド側溝無し部分31及びボディ側溝上半部分32を介して、該ネック部12の上方へ変形しようとする力を阻止する力として働く。そして、万一、ネック部12に避けがたい反りが生じた場合には、それを矯正し調整することができる。
【0026】
次に、平面視略U字条の板棒状体R(40又は40A)の引張手段Pの例について説明する。図9には、図7及び図8に図示した板棒状体R(40,40A)の引張手段Pの例が図示される。ここでは、板棒状体R(40,40A)のボディ側溝下半部53,63が折り曲げ部溝下半部分43によって連接されているので、該折り曲げ部溝下半部分43内に引張手段Pが装置される。この例においても、前記したと同様の偏心カム70が用いられる。偏心カム70は、大径部70a及び小径部70bを有し、矩形の取付孔70cによって取付部材71に一体に取り付けられ、前記と同様に、取付部材71の回動によって、その大径側70aがカム受け部材72を押圧して折り曲げ部溝下半部分43を介してボディ側溝下半部分53,63をボディ側11sに引張する。図の符号73は偏心カム70と取付部材71を緊締する固定ナットである。
【0027】
図10は図9に図示の引張手段Pを備えたギター10のネック部12の拡大断面図である。前記したと同様に、偏心カム70は通常は固定部材として機能しており、偏心カム70の操作により、板棒状体R(40,40A)のボディ側溝下半部分53,63をボディ側11sに引張することができる。そして、これによってギターのネック部12に一体に接着されたヘッド側溝無し部分51,61及びボディ側溝上半部分52,62を介して、該ネック部12の上方へ変形しようとする力を阻止し、そして、万一、ネック部12に避けがたい反りが生じた場合には、それを矯正し調整することができる。
【0028】
【発明の効果】
以上図示し説明したように、この発明における弦楽器のネック部の補強構造によれば、剛性のある板棒状体を切り溝部によってヘッド側溝無し部分、ボディ側溝上半部分、ボディ側溝下半部分に区分し、前記ヘッド側溝無し部分とボディ側溝上半部分をネック部と一体に接着し、前記ボディ側溝下半部分については、ネック部と一体に接着することなくネック部に固定保持するという極めて簡易な構造によって、剛性のある材料という点からの補強と同時に、力学的な抗力という点からの補強を同時に達成することができるので、その結果として、強度が高く、かつネック部の反りが生じにくい補強構造を実現することができる。
【0029】
また、請求項2の発明にあっては、単一の板棒状体をボディ側の折り曲げ部を介して左右の板棒状部を有する平面視略U字状に形成することによって、ネック部の幅全体の補強を図ることができ、また折り曲げ部を有する単一部材とすることによって、製作及び組み付け上有利となる。
【0030】
さらに、請求項3の発明にあっては、請求項2の発明の板棒状体の左右における切り溝部の端部位置を変えて形成することによって、左右の板棒状体部の機能ないし作用を変化させることが可能となる。
【0031】
さらにまた、請求項4の発明にあっては、ネック部に固定保持される板棒状体のボディ側下半部分をボディ側に引張する引張手段を設けることによって、ネック部に避けがたい反り変形が生じた場合にも、これを矯正し調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例を示す電気ギターの指板部分を一部省略した全体斜視図である。
【図2】この発明に用いられる板棒状体の一例を示す全体斜視図である。
【図3】板棒状体の作用を模式的に表す部分断面図である。
【図4】引張手段を設けた板棒状体の一例を示す全体斜視図である。
【図5】図4に示す引張手段の一部拡大図である。
【図6】図4に示す板棒状体を取り付けた電気ギターのネック部の断面図である。
【図7】板棒状体の他の例を示す全体斜視図である。
【図8】さらに板棒状体の別の例を示す全体斜視図である。
【図9】固定引張手段の一部拡大図である。
【図10】図7または図8に示す板棒状体を取り付けた電気ギターのネック部の拡大断面図である。
【符号の説明】
10 電気ギター
11 ボディ部
12 ネック部
13 ヘッド部
15 指板
R,20,30,40,40A 板棒状体
50,60 板棒状体部
21,31,51,61 ヘッド側溝無し部分
22,32,52,62 ボディ側溝上半部分
23,33,53,63 ボディ側溝下半部分
25,34,45,45A 切り溝部
27 固定ねじ
36,70 偏心カム
37,71 取付部材
P 引張手段

Claims (4)

  1. 弦楽器のネック部の指板下側にネック部の長さ方向に沿って縦長に埋設される剛性のある板棒状体であって、前記板棒状体にはヘッド側の所定部分を残してボディ側から切り溝部が形成されていて、該切り溝部によって該板棒状体をヘッド側溝無し部分およびボディ側溝上半部分ならびにボディ側溝下半部分に区分しており、前記ヘッド側溝無し部分および前記ボディ側溝上半部分をネック部と一体に接着するとともに、前記ボディ側溝下半部分については、ネック部と一体に接着することなくそのボディ側端部がネック部に固定保持されていることを特徴とする弦楽器のネック部の補強構造。
  2. 請求項1において、前記板棒状体がボディ側の折り曲げ部を介して右側板棒状部及び左側板棒状部を有する平面視略U字状に形成されている弦楽器のネック部の補強構造。
  3. 請求項2において、前記右側板棒状部及び左側板棒状部の切り溝部の端部位置が左右変えて形成されている弦楽器のネック部の補強構造。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ボディ側下半部分をボディ側に引張する引張手段を有する弦楽器のネック部の補強構造。
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