JP3710166B2 - D−ソルビトールの測定方法およびその測定用キット - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、簡便で特異的なD−ソルビトールの測定方法およびその測定用キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、D−ソルビトールの測定方法には、ソルビトール脱水素酵素(EC 1.1.1.14) を使用し、D−ソルビトールの脱水素反応によってD−フルクトースを生成させ、このD−フルクトースの6位をヘキソキナーゼ(EC 2.7.1.1)でリン酸化し、生成したD−フルクトース−6−リン酸をグルコース−6−リン酸イソメラーゼ(EC 5.3.1.9)でD−グルコース−6−リン酸に異性化し、このD−グルコース−6−リン酸のグルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC 1.1.1.49) による脱水素反応によって生成した補酵素NADPの還元体であるNADPHの吸光度を測定する方法(ベーリンガー社のキット) が知られている。
【0003】
また、ソルビトール脱水素酵素(EC 1.1.1.14) を使用し、D−ソルビトールの脱水素反によって生成した補酵素NADの還元体であるNADHの蛍光強度を測定する方法(Clin. Chem.34 2327 (1988)、特開平6−109726) 、ソルビトール脱水素酵素(EC 1.1.1.14) を使用し、この酵素の補酵素であるNADHとチオ−NADの共存下にD−ソルビトールの脱水素反応と逆反応のD−フルクトースの還元反応を行い、この酵素サイクリング反応によって生成したチオ−NADの還元体であるチオ−NADHの吸光度を測定する方法(特開平4−349897)等が知られている。
【0004】
更に、ソルビトール脱水素酵素(特開昭56−29994)を使用し、電子伝達体の1−メトキシ−5−フェナゾリウムメチルサルフェイト(1−MPMS)と還元発色性色素のテトラゾリウム塩の存在下にD−ソルビトールの脱水素反応を行い、この反応によって生成したホルマザン色素の吸光度を測定する方法(特開平6−189790)が知られている。
【0005】
また、ソルビトール脱水素酵素(特開昭56−29994)を使用し、1−MPMSの存在下にD−ソルビトールの脱水素反応を行い、この反応によって生成した過酸化水素を、ペルオキシダーゼを使用する各種検出法で測定する方法(特開平6−209793)、ソルビトール酸化酵素(特開平6−169764)を使用し、酸素の存在下にD−ソルビトールを酸化し、この反応によって生成した過酸化水素を、ペルオキシダーゼを使用する各種検出法で、測定する方法(特開平6−169764)等が知られてる。
【0006】
しかしながら、D−ソルビトールの2位を酸化してD−フルクトースを生成させるソルビトール脱水素酵素(EC 1.1.1.14)やD−ソルビトールの1位を酸化してD−グルコースを生成させるソルビトール酸化酵素(特開平6−169764)を使用する何れの測定法においても、それぞれの酵素の基質特異性が悪いことから、D−ソルビトールの測定値の信頼性には疑問がある。従って、これらの測定法の対象とする検体としてはD−ソルビトールの含有量が多く且つ干渉する成分の含有量が少ない食品や赤血球などに限定されている。
【0007】
一方、酢酸菌の細胞膜由来であり、D−ソルビトールの5位を酸化してL−ソルボースを生成させるソルビトール脱水素酵素(特開昭56−29994)を使用するD−ソルビトールの測定法においては、D−ソルビトールに対する特異性が高いとは言え、熱安定性に問題があり、診断薬を開発する上で、実用的ではなかった。この様に、ソルビトールの含有量が少なく、測定に干渉する基質成分が相対的に多い血清や血漿について、酵素法で正確に測定できたとの報告は未だにない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、複雑な前処理操作を必要とせず、汎用型の自動生化学測定装置にも対応可能であり、簡便で特異性の高いD−ソルビトールの測定法の提供に存する。また、本発明の他の目的は、腎不全、糖尿病などの診断に利用できるD−ソルビトールの測定用キットの提供に存する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成する酸化酵素が、効率よくD−ソルビトールを酸化して定量的にD−グルコースを生成すること、この反応によって生成したD−グルコースをD−グルコースの検出系と組み合わせ、更に特定の前処理と組み合わせることにより、D−ソルビトールに対して極めて特異性の高い測定系になることを見いだし、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の第1の要旨は、D−ソルビトールとD−グルコースを含有する検体に、D−グルコースを消去する前処理を施した後、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成させる酸化酵素を作用させ、該酵素反応によるD−ソルビトールの酸化で生成したD−グルコースを検出することにより、検体中のD−ソルビトールを特異的に測定する方法に関する。
【0011】
本発明の第2の要旨は、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成する酸化酵素がソルビトールオキシダーゼ、キシリトールオキシダーゼ又はマンニトールオキシダーゼであるD−ソルビトールの測定方法に関する。
【0012】
本発明の第3の要旨は、D−グルコースを消去する前処理の方法およびD−グルコースを検出する方法がグルコースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ又はグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼを使用するD−ソルビトールの測定方法に関する。
【0013】
本発明の第4の要旨は、D−グルコースを消去する前処理剤、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成させる酸化酵素およびD−グルコース検出試薬を含有するD−ソルビトール測定用キットに関する。
【0014】
更に、本発明の第5の要旨は、D−グルコース消去用前処理とD−ソルビトール検出試薬に同一酵素を使用するD−ソルビトール測定用キットに関にする。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で、D−ソルビトール測定の対象となる検体とは、D−ソルビトールの測定を必要とするものであれば特に制限されない。例えば、D−ソルビトールとD−グルコースを含有する生体試料、食品、それらの抽出液や各種の処理液などが挙げられる。また、D−ソルビトールは、腎不全や糖尿病の診断指標として期待されており、生体試料としては、赤血球、血漿、血清、組織の抽出液、尿などが有用である。
【0016】
本発明で使用されるD−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成させる酸化酵素としては、D−ソルビトールの1位を酸化してD−グルコースを生成させる能力のある酵素であれば特に制限されない。
【0017】
アルコール基を酸化する酵素は、電子受容体の種類により、(1) ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+ )又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP+ )を電子受容体とするもの、(2) シトクロムを電子受容体とするもの、(3) 酸素を電子受容体とするもの、(4) その他に分類(酵素ハンドブック:丸尾文治、田宮信雄監修;朝倉書店)されているが、D−ソルビトールからD−グルコースを生成させる能力があれば、何れのものであってもよい。
【0018】
例えば、酸素を電子受容体とする酸化酵素としては、キサントモナスに属する微生物由来のソルビトールオキシダーゼ(特開平6−169764)、ストレプトミセスに属する微生物由来のキシリトールオキシダーゼ(例えば、工業技術院生命工学工業技研究所寄託番号FERM P−14339由来のキシリトールオキシダーゼ)、蝸牛由来のマンニトールオキシダーゼ(Int. J. Biochem. 18 337-344(1986)) 等が挙げられる。
【0019】
下記に本発明で使用できるストレプトミセスに属する微生物由来のキシリトールオキシダーゼ(FERM P−14339由来のキシリトールオキシダーゼ)の一例を示す。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明で使用されるD−グルコースを検出する方法としては、実質的にD−グルコースに特異性が高い検出方法であれば何れの方法であってもよく、公知の化学的な方法から生化学的な方法まで幅広く包含し、特に制限されるものではない。特に好ましくは、D−グルコースに対して特異性に優れ、汎用型の自動生化学測定装置に適用可能な、酵素を使用するD−グルコースの検出法がある。
【0022】
この酵素を使用するD−グルコースの検出法としては、血糖測定用試薬として販売されている既存の方法がそのまま利用できる。具体例としては、▲1▼グルコースオキシダーゼ(GOD:EC 1.1.3.4)を使用してD−グルコースを酸化し、その反応で生成した過酸化水素を比色法で検出する方法、▲2▼ピラノースオキシダーゼ(PROD:EC 1.1.3.10)を使用してD−グルコースを酸化し、その反応で生成した過酸化水素を比色法で検出する方法などが知られている。
【0023】
また、▲3▼グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH:EC 1.1.1.47 )を使用し、補酵素NAD+ 又はNADP+ 〔NAD(P)と略す〕の存在下にD−グルコースを脱水素反応し、その反応で生成した補酵素の還元体であるNADH又はNADPH〔NAD(P)Hと略す〕の吸光度を比色法で検出する方法などが知られている。
【0024】
更に、▲4▼アデノシントリホスフェ−ト(ATP)の存在下、ヘキソキナーゼ(HK:EC 2.7.1.1)又はグルコキナーゼ(GK:EC 2.7.1.2)でD−グルコースをリン酸化し、生成したD−グルコース−6−リン酸を補酵素NADP+ の存在下にグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(G6PDH:EC 1.1.1.49)を使用して脱水素反応し、その反応により生成した補酵素の還元体であるNADPHの吸光度を比色法で検出する方法などが知られている。
【0025】
さらに詳しくは、酵素を使用してD−グルコースを検出する方法においては、前記の酵素反応または酵素反応系を使用して、電子受容体をD−グルコースの存在量を検出し易い中間物質、例えば、過酸化水素や補酵素の還元体へ酵素的に変換し、最終的には、これらの中間物質を安定かつ高感度に検出することによって実施され得る。この中間物質が過酸化水素の場合は、過酸化水素の検出法として知られている比色法、蛍光法、化学発光法、電極法などが使用できる。
【0026】
比色法では、ペルオキシダーゼ等の触媒により、過酸化水素でペルオキシダーゼの基質を酸化発色させ、発色濃度を分光光度計で測定する。ペルオキシダーゼの基質としては、0−フェニレンジアミン、5−アミノサリチル酸、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン等の芳香属アミン系の物質、トリンダー系試薬と称するフェノール、3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨード安息香酸などのフェノール系の物質やN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン等のアニリン系の物質と4−アミノアンチピリンの組み合わせ等が利用できる。
【0027】
更に、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)、10(メチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−フェノチアジン、10(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−フェノチアジン、ビス〔3−ビス(4−クロロフェニル)メチル−4−ジメチル−アミノフェニル〕アミン等の過酸化水素検出用の高感度基質とされる物質などが利用できる。
【0028】
蛍光法では、ペルオキシダーゼ等の触媒により、過酸化水素で基質を酸化して蛍光物質を生成させ、その蛍光強度を蛍光光度計で測定する。ペルオキシダーゼの基質としては、p−ヒドロキシフェニル酢酸、p−ヒドロキシフェニルプロピオン酸などが利用できる。化学発光法では、ペルオキシダーゼ等の触媒により、過酸化水素で基質を酸化して発光させ、その発光強度をルミノメーターで測定する。化学発光する基質としては、ルミノール化合物、ルシゲニン、アリルシュウ酸エステル類の化合物などが利用できる。
【0029】
中間物質が補酵素NAD+ 、NADP+ 、チオ−NAD+ 、チオ−NADP+ 等の還元体であるNADH、NADPH、チオ−NADH、チオ−NADPH等の場合は、これら補酵素の還元体の検出法として公知の方法が利用できる。例えば、▲1▼補酵素の還元体の吸光度や蛍光強度を、直接測定する方法、▲2▼酵素のジアホラーゼ又は電子伝達体の1−MPMS等を使用し、補酵素の還元体であるNADH、NADPH、チオ−NADH、チオ−NADPH等と還元発色性色素の各種テトラゾリウム塩類とを反応させ、この反応によって生成するホルマザン色素の吸光度を測定する方法がある。
【0030】
また、▲3▼脱水素酵素を使用し、補酵素としてNAD(P)Hとチオ−NAD(P)の共存下、この酵素のチオ−NAD(P)による脱水素反応とNAD(P)Hによるこの逆反応の還元反応をサイクルさせ、この酵素の基質を介する酵素サイクリング反応によって生成するチオ−NAD(P)の還元体であるチオ−NAD(P)Hの吸光度を測定する方法などがある。
【0031】
更に、▲4▼補酵素の還元体の酸化酵素または電子伝達体の1−MPMS等によって補酵素の還元体であるNADH、NADPH、チオ−NADH、チオ−NADPH等を酸化し、この時発生する過酸化水素を、前記の過酸化水素の検出法で検出する方法がある。
【0032】
本発明で使用されるD−グルコースを消去する前処理とは、D−ソルビトールの検出を妨害する内因性のD−グルコースを消去する方法である。D−グルコースの消去法としては、前記のD−ソルビトールの検出を妨害しない方法であれば何でもよく、D−グルコースを除去する方法と、D−グルコースを別物質に変換する方法がある。
【0033】
D−グルコースを除去する方法としては、物理的に樹脂に吸着させ除去する方法がある。すなわち、強塩基性樹脂が、アルドースやケトースを吸着する性質を利用するものであり、強塩基性樹脂を充填したカラムに検体を通し、D−グルコースを吸着し、吸着されずに溶出してきたD−ソルビトールを検出する方法(特開平3−47094)である。
【0034】
D−グルコースを別物質に変換する方法としては、化学的または生化学的な方法がある。汎用型の自動生化学測定装置で測定する場合、酵素を使用する生化学的な変換法が好ましい。生化学的な変換法としては、前記の酵素を使用するD−グルコースの検出法において述べたD−グルコースの変換法がそのまま利用できる。
【0035】
具体的には、▲1▼GOD(EC 1.1.3.4)を使用してD−グルコースを酸化する方法、▲2▼PROD(EC 1.1.3.10)を使用してD−グルコースを酸化する方法、▲3▼GDH(EC 1.1.1.47 )を使用して補酵素NAD(P)の存在下にD−グルコースを酸化する方法、▲4▼HK(EC 2.7.1.1)又はGK(EC 2.7.1.2)でD−グルコースをリン酸化し、生成したD−グルコース−6−リン酸を、G6PDH(EC 1.1.1.49)を使用して、補酵素NADP+ の存在下に酸化する方法などがある。
【0036】
なお、前処理用の酵素とD−グルコース検出用の酵素とを、必ずしも同じにする必要はないが、前処理法と共通にするほうが簡便であり好ましい。例えば、後記のA法に記載の様に、G6PDHを使用するD−グルコース測定系で前処理しておき、キシリトールオキシダーゼ添加後の吸光度増加を測定したり、または、後記のB法に記載の様に、GODを使用して前処理しておき、キシリトールオキシダーゼと合わせて過酸化水素の検出系を整え、キシリトールオキシダーゼ添加後の吸光度増加だけを測定するのが合理的である。
【0037】
本発明で使用される酵素、補酵素、試薬などは、臨床検査に使用できる程度に精製されたものが好ましい。また、反応は、公知の方法に準じて行うことが出来る。これらの酵素や試薬などの使用量は、反応温度、反応時間、反応 pH 、レート法またはエンドポイント法などの反応速度論上の設定、使用する酵素の性質や試薬の純度などにより左右されるが、一例を挙げると概ね以下に示す量である。
【0038】
キシリトールオキシダーゼは通常0.01〜50U/mL、好ましくは 0.1〜20U/mLである。G6PDHは通常 0.5〜500U/mL 、好ましくは 2〜100U/mL である。GODは通常 0.1〜10000U/mL 、好ましくは10〜5000U/mLである。その他の酵素、試薬などを使用する場合も、公知の方法に準じて適宜使用できる。反応温度は通常 5〜50℃、好ましくは20〜40℃であり、反応時間は通常 1〜60分、好ましくは 1〜10分である。
【0039】
反応 pH は使用する酵素によって異なり、各酵素の至適 pH の近辺が望ましいが、複数の酵素を同時に作用させるような場合には、必ずしも個々の酵素の至適 pH にこだわる必要はなく、酵素の反応率、基質親和性、特異性、安定性、経済性などの点で制約の大きい酵素に有利なように、各酵素の活性が消失しない pH 範囲から選択すればよい。
【0040】
酵素反応は、速度論上からはレート法とエンドポイント法の2つに分類されている。本質的にはこれらの何れであってもよいが、検体の種類、干渉成分の存在、測定対象とする基質の濃度、反応時間、要求される精度などの条件により、適宜選択される。
【0041】
D−ソルビトールの測定に必要な前記の各成分を含む試薬溶液を、常法にしたがって調製し、D−ソルビトールの測定用キットとして診断薬に組み立てることが出来る。各成分は、前記の使用量に応じた割合となるように組み合わせて、キットとすることが出来る。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
参考例1 A法(GKとG6PDHによる方法)
200mg/L 濃度のD−ソルビトール標準液を蒸留水で倍々希釈し、標準液の希釈系列を作製した。この標準液の希釈系列を検体とし、それぞれ 50 μL の各検体に、5U/mL のGK、10U/mLのG6PDH、10mmol/LのATP、10mmol/LのNADP+ 、20mmol/LのMgCl2 を含む 100mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH 7.5) 950μL を添加し、37℃で10分間インキュベートして恒温化した。
【0044】
次に、2U/mL濃度のキシリトールオキシダーゼ(ストレプトミセス属の微生物由来)を 85 μL 添加して攪拌後、37℃で10分間反応し、キシリトールオキシダーゼ添加後の340 nm における吸光度の増加を分光光度計で測定した。検量線の測定結果を図1に示す。検量線は1から100mg/L まで直線となり、D−ソルビトールの測定が可能であることが示された。
【0045】
実施例1 (A法による血清検体の測定)
健常者の血清Mと、この血清MにD−ソルビトール 50mg/L を添加したものを検体として、A法(参考例1)に従って操作し、図1の検量線から検体中のD−ソルビトール濃度を求めた。その結果を表2に示す。D−ソルビトールは、健常者の血清には極わずかしか含まれていないことが知られている。また、腎不全患者を想定したD−ソルビトール添加血清での測定値は、ほぼ理論値に近い回収率であった。このことから、A法は信頼できるD−ソルビトールの測定法であることが示された。
【0046】
実施例2 (A法の汎用型生化学分析装置への適用)
D−ソルビトールの標準液と実施例1と同一の血清Mを検体とし、これら検体のそれぞれ10μL に、5U/mL のGK、10U/mLのG6PDH、10mmol/LのATP、10mmol/LのNADP+ 、20mmol/LのMgCl2 を含む 100mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH 7.5)からなる第1試薬(R−1)340 μL を添加して37℃で5分間インキュベートした。
【0047】
その後、4U/mL濃度のキシリトールオキシダーゼ(ストレプトミセス属の微生物由来)を含む 100mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH 7.5)からなる第2試薬(R−2)50μL を添加して37℃で5分間反応し、第2試薬添加後の主波長 340nm(副波長 405nm)における吸光度の増加を、日立7150形自動分析装置で測定した。測定結果を表2に示す。実施例1とほぼ同様な結果が得られた。
【0048】
【表2】
【0049】
参考例2 B法(GODを使用する方法)
40mg/L濃度のD−ソルビトール標準液を蒸留水で倍々希釈し、標準液の希釈系列を作製した。この標準液の希釈系列を検体とし、それぞれ 25 μL の各検体に、400U/mL のGOD、400U/mL のカタラーゼ、3U/mL のムタロターゼ、1.5mmol/L の4−アミノアンチピリン(4−AAP)を含む 100mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)475 μL を添加し、37℃で20分間反応した。
【0050】
次に、10U/mL濃度のキシリトールオキシダーゼ(ストレプトミセス属の微生物由来)、25U/mL濃度のペルオキシダーゼ (西洋わさび由来) 、1mg/mLのNaN3 、7.5mmol/L の3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨード安息香酸(HTIB)を含む 100mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)100 μL を添加し、37℃で20分間発色反応を行い、発色反応における 515nmの吸光度の増加を分光光度計で測定した。検量線の測定結果を図2に示す。検量線は1から 40mg/L まで直線となり、D−ソルビトールの測定が可能であることが示された。
【0051】
実施例3 (B法による血清検体の測定)
健常者の血清K、S及びそれらの血清やD−グルコース溶液(100mg/L) にD−ソルビトールを添加したものを検体として、B法(参考例2)に従って操作し、図2の検量線から検体中のD−ソルビトール測定値を求めた。その結果を表3に示す。D−ソルビトールは、健常者の血清には僅かしか含まれていないことが知られている。また、腎不全患者を想定したD−ソルビトール添加血清での測定値は、ほぼ理論値に近い回収率であった。このことから、A法と同様に、B法は信頼できるD−ソルビトールの測定法であることが示された。
【0052】
実施例4 (B法の汎用型生化学分析装置への適用)
D−ソルビトールの標準液および実施例3と同一の血清を検体とし、これらの検体のそれぞれ 10 μL に、2000U/mLのGOD、400U/mL のカタラーゼ、10U/mLのムタロターゼ、1.5mmol/L の4−アミノアンチピリン(4−AAP)を含む 100mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)からなる第1試薬(R−1)300 μL を加えて37℃で5分間インキュベートした。
【0053】
その後、10U/mL濃度のキシリトールオキシダーゼ(ストレプトミセス属の微生物由来)、50U/mL濃度のペルオキシダーゼ (西洋わさび由来) 、1mg/mLのNaN3 、7.5mmol/L の3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨード安息香酸(HTIB)を含む 100mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)からなる第2試薬(R−2)50μL を添加し、37℃で5分間発色反応を行い、第2試薬添加後の主波長 546nm(副波長 660nm)における吸光度の増加を、日立7150形自動分析装置で測定した。結果を表3に示す。実施例3とほぼ同様な結果が得られた。
【0054】
【表3】
【0055】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば、腎不全、糖尿病などの診断に利用できる簡単で特異的なD−ソルビトールの測定方法およびD−ソルビトールの測定用キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のA法によるD−ソルビトールの検量線である。
【図2】本発明のB法によるD−ソルビトールの検量線である。
【産業上の利用分野】
本発明は、簡便で特異的なD−ソルビトールの測定方法およびその測定用キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、D−ソルビトールの測定方法には、ソルビトール脱水素酵素(EC 1.1.1.14) を使用し、D−ソルビトールの脱水素反応によってD−フルクトースを生成させ、このD−フルクトースの6位をヘキソキナーゼ(EC 2.7.1.1)でリン酸化し、生成したD−フルクトース−6−リン酸をグルコース−6−リン酸イソメラーゼ(EC 5.3.1.9)でD−グルコース−6−リン酸に異性化し、このD−グルコース−6−リン酸のグルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC 1.1.1.49) による脱水素反応によって生成した補酵素NADPの還元体であるNADPHの吸光度を測定する方法(ベーリンガー社のキット) が知られている。
【0003】
また、ソルビトール脱水素酵素(EC 1.1.1.14) を使用し、D−ソルビトールの脱水素反によって生成した補酵素NADの還元体であるNADHの蛍光強度を測定する方法(Clin. Chem.34 2327 (1988)、特開平6−109726) 、ソルビトール脱水素酵素(EC 1.1.1.14) を使用し、この酵素の補酵素であるNADHとチオ−NADの共存下にD−ソルビトールの脱水素反応と逆反応のD−フルクトースの還元反応を行い、この酵素サイクリング反応によって生成したチオ−NADの還元体であるチオ−NADHの吸光度を測定する方法(特開平4−349897)等が知られている。
【0004】
更に、ソルビトール脱水素酵素(特開昭56−29994)を使用し、電子伝達体の1−メトキシ−5−フェナゾリウムメチルサルフェイト(1−MPMS)と還元発色性色素のテトラゾリウム塩の存在下にD−ソルビトールの脱水素反応を行い、この反応によって生成したホルマザン色素の吸光度を測定する方法(特開平6−189790)が知られている。
【0005】
また、ソルビトール脱水素酵素(特開昭56−29994)を使用し、1−MPMSの存在下にD−ソルビトールの脱水素反応を行い、この反応によって生成した過酸化水素を、ペルオキシダーゼを使用する各種検出法で測定する方法(特開平6−209793)、ソルビトール酸化酵素(特開平6−169764)を使用し、酸素の存在下にD−ソルビトールを酸化し、この反応によって生成した過酸化水素を、ペルオキシダーゼを使用する各種検出法で、測定する方法(特開平6−169764)等が知られてる。
【0006】
しかしながら、D−ソルビトールの2位を酸化してD−フルクトースを生成させるソルビトール脱水素酵素(EC 1.1.1.14)やD−ソルビトールの1位を酸化してD−グルコースを生成させるソルビトール酸化酵素(特開平6−169764)を使用する何れの測定法においても、それぞれの酵素の基質特異性が悪いことから、D−ソルビトールの測定値の信頼性には疑問がある。従って、これらの測定法の対象とする検体としてはD−ソルビトールの含有量が多く且つ干渉する成分の含有量が少ない食品や赤血球などに限定されている。
【0007】
一方、酢酸菌の細胞膜由来であり、D−ソルビトールの5位を酸化してL−ソルボースを生成させるソルビトール脱水素酵素(特開昭56−29994)を使用するD−ソルビトールの測定法においては、D−ソルビトールに対する特異性が高いとは言え、熱安定性に問題があり、診断薬を開発する上で、実用的ではなかった。この様に、ソルビトールの含有量が少なく、測定に干渉する基質成分が相対的に多い血清や血漿について、酵素法で正確に測定できたとの報告は未だにない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、複雑な前処理操作を必要とせず、汎用型の自動生化学測定装置にも対応可能であり、簡便で特異性の高いD−ソルビトールの測定法の提供に存する。また、本発明の他の目的は、腎不全、糖尿病などの診断に利用できるD−ソルビトールの測定用キットの提供に存する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成する酸化酵素が、効率よくD−ソルビトールを酸化して定量的にD−グルコースを生成すること、この反応によって生成したD−グルコースをD−グルコースの検出系と組み合わせ、更に特定の前処理と組み合わせることにより、D−ソルビトールに対して極めて特異性の高い測定系になることを見いだし、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の第1の要旨は、D−ソルビトールとD−グルコースを含有する検体に、D−グルコースを消去する前処理を施した後、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成させる酸化酵素を作用させ、該酵素反応によるD−ソルビトールの酸化で生成したD−グルコースを検出することにより、検体中のD−ソルビトールを特異的に測定する方法に関する。
【0011】
本発明の第2の要旨は、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成する酸化酵素がソルビトールオキシダーゼ、キシリトールオキシダーゼ又はマンニトールオキシダーゼであるD−ソルビトールの測定方法に関する。
【0012】
本発明の第3の要旨は、D−グルコースを消去する前処理の方法およびD−グルコースを検出する方法がグルコースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ又はグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼを使用するD−ソルビトールの測定方法に関する。
【0013】
本発明の第4の要旨は、D−グルコースを消去する前処理剤、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成させる酸化酵素およびD−グルコース検出試薬を含有するD−ソルビトール測定用キットに関する。
【0014】
更に、本発明の第5の要旨は、D−グルコース消去用前処理とD−ソルビトール検出試薬に同一酵素を使用するD−ソルビトール測定用キットに関にする。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で、D−ソルビトール測定の対象となる検体とは、D−ソルビトールの測定を必要とするものであれば特に制限されない。例えば、D−ソルビトールとD−グルコースを含有する生体試料、食品、それらの抽出液や各種の処理液などが挙げられる。また、D−ソルビトールは、腎不全や糖尿病の診断指標として期待されており、生体試料としては、赤血球、血漿、血清、組織の抽出液、尿などが有用である。
【0016】
本発明で使用されるD−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成させる酸化酵素としては、D−ソルビトールの1位を酸化してD−グルコースを生成させる能力のある酵素であれば特に制限されない。
【0017】
アルコール基を酸化する酵素は、電子受容体の種類により、(1) ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+ )又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP+ )を電子受容体とするもの、(2) シトクロムを電子受容体とするもの、(3) 酸素を電子受容体とするもの、(4) その他に分類(酵素ハンドブック:丸尾文治、田宮信雄監修;朝倉書店)されているが、D−ソルビトールからD−グルコースを生成させる能力があれば、何れのものであってもよい。
【0018】
例えば、酸素を電子受容体とする酸化酵素としては、キサントモナスに属する微生物由来のソルビトールオキシダーゼ(特開平6−169764)、ストレプトミセスに属する微生物由来のキシリトールオキシダーゼ(例えば、工業技術院生命工学工業技研究所寄託番号FERM P−14339由来のキシリトールオキシダーゼ)、蝸牛由来のマンニトールオキシダーゼ(Int. J. Biochem. 18 337-344(1986)) 等が挙げられる。
【0019】
下記に本発明で使用できるストレプトミセスに属する微生物由来のキシリトールオキシダーゼ(FERM P−14339由来のキシリトールオキシダーゼ)の一例を示す。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明で使用されるD−グルコースを検出する方法としては、実質的にD−グルコースに特異性が高い検出方法であれば何れの方法であってもよく、公知の化学的な方法から生化学的な方法まで幅広く包含し、特に制限されるものではない。特に好ましくは、D−グルコースに対して特異性に優れ、汎用型の自動生化学測定装置に適用可能な、酵素を使用するD−グルコースの検出法がある。
【0022】
この酵素を使用するD−グルコースの検出法としては、血糖測定用試薬として販売されている既存の方法がそのまま利用できる。具体例としては、▲1▼グルコースオキシダーゼ(GOD:EC 1.1.3.4)を使用してD−グルコースを酸化し、その反応で生成した過酸化水素を比色法で検出する方法、▲2▼ピラノースオキシダーゼ(PROD:EC 1.1.3.10)を使用してD−グルコースを酸化し、その反応で生成した過酸化水素を比色法で検出する方法などが知られている。
【0023】
また、▲3▼グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH:EC 1.1.1.47 )を使用し、補酵素NAD+ 又はNADP+ 〔NAD(P)と略す〕の存在下にD−グルコースを脱水素反応し、その反応で生成した補酵素の還元体であるNADH又はNADPH〔NAD(P)Hと略す〕の吸光度を比色法で検出する方法などが知られている。
【0024】
更に、▲4▼アデノシントリホスフェ−ト(ATP)の存在下、ヘキソキナーゼ(HK:EC 2.7.1.1)又はグルコキナーゼ(GK:EC 2.7.1.2)でD−グルコースをリン酸化し、生成したD−グルコース−6−リン酸を補酵素NADP+ の存在下にグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(G6PDH:EC 1.1.1.49)を使用して脱水素反応し、その反応により生成した補酵素の還元体であるNADPHの吸光度を比色法で検出する方法などが知られている。
【0025】
さらに詳しくは、酵素を使用してD−グルコースを検出する方法においては、前記の酵素反応または酵素反応系を使用して、電子受容体をD−グルコースの存在量を検出し易い中間物質、例えば、過酸化水素や補酵素の還元体へ酵素的に変換し、最終的には、これらの中間物質を安定かつ高感度に検出することによって実施され得る。この中間物質が過酸化水素の場合は、過酸化水素の検出法として知られている比色法、蛍光法、化学発光法、電極法などが使用できる。
【0026】
比色法では、ペルオキシダーゼ等の触媒により、過酸化水素でペルオキシダーゼの基質を酸化発色させ、発色濃度を分光光度計で測定する。ペルオキシダーゼの基質としては、0−フェニレンジアミン、5−アミノサリチル酸、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン等の芳香属アミン系の物質、トリンダー系試薬と称するフェノール、3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨード安息香酸などのフェノール系の物質やN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン等のアニリン系の物質と4−アミノアンチピリンの組み合わせ等が利用できる。
【0027】
更に、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)、10(メチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−フェノチアジン、10(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−フェノチアジン、ビス〔3−ビス(4−クロロフェニル)メチル−4−ジメチル−アミノフェニル〕アミン等の過酸化水素検出用の高感度基質とされる物質などが利用できる。
【0028】
蛍光法では、ペルオキシダーゼ等の触媒により、過酸化水素で基質を酸化して蛍光物質を生成させ、その蛍光強度を蛍光光度計で測定する。ペルオキシダーゼの基質としては、p−ヒドロキシフェニル酢酸、p−ヒドロキシフェニルプロピオン酸などが利用できる。化学発光法では、ペルオキシダーゼ等の触媒により、過酸化水素で基質を酸化して発光させ、その発光強度をルミノメーターで測定する。化学発光する基質としては、ルミノール化合物、ルシゲニン、アリルシュウ酸エステル類の化合物などが利用できる。
【0029】
中間物質が補酵素NAD+ 、NADP+ 、チオ−NAD+ 、チオ−NADP+ 等の還元体であるNADH、NADPH、チオ−NADH、チオ−NADPH等の場合は、これら補酵素の還元体の検出法として公知の方法が利用できる。例えば、▲1▼補酵素の還元体の吸光度や蛍光強度を、直接測定する方法、▲2▼酵素のジアホラーゼ又は電子伝達体の1−MPMS等を使用し、補酵素の還元体であるNADH、NADPH、チオ−NADH、チオ−NADPH等と還元発色性色素の各種テトラゾリウム塩類とを反応させ、この反応によって生成するホルマザン色素の吸光度を測定する方法がある。
【0030】
また、▲3▼脱水素酵素を使用し、補酵素としてNAD(P)Hとチオ−NAD(P)の共存下、この酵素のチオ−NAD(P)による脱水素反応とNAD(P)Hによるこの逆反応の還元反応をサイクルさせ、この酵素の基質を介する酵素サイクリング反応によって生成するチオ−NAD(P)の還元体であるチオ−NAD(P)Hの吸光度を測定する方法などがある。
【0031】
更に、▲4▼補酵素の還元体の酸化酵素または電子伝達体の1−MPMS等によって補酵素の還元体であるNADH、NADPH、チオ−NADH、チオ−NADPH等を酸化し、この時発生する過酸化水素を、前記の過酸化水素の検出法で検出する方法がある。
【0032】
本発明で使用されるD−グルコースを消去する前処理とは、D−ソルビトールの検出を妨害する内因性のD−グルコースを消去する方法である。D−グルコースの消去法としては、前記のD−ソルビトールの検出を妨害しない方法であれば何でもよく、D−グルコースを除去する方法と、D−グルコースを別物質に変換する方法がある。
【0033】
D−グルコースを除去する方法としては、物理的に樹脂に吸着させ除去する方法がある。すなわち、強塩基性樹脂が、アルドースやケトースを吸着する性質を利用するものであり、強塩基性樹脂を充填したカラムに検体を通し、D−グルコースを吸着し、吸着されずに溶出してきたD−ソルビトールを検出する方法(特開平3−47094)である。
【0034】
D−グルコースを別物質に変換する方法としては、化学的または生化学的な方法がある。汎用型の自動生化学測定装置で測定する場合、酵素を使用する生化学的な変換法が好ましい。生化学的な変換法としては、前記の酵素を使用するD−グルコースの検出法において述べたD−グルコースの変換法がそのまま利用できる。
【0035】
具体的には、▲1▼GOD(EC 1.1.3.4)を使用してD−グルコースを酸化する方法、▲2▼PROD(EC 1.1.3.10)を使用してD−グルコースを酸化する方法、▲3▼GDH(EC 1.1.1.47 )を使用して補酵素NAD(P)の存在下にD−グルコースを酸化する方法、▲4▼HK(EC 2.7.1.1)又はGK(EC 2.7.1.2)でD−グルコースをリン酸化し、生成したD−グルコース−6−リン酸を、G6PDH(EC 1.1.1.49)を使用して、補酵素NADP+ の存在下に酸化する方法などがある。
【0036】
なお、前処理用の酵素とD−グルコース検出用の酵素とを、必ずしも同じにする必要はないが、前処理法と共通にするほうが簡便であり好ましい。例えば、後記のA法に記載の様に、G6PDHを使用するD−グルコース測定系で前処理しておき、キシリトールオキシダーゼ添加後の吸光度増加を測定したり、または、後記のB法に記載の様に、GODを使用して前処理しておき、キシリトールオキシダーゼと合わせて過酸化水素の検出系を整え、キシリトールオキシダーゼ添加後の吸光度増加だけを測定するのが合理的である。
【0037】
本発明で使用される酵素、補酵素、試薬などは、臨床検査に使用できる程度に精製されたものが好ましい。また、反応は、公知の方法に準じて行うことが出来る。これらの酵素や試薬などの使用量は、反応温度、反応時間、反応 pH 、レート法またはエンドポイント法などの反応速度論上の設定、使用する酵素の性質や試薬の純度などにより左右されるが、一例を挙げると概ね以下に示す量である。
【0038】
キシリトールオキシダーゼは通常0.01〜50U/mL、好ましくは 0.1〜20U/mLである。G6PDHは通常 0.5〜500U/mL 、好ましくは 2〜100U/mL である。GODは通常 0.1〜10000U/mL 、好ましくは10〜5000U/mLである。その他の酵素、試薬などを使用する場合も、公知の方法に準じて適宜使用できる。反応温度は通常 5〜50℃、好ましくは20〜40℃であり、反応時間は通常 1〜60分、好ましくは 1〜10分である。
【0039】
反応 pH は使用する酵素によって異なり、各酵素の至適 pH の近辺が望ましいが、複数の酵素を同時に作用させるような場合には、必ずしも個々の酵素の至適 pH にこだわる必要はなく、酵素の反応率、基質親和性、特異性、安定性、経済性などの点で制約の大きい酵素に有利なように、各酵素の活性が消失しない pH 範囲から選択すればよい。
【0040】
酵素反応は、速度論上からはレート法とエンドポイント法の2つに分類されている。本質的にはこれらの何れであってもよいが、検体の種類、干渉成分の存在、測定対象とする基質の濃度、反応時間、要求される精度などの条件により、適宜選択される。
【0041】
D−ソルビトールの測定に必要な前記の各成分を含む試薬溶液を、常法にしたがって調製し、D−ソルビトールの測定用キットとして診断薬に組み立てることが出来る。各成分は、前記の使用量に応じた割合となるように組み合わせて、キットとすることが出来る。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
参考例1 A法(GKとG6PDHによる方法)
200mg/L 濃度のD−ソルビトール標準液を蒸留水で倍々希釈し、標準液の希釈系列を作製した。この標準液の希釈系列を検体とし、それぞれ 50 μL の各検体に、5U/mL のGK、10U/mLのG6PDH、10mmol/LのATP、10mmol/LのNADP+ 、20mmol/LのMgCl2 を含む 100mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH 7.5) 950μL を添加し、37℃で10分間インキュベートして恒温化した。
【0044】
次に、2U/mL濃度のキシリトールオキシダーゼ(ストレプトミセス属の微生物由来)を 85 μL 添加して攪拌後、37℃で10分間反応し、キシリトールオキシダーゼ添加後の340 nm における吸光度の増加を分光光度計で測定した。検量線の測定結果を図1に示す。検量線は1から100mg/L まで直線となり、D−ソルビトールの測定が可能であることが示された。
【0045】
実施例1 (A法による血清検体の測定)
健常者の血清Mと、この血清MにD−ソルビトール 50mg/L を添加したものを検体として、A法(参考例1)に従って操作し、図1の検量線から検体中のD−ソルビトール濃度を求めた。その結果を表2に示す。D−ソルビトールは、健常者の血清には極わずかしか含まれていないことが知られている。また、腎不全患者を想定したD−ソルビトール添加血清での測定値は、ほぼ理論値に近い回収率であった。このことから、A法は信頼できるD−ソルビトールの測定法であることが示された。
【0046】
実施例2 (A法の汎用型生化学分析装置への適用)
D−ソルビトールの標準液と実施例1と同一の血清Mを検体とし、これら検体のそれぞれ10μL に、5U/mL のGK、10U/mLのG6PDH、10mmol/LのATP、10mmol/LのNADP+ 、20mmol/LのMgCl2 を含む 100mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH 7.5)からなる第1試薬(R−1)340 μL を添加して37℃で5分間インキュベートした。
【0047】
その後、4U/mL濃度のキシリトールオキシダーゼ(ストレプトミセス属の微生物由来)を含む 100mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH 7.5)からなる第2試薬(R−2)50μL を添加して37℃で5分間反応し、第2試薬添加後の主波長 340nm(副波長 405nm)における吸光度の増加を、日立7150形自動分析装置で測定した。測定結果を表2に示す。実施例1とほぼ同様な結果が得られた。
【0048】
【表2】
【0049】
参考例2 B法(GODを使用する方法)
40mg/L濃度のD−ソルビトール標準液を蒸留水で倍々希釈し、標準液の希釈系列を作製した。この標準液の希釈系列を検体とし、それぞれ 25 μL の各検体に、400U/mL のGOD、400U/mL のカタラーゼ、3U/mL のムタロターゼ、1.5mmol/L の4−アミノアンチピリン(4−AAP)を含む 100mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)475 μL を添加し、37℃で20分間反応した。
【0050】
次に、10U/mL濃度のキシリトールオキシダーゼ(ストレプトミセス属の微生物由来)、25U/mL濃度のペルオキシダーゼ (西洋わさび由来) 、1mg/mLのNaN3 、7.5mmol/L の3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨード安息香酸(HTIB)を含む 100mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)100 μL を添加し、37℃で20分間発色反応を行い、発色反応における 515nmの吸光度の増加を分光光度計で測定した。検量線の測定結果を図2に示す。検量線は1から 40mg/L まで直線となり、D−ソルビトールの測定が可能であることが示された。
【0051】
実施例3 (B法による血清検体の測定)
健常者の血清K、S及びそれらの血清やD−グルコース溶液(100mg/L) にD−ソルビトールを添加したものを検体として、B法(参考例2)に従って操作し、図2の検量線から検体中のD−ソルビトール測定値を求めた。その結果を表3に示す。D−ソルビトールは、健常者の血清には僅かしか含まれていないことが知られている。また、腎不全患者を想定したD−ソルビトール添加血清での測定値は、ほぼ理論値に近い回収率であった。このことから、A法と同様に、B法は信頼できるD−ソルビトールの測定法であることが示された。
【0052】
実施例4 (B法の汎用型生化学分析装置への適用)
D−ソルビトールの標準液および実施例3と同一の血清を検体とし、これらの検体のそれぞれ 10 μL に、2000U/mLのGOD、400U/mL のカタラーゼ、10U/mLのムタロターゼ、1.5mmol/L の4−アミノアンチピリン(4−AAP)を含む 100mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)からなる第1試薬(R−1)300 μL を加えて37℃で5分間インキュベートした。
【0053】
その後、10U/mL濃度のキシリトールオキシダーゼ(ストレプトミセス属の微生物由来)、50U/mL濃度のペルオキシダーゼ (西洋わさび由来) 、1mg/mLのNaN3 、7.5mmol/L の3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨード安息香酸(HTIB)を含む 100mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)からなる第2試薬(R−2)50μL を添加し、37℃で5分間発色反応を行い、第2試薬添加後の主波長 546nm(副波長 660nm)における吸光度の増加を、日立7150形自動分析装置で測定した。結果を表3に示す。実施例3とほぼ同様な結果が得られた。
【0054】
【表3】
【0055】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば、腎不全、糖尿病などの診断に利用できる簡単で特異的なD−ソルビトールの測定方法およびD−ソルビトールの測定用キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のA法によるD−ソルビトールの検量線である。
【図2】本発明のB法によるD−ソルビトールの検量線である。
Claims (5)
- D−ソルビトールとD−グルコースを含有する検体に、D−グルコースを消去する前処理を施した後、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成させる酸化酵素を作用させ、該酵素反応によるD−ソルビトールの酸化で生成したD−グルコースを検出することを特徴とする検体中のD−ソルビトールの測定方法。
- D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成させる酸化酵素がソルビトールオキシダーゼ、キシリトールオキシダーゼ又はマンニトールオキシダーゼである請求項1記載の測定方法。
- D−グルコースを消去する前処理の方法およびD−グルコースを検出する方法がグルコースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ又はグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼを使用する方法である請求項1又は請求項2記載の測定方法。
- D−グルコースを消去する前処理剤、D−ソルビトールを酸化してD−グルコースを生成させる酸化酵素およびD−グルコース検出試薬を含有するD−ソルビトール測定用キット。
- D−グルコース消去用前処理とD−ソルビトール検出試薬に同一酵素を使用する請求項4の測定用キット。
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