JP3702357B2 - サイレントチェーン組立体およびサイレントチェーン・スプロケット組立体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般に、動力伝達用チェーンに関し、とくに、内向き歯を有する動力伝達用チェーンすなわちサイレントチェーンに関する。
【0002】
【従来の技術およびその課題】
発明の背景
本件出願の優先権主張の基礎となる米国特許出願は、「位相調整されたチェーン組立体(Phased Chain Assemblies)」という名称で1993年10月 4日に出願された、現在出願係属中の米国特許出願第08/131,473号の一部継続出願であって、この米国特許出願の出願内容は引用することによって、当該米国出願の明細書の中に含まれる。また、この米国特許出願は、1992年 5月19日に出願され現在は放棄されている米国特許出願第07/885,194号の一部継続出願であり、該特許出願も引用することによって当該米国特許出願の明細書の中に含まれる。
【0003】
本発明は、とくに、内向き歯を有する動力伝達用チェーンすなわちサイレントチェーンに適用される。一般に、サイレントチェーンは、トルクコンバータからトランスミッションへ動力を伝達する場合や四輪駆動車のトランスファーケース内で使用される場合ばかりでなく、エンジンのタイミング用にも用いられる。また本発明は、ローラチェーンやCVT(Continuously Variable Transmissions)用のチェーンベルトにも適用される。
【0004】
従来のサイレントチェーンは、動力伝達のための内向き歯付きリンクを使用している。内向き歯付リンクの組または列は、交互に配置されるとともに、チェーン組立体を構成するようにピンによって連結されている。一般に、ピンにはガイドリンクが圧入されており、該ガイドリンクは、チェーンをスプロケット上に維持するために、リンク列両側の外側部分に沿って配置されている。ピンは、一般に、ガイドリンクの縁部を越えてチェーン幅方向に、すなわちスプロケット回りのチェーンの長手方向の運動と交差する方向に延びている。
【0005】
なお、以下に説明するように、本願発明の一実施態様においては、ピンは、外側リンクまたはガイドリンクの外側縁部または側面と面一になっている。あるいは、外側リンクの側面からの突出量が最小になるように構成されている。ピンの突出量を最小にすることにより、幅の狭いチェーン構造にすることができるとともに、並設関係にある二本のチェーンのガイドリンクが互いに接触しているような実施態様を実現できる。
【0006】
また、本発明は、とくに、衝撃ノイズスペクトルおよびコーダルアクション(弦振動)ノイズスペクトルの変更のために、チェーンとスプロケットがオフセットまたは位相調整されたチェーン組立体に適用される。位相調整されたチェーンシステム(以下、「フェーズドチェーンシステム」という)においては、単一のチェーン組立体が、1/2ピッチ位相調整またはオフセットされた二本の並設チェーンに分割または置換されている。
【0007】
そして、本発明の一実施態様においては、ピン突出量を最小にする構成が、並設関係にある二本のチェーンの各側面に用いられている。ピン突出量を最小にしたガイドリンクが、位相調整された各スプロケット間の中央の溝内に配置されている。中央の溝内にガイドリンクを配置することにより、チェーンの逆側つまり外側のガイドリンクを省略するようにしてもよい。チェーンの一側面のガイドリンクを省略するとともに、中央の溝内において二本のチェーンのガイドリンクを並設させて接触関係におくことにより、従来のフェーズドチェーンシステムよりもより幅の狭いフェーズドチェーンシステムが実現される。
【0008】
すでに述べたように、典型的なサイレントチェーンは、交互に配置された内向き歯付リンクの組から構成されている。リンクの組または列は、互いに並んで配置された、または隣接して配置されたいくつかのリンクから組み立てられている。リンクは、枢支部材すなわちピンによって連結されており、該枢支部材は、一般に、一対の開孔内で支持された丸ピンまたはロッカージョイントピンである。サイレントチェーンの一例は米国特許第 4,342,560号の中に見出され、該特許は、引用することによって本明細書の中に含まれる。
【0009】
従来のサイレントチェーンは、一般に、ガイドリンクおよび内向き歯付リンクの双方を含んでいる。ガイドリンクは、リンクの一つ置きの組の外側縁部に配置されている。また、ガイドリンクは一般に、スプロケット上でチェーンを幅方向に配置させるためにのみ作用し、スプロケットとは噛み合わない。
【0010】
内向き歯付リンクすなわちスプロケット噛合リンクは、チェーンおよびスプロケット間で動力の伝達を行う。各内向き歯付リンクは、一対の開孔と、単一の垂れ下がった歯部または一対の垂れ下がったつま先部(歯部)とを有している。各つま先部は、内側フランク面および外側フランク面によって限定されている。内側フランク面は、股部(クロッチ部)で連結されている。
【0011】
内向き歯付リンクは、リンクがスプロケット歯と接触して、チェーン組立体およびスプロケット間で動力伝達が行われるように設計されている。また、内向き歯付リンクつまり駆動リンクは、内側のリンクフランク面に沿って、あるいは外側のリンクフランク面に沿って、または両フランク面に沿って、スプロケット歯と接触する。リンクおよびスプロケット歯間の接触は、動力伝達を行う形式であればよく、または付随的な接触の性質を有するものでもよく、さらには基部接触あるいは側面接触を含んでいてもよい。
【0012】
従来のサイレントチェーン駆動装置は、軸に支持された少なくとも二つのスプロケットの回りに巻き掛けられる無端状のサイレントチェーンを備えている。駆動スプロケットの回転により、チェーンを通じて動力の伝達が起こり、続いて従動スプロケットが回転する。
【0013】
エンジンのタイミング駆動装置への適用においては、駆動スプロケットはエンジンのクランクシャフト上に固定され、従動スプロケットはカムシャフト上に固定されている。エンジンのタイミング駆動装置に適用されるチェーンは、米国特許第 4,758,210号に示されており、該特許は、引用することによって本明細書の中に含まれる。種々の形式のエンジンタイミングシステムが、1993年10月4日に出願された米国特許出願第08/131,473号の中にも示されており、該特許は、引用することによって本明細書の中に含まれる。
【0014】
チェーンの第2の型式は、「ローラチェーン」として知られている。典型的なローラチェーンは、交互に配置された内側リンクおよび外側リンクから構成されている。「ブシュ」リンクとしても知られる内側リンクは、間隔を隔てて配置されたサイドバーから構成されており、サイドバーの各端部の開孔または孔内には、ブシュが圧入されている。ピンリンクとしても知られる外側リンクは、間隔を隔てて配置されたサイドバーから構成されており、サイドバーの各端部の開孔または孔内には、ピンが圧入されている。外側リンクを内側リンクに交互に枢支可能に連結するために、ブシュはピンの回りを自由に回転するようになっている。ブシュの上にはローラが設けられている。
【0015】
ローラチェーンがスプロケットの回りに巻き掛けられるとき、スプロケット歯は、チェーン幅方向に間隔を隔てたサイドバーと、チェーン長手方向に間隔を隔てたローラとの間に受け入れられる。ローラチェーンの一例は米国特許第 4,186,617号の中に見出され、該特許は引用することによって本明細書の中に含まれる。
【0016】
ローラチェーン駆動装置は、「ローラ付タイプ(“true roller" design)」とローラ無しタイプの双方を含んでいる。ローラ付タイプは、ブシュの回りに取り付けられた上述のローラを含んでいる。ローラ無しタイプは、スプロケットに直接接触するブシュを含んでいる。両タイプのローラチェーンは、一般に、英国規格チェーンおよび米国特許規格協会(ANSI)チェーンとして産業上特徴づけられている。
【0017】
ノイズはチェーン駆動装置につきものである。ノイズは種々の発生源によって発生するが、サイレントチェーンおよびローラチェーン駆動装置においては、ノイズは部分的には、噛合い開始時のチェーンとスプロケットとの衝突によって発生する衝突音によって引き起こされる。衝突音の大きさは、とりわけ、チェーンおよびスプロケット間の衝突速度と、特定の瞬間または時間増分においてスプロケットと接触するチェーンリンクの質量とにより影響を受ける。
【0018】
サイレントチェーン駆動装置において、純音成分の不快な影響を最小にするために、全体のノイズレベルおよびピッチ周期のノイズ分布を低減させるための多くの努力がなされてきた。これらの努力のいくつかについては、1993年10月4日に出願された上述の米国特許出願第08/131,473号の中で説明されている。本願発明は、ランダム化およびチェーン組立体の位相調整を含む、上記出願の中で論じられたノイズ減少のいくつかの概念とともに適用される。その一方、本願発明は、たとえば非位相調整スプロケットまたはリンク形状の非ランダム化を含むチェーンシステムに対しても広く適用される。
【0019】
チェーンおよびスプロケットの関係を位相調整することにより、与えられた時間増分の間にスプロケットと衝突するチェーンリンクの歯の数(すなわち質量)を減少させることができる。同様に、チェーン,スプロケット関係の位相調整により、チェーンおよびスプロケットのコーダルアクションあるいは屈曲運動を変更し、または位相調整することができる。そして、チェーンのランダム化およびスプロケットの位相調整の変更によって、衝突およびコーダルアクションによる音のパターンを変更させることができる。
【0020】
しかしながら、とくに最近のエンジンタイミングシステムにみられる、チェーン組立体の幅縮小化の要請により、並列でかつ位相調整関係にある二本のチェーンで単一のチェーンを置換するような場合には、フェーズドチェーンシステムを使用することが困難になっている。単一のチェーンによって占められていた同じ幅の中に二本の位相調整チェーン(以下、「フェーズドチェーン」という)を並設するためには、内側リンクの除去または薄い内側リンクの使用等の変更が要求される。
【0021】
なお、ここで、「内側リンク( “inside link" or“inner link")」という語は、チェーンをスプロケット上に維持するために作用する、圧入された従来の「ガイドリンク」と異なり、スプロケットを駆動するように構成された歯を有する屈曲運動をするリンク、すなわちピンに関して屈曲運動をするリンクを記述するのに用いられている。
【0022】
上記のような変更をすれば、チェーン幅方向に沿って内側リンクの数を少なくしなければならず、あるいはチェーンに沿って薄い内側リンクを用いなければならず、この結果、チェーン幅方向に沿って多数の内側リンクを備えたチェーン組立体よりもチェーン組立体の強度が低くなって不利である。
【0023】
最近のエンジンタイミングシステムでは、ノンガイド列にリンクを4枚、ガイド列にリンクを4,5枚しか有していない場合がよくある。なお、ここで、ガイド列(“guide row")という語は、外側にガイドリンクを含む、チェーン長手方向に沿ったリンクの組または列を意味しており、これに対して、ノンガイドリンク列(“non-guide row")という語は、ガイド列と交互に配置されかつ外側にガイドリンクを含まない、チェーン長手方向に沿ったリンク列を意味している。
【0024】
位相調整システム内において、リンクの厚みを薄くすることなくほぼ同じ幅で、このような幅の狭いタイミングシステムを組み合わせるためには、チェーンシステムにおいて、ガイド列およびノンガイド列にそれぞれリンクが2枚ずつしか配置されていない、すなわち「ツー・バイ・ツー(2×2)配列」と呼ばれる配列構造のチェーンを使用することがしばしば要求される。
【0025】
典型的なサイレントチェーンは、2枚の伝統的なガイドリンク、すなわち、スプロケットに接触して駆動力を与えるように設計されている内向き歯を有していないガイドリンクを各ガイド列に使用している。ツー・バイ・ツー配列においては、このような構造は、各ガイド列つまりチェーンの一つ置きの列が、スプロケットと駆動接触をしないという結果をもたらす。各列においてスプロケットと駆動接触つまり動力伝達接触をしない構造によって、各列がスプロケットと駆動接触をするチェーンよりも結果的に騒音の大きなチェーンになる。
【0026】
またフェーズドチェーンシステムは、並設された非位相調整チェーンシステム(以下、「ノンフェーズドチェーンシステム」という)と同様に、一般に、間隔を隔てて配置された関係にある二本のチェーンで構成されている。チェーンが運転中に互いに接触しないようにするために、二本のチェーンの間に隙間が設けられている。
【0027】
高速仕様の自動車への適用においては、駆動スプロケットおよび従動スプロケットの各組立体の間の空間内で延びる各チェーンの部分でかなり大きな動きが発生する。二本のチェーン間の幅方向の間隙は、このような動きの最中に二本のチェーン間で接触が生じないようにするために設けられている。また、チェーンと他の構造物との間にクリアランスを設けることが、運転中のチェーンの長手方向または幅方向の運動により生じる接触を避けるために一般に推奨されている。チェーン間の間隙はまた、チェーン組立体の大きさまたは全幅に影響する。
【0028】
本発明は、上記従来の欠点を解消しようとしており、幅の狭いサイレントチェーン組立体を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、フェーズドチェーン組立体の幅を減少させることができ、さらには、本発明を用いない場合と同じ幅のチェーン内でより多くの内側リンクを使用できるようにすることにより、強度を向上させることができるサイレントチェーン組立体を提供することにある。
【0029】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明に係るサイレントチェーン組立体は、並設された第1および第2のチェーンから構成されたサイレントチェーン組立体において、前記第1のチェーンが、交互に配置された複数の内側リンクの組を有し、前記各内側リンクが、一対の垂れ下がった歯部および一対の円形開孔をそれぞれ有するとともに、隣り合う前記各内側リンクの組が、前記円形開孔に挿入された円形断面の枢支部材により各々屈曲運動可能に連結されており、 前記第2のチェーンが、交互に配置された複数の内側リンクの組を有し、前記各内側リンクが、一対の垂れ下がった歯部および一対の円形開孔をそれぞれ有するとともに、隣り合う前記各内側リンクの組が、前記円形開孔に挿入された円形断面の枢支部材により各々屈曲運動可能に連結されている。前記第1および第2のチェーンは、対向配置される内側部分と、前記内側部分と逆側に配置される外側部分とをそれぞれ有しており、前記第1および第2のチェーンの前記各内側部分は、スプロケットに対するガイド機能を有しかつ一対の円形開孔を有するガイドリンクをそれぞれ有するとともに、前記第1および第2のチェーンの前記外側部分は、一対の垂れ下がった歯部および一対の円形開孔をそれぞれ有す る外側リンクを有している。前記枢支部材は、前記ガイドリンクおよび前記外側リンクの前記各開孔を挿通することにより前記ガイドリンクの縁部を越えてから前記外側リンクの縁部を越えるまで延びており、前記枢支部材が前記ガイドリンクの前記縁部を越えた突出量は、前記枢支部材が前記外側リンクの前記縁部を越えた突出量よりも小さくなっている。 前記第1のチェーンにおいて前記ガイドリンクの前記縁部を越えて延びる前記枢支部材の先端は、前記第2のチェーンの前記ガイドリンクと接触しており、前記第2のチェーンにおいて前記ガイドリンクの前記縁部を越えて延びる前記枢支部材の先端は、前記第1のチェーンの前記ガイドリンクと接触している。
【0030】
請求項2の発明に係るサイレントチェーン組立体は、請求項1において、前記ガイドリンクが第1の厚みを有し、前記枢支部材が、前記第1の厚みの10%以下の量だけ、前記ガイドリンクの前記縁部を越えて延びていることを特徴としている。
【0031】
請求項3の発明に係るサイレントチェーン組立体は、請求項1において、前記ガイドリンクが第1の厚みを有し、前記枢支部材が、前記第1の厚みの50%以下の量だけ、前記ガイドリンクの前記縁部を越えて延びていることを特徴としている。
【0032】
請求項4の発明に係るサイレントチェーン組立体は、請求項1において、前記ガイドリンクの厚みが前記内側リンクの厚みよりも薄いことを特徴としている。
【0033】
請求項5の発明に係るサイレントチェーン組立体は、請求項1において、前記外側リンクの厚みが前記内側リンクの厚みよりも薄いことを特徴としている。
【0034】
請求項の発明に係るサイレントチェーン・スプロケット組立体は、請求項において、駆動軸に連結された第1および第2の駆動スプロケットと、従動軸に連結された第1および第2の従動スプロケットとをさらに備えたサイレントチェーンおよびスプロケット組立体であって、前記第1および第2の駆動スプロケットが、間隔を隔てた複数の歯を有するとともに、前記駆動軸に沿って平行に配置されており、前記第1の駆動スプロケットの前記歯の位置が、前記第2の駆動スプロケットの歯に対して円周上で約1/2ピッチオフセットされるとともに、前記第1および第2の従動スプロケットが、間隔を隔てた複数の歯を有するとともに、前記従動軸に沿って平行に配置されており、前記第1の従動スプロケットの前記歯の位置が、前記第2の従動スプロケットの歯に対して円周上で約1/2ピッチオフセットされており、前記駆動スプロケットが入力軸に駆動連結されるとともに、前記従動スプロケットが出力軸に駆動連結され、前記第1の駆動スプロケットが前記第1の従動スプロケットと整列して配置されるとともに、前記第1の駆動スプロケットを前記第1の従動スプロケットに駆動連結する前記第1のチェーンを有しており、前記第2の駆動スプロケットが前記第2の従動スプロケットと整列して配置されるとともに、前記第2の駆動スプロケットを前記第2の従動スプロケットに駆動連結する前記第2のチェーンを有していることを特徴としている。
【0035】
請求項の発明に係るサイレントチェーン・スプロケット組立体は、請求項において、前記第1のチェーンの前記ガイドリンクと、前記第2のチェーンの前記ガイドリンクとが、運転中に前記第1,第2の駆動スプロケット間に配置された溝内を移動するようになっていることを特徴としている。
【0036】
【発明の実施の形態】
発明の概要
本発明は、チェーンの外側リンクを越える突出量を最小にしたピンが設けられるチェーン組立体に関する。すなわち、チェーン幅方向の少なくとも一側面において、ピン端面が外側リンクに対して好ましくは面一であり、あるいはピンが外側リンクの縁部を越えて延びてはいない。外側リンクを越えるピンの延長度合い(突出量)は、好ましくは外側リンクまたは最外側リンクの厚みの50%以下であり、より好ましくは、外側リンクまたは最外側リンクの厚みの10%以下である。
【0037】
本発明の一実施態様においては、フェーズドチェーンシステムが、オフセットされあるいは位相調整された関係で並設されている二本のチェーンを含んでいる。ピン突出量は、並設関係にある二本のチェーンの側面上に制限されている。ピンの突出量を最小にすることにより、二本のチェーンの各ガイドリンクを接触関係におくことができる。
【0038】
本発明の一実施態様においては、位相調整スプロケット(以下、「フェーズドスプロケット」という)の中央に、あるいは二つのフェーズドスプロケットの間に溝を設けている。ガイドリンクは、スプロケットの中央においてこの溝内を移動する。ピンをリンクと面一にし、あるいはリンクの外側縁部を越えてごく最小の長さだけ突出させることにより、二本の並設されたチェーン組立体が近接して配置され、二本のチェーンのガイドリンクが互いに接触することになる。二本のチェーンを近接配置させることによって、全システムの幅を小さくできる。また、スプロケット中央の溝が単一ガイドリンクのガイド機能を発揮するので、各チェーンの反対側のガイドリンクは省略することができる。
【0039】
チェーン幅方向中央に向かう方向にピンを押し込むことによって、ピンは外側リンクと面一に配置される。あるいは、チェーン外側においてピン孔開口がわずかに拡げられて、該開口内にピンが着座する。ピンがチェーンの他側面側よりも一側面側に多く突出することにより、ピンがチェーン長手方向に関して非対称に配置される。
【0040】
ピンはリンク外側面と面一である必要はないが、好ましくは、チェーン幅方向外方にあまり長く延長されるべきではない。一実施態様においては、ピン突出量は、最内側リンクの厚みの50%以下に制限されている。また、好ましい実施態様においては、ピン突出量は、最内側リンクの厚みの10%以下に制限されている。
【0041】
なお、ここで、最内側リンク(“innermost link")という語は、たとえば、隣接するチェーンに並設されたチェーンの側のリンクを定義するのに用いられている。ノンフェーズドチェーンシステムまたは並設チェーンを有していないシステムにおいては、チェーンのいずれかの側が、最内側リンクを含む内側(“inner" side)と定義される。
【0042】
本発明のある実施態様においては、ガイドリンクが内向き歯付内側リンクの形態をしている。すなわち、ガイドリンクが、二つの上方に延びる部分の間に股部を有している、上下逆の内側リンクに似た形状をしている。このようなガイドリンクは、他の特徴部分とともに、たとえば、1994年2月19日に出願されたデヴィッド・ホワイトによる「チェーンガイドリンク」という名称の米国特許出願第08/196,310号に示されており、該特許出願の開示部分は、引用することによって本明細書の中に含まれる。
【0043】
ガイドリンクは、内側リンクつまり駆動リンクよりも薄く、チェーンの内側または最内側の位置に配置されている。チェーンの外側または最外側のリンクもまた、内側つまり駆動リンクよりも薄い。ピンに対する屈曲運動のために設けられている内側リンクと異なり、外側または最外側のリンクはピンに圧入されている。最外側のリンクは内向き歯を含み、あるいは最内側のガイドリンクに似た形状をしている。内側リンクは、好ましくは、スプロケット歯と駆動接触するための内向き歯対を備えた伝統的な内側リンクである。
【0044】
なお、ここで、最外側リンク(“outermost link")および最内側リンク(“innermost link")という語は、特定のリンク列におけるリンクを定義するのに用いられている。また、他のリンク列における同様のリンクを定義してもよい。
【0045】
本発明は、チェーン組立体の幅を減少させる際のいくつかの利点を提供する。現在の自動車エンジン用タイミングチェーンに必要なチェーン組立体のサイズ小型化の際に、フェーズドチェーンシステム内で二本のチェーン間の間隙をなくすことは、このようなサイズの利点をもたらす。また、ガイドリンク配置用の中央の溝を使用することにより、チェーンの反対側のガイドリンクを省略することができ、このことはまた、チェーンをより小型化することに寄与する。チェーンの幅をより狭くできることに加えて、本発明によれば、本発明のガイドリンクを有しない一対のチェーンと同じ幅の中に、多数の駆動リンクつまり内向き歯付内側リンクを有する一対のチェーンが提供される。
【0046】
本発明はまた、並設関係にある二本のチェーンをガイドするための新しい形態を提供する。従来のチェーンシステムにおいては、二本の並設チェーンは、チェーンの長手方向または幅方向の動きにより二本のチェーン間で接触が起こらないように、間隔を隔てた関係でつまり特定のクリアランスをもって配置されている。一方、本発明においては、各チェーンが他のチェーンをガイドするように、二本のチェーンが接触した関係で配置される。このようなアプローチの仕方は、接触を回避する従来の方法とは正反対のものである。
【0047】
本発明は、とくに、フェーズドチェーン組立体またはフェーズドチェーンシステムに適用される。それは、高速仕様の自動車のトランスミッション,トランスファケースまたはエンジンタイミングシステムであり、これらにおいて、スプロケットは二つの部分または分離された組立体に分割されており、各スプロケット部分は単一または複数のチェーンが巻き掛けられた状態で、互いにオフセットされまたは位相調整されている。
【0048】
これらの実施態様の各々は、その他の実施態様とともに、2本,3本または4本のチェーンからなるチェーン組立体を含む、複数のチェーン組立体を有している。またスプロケットは、1/4歯,1/3歯,1/2歯あるいは他の種々のピッチ量だけ位相調整されている。同様に、チェーン組立体は、1/4ピッチ,1/3ピッチ,1/2ピッチまたは他のピッチ分だけ位相調整されている。
【0049】
各チェーン組立体においては、リンクの組を構成するようにリンクが交互に配置されている。各リンクは一対の開孔を有し、あるリンクの組の開孔は、隣接するリンクの組の開孔と組み合わされるように配置されている。丸ピンまたはロッカージョイントの形態をとる枢支部材は、隣接するリンクの組を開孔を通して連結するとともに、隣接するリンクの組に対してリンクの組が枢支運動を行えるように、用いられている。サイレントチェーンの場合には、駆動リンクは、スプロケットへの動力伝達のための内向き歯を有している。ローラチェーンの場合には、リンクは相互に連結され、スプロケットにはローラまたはブシュのいずれかが接触している。
【0050】
本発明はまた、チェーンの基準構造における利点をもたらす。自動車仕様の従来のチェーン組立体においては、チェーンは、たとえば0.750インチ,0.875インチおよび1.00インチの幅で設けられる。これらの幅のチェーンを設ける際には、各列にリンクがもう一枚加えられる。すなわち、0.875インチ幅のチェーンは、0.750インチ幅のチェーンよりも各列に一枚余分のリンクを有しており、1.00インチ幅のチェーンは、0.875インチ幅のチェーンよりも各列に一枚余分のリンクを有している。
【0051】
言い換えれば、0.875インチのチェーンの各ガイド列は、0.750インチのチェーンの対応する各ガイド列よりも一枚多くのリンクを有しており、0.875インチのチェーンの各ノンガイド列は、0.750インチのチェーンの対応する各ノンガイド列よりも一枚多くのリンクを有している。
【0052】
本発明においては、二つの標準の幅の中にモジュラーチェーンが設けられている。二本の従来の標準チェーンの幅は、第1の幅を有する二つのモジュラーチェーン,第2の幅を有する二つのモジュラーチェーン,または第2の幅を有する一つのモジュラーチェーンと組み合わされる、第1の幅を有する一つのモジュラーチェーンという各種組み合わせに適合している。これらのチェーンのための位相調整システム(以下、「フェーズドシステム」という)を提供する際に、種々の組み合わせのモジュラーチェーンを使用することによって、別のチェーンを製作する必要がなくなる。モジュラーチェーンは、顧客のために、フェーズドチェーン組立体を用意する際に、製造上の節約と利点をもたらすものである。
【0053】
好ましい実施態様の詳細な説明
図面に示すように、本発明は、チェーン幅方向の突出量が最小であるピンを有するチェーンを提供しようとしている。図1は、並設関係にある従来の一対の位相調整チェーン(フェーズドチェーン)10,12を示している。二つのチェーンは、両外側に沿って配置されたガイドリンク14,16と、スプロケットとの駆動接触のための垂れ下がったつま先部対を有する内側リンクまたは屈曲運動リンク18とを含んでいる。二つのスプロケット20,22は、約1/2ピッチだけ位相調整またはオフセットされている。
【0054】
従来から典型的には、チェーン組立体の両側から外方にピン24が突出している。ピンは、チェーン長手方向に関して一般に(製造公差の範囲内で)対称である。図1に示される二つのチェーン10,12は、分離され間隔を隔てられた関係におかれている。一方のチェーンのガイドリンクが、これと隣り合うチェーンのガイドリンクと接触しないように、両チェーン間には間隙が設けられている。
【0055】
その一方、従来のチェーンの中には、二つのチェーンにおける突出ピン同士の接触を許容しているものがある。このような従来のフェーズドチェーン組立体の例は、実開平5−17251号(実願平3−90363号)公報および実開平3−28348号(実願平1−51359号)公報に示されている。これらの出願は、隣り合うチェーンのピン同士の付随的な接触について示している。
【0056】
図2は、本発明による、ピン突出量を最小にした一対のフェーズドチェーン24,26を示している。同図に示すように、二本のチェーンは、チェーン内側部分、すなわち並設関係にある二本のチェーンの部分32に沿って配置されたガイドリンク28,30を含んでいる。この実施態様では、ピンは、最内側ガイドリンク28,30の縁部を越えて突出してはいない。したがって、二つのガイドリンクは、スプロケットの回りを移動するとき接触関係にある。
【0057】
ガイドリンクはまた、二つのスプロケット部分36,38間の溝34内に保持されている。ガイドリンクの下部40を溝34内に配置することにより、チェーンがスプロケット上に保持される。このように、隣接するチェーンのガイドリンク間の接触によって、チェーンを互いにガイドすることができる。一実施態様においては、ガイドリンク28,30は、内側または駆動接触リンク42,44よりも薄くなっている。
【0058】
ガイドリンクの縁部(“edge”)は、チェーン幅方向のリンク側面上で平坦面になっている。二つの縁部間の距離がリンクの厚みである。厚みは、たとえば図2の断面図に示されている。ピン46は、最外側リンク48,50の外側縁部を越えて延びている。一方、一実施態様においては、最外側リンク48,50の厚みは、内側または駆動接触リンク42,44の厚みよりも薄くなっている。ピンは外側リンク内に従来の方法で圧入されている。外側リンクは、スプロケットとの動力伝達接触のための内向き歯を有している。
【0059】
一方のチェーン組立体24のガイドリンク28,内側リンク44および外側リンク48は、図8および図9にさらに詳細に示されている。最内側リンク28は、チェーンをスプロケット上に保持するための下部延長部40を有するガイドリンクである。内側リンク44は、スプロケットとの駆動接触のための二つの垂れ下がった歯部52,54を有する伝統的な屈曲運動リンクである。外側リンク48すなわち最外側リンクは内向き歯付リンクである。ピンは好ましくは最外側リンクに圧入されている。
【0060】
リンクのその他の組み合わせも可能である。たとえば、ガイドリンク28を内向き歯付リンクにしてもよい。同様に、外側リンク48が内向き歯付リンクであってもよい。あるいは、外側リンクが伝統的なガイドリンクであってもよい。図8および図9には一つの内側リンク44のみが示されているが、他の内側リンクを配置して、2×2配列または他の配列を得るようにしてもよい。他の内側リンクを含む配列は、たとえば図3ないし図6に示されている。
【0061】
ピン突出量を最小にするための、ピン46の内側ガイドリンク28内への装着は、多くの可能な方法によって実現される。三つの製作方法が図12ないし図14に示されている。もちろん、他の製作方法も可能であり、本発明は、ここに図示され記述された方法に限定されるものではない。
【0062】
図12に示される方法では、(a)に示すように、ピンはリンク内を通って押し込まれ、ガイドリンク28の外側にまで延びている。ピンの頭がリベット打ち(リベッティング)された後、(b)に示すように、望ましい突出状態が得られる位置まで、ピンはガイドリンク内に押し込められる。ピンの頭はリンク端部を越えて延びていてもよいが、好ましくは、リンクと実質的に面一であるか、あるいはリンク内に没入している。ピンはリンク開孔の凹部内に押し込まれていてもよく、あるいはリンク自体を塑性変形させてもよい。
【0063】
一実施態様においては、ピンは、リンク厚みの10%以下の量だけリンク表面から突出している。他の実施態様においては、ピンは、リンク厚みの50%以下の量だけリンク表面から突出している。他の突出量も可能ではあるが、本発明の意図は、たとえばチェーン幅の減少を含む本発明の利点を促進させるために、ピン突出量を制限することにある。
【0064】
ピンがリンク内に装着されたとき、ピンはチェーン長手方向に関して非対称に配置されている。すなわち、ピンは、チェーン組立体の幅方向に沿って、チェーンの他側面側よりも一側面側により多く突出している。
【0065】
第2の製作方法は図13に示されている。この方法においては、ピンがリンク開孔内の凹部に押し込まれている。この凹部は、リンク縁部からのピン突出量の上記望ましい関係を維持できれば十分である。
【0066】
第3の製作方法は図14に示されている。この方法では、ピンは開孔内に没入しており、リンク内でのピンの位置を維持するために、ピン上端が溶接部56により溶接されている。(a)に示すように、従来の伝統的なリンクにおいても、リンク内でのピンの位置を維持するために溶接が採用されているが、この場合、溶接部分がリンクから外方に突出している。これに対し、本発明においては、(b)に示すように、溶接部は、ピン頭部とリンク外側縁部との間の凹部内に配置されており、これにより、リンク外側縁部を越える溶接部の突出量は最小に抑えられている。また、たとえば化学処理のような、ピンを締結あるいは固定するその他の手段についても、本発明によって考慮されている。
【0067】
本発明はとくにモジュラーチェーン組立体に適用されるとはいうものの、ここで記述されるモジュラーチェーン組立体は、最小のピン突出量あるいは本発明の他の特徴部分との使用に限定されるものではないということが強調されなければならない。したがって、ここでのモジュラーチェーン組立体は、フェーズドチェーンシステムおよびノンフェーズドチェーンシステムの双方に広く適用されるものである。
【0068】
本発明によるモジュラーチェーンシステムの例が図3ないし図5に示されている。フェーズドシステムを提供するために、モジュラーシステムは二つのチェーンの組み合わせにより製作されている。ノンフェーズドシステムでは、モジュラーチェーンシステムは、幅の狭い二本またはそれ以上のチェーンから特定の幅のチェーンシステムを構成するのに用いられている。
【0069】
チェーンシステムおよび特定のフェーズドシステムの従来構造においては、システム内の二本またはそれ以上のチェーンが一般に同じ幅を有していた。このため、チェーンの与えられたガイド列に沿うリンクの数をXとするとき、システムが位相調整されているか否かに拘わらず、幅Xのチェーンシステムを提供するためには、一般に幅X/2の二本のチェーンが組み合わされていた。従来のシステムをともに構成する二本のチェーンは一般に同じ幅を有している。チェーン組立体の全幅に沿って均等な荷重分担を確保するために、従来においては同じ幅のチェーンが使用されている。
【0070】
このため、幅の広いシステムを組み立てるには、二本のチェーンがX+1枚のリンク幅を確保していることが必要である。たとえば標準のチェーンシステムの組立体の幅は、0.750インチ幅,0.875インチ幅および1.00インチ幅である。これらの幅のチェーン組立体をそれぞれ組み立てるには、各ガイド列にもう一枚リンクを加える。同様に、各ノンガイド列にもう一枚リンクが加えられる。また、次の標準幅のものを組み立てるには、X+2枚のリンク幅が確保されている二本のチェーンが必要である。したがって、三つの標準幅のチェーンシステムを組み立てるには、三つの異なった幅X,X+1,X+2を有するチェーンシステムの組立体が必要である。
【0071】
二本のチェーンでこれらのシステムを構築するには、チェーンが、X/2枚,(X+1)/2枚または(X+2)/2枚のリンク幅をガイド列に有していることが必要である。このため、従来において三つの標準チェーンシステムを製作するには、三つの異なった幅のチェーンが必要であった。
【0072】
本発明によるモジュラーチェーンシステムは、異なった幅のシステムを構成するチェーンを製作することによって、これらの欠点を解消している。このため、組み合わされたシステムを構成する二本のチェーンが、システム内に組み込まれたときに所望の幅のチェーンを形成するように、二つの異なった幅を有している。
【0073】
本発明においては、二本のモジュラーチェーンが、ガイド列のX/2枚のリンク幅に等しい幅A,およびガイド列の(X+2)/2枚のリンク幅に等しい幅Bからそれぞれ構成されている。これら二本のモジュラーチェーンA,Bは、上述の三本のチェーン(X,X+1,X+2)のかわりに用いられている。これら二本のモジュラーチェーンA,Bは、幅X,X+1またはX+2と等しい幅のチェーンを使用する、組み合わされたチェーンシステムを実現するために、適切な数のリンクを用いている。
【0074】
0.750インチ幅,0.875インチ幅および1.00インチ幅の標準システムを実現するためのモジュラーチェーンが、図3ないし図5に示されている。図3では、幅Aの二つのチェーン62を組み合わせることによって、0.750インチ幅のチェーン60が構成されている。図4では、幅Aのチェーン62に幅Bのチェーン66を組み合わせることによって、各ガイド列およびノンガイド列にもう一枚のリンクを必要とする0.875インチ幅のチェーン64が構成されている。図5では、幅Bの二本のチェーン66を組み合わせることによって、各ガイド列および各ノンガイド列にさらにもう一枚のリンクを必要とする1.00インチ幅のチェーン68が構成されている。
【0075】
このように、同じ幅の三本のチェーンのかわりに、幅AおよびBの二つのモジュラーチェーンを使用することによって、三つの標準チェーンシステムが構築される。
【0076】
上述の式を使用すると、ノンガイド列がそれぞれ6枚のリンク幅(図3),7枚のリンク幅(図4)および8枚のリンク幅(図5)の三本のチェーンは、三つのチェーン幅のかわりに、3枚のリンク幅(幅A)および4枚のリンク幅(幅B)の二本のモジュラーチェーンから構成される。
【0077】
上記モジュラーチェーンシステムの使用によって、製造上の実質的な節約が達成され得る。モジュラーシステムの使用は、かつて三本のチェーンが必要だったところに二本のモジュラーチェーンを必要とするだけなので、チェーンの製造,組立て工程および在庫量を約1/3削減することになる。本発明によるモジュラーチェーンシステムは、フェーズドシステムのみならずノンフェーズドシステムにも適用される。同様に、モジュラーチェーンシステムは、チェーンの幅方向にもう一枚のリンクを加えることによって構成される、いかなる標準チェーンシステムにも適用される。また本発明の適用は、例として上に挙げた標準サイズに限定されるものではない。
【0078】
本発明によるモジュラーシステムはまた、図6に示されるように、最小ピン突出量という本発明の特徴部分とともに用いられる。幅A,Bのモジュラーチェーン62,66は、図6において、最小ピン突出量またはピン突出量零という特徴部分とともに組み合わされている。チェーン幅の減少は図7に比較して示されている。図7には、同じ幅の二本のチェーンと、システム内のチェーンの両側から突出するピンとを備えた、従来仕様の同じチェーンシステムが示されている。
【0079】
このように、二本のチェーンをごく接近して配置することによって、本発明の最小ピン突出量という特徴部分が、システム内の二本のチェーンをより幅の狭い組立体内に配置させることができる。一実施態様においては、並設された二本のチェーンの各ガイドリンクがチェーンシステムの運転中に互いに接触する。あるいは、本発明の最小ピン突出量により、従来のチェーンと同じ幅内により多くのリンクを備えたチェーンを配置することができる。二本のチェーンをごく接近して配置することにより、チェーンに沿ってより多くのリンクを配置することができる。チェーン幅に沿って多数のリンクを配置することにより、一般に、チェーン幅に沿ったリンク枚数が少ないチェーンよりも高強度のチェーンが提供される。
【0080】
本発明の特徴部分は、自動車エンジンのタイミングチェーンやトランスファケース用チェーン、またはトランスミッション用チェーンのための高速仕様チェーンに最もよく適用される。図10,図11には、単一のカムシャフトまたは二本のオーバヘッドカムシャフトを備えたエンジンのタイミングチェーンシステムに適用される例がそれぞれ示されている。他のタイミングシステムへの適用は、1993年10月4日に出願された米国特許出願第08/131,473号に示されているような種々のタイミングシステム構成とともに可能である。
【0081】
図10および図11は、フェーズドタイミングシステムの二つの構成例を示している。図10において、エンジンタイミングシステム200は、クランクシャフト205上に配置された駆動スプロケットシステム202と、カムシャフト203上に配置された従動スプロケットシステム204とを含んでいる。クランクシャフトが回転すると、チェーン206およびスプロケットシステムを介してカムシャフトが回転する。クランクシャフトスプロケット202は、カムシャフトスプロケット204の半分の歯数を有している。カムシャフトは、一般に、油圧式のリフタや、バルブステムに連結されたロッカーアームを介して、バルブ列の運転を制御する。
【0082】
フェーズドシステムを提供するために、クランクシャフトスプロケットおよびカムシャフトスプロケットは、1/2ピッチだけオフセットされたスプロケット対208,210によってそれぞれ置き換えられている。並設された二本のチェーン212,214は、位相調整された関係でスプロケット上に配置されている。
【0083】
図11に示された実施態様では、エンジンタイミングシステムが、一対のチェーンシステム222,224によって二本のオーバヘッドカムシャフト218,220に連結されたクランクシャフト216を使用している。もしクランクシャフトスプロケットのみが位相調整されれば、オフセットされた二つのスプロケットが位相調整された関係でクランクシャフト上に配置されることになる。各チェーン222,224は、各オーバヘッドカムシャフト上で単一のスプロケット228,230に連結される。
【0084】
カムシャフトについても位相調整された場合には、オフセットされた二つのスプロケットが位相調整された関係で各オーバヘッドカムシャフト上に配置されることになる。この場合には、四つのスプロケットがクランクシャフト上で用いられることになる。4本のチェーンは、クランクシャフト上の四つのスプロケットと、各カムシャフト上の二つのスプロケットとを連結する。クランクシャフトスプロケット232,234のうちの二つを、他の二つのクランクシャフトスプロケットに対して1/2ピッチだけオフセットしてもよい。あるいは、四つのスプロケットすべてを1/4ピッチだけ位相調整してもよい。
【0085】
チェーンシステムは、チェーン緊張力を維持するために各チェーンの緩み側にテンショナ236,238を、運転中のチェーンの動きを制御するために各チェーンの緊張側にスナッバ240,242をそれぞれ有している。
【0086】
本発明のいくつかの実施態様が示されているが、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。本発明が関連する技術分野の当業者は、とくに上述の教示内容を考慮するとき、本発明の原理を利用する変形例やその他の実施態様を構築し得る。
【0087】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明に係るサイレントチェーン組立体によれば、幅の狭いチェーン構造にすることができる効果がある。また本発明によれば、フェーズドチェーン組立体の幅を減少させることができ、さらには、同一幅のチェーン内でより多くの内側リンクを使用することができ、これにより、強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】並設関係にある、従来の二本のフェーズドチェーンの一部を示す概略図。
【図2】本発明の一実施態様による、並設関係にある二本のフェーズドチェーンの一部を示す概略図。
【図3】本発明による最小のピン突出量を有する、第1の幅の一対のモジュラーチェーンの平面部分図。
【図4】本発明による最小のピン突出量を有する、第1および第2の幅の一対のモジュラーチェーンの平面部分図。
【図5】本発明による最小のピン突出量を有する、第2の幅の一対のモジュラーチェーンの平面部分図。
【図6】本発明による最小のピン突出量を有する一対のフェーズドチェーンの平面部分図。
【図7】従来における一対のフェーズドチェーンの平面部分図。
【図8】本発明の一実施態様による3つのタイプのリンク(最内側ガイドリンク,従来の内側リンク,外側リンク)を示す正面図。
【図9】図8の各リンクの配列を示す正面図。
【図10】単一のカムシャフトおよびクランクシャフトを有するタイミングチェーンシステムに本発明が適用された例を示す図であって、(a)はその正面図、(b)は側面図。
【図11】一対のオーバヘッドカムシャフトを備えたタイミングチェーンシステムに本発明が適用された例を示す図。
【図12】本発明の実施態様を製作するための方法を示す概略図であって、ピンが(a)の位置から、リンク外縁部と実質的に面一になる(b)の位置まで押し込まれる様子を示す図。
【図13】本発明の実施態様を製作するための方法を示す概略図であって、ピンがリンク開孔内の凹部に装着された状態を示す図。
【図14】(a)は、従来の溶接されたピンの概略図であり、(b)は、本発明の実施態様を製作するための方法を示す概略図であって、ピンが開孔内に没入した位置で溶接されている状態を示す図。
【符号の説明】
24,26 フェーズドチェーン
28,30 ガイドリンク
42,44 内側リンク
48,50 外側リンク
34 溝
36,38 スプロケット
46 ピン

Claims (7)

  1. 並設された第1および第2のチェーンから構成されたサイレントチェーン組立体において、
    前記第1のチェーンが、交互に配置された複数の内側リンクの組を有し、前記各内側リンクが、一対の垂れ下がった歯部および一対の円形開孔をそれぞれ有するとともに、隣り合う前記各内側リンクの組が、前記円形開孔に挿入された円形断面の枢支部材により各々屈曲運動可能に連結されており、
    前記第2のチェーンが、交互に配置された複数の内側リンクの組を有し、前記各内側リンクが、一対の垂れ下がった歯部および一対の円形開孔をそれぞれ有するとともに、隣り合う前記各内側リンクの組が、前記円形開孔に挿入された円形断面の枢支部材により各々屈曲運動可能に連結されており、
    前記第1および第2のチェーンが、対向配置される内側部分と、前記内側部分と逆側に配置される外側部分とをそれぞれ有しており、
    前記第1および第2のチェーンの前記各内側部分が、スプロケットに対するガイド機能を有しかつ一対の円形開孔を有するガイドリンクをそれぞれ有するとともに、前記第1および第2のチェーンの前記外側部分が、一対の垂れ下がった歯部および一対の円形開孔をそれぞれ有する外側リンクを有しており、
    前記枢支部材が、前記ガイドリンクおよび前記外側リンクの前記各開孔を挿通することにより前記ガイドリンクの縁部を越えてから前記外側リンクの縁部を越えるまで延びており、前記枢支部材が前記ガイドリンクの前記縁部を越えた突出量は、前記枢支部材が前記外側リンクの前記縁部を越えた突出量よりも小さくなっており、
    前記第1のチェーンにおいて前記ガイドリンクの前記縁部を越えて延びる前記枢支部材の先端は、前記第2のチェーンの前記ガイドリンクと接触しており、前記第2のチェーンにおいて前記ガイドリンクの前記縁部を越えて延びる前記枢支部材の先端は、前記第1のチェーンの前記ガイドリンクと接触している、
    ことを特徴とするサイレントチェーン組立体。
  2. 請求項1において、前記ガイドリンクが第1の厚みを有し、前記枢支部材が、前記第1の厚みの10%以下の量だけ、前記ガイドリンクの前記縁部を越えて延びている、
    ことを特徴とするサイレントチェーン組立体。
  3. 請求項1において、前記ガイドリンクが第1の厚みを有し、前記枢支部材が、前記第1の厚みの50%以下の量だけ、前記ガイドリンクの前記縁部を越えて延びている、
    ことを特徴とするサイレントチェーン組立体。
  4. 請求項1において、前記ガイドリンクの厚みが前記内側リンクの厚みよりも薄い、
    ことを特徴とするサイレントチェーン組立体。
  5. 請求項1において、前記外側リンクの厚みが前記内側リンクの厚みよりも薄い、
    ことを特徴とするサイレントチェーン組立体。
  6. 請求項において、駆動軸に連結された第1および第2の駆動スプロケットと、従動軸に連結された第1および第2の従動スプロケットとをさらに備えたサイレントチェーン・スプロケット組立体であって、
    前記第1および第2の駆動スプロケットが、間隔を隔てた複数の歯を有するとともに、前記駆動軸に沿って平行に配置されており、前記第1の駆動スプロケットの前記歯の位置が、前記第2の駆動スプロケットの歯に対して円周上で約1/2ピッチオフセットされるとともに、
    前記第1および第2の従動スプロケットが、間隔を隔てた複数の歯を有するとともに、前記従動軸に沿って平行に配置されており、前記第1の従動スプロケットの前記歯の位置が、前記第2の従動スプロケットの歯に対して円周上で約1/2ピッチオフセットされており、
    前記駆動スプロケットが入力軸に駆動連結されるとともに、前記従動スプロケットが出力軸に駆動連結され、
    前記第1の駆動スプロケットが前記第1の従動スプロケットと整列して配置されるとともに、前記第1の駆動スプロケットを前記第1の従動スプロケットに駆動連結する前記第1のチェーンを有しており、前記第2の駆動スプロケットが前記第2の従動スプロケットと整列して配置されるとともに、前記第2の駆動スプロケットを前記第2の従動スプロケットに駆動連結する前記第2のチェーンを有している、
    ことを特徴とするサイレントチェーン・スプロケット組立体。
  7. 請求項において、前記第1のチェーンの前記ガイドリンクと、前記第2のチェーンの前記ガイドリンクとが、運転中に前記第1,第2の駆動スプロケット間に配置された溝内を移動するようになっている、
    ことを特徴とするサイレントチェーン・スプロケット組立体。
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