JP3700894B2 - 可逆性感熱記録材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、可逆性感熱記録材料に関し、詳しくは感熱層の温度による可逆的な透明度又は色調変化を利用して、情報の書込み及び消去を繰り返し行なうことのできる可逆性感熱記録材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、一時的な画像形成(情報の書込み)が行なえ、不要となった時にはその画像の消去(情報の消去)ができるようにした可逆性感熱記録材料が注目されている。その代表的なものとしては、ガラス転移温度(Tg)が50〜60℃から80℃未満である低ガラス転移温度の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体のような樹脂母材中に高級脂肪酸のような有機低分子物質を分散した可逆性感熱記録材料が知られているが(特開昭54−119377号公報、特開昭55−154198号公報等)、透光・透明性を示す温度範囲の幅が2〜4℃と狭いという欠点があり、透光・透明性や遮光・白濁性を利用して画像を形成する際の温度制御に難があった。
【0003】
この点に配慮して、我々は特開昭63−39378号公報、特開平2−1363号公報、特開平3−2089号公報、特開平5−294066号公報等において、感熱層中に用いる有機低分子物質種類を変更、又は数種類組み合わせて用いることにより、透明になる温度範囲を拡大させた可逆性感熱記録材料を提案しているが、これらの記録材料では、ヒートローラや熱板等の比較的長い時間の加熱では白濁画像の消去(透明化)は十分可能であったが、サーマルヘッド等の短時間加熱での画像の消去(透明化)は不十分であった。
【0004】
そのため我々は特開平7−820491号公報において可逆性感熱記録材料の透明化開始温度変化率又は感熱層の透明度変化率或いは膜厚変化率を規定したものを用いることにより、サーマルヘッド等の高速消去特性を向上させた可逆性感熱記録材料を提案している。この可逆性感熱記録材料の使用によれば、前記の欠点が相当緩和される。
【0005】
また、これらの他に、特許第2597268号公報において可逆性感熱記録媒体の感熱記録層に用いる有機低分子物質として融点50〜100℃の長鎖アルキル基含有化合物の少なくとも1種と、融点110℃以上の飽和脂肪族ビスアミドの少なくとも1種を98:2〜80:20の割合で用いることで、画像消去するための透明化温度幅を拡大し、サーマルヘッド等による画像消去性を向上させた可逆性感熱記録媒体が提案されているが、この記録媒体に用いられている該有機低分子物質として飽和脂肪族ビスアミドはTHF(テトラヒドロフラン)等の溶剤への溶解性が著しく悪いため、感熱記録層塗膜を均一に成膜することができず、更に感熱記録層の高分子マトリックス樹脂中に有機低分子物質粒子を均一に分散することが著しく困難であるため、これにより感熱記録層を白濁状態(画像形成状態)にすることが非常に困難であるため、コントラストが悪く実使用には耐えがたいものであった。
【0006】
ところで、この種の可逆性感熱記録材料は、繰り返し使用でき耐久性が高いことから多様な環境下で使用又は放置されるが、特にこの記録材料をポイントカード等のリライタブルカード用途として使用される場合には、使用者によって該カードの保管方法はかなり異なったものとなる。そこで多様な保管環境に置かれても初期品質を維持し続けることが、この種の記録材料には必要である。
しかしながら、最近、この種の可逆性感熱記録材料において、画像形成状態(白濁状態)、或は画像消去状態(透明状態)で長期間放置(数か月)した後に、サーマルヘッド、ホットスタンプ等で画像消去或は画像形成を行なうと、放置前の画像消去濃度(透明反射濃度)或は画像濃度(白濁反射濃度)に比べて、画像消去濃度或は画像濃度が著しく悪化し、コントラストが低下してしまい、視認性が悪化するという問題があることが判明した。
この問題は新たな課題であり、その解決策は従来提案されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記のような問題を解決することにあり、初期の画像濃度及び画像消去濃度がよく、コントラストに優れ、更に、画像形成状態或は画像消去状態で長期間放置しても、サーマルヘッド、ホットスタンプ等による画像消去後、或は画像形成後の反射濃度が悪化することがなく、コントラストが低下することのない、視認性に優れた可逆性感熱記録材料を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような本発明の目的は、(1)「支持体上に温度に依存して透明度又は色調が可逆的に変化する感熱層を設けた可逆性感熱記録材料において、感熱層の樹脂母材と該樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、該樹脂母材中には、熱可塑性樹脂と該樹脂母材1部当たり0.01〜0.5部の紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂が含まれ、該有機低分子物質が、低融点有機低分子物質の少なくとも1種以上と高融点有機低分子物質の少なくとも1種以上とを混合したものであり、且つ該有機低分子物質が分子構造中にフリーカルボキシル基を含有しないもので極大平均粒子径が1.1〜2.0μmであることを特徴とする可逆性感熱記録材料。」、(2)「前記低融点有機低分子物質と高融点有機低分子物質の融点の差が20℃以上であることを特徴とする前記(1)記載の可逆性感熱記録材料。」、(3)「前記低融点有機低分子物質の融点が40℃以上100℃未満の範囲であり、且つ前記高融点有機低分子物質の融点が100℃以上200℃未満であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の可逆性感熱記録材料。」、(4)「前記感熱層の熱圧力段差量が40%以下であり、且つ熱圧力段差変化率が70%以下であることを特徴とする前記(1)記載の可逆性感熱記録材料。」、(5)「前記可逆性感熱記録材料に前記感熱層以外に情報記録部を設けたことを特徴とする前記(1)記載の可逆性感熱記録材料。」、(6)「前記情報記録部が磁気記録層であり、磁気記録層を支持体と感熱層の間の全面又は一部分か、支持体裏面の全面又は一部分か、或いは磁気ストライプを表示面の一部分かのいずれかに設けたことを特徴とする前記(5)記載の可逆性感熱記録材料。」、(7)「前記情報記録部がIC又は光メモリであり、前記可逆性感熱記録材料の一部分に設けたことを特徴とする前記(6)記載の可逆性感熱記録材料。」、(8)「前記可逆性感熱記録材料が2種類以上の支持体を貼り合わせた構成からなることを特徴とする前記(1)、(5)、(6)、(7)のうち何れか1に記載の可逆性感熱記録材料。」、(9)「前記可逆性感熱記録材料の前記感熱層上に耐熱性樹脂を主成分とする保護層を設けたことを特徴とする前記(1)記載の可逆性感熱記録材料。」、(10)「前記保護層上の一部分か支持体裏面の全面又は一部分のいずれか又は全てに、着色剤及び樹脂バインダーを主成分とするカラー印刷層を設けたことを特徴とする前記(9)記載の可逆性感熱記録材料。」、(11)「前記保護層上又は前記カラー印刷層上に耐熱性樹脂及び無機顔料を主成分とするヘッドマッチング層を設けたことを特徴とする前記(9)又は(10)記載の可逆性感熱記録材料。」により達成される。
【0009】
また、上記課題は、(12)「支持体上に温度に依存して透明度又は色調が可逆的に変化する感熱層を設けた可逆性感熱記録材料において、感熱層の樹脂母材と該樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、該樹脂母材には、熱可塑性樹脂と該樹脂母材1部当たり0.01〜0.5部の紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂が含まれ、該有機低分子物質が、低融点有機低分子物質の少なくとも1種以上と高融点有機低分子物質の少なくとも1種以上とを混合したものであり、且つ該有機低分子物質が分子構造中にフリーカルボキシル基を含有しないもので極大平均粒子径が1.1〜2.0μmの可逆性感熱記録材料を、加熱により画像形成及び/又は画像消去することを特徴とする画像形成・消去方法」、(13)「前記加熱をサーマルヘッドで行なうことを特徴とする前記(12)記載の画像形成・消去方法。」、(14)「前記画像消去をサーマルヘッド、セラミックヒータ、ホットスタンプ、ヒートローラ、ヒートブロックの少なくとも1種を用いて行なうことを特徴とする前記(12)記載の画像形成・消去方法。」により達成される。
【0010】
本発明の可逆性感熱記録材料に用いられる「温度に依存して透明度又は色調が可逆的に変化する感熱層」とは、温度変化によって目に見える変化を可逆的に起す材料である。目に見える変化は色の状態の変化と形状の変化に分けられるが、本発明では主に色の状態の変化を起たす材料を使用する。色の状態の変化には、光学的な透過率、反射率、吸収波長、散乱度などの変化があり、実際の可逆性感熱記録材料はこれらの変化の組合せで情報の表示を行っている。より具体的には、熱により透明度や色調が可逆的に変化するものならばどのようなものでもよいが、例えば常温より高い第1の特定温度で第1の色の状態となり、第1の特定温度よりも高い第2の特定温度で加熱し、その後冷却することにより第2の色の状態となるもの、等が挙げられる。
【0011】
特に第1の特定温度と第2の特定温度で色の状態が変化するものが好適に用いられる。これらの例としては、第1の特定温度で透明状態となり、第2の特定温度で白濁状態となるもの(特開昭55−154198号公報)、第2の特定温度で発色し、第1の特定温度で消色するもの(特開平4−224996号公報、特開平4−247985号公報、特開平4−267190号公報等)、第1の特定温度で白濁状態となり、第2の特定温度で透明状態となるもの(特開平3−169590号公報)、第1の特定温度で黒、赤、青等に発色し、第2の特定温度で消色するもの(特開平2−188293号公報、特開平2−188294号公報)等が挙げられる。
これらの中でも特につぎの二つの材料が代表例として挙げられる。
▲1▼透明状態と白濁状態が可逆的に変化する材料
▲2▼染料等の色が可逆的に変化する材料
【0012】
▲1▼としては、従来の技術の中で繰り返し示されているような、ポリエステル等の樹脂母材中に高級アルコール、高級脂肪酸等の有機低分子物質を分散した感熱層が代表例として挙げられる。また、▲2▼としては、ロイコ系感熱記録材料の可逆性を増強したものが代表例として挙げられる。
【0013】
前記▲1▼の透明度に変化を生じせしめるタイプの感熱層は、樹脂母材及びこの樹脂母材中に分散された有機低分子物質を主成分としたものである。ここでの可逆性感熱記録材料は、後述するように、透明になる温度の範囲がある。
本発明の可逆性感熱記録材料は、前記のごとき▲1▼の透明度変化(透明状態、白濁不透明状態)を利用しており、そのメカニズムについては次のように推測される。
【0014】
すなわち、(I)透明の場合には樹脂母材中に分散された有機低分子物質の粒子は有機低分子物質と樹脂母材は隙間なく密着しており、また粒子内部にも空隙はなく、片側から入射した光は散乱されることなく反対側に透過するため透明に見えること、また、(II)白濁の場合には有機低分子物質の粒子は有機低分子物質の微細な結晶で構成されており、結晶の界面若しくは粒子と樹脂母材の界面に隙間ができ片側から入射した光は空隙と結晶、空隙と樹脂の界面で屈折し、散乱されるため白く見えること、等に由来している。
【0015】
図1は本発明に係る感熱層の熱による透明度の変化を表わす図である。図1において、樹脂母材とこの樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とする感熱層は、例えばT0以下の常温では白濁不透明状態にある。これを加熱していくと温度T1から徐々に透明になり、初め温度T2〜T3に加熱すると透明となり、この状態で再びT0以下の常温に戻しても透明のままである。これは温度T1付近から樹脂が軟化し始め、軟化が進むにつれ、樹脂が収縮し樹脂と有機低分子物質粒子との界面若しくは粒子内の空隙を減少させるため、徐々に透明度が上がり、温度T2〜T3では有機低分子物質が半溶融状態となり、残った空隙を溶融した有機低分子物質が埋めることにより透明となり、種結晶が残ったまま冷却されると、比較的高温で結晶化し、その際樹脂がまだ軟化状態のため、結晶化にともなう粒子の体積変化に樹脂が追随し、空隙ができず透明状態が維持されるためと考えられる。
【0016】
さらにT4以上の温度に加熱すると、最大透明度と最大不透明度との中間の半透明状態になる。次に、この温度を下げていくと、再び透明状態をとることなく最初の白濁不透明状態に戻る。これは温度T4以上で有機低分子物質が完全に溶融した後、過冷却状態となりT0より少し高い温度で結晶化し、その際、樹脂が結晶化にともなう体積変化に追随できず、空隙が発生するためであると思われる。
ただし図1に示した温度−透明度変化曲線は代表的な例を示しただけであり、材料を替えることにより各状態の透明度等にその材料に応じて変化が生じることになる。
【0017】
このように感熱層の熱による透明度変化には、有機低分子物質の融点及び樹脂の軟化点が重要であり、前記した長期間放置後の画像形成或いは画像消去での反射濃度を悪化させることなく、コントラスト、視認性を低下させることがない、すなわち、経時安定性を向上させるためには、前記した有機低分子物質の融点及び樹脂の軟化点の経時での変動を防止することが必要であると考えられる。
【0018】
我々は、可逆性感熱記録材料を、画像形成状態(白濁状態)、或は画像消去状態(透明状態)で長期間放置(数か月)した後に、サーマルヘッド、ホットスタンプ等で画像消去或は画像形成を行なうと、放置前の画像消去濃度(透明反射濃度)或は画像濃度(白濁反射濃度)に比べて、画像消去濃度或は画像濃度が著しく悪化し、コントラストが低下してしまい、視認性が悪化する現象が何故生じるかについて検討した。
【0019】
その結果、まず画像濃度の低下は、画像形成をサーマルヘッド等の数msecオーダーの熱印加で行なう場合、又はホットスタンプ等の数secオーダーの熱印加を行なう場合の両方で見られることがわかり、更に、サーマルヘッド、ホットスタンプの両方で印字エネルギー(印字温度)と反射濃度の関係を確認したところ、長期間放置前(以下初期)の白濁飽和状態を得るための印字エネルギー値(以下白濁飽和エネルギー)或は印字温度(以下白濁飽和温度)に比べて長期間放置後(以下経時)では、白濁飽和エネルギー或は白濁飽和温度が大きく高エネルギー、高温側へシフトしており、すなわち画像形成のための熱感度が大きく低下しており、時には全く白濁不可能になっていることが確認された。
【0020】
我々は、前記現象のメカニズムを解明するべく検討を行なった。その結果、前記現象は大気中の塩基性物質(特にアンモニア)の濃度が高い場所に、長期間保管した時に多く発生することがわかり、更にこのような場所に保管された記録材料の記録層塗膜の熱物性及び記録層構成材料の化学構造について検討をしたところ、まず熱物性ではDSC測定により、保管後で有機低分子物質の融点(特に有機低分子物質二成分系(低融点と高融点組み合わせ)の場合は高融点有機低分子物質)が大きく高温側へシフトしていることがわかり、次に化学構造についてはIR測定により、保管後で有機低分子物質構造中のカルボキシル基ピークが消失し、新たにO、Nイオン結合吸収帯ピークが見られることがわかった。
【0021】
すなわち、前記した有機低分子物質融点の高温側へのシフトは、有機低分子物質構造中のカルボキシル基が塩基性物質のアンモニアと反応・結合し、カルボン酸アンモニウム塩となり、そのため融点が上昇したと考えられる。
これらのことから、前記した白濁飽和エネルギー、温度が高エネルギー、高温側へシフトする、すなわち画像形成するための熱感度が低下するメカニズムは、経時により有機低分子物質融点が高温へ変動してしまうためと考えられ、さらに具体的には、この融点の上昇により、前記した透明状態から白濁状態へ転移させる時の有機低分子物質を完全溶融するための温度が高くなり、すなわち初期において完全溶融できた温度では、経時後には完全溶融できず、そのため初期の画像形成濃度に対して、経時での画像形成濃度が悪化するものと考えられる。
【0022】
次に画像消去濃度の低下は、前記した画像濃度の低下と同様に画像消去をサーマルヘッド、ホットスタンプで行なう場合の両方で見られることがわかり、特にホットスタンプにより白濁状態から透明状態へすることが可能な温度巾及び範囲を確認したところ、初期の温度巾及び範囲に比べて経時後では温度範囲での下限値が大きく高エネルギー側へシフトすると共に、上限値も大きく高エネルギー側へシフトし、温度巾は初期とあまり変わらないが、消去可能温度範囲が全体的に高エネルギー側へシフトするため、初期温度範囲と重なる範囲が極端に狭くなり、場合によっては全く重なる範囲がないこともあるのがわかった。
【0023】
我々は、前記現象のメカニズムを解明すべく検討を行なった。その結果、前記現象は大気中の塩基性物質(特にアンモニア)の濃度が高い場所に、長期間保管した時に多く発生することがわかり、更にこのような場所に保管された記録材料の記録層塗膜の熱物性及び記録層構成材料の化学構造を測定したところ、まず熱物性ではDSC測定により、保管後で有機低分子物質の融点(特に有機低分子物質二成分系(低融点と高融点組み合わせ)の場合は低融点有機低分子物質が大きく高温へシフトしていることがわかり、次に化学構造ではIR測定により、保管後で有機低分子物質構造中のカルボキシル基ピークが消失し、新たにO、Nイオン結合吸収帯ピークが見られることがわかった。
すなわち、前記した有機低分子物質融点の高温へのシフトは、有機低分子物質構造中のカルボキシル基が塩基性物質のアンモニアと反応・結合し、カルボン酸アンモニウム塩となり、そのため融点が上昇したと考えられる。
【0024】
これらのことから、前記した消去可能温度範囲が大きく高エネルギー側へシフトする、すなわち画像消去するための熱感度が低下するメカニズムは、経時で有機低分子物質融点が高温へ変動してしまうためと考えられ、さらに具体的には、有機低分子物質二成分系の場合の低融点有機低分子物質の融点上昇により、前記した白濁状態から透明状態へ転移させる時の有機低分子物質を半溶融状態にするための温度が高くなり、すなわち初期で半溶融できた温度では経時後で半溶融できず、そのため初期の画像消去濃度に対して経時での画像消去濃度が悪化するためと考えられる。
【0025】
我々は上記問題を改善すべく検討を重ねて行なった結果、上記のように
(1)支持体上に温度に依存して透明度又は色調が可逆的に変化する感熱層を設けた可逆性感熱記録材料において、該可逆性感熱記録材料の人工汗液印字感度変化率が50%以下であり、且つ人工汗液消去感度変化率が80%以上であり、且つ該感熱層の極大平均粒子径が2.5μm以下であることにより、本発明の目的が確実に達成されることを見い出した。この場合の好ましい態様は以下のとおりである。
【0026】
本発明において可逆性感熱記録材料における人工汗液印字感度変化率(以下印字感度変化率)とは以下のとおり定義されるものである。印字感度変化率とは、画像消去状態(透明状態)の記録材料を塩基性物質に長時間接触させた後に、画像形成(白濁状態)するための印字熱感度が変化する度合を表わす数値であり、数値が小さいほど熱感度の低下が少ないことを示している。すなわち数値が小さいほど、初期と経時後での画像形成濃度の変動が少なく、経時後でのコントラストが安定していることを示している。このような目的達成のための印字感度変化率は50%以下が良く、好ましくは30%以下であり、更に好ましくは20%以下である。
【0027】
印字感度変化率は次の方法により測定される。印字感度変化率測定装置として、東洋精機製作所社製の熱傾斜試験機HG−100を用い、印字感度変化率測定条件としては、熱傾斜試験機の印字タイマーを2秒に設定し、次に圧力ゲージが1kg/cm2になるように印加圧力を設定する。この条件において、予め最大透明状態にある可逆性感熱記録材料に50℃から5℃毎に加熱温度を変化させて熱印加を行ない、室温まで冷却して、これをマクベス反射濃度計(RD−914)で反射濃度測定を行なう。この際、白濁濃度が飽和状態になる温度、つまり5℃低い温度での反射濃度との差が0.05以内で、且つ反射濃度が(最大透明反射濃度+最低白濁反射濃度)÷2の値より低くなる最低温度、を決定し、この温度での白濁濃度を初期白濁濃度(ODWI)とする。
【0028】
次に、この記録材料をアルカリ性人工汗液(塩化ナトリウム10g、炭酸アンモニウム4g、及びリン酸二ナトリウム(12水和物)2.5gを蒸留水に溶かして1リットルにしたもの(pH約9.0))に100時間浸漬後、乾燥させてから、前記と同様に測定を行ない、初期白濁濃度で決定した温度での反射濃度を測定し、これを経時白濁濃度(ODWD)とする。
また、これらの測定の前に予め地肌濃度(ODB)を測定しておく。地肌濃度は恒温槽を用いて任意の加熱温度にて最大透明状態にして、次に可逆性感熱記録材料の反射濃度測定を10か所について行ない、その平均値を用いる。また、上記の反射濃度測定は、感熱層の背面に金属蒸着層や着色層がある場合ではそのまま測定でき、金属蒸着層や着色層がなく、支持体が透明である層構成では記録材料を反射濃度1.90の黒色板の上に置いて測定する。これらの白濁濃度ODWI、ODWD及び地肌濃度ODBにより印字感度変化率(%)は下記式により求められる。
【0029】
【数1】
また、前記試験方法とは別で、前記アルカリ性人工汗液をアンモニアガスに変更して以下の試験にすることもできる。
印字感度変化率測定装置、測定条件を前記と同様にして初期白濁濃度(ODWI)を求め、次に記録材料を900mlマヨネーズびんの中に入れ、更にアンモニア水溶液(アンモニア濃度25%)0.1gをマヨネーズびん中に滴下(記録材料に直接滴下しない)してから、すぐにマヨネーズびんにふたをして密封する。次にこのマヨネーズびんをあらかじめ40℃に設定されている恒温槽の中に1時間入れた後にふたを開けて記録材料を取り出してから前記と同様に測定を行ない、反射濃度を測定し、これをNH3ガス接触後経時白濁濃度(ODWD)とする。
これらのODWI、ODWD及び地肌濃度ODBを用いて、前記式により計算すれば、前記と同様に印字感度変化率を求めることができる。
【0030】
次に本発明において、可逆性感熱記録材料における人工汗液消去感度変化率(以下消去感度変化率)とは以下のとおり定義されるものである。
消去感度変化率とは画像形成状態(白濁状態)の記録材料を塩基性物質に長時間接触させた後に、画像消去(透明状態)するための消去熱感度が変化する度合を表わす数値であり、数値が大きいほど、消去熱感度の低下が少ないことを示している。
すなわち、数値が大きいほど初期と経時後での画像消去濃度の変動が少なく、経時後でのコントラストが安定していることを示している。このような効果に対して消去感度変化率は80%以上が良く、好ましくは85%であり、更に好ましくは90%以上である。
【0031】
消去感度変化率は次の方法により測定される。消去感度変化率測定装置として、東洋精機製作所社製の熱傾斜試験機HG−100を用い、消去感度変化率測定条件としては、熱傾斜試験機の印字タイマーを2秒に設定し、次に圧力ゲージが1kg/cm2になるように印加圧力を設定する。この条件において、予め前記印字感度変化率で決定した温度にて加熱して白濁飽和状態にある可逆性感熱記録材料に任意の温度にて熱印加を行ない、室温まで冷却して、これをマクベス反射濃度計で反射濃度測定を行なう。この際、反射濃度が地肌濃度の−0.1の値以上になった時の消去下限温度と消去上限温度から消去中心温度を決め、この消去中心温度での消去濃度を初期消去濃度(ODTI)とする。
【0032】
次にこの記録材料をアルカリ性人工汗液(塩化ナトリウム10g、炭酸アンモニウム4g、及びリン酸二ナトリウム(12水和物)2.5gを蒸留水に溶かして1リットルにしたもの(pH約9.0))に100時間浸漬後、乾燥させてから、前記と同様に測定を行ない、前記消去中心温度での反射濃度を測定し、これを経時消去濃度(ODTD)とする。
これらの消去濃度ODTI、ODTDと前記印字感度変化率で測定した初期白濁濃度ODWIにより消去感度変化率(%)は下記式により求められる。
【0033】
【数2】
また更に、この試験においても前記したごとく、アルカリ性人工汗液をアンモニアガスに変更して、前記と同様に試験を行ない消去感度変化率を求めることもできる。
【0034】
次に、本発明において、該感熱層における極大平均粒子径とは以下のとおり定義されるものである。
極大平均粒子径とは、感熱層の高分子マトリックス樹脂中に分散されている有機低分子物質粒子の分散状態を表わす数値であり、数値が小さいほど分散状態がよく、有機低分子物質粒子が均一に分散されていることを示している。すなわち、数値が小さいほど初期の画像濃度及び画像消去濃度がよく、コントラストがよいことを示している。このような効果に対して極大平均粒子径は2.5μm以下がよく、好ましくは2.0μm以下である。
【0035】
極大平均粒子径は次の方法により測定される。
極大平均粒子径測定装置としては、透過型電子顕微鏡(以下TEM、日立社製H−9000)を用いる。
次に、測定方法については、まず記録材料をエポキシ樹脂に包埋し、ダイヤモンドカッターを用いて超薄切片試料を作製する。次に、この試料を用いて感熱層断面の任意の5箇所について加速電圧300kVにて観察し、倍率10000倍にて写真撮影を行なう。
次に、この写真を用いて写真画像面積中(10cm×10cm)の有機低分子物質粒子個数を調べ、全個数に対して粒子径の大きい10%の個数を決める。更に、この10%の個数の各粒子径から平均粒子径(S)を算出する。
この測定を前記した5箇所について行ない、それぞれの平均粒子径S1〜S5を算出し、その平均値を極大平均粒子径(Sm)とする。
また、この測定方法において写真画像面積中の有機低分子物質粒子が均一な円形となっていない場合には、各粒子においての最大となる粒子径を用いる。また更に、写真画像面積中の粒子が著しく大きく、個数が10個未満の場合には、これらの中での最大粒子の粒子径を測定し、極大平均粒子径(Sm)とする。
【0036】
更に、前記感熱層が樹脂母材と該樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、該有機低分子物質が、低融点有機低分子物質の少なくとも1種と高融点有機低分子物質の少なくとも1種以上とを混合したものであり、且つ該有機低分子物質が分子構造中にフリーカルボキシル基を含有しないものであることにより、前記した長時間放置後の画像形成或は画像消去での反射濃度を悪化させることなく、コントラスト、視認性を悪化させることがない、すなわち経時安定性を向上できることとなる。これは前記した有機低分子物質と塩基性物質との反応について、その主要因と考えられるカルボキシル基が分子構造中にないため、反応が起らず、有機低分子物質の融点が安定しているためと考えられる。
【0037】
また更に、本発明において前記有機低分子物質としては、低融点の有機低分子物質と、高融点の有機低分子物質とを組み合わせて用いることにより、前記した透明化温度巾を拡大させ、サーマルヘッドによる消去性を向上することができ好ましい。前記低融点有機低分子物質と高融点有機低分子物質の融点の差は20℃以上が好ましく、更に好ましくは30℃以上であり、特に好ましくは40℃以上である。
また、このような有機低分子物質は、低融点有機低分子物質としては、融点40℃以上100℃未満のものが好ましく、50℃〜80℃のものが更に好ましい。高融点有機低分子物質としては融点100℃以上200℃未満のものが好ましく、110℃〜180℃のものが更に好ましい。
【0038】
本発明で用いられる有機低分子物質としては下記のものが挙げられる。
有機低分子物質としてはアルカノール;アルカンジオール;ハロゲンアルカノール又はハロゲンアルカンジオール;アルキルアミン;アルカン;アルケン;アルキン;ハロゲンアルカン;ハロゲンアルケン;ハロゲンアルキン;シクロアルカン;シクロアルケン;シクロアルキン;飽和又は不飽和モノ又はジカルボン酸のエステル、アミド又はアンモニウム塩;飽和又は不飽和ハロゲン脂肪酸のエステル、アミド又はアンモニウム塩;アリルカルボン酸のエステル、アミド又はアンモニウム塩;ハロゲンアリルカルボン酸のエステル、アミド又はアンモニウム塩;チオアルコール;チオカルボン酸のエステル、アミン又はアンモニウム塩;チオアルコールのカルボン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上混合して使用される。これらの化合物の炭素数は10〜60、好ましくは10〜38、特に10〜30が好ましい。いずれにしても有機低分子物質は分子中に酸素、窒素、硫黄及びハロゲンの少なくとも1種、例えば−CONH2、−COOR、−NH−、−NH2、−S−、−S−S−、−O−ハロゲン等を含む化合物であることが好ましい。
【0039】
これらの有機低分子物質の中で本発明で用いられる低融点有機低分子物質としては下記の脂肪酸エステル、二塩基酸エステル、多価アルコールジ脂肪酸エステルが好ましい。これらは少なくとも1種あるいは2種以上混合して用いられる。
【0040】
本発明で用いられる脂肪酸エステル、二塩基酸エステル、多価アルコールジ脂肪酸エステルは、同じ炭素数の脂肪酸(2分子会合状態)より融点が低く、逆に同じ融点の脂肪酸よりも炭素数が多いという特徴を持つ。
サーマルヘッドでの画像の印字−消去の繰り返しによる劣化は、樹脂母材と有機低分子物質の加熱時の相溶による有機低分子物質粒子の分散状態の変化が原因と考えられ、樹脂母材と有機低分子物質の相溶性は有機低分子物質の炭素数が多いほど低下し、画像の印字−消去の劣化が少ないものと考えられる。更に白濁度も炭素数に比例して増加する傾向にある。
そのため、同じ透明化温度(融点付近にある)の可逆性感熱記録材料において、樹脂母材中に分散させる有機低分子物質として脂肪酸エステル、二塩基酸エステル、多価アルコールジ脂肪酸エステルを用いることにより、脂肪酸を用いた場合に比較し、白濁度が高く、つまりコントラストが高く、しかも繰り返し耐久性が向上するものと思われる。
そして、このような脂肪酸エステル、二塩基酸エステル、多価アルコールジ脂肪酸エステルと高融点の有機低分子物質を混合して用いることにより、透明化温度巾を広くすることができ、サーマルヘッドでの消去の性能も高く、そのため、保存により多少消去特性が変動しても、消去可能であり、材料自身の特性から繰り返し耐久性も向上することができる。また、これらは前記した塩基性物質と反応すると考えられるフリーカルボキシル基を分子構造中に持たないため経時安定性が高いものとなる。
【0041】
本発明で用いられる脂肪酸エステルは、例えば下記一般式(I)で表わされる。
【0042】
【化1】
R1−COO−R2 ・・・(I)
(式中、R1、R2は炭素数10以上のアルキル基を表わす)
脂肪酸エステルの炭素数は20以上が好ましく、25以上が更に好ましく、30以上が特に好ましい。炭素数が多くなると白濁度が高く、繰り返し耐久性が向上するという特徴を有する。脂肪酸エステルの融点は40℃以上が好ましい。
これらは1種又は2種以上を選択して用いられる。
【0043】
本発明で用いられる脂肪酸エステルの具体例を以下に示す。
パルミチン酸オクタデシル
パルミチン酸ドコシル
ステアリン酸ヘプチル
ステアリン酸オクチル
ステアリン酸オクタデシル
ステアリン酸ドコシル
ベヘン酸オクタデシル
ベヘン酸ドコシル
【0044】
二塩基酸エステルとしては、下記一般式(II)で表わされるものである。
【0045】
【化2】
ROOC−(CH2)n−COOR’ ・・・(II)
(式中、R、R’は炭素数1〜30のアルキル基を表わし、R、R’は同一であっても異なっていてもよい。nは0〜40の整数を表わす)
上記一般式(II)で表わされる二塩基酸エステルにおいて、R、R’のアルキル基の炭素数は1〜22が好ましく、nは、1〜30が好ましく、2〜20が更に好ましい。また融点は40℃以上が好ましい。
【0046】
具体的には、
コハク酸ジエステル
アジピン酸ジエステル
セバシン酸ジエステル
1−18−オクタデカメチレンジカルボン酸ジエステル
等が挙げられる。
【0047】
本発明で用いる有機低分子物質の多価アルコールジ脂肪酸エステルとしては、下記の一般式(III)で表わされるものが挙げられる。
【0048】
【化3】
CH3(CH2)m-2COO(CH2)nOOC(CH2)m-2CH3 ・・・(III)
(式中、nは2〜40、好ましくは3〜30、更に好ましくは4〜22の整数である。mは2〜40、好ましくは3〜30、更に好ましくは4〜22の整数である。)
具体的には以下のものが挙げられる。
1,3プロパンジオールジアルカン酸エステル
1,6ヘキサンジオールジアルカン酸エステル
1,10デカンジオールジアルカン酸エステル
1,18オクタデカンジオールジアルカン酸エステル
【0049】
また、本発明で用いられる低融点有機低分子物質としては、下記の脂肪酸エステルアマイドが特に好ましい。脂肪酸エステルアマイドは従来にない新規な有機低分子物質である。本発明で用いられる脂肪酸エステルアマイドとしては下記一般式(IV)で表されるものが挙げられる。
【0050】
【化4】
R’CONHROCOR’ ・・・(IV)
(式中、R、R’は炭素数1〜30のアルキル基を表わし、R、R’は同一であっても異なっていてもよい。)
上記一般式(IV)で表される脂肪酸エステルアマイドにおいて、R、R’のアルキル基の炭素数は1〜30が好ましく、1〜22が特に好ましい。
具体的にはエタノールアミンジステアレート等が挙げられる。
【0051】
また次に、本発明で用いられる高融点有機低分子物質としては、高級アルキル基を有するケトン、該ケトンから誘導されるセミカルバゾン、脂肪酸金属塩、α−スルホ脂肪酸エステルナトリウム塩などが挙げられ、融点100℃以上200℃未満の下記のものが好ましいが、これらに限定されるものではない。
これらは、1種又は2種以上選択して用いられる。
【0052】
本発明において用いるケトンは、ケトン基と高級アルキル基を必須の構成基として含み、その他無置換又は置換基を有する芳香環あるいは被素環を含むこともできる。前記ケトンの全炭素数は16個以上が好ましく、更に好ましくは21個以上である。また、本発明に用いるセミカルバゾンは、上記ケトンから誘導されたものである。
【0053】
本発明において使用するケトン、セミカルバゾンとしては、例えば次に示すようなものを挙げることができる。
3−オクタデカノン
7−アイコサノン
14−ヘプタコサノン
18−ペンタトリアコンタノン
テトラデカノフェノン
ドコサノフェノン
ドコサノナフトフェノン
2−ヘンエイコサノンセミカルバゾン
【0054】
次に本発明において使用する脂肪酸金属塩としては、例えば次に示すようなものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
ステアリン酸銅 m.p.125℃
ステアリン酸マグネシウム m.p.135℃
ステアリン酸カルシウム m.p.150℃
ステアリン酸アルミニウム(モノ) m.p.155℃
ステアリン酸アルミニウム(ジ) m.p.145℃
【0055】
また次に、本発明において使用するα−スルホ脂肪酸エステルナトリウム塩としては、例えば次に示すようなものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
α−スルホステアリン酸エステルナトリウム塩
【0056】
【化5】
【0057】
また更に、本発明で用いられる高融点有機低分子物質としては、下記の飽和脂肪酸モノアマイド、メチロールアマイドが特に好ましい。特にメチロールアマイドは従来にない新規な有機低分子物質である。本発明において使用する飽和脂肪酸モノアマイドとしては、例えば次に示すようなものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
次に、本発明において使用するメチロールアマイドはモノアマイドの末端のアミノ基の水素をメチロール基で置換した形のアマイドであり、例えば次に示すようなものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
これらの低融点有機低分子物質と高融点有機低分子物質の混合重量比は95:5〜5:95が好ましく、90:10〜10:90が更に好ましく、80:20〜20:80が特に好ましい。また、これらの低融点有機低分子物質、高融点有機低分子物質以外に前記した他の有機低分子物質を混合して用いてもよい。これらは下記のものが挙げられる。
【0060】
これら化合物としては
C16H33−O−C16H33 , C16H33−S−C16H33 ,
C18H37−S−C18H37 , C12H25−S−C12H25 ,
C19H39−S−C19H39 , C12H25−S−S−C12H25 ,
【0061】
【化6】
【0062】
【化7】
【0063】
【化8】
【0064】
【化9】
【0065】
【化10】
【0066】
【化11】
【0067】
【化12】
【0068】
【化13】
等のエーテル又はチオエーテル等がある。
【0069】
なお、感熱層中の有機低分子物質と高分子マトリックス樹脂(以下樹脂)との割合は、重量比で2:1〜1:16程度が好ましく、1:2〜1:8が更に好ましい。樹脂の比率がこれ以下になると、有機低分子物質を樹脂中に保持した膜に形成することが困難となり、またこれ以上になると、有機低分子物質の量が少ないため、不透明化が困難になる。
【0070】
また次に、上記の他で前記した有機低分子物質と塩基性物質(アンモニア等)との反応を防止するためには以下の方法がある。
第1に、該感熱層上に気体透過性の低い層を設けることにより反応は防止される。気体透過性の低い層とは、気体透過性の低い樹脂(塩化ビニリデン系共重合体;塩化ビニル−エチレン共重合体)を用いたバリアー層や保護層中に用いられるUV樹脂の架橋密度を上げた保護層等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
第2に、該感熱層中又は該感熱層上に設けられた層中に、該塩基性物質をトラッピングする構造を持つ材料を用いることにより、前記した反応は防止される。該構造を持つ材料としてカルボキシル基、スルホン酸基等を分子構造中に持つ樹脂、架橋剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
次に本発明者等は、可逆性感熱記録材料への画像の形成及び消去の繰り返し使用により発生する画像濃度やコントラストなどの低下が何故に生じるかについて、そのメカニズムを解析、検討した。その結果、サーマルヘッド等の発熱体を該記録材料表面に押圧して画像形成を行なった場合には、次のような現象が認められた。
樹脂母材中に有機低分子物質粒子を分散させた記録層(感熱層)を有する可逆性感熱記録材料に於いて、発熱体で画像形成及び消去をする際にエネルギーの印加前又は繰り返し回数が少ないときには記録層を構成する材料の存在状態が変化するような歪みがなく、図2(a)に示されるように、樹脂母材(2)中に有機低分子物質粒子(3)が均一に分散された状態になっている。この図2は、従来の可逆性感熱記録材料を繰り返し使用する際の有機低分子物質粒子の状態変化をモデル的に説明するものであって、図中の符号(1)はサーマルヘッドを、(2)は樹脂母材を、(3)は有機低分子物質粒子を、(4)は支持体例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを、(5)はプラテンロールを、(6)はずり応力を、(7)はずり応力により変形した有機低分子物質粒子を、(8)は変形した有機低分子物質粒子が凝集した状態を、(9)は凝集した有機低分子物質粒子が凝集を繰り返し極大化した状態を、(10)は可逆性感熱記録材料の相対的な進行方向を、それぞれ表わす。(後の説明から理解されるように、本発明の記録層は繰り返しの記録・消去によっても有機低分子物質粒子の均一分散状態は維持される) ところが画像形成の際、記録材料にサーマルヘッド(1)のような発熱体などの画像形成手段を押圧しながら進行方向(10)に相対的に移動させると、記録層内部にずり応力(6)がかかる。同方向のエネルギー印加(ずり応力(6)の印加)が繰り返されるうちに、この応力(6)が主たる原因となって図2(b)に示されるように記録層内部にエネルギー印加方向への歪みが発生し、それにより有機低分子物質粒子が変形した状態(7)となる。そして更にエネルギー印加(6)を同方向に繰り返すうちに歪みが進行し、図2(c)に示されるように変形した有機低分子物質粒子どうしの凝集(8)が始まり、最終的には図2(d)に示すように凝集粒子どうしが再凝集をして、有機低分子物質粒子が極大化した状態(9)となってしまう。このような状態になると、画像の形成がほとんど不可能となり、所謂劣化状態となる。これらの現象が、可逆性感熱記録材料への画像の形成及び消去の繰り返し後の画像濃度が低下する原因に関係していると考えられる。
【0072】
本発明において、可逆性感熱記録媒体における画像表示部である感熱層の熱圧力段差量及び熱圧力段差変化率は以下のとおり定義されるものである。熱圧力段差量とは、加熱時の塗膜の硬さを表わす物性であり、数値が小さいほど塗膜が硬いことを示している。熱圧力段差量の値が40%以下になると、特に前記したサーマルヘッド等による繰り返し画像形成消去に対する耐久性の向上が顕著になる。その理由は、有機低分子物質粒子間の接触による粒子の凝集拡大を抑制する力が急に大きくなるものと考えられ、その結果サーマルヘッド等によって熱と圧力をかけても感熱層の変形が少なくなるものと思われる。
【0073】
熱圧力段差量は、特開平7−172072号公報に記載されている方法により測定される。先ず熱圧力印加装置としてユニークマシナーリ社製のホットスタンプ型エアー式卓上TCフィルム消去装置テスト機を用いる。
【0074】
次に熱圧力段差量測定のための熱圧力印加条件としては、前記熱圧力印加装置において、エアレギュレーターを調整し、エアーゲージ圧力値が2.5kg/cm2になるように印加圧力を設定し、次に印字タイマーを調整し、印加時間が10秒になるように設定し、また次に温調器を調整し、印加温度が130℃になるように設定する。ここで印加温度についてはヒータ及び温度センサーにより調節されている値であり、印字ヘッド表面の温度にほぼ近似している。
【0075】
次に熱圧力印加装置により印加される熱圧力段差値の測定方法について説明する。測定装置として、小坂研究所社製の二次元粗さ解析装置サーフコーダAY−41、記録計RA−60E及びサーフコーダSE30Kを用い、まずサーフコーダSE30Kの設定を縦倍率(V);2000、横倍率(H);20に設定し、次にサーフコーダAY−41の設定を基準長さ(L);5mm、送り速さ(D );0.1mm/secに設定し、測定結果をRA−60Eに記録させ、その記録されたチャートにより熱圧力印加部の熱圧力段差値(Dx)を読み取ればよい。またこれらの設定は例を示したものであり、測定に応じて任意に変更可能である。なおこの測定は熱圧力印加部の巾方向について2mm間隔で位置を変更し、D1〜D6の6点について測定し、その平均値を熱圧力段差平均値(Dm)とする。
【0076】
この熱圧力段差平均値(Dm)と感熱記録層膜厚(Ds)により熱圧力段差量(D)は下記式により求められる。
【0077】
【数3】
D%=(Dm/Ds)×100
D :熱圧力段差量(%)
Dm:熱圧力段差平均値(μm)
Ds:感熱記録層膜厚
ここで感熱層膜厚(Ds)とは、支持体上に形成された感熱層の膜厚であり、いずれもTEM(透過型電子顕微鏡)、SEM(走査型電子顕微鏡)等の断面観察により調べることができる。
【0078】
先述したように、可逆性感熱記録媒体における感熱層の熱圧力段差量を40%以下にすると、特に前記した繰り返し耐久性の向上に寄与する傾向がある。これは本発明の記録媒体が従来のものに比べて感熱層の熱圧力段差量が非常に少なく、すなわち感熱層の耐熱性、機械的強度が非常に優れるためであると考えられる。これにより感熱層中に有機低分子物質を含有させる場合、この物質の粒子どうしの凝集や極大化が発生しにくく、画像形成及び消去の繰り返し後の劣化が少なく、高コントラストが維持されるものと推測される。このような効果に対して、熱圧力段差量は40%以下が良く、好ましくは30%以下であり、更に好ましくは25%以下であり、特に好ましくは20%以下である。
【0079】
次に熱圧力段差変化率とは、加熱時の塗膜の硬さの経時での変化度合を表わす物性であり、数値が小さいほど塗膜が安定であることを示している。熱圧力段差変化率が70%以下になると、本発明の効果が顕著に表われ、特に記録媒体の透明化温度の範囲、巾等の特性の安定性が顕著に表われるのは、この数値を境にして塗膜の熱的物性の安定性が特に向上するものと考えられる。
【0080】
熱圧力段差変化率は、下記式によって求められる。
【0081】
【数4】
Dc(%)=|(DI−DD)/DI|×100
Dc:熱圧力段差変化率(%)
DI :初期熱圧力段差量(%)
DD :経時熱圧力段差量(%)
ここで初期熱圧力段差量(DI)とは感熱層が形成されてからまず1回目の測定した値であり、形成直後の値でなくともかまわない。次に経時熱圧力段差量(DD)とは初期と同時期に感熱層を形成したサンプルを50℃環境下に24時間放置してから測定した値である。これらはいずれも前記した熱圧力段差測定方法により測定、算出された値であることはいうまでもない。この熱圧力段差変化率を測定する場合、前記の条件(2.5kg/cm2、130℃)で段差ができない場合には圧力、温度を上げることも可能である。
この熱圧力段差量測定は、先述の可逆性感熱記録媒体において、1)記録層のみのもの、2)保護層を有するもの、の双方に適用可能である。
【0082】
前記したように、感熱層の熱圧力段差変化率を70%以下にすると、特に前記した透明化温度巾の縮小の抑制に寄与する傾向がある。これは、本発明の記録媒体は感熱層の熱圧力段差変化率が非常に小さいことから、すなわち初期と経時での感熱層の物性が変化していないと考えられ、これにより透明化温度範囲の変動及び透明化温度巾の縮小もなく、消去特性が安定したものとなると推測される。このような効果に対して、熱圧力段差変化率は70%以下がよく、好ましくは50%以下であり、更に好ましくは45%以下であり、特に好ましくは40%以下である。
【0083】
前記した可逆性感熱層中に含まれる樹脂を架橋する方法は加熱することにより又は紫外線照射(UV照射)、あるいは電子線照射(EB照射)により行うことができるが、好ましくは紫外線照射、電子線照射であり、更に好ましくは電子線照射である。
これらの架橋方法の中でEB照射が最も優れるのは次のような理由による。
【0084】
まず、EBによる樹脂の硬化とUVによるそれとの大きな違いは、UV硬化では光重合開始剤、光増感剤が必要であること、UVではほとんど透明性のあるものに限られることである。一方、EBによる反応では、ラジカル濃度が高いので急速にラジカル反応が進行し、瞬間的に重合が完結することや、EBによる反応では、UVの場合に比べ、大きいエネルギーが得られるため硬化膜厚が厚くできることがある。また、前記のようにUV硬化では光重合開始剤、光増感剤が必要であり、架橋反応後にこれらの添加物が記録層中に残存するため、記録層の画像形成、消去及び繰り返し耐久性等に悪影響を及ぼすことが懸念されるという不都合が生じてしまう。
【0085】
次に、EB硬化と熱硬化との大きな違いとして、熱硬化では架橋のための触媒及び促進剤が必要であり、これらを用いても硬化時間がEB硬化に比べてかなり遅く、またこれについても架橋反応後に上記添加物が記録層中に残存するためUV硬化と同様な不都合が生じ、更にまた架橋反応後も少しずつ架橋反応が起こりうるため、架橋直後と経時で記録層特性に変化が生じることがある点が挙げられる。
これらの理由によりEB照射が架橋方法の中で最適であると言える。また、これらにより高エネルギー印字での画像濃度劣化も少なくなり高コントラストを維持することも認められた。
【0086】
本発明における感熱層中の樹脂を架橋させる手段としては、加熱することにより又は紫外線照射、電子線照射により行なうことができるが、これらの中で電子線照射するのが最適である。これら架橋させる方法は具体的には以下のとおりである。(i)樹脂に架橋性のあるものを用いる方法、(ii)架橋剤の添加による方法、(iii)紫外線、又は電子線の照射によって架橋させる方法、(iv)架橋剤の存在下で紫外線、又は電子線の照射によって架橋させる方法、等がある。
架橋剤としてはウレタンアクリレート系、エポキシアクリレート系、ポリエステルアクリレート系、ポリエーテルアクリレート系、ビニル系、不飽和ポリエステル等のオリゴマーや、各種単官能、多官能のアクリレート、メタクリレート、ビニルエステル、スチレン誘導体、アリル化合物等のモノマーが挙げられる。また、非官能性モノマー、官能性モノマーとしては、具体的には特開平7−172072号公報に挙げられたものと同様なものを用いることができる。
【0087】
これらの架橋剤は単独で又は2種以上が混合して使用される。これらの架橋剤の添加量としては、樹脂1重量部に対して0.001〜1.0重量部が好ましく、更に好ましくは0.01〜0.5重量部である。添加量が0.001重量部以下であると架橋効率が悪くなり、逆に1.0重量部以上になると白濁度が低下し、コントラストが低くなる。
前記したように、架橋剤の添加量を少量にして架橋効率を向上させるためには、前記した架橋剤の中では、非官能性モノマーより官能性モノマーが好ましく、更に単官能モノマーよりも多官能モノマーが好ましい。
【0088】
また次に本発明における感熱層の樹脂を架橋させる手段として紫外線照射を用いる場合には次のような架橋剤、光重合開始剤、光重合促進剤を用いてもよい。具体的には下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
まず架橋剤としては光重合性プレポリマーと光重合性モノマーに大別することができ、光重合性モノマーとしては前記した電子線照射で用いる架橋剤として挙げた単官能性モノマー及び多官能性モノマーと同じものを挙げることができる。また次に光重合性プレポリマーとしてはポリエステルアクリレート、ポリウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレート、オリゴアクリレート、アルキドアクリレート、ポリオールアクリレートなどが挙げられる。
これらの架橋剤の添加量としては、樹脂1重量部に対して0.001〜1.0重量部が好ましく、更に好ましくは0.01〜0.5重量部である。添加量が0.001重量部以下であると架橋効率が悪くなり、逆に1.0重量部以上になると白濁度が低下し、コントラストが低くなる。
【0090】
次に光重合開始剤としてはラジカル反応型とイオン反応型に大別でき、更にラジカル反応型は光開裂型と水素引抜き型とに分けられる。具体的には特開平7−172072号公報に挙げられたものと同様なものを用いることができる。
【0091】
これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上混合して使用される。
添加量としては架橋剤1重量部に対して0.005〜1.0重量部が好ましく、更に好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0092】
次に光重合促進剤としては、ベンゾフェノン系やチオキサントン系などの水素引抜きタイプの光重合開始剤に対し、硬化速度を向上させる効果があり、芳香族系の第3級アミンや脂肪族アミン系がある。具体的には下記のものが挙げられる。
P−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル
P−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
これら光重合促進剤は単独で又は2種以上混合して使用される。
添加量としては光重合開始剤1重量部に対して0.1〜5重量部が好ましく、更に好ましくは0.3〜3重量部である。
【0093】
また本発明に用いる紫外線照射装置は、光源、灯具、電源、冷却装置、搬送装置から構成されている。光源には水銀ランプ、メタルハライドランプ、カリウムランプ、水銀キセノンランプ、フラッシュランプがあるが、前記した光重合開始剤及び光重合促進剤の紫外線吸収波長に対応した発光スペクトルを有する光源を使用すればよい。また紫外線照射条件については、樹脂を架橋するために必要な照射エネルギーに応じてランプ出力、搬送速度を決めればよい。
【0094】
本発明において、可逆性感熱記録材料の感熱層の樹脂を架橋するのに特に効果的な電子線照射法は以下のとおりである。
まず、EB照射装置としては、走査形(スキャンビーム)あるいは非走査形(エリアビーム)の2種に大別できるが、照射面積、照射線量等の目的に応じて決めればよい。次に、EB照射条件については、樹脂を架橋するために必要な線量に応じて、電子流、照射幅、搬送スピードを考慮し下記式から決められる。
【0095】
【数5】
D=(△E/△R)・η・I/(W・V)
D:必要線量(Mrad)
△E/△R:平均エネルギー損失
η:効率
I:電子流(mA)
W:照射幅(cm)
V:搬送速度(cm/s)
工業的には、これを簡略化し、
D・V=K・I/W
とし、装置定格をMrad・m/minで示す。
電子流定格は、実験器では20〜30mA、パイロット機では50〜100mA、生産機では100〜500mA程度が選ばれる。
【0096】
ここで樹脂を架橋するために必要な線量については、樹脂の種類および重合度、架橋剤の種類および添加量、可塑剤の種類および添加量等により架橋効率が変わり、線量に対してのゲル分率が一定でないため、これらの可逆性感熱記録材料の感熱層の構成因子水準を決めて記録層を作成し、ゲル分率目標値を決め、それに応じての線量を決めればよい。
またここで、照射線量は、樹脂を架橋させるために高エネルギーを必要とする場合には、支持体または樹脂等が照射により発生する熱によって変形、熱分解をするのを防ぐため、照射を複数回に分けて、1回当たりの照射で高熱になるのを防ぐことが好ましい。
また、EB照射を行なう前に、記録層に含有される有機低分子物質の少なくとも一部を溶融する温度以上で加熱した後、架橋することが好ましく、また更に有機低分子物質が全て溶融する温度以上に加熱した後、架橋することが好ましい。
感熱層構成因子それぞれがゲル分率との関係は以下のとおりである。
まず、樹脂の種類としては前記した樹脂が選択できるが、これらの重合度は平均重合度(P)が高くなるにつれてゲル分率が向上する傾向にあり、好ましくはP=300以上であり、更に好ましくはP=600以上である。
【0097】
架橋剤の種類及び添加量については前記したとおりであり、また可塑剤の種類としては、前記した可塑剤の中で脂肪酸エステル、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤等が好ましく、特にエポキシ系可塑剤が照射変色、架橋効率からみて最適である。可塑剤の添加量については、その添加量の増加につれてゲル分率が向上する傾向にあり、樹脂1重量部に対して0.01〜1.0重量部が好ましく、更に好ましくは0.05〜0.5重量部である。
【0098】
上記の他で、繰り返し耐久性を向上させるためには、以下の方法がある。第1に感熱層の軟化温度を高温側へ上げることによって耐久性は向上する。軟化温度がより高い方が更に耐久性は向上する。軟化温度の測定方法としては、感熱層塗膜を用いて、熱機械分析装置(TMA)や動的粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
また、更に前記したように形成された記録層を剥離せずに剛体振り子法・動的粘弾性測定装置により測定することができる。
【0099】
第2としては、後に述べるように、支持体上に形成された感熱層上に前記した保護層を積層し、その積層間の層間強度を強くすくことによっても耐久性は向上する。層間強度がより強い方がより耐久性は向上する。層間強度測定方法はTappi UM−403に準じて行うことができる。
【0100】
第3としては、感熱層のTMA針入測定による針入度が少ない方が耐久性は向上する。針入度がより少ない方が更に耐久性は向上する。針入度測定方法としては、支持体上に形成された記録層を用いて、軟化温度測定に用いたTMAを用い、先端断面積の小さなプローブ(針入プローブ)を記録層上に乗せ荷重を加え、必要により加熱してその変位量により測定することができる。
【0101】
第4としては、EB架橋後に感熱層中に残存する架橋剤量が少ない方が耐久性は向上する。残存量がより少ない方が耐久性は更に向上する。残存量測定方法としては下記方法が挙げられる。
測定装置としてフーリエ変換赤外分光光度計に取り付けられるATR測定付属装置を用い、測定サンプルとしては上記ゲル分率測定に用いた感熱層塗膜を使用し、EB照射後の試料の810cm−1付近に現われるアクリロイル基のCH面外変角振動による吸収帯強度を測定する。この吸収帯強度は架橋剤残存量と比例関係にあり、残存量が減れば、強度も減少する。これにより残存量を知ることができる。
残存量値としては感熱層中樹脂1重量部に対して0.2重量部以下がよく、好ましくは0.1重量部以下であり、更に好ましくは0.05重量部以下である。
【0102】
また、これらの他に、感熱層中の樹脂と有機低分子物質粒子との界面及び/又は粒子中に樹脂及び粒子の屈折率と異なる空隙があると、白濁状態での画像濃度が向上し、コントラストが向上する効果がある。空隙の大きさが不透明状態を検知するために用いる光の波長の1/10以上であるとより効果が顕著である。
【0103】
本発明の前記した可逆性感熱記録材料は、熱を選択的に与えることにより感熱層を選択的に加熱し、透明地に白濁画像、白濁地に透明画像を形成することができ、その変化は何回も繰り返しすることが可能である。そして、このような感熱層の背面に着色シートを配置すれば、白地に着色シートの色の画像又は着色シートの色の地に白地の画像を形成することができる。また、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)などで投影すれば、白濁部は暗部になり、透明部は光が透過しスクリーン上では明部となる。
【0104】
感熱層の厚さは1〜30μmが好ましく、2〜20μmがさらに好ましい。記録層が厚すぎると層内での熱の分布が発生し均一に透明化することが困難となる。また、感熱層が薄すぎると白濁度が低下しコントラストが低くなる。
【0105】
本発明の可逆性感熱記録材料を作るには、まず例えば次の方法により支持体上に感熱層を形成する。場合によっては、支持体上を用いることなくシート状の可逆性感熱記録材料として成形することもできる。
1)樹脂母材及び有機低分子物質を溶媒中に溶解し、これを支持体上に塗布し、溶媒を蒸発させ皮膜あるいはシート状にするとともに架橋するか、又はシート状とした後、架橋する方法。
2)樹脂母材のみを溶解させる溶媒に樹脂母材を溶解させ、その中に有機低分子物質を種々の方法で粉砕又は分散し、これを支持体上に塗布し、溶媒を蒸発させ皮膜あるいはシート状にするとともに架橋するか、又はシート状とした後、架橋する方法。
3)溶媒を用いず、樹脂母材と有機低分子物質を加熱溶融混合し、これを皮膜あるいはシート状に成形して冷却した後、架橋する方法。
【0106】
感熱層又は感熱記録材料作成用溶剤としては、樹脂母材及び有機低分子物質の種類によって種々選択できるが、例えばテトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、四塩化炭素、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。なお、分散液を使用した場合はもちろんであるが、溶液を使用した場合も、得られる感熱層中では有機低分子物質は微粒子として析出し、分散状態で存在する。
【0107】
本発明において、可逆性感熱記録材料の感熱層の樹脂母材に用いられる樹脂は皮膜又はシートを形成することができ、透明性がよく、機械的に安定な樹脂が好ましい。このような樹脂としては、ポリ塩化ビニル:塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−アクリレート共重合体、塩化ビニルと炭素数3以上の脂肪酸のビニルエステルとの共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体等の塩化ビニル系共重合体;ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体等の塩化ビニリデン系共重合体;ポリメタクリレート、メタクリレート共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0108】
また、これらの樹脂と下記に挙げる樹脂とを組み合わせて用いることができる。
飽和ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、天然ゴム、ポリアクロレイン、ポリカーボネートから選ばれたものを少なくとも1種若しくは2種以上含むもの、又はこれらを含む共重合体であるものが挙げられるが、その他にポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリシロキサン、ポリビニルアルコール、あるいはこれらの共重合体も使用できる。これらの中で前記した塩基性物質との反応を防止し、樹脂軟化点を変動させないためには、樹脂の分子構造中にカルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、エポキシ基を含有しないものが、特に好ましい。
【0109】
また更に、樹脂に塩化ビニル共重合体を用いる場合には、これら重合体の平均重合度がP=300以上が好ましく、更に好ましくはP=600以上であり、また塩化ビニル単位と共重合モノマー単位との重合比が90/10〜40/60が好ましく、更に好ましくは85/15〜50/50である。
また樹脂母材に用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)は好ましくは100℃未満、更に好ましくは90℃未満、特に好ましくは80℃未満である。
【0110】
感熱層には以上の成分の他に、透明画像の形成を容易にするために、界面活性剤、可塑剤等の添加物を添加することができる。これらの添加物の具体例は次のとおりである。
可塑剤としては、リン酸エステル、脂肪酸エステル、フタル酸エステル、二塩基酸エステル、グリコール、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤が挙げられ、具体例としては下記のものが挙げられる。
リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、オレイン酸ブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジオクチルデシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ−n−ヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチラート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチル、ブチルフタリルブチルグリコレート、アセチルクエン酸トリブチルなど。
【0111】
界面活性剤、その他の添加物の例;
多価アルコール高級脂肪酸エステル;多価アルコール高級アルキルエーテル;多価アルコール高級脂肪酸エステル、高級アルコール、高級アルキルフェノール、高級脂肪酸高級アルキルアミン、高級脂肪酸アミド、油脂又はポリプロピレングリコールの低級オレフィンオキサイド付加物;アセチレングリコール;高級アルキルベンゼンスルホン酸のNa、Ca、Ba又はMg塩;芳香族カルボン酸、高級脂肪酸スルホン酸、芳香族スルホン酸、硫酸モノエステル又はリン酸モノ−又はジ−エステルのCa、Ba又はMg塩;低度硫酸化油;ポリ長鎖アルキルアクリレート;アクリル系オリゴマー;ポリ長鎖アルキルメタクリレート;長鎖アルキルメタクリレート−アミン含有モノマー共重合体;スチレン−無水マレイン酸共重合体;オレフィン−無水マレイン酸共重合体など。
【0112】
続いて、本発明の可逆的感熱記録材料は、また、前記の感熱層が電子供与性呈色性化合物と電子受容性化合物との間の発色反応を利用したものも含み、このような可逆的熱発色反応を利用したものについて以下に述べることにする。
該発色反応は、電子供与性呈色性化合物と電子受容性化合物との間の発色反応を利用したものであり、これら化合物からなる熱発色性組成物は、該電子供与性呈色性化合物と該電子受容性化合物を加熱溶融混合させたときに非晶質の発色体を生成し、一方、該非晶質の発色体を該溶融温度より低い温度で加熱したときに該電子受容性化合物が結晶化を起こして該発色体が消色することの現象を利用したものである。
【0113】
熱発色性組成物は、加熱により瞬時に発色し、その発色状態は常温においても安定的に存在し、一方、発色状態にある組成物は、これを発色温度以下の加熱により瞬時に消色しその消去状態は常温においても安定的に存在するもので、このような可逆的な特異な発消色挙動は従来には見られない新規な驚くべき現象である。
【0114】
この組成物を感熱層として用いた場合の発色と消色、即ち画像形成と画像消去の原理を図3に示したグラフによって説明する。
グラフの縦軸は発色濃度を表わし、横軸は温度を表わしており、実線は加熱による画像形成過程を、破線は加熱による画像消去過程を示したものである。Aは完全消去状態における濃度であり、BはT6以上の温度に加熱した時の完全発色状態における濃度であり、Cは完全発色状態のT5以下の温度における濃度であり、DはT5〜T6間の温度で加熱消去した時の濃度を示している。
【0115】
本発明に係るこの組成物は、T5以下の温度においては無色の状態(A)にある。記録(画像形成)を行なうにはサーマルヘッド等によりT6以上の温度に加熱することにより発色(B)して記録画像を形成する。この記録画像は実線に従ってT5以下の温度に戻しても、そのままの状態(C)を保持しており記録のメモリー性は失われない。
【0116】
次に記録画像の消去を行なうには、形成された記録画像を発色温度よりも低いT5〜T6間の温度に加熱することによって無色の状態(D)になる。この状態はT5以下の温度に戻しても、そのままの無色の状態(A)を保持している。即ち、記録画像の形成過程は実線ABCの経路によりCに至り記録が保持される。次に記録画像の消去過程は破線CDAの経路によりAに至り消去状態が保持される。この記録画像の形成と消去の挙動特性は可逆性を有し何回も繰り返し行なうことができる。
【0117】
可逆性熱発色性組成物は、発色剤と顕色剤を必須成分とし、更に必要により結着樹脂を含んでいる。そして、発色剤と顕色剤の加熱溶融により発色状態を形成し、一方、発色温度よりも低い温度の加熱により発色状態は消去され、発色状態及び消色状態が常温で安定的に存在するものである。組成物におけるこのような発色と消色の機構は、先に触れたように、発色剤と顕色剤を発色温度で加熱溶融混合した時に、組成物が非晶質化を起こして発色状態を形成し、一方、発色温度よりも低い温度で加熱した時に、発色した組成物の顕色剤が結晶化を起こして発色の消去状態を形成する特性に基づくものである。
ただし、この場合においても感熱層はT6以上の温度に加熱してから消色する過程がとられることによって、発色剤及び顕色剤の粒子が元に戻り、新たな発色状態を形成するのに有利である。
【0118】
通常の発色剤と顕色剤、例えば、従来の感熱記録紙に広く用いられている色素前駆体であるラクトン環を有するロイコ系化合物と顕色作用を示すフェノール性化合物からなる組成物は、これを加熱によって溶融混合させると、ロイコ化合物のラクトン環に基づく発色状態となる。この発色状態は両者が相溶した非晶質状態を呈している。この発色した非晶質状態は常温で安定的に存在するが、再び加熱を行なっても結晶化は起こらず、フェノール性化合物のロイコ化合物からの分離がないためにラクトン環の閉環がなく消色はしない。
【0119】
これに対して、本発明に係る発色剤と顕色剤の組成物も加熱によって溶融混合をさせた時に、発色状態となり、従来の場合と同様に非晶質状態を呈し、常温で安定的に存在する。しかし、本発明の場合は、この発色した非晶質状態の組成物は、発色温度以下、即ち溶融状態に至らない温度で加熱すると、顕色剤の結晶化が起こり、発色剤との相溶状態による結合が保持できなくなり、顕色剤が発色剤から分離する。そして、この顕色剤の結晶化による発色剤からの分離により、顕色剤は発色剤から電子を受容することができず、発色剤は消色するものと考えられる。
【0120】
熱発色性組成物に見られる前記の特異な発消色挙動は、発色剤と顕色剤との加熱溶融による相互溶解性、発色状態での両者の作用の強さ、顕色剤の発色剤に対する溶解能、顕色剤の結晶性等が関係しているが、原理的には、加熱溶融による非晶質化を起こし、一方、発色温度よりも低い温度の加熱により結晶化を起こす発色剤/顕色剤系であれば、本発明における組成物成分として利用し得るものである。さらに、この様な特性を有するものは、熱分析において溶融による吸熱変化及び結晶化による発熱変化を示すことから、本発明に適用し得る発色剤/顕色剤系は、熱分解折により容易に確認することができる。また、本発明に係る可逆的熱発色性組成物系には、必要に応じて結着樹脂等の第三物質が存在させることができ、例えば、高分子物質が存在してもその可逆的な消発色挙動が保持されることが確認された。
結着樹脂としては、前記の可逆性感熱記録媒体の感熱層を構成する樹脂母材と同様のものが使用できる。
本発明の熱発色性組成物において、その消色は顕色剤の結晶化による発色剤からの分離に起因することから、消色効果の優れたものを得るには、顕色剤の選択は重要である。
【0121】
本発明の可逆性感熱記録材料に形成される画像を反射画像として用いる場合には、記録層の背面に光を反射する層を設けるのが望ましい。また、反射層があると記録層の厚みを薄くとてもコントラストを上げることができる。具体的にはAl、Ni、Sn等を蒸着することが挙げられる(特開昭64−14079号公報に記載)。
【0122】
また、感熱層にはその感熱層を保護するために保護層を設けることができる。保護層(厚さ0.1〜10μm)の材料としては、シリコーン系ゴム、シリコーン樹脂(特開昭63−221087号公報)、ポリシロキサングラフトポリマー(特開昭63−317385号公報)や紫外線硬化樹脂又は電子線硬化樹脂(特開平1−133781号公報、特開平2−566号公報)等が挙げられる。いずれの場合も、塗布時に溶剤を用いるが、その溶剤は、記録層の樹脂ならびに有機低分子物質を溶解しにくいほうが望ましい。
感熱層の樹脂及び有機低分子物質を溶解しにくい溶剤としてn−ヘキサン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、特にアルコール系の溶剤がコスト面から望ましい。
【0123】
また、これら保護層は、記録層の樹脂を架橋するのと同時に硬化させることも可能である。この場合には前記した方法により支持体上に記録層を形成した後に、保護層を塗布、乾燥し、その後に前記したEB照射装置及び照射条件により電子線照射を行ない、それぞれの層を硬化させればよい。
【0124】
このような保護層の厚さは0.5〜10.0μmが好ましい。これ以下の厚さでは感熱層を保護する効果がなく、これ以上の厚さでは熱感度が低下する。
更に、本発明において、前記カラー印刷層に用いられる着色剤及びバインダーとしては、まず着色剤として従来のフルカラー印刷に使用されるカラーインキ中に含まれる各種の染料及び顔料等が挙げられる。また、樹脂バインダーとしては各種の熱可塑性、熱硬化性、紫外線硬化性又は電子線硬化性樹脂等を挙げることができる。このようなカラー印刷層の厚さは印刷色濃度に対して適宜変更されるため、目標とする印刷色濃度に合わせて設定すればよい。
【0125】
また更に、本発明において、前記ヘッドマッチング層に用いられる耐熱性樹脂としては、前記した保護層中に用いられる耐熱性樹脂と同じものが好ましく用いられる。また、無機顔料としては炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、ケイ酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、タルク等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの無機顔料の粒径は0.01〜10.0μmがよく、好ましくは0.05〜8.0μmである。また、これらの無機顔料はヘッドマッチング層中に単独で又は2種以上混合して使用されるが、添加量としては耐熱性樹脂1重量部に対して0.001〜2重量部が好ましく、更に好ましくは0.005〜1重量部である。
また、本発明において、前記保護層、カラー印刷層、ヘッドマッチング層中に含まれる樹脂を紫外線により硬化させる場合には、前記した感熱層の樹脂を紫外線架橋させるために用いた架橋剤、光重合開始剤、光重合促進剤を用いればよい。
【0126】
更に、保護層形成液の溶剤やモノマー成分等から感熱層を保護するために、保護層と感熱層との間に中間層を設けることができる(特開平1−133781号公報に記載)。中間層の材料としては感熱層中の樹脂母材の材料として挙げたものの他に下記のような熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が使用可能である。即ち、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド等が挙げられる。中間層の厚さは0.1〜2μmくらいが好ましい。
【0127】
また本発明の可逆性感熱記録媒体の層構成としては、実開平2−3876号公報に記載されているように支持体上に感熱記録層と磁性材料を主成分とする磁気記録層を有すると共に、少なくとも感熱記録層直下又は支持体の感熱記録層対応部分が着色されている層構成が挙げられる。または、特開平3−130188号公報に記載されているように支持体上に磁気記録層、その上に光反射層、更にその上に感熱層が設けられているような層構成等が挙げられるが、この場合に磁気記録層は支持体裏面か、あるいは支持体と感熱層の間に設けているかのどちらでも良く、またこれらの他の層構成であっても何らさしつかえはない。
【0128】
先に触れたように、本発明では支持体と記録層の間に視認性をよくするために着色層を設けることもできる。着色層は着色材及び樹脂バインダーを主成分とする溶液又は分散液を対象面に塗布、乾燥するか、或いは単に着色シートを貼り合わせることにより形成される。ここで着色剤としては上層の記録層の透明及び白濁の変化を反射画像として認識できればよく、赤、黄、青、紺、紫、黒、茶、灰、橙、緑などの色を有する染料、顔料等が使用される。また、樹脂バインダーとしては各種熱可塑性、熱硬化性又は紫外線硬化性樹脂が使用される。
【0129】
また、支持体と記録層との間に、空気を有する非密着部である空気層を設けることができる。空気層を設けると、記録層の主成分として用いられた有機高分子材料の屈折率が1.4〜1.6程度で、空気の屈折率1.0との差が大きいため、感熱記録層側フィルムと非密着部との界面で光が反射し、記録層が白濁状態のとき白濁度が増幅され、視認性が向上するので、この非密着部位を表示部として用いることが望ましい。
【0130】
非密着部位は非密着部の内部に空気を有するため、その非密着部が断熱層となり、感熱度が向上する。更に、非密着部位はクッションの役目もなし、サーマルヘッドで圧力をかけて押さえつけても実際に感熱部材に加わる圧力は低くなり、熱を加えても感熱層の変形は少なく、有機低分子物質粒子の拡大もなく、繰り返し耐久性が向上する。
【0131】
さらに、支持体裏面に接着剤層又は粘着剤層を設けて、可逆性感熱記録ラベルとして用いることも可能である。このラベルシートは被貼着体と貼り合わされるが、被貼着体としては、例えば、クレジットカード等の塩ビカード、ICカード、IDカード、紙、フィルム、合成紙、ボーディングパス、定期券等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、支持体がAl蒸着層のような樹脂との接着力に乏しい材質の場合には、支持体と感熱層との間に接着層を設けてもよい(特開平3−7377号公報)。
【0132】
また本発明において可逆性感熱記録材料に画像表示を行うための感熱記録画像表示装置として多種多様なものが挙げられるが、その代表的なものは可逆性感熱記録材料に画像形成・消去を行うための画像形成手段と画像消去手段が同一の発熱体、例えばサーマルヘッドで、サーマルヘッドに印加するエネルギーを変化させることにより画像処理を行うことができる感熱記録画像表示装置、または、画像形成手段がサーマルヘッドであり、画像消去手段がサーマルヘッド、セラミックヒータ、ホットスタンプ、ヒートローラ、ヒートブロック等の発熱体を接着させる接触押圧型手段か、あるいは温風や赤外線などを用いた非接触型手段のうち一つから選択される感熱記録画像表示装置がある。
【0133】
本発明の可逆性感熱記録材料は記録層が全体として架橋構造を呈しているため、記録層は有機低分子物質粒子を含めて歪みを生じることがなく、常に良好な画像記録及び消去が行なえ、また、経時安定性に優れたものとなる。
【0134】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げてより具体的に説明する。ここでの部及び%は何れも重量基準である。
【0135】
実施例1
(可逆性感熱記録材料の作製)
約188μm厚のポリエステルフィルム上にAlを約400Å厚となるように真空蒸着して光反射層を設けた。この上に
塩化ビニル−酢酸ビニル−リン酸エステル共重合体 5部
(電気化学工業社製、デンカビニール♯1000P)
THF(テトラヒドロフラン) 95部
よりなる溶液を塗布し、加熱乾燥して、約1.5μm厚の接着層を設けた。
【0136】
さらにその上に
1,18−オクタデカジカルボン酸ドデシル 4.75部
(ミヨシ油脂社製 m.p.62℃)
ステアリン酸銅 (m.p.125℃) 5.25部
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 28部
(鐘淵化学工業社製;M2018 塩化ビニル80%、
酢酸ビニル20%、平均重合度=1800)
DPCA−30 4.7部
(日本化薬社製 KAYARAD DPCA−30)
THF 215.5部
アミルアルコール 24部
ジブチル錫ラウレート系安定剤 0.8部
(三共有機合成社製、Stann SCAT−1)
よりなる溶液を塗布し、加熱乾燥して約8μm厚の感熱層(可逆性感熱記録層)を設けた。
次に上記のように作成した感熱層に以下のとおりにして、電子線照射を行なった。
電子線照射装置として日新ハイボルテージ社製のエリアビーム型電子線照射装置EBC−200−AA2を用い、照射線量が10Mradになるように調整して、電子線照射を行なった。このようにして感熱層の形成された可逆性感熱記録材料を作成した。
次に、このようにして形成した感熱層の上に
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 10部
(鐘淵化学工業社製;M2018)
C4−782 2.5部
(大日本インキ社製、ユニディックC4−782)
テトラヒドロフラン 87.5部
よりなる溶液を塗布し、加熱乾燥後80W/cmの紫外線ランプで架橋させ約2μm厚のバリアー層を設けた。
次に、このようにして形成したバリアー層の上に
ウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂の 10部
75%酢酸ブチル溶液
(大日本インキ社製、ユニディックC7−157)
IPA(イソプロピルアルコール) 10部
よりなる溶液をワイヤーバーで塗布し、加熱乾燥後、80W/cmの紫外線ランプで硬化させ、約3μm厚の保護層の形成された可逆性感熱記録材料を作成した。
【0137】
実施例2
実施例1において感熱層中の1,18−オクタデカジカルボン酸ドデシルをステアリン酸オクタデシル(SIGMA社製、m.p.62℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0138】
実施例3
実施例1において感熱層中の1,18−オクタデカジカルボン酸ドデシルを1,4−ブタンジオールジステアレート(ミヨシ油脂社製BD−36、m.p.67〜71℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0139】
実施例4
実施例1において感熱層中の1,18−オクタデカジカルボン酸ドデシルをオクタコサン(東京化成社製、m.p.61℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0140】
実施例5
実施例1において感熱層を下記処方に変更した以外は、実施例1と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
エタノールアミンジステアレート 5部
(日本化成社製、スリエイドS、m.p.80℃)
パルミチン酸アマイド 5部
(日本化成社製、ダイヤミッドKP、m.p.100℃)
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 39部
(ユニオンカーバイト社製、VYHH)
DPCA−30 4.7部
(日本化薬社製、KAYARAD DPCA−30)
THF 178.2部
エチルセロソルブ 44.5部
ジブチル錫ラウレート系安定剤 0.8部
(三共有機合成社製、Stann SCAT−1)
【0141】
実施例6
実施例5において感熱層中のパルミチン酸アマイドを高純度ステアリン酸アマイド(日本化成社製、アマイドAP95、m.p.107℃)に変更した以外は、実施例5と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0142】
実施例7
実施例5において感熱層中のパルミチン酸アマイドをメチロールステアリン酸アマイド(日本化成社製、メチロールアマイド、m.p.111℃)に変更した以外は、実施例5と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0143】
比較例1
実施例1において感熱層中のステアリン酸銅をエイコサン2酸(岡村製油社製SL−20−99、m.p.110〜125℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0144】
比較例2
実施例1において感熱層中の1,18−オクタデカジカルボン酸ドデシルをベヘン酸(SIGMA社製、m.p.80℃)に変更し、更にステアリン酸銅をエイコサン2酸(岡村製油社製 SL−20−99、m.p.110〜125℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0145】
比較例3
実施例5において感熱層中のエタノールアミンジステアレートをベヘン酸ベヘニル(SIGMA社製、ベヘン酸ベヘニル、m.p.75℃)に変更し、更にパルミチン酸アマイドをエチレンビスベヘン酸アマイド(日本化成社製、スリパックスB、m.p.141℃)に変更した以外は、実施例5と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0146】
比較例4
実施例5において感熱層中のエタノールアミンジステアレートをベヘン酸ベヘニル(SIGMA社製、ベヘン酸ベヘニル、m.p.75℃)に変更し、且つ添加量を9.5重量部に変更し、更にパルミチン酸アマイドをエチレンビスベヘン酸アマイド(日本化成社製、スリパックスB、m.p.141℃)に変更し、且つ添加量を0.5部に変更した以外は、実施例5と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0147】
比較例5
実施例5において感熱層中のエタノールアミンジステアレートをベヘン酸(SIGMA社製、m.p.80℃)に変更し、更にパルミチン酸アマイドをエイコサン2酸(岡村製油社製、SL−20−99、m.p.110〜125℃)に変更した以外は、実施例5と同様にして可逆性感熱記録材料を作成した。
【0148】
このようにして得られた実施例及び比較例の各可逆性感熱記録材料について、以下に示す各性能を測定し、その結果をまとめて表1〜表4に示す。
(人工汗液印字感度変化率の測定)
前記のようにして得られた保護層形成済の可逆性感熱記録材料を用いて、前記した人工汗液印字感度変化率測定方法により、まず初期白濁濃度(ODWI)を求めた。次に上記測定に用いた記録材料をアルカリ性人工汗液中に100時間浸漬後、乾燥してから、上記と同様な測定方法にて、経時白濁濃度(ODWD)を求めた。また前記した方法により地肌濃度(ODB)を測定した。
次に上記により求めたODWI、ODWD、ODBにより人工汗液印字感度変化率を算出した。結果を表1に示す。
【0149】
【表1】
【0150】
(人工汗液消去感度変化率の測定)
前記のようにして得られた保護層形成済の可逆性感熱記録材料を用いて、前記した人工汗液消去感度変化率測定方法により、まず初期消去濃度(ODTI)を求めた。次に上記測定に用いた記録材料をアルカリ性人工汗液中に100時間浸漬後、乾燥してから、上記と同様な測定方法にて、経時消去濃度(ODTD)を求めた。
次に上記により求めたODTI、ODTDと人工汗液印字感度変化率で求めたODWIにより人工汗液消去感度変化率を算出した。結果を表2に示す。
【0151】
【表2】
【0152】
(極大平均粒子径の測定)
前記のようにして得られた保護層形成済の可逆性感熱記録材料を用いて、前記した極大平均粒子径測定方法により、まずそれぞれの感熱層断面の任意の5箇所について平均粒子径S1〜S5を算出した。
次に、上記により求めたS1〜S5により極大平均粒子径(Sm)を算出した。結果を表3に示す。
【0153】
【表3】
【0154】
(熱圧力段差量及び熱圧力段差変化率測定)
前記のようにして得られた感熱層形成済の可逆性感熱記録材料を用いて感熱層形成面に前記した熱圧力印加装置により、印加圧力2.5kg/cm2、印加時間10秒、印加温度130℃の条件で熱圧力印加を行ない、前記した二次元粗さ解析装置サーフコーダAY−41、記録計RA−60E、及びサーフコーダSE30Kを用い、熱圧力段差平均値(Dm)を読み取り、初期圧力段差量(DI)を求めた。次に上記測定に用いたサンプルと同時に作製した可逆性感熱記録材料を50℃の恒温槽に24時間放置した後室温まで冷却して、上記と同様な測定方法にて、経時熱圧力段差量(DD)を求めた。次に上記により求めた初期熱圧力段差量(DI)と経時熱圧力段差量(DD)により熱圧力段差変化率(DC)を算出した。結果を表4に示す。
【0155】
【表4】
【0156】
【発明の効果】
以上、実施例及び比較例の記述を含む詳細且つ具体的な説明から明らかなように、本発明の可逆性感熱記録材料は、初期の画像濃度及び画像消去濃度がよく、コントラストに優れ、更に、画像形成状態或は画像消去状態で長期間放置しても、サーマルヘッド、ホットスタンプ等による画像消去後或は画像形成後の反射濃度が悪化することがなく、コントラストが低下することのない、視認性に極めて優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る感熱層の熱による透明度の変化を表わした図である。
【図2】従来の可逆製感熱記録材料の繰り返し使用の際、有機低分子物質粒子の状態変化をモデル的に説明する図である。
【図3】本発明に係る他の記録層の熱による色濃度の変化を表わした図である。
【符号の説明】
1 サーマルヘッド
2 樹脂母材
3 有機低分子物質粒子
4 支持体
5 プラテンロール
6 ずり応力
7 ずり応力により変形した有機低分子物質粒子
8 変形した有機低分子物質粒子が凝集した状態
9 有機低分子物質粒子が凝集を繰り返し極大化した状態
10 進行方向
Claims (14)
- 支持体上に温度に依存して透明度又は色調が可逆的に変化する感熱層を設けた可逆性感熱記録材料において、感熱層の樹脂母材と該樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、該樹脂母材中には、熱可塑性樹脂と該樹脂母材1部当たり0.01〜0.5部の紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂が含まれ、該有機低分子物質が、低融点有機低分子物質の少なくとも1種以上と高融点有機低分子物質の少なくとも1種以上とを混合したものであり、且つ該有機低分子物質が分子構造中にフリーカルボキシル基を含有しないもので極大平均粒子径が1.1〜2.0μmであることを特徴とする可逆性感熱記録材料。
- 前記低融点有機低分子物質と高融点有機低分子物質の融点の差が20℃以上であることを特徴とする請求項1記載の可逆性感熱記録材料。
- 前記低融点有機低分子物質の融点が40℃以上100℃未満の範囲であり、且つ前記高融点有機低分子物質の融点が100℃以上200℃未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の可逆性感熱記録材料。
- 前記感熱層の熱圧力段差量が40%以下であり、且つ熱圧力段差変化率が70%以下であることを特徴とする請求項1記載の可逆性感熱記録材料。
- 前記可逆性感熱記録材料に前記感熱層以外に情報記録部を設けたことを特徴とする請求項1記載の可逆性感熱記録材料。
- 前記情報記録部が磁気記録層であり、磁気記録層を支持体と感熱層の間の全面又は一部分か、支持体裏面の全面又は一部分か、或いは磁気ストライプを表示面の一部分かのいずれかに設けたことを特徴とする請求項5記載の可逆性感熱記録材料。
- 前記情報記録部がIC又は光メモリであり、前記可逆性感熱記録材料の一部分に設けたことを特徴とする請求項6記載の可逆性感熱記録材料。
- 前記可逆性感熱記録材料が2種類以上の支持体を貼り合わせた構成からなることを特徴とする請求項1、5、6、7のうち何れか1に記載の可逆性感熱記録材料。
- 前記可逆性感熱記録材料の前記感熱層上に耐熱性樹脂を主成分とする保護層を設けたことを特徴とする請求項1記載の可逆性感熱記録材料。
- 前記保護層上の一部分か支持体裏面の全面又は一部分のいずれか又は全てに、着色剤及び樹脂バインダーを主成分とするカラー印刷層を設けたことを特徴とする請求項9記載の可逆性感熱記録材料。
- 前記保護層上又は前記カラー印刷層上に耐熱性樹脂及び無機顔料を主成分とするヘッドマッチング層を設けたことを特徴とする請求項9又は10記載の可逆性感熱記録材料。
- 支持体上に温度に依存して透明度又は色調が可逆的に変化する感熱層を設けた可逆性感熱記録材料において、感熱層の樹脂母材と該樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、該樹脂母材には、熱可塑性樹脂と該樹脂母材1部当たり0.01〜0.5部の紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂が含まれ、該有機低分子物質が、低融点有機低分子物質の少なくとも1種以上と高融点有機低分子物質の少なくとも1種以上とを混合したものであり、且つ該有機低分子物質が分子構造中にフリーカルボキシル基を含有しないもので極大平均粒子径が1.1〜2.0μmの可逆性感熱記録材料を、加熱により画像形成及び/又は画像消去することを特徴とする画像形成・消去方法。
- 前記加熱をサーマルヘッドで行なうことを特徴とする請求項12記載の画像形成・消去方法。
- 前記画像消去をサーマルヘッド、セラミックヒータ、ホットスタンプ、ヒートローラ、ヒートブロックの少なくとも1種を用いて行なうことを特徴とする請求項12記載の画像形成・消去方法。
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