JP3695927B2 - アルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極およびアルカリ蓄電池用電解液ならびにこれらのニッケル正極と電解液とを用いたアルカリ蓄電池 - Google Patents
アルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極およびアルカリ蓄電池用電解液ならびにこれらのニッケル正極と電解液とを用いたアルカリ蓄電池 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池などのアルカリ蓄電池に係り、特に、この種のアルカリ蓄電池に用いる非焼結式ニッケル正極およびこの種のアルカリ蓄電池に用いるアルカリ電解液ならびにこれらの非焼結式ニッケル正極とアルカリ電解液とを用いたアルカリ蓄電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯機器の急速な普及により従来に増して高性能な蓄電池が要請されるようになった。このような背景にあって、アルカリ蓄電池用正極として、粒状の水酸化ニッケルをスラリーとし、このスラリーを発泡ニッケルなどの三次元的に網目構造をもった活物質保持体に充填した非焼結式ニッケル正極を用いるようになった。
【0003】
ところで、この種の非焼結式ニッケル正極を高容量化するためには、水酸化ニッケルの活物質利用率を向上させることが必須の課題となった。この課題を解決するために、例えば、特開平6−96761号公報において、γ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)を有効利用して電池の高容量化を達成することが提案されている。この特開平6−96761号公報において提案された方法は、過充電してγ−NiOOHを生成させ、このγ−NiOOHを放電させることにより、水酸化ニッケルの利用率が大幅に向上するものである。なぜならば、β型オキシ水酸化ニッケル(β−NiOOH)の酸化状態が3価であるのに対して、γ−NiOOHの酸化状態が3.7価と高い充電状態にあるからである。
【0004】
一方、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の通常の放電状態では水酸化ニッケルの価数は2.0価までは完全には還元されず、2.3価程度の価数にとどまる。つまり、β−NiOOHの放電価数変化は0.7価であるのに対して、γ−NiOOHの放電価数変化は1.4価となり、γ型オキシ水酸化ニッケルはβ型オキシ水酸化ニッケルに比較して、約2倍の容量を取り出すことが理論上は可能となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、γ型オキシ水酸化ニッケルを用いてもβ型オキシ水酸化ニッケルを用いた場合の約2倍の容量を取り出すことは量産型のアルカリ蓄電池においては以下の▲1▼〜▲3▼の理由で困難であった。
即ち、
▲1▼充・放電反応の際に、水酸化ニッケルの結晶構造変化を伴うため、放電性が低くなる。
▲2▼充・放電反応の際に、水酸化ニッケルの結晶構造変化を伴うため、可逆性が低くなる。
▲3▼充・放電反応の際に、水酸化ニッケルの結晶構造変化を伴うため、電池内での液配分変化が大きくなって、サイクル特性が低下する。
【0006】
このように、充・放電反応による結晶構造の変化に起因して、電池容量および電池特性に悪影響を及ぼすと考えられている。ここで、水酸化ニッケルの結晶構造の変化とは、Journal Power Sources(29(1990)P453)等によれば、カリウムイオン等のカチオンあるいは水が水酸化ニッケル結晶構造内あるいは結晶間に出入りして、水酸化ニッケルの結晶構造が変化することを意味する。
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、γ型オキシ水酸化ニッケルの可逆性を増大させて、容量の増大した非焼結式ニッケル正極、および電池容量が増大するアルカリ電解液ならび電池容量が増大したアルカリ蓄電池を得ることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明によるアルカリ蓄電池は、非焼結式正極として、当該電池の充電状態でのγ型オキシ水酸化ニッケルの占める割合が全水酸化ニッケルに対して15モル%以上で40モル%以下とした水酸化ニッケルを主体とする正極活物質のスラリーを活物質保持体に充填した非焼結式ニッケル電極を採用し、前記アルカリ電解液として、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムを含む溶液であってその組成における水酸化ナトリウムのモル量が当該電解液中に含まれる全金属水酸化物の20モル%以上で50モル%以下としたアルカリ電解液を用いたことにその特徴がある。
【0008】
本発明のアルカリ蓄電池においては、カリウムイオン(K + )に比べてイオン半径が小さいナトリウムイオン(Na + )の含有割合を多くしたアルカリ電解液を用いることにより、アルカリ電解液がγ型オキシ水酸化ニッケルの結晶格子への出入りが多くなることに起因して、γ型オキシ水酸化ニッケルの可逆性が向上し、さらに容量が増大したアルカリ蓄電池が得られるようになる。そして、γ型オキシ水酸化ニッケルの可逆性が向上することにより、充・放電サイクルに伴う電解液分配の変化も小さくなるため、充・放電サイクルのサイクル特性も向上して長寿命のアルカリ蓄電池が得られるようになる。
【0009】
この場合、電池の充電状態にてγ型オキシ水酸化ニッケルの占める割合が全水酸化ニッケルに対して40モル%より多くなると、γ型オキシ水酸化ニッケルの不可逆性が増すために容量が増大しない。またγ型オキシ水酸化ニッケルの占める割合が全水酸化ニッケルに対して15モル%より少ないと、γ型オキシ水酸化ニッケルのニッケル価数が大きいことによる容量増加効果が発揮できないために容量が増大しない。このため、電池の充電状態でのγ型オキシ水酸化ニッケルの占める割合が全水酸化ニッケルに対して15モル%以上で40モル%以下とすることが好ましい。
【0010】
また、ナトリウムイオン(Na + )はカリウムイオン(K + )に比べてイオン半径が小さいため、ナトリウムイオン(Na + )はγ型オキシ水酸化ニッケルの結晶格子内への出入りが容易になるため、電解液として水酸化ナトリウムを用いることにより、γ型オキシ水酸化ニッケルの可逆性が向上し、容量が増大することとなる。しかしながら、水酸化ナトリウムは水酸化カリウムに比べて電解液の導電率が低い(抵抗が大きい)ため、水酸化ナトリウムのモル量が電解液中に含まれる全金属水酸化物の50モル%以下にすることが好ましい。また、水酸化ナトリウムのモル量が電解液中に含まれる全金属水酸化物の20モル%より少ないと、γ型オキシ水酸化ニッケルの可逆性が向上しないため、水酸化ナトリウムのモル量が電解液中に含まれる全金属水酸化物の20モル%以上とすることが好ましい。
【0011】
そして、コバルト化合物を付着させてアルカリおよび酸素の共存下で熱処理して結晶構造が乱れた高次コバルト化合物層をその表面に形成するようにした正極活物質粒子を用いると、正極活物質粒子の表面に細孔が発達するとともに、結晶構造が乱れた高次コバルト化合物層は高導電性を有するため、電解液との接触面積が増大して活物質利用率が向上する。また、電解液との接触面積が増大すると、電解液中のアルカリ金属イオンが移動しやすくなるため、γ型オキシ水酸化ニッケルの可逆性がさらに増大して、さらに高容量の非焼結式ニッケル正極が得られるようになる。また、水酸化ナトリウムのモル量が同じであっても電解液濃度が高すぎても、低すぎても、電解液の導電率が低く(抵抗が大きく)なるため、電解液濃度は7規定以上で10.5規定以下とすることが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の非焼結式ニッケル正極および本発明のアルカリ電解液を用いたアルカリ蓄電池についての実施の形態を説明する。
1.ニッケル活物質の作製
a.実施例のニッケル活物質
金属比で、ニッケル96重量%に対して、亜鉛3重量%、コバルト1重量%となるような硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸コバルトの混合水溶液を攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加し、反応中のpHを13〜14に安定させて水酸化ニッケルを析出させる。この水酸化ニッケルが析出した水溶液中に、反応中のpHを9〜10に維持するようにして、比重1.30の硫酸コバルト水溶液を添加して、水酸化ニッケル析出物を結晶核として、この結晶核の周囲に水酸化ニッケルを重量比で95に対して水酸化コバルトを重量比で5析出させる。この析出物を採取して水洗、乾燥して、水酸化ニッケル粒子の表面に水酸化コバルトの析出層を形成した複合粒子粉末を得る。
【0018】
ついで、複合粒子粉末の温度が60℃となるように加熱度合いを調整した気流設備内にこの複合粒子粉末を投入し、この複合粒子粉末のコバルト量に対して5倍のアルカリ液(25重量%の水酸化ナトリウム)を噴霧した後、複合粒子粉末の温度が90℃に到達するまで昇温させて、水酸化ニッケルの表面に析出した水酸化コバルトを高次コバルト化合物に酸化させるアルカリ熱処理を施す。このようなアルカリ熱処理工程により、粒状の水酸化ニッケルの表面に形成された水酸化コバルトおよび水酸化ニッケルの結晶構造が破壊されて結晶構造に乱れを生じると共に、水酸化コバルトの酸化が強力に促進されて、ナトリウムイオンを含有するとともにその平均価数が2価より大きい高次のコバルト化合物となる。
【0019】
このため、導電性のよい高次コバルト化合物をその表面に偏在形成させた粒状の水酸化ニッケル複合粒子が形成されることとなる。また、高次コバルト化合物はアルカリ水溶液(アルカリ電解液)に溶解しにくい物質である。このアルカリ熱処理の後、この複合粒子粉末に対して、10倍の量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥することにより、ナトリウムイオンを含有した高次コバルト被覆層を有する水酸化ニッケル活物質を作製する。
【0020】
b.比較例のニッケル活物質
金属比で、1重量%のコバルトおよび3重量%の亜鉛を共沈成分として含有する粒状水酸化ニッケルを重量比で95に対して水酸化コバルトを重量比で5添加、混合して、比較例の水酸化ニッケル活物質を作製する。
【0021】
2.ニッケル正極板の作製
a.実施例のニッケル正極板
上述のようにして作製した高導電性高次コバルト被覆層を有する水酸化ニッケル活物質100重量部に、0.2重量%のヒドロキシプロピルセルロース水溶液50重量部を混合して活物質スラリーaを作製する。このようにして作製した活物質スラリーaを、基体目付が600g/m2で厚みが1.6mmであるニッケル発泡体(ニッケルスポンジ)に、それぞれ圧延後の活物質充填密度が約2.9g/cc−voidとなるように充填した後、その表面にフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン,PTFE)ディスパージョンを噴霧する。ついで、活物質スラリーaを充填したニッケル発泡体を乾燥させた後、厚みが約0.6mmになるまで圧延した後、所定形状に切断(このとき活物質量が5gになるように調整する)して、実施例のニッケル正極板Aを作製する。
【0022】
b.比較例のニッケル正極板
上述のようにして作製した比較例の水酸化ニッケル活物質100重量部に、0.2重量%のヒドロキシプロピルセルロース水溶液50重量部を混合して活物質スラリーxを作製する。このようにして作製した活物質スラリーbを、基体目付が600g/m2で厚みが1.6mmであるニッケル発泡体(ニッケルスポンジ)に、圧延後の活物質充填密度が約2.9g/cc−voidとなるように充填した後、その表面にフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン,PTFE)ディスパージョンを噴霧する。ついで、活物質スラリーxを充填したニッケル発泡体を乾燥させた後、厚みが約0.6mmになるまで圧延した後、所定形状に切断(このとき活物質量が5gになるように調整する)して、比較例のニッケル正極板Xを作製する。
【0023】
3.水素吸蔵合金負極の作製
ミッシュメタル(Mm:希土類元素の混合物)、ニッケル、コバルト、アルミニウム、およびマンガンを1:3.4:0.8:0.2:0.6の比率で混合し、この混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉で誘導加熱して合金溶湯となす。この合金溶湯を公知の方法で冷却し、組成式Mm1.0Ni3.4Co0.8Al0.2Mn0.6で表される水素吸蔵合金のインゴットを作製する。
【0024】
この水素吸蔵合金インゴットを機械的に粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒子径が約150μmになるまで機械的に粉砕する。このようにして作製した水素吸蔵合金粉末にポリエチレンオキサイド等の結着剤と、適量の水を加えて混合して水素吸蔵合金スラリーを作製する。このスラリーをパンチングメタルからなる活物質保持体の両面に、圧延後の活物質密度が所定量になるように塗着した後、乾燥、圧延を行った後、所定寸法に切断して水素吸蔵合金負極を作製する。
【0025】
4.ニッケル−水素蓄電池の作製
ついで、上述のように作製した実施例と比較例の各非焼結式ニッケル正極板A,Xと、上述のように作製した水素吸蔵合金負極とを、厚みが約0.2mmのポリプロピレン製不織布からなるセパレータをそれぞれ介して、最外周が水素吸蔵合金負極となるようにして渦巻状に卷回してそれぞれ渦巻状電極体を作製する。ついで、このようにして作製した渦巻状電極体を負極端子を兼ねる有底円筒形の金属外装缶内に挿入する。
【0026】
この後、負極から延出する負極用リードを金属外装缶の底部に溶接するとともに、正極から延出する正極用リードを正極端子を兼ねる封口体に溶接した後、電解液を金属外装缶内に注入する。ついで、封口体をガスケットを介して金属外装缶の開口部に載置し、金属外装缶の開口を封口体側にカシメることにより開口部を封口して、公称容量が1200mAhの各ニッケル−水素蓄電池を作製する。なお、電解液量はその濃度に関係なく、1.85ccとし、電解液として水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)などのアルカリ金属の水酸化物を混合した水溶液を用いる。
【0027】
5.電池試験
a.γ型オキシ水酸化ニッケルの生成量の測定
ここで、上述のように作製した実施例の非焼結式ニッケル正極と、上述のように作製した負極と、アルカリ電解液として、8.0規定で水酸化ナトリウム(NaOH)を2.4規定、水酸化カリウム(KOH)を5.6規定それぞれ含有したアルカリ電解液(水酸化ナトリウムの添加量はアルカリ電解液の全アルカリ金属水酸化物に対して30モル%となる)を用い、このアルカリ電解液を上述の金属外装缶内に注入して、ニッケル−水素蓄電池を作製する。このニッケル−水素蓄電池を120mA(0.1C)の充電電流で充電条件(充電時間および雰囲気温度)を変化させて充電して、充電状態でのγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の全水酸化ニッケルに対する生成割合(モル%)を測定すると、以下の表1に示すような結果となった。
【0028】
なお、雰囲気温度25℃で充電時間を12時間としたニッケル−水素蓄電池を電池A1とし、雰囲気温度25℃で充電時間を14時間としたニッケル−水素蓄電池を電池A2とし、雰囲気温度25℃で充電時間を16時間としたニッケル−水素蓄電池を電池A3とし、雰囲気温度25℃で充電時間を24時間としたニッケル−水素蓄電池を電池A4とし、雰囲気温度10℃で充電時間を24時間としたニッケル−水素蓄電池を電池A5とする。
【0029】
また、γ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量の算出は以下のようにして測定した。即ち、▲1▼各電池A1〜A5を、放電後に解体し、非焼結式ニッケル正極から活物質を脱落させ、鉄との置換−酸化還元滴定で放電状態のニッケル価数を分析する。
【0030】
▲2▼電池の容量から充電時の価数を分析する。このとき、水酸化ニッケルの理論容量について289mAh/gを適用する。
【0031】
▲3▼β−NiOOHの価数を3.0価、γ−NiOOHの価数を3.7価とし、下記の表1に示すような過充電状態では2価の水酸化ニッケルは存在せず、β−NiOOHおよびγ−NiOOHから水酸化ニッケル(Ni(OH)2)が形成され、3価より大きい価数分はγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成に起因すると仮定し、それぞれの割合を算出した。
【0032】
なお、このようなγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量の算出方法は一般的に行われるγ−NiOOHの生成量の算出方法、即ち、X線解析分析法による定量法よりも再現性が優れているので、本発明においてはこの方法を採用した。
【0033】
【表1】
【0034】
b.単位活物質当たりの容量についての検討
ついで、上述のように、γ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量を変化させた各電池A1〜A5の単位活物質当たりの容量の測定を行う。ここで、単位活物質当たりの容量の測定は以下のようにして行った。即ち、上述のようにして、電池A1〜A5を120mA(0.1C)の充電々流で16時間充電してγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)を生成させた後、1時間休止させる。その後、600mA(0.5C)の放電々流で終止電圧が1.0Vになるまで放電させる。この放電時間から放電容量を求め、測定後に活物質を脱落させて活物質質量を求め、単位活物質当たりの容量を算出すると以下の表2に示すような結果となった。
【0035】
【表2】
【0036】
なお、上記表2において、γ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量が25モル%の電池A3の単位活物質当たりの容量を100とした。上記表2より明らかなように、γ−NiOOHの生成量が10モル%、15モル%、25モル%、40モル%と多くなるに伴って、単位活物質当たりの容量が大きくなることが分かる。また、逆にγ−NiOOHの生成量が45モル%と多くなると単位活物質当たりの容量が低下する。
【0037】
これは、γ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の不可逆性が、アルカリ電解液の水酸化ナトリウム添加効果を上回ったためと考えることができる。このことより、γ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量は15モル%以上で40モル%以下とすることが好ましい。
【0038】
c.水酸化ナトリウムの添加量についての検討
ついで、アルカリ電解液の全アルカリ金属水酸化物に対する水酸化ナトリウム添加量について検討する。ここで、アルカリ電解液bとして、水酸化ナトリウムをアルカリ電解液の全アルカリ金属水酸化物に対して15モル%含有した水酸化ナトリウムと水酸化カリウムからなるアルカリ水溶液を混合電解液b1とし、水酸化ナトリウムをアルカリ電解液の全アルカリ金属水酸化物に対して20モル%含有した水酸化ナトリウムと水酸化カリウムからなるアルカリ水溶液を混合電解液b2とし、水酸化ナトリウムをアルカリ電解液の全アルカリ金属水酸化物に対して50モル%含有した水酸化ナトリウムと水酸化カリウムからなるアルカリ水溶液を混合電解液b3とし、水酸化ナトリウムをアルカリ電解液の全アルカリ金属水酸化物に対して55モル%含有した水酸化ナトリウムと水酸化カリウムからなるアルカリ水溶液を混合電解液b4とする。なお、各混合電解液b1〜b4の濃度は8規定となるように調整している。
【0039】
このように構成した各混合電解液b1〜b4を、上述の金属外装缶内に注入して、各ニッケル−水素蓄電池B1〜B4を作製する。これらの各ニッケル−水素蓄電池B1〜B4を、雰囲気温度25℃で、120mA(0.1C)の充電電流で16時間充電して、充電状態でγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)を生成させた後、上記と同様な容量試験を行うと以下の表3に示すようにな結果となった。
【0040】
【表3】
【0041】
なお、上記表3において、電解液中の水酸化ナトリウム量が20モル%の電池B2の単位活物質当たりの容量を100とした。そして、上記の▲1▼〜▲3▼(上記5.a.の項参照)の方法により、充電状態でのγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量を算出すると、水酸化ナトリウム量が15モル%の電池B1のみが、γ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量が少ないことが分かった。また、放電後のニッケル正極についてX線解析を行うと、水酸化ナトリウム量が15モル%の電池B1でも、あるいは水酸化ナトリウム量が55モル%の電池B4でもγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)が残留していることが判明した。
【0042】
上記表3より次のことが明らかとなった。即ち、水酸化ナトリウム量が15モル%以下の場合、充電時にγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)が生成し難く、放電時においても放電し難くなって、単位活物質当たりの容量が低下すると考えられる。一方、水酸化ナトリウム量が55モル%以上の場合でも、単位活物質当たりの容量が低下する。これは、充電時にγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)が生成されているものの、水酸化カリウム(KOH)より導電率が低い水酸化ナトリウム(NaOH)が電解液中に多量(55モル%)に存在することに起因して、電解液中の導電率が低下し、放電性が低下したためと考えられる。このことより、水酸化ナトリウム量は全電解液に対して20モル%〜50モル%とすることが好ましい。
【0043】
d.活物質と電解液との組み合わせについての検討
ついで、活物質と電解液との組み合わせについての検討を行う。なお、電解液として8規定の水酸化カリウムのみからなる比較例の電解液と、2.4規定の水酸化ナトリウムと5.6規定の水酸化カリウムとからなる本発明の電解液(水酸化ナトリウムの添加量はアルカリ電解液の全アルカリ金属水酸化物に対して30モル%となる)とを用いる。そして、上述した比較例の各非焼結式ニッケル正極板Xと比較例の電解液とを用いて、上述のようにニッケル−水素蓄電池を作製し、これをニッケル−水素蓄電池C1とする。同様に、比較例の非焼結式ニッケル正極板Xと本発明の電解液とを用いてニッケル−水素蓄電池C2とし、実施例の非焼結式ニッケル正極板Aと比較例の電解液とを用いてニッケル−水素蓄電池C3とし、実施例の非焼結式ニッケル正極板Aと本発明の電解液とを用いてニッケル−水素蓄電池C4とする。
【0044】
これらの各ニッケル−水素蓄電池C1,C2,C3,C4を、雰囲気温度25℃で、120mA(0.1C)の充電電流で16時間充電して、充電状態でのγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)を生成させた後、上記と同様な容量試験を行うと以下の表4に示すようにな結果となった。
【0045】
【表4】
【0046】
なお、上記表4において、実施例の非焼結式ニッケル正極板Aと比較例の電解液とを用いた電池C3の単位活物質当たりの容量およびサイクル特性をそれぞれ100とした。また、上記表4におけるサイクル特性は以下のようにして求めた。
【0047】
即ち、上述した各ニッケル−水素蓄電池C1,C2,C3,C4を1200mA(1C)の充電電流で充電して、充電電圧がピークに達した時点から10mVの電圧減少をもって充電を終了し、30分間充電を休止する。その後、1200mA(1C)の放電々流で放電させ、終止電圧が1.0Vになるまで放電させ、30分間放電を休止する。この充電から放電休止までの充・放電を1サイクルとし、400サイクル後の容量と初期容量の比をサイクル特性とする。即ち、この比が大きいほど初期容量の維持率が高く、サイクル特性は向上する。
【0048】
上記表4から明らかなように、本発明の電解液を用いると、比較例のニッケル正極Xを用いても単位活物質当たりの容量およびサイクル特性が向上することが分かる。また、本発明のニッケル正極Aを用いると比較電解液を用いても単位活物質当たりの容量およびサイクル特性が向上することが分かる。
【0049】
そして、上記の▲1▼〜▲3▼(上記5.a.の項参照)の方法により、充電状態でのγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量を算出すると、比較例の非焼結式ニッケル正極板Xは充電時のγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量が少ないことが分かった。また、放電後のニッケル正極板XについてX線解析分析を行うと、γ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)が多く残留していることが判明した。この結果、本発明の電解液を用いることによる容量向上効果が小さかったためと考えることができる。
【0050】
一方、実施例の非焼結式ニッケル正極板Aは、活物質表面が結晶構造が乱れた高次コバルト化合物層を備えて、正極活物質粒子の表面に細孔が発達するとともに、結晶構造が乱れた高次コバルト化合物層は高導電性を有するため、電解液との接触面積が増大して活物質利用率が向上する。また、電解液との接触面積が増大すると、電解液中のアルカリ金属イオンが移動しやすくなるため、γ型オキシ水酸化ニッケルの可逆性がさらに増大して、さらに高容量の非焼結式ニッケル正極が得られるようになると考えることができる。また、γ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の可逆性が増すことにより、サイクル特性も増大する。
【0051】
e.電解液濃度についての検討
ついで、電解液の濃度を変化させた場合の単位活物質当たりの容量の変化について検討する。この場合、水酸化ナトリウム量は電解液中の全アルカリ金属水酸化物に対して30モル%と固定し、電解液の濃度を6規定にしたニッケル−水素蓄電池を電池D1とする。同様に、7規定にしたニッケル−水素蓄電池を電池D2とし、8規定にしたニッケル−水素蓄電池を電池D3とし、10.5規定にしたニッケル−水素蓄電池を電池D4とし、11規定にしたニッケル−水素蓄電池を電池D5とする。
【0052】
これらの各ニッケル−水素蓄電池D1,D2,D3,D4,D5を、雰囲気温度25℃で、120mA(0.1C)の充電電流で16時間充電して、充電状態でのγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)を生成させた後、上記と同様な容量試験を行うと以下の表5に示すような結果となった。
【0053】
【表5】
【0054】
なお、上記表5において、電解液濃度が8規定の電池D3の単位活物質当たりの容量を100とした。
【0055】
そして、上記の▲1▼〜▲3▼(上記5.a.の項参照)の方法により、充電状態でのγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量を算出すると、電解液濃度に関わらず、充電時のγ型オキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)の生成量は同量であった。上記表5より明らかなように、電解液濃度が低い場合でも高い場合でも、単位活物質当たりの容量が減少することが分かった。これは、電解液濃度が低くなっても高くなっても、電解液の導電率が低下し、放電性が低下して容量低下が生じているもののと考えることができる。このことから、電解液濃度は7規定〜10.5規定の範囲にすることが好ましい。
【0056】
以上に詳述したように、本発明においては、γ型オキシ水酸化ニッケルの可逆性が増大するために、容量の増大した非焼結式ニッケル正極が得られるようになるとともに、電池容量が増大するアルカリ電解液および電池容量が増大したアルカリ蓄電池が得られるようになる。
Claims (3)
- 非焼結式ニッケル正極と負極をセパレータを介して渦巻状に巻回あるいは積層した電極体を電池容器内に収納して同電池容器内にアルカリ電解液を充填したアルカリ蓄電池において、
前記非焼結式正極として、当該電池の充電状態でのγ型オキシ水酸化ニッケルの占める割合が全水酸化ニッケルに対して15モル%以上で40モル%以下とした水酸化ニッケルを主体とする正極活物質のスラリーを活物質保持体に充填した非焼結式ニッケル電極を採用し、
前記アルカリ電解液として、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムを含む溶液であってその組成における水酸化ナトリウムのモル量が当該電解液中に含まれる全金属水酸化物の20モル%以上で50モル%以下としたアルカリ電解液を用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池。 - 前記正極活物質が、コバルトを付着させてアルカリと酸素の共存下で熱処理して高次コバルト化合物をその表面に形成した正極活物質であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
- 前記アルカリ電解液の濃度が、7規定以上で10.5規定以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルカリ蓄電池。
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