JP3690374B2 - モータ制御方法およびモータ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、駆動対象物の運動速度が目標速度となるように、駆動対象物を駆動するモータの回転速度をフィードバック制御するモータ制御方法及びモータ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、印字ヘッドが移動しながら印刷用紙へ印字を行う形態のプリンタ(例えばインクジェットプリンタ)では、印字ヘッドを搬送するキャリッジを、キャリッジ(CR)モータにより駆動している。また、正確な印字位置へ印字を行うには、印字範囲内でのキャリッジの移動速度を適切な速度に制御する必要があり、そのために、エンコーダ等を用いてキャリッジの移動速度を検出し、その検出した移動速度が予め設定された目標速度と一致するように、PID制御などの制御アルゴリズムを用いて、CRモータに供給する駆動電流を増減して、モータの発生トルク、即ちキャリッジの移動に必要な駆動力を制御している。
【0003】
なお、PID制御において、検出した移動速度または速度偏差(検出した移動速度と目標速度との差分)に基づき算出される制御量(比例制御量、積分制御量、微分制御量)のうち微分制御量は、過渡的(瞬時的)な外乱に対する影響を抑えてモータを制御するために算出される制御量である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、キャリッジの移動速度の検出が、連続的ではなく、離散的な検出タイミングで実行される場合には、制御量の算出に用いられる移動速度は、次の検出タイミングに到達するまで更新されない。つまり、実際の移動速度は変化しているにもかかわらず、制御量の算出に用いられる移動速度は過去の値となるために、実際の移動速度に応じたモータ制御が実行できず、不適切な制御が行われる虞がある。
【0005】
具体的には、外乱(移動速度の変動)を連続系(アナログ系)で捉えた微分応答(微分制御量)は、図14(a)に示すように、外乱の変化発生時に大きく変動する波形を示すが、外乱を離散系(デジタル系)で捉えた微分応答は、図14(b)に示すように、次の検出タイミングに到達するまでは、同一値を示すことになる。
【0006】
特に、検出タイミングの周期が長くなるほど、不適切な制御となる可能性が高くなり、移動速度が目標速度を大きく超過するオーバーシュート現象や、目標速度を中心に移動速度が振動的に変化する振動現象等が発生する虞がある。なお、図14(b)では、微分応答1よりも微分応答2の方が検出タイミングの周期が長く、微分応答2よりも微分応答3の方が検出タイミングの周期が長い場合の波形を示している。
【0007】
これに対し、検出タイミングの周期を短く設定し、実際の移動速度とは異なる不適切な移動速度に基づき制御量が算出される時間を短縮することで、不適切なモータ制御の発生確率を低減することはできる。
しかし、検出タイミング周期の短縮には限界があるため、不適切なモータ制御の発生を十分には抑制することができない。また、検出タイミング周期を短縮した場合であっても、瞬時的な外乱に応じて算出された微分制御量に基づき制御が行われたモータの実際の移動速度は、検出タイミング周期よりも短い時間で変化するため、次の検出タイミングに至る前に、制御量が不適切な値となる可能性が大きい。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、移動速度の検出を離散的なタイミングで行う場合であっても、瞬時的な外乱の影響を抑制できると共に、不適切なモータ制御となるのを抑制できるモータ制御方法およびモータ制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するためになされた請求項1記載の発明方法は、モータで駆動する駆動対象物の運動速度を制御するモータ制御方法において、駆動対象物の運動速度を離散的な速度検出タイミングで検出し、検出タイミングで検出された検出速度と外部からの指令により設定された目標速度との偏差である速度偏差を算出し、検出速度または速度偏差の比例値に応じた比例制御量と、速度偏差の積分値に応じた積分制御量とを含む速度制御量を算出し、検出速度または速度偏差の単位時間あたりの変化量に応じた微分制御量を算出し、速度検出タイミングで検出速度が検出されて、該検出速度に基づき微分制御量を更新する時点を基準として、運動速度の検出周期よりも短い微分量反映時間が経過した後に、微分制御量を前記更新した微分制御量よりも小さい値に補正し、速度制御量および補正された値を用いて、モータを目標速度で駆動するための制御指令値を設定し、制御指令値に基づき、駆動対象物の運動速度が目標速度となるようにモータの回転速度をフィードバック制御することを特徴とするモータ制御方法である。
【0010】
このモータ制御方法では、制御指令値を設定するにあたり、微分制御量の更新時点を基準として微分量反映時間が経過する時点までは、更新(算出)された微分制御量をそのまま用い、微分量反映時間の経過後は、微分制御量を、更新された微分制御量よりも小さい値に補正し、その補正された値を用いている。つまり、このモータ制御方法では、制御指令値の設定処理における微分制御量の反映割合を常に一定にするのではなく、微分量反映時間の経過後は、微分制御量の反映割合を低下させている。
【0011】
すなわち、このモータ制御方法によれば、微分量反映時間においては、算出された微分制御量を用いて制御指令値を設定することから、瞬時的な外乱(ノイズ)などが発生した場合においても運動速度が速やかに目標速度に近づくように、安定したモータ制御を行うことができる。
【0012】
なお、微分量反映時間における実際の運動速度は、制御指令値に基づくモータ制御により変動するため、例えば、微分量反映時間の経過時点における実際の運動速度は、最新の速度検出タイミング時点で検出された検出速度とは異なる値(目標速度に近い値)となる。このため、次の速度検出タイミングに到達する前の制御指令値は、実際の運動速度に基づかない不適切な値となることから、制御指令値をそのまま用いてモータ制御を行うと、実際の運動速度が目標速度から大きく逸脱することがある。
【0013】
これに対し、本発明のモータ制御方法では、微分量反映時間の経過後は、微分制御量を、更新された微分制御量よりも小さい値に補正し、その補正後の値を用いて制御指令値を設定するため、制御指令値が、実際の運動速度に適した値から大幅に逸脱した値に設定されるのを防止できる。このため、速度検出タイミングが離散的に設定されている場合においても、次の速度検出タイミングまたは次の微分制御量の更新(算出)タイミングに到達するまでに制御指令値が不適切な値に設定されるのを抑制できる。
【0014】
よって、本発明方法(請求項1)によれば、少なくとも微分量反映時間は、算出された微分制御量を用いて設定された制御指令値に基づきモータ制御を行うことから、瞬時的な外乱(ノイズ)等の発生時においても安定したモータ制御を行うことができる。また、微分量反映時間の経過後は、補正された値を用いて制御指令値を設定するため、次の速度検出タイミングまたは次の微分制御量の算出タイミングに到達するまでに制御指令値が不適切な値に設定されるのを抑制でき、オーバーシュートなどの不適切なモータ制御が行われるのを防止できる。
【0015】
なお、瞬時的な外乱の影響が反映された制御指令値によるモータ制御が行われた後、実際の運動速度が目標速度に到達するまでの制御応答時間が長時間となる特性を有する装置に対して、本発明方法を適用する場合には、急峻に微分制御量を小さい値に補正すると、実際の運動速度を目標速度に十分に近づけることができず、適切なモータ制御ができなくなる虞がある。
【0016】
そこで、制御指令値の設定に用いる微分制御量を補正するにあたっては、例えば、請求項2に記載のように、時間経過に応じて微分制御量を減少補正するとよい。
このように微分制御量を補正することで、微分量反映時間が経過した後においては、制御指令値における微分制御量の反映割合が、時間経過に伴い徐々に低下することになる。これにより、実際の運動速度が目標速度に到達するまでの制御応答時間が長時間となる場合においても、制御指令値を適切な値に設定することができ、モータ制御が不適切となることを防止できる。
【0017】
また、この他の微分制御量の補正方法としては、例えば、請求項3に記載のように、微分制御量を一定値に補正する補正方法を適用してもよい。
このように微分制御量を補正することで、微分量反映時間が経過した後、制御指令値における微分制御量の反映割合を急峻に低下させることができる。これにより、瞬時的な外乱の影響が反映された制御指令値によるモータ制御が行われた後、実際の運動速度が目標速度に到達するまでの制御応答時間が短い場合における制御指令値を、適切な値に設定することができる。
【0018】
例えば、短い制御応答時間で実際の運動速度が目標速度に略等しくなるようなモータ制御が可能な場合には、補正された値を0に設定するとよく、あるいは、短い制御応答時間で実際の運動速度が目標速度に近づくものの若干の誤差が残るような制御となる場合には、補正された値を、算出された微分制御量に対する一定割合値(例えば、20%値など)とするとよい。
【0019】
ところで、微分制御量の算出タイミングは、任意に設定することができ、例えば、速度検出タイミングに応じて設定することが可能である。しかし、速度検出タイミングの周期が、駆動対象物の実際の運動速度に応じて変動する場合には、微分制御量の算出タイミングも実際の運動速度に応じて変動することになる。すると、制御指令値の更新時期が運動速度に依存して変動することになり、特に更新周期が長くなる場合には、実際の運動速度に適さない不適切な制御指令値による制御期間が長くなり、安定したモータ制御が実現できない場合がある。
【0020】
そこで、上述(請求項1から請求項3のいずれか)の発明方法においては、請求項4に記載のように、一定周期毎に微分制御量を算出するとよい。
つまり、微分制御量の算出タイミングの周期を、運動速度に応じて変動させるのではなく、一定周期に設定することで、制御指令値の更新時期を一定周期毎に設定することができ、運動速度の変動に拘わらず、安定したモータ制御を実現することができる。
【0021】
よって、本発明方法(請求項4)によれば、微分制御量の算出タイミングを一定周期毎に設定することで、移動速度の検出タイミングが一定周期毎であるか否かに拘わらず、安定したモータ制御を実現することができる。
次に、PWM制御(パルス幅制御)によりモータ制御を行う場合、所定のPWM制御周期毎にPWM制御指令信号を出力することから、PWM制御周期が経過するまでは、同一のPWM制御指令信号に基づきモータ制御が実行される。このため、PWM制御周期の途中で微分制御量を補正したとしても、そのPWM制御周期が経過するまでは、補正された値が反映されたPWM制御指令信号を出力できず、速やかなモータ制御を実現できない虞がある。特に、微分量反映時間がPWM制御周期よりも短い時間に設定されていると、常に、PWM制御周期の途中で微分制御量が補正されることになる。
【0022】
そこで、請求項1から請求項4のいずれかに記載のモータ制御方法は、請求項5に記載のように、制御指令値に基づき、モータを駆動制御するためのPWM制御指令信号を生成し、所定のPWM制御周期毎にPWM制御指令信号を出力すると共に、PWM制御周期よりも長い時間が設定された微分量反映時間の経過後に、微分制御量を補正するとよい。
【0023】
つまり、微分量反映時間をPWM制御周期よりも長く設定することで、微分制御量の補正時期が常にPWM制御周期の途中となるのを避けることができ、モータ制御の応答速度が遅くなるのを防止できる。
特に、微分制御量の補正時期とPWM制御指令信号の更新時期とが略同時期となるように、微分量反映時間をPWM制御周期の略整数倍に設定することで、微分制御量の補正時期からPWM制御指令信号の更新時期までの間に、無駄な時間が生じるのを防止でき、モータ制御の応答性向上を図ることができる。
【0024】
よって、本発明方法(請求項5)によれば、速度検出タイミングが離散的であり、かつ、PWM制御(パルス幅制御)によりモータ制御を行う場合においても、モータ制御の応答速度が遅くなるのを防止でき、不適切なモータ制御が行われるのを抑制することができる。
【0025】
ところで、瞬時的な外乱の発生による移動速度の変動開始時点から、モータ制御による目標速度への収束までの所要時間は、種々の要因(例えば 目標速度など)によって異なることが知られている。このため、微分量反映時間は、目標速度によって適切な値が異なることになり、目標速度が変動する用途において、微分量反映時間が固定値に設定される場合には、適切なモータ制御ができない場合がある。
【0026】
そこで、上述(請求項1から請求項5のいずれか)の発明方法は、請求項6に記載のように、目標速度に応じて設定された微分量反映時間の経過後に、微分制御量を補正するとよい。
つまり、目標速度に応じて微分量反映時間を設定することで、目標速度が変動する用途においても、微分量反映時間を適切な値に設定することができ、外乱の発生後における移動速度が目標速度に近づくように、制御指令値の設定における微分制御量の反映割合を適切に変化させることができる。
【0027】
よって、本発明方法(請求項6)によれば、目標速度が変動する用途においても、制御指令値を適切な値に設定できることから、モータ制御が不適切となるのを防止できる。
次に、上記目的を達成するためになされた請求項7記載の発明は、モータで駆動する駆動対象物の運動速度を制御するモータ制御装置において、駆動対象物の運動速度を離散的な速度検出タイミングで検出する速度検出手段と、速度検出手段にて検出された検出速度と外部からの指令により設定された目標速度との偏差である速度偏差を算出する速度偏差算出手段と、検出速度または速度偏差の比例値に応じた比例制御量と、速度偏差の積分値に応じた積分制御量とを含む速度制御量を算出する制御量演算手段と、検出速度または速度偏差の単位時間あたりの変化量に応じた微分制御量を算出する微分演算手段と、速度検出タイミングで検出速度が検出されて、該検出速度に基づき微分演算手段が微分制御量を更新する時点を基準として、速度検出手段による運動速度の検出周期よりも短い微分量反映時間が経過した後に、微分制御量を微分演算手段が更新した微分制御量よりも小さい値に補正する微分制御量補正手段と、速度制御量および補正された値を用いて、モータを目標速度で駆動するための制御指令値を設定する制御指令値設定手段と、を備えて、制御指令値に基づき、駆動対象物の運動速度が目標速度となるようにモータの回転速度をフィードバック制御すること、を特徴とするモータ制御装置である。
【0028】
このモータ制御装置は、請求項1に記載のモータ制御方法を装置として実現したものであり、微分制御量補正手段が、微分量反映時間の経過後に、制御指令値の設定に用いる微分制御量を、微分演算手段が算出した微分制御量よりも小さい値に補正している。
【0029】
つまり、このモータ制御装置では、制御指令値の設定処理における微分制御量の反映割合を常に一定にするのではなく、微分制御量の更新時点から微分量反映時間の経過時点までは、微分演算手段により更新された微分制御量をそのまま用い、微分量反映時間の経過後は、微分制御量の反映割合を低下させている。
【0030】
よって、本発明(請求項7)のモータ制御装置によれば、請求項1の発明方法と同様に、少なくとも微分量反映時間は、算出された微分制御量を用いて設定された制御指令値に基づきモータ制御を行うことから、瞬時的な外乱(ノイズ)等の発生時においても安定したモータ制御を行うことができる。また、微分量反映時間の経過後は、補正された値を用いて制御指令値を設定するため、次の速度検出タイミングまたは次の微分制御量の算出タイミングに到達するまでに制御指令値が不適切な値に設定されるのを抑制でき、オーバーシュートなどの不適切なモータ制御が行われるのを防止できる。
【0031】
なお、上述(請求項7)のモータ制御装置は、例えば、請求項8に記載のように、微分制御量補正手段が、制御指令値設定手段にて制御指令値の設定に用いる微分制御量を補正するにあたり、時間経過に応じて微分制御量を減少補正するとよい。
【0032】
このモータ制御装置は、請求項2に記載の発明方法を装置として実現したものであり、このように微分制御量を補正することで、微分量反映時間が経過した後においては、制御指令値における微分制御量の反映割合が、時間経過に伴い徐々に低下することになる。
【0033】
よって、本発明(請求項8)によれば、請求項2に記載の発明方法と同様に、実際の運動速度が目標速度に到達するまでの制御応答時間が長時間となる場合においても、制御指令値を適切な値に設定することができ、モータ制御が不適切となることを防止できる。
【0034】
また、上述(請求項7)のモータ制御装置は、請求項9に記載のように、微分制御量補正手段が、制御指令値設定手段にて制御指令値の設定に用いる微分制御量を補正するにあたり、微分制御量を一定値に補正するとよい。
このモータ制御装置は、請求項3に記載の発明方法を装置として実現したものであり、このように微分制御量を補正することで、微分量反映時間が経過した後、制御指令値における微分制御量の反映割合を急峻に低下させることができる。
【0035】
よって、本発明(請求項9)によれば、請求項3に記載の発明方法と同様に、瞬時的な外乱の影響が反映された制御指令値によるモータ制御が行われた後、実際の運動速度が目標速度に到達するまでの制御応答時間が短い場合における制御指令値を、適切な値に設定することができる。
【0036】
例えば、短い制御応答時間で実際の運動速度が目標速度に略等しくなるようなモータ制御が可能な場合には、補正された値を0に設定するとよく、あるいは、短い制御応答時間で実際の運動速度が目標速度に近づくものの若干の誤差が残るような制御となる場合には、補正された値を、算出された微分制御量に対する一定割合値(例えば、20%値など)とするとよい。
【0037】
次に、上述(請求項7から請求項9のいずれか)のモータ制御装置は、請求項10に記載のように、微分演算手段が、一定周期毎に微分制御量を算出するとよい。
このモータ制御装置は、請求項4に記載の発明方法を装置として実現したものであり、微分制御量の算出タイミングの周期を、運動速度に応じて変動させるのではなく、一定周期に設定することで、制御指令値の更新時期を一定周期毎に設定することができ、運動速度の変動に拘わらず、安定したモータ制御を実現することができる。
【0038】
よって、本発明(請求項10)によれば、請求項4に記載の発明方法と同様に、微分制御量の算出タイミングを一定周期毎に設定することで、移動速度の検出タイミングが一定周期毎であるか否かに拘わらず、安定したモータ制御を実現することができる。
【0039】
また、上述(請求項7から請求項10のいずれか)のモータ制御装置は、請求項11に記載のように、制御指令値に基づき、モータを駆動制御するためのPWM制御指令信号を生成し、所定のPWM制御周期毎にPWM制御指令信号を出力する指令信号出力手段を備え、微分量反映時間は、PWM制御周期よりも長い時間が設定されているとよい。
【0040】
このモータ制御装置は、請求項5に記載の発明方法を装置として実現したものであり、微分量反映時間をPWM制御周期よりも長く設定することで、微分制御量の補正時期が常にPWM制御周期の途中となるのを避けることができ、モータ制御の応答速度が遅くなるのを防止できる。特に、微分制御量の補正時期とPWM制御指令信号の更新時期とが略同時期となるように、微分量反映時間をPWM制御周期の略整数倍に設定することで、微分制御量の補正時期からPWM制御指令信号の更新時期までの間に、無駄な時間が生じるのを防止でき、モータ制御の応答性向上を図ることができる。
【0041】
よって、本発明(請求項11)によれば、請求項5の発明方法と同様に、速度検出タイミングが離散的であり、かつ、PWM制御(パルス幅制御)によりモータ制御を行う場合においても、モータ制御の応答速度が遅くなるのを防止でき、不適切なモータ制御が行われるのを抑制することができる。
【0042】
次に、上述(請求項7から請求項11のいずれか)のモータ制御装置は、請求項12に記載のように、目標速度に応じて、微分量反映時間を設定する反映時間設定手段を備えるとよい。
このモータ制御装置は、請求項6に記載の発明方法を装置として実現したものであり、目標速度に応じて微分量反映時間を設定することで、目標速度が変動する用途においても、微分量反映時間を適切な値に設定することができ、外乱の発生後における移動速度が目標速度に近づくように、制御指令値の設定における微分制御量の反映割合を適切に変化させることができる。
【0043】
よって、本発明(請求項12)によれば、請求項6に記載の発明方法と同様に、目標速度が変動する用途においても、制御指令値を適切な値に設定することができることから、モータ制御が不適切となるのを防止できる。
【0044】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
まず、図1に、本発明が適用されたインクジェットプリンタ(以下単に「プリンタ」という)におけるキャリッジ駆動機構の構造図を示す。
【0045】
図1に示すように、プリンタは、押えローラ32などにより搬送されてくる印刷用紙33の幅方向に設置されたガイド軸34を備えており、このガイド軸34には、ノズルから印刷用紙33に向けてインクを吐出させて印字を行う印字ヘッド30を搭載したキャリッジ31が挿通されている。キャリッジ31は、ガイド軸34に沿って設けられた無端ベルト37に連結され、その無端ベルト37は、ガイド軸34の一端に設置されたCRモータ35のプーリ36と、ガイド軸34の他端に設置されたアイドルプーリ(図示せず)との間に掛け止められている。
【0046】
つまり、キャリッジ31は、無端ベルト37を介して伝達されるCRモータ35の駆動力により、ガイド軸34に沿って印刷用紙33の幅方向に往復運動するように構成されている。
また、ガイド軸34の下方には、一定間隔(例えば、1/150inch=約0.17mm)ごとに一定幅のスリットを形成したタイミングスリット38がガイド軸34に沿って設置されている。また、キャリッジ31の下部には、タイミングスリット38を挟んで互いに対面する少なくとも一つの発光素子と二つ以上の受光素子とを有するフォトインタラプタからなる検出部を備えている。なお、このフォトインタラプタからなる検出部は、上述のタイミングスリット38と共に、後述するリニアエンコーダ39(図2参照)を構成している。
【0047】
なお、リニアエンコーダ39を構成する検出部は、図3のタイミング図に示すような互いに略1/4周期ずれた2種類のエンコーダA相信号ENC1,エンコーダB相信号ENC2を出力する。そして、キャリッジ31の移動方向がホームポジション(図1の左端位置)からアイドルプーリ側に向かう順方向である場合は、エンコーダA相信号ENC1がエンコーダB相信号ENC2に対して位相が略1/4周期進み、アイドルプーリ側からホームポジションに向かう逆方向である場合は、エンコーダA相信号ENC1がエンコーダB相信号ENC2に対して位相が略1/4周期遅れるようにされている。
【0048】
図2は、リニアエンコーダ39からのエンコーダA相信号ENC1,エンコーダB相信号ENC2に基づいて、CRモータ35を駆動制御することによりキャリッジ31の移動速度(運動速度)を制御するキャリッジ制御装置1の構成を表すブロック図である。
【0049】
図2に示すように、キャリッジ制御装置1は、当該プリンタの制御を統括するCPU2と、CRモータ35の回転速度や回転方向等を制御するPWM信号S6を生成するASIC(Application Specific Integrated Circuit)3と、ASIC3にて生成されたPWM信号S6に基づいてCRモータ35を駆動するモータ駆動回路4(CR駆動回路)とから構成されている。
【0050】
なお、モータ駆動回路4の詳細は、図6に示す通りであり、4基のスイッチング素子SW1〜SW4によりHブリッジ回路が構成されたものである。モータ駆動回路4は、このHブリッジ回路の各スイッチング素子SW1〜SW4を、ASIC3内のPWM生成部8にて生成されたPWM信号S6に基づいてオン・オフ制御することにより、CRモータ35を駆動する。尚、各スイッチング素子SW1〜SW4は、例えば、バイポーラトランジスタやFET等の半導体スイッチング素子で構成することができる。
【0051】
また、ASIC3の内部には、CRモータ35の制御に用いる各種パラメータを格納するレジスタ群5と、リニアエンコーダ39からエンコーダA相信号ENC1,エンコーダB相信号ENC2を取り込み、キャリッジ31の位置や移動速度を算出するキャリッジ測位部6と、キャリッジ測位部6からのデータに基づいて、CRモータ35の回転速度を制御するためのモータ制御信号S5を生成するモータ制御部7と、モータ制御部7が生成するモータ制御信号S5に応じたデューティ比のPWM信号S6を生成するPWM生成部8と、エンコーダA相信号ENC1およびエンコーダB相信号ENC2よりも十分に周期が短いクロック信号を生成し、そのクロック信号を当該ASIC3の内部の各部に供給するクロック生成部9と、を備えている。
【0052】
ここで、レジスタ群5は、CRモータ35を起動状態に設定するための起動設定レジスタ50と、装置の起動直後には検出できないパラメータに数値(初期値)を設定するための制御量初期値設定レジスタ56と、キャリッジ31の減速を開始する減速開始位置(印字終了位置と同じ)を設定するための減速開始位置設定レジスタ51と、CPUに対して割込信号を出力する割込発生位置を設定するための割込発生位置設定レジスタ57と、キャリッジ31の移動時における目標速度を設定するための目標速度設定レジスタ53と、CRモータ35の回転速度(トルク)を制御する際のフィードバック演算に用いる微分ゲイン、積分ゲイン、比例ゲインを設定するためのゲイン設定レジスタ54と、算出した微分制御量を回転制御信号の設定に用いる微分量反映時間を設定するための微分ゲイン出力結果反映時間設定レジスタ58と、を備えて構成されている。
【0053】
なお、微分ゲイン出力結果反映時間設定レジスタ58に格納される微分量反映時間は、PWM生成部8がPWM信号S6を出力する周期(PWM制御周期)の整数倍(例えば、10倍)の時間が設定される。
次に、キャリッジ測位部6は、リニアエンコーダ39からのエンコーダA相信号ENC1,エンコーダB相信号ENC2に基づき、エンコーダA相信号ENC1の各周期の開始/終了を表すエッジ検出信号(ここではエンコーダB相信号ENC2がローレベルの時におけるエンコーダA相信号ENC1のエッジ。図3参照。)、およびCRモータ35の回転方向(エッジ検出信号がエンコーダA相信号ENC1の立ち上がりエッジであれば順方向、立ち下がりエッジであれば逆方向)を検出するエッジ検出部60と、エッジ検出部60が検出したCRモータ35の回転方向、ひいてはキャリッジ31の移動方向が、順方向の時にはエッジ検出信号に従ってカウントアップし、逆方向の時にはエッジ検出信号に従ってカウントダウンすることにより、キャリッジ31がホームポジションから何番目のスリットに位置しているのかを検出する位置カウンタ61と、を備えている。つまり、減速開始位置設定レジスタ51に設定される減速開始位置等のキャリッジ31の位置は、位置カウンタ61のカウント値(図3に示すエンコーダエッジカウント値)によって表される。
【0054】
また、キャリッジ測位部6は、位置カウンタ61のエンコーダエッジカウント値と減速開始位置設定レジスタ51の設定値とを比較して、キャリッジ31が減速開始位置に達したか否かを判断し、キャリッジ31が減速開始位置に達した時には制御切替信号S1を出力すると共に、CPU2に対して停止割込み信号S2を出力する比較処理部62と、エッジ検出部60からのエッジ検出信号の発生間隔をクロック信号によりエンコーダ間隔時間Cn(図3参照)をカウントする周期カウンタ63と、タイミングスリット38のスリット間の距離(1/150inch)とエンコーダA相信号ENC1の前回周期で周期カウンタ63がカウントした値の保持値Cn-1 とから特定されるエンコーダキャプチャ時間Tn (=Cn-1 ×クロック周期。図3参照。)とに基づいて、キャリッジ31の移動速度Vn(図3参照)を算出する速度変換部64とを備えている。
【0055】
次に、モータ制御部7は、目標速度設定レジスタ53,ゲイン設定レジスタ54,微分ゲイン出力結果反映時間設定レジスタ58の設定値に基づき、速度変換部64が算出したキャリッジ31の移動速度(以下、検出速度ともいう)が、目標速度設定レジスタ53に設定された目標速度と一致するようにCRモータ35の回転速度を制御するための回転速度制御信号S3を生成するフィードバック演算処理部70と、CRモータ35の回転速度を減速させるための減速制御信号S4を生成する減速制御部71と、比較処理部62からの制御切替信号S1が入力されない時にはフィードバック演算処理部70が生成する回転速度制御信号S3を、制御切替信号S1の入力時には減速制御部71が生成する減速制御信号S4を、モータ制御信号S5としてPWM生成部8に供給する制御信号セレクタ72と、から構成されている。
【0056】
次に、CPU2が実行するCR走査処理の内容を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
本処理が開始されると、図4に示すように、まず、ASIC3のレジスタ群5を構成する各レジスタに、目標速度、初期制御量、減速開始位置、微分ゲイン、積分ゲイン、比例ゲイン、微分量反映時間を設定したのち(S110)、起動設定レジスタ50への書込を行うことにより、ASIC3の各部を起動する(S120)。そして、S110にて各レジスタに設定された内容に従って駆動されたキャリッジ31が減速制御開始位置に到達することにより、比較処理部62から停止割込み信号S2の入力があると(S130)、本処理を終了する。
【0057】
このように構成されたキャリッジ制御装置1では、CPU2がレジスタ群5の設定を行ってASIC3を起動すると、キャリッジ31が減速開始位置設定レジスタ51に設定された減速開始位置に到達するまでは、PWM生成部8へのモータ制御信号S5として、フィードバック演算処理部70からの回転速度制御信号S3が供給される。これにより、CRモータ35の回転速度(トルク)は、キャリッジ31の移動速度が目標速度設定レジスタ53に設定された目標速度に追従するように制御される。その結果、キャリッジ31は、印字開始位置に到達するまでの加速区間では、その移動速度が目標速度に達するように加速され、その後の減速開始位置までの定速区間では一定の目標速度で移動する。
【0058】
その後、キャリッジ31が減速開始位置に到達すると、CPU2に対して停止割込み信号S2が出力されると共に、PWM生成部8に供給されるモータ制御信号S5が回転速度制御信号S3から減速制御信号S4に切り替わる。これにより、CRモータ35は、キャリッジ31の移動によって発生する回転力を電気に変換する発電機として動作するように設定され、その結果、キャリッジ31は、減速開始位置を越えた減速区間では速やかに減速され停止に到る。
【0059】
ところで、キャリッジ31が移動開始位置から減速開始位置に到るまでの間、PWM生成部8にモータ制御信号としての回転速度制御信号を供給するフィードバック演算処理部70は、図5に示すように、目標速度設定レジスタ53に設定された目標速度から、速度変換部64にて算出されたキャリッジ31の移動速度(検出速度)を減算して速度偏差を算出する減算器12と、減算器12により算出された速度偏差にゲイン設定レジスタ54の格納値である比例ゲインKpを乗算することにより比例制御値(比例制御量)を算出する比例演算器13と、速度偏差を積分し、その積分値にゲイン設定レジスタ54の格納値である積分ゲインKiを乗算することにより積分制御値(積分制御量)を算出する積分演算器14と、速度偏差を微分し、その微分値にゲイン設定レジスタ54の格納値である微分ゲインKdを乗算することにより微分制御値(微分制御量)を算出する微分演算器15と、起動トリガの入力時点から微分ゲイン出力結果反映時間設定レジスタ58の格納値である微分量反映時間が経過するまで、微分値反映指令信号S7を出力する微分値有効時間タイマ18と、微分値反映指令信号S7の入力時には微分演算器15からの微分制御値をそのまま出力し、微分値反映指令信号S7の非入力時には微分制御値を0に補正して出力する出力補正処理部19と、比例制御値,積分制御値および出力補正処理部19からの微分制御値を加算する演算を行い、その演算結果を回転速度制御信号S3として出力する演算器16と、を備えており、いわゆるPID制御を行うように構成されている。
【0060】
なお、起動トリガは、エッジ検出信号の検出タイミングに応じて生成されており、微分値有効時間タイマ18の他に、比例演算器13,積分演算器14,微分演算器15にも入力されており、各演算器は、起動トリガの入力時期に応じて速度偏差を取り込み、取り込んだ速度偏差に基づいて制御値を更新するよう構成されている。
【0061】
また、微分演算器15は、瞬時的に発生する外乱(数百Hz〜数kHz程度の微細な振動ノイズ)が、キャリッジ31の移動速度に影響を与えることを抑制するような微分制御値を算出するように構成されている。
以上説明したように、本実施形態のキャリッジ制御装置1では、フィードバック演算処理部70が、PID制御で算出した比例制御値,積分制御値および微分制御値を用いて回転速度制御信号S3を設定するにあたり、微分制御値の算出時から微分量反映時間の経過前までは、微分演算器15で算出された微分制御値をそのまま用いて回転速度制御信号S3を設定している。そして、微分量反映時間の経過後は、出力補正処理部19が微分制御値を0に補正することで、微分制御値を除外し、比例制御値および積分制御値を用いて回転速度制御信号S3を設定している。つまり、キャリッジ制御装置1では、回転速度制御信号S3の設定処理における微分制御量の反映割合を常に一定にするのではなく、微分量反映時間の経過後は、微分制御量の反映割合を低下させている。
【0062】
すなわち、このキャリッジ制御装置1は、微分量反映時間においては、微分演算器15で算出された微分制御量をそのまま用いて回転速度制御信号S3を設定することから、瞬時的な外乱(ノイズ)などが発生した場合においても、キャリッジ31の移動速度が速やかに目標速度に近づくように、安定したモータ制御を行うことができる。
【0063】
また、キャリッジ制御装置1は、微分量反映時間の経過後は、微分制御量を小さい値に補正し、その補正された値を用いて回転速度制御信号S3を設定するため、検出速度と実際の移動速度とに差が生じた場合でも、回転速度制御信号S3が、実際の運動速度に適した値から大幅に逸脱した値に設定されるのを防止できる。これにより、キャリッジ制御装置1は、速度検出タイミングが離散的に設定されているにも拘わらず、次の微分制御量の更新(算出)タイミングに到達するまでに回転速度制御信号S3が不適切な値に設定されるのを抑制できる。
【0064】
よって、キャリッジ制御装置1によれば、少なくとも微分量反映時間は、算出された微分制御量を用いて設定された回転速度制御信号S3に基づきCRモータ35の制御を行うことから、瞬時的な外乱(ノイズ)等の発生時においても安定したモータ制御を行うことができる。また、微分量反映時間の経過後は、微分制御量を小さい値に補正し、その補正された値を用いて回転速度制御信号S3を設定するため、次の微分制御量の算出タイミングに到達するまでに回転速度制御信号S3が不適切な値に設定されるのを抑制でき、オーバーシュートなどの不適切なモータ制御が行われるのを防止できる。
【0065】
なお、キャリッジ制御装置1は、短い制御応答時間で実際の運動速度が目標速度に略等しくなるようなモータ制御が可能に構成されているため、補正された値を0に設定することで、回転速度制御信号S3を適切な値に設定できる。
また、キャリッジ制御装置1では、微分ゲイン出力結果反映時間設定レジスタ58に格納される微分量反映時間が、PWM生成部8によるPWM制御周期よりも長い時間(PWM制御周期の整数倍の時間)が設定されている。
【0066】
このため、微分制御量の補正時期が常にPWM制御周期の途中となるのを避けることができ、モータ制御の応答速度が遅くなるのを防止できる。特に、微分量反映時間がPWM制御周期の整数倍に設定されているため、微分制御量の補正時期とPWM制御指令信号の更新時期とを略同時期とすることができ、微分制御量の補正時期からPWM制御指令信号の更新時期までの間に、無駄な時間が生じるのを防止でき、モータ制御の応答性向上を図ることができる。
【0067】
よって、キャリッジ制御装置1によれば、速度検出タイミングが離散的であり、かつ、PWM制御(パルス幅制御)によりモータ制御を行う構成であるにも拘わらず、CRモータの制御の応答速度が遅くなるのを防止でき、不適切なモータ制御が行われるのを抑制することができる。
【0068】
なお、上記実施形態のキャリッジ制御装置1においては、キャリッジ制御装置1が特許請求の範囲に記載のモータ制御装置に相当し、キャリッジ31が駆動対象物に相当し、リニアエンコーダ39およびキャリッジ測位部6が速度検出手段に相当し、減算器12が速度偏差算出手段に相当し、比例演算器13および積分演算器14が制御量演算手段に相当し、微分演算器15が微分演算手段に相当し、フィードバック演算処理部70が制御指令値設定手段に相当し、微分値有効時間タイマ18および出力補正処理部19が微分制御量補正手段に相当し、PWM生成部8が指令信号出力手段に相当する。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様にて実施することができる。
例えば、上記実施形態では、起動トリガがエッジ検出信号の検出タイミングに応じて生成される構成のキャリッジ制御装置について説明したが、一定周期Ts(演算サンプル間隔Ts)毎に起動トリガを発生する起動トリガ定周期発生回路を設けて、一定周期Ts毎に起動トリガを生成するように構成しても良い。そこで、上記のキャリッジ制御装置1に対して起動トリガ定周期発生回路を追加して構成した第2キャリッジ制御装置の各部のタイミング値を図9に示す。なお、以下に説明する第2キャリッジ制御装置の各部の符号は、キャリッジ制御装置1と同様である。
【0070】
第2キャリッジ制御装置では、周期カウンタ63が、起動トリガの発生に応じてエンコーダ間隔キャプチャNnをキャプチャ値Nnとして取り込み、速度変換部64が、キャプチャ値Nnに基づき移動速度Vn(=1/(Nn×CLK)。ただし、CLKはエンコーダ間隔測定時の基準クロックである。)を算出する。
【0071】
移動速度Vnが算出されると、フィードバック演算処理部70では、減算器12が、目標速度rから移動速度Vnを減算した速度偏差en(=rーVn)を算出し、比例演算器13および積分演算器14が、速度偏差enに基づき比例積分制御量PIn(=Kp・en+Ki・∫en)を算出し、微分演算器15が速度偏差enに基づき微分制御量Dn(=Kd・(en−en-1)/Ts)を算出する。また、微分値有効時間タイマ18は、起動トリガの入力時点に基づき微分制御量Dnの算出完了時点を判定し、微分制御量Dnの算出完了時点から微分量反映時間が経過するまで、微分値反映指令信号S7を出力する。
【0072】
つまり、フィードバック演算処理部70は、各制御量が算出された時点から微分量反映時間が経過するまでは、比例積分制御量PInと微分制御量Dnとを加算した微分反映制御量Bを表す回転速度制御信号S3を出力し、微分量反映時間の経過後は、比例積分制御量PInに等しい微分除去制御量Aを表す回転速度制御信号S3を出力する。
【0073】
このように、一定周期Ts毎に移動速度Vnを検出することで、回転速度制御信号S3は少なくとも一定周期Ts毎に更新することができる。
なお、キャリッジ制御装置1のように、エンコーダエッジ毎に移動速度Vnを検出する場合には、キャリッジ31の移動速度が低速である場合には、エンコーダエッジの入力周期が長くなるため、回転速度制御信号S3の更新周期も長くなり、適切なモータ制御ができなくなる可能性が高くなる。
【0074】
これに対して、第2キャリッジ制御装置のように、一定周期Ts毎に移動速度Vnを検出する場合には、周期Tsを適切に選ぶことにより、キャリッジの移動速度に依存して回転速度制御信号S3の更新周期が長くなることは無いため、より安定したモータ制御を実現することができる。
【0075】
次に、上述の実施形態では、微分量反映時間の経過後は微分制御量を0に補正する出力補正処理部19を備えるキャリッジ制御装置について説明したが、出力補正処理部は、微分量反映時間の経過後に、微分演算器15で算出された微分制御値を初期値として微分制御値を時間経過と共に減少補正するよう構成しても良い。これにより、実際の運動速度が目標速度に到達するまでの制御応答時間が長時間となる特性を有する装置においても、回転速度制御信号S3を適切な値に設定することができ、モータ制御が不適切となることを防止できる。
【0076】
また、出力補正処理部は、微分量反映時間の経過後に、微分演算器15で算出された微分制御値に補正係数Rt(たとえば、Rt=0.2)を乗じて補正した微分制御値を出力するよう構成しても良い。これにより、短い制御応答時間で実際の運動速度が目標速度に近づくものの若干の誤差が残るような特性を有する装置においても、回転速度制御信号S3を適切な値に設定することができ、モータ制御が不適切となることを防止できる。
【0077】
つまり、出力補正処理部における補正内容は、微分量反映時間の経過後に微分制御量を0に補正するものに限ることはなく、不適切なモータ制御を抑制できる補正内容に適宜設定すると良い。
次に、キャリッジ制御装置におけるキャリッジの運動速度について、本発明を適用した装置と従来構成の装置とにおいて、それぞれ測定した測定結果について説明する。
【0078】
なお、本発明を適用したキャリッジ制御装置としては、一定周期Ts(演算サンプル間隔Ts)毎に起動トリガを発生する構成の装置を用いており、微分量反映時間として演算サンプル間隔Tsの25%値が設定され、微分量反映時間の経過後に微分制御値を10分の1に補正する構成の第1測定装置と、微分量反映時間として演算サンプル間隔Tsの25%値が設定され、微分量反映時間の経過後に微分制御値を100分の1に補正する構成の第2測定装置と、を用いて測定を実施した。また、従来構成のキャリッジ制御装置としては、微分制御値の補正を行わない構成の第3測定装置を用いて測定を実施した。なお、第1測定装置、第2測定装置および第3測定装置は、それぞれ同一のPIDゲイン(Kp、Kd、Ki)が設定されている。
【0079】
そして、第1測定装置における微分演算器15で算出された微分制御値の測定結果を図10に示し、第1測定装置における速度変換部64から出力される移動速度(検出速度)の測定結果を図11に示し、第2測定装置における速度変換部64から出力される移動速度(検出速度)の測定結果を図12に示し、第3測定装置における速度変換部64から出力される移動速度(検出速度)の測定結果を図13に示す。各装置共に、目標速度を30[ips]として時刻0.05[sec]に装置を起動し、時刻0.20[sec]および時刻0.30[sec]で強制的に外乱を発生させて、各部の変化を測定した。
【0080】
図13の測定結果から、従来装置では、外乱収束性が悪く、起動後立ち上がり時の波形に振動が発生しており、安定したモータ制御が実現できていないことが判る。これに対して、図11および図12の測定結果では、従来装置に比べて、外乱収束性に優れており、起動後立ち上がり時の波形に振動は発生していないことが判る。
【0081】
また、図11の測定波形から、微分制御値が発散することなく収束していることが判り、これは微分量反映時間の経過後に微分制御値を10分の1に補正しているためであり、このように微分制御値を補正することで、安定したモータ制御が実現できる。
【0082】
よって、これらの測定結果から、本発明を適用したキャリッジ制御装置は、従来装置に比べて、外乱収束性に優れ、起動後立ち上がり波形の乱れが少なく、安定したモータ制御が実現できることが判る。
ところで、上記実施形態では、モータ駆動回路4として、図6に示したようなHブリッジ回路により構成されたものを用いたが、モータ駆動回路は図6に示すものに限ることはなく、例えば、DCモータ駆動用IC81aと積分回路81bとを備えた図7に示す第2モータ駆動回路81を用いてもよい。
【0083】
積分回路81bは、抵抗R1,R2およびコンデンサC1で構成され、第2PWM生成部83からのPWM信号S6を積分して、目標速度指令(アナログ量である目標電流指令)を生成するよう構成されている。
DCモータ駆動用IC81aは、CRモータ35の通電電流を検出して、検出した通電電流が積分回路81bからの目標速度指令(アナログ量)に応じた電流値となるように、CRモータ35の通電電流を制御するよう構成されている。言い換えれば、DCモータ駆動用IC81aは、CRモータ35の通電電流が目標電流指令に近づくよう制御することで、CRモータ35の回転速度を目標速度に制御する速度フィードバック制御を行うものである。なお、DCモータ駆動用IC81aは、駆動指令(Enable)の入力時に限りCRモータ35への通電が可能となるよう構成されており、また、駆動方向指令に基づいてCRモータ35の回転方向(正回転、逆回転)を決定している。
【0084】
ただし、この第2モータ駆動回路81を図6のモータ駆動回路4の代わりに用いる場合、ASIC3は、PWM生成部8に代えて、図7に示すような信号の入出力を行う第2PWM生成部83を用いて構成する必要がある。即ち、第2PWM生成部83は、制御信号セレクタ72からのモータ制御信号S5に基づいて、PWM信号S6および駆動方向指令(CRモータ35を回転すべき方向を表す指令)を出力し、さらに比較処理部62からの制御切替信号S1および起動設定レジスタ50からの入力に従って、CRモータ35への通電を行うべきか否かを示す駆動指令(Enable)を出力するよう構成されている。
【0085】
このように構成された第2モータ駆動回路81を用いれば、CRモータ35の回転速度が目標回転速度になるよう制御されるため、キャリッジ31の移動速度を目標速度に制御することができる。
また、モータ駆動回路は、図8に示すような第3モータ駆動回路87で構成することも可能である。第3モータ駆動回路87は、第2モータ駆動回路81における積分回路81bを省略して構成されている。
【0086】
なお、第3モータ駆動回路87を用いる場合には、第2PWM生成部83に代えて、駆動用信号生成部89を備える必要がある。駆動用信号生成部89は、制御信号セレクタ72から出力されるモータ制御信号S5に基づいて、アナログ信号としての目標電流指令(換言すれば目標速度指令)を生成して出力するよう構成されている。
【0087】
つまり、駆動用信号生成部89は、第2PWM生成部83のようにモータ制御信号S5に基づいてPWM信号を生成するのとは異なり、アナログ値の目標電流指令を出力するよう構成されている。このため、第3モータ駆動回路87は、第2モータ駆動回路81のように積分回路を備える必要がない。
【0088】
このように構成された第3モータ駆動回路87を用いれば、CRモータ35の回転速度が目標回転速度になるよう制御されるため、キャリッジ31の移動速度を目標速度に制御することができる。
また、フィードバック演算処理部70におけるPID制御は、上記実施形態のような速度偏差に基づき比例制御量・積分制御量・微分制御量をそれぞれ算出するPID制御に限ることはない。例えば、速度偏差に基づき比例制御量・積分制御量を算出し、検出した移動速度に基づき微分制御量を算出する微分先行型PI−D制御を実行しても良く、速度偏差に基づき積分制御量を算出し、検出した移動速度に基づき微分制御量・比例制御量を算出する比例微分先行型I−PD制御を実行しても良い。
【0089】
さらに、CPU2で実行されるCR走査処理のS110は、外部指令により定められる目標速度に応じて、微分量反映時間を設定するように構成しても良い。つまり、外部指令により目標速度が変動する用途においても、S110が、目標速度に応じて微分量反映時間を設定することで、微分量反映時間を適切な値に設定することができ、外乱の発生後における移動速度が目標速度に近づくように、回転速度制御信号S3を適切に変化させることができる。
【0090】
これにより、目標速度が変動する用途においても、回転速度制御信号S3を適切な値に設定できることから、モータ制御が不適切となるのを防止できる。なお、このように構成されたCR走査処理のS110が、特許請求の範囲に記載の反映時間設定手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明が適用されたインクジェットプリンタにおけるキャリッジ駆動機構の構造図である。
【図2】 キャリッジの移動速度を制御するキャリッジ制御装置の構成を表すブロック図である。
【図3】 キャリッジ制御装置の各部の状態を示すタイミング図である。
【図4】 CPUが実行するCR走査処理の内容を表すフローチャートである。
【図5】 フィードバック演算処理部の内部構成およびフィードバック演算処理部と他の機器との接続状態を示す説明図である。
【図6】 モータ駆動回路の構成を示す構成図である、
【図7】 第2モータ駆動回路の構成を示す構成図である。
【図8】 第3モータ駆動回路の構成を示す構成図である。
【図9】 第2キャリッジ制御装置の各部の状態を示すタイミング値である。
【図10】 第1測定装置における微分演算器で算出された微分制御値の測定結果である。
【図11】 第1測定装置における速度変換部から出力される移動速度の測定結果である。
【図12】 第2測定装置における速度変換部から出力される移動速度の測定結果である。
【図13】第3測定装置における速度変換部から出力される移動速度の測定結果である。
【図14】 (a)は、外乱を連続系で捉えた微分応答を示す説明図であり、(b)は、外乱を離散系で捉えた微分応答を示す説明図である。
【符号の説明】
1…キャリッジ制御装置、4…モータ駆動回路、5…レジスタ群、6…キャリッジ測位部、7…モータ制御部、8…PWM生成部、9…クロック生成部、12…減算器、13…比例演算器、14…積分演算器、15…微分演算器、16…演算器、18…微分値有効時間タイマ、19…出力補正処理、19…出力補正処理部、31…キャリッジ、35…CRモータ、39…リニアエンコーダ、70…フィードバック演算処理部、81…第2モータ駆動回路、83…第2PWM生成部、87…第3モータ駆動回路、89…駆動用信号生成部。
Claims (12)
- モータで駆動する駆動対象物の運動速度を制御するモータ制御方法において、
前記駆動対象物の運動速度を離散的な速度検出タイミングで検出し、
前記検出タイミングで検出された検出速度と外部からの指令により設定された目標速度との偏差である速度偏差を算出し、
前記検出速度または前記速度偏差の比例値に応じた比例制御量と、前記速度偏差の積分値に応じた積分制御量とを含む速度制御量を算出し、
前記検出速度または前記速度偏差の単位時間あたりの変化量に応じた微分制御量を算出し、
前記速度検出タイミングで前記検出速度が検出されて、該検出速度に基づき前記微分制御量を更新する時点を基準として、前記運動速度の検出周期よりも短い微分量反映時間が経過した後に、前記微分制御量を前記更新した微分制御量よりも小さい値に補正し、
前記速度制御量および前記補正された値を用いて、前記モータを前記目標速度で駆動するための制御指令値を設定し、
前記制御指令値に基づき、前記駆動対象物の運動速度が前記目標速度となるように前記モータの回転速度をフィードバック制御すること、
を特徴とするモータ制御方法。 - 前記制御指令値の設定に用いる微分制御量を補正するにあたり、時間経過に応じて前記微分制御量を減少補正すること、
を特徴とする請求項1に記載のモータ制御方法。 - 前記制御指令値の設定に用いる微分制御量を補正するにあたり、前記微分制御量を一定値に補正すること、
を特徴とする請求項1に記載のモータ制御方法。 - 一定周期毎に前記微分制御量を算出すること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のモータ制御方法。 - 請求項1から請求項4のいずれかに記載のモータ制御方法であって、
前記制御指令値に基づき、前記モータを駆動制御するためのPWM制御指令信号を生成し、所定のPWM制御周期毎に前記PWM制御指令信号を出力すると共に、
前記PWM制御周期よりも長い時間が設定された前記微分量反映時間の経過後に、前記微分制御量を補正すること、
を特徴とするモータ制御方法。 - 前記目標速度に応じて設定された前記微分量反映時間の経過後に、前記微分制御量を補正すること、
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のモータ制御方法。 - モータで駆動する駆動対象物の運動速度を制御するモータ制御装置において、
前記駆動対象物の運動速度を離散的な速度検出タイミングで検出する速度検出手段と、
前記速度検出手段にて検出された検出速度と外部からの指令により設定された目標速度との偏差である速度偏差を算出する速度偏差算出手段と、
前記検出速度または前記速度偏差の比例値に応じた比例制御量と、前記速度偏差の積分値に応じた積分制御量とを含む速度制御量を算出する制御量演算手段と、
前記検出速度または前記速度偏差の単位時間あたりの変化量に応じた微分制御量を算出する微分演算手段と、
前記速度検出タイミングで前記検出速度が検出されて、該検出速度に基づき前記微分演算手段が前記微分制御量を更新する時点を基準として、前記速度検出手段による前記運動速度の検出周期よりも短い微分量反映時間が経過した後に、前記微分制御量を前記微分演算手段が更新した微分制御量よりも小さい値に補正する微分制御量補正手段と、
前記速度制御量および前記補正された値を用いて、前記モータを前記目標速度で駆動するための制御指令値を設定する制御指令値設定手段と、を備えて、
前記制御指令値に基づき、前記駆動対象物の運動速度が前記目標速度となるように前記モータの回転速度をフィードバック制御すること、
を特徴とするモータ制御装置。 - 前記微分制御量補正手段は、前記制御指令値設定手段にて前記制御指令値の設定に用いる微分制御量を補正するにあたり、時間経過に応じて前記微分制御量を減少補正すること、
を特徴とする請求項7に記載のモータ制御装置。 - 前記微分制御量補正手段は、前記制御指令値設定手段にて前記制御指令値の設定に用いる微分制御量を補正するにあたり、前記微分制御量を一定値に補正すること、
を特徴とする請求項7に記載のモータ制御装置。 - 前記微分演算手段は、一定周期毎に前記微分制御量を算出すること、
を特徴とする請求項7から請求項9のいずれかに記載のモータ制御装置。 - 前記制御指令値に基づき、前記モータを駆動制御するためのPWM制御指令信号を生成し、所定のPWM制御周期毎に前記PWM制御指令信号を出力する指令信号出力手段を備え、
前記微分量反映時間は、前記PWM制御周期よりも長い時間が設定されていること、
を特徴とする請求項7から請求項10のいずれかに記載のモータ制御装置。 - 前記目標速度に応じて、前記微分量反映時間を設定する反映時間設定手段を備えたこと、
を特徴とする請求項7から請求項11のいずれかに記載のモータ制御装置。
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