JP3688367B2 - 変異型dnaポリメラーゼ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、遺伝子工学用試薬として有用な5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異型DNAポリメラーゼ、該酵素をコードする遺伝子、及び該遺伝子を用いたDNAポリメラーゼの遺伝子工学的な製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
今まで遺伝子工学研究用試薬として一般に使用されているDNAポリメラーゼには、大腸菌DNAポリメラーゼI、その改変型であるクレノウ断片、T4ファージ由来DNAポリメラーゼ、T7ファージ由来DNAポリメラーゼ、サーマス・アクアティカス由来耐熱性DNAポリメラーゼ〔タック(Taq )ポリメラーゼ〕等がある。これらの酵素は、それらが有する性質に応じて、特定のDNAの標識化やDNA塩基配列の決定などにそれぞれ利用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一般にDNAポリメラーゼはその起源によって異なった特性を有しており、その特性を生かした利用法がある。例えばバチルス・カルドテナクス(Bacillus caldotenax )は生育至適温度が約70℃である好熱性細菌であり、この細菌由来のDNAポリメラーゼは高温においても高い安定性を示すことから、遺伝子工学用研究試薬として使用されている。また、該酵素はDNAポリメラーゼ活性のほか、5’→3’、及び3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を有しているが、その用途のほとんどにおいて5’→3’エキソヌクレアーゼ活性の存在は望ましくなく、この活性を失った変異型酵素が使用されている。しかしながらこの変異型酵素は、該酵素をコードする遺伝子より5’→3’エキソヌクレアーゼ活性情報部分を欠失させることによって生産されるため、野生型の酵素とはそのタンパク質としての構造が異なっている。
本発明の目的は、野生型のDNAポリメラーゼと同じ構造を保持しながら、望ましくない5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異型DNAポリメラーゼ、及びその遺伝子と遺伝子工学的製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異型DNAポリメラーゼに関する発明であって、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列中、184番目のグリシンがアスパラギン酸で置換されていることを特徴とする。
また、本発明の第2の発明は変異型DNAポリメラーゼ遺伝子に関する発明であって、該遺伝子が第1の発明の変異型DNAポリメラーゼをコードすることを特徴とし、とりわけ配列表の配列番号2で表される塩基配列を含むことを特徴とする。
また、本発明の第3の発明は変異型DNAポリメラーゼの製造方法に関する発明であって、第2の発明の変異型DNAポリメラーゼ遺伝子を含有させた形質転換体を培養し、該培養物から第1の発明の変異型DNAポリメラーゼを採取することを特徴とする。
【0005】
部位特異的変異導入法を用いて活性に必須のアミノ酸残基を他のものに置換することにより、酵素タンパクの全体の構造を損なうことなくその活性を欠失させることは可能と考えられる。しかしながらバチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に関しては活性に必須のアミノ酸残基が確認されていないため、該方法を直接適用することはできない。本発明者らは鋭意研究の結果、該酵素のN−末端より184番目のグリシン、又は192番目のグリシンが5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に必須であることを見出し、更に上記のグリシンが他のアミノ酸に置換された変異型DNAポリメラーゼを作製し、本発明を完成させた。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明に使用する菌株としてはDNAポリメラーゼを生産する菌株であれば何でもよく、例としてバチルス・カルドテナクスYT−G株〔ドイッチェ ザムルンク フォン ミクロオルガニスメン(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen )の保存菌株:DSM406〕がある。
バチルス・カルドテナクス由来のDNAポリメラーゼ遺伝子は既に石野らによって単離されている〔ジャーナル オブ バイオケミストリー(J. Biochem. )、第113巻、第401〜410頁(1993)〕。また、該遺伝子を含有するプラスミドpUI101で形質転換された大腸菌HB101は Escherichia coli HB101/pUI101と命名、表示され、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−3721として寄託されている。該DNAポリメラーゼのアミノ酸配列を配列表の配列番号1に、また該アミノ酸配列をコードするプラスミドpUI101中のDNAポリメラーゼ遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号4に示す。
既知の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠く変異型DNAポリメラーゼとしては、野生型のバチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼのN末端より284番目のアミノ酸までの領域を欠失した変異型DNAポリメラーゼが知られている〔ジャーナル オブ バイオケミストリー、第113巻、第401〜410頁(1993)〕。したがって、バチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に重要なアミノ酸残基は該変異型酵素に欠失した領域に存在することが予想される。そこで、配列表の配列番号1に示した野生型のバチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中、アミノ酸番号1番から284番までの領域に存在するアミノ酸残基のあるものをそれ以外のアミノ酸残基に置換することにより、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を失った変異型DNAポリメラーゼを得ることが期待される。
【0007】
タンパク質にアミノ酸置換を導入する方法としてはいくつかの部位特異的変異導入法が知られており、例えばクンケル(Kunkel,T.A. )の方法が利用できる〔メソッズ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology )、第154巻、第367〜389頁(1987)〕。該方法は合成オリゴヌクレオチドを使用してタンパク質をコードする遺伝子上に変異を導入する方法である。表1に本発明で導入を試みたアミノ酸置換とそれに用いた合成オリゴヌクレオチド、及びその塩基配列を示す。
【0008】
【表1】
【0009】
また、配列表の配列番号5〜12にそれぞれ合成オリゴヌクレオチドD59A、Y73A、Y73F、G148D、D185A、D188A、G192D、及びE198Aの塩基配列を示す。各合成オリゴヌクレオチドの名称はそれによって導入されるアミノ酸置換を示しており、例えばD59Aは59番目のアスパラギン酸をアラニンに置換するための合成オリゴヌクレオチドである。
【0010】
変異導入に使用する鋳型DNAは、上記プラスミドpUI101に組込まれた野生型のバチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼ遺伝子を含むDNA断片を適当なベクターにサブクローニングした上、dU(デオキシウリジン)を含む一本鎖DNAを調製して作製することができる。次に該鋳型DNAと上記の合成オリゴヌクレオチドとを用いて該遺伝子上にアミノ酸置換を導入することができる。変異導入に当ってはミュータンKキット(宝酒造社製)が使用できる。しかしながらオリゴヌクレオチドの設計によっては変異導入効率が悪く、目的の変異が得られない場合がある。また、変異が導入された場合でも、導入されたアミノ酸置換の種類によっては発現された変異型タンパク質が宿主に対して負荷となって形質転換体が得られなかったり、酵素タンパク質全体の構造が破壊されてDNAポリメラーゼ活性まで失われてしまう可能性もある。
本発明に使用した合成オリゴヌクレオチドのうち、D185Aを除く7つを使用した場合については変異が導入された遺伝子を得ることができる。これらの遺伝子については通常の方法、例えばジデオキシ法を用いてその塩基配列を調べ、目的とする変異が導入できたかどうかを確認することができる。
【0011】
次に、得られた変異導入遺伝子を組込んだプラスミドで形質転換した適当な微生物を培養し、該培養物中に発現されるDNAポリメラーゼ活性を調べることにより、DNAポリメラーゼ活性を発現可能な変異導入遺伝子を得ることができる。更に、DNAポリメラーゼ活性が認められたものについては酵素を精製した上で5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を調べ、目的とする変異型DNAポリメラーゼを発現する変異導入遺伝子を得ることができる。
ただし導入された変異の種類によっては発現された変異型DNAポリメラーゼの安定性が低下しているために酵素の精製が困難な場合があり、例えば合成オリゴヌクレオチドD59A、Y73A、Y73Fを用いて作製された変異導入遺伝子によって発現される変異型DNAポリメラーゼについては精製酵素標品が得られない。一方、合成オリゴヌクレオチドG184D、G192D、E198Aを用いたものでは精製された酵素標品を用いて5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を調べることができる。この結果、E198Aを用いたものでは野生型酵素の約70%の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が残存しているのに対し、G184D、G192Dでは活性が全く認められない。
このように、DNAポリメラーゼ活性を保持し、かつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異型DNAポリメラーゼを発現する2種の変異導入遺伝子を得ることができる。こうして得られた変異導入遺伝子を組込んだプラスミドのうち、合成オリゴヌクレオチドG184Dを用いて作製された、野生型DNAポリメラーゼの184番目に存在するグリシンがアスパラギン酸に置換された変異型DNAポリメラーゼをコードする変異導入遺伝子を組込んだプラスミドはプラスミドpUIT104と命名され、該プラスミドで形質転換された大腸菌JM109は Escherichia coli JM109/pUIT104と命名されている。
また、合成オリゴヌクレオチドG192Dを用いて作製された、野生型DNAポリメラーゼの192番目に存在するグリシンがアスパラギン酸に置換された変異型DNAポリメラーゼをコードする変異導入遺伝子を組込んだプラスミドはプラスミドpUIT106と命名され、該プラスミドで形質転換された大腸菌JM109は Escherichia coli JM109/pUIT106と命名されている。プラスミドpUIT104、及びプラスミドpUIT106に組込まれた変異型DNAポリメラーゼ遺伝子の塩基配列を、それぞれ配列表の配列番号2、及び配列番号3に示す。
【0012】
5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異型DNAポリメラーゼは上記の変異導入遺伝子を組込んだプラスミドで形質転換した形質転換体、例えば Escherichia coli JM109/pUIT104、あるいは Escherichia coli JM109/pUIT106を通常の培地、例えば100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(トリプトン10g/リットル、酵母エキス5g/リットル、NaCl 5g/リットル、pH7.2)中、37℃で培養することにより、その菌体内に発現させることができる。次に、得られた培養菌体に適当な精製操作を施すことによって精製された変異型DNAポリメラーゼ標品を得ることができる。こうして得られた変異型DNAポリメラーゼは、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により、野生型DNAポリメラーゼと同じ約10万の分子量を示す。また、該標品について各種酵素活性を測定することにより、該変異型酵素がDNAポリメラーゼ活性、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を保持しているが、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性は失っていることを確かめることができる。
【0013】
以上のようにバチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼのアミノ酸配列中、184番目のグリシンを、アスパラギン酸残基に変換することにより、該酵素の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を選択的に欠失させた変異型DNAポリメラーゼが得られることが明らかとなった。
上記のグリシン残基は5’→3’エキソヌクレアーゼ活性には必須であるが、DNAポリメラーゼ活性、及び酵素タンパクの安定性に関しては重要な役割を果たしてはいない。
該変異型酵素は野生型酵素の構造を保持し、かつ望ましくない5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失しており、遺伝子工学研究用試薬として有用である。更に、該変異型酵素をコードする遺伝子が得られたことにより該変異型酵素の遺伝子工学的生産が可能となった。
【0014】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0015】
実施例1 鋳型DNAの作成
Escherichia coli HB101/pUI101(FERM BP−3721)を培養し、培養菌体よりバチルス・カルドテナクス由来のDNAポリメラーゼ遺伝子を含有するプラスミドpUI101を調製した。得られたプラスミドをNcoIで消化した後、アガロースゲル電気泳動を行い、分離された約3.3KbのDNA断片を単離した。このDNA断片の末端をDNAブランティングキット(宝酒造社製)を用いて平滑化し、先にHincII(宝酒造社製)で消化しておいたプラスミドベクターpTV118Nと混合してライゲーションを行った。ライゲーション反応液の一部を用いて大腸菌JM109を形質転換して得られる形質転換体よりプラスミドを調製し、DNAポリメラーゼ遺伝子の5’−側がプラスミドベクター上のlacプロモーター下流に位置しているものを選び、これをプラスミドpUI102と命名した。
次に、プラスミドpUI102をNcoIで部分消化し、DNAブランティングキットを用いて末端を平滑化した後、セルフライゲーション反応を行って大腸菌JM109を形質転換した。得られた形質転換体よりプラスミドを調製し、DNAポリメラーゼ遺伝子の3’−末端側のNcoIサイトのみが失われたものを選び、これをプラスミドpUI103と命名した。プラスミドpUI103の構築の工程を図1に示す。
変異導入の鋳型となるdU(デオキシウリジン)を含む一本鎖DNAは以下のようにして調製した。プラスミドpUI103で大腸菌CJ236(宝酒造社製)を形質転換し、得られた形質転換体を150μg/mlのアンピシリンと30μg/mlのクロラムフェニコールを含む2×TY培地(トリプトン16g/リットル、酵母エキス10g/リットル、NaCl 5g/リットル、pH7.6)中で培養した。培養中の適当な時期にヘルパーファージM13KO7(宝酒造社製)を感染させた後、更に70μg/mlとなるようカナマイシンを添加して培養を継続し、培養終了後の培養液上清よりファージ粒子を回収した。得られたファージ粒子についてフェノール、及びフェノール−クロロホルムを用いた除タンパク処理を行い、更にエタノール沈殿を行ってDNAを回収し、これを変異導入実験の鋳型とした。
【0016】
実施例2 変異導入遺伝子の作成
DNAポリメラーゼ遺伝子上の変異導入位置として7箇所のアミノ酸残基を選び、8種類のアミノ酸置換の導入を計画した。この変異導入に使用する8種類のオリゴヌクレオチド、D59A、Y73A、Y73F、G148D、D185A、D188A、G192D、およびE198Aを化学的に合成した。これらの合成オリゴヌクレオチドの塩基配列を、それぞれ配列表の配列番号5〜12に示す。
実施例1で得られた鋳型DNA、及び上記の変異導入用合成オリゴヌクレオチドを用いてDNAポリメラーゼ遺伝子上へのアミノ酸置換の導入を行った。変異導入にはミュータンKキット(宝酒造社製)を用い、キット添付の使用説明書に従って実験操作を行った。変異導入操作後に得られたプラスミドについてジデオキシ法による塩基配列の確認を行い、DNAポリメラーゼ遺伝子上に目的のアミノ酸置換が導入されていることを確かめた。この結果、D185A以外の合成オリゴヌクレオチドを使用したものでは目的通りのアミノ酸置換が起こった変異導入遺伝子を含むプラスミドが得られた。合成オリゴヌクレオチド、D59A、Y73A、Y73F、G148D、D188A、G192D、及びE198Aを用いて得られた変異導入遺伝子を含むプラスミドを、それぞれpUIT101、pUIT102、pUIT103、pUIT104、pUIT105、pUIT106、及びpUIT107と命名した。
【0017】
実施例3 形質転換体の培養及び粗抽出液の調製
上記の変異導入DNAポリメラーゼ遺伝子を含む組換えプラスミド、pUIT101、pUIT102、pUIT103、pUIT104、pUIT105、pUIT106、及びpUIT107で形質転換された大腸菌JM109を、それぞれ100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(トリプトン10g/リットル、酵母エキス5g/リットル、NaCl 5g/リットル、pH7.2)中、37℃で培養した。培養液の濁度(A600 )が0.6の時に誘導物質であるイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、更に15時間培養を行った。培養液1mlより菌体を集め、50mMトリス−HCl(pH8.0)、25%スクロース溶液で洗浄した。同じ溶液に菌体を再懸濁した後、同量のリシス溶液〔50mMトリス−HCl(pH7.5)、25%スクロース、60mMスペルミジン・一塩酸、20mM NaCl、12mM DTT〕を加え、4℃で45分間静置した。更に5%(w/v)トリトンX−100(Triton X−100)20μl を加え、37℃で5分間静置した後、遠心分離により上清を回収し、60℃、20分間静置した後再度遠心分離して上清を回収し、粗抽出液とした。
【0018】
実施例4 DNAポリメラーゼ活性測定
反応溶液として67mMリン酸カリウム(pH7.4)、6.7mM MgCl2 、1mM2−メルカプトエタノール、20μg/ml 活性化DNA、33μM dATP、dCTP、dGTP、dTTP、60nM〔 3H〕dTTPを用意し、この溶液150μlに対して適当量の粗抽出液を加え、60℃、5分間反応させた後、50mMピロリン酸、10%トリクロロ酢酸を1ml加えて反応を停止させた。氷中で5分間静置した後、反応液全量をガラスフィルター上に移し、吸引ろ過した。10%トリクロロ酢酸で数回洗浄した後、70%エタノールで洗浄し、フィルターを乾燥させて液体シンチレーションカウンターを用いてフィルター上の放射活性を測定した。組換えプラスミド、pUIT101、pUIT102、pUIT103、pUIT104、pUIT106、及びpUIT107で形質転換された大腸菌より得られた粗抽出液にはDNAポリメラーゼ活性が確認された。
【0019】
実施例5 精製酵素標品の調製
上記の変異導入DNAポリメラーゼ遺伝子を含む組換えプラスミド、pUIT101、pUIT102、pUIT103、pUIT104、pUIT106、及びpUIT107で形質転換された大腸菌JM109を、それぞれ100μg/mlのアンピシリンを含む125mlのLB培地(トリプトン10g/リットル、酵母エキス5g/リットル、NaCl 5g/リットル、pH7.2)中、37℃で15時間培養した。菌体を集めて20mlの緩衝液A〔50mMトリス−HCl(pH7.6)、2mM2−メルカプトエタノール、10%グリセリン、4μM PMSF〕に懸濁した後、超音波処理を行って菌体を破砕し、遠心分離して上清を集めた。次いで60℃、30分間の熱処理を行った後、再度遠心分離を行って上清を集め、これを粗酵素液とした。
この粗酵素液についてSDS−PAGEで分析を行ったところ、プラスミドpUIT104、pUIT106、及びpUIT107で形質転換された大腸菌より得られたものでのみ野生型DNAポリメラーゼと同じ分子量のタンパクが発現されているのが確認された。野生型DNAポリメラーゼに対する抗体を用いてウエスタンブロッティングによる分析を行うと、上記の3種のプラスミド以外で形質転換された大腸菌由来の粗酵素液では野生型DNAポリメラーゼに比べて低分子量のタンパクにシグナルが認められており、これらの形質転換体では発現された変異型DNAポリメラーゼの安定性が低下しているために培養中、あるいは精製操作の初期段階に酵素タンパクの分解が起こっていることが示された。このため、以降の精製操作は上記の3種類の形質転換体由来の粗酵素液についてのみ実施した。
粗酵素液に30%飽和となるよう硫安を加え、遠心分離を行って上清を集めた後、更に80%飽和となるように硫安を加えた。遠心分離を行って集めた沈殿を緩衝液B〔50mMトリス−HCl(pH7.0)、2mM2−メルカプトエタノール、10%グリセリン、4μM PMSF〕に溶かし、同緩衝液に対して透析を行った後、透析後の試料をFPLCシステム(ファルマシア社製)を用いたモノ(Mono)Qカラム(ファルマシア社製)クロマトグラフィーに供した。カラムは緩衝液Bで平衡化しておき、0−300mMのNaCl濃度勾配により溶出を行うとDNAポリメラーゼ活性は約170mM NaClに相当する画分に回収された。得られたDNAポリメラーゼ活性画分を10mMリン酸カリウム(pH6.8)、7mM2−メルカプトエタノール、50μM CaCl2 、10%グリセリンで平衡化したハイドロキシルアパタイトカラム(KBカラム、高研社製)にアプライした。吸着した酵素活性は10−800mMリン酸カリウムの濃度勾配によって溶出し、約420mMリン酸カリウムに相当する画分に溶出したDNAポリメラーゼ活性を回収し、これを精製酵素標品とした。
このようにして3種の形質転換体より得られた精製酵素標品は、どれもSDS−PAGE上で分子量約10万の単一のバンドを示した。
【0020】
実施例6 5’→3’エキソヌクレアーゼ活性の測定
基質としてλ−BstPI消化物(宝酒造社製)を[γ−32P]ATPとT4ポリヌクレオチドキナーゼ(宝酒造社製)で末端標識したものを準備した。67mMリン酸カリウム(pH7.4)、6.7mM MgCl2 、1mM2−メルカプトエタノールを含む溶液中に実施例5で得られた精製酵素標品と上記基質を混合し、60℃で2、5、10、30分間反応させた後、エタノールを加えて基質DNAを沈殿させた。この沈殿中に存在する放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定することにより、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による分解反応後にDNAの末端に残存する32Pの量を求めた。また、野生型のバチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼ、及び野生型のバチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼのN末端より284番目のアミノ酸までの領域を欠失した変異型DNAポリメラーゼであるBcaBEST DNAポリメラーゼ(宝酒造社製)をそれぞれ上記酵素標品の代りに加えたものについても同様の測定を行い、これを対照とした。測定の結果を図2に示す。図中横軸は反応時間(分)を、縦軸はDNAの末端に残存する放射活性(cpm)を示す。また、図中白三角、白四角、黒四角はそれぞれプラスミドpUIT104、pUIT106、及びpUIT107で形質転換された大腸菌より得られた精製酵素標品について得られた結果を、更に図中白丸、黒丸はそれぞれ野生型のバチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼ、及びBcaBEST DNAポリメラーゼについて得られた結果を示す。図2に示されるように、プラスミドpUIT107で形質転換された大腸菌より得られた精製酵素標品では野生型のバチルス・カルドテナクス由来DNAポリメラーゼの約70%の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が認められるのに対し、プラスミドpUIT104、及びpUIT106由来のものではBcaBEST DNAポリメラーゼと同様に5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が失われていることが示された。
配列表の配列番号2、及び配列番号3にそれぞれプラスミドpUIT104、及びpUIT106に含まれる変異型DNAポリメラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【0021】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明により5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を失った新規変異型DNAポリメラーゼ、及び遺伝子工学的な該酵素の製造方法が提供される。該酵素は遺伝子工学研究用試薬として有用である。
【0022】
【配列表】
【0023】
配列番号:1
配列の長さ:877
配列の型:アミノ酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列:
【0024】
配列番号:2
配列の長さ:2631
配列の型:核酸
鎖の数:2本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:genomic DNA
配列:
【0025】
配列番号:3
配列の長さ:2631
配列の型:核酸
鎖の数:2本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:genomic DNA
配列:
【0026】
配列番号:4
配列の長さ:2631
配列の型:核酸
鎖の数:2本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:genomic DNA
起源:生物名:バチルス カルドテナクス(Bacillus caldotenax)
株名:YT-G(DSM406)
配列:
【0027】
配列番号:5
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸(合成DNA)
配列:
【0028】
配列番号:6
配列の長さ:27
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸(合成DNA)
配列:
【0029】
配列番号:7
配列の長さ:27
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸(合成DNA)
配列:
【0030】
配列番号:8
配列の長さ:27
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸(合成DNA)
配列:
【0031】
配列番号:9
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸(合成DNA)
配列:
【0032】
配列番号:10
配列の長さ:21
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸(合成DNA)
配列:
【0033】
配列番号:11
配列の長さ:27
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸(合成DNA)
配列:
【0034】
配列番号:12
配列の長さ:27
配列の型:核酸
鎖の数:1本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸(合成DNA)
配列:
【図面の簡単な説明】
【図1】プラスミドpUI103の構築を示す工程図である。
【図2】変異型DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を示す図である。
Claims (4)
- 配列番号1に示されるアミノ酸配列のうち、184番目のグリシンがアスパラギン酸に置換されていることを特徴とする5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異型DNAポリメラーゼ。
- 請求項1に記載の変異型DNAポリメラーゼをコードすることを特徴とする変異型DNAポリメラーゼ遺伝子。
- 請求項2に記載の変異型DNAポリメラーゼ遺伝子が、配列番号2に示される塩基配列を含むことを特徴とする変異型DNAポリメラーゼ遺伝子。
- 請求項2に記載の変異型DNAポリメラーゼ遺伝子を含有させた形質転換体を培養し、該培養物から請求項1に記載の変異型DNAポリメラーゼを採取することを特徴とする変異型DNAポリメラーゼの製造方法。
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