JP3685004B2 - 熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用部品、電気機器部品、建材などの分野において、酸洗ままで使用される熱延鋼板あるいは冷間圧延用素材として提供される熱延鋼板であって、優れたスケール酸洗性を示す熱延鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱延鋼板のスケール酸洗性の向上に関しては、従来より種々の検討がなされてきている。例えば特開昭52-134810号公報では、熱延鋼帯のコイル温度が450℃以上の領域にあるとき、巻き戻しながら50℃/s以上の冷速(冷却速度の略、以下同様)で200℃以下に冷却し、スケール中に20%以上のFeOを残留させる技術が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の方法では、コイルを巻き戻して冷却するため、炭化物の析出処理等が必要な材料には適用できない。また、テンションレベラや軽圧下によりスケールに予歪みを与えた後、塩酸や硝酸などで酸洗を行う方法においては、微小なスケール残りが生じる場合があるなどの問題があった。このように従来技術では、十分なスケール酸洗性を得ることができなかった。
【0004】
また、特開昭52-134810号公報記載の技術を適用する場合は、熱延鋼帯を巻き戻して急冷することが可能な、冷却設備を別途設置する必要がある。熱延鋼帯の急冷は工業的には水冷となるが、200℃以下に冷却する際、ライン速度が低下する非定常部では室温近くまで冷却され、表面が水で濡れた状態となる。そのため、巻取りあるいは後続のテンションレベラ等の予歪み付与設備への通板のためには、水切り装置やドライヤ等の設備の設置も必要となる。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決し、良好なスケール酸洗性を示すことが可能な熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は次の発明により解決される。第1の発明は、地鉄表層にスケールを有する熱延鋼板において、地鉄表層の平均結晶粒径Lが20μm以下、スケール厚さdが10μm以下で、かつL×d2≦1000を満たすことを特徴とする熱延鋼板である。
【0007】
本発明は、上述した問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果なされた。その過程で、テンションレベラや軽圧下によりスケールに予歪みを与えた後、塩酸や硝酸などで酸洗を行うに際し、酸洗性を支配する因子を種々検討し、薄スケール化を図るとともに地鉄の組織を細粒化することで、スケール酸洗性が飛躍的に向上することを見出した。本発明はこのような知見に基づくもので、個々の限定理由は以下の通りである。ここで、本発明が対象とする鋼板は、通常の酸洗ままで使用する熱延鋼板に加えて、冷間圧延用素材として提供される熱延鋼板も含む。
【0008】
地鉄表層の平均粒径L:20μm以下
地鉄表層の平均粒径が大きくなると、スケールの4FeO→Fe304+Feによる共析変態の進行により、変態後のFe304もその粒径が大きくなる。そのため、後述のようにスケール内部に酸洗液が浸透しにくくなり、スケール酸洗性が劣化する。この傾向は地鉄表層の平均粒径が20μmを超えると顕著となる。従って、地鉄表層の平均粒径を20μm以下に規定する。
【0009】
スケール厚さd:10μm以下
スケール厚さが厚くなると剥離すべきスケール量が増加するとともに、スケールの内部への酸洗液の浸透を困難にすることで酸洗性が劣化する。この傾向はスケール厚さが10μmを超えると顕著となる。したがって、スケール厚さは10μm以下と規定する。
【0010】
Lとdの関係:L×d2≦1000
この不等式は実験結果を整理する中で得られたものである。この不等式の左辺 [L×d2]は、スケールの酸洗の困難さを表す指標(以下、耐浸透指数と呼ぶ)と考えられる。この耐浸透指数が1000を超えると、スケールの酸洗性が低下し始める。したがって、スケール厚さと地鉄の平均粒径を制御し、耐浸透指数が1000以下、即ちL×d2≦1000も満たさなければならない。
【0011】
第2の発明は、熱延鋼板の製造において、仕上圧延を(Ar3+50℃)以下で終了し、1s以内に100℃/s以上の冷却速度で80℃以上冷却したのち、400℃以上で巻き取ることにより、地鉄表層の平均結晶粒径Lが20μm以下、スケール厚さdが10μm以下で、L×d2≦1000を満たすよう制御することを特徴とする熱延鋼板の製造方法である。
【0012】
この発明は、仕上圧延後に急冷して所定温度で巻き取ることにより、地鉄表層の平均粒径とスケール厚さを制御して、熱延鋼板のスケールの酸洗性を向上させるものである。本発明の製造条件を限定する理由を、つぎに説明する。
【0013】
仕上温度:Ar3+50℃以下
仕上圧延は、その圧延終了温度が高い場合には、スケールが厚くなるとともに、Feの粒径が大きくなる。それに伴い、後述のようにFeOが共析変態した後のFe304の粒径も大きくなることから、スケールの酸洗性が劣化し、この傾向は仕上温度がAr3点より50℃を超えると顕著となる。したがって、仕上の最終圧延の上限を(Ar3+50℃)とする。
【0014】
圧延終了後の冷却:1s以内に100℃/s以上で80℃以上冷却
圧延終了後は、1s以内に100℃/s以上の冷速(冷却速度)で80℃以上冷却することで、スケールの生成を抑制するとともに、地鉄を細粒化することでスケールの酸洗性を向上させる。とくに、圧延終了から冷却開始までの時間、冷却速度、急冷による温度降下量のうち、いずれか1つでも本規定を外れる場合には、地鉄の粒径が大きくなってしまうため良好なスケール酸洗性を得ることはできない。
【0015】
巻き取り温度:400℃以上
巻き取り温度が400℃を下回る場合は、4FeO→Fe304+Feによる共析変態が、スケール内部において島状にランダムに進行し、スケール/地鉄界面においては均一に進行しない。従って、スケール/地鉄界面において共析変態を促進させるため、巻き取り温度を、400℃以上に規定する。なお、巻き取り温度が高い場合には、4FeO→Fe304+Fe反応による共析変態が表層側から優先的に進行し、スケール/地鉄界面においては十分に進行しない。これを防止するためには600℃以下で巻き取ることが好ましい。
【0016】
さらに、第2の発明では、複数の圧延スタンドからなる仕上圧延機を用いて、少なくとも第1スタンドから第3スタンドまでのスタンド間を含む2つ以上のスタンド間について、これら各スタンド間で単位幅(1m)当たり100L/分以上の冷却水を噴射し、スタンド間の鋼板面積の30%以上を実質的に冷却水で覆うことを特徴としている。
【0017】
この発明では、さらに、仕上圧延における圧延スタンドの間での鋼板の冷却、即ちスタンド間冷却の冷却方法を適切に調整することにより、スケールの酸洗性を向上させる。一般に、仕上圧延においては、入側で高圧水により一旦スケールを完全に除去したのち、圧延を開始するが、デスケーリング後の仕上スタンド間においても、鋼板の酸化が進行し、スケールは成長する。スケールの酸洗性に関しては、仕上スタンド間で生成するスケール(FeO)を細粒化すれば、共析変態後のFe304も細粒化することができ、酸洗性を向上させることができる。
【0018】
第3の発明は、mass%でP:0.03%以下、Si:0.02%以上のいずれか一方、あるいは両方を満たす鋼を用いることを特徴とする第2の発明の熱延鋼板の製造方法である。
【0019】
この発明では、鋼板の化学成分を適切に調製することにより、スケールの酸洗性を向上させる。化学成分の限定理由を、次に説明する。
【0020】
P:0.03%以下
Pは、仕上スタンド間でのスケール成長において、スケールの成長方位をランダム化させることで、スケール内部に働く圧縮応力を増加させる元素である。そのため、仕上圧延時、圧縮応力の増大によりスケールが地鉄から一旦剥離した場合、スケール自体に十分な圧延歪みを加えることはできなくなる。この傾向は、P量が0.03wt%を超えると顕著となる。したがって、P添加量を低減することで、圧延による歪みをスケールに与え、それによりスケールを細粒化する。以上より、P量は0.03wt%以下とするのが好ましい。
【0021】
Si:0.02%以上
Siは、仕上スタンド間でのスケール成長において、スケールが地鉄から一旦剥離するのを抑制する元素である。したがって、Si添加量を増加させることで、圧延による歪みをスケールに与え、それによりスケールを細粒化することができる。この効果は、Si量が0.02wt%未満では得られない。そのため、Si量は0.02wt%以上とするのが好ましい。
【0022】
【発明の実施の形態】
発明の実施に当たっては、目的の化学成分の鋼を転炉や電気炉等の鋼の精錬装置にて溶製し、連続鋳造等によりスラブを鋳造する。このスラブを直接あるいは一旦冷却後再加熱して、熱間圧延を行う。デスケーリングは、その後のスケール生成を抑制するため、仕上圧延開始直前に行うことが望ましい。熱間圧延の仕上圧延スタンドの間では、冷却水を噴射することで、仕上スタンド間の広い鋼板面積を冷却水で覆うことが望ましい。
【0023】
ここで、仕上スタンド間で成長するスケールは、スケール生成時の地鉄の結晶粒に対応して成長するため、仕上スタンド間での地鉄組織を細粒化すれば、スケールも細粒化することができる。スケール成長後の粒径は生成初期段階でのスケール粒径に大きく影響するので、生成初期段階でのスケール粒径を小さくすることがとくに効果的である。したがって、複数の圧延スタンドからなる仕上圧延機のスタンド間において、前段より水冷をおこない地鉄組織を細粒化することが有効である。
【0024】
また、このような仕上スタンド間で水冷をおこなうことにより、同時にスケール成長も抑制することができる。このようなことから、各仕上スタンドを入側よりF1、F2、F3・・・・としたとき、少なくとも前段のF1-F2間、F2-F3間を含む2スタンド間以上を、各スタンド毎において単位幅(1m)当たり100L/分以上の冷却水を噴射する。これにより、実質的にスタンド間の30%以上の鋼板面積を冷却水で覆うことで、仕上スタンド間の地鉄組織を細粒化し、スケールの粒径を小さくすることができ、同時にスケール成長も抑制することができる。
【0025】
圧延終了後は、即座に冷却を開始して巻取りを行う。このようにして、発明を実施することにより、スケール酸洗性に優れた熱延鋼板を得ることができる。
【0026】
その理由に関しては、本発明の請求範囲を限定するものではないが、つぎのように考えられる。すなわち、熱間圧延過程において生成するスケール(FeO)に関し、巻き取り後、4FeO→Fe304+Fe反応による共析変態を促進させることにおいて、FeOは地鉄側でFeが吐き出され、その上にFe304が生成する。ここで、吐き出されたFeは、地鉄の粒径(方位)に対応して地鉄と整合性を保ちながら析出し、Fe304も吐き出されたFeの方位に対応して析出する。
【0027】
したがって、地鉄を細粒化すれば、この地鉄方位に対応してFeが析出し、その析出Feに対応して析出するFe3O4も細粒化することができる。このように、地鉄組織を細粒化した鋼のスケールにおいて、4FeO→Fe304+Fe反応による共析変態を促進させることで、スケール/地鉄界面近傍においてスケール(Fe304)が細粒化し、このことにより、酸洗前の予歪みによってスケール粒界へ亀裂が大量に導入されることで、酸洗性が著しく向上する。また、変態前のFeOを細粒化すれば、変態後のFe304も細粒化することから、酸洗性はさらに向上する。
【0028】
【実施例】
本発明を実施例によって説明する。なお、当然のことながら本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
表1に示す成分の鋼を実験室真空溶解炉にて溶製し、ラボ熱間圧延をおこなった。圧延開始直前に一旦デスケーリングをおこなったのち圧延を開始し、4パスにて板厚3.Ommまで圧延した。1パス目、および2パス目の直後には、単位幅(1m)当たり200L/分の冷却水を、パス間時間の3sに対し1s間噴射することで、仕上スタンド間の33%の鋼板面積を冷却水で覆うことを模擬した。圧延終了後は即座に冷却を開始し、巻取りを模擬した炉にて徐冷をおこなった。
【0030】
【表1】
【0031】
表 2 に実験条件と、地鉄表層の平均粒径、スケール厚さおよびスケール酸洗性評価結果を示す。
【0032】
【表2】
【0033】
ここで、圧延終了温度はFT、圧延終了から冷却開始までの時間はST、急冷時の平均冷却速度はCR、急冷による温度降下量は△T、巻き取り処理温度はCT、酸洗終了時間(スケールの酸洗除去に必要な時間)はPTとする。
【0034】
図1に酸洗終了時間PTにおよぼす耐浸透指数L×d2の影響を示す。耐浸透指数が本発明の請求範囲である1000以下のとき、良好なスケール酸洗性を示している。
【0035】
図2に鋼種Bの耐浸透指数L×d2におよぼすSTの影響を示す。本発明の請求範囲であるSTが1s以下のとき、耐浸透指数は1000以下となるが、STが1sを上回ると耐浸透指数は1000を超えている。
【0036】
図3に鋼種Bの耐浸透指数L×d2におよぼすCRの影響を示す。本発明の請求範囲であるCRが100℃/s以上のとき、耐浸透指数は1000以下となるが、CRが100℃/sを下回ると耐浸透指数は1000を超えている。
【0037】
図4に鋼種Bの耐浸透指数L×d2におよぼす△Tの影響を示す。△Tが本発明の請求範囲である80℃以上のとき、耐浸透指数は1000以下となるが、△Tが80℃を下回ると耐浸透指数は1000を超えている。
【0038】
【発明の効果】
以上のように、本発明の熱延鋼板は、スケール厚さと地鉄の平均粒径が制御されており、スケール酸洗性が飛躍的に向上している。製造方法としては、仕上圧延後に急冷して所定温度で巻き取ることにより、地鉄表層の平均粒径とスケール厚さを制御して、熱延鋼板のスケールの酸洗性を向上させることができる。このようにして、スケール酸洗性に優れた熱延鋼板が提供され、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸洗終了時間PTにおよぼす耐浸透指数(L×d2)の影響を示した図である。
【図2】耐浸透指数L×d2におよぼす圧延終了から冷却開始までの時間(ST)の影響を示した図である。
【図3】耐浸透指数L×d2におよぼす圧延終了後の急冷時の平均冷却速度(CR)の影響を示した図である。
【図4】耐浸透指数L×d2におよぼす圧延終了後の急冷による温度降下量(△T)の影響を示した図である。
Claims (3)
- 地鉄表層にスケールを有する熱延鋼板において、地鉄表層の平均結晶粒径Lが20μm以下、スケール厚さdが10μm以下で、かつL×d2≦1000を満たすことを特徴とする熱延鋼板。
- 地鉄表層にスケールを有する熱延鋼板の製造方法において、複数の圧延スタンドからなる仕上圧延機を用いて、少なくとも第1スタンドから第3スタンドまでのスタンド間を含む2つ以上のスタンド間について、これら各スタンド間で単位幅(1m)当たり100L/分以上の冷却水を噴射し、スタンド間の鋼板面積の30%以上を実質的に冷却水で覆うとともに、仕上圧延を(Ar3+50℃)以下で終了し、1s以内に100℃/s以上の冷却速度で80℃以上冷却したのち、400℃以上で巻き取ることにより、地鉄表層の平均結晶粒径Lが20μm以下、スケール厚さdが10μm以下で、L×d2≦1000を満たすよう制御することを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
- mass%でP:0.03%以下、Si:0.02%以上のいずれか一方、あるいは両方を満たす鋼を用いることを特徴とする請求項2記載の熱延鋼板の製造方法。
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