JP3684815B2 - インクジェット式記録ヘッドおよびそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法に係り、特に、圧力室基板をエッチングする際に、酸化ケイ素膜に残されたひさしを除去することによってノズル板の接着不良やノズルの目詰まりを防止する発明に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット式記録ヘッドは、ノズルが設けられたノズル板、圧力室が形成された圧力室基板、圧力室基板に設けられた振動板、および振動板上に形成された圧電体素子を備える。圧電体素子は、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等の強誘電体セラミックス薄膜を電極膜で狭持したものである。この圧電体素子に電圧を加えると圧電体素子に体積変化を生じる。体積変化が生じると振動板が変形し、圧力室のインクに圧力が加えられる結果、ノズルからインクが吐出させられるものである。
【0003】
従来、インクジェット式記録ヘッドの製造方法では、図7に示すように、酸化ケイ素膜等の酸化膜をシリコン等で構成された圧力室基板20の両面に形成していた。以下、圧電体素子を形成する側の酸化膜を振動板30、ノズル板を貼り合わせる側の酸化膜をエッチングマスク31と称する。
【0004】
そして、ノズル板を貼り合わせる面に形成されたエッチングマスク31をキャビティ(圧力室)21の形状に合わせて除去して窓を設けてから、圧力室基板20をエッチングしていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、圧力室形成工程において、圧力室基板をエッチングする際に、図7に示すように、キャビティ21に面したエッチングマスク31の端部にひさし部分12が形成されることがあった。このひさし部分12は、割れたり欠けたりしてエッチングマスクの破片をキャビティ内に残していた。このため破片によるノズル板の接着不良を生じたり、破片がノズルに詰まってインクの吐出不良を招いたりする不都合があった。
【0006】
特に、KOHを用いたシリコンの湿式異方性エッチングでは、面方位によってエッチング速度差が大きく、リザーバを形成する段階ではエッチングされやすい面(キャビティを形成する壁の端面)が露出するため、ひさしが大きく形成され、前記不都合が製造上の大きな問題になっていた。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明の第1の課題は、圧力室の形成過程で生ずるエッチングマスクのひさしを除去することにより、ノズル板の接着不良やノズルの目詰まりを防止し、もって製品の歩留まりを良くして、インクジェット式記録ヘッドのコストを下げることのできる製造技術を提供することである。
【0008】
本発明の第2の課題は、エッチングマスクのひさしを除去すると共に、振動板のエッチングの有無を選択可能とし、ヘッドのコンプライアンスを調整可能に構成することにより、製品の均一性が向上し製品の歩留まりを良くして、インクジェット式記録ヘッドのコストを下げることのできる製造技術を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記第1の課題を解決するインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、圧力室が設けられた圧力室基板と、前記圧力室基板上に設けられた振動板と、前記振動板上に設けられた圧電体素子と、を備えたインクジェット式記録ヘッドの製造方法である。
そして、
(a) 圧力室を形成するための圧力室基板の一方の面に振動板を形成する振動板形成工程と、
(b) 圧力室基板の他方の面にエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、
(c) エッチングマスクを圧力室の形状に合わせてエッチングし、圧力室基板を露出させるマスクエッチング工程と、
(d) 露出した圧力室基板を振動板が露出するまでエッチングする圧力室基板エッチング工程と、
(e) エッチングマスクと圧力室基板とにより圧力室の開口端部に形成された当該エッチングマスクのひさし部分を、当該エッチングマスクを選択的にエッチングすることによって取り除くひさし除去工程と、を備えて構成される。
【0014】
第2の課題を解決する発明は、
(a) ひさし除去工程の前に、他方の振動板がエッチングされることを防止するためのレジスト層を、圧力室において露出している他方の振動板の当該圧力室側に形成するレジスト形成工程と、
(b) ひさし除去工程の後に、振動板の圧力室側に形成されたレジスト層を除去する除去工程と、を備えて構成される。
【0015】
例えば、ひさし除去工程では、エッチングマスクを圧力室基板より高いエッチングレートでエッチングするエッチング液によってエッチングマスクのひさし部分を取り除く。
【0016】
このエッチング液は、フッ化アンモニウム等の緩衝剤がフッ化水素酸に所定の割合で混合されたものである。
【0017】
エッチングマスクは、例えば酸化ケイ素であり、圧力室基板は、例えばシリコンにより形成される。
【0018】
また、本発明は、振動板上に、電極膜で挟まれた圧電体素子を形成する工程をさらに備える。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の最良の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
<実施形態1>
本発明の実施形態1は、上記第1の課題を解決するものである。
【0021】
(インクジェット式記録ヘッドの構成)
図1に、本実施形態の製造方法で製造されるインクジェット式記録ヘッドが内蔵されるインクジェットプリンタの斜視図を示す。同図に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタ100は、本発明のインクジェット式記録ヘッド1、トレイ3等を本体2に備えて構成されている。用紙5は、トレイ3に載置される。図示しないコンピュータから印字用データが供給されると、図示しない内部ローラが用紙5を本体2に取り入れる。インクジェット式記録ヘッド1は、用紙5がローラの近傍を通過するとき、同図矢印方向に駆動され、印字が行われる。印字後の用紙5は排出口4から排出される。
【0022】
図2に、上記インクジェット式記録ヘッドの主要部の斜視図を示す。理解を容易にするため、一部断面図を示す。図3に、図2のA−A切断面から見たインクジェット式記録ヘッドの主要部層構造を示す。
【0023】
図2に示すように、インクジェット式記録ヘッドの主要部は、一体成形された圧力室基板20の一方の面に、振動板30が形成され、振動板上に圧電体素子40が形成されて構成されている。圧力室基板20の他方の面には、ノズル11を有するノズル板10が貼り合わせられている。
【0024】
圧力室基板20は、シリコン単結晶基板等をエッチングすることにより、各々が圧力室として機能するキャビティ21が複数形成されたものであり、個々のキャビティにはインクが充填可能に形成される。側壁22は、エッチングされずに残った部分であり、キャビティ21間を仕切るよう形成される。リザーバ23は、各キャビティ21にインクを供給可能な共通の流路を構成するように形成されている。供給口24は、各キャビティ21にインクを導入可能に形成されている。
【0025】
振動板30は、圧電体素子40に生じた体積変化によって撓むことにより、キャビティ21に体積変化を起こさせるものである。振動板30上のキャビティ21に相当する位置には、圧電体素子40が形成されている。また、振動板30のうち、リザーバ23に相当する一部に、インクタンク口31が設けられている。振動板30は、図3に示すように、シリコン基板を熱酸化することによって形成される絶縁(SiO2)膜301および下部電極膜302を積層して形成される。ただし、下部電極膜302は、振動板全面に設ける必要はなく、圧電体素子40の部分やその他必要な部分にのみに設けるものであってもよい。
【0026】
圧電体素子40は、下部電極膜302上に圧電体層401と上部電極膜402とを積層して構成されている。圧電体層401は、例えば、PZT等の強誘電体セラミックスであって、電気機械変換作用を生ずるペロブスカイト結晶構造を備えている。なお、圧電体層401は一層のみならず複数の圧電体薄膜層を積層するものでも、異なる種類の圧電体薄膜層を積層するものでもよい。
【0027】
圧力室基板20のノズル側の面には、キャビティマスク311が設けられている。このキャビティマスク311は、キャビティをエッチングする際にマスクとして作用する膜であって、シリコンの熱酸化膜(SiO2)で形成される。
【0028】
ノズル板10は、キャビティ21に相当する位置にノズル11が設けられており、圧力室基板20に貼り合わせられて構成されている。
【0029】
さらに、図示しない駆動回路の出力端子と各圧電体素子40の上部電極膜402を結線し、駆動回路のアース端子と下部電極膜302とを結線して構成されている。
【0030】
特に、本実施形態のキャビティ21には、図3に示すように、振動板30を構成する絶縁膜301に凹部32が形成されている。また、振動板30と圧力室基板20とのキャビティ21側の境界には、ひさし部分26が形成されている。これら形状は、本発明のひさし除去工程により形成されるものである。
【0031】
(作用)
次に、本発明のインクジェット式記録ヘッド1におけるインク滴吐出の原理を説明する。圧電体素子40の下部電極膜302と上部電極膜402との間に電圧が印加されていない場合、圧電体層401は体積変化を生じない。したがって、電圧が印加されない圧電体素子40に対応するキャビティ21内の圧力に変化は生じず、ノズル11からインク滴は吐出されない。
【0032】
一方、圧電体素子40の下部電極膜302と上部電極膜402との間に、圧電体素子に体積変化を生じさせる電圧が印加されている場合、圧電体層401は体積変化を生じる。したがって、電圧が印加されている圧電体素子40が取り付けられた振動板30は大きくたわみ、そのキャビティ21内の体積を変化させる。このためキャビティ21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル11からインク滴が吐出される。
【0033】
(製造方法の説明)
次に、本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を、図4および図5を参照して説明する。
【0034】
絶縁膜形成工程(図4(A)): まず、シリコン等の組成を有する原盤201の一方の面に絶縁膜(SiO2)301を、他方の面にキャビティマスク311を形成する。原盤201は、数インチのシリコンウェハから形成するため、例えば200μm程度となる。絶縁膜301は、振動板として機能し得る程度の強度が得られるように、例えば1μm程度の厚みに形成する。キャビティマスク311も同様の工程で一時に形成される。絶縁膜の製造には、公知の熱酸化法等を用いる。
【0035】
なお、本実施形態では、圧電体素子40が設けられる振動板30が、ひさし除去工程におけるエッチングにより薄くなるので、この薄膜化されることを考慮した厚みに絶縁膜301を形成する必要がある。
【0036】
圧電体素子積層工程(同図(B)): 次いで絶縁膜301に下部電極膜302を形成する。下部電極膜302は、導電性を有する材料、例えば白金を0.5μm程度積層して形成する。また、複数の層を積層することは好ましい。例えば、チタン層、白金層、チタン層を0.005μm,0.5μm、0.02μmの厚みで積層することにより、上下の層との密着性を増すことができる。これら層の形成は、公知の直流スパッタ法等を用いる。
【0037】
圧電体層401は、圧電特性を有する強誘電体セラミックスを用いる。強誘電性セラミックスとしては、例えば、チタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3:PZT)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La)TiO3)、ジルコニウム酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr、Ti)O3):PLZT)またはマグネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Mg1/3Nb2/3)0.1(Zr、Ti)0.9O3)等を用いることができる。
【0038】
圧電体層401の形成には、ゾル−ゲル(sol-gel)法を用いる。まず、所定の強電界セラミックスで溶解液を調合する。その溶解液を一定の厚みに塗布しセラミックス層を複数層形成する。例えば、公知のスピンコート法を用いる場合には、毎分500回転で30秒、毎分1500回転で30秒、最後に毎分500回転で10秒間塗布する。塗布後、一定温度(例えば180度)で一定時間(例えば10分程度)乾燥させる。乾燥後、さらに有機溶媒を蒸発させるべく、大気雰囲気下において、所定の高温(例えば400度)で一定時間(30分間)脱脂する。この塗布、乾燥および脱脂を8回繰り返して8層のセラミックス層を積層する。
【0039】
セラミックス層を4層重ねた後と8層重ねた後には、さらに、セラミックス層の結晶化を促進し、圧電体としての特性を向上させるために、所定の雰囲気下で熱処理する。例えば、4層積層後、酸素雰囲気下において、高速熱処理(RTA)にて600度で5分間、さらに725度で1分間加熱する。8層積層後、酸素雰囲気下において、RTAにて650度で5分間、さらに900度で1分間加熱する。
【0040】
圧電体層全体の厚みは、あまりに厚くすると、製造工程が多くなり妥当なコストで製造できなくなったり、高い駆動電圧が必要となる。あまりに薄くすると、厚みを均一に形成できずエッチング後に分離された各圧電体素子の特性がばらついたりする。したがって、圧電体層の厚みは、450nm〜2000nm程度が好ましい。
【0041】
上部電極膜402は、圧電体層401に電圧を印加するための電極である。上部電極膜402は、導電性を有する材料、例えば白金(Pt)を0.1μm程度の厚みで形成される。
【0042】
圧電体素子成形工程(同図(C)): 圧電体成形工程では、圧電体層401および上部電極膜402を各キャビティ21の形状に合わせた形状になるようマスクし、その周囲をエッチングして圧電体素子の形状にする工程である。すなわち、スピンナー法、スプレー法等の方法を用いて均一な厚さのレジストを塗布し、露光・現像して、レジストを上部電極膜404上に形成する。これに、通常用いるイオンミリング、あるいはドライエッチング法等を適用して、不要な層構造部分を除去する。
【0043】
マスクエッチング工程(図5(A)): マスクエッチング工程では、エッチングマスク311をキャビティ21の形状に合わせて除去し、原盤の露出部分25を形成する。すなわち、スピンナー法、スプレー法等の方法を用いて均一な厚さのレジストを塗布し、露光・現像して、レジストをキャビティ形成部分のみを除く。次いでドライエッチング等の方法を使用して、エッチングマスク311を取り除く。ドライエッチングの他、イオントリミング法や、酸化ケイ素に対するエッチングレートの高いエッチング液を用いたウェットエッチングを使用できる。
【0044】
圧力室基板エッチング工程(同図(B)): 圧力室基板エッチング工程では、原盤201の露出部分25をエッチングして、キャビティ21を形成する。エッチング方法としては、例えば、湿式の異方性エッチング、平行平板型反応性イオンエッチング等の活性気体を用いた異方性エッチングを用いて、キャビティ空間のエッチングを行う。このエッチングは、選択比が高く、シリコン原盤のみを選択的にエッチングする。異方性エッチングといっても、原盤の面方向にも一定のエッチングレートで侵食が進む。このため、キャビティの開口部端部には、エッチングマスク311のひさし部分12が生ずる。特に、KOHを用いたシリコンの異方性エッチングでは、面方位によってエッチング速度差が大きく、ひさしが大きく形成されるところもある。
【0045】
ひさし除去工程(同図(C)): ひさし除去工程では、上記キャビティ21の開口端部に形成されたエッチングマスク311のひさし部分を、ウェットエッチングにより取り除く。このエッチングに用いるエッチング液は、エッチングマスク311をシリコン原盤201より高いエッチングレートでエッチングする選択比の高いものを用いる。例えば、エッチング液としては、フッ化アンモニウム等の緩衝剤がフッ化水素酸に混合されたものが好ましい。緩衝剤としてフッ化アンモニウムを用いる場合は、フッ化水素酸:フッ化アンモニウムを1:6の比で混合したエッチング液を用いる。このエッチング液によりウェットエッチングすると、酸化ケイ素が選択的にエッチングされる。絶縁膜301のキャビティ側の内面も同時にエッチングされるが、ひさし部分12は、開口部の内側からもエッチングされるため、絶縁膜301に比べ2倍の速度でエッチングされる。このためキャビティ21のひさし部分12がきれいに除去される。
【0046】
上述のように、キャビティの内面で露出している絶縁膜301も、酸化ケイ素により構成されているためエッチングされる。このことからキャビティ21の底面部分の絶縁膜301は、同図のような台形上の凹部32が形成されることになる。また、ウェットエッチングでは、ある程度等方性をもってエッチングされるため、凹部32の面方向にもエッチングによる侵食が進み、エッチングされずに残されたシリコン原盤が相対的に突出することとなる。このため絶縁膜301と原盤201との境界に、ひさし部分26が形成される。これら凹部32とひさし部分26が、本実施形態の製造方法を用いたことの形跡となる。
【0047】
ノズル板貼り合わせ工程(図3): ノズル板貼り合わせ工程では、エッチング後の原盤201にノズル板10を貼り合わせる。各ノズル11がキャビティ21各々の空間に配置されるよう位置合せしてノズル板10を貼り合わせる。張り合わせのための接着剤としては、例えばエポキシ樹脂等を用いる。ノズル板10が貼り合わせられたら、これを所定のモールドに取り付け、インクジェット式記録ヘッド1が完成する。
【0048】
上記したように、本実施形態1によれば、キャビティの形成過程で生ずる振動板のひさし部分をノズル板の貼り合わせ前に除去したので、振動板の破片が残されることによるノズル板の接着不良やノズルの目詰まりを防止することができる。したがって、本実施形態の製造方法を用いることにより、製品の歩留まりを良くして、インクジェット式記録ヘッドのコストを下げることができる。
【0049】
<実施形態2>
本発明の実施形態2は、上記第2の課題を解決するものである。
【0050】
本実施形態におけるインクジェット式記録ヘッド等の構成は上記実施形態1と同様なので、同一の部材には同一の符号を付することとし、その説明を省略する。
【0051】
次に、本実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する。本実施形態2は、上記実施形態1における製造方法の変形例に関する。圧力室基板エッチング工程(同図(B))までは上記実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0052】
レジスト層形成工程(図6(A)): レジスト層形成工程では、キャビティ21を形成後、キャビティ21の底部(同図の圧電体素子が設けられている絶縁膜上)にレジスト層50を設ける。このレジスト層50は、上記絶縁膜301をエッチングするエッチング液の侵食から振動板301を保護する役割を果たす。レジスト層50の形成方法としては、レジストをキャビティ21の底部に設けなければならない。例えば、ポジレジストをスピンナー法、スプレー法等の方法を用いて塗布し、キャビティ内に厚く溜まり、エッチングマスク上に薄くレジストを形成する。そして、エッチングマスク上のレジストのみ完全に露光可能で、レジストが厚く溜まっているキャビティ内では十分露光されないような条件で下で露光をする。最後に露光部分のみを現像で取り除き、露光されなかった部分をレジスト層50として残す。
【0053】
ひさし除去工程(同図(B)): ひさし除去工程は、上記実施形態1におけるひさし除去工程(図5(C))と同様に行う。エッチング液によって、ひさし部分12は除去されるが、キャビティ21の底部の絶縁膜301はレジスト層50によって保護されているのでエッチングされない。
【0054】
除去工程(図6(C)): 除去工程では、レジスト層50を除去する。ひさし部分12を除去した後には、レジスト層50が不要となるので、レジスト層50を十分露光させて現像して除去するか、プラズマアッシング装置等を用いてレジスト層50を除去する。レジスト層を除去したら、上記実施形態1と同様に、貼り合わせ工程によりノズル板10を貼り合わせる(図3参照)。
【0055】
上記したように本実施形態2によれば、ひさし部分の除去に先立ってキャビティにレジスト層を設けるので、振動板の厚みを一定に保つことができる。したがって、製品の歩留まりを良くして、インクジェット式記録ヘッドのコストを下げることができる。
【0056】
<その他の変形例>
本発明は、上記各実施形態によらず種々に変形して適応することが可能である。例えば、上記実施形態では、圧電体素子を形成後にシリコン原盤をエッチングしたが、圧電体素子を設ける工程はキャビティ形成後に行ってもよい。
【0057】
圧電体素子の層構造は上記実施形態に限らず、他の層構造を備えていてもよい。
【0058】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドの製造のみならず、シリコンウェハのエッチングにおいて、酸化膜のひさしが問題となるあらゆる産業分野に適用することが可能である。すなわち、本発明のひさし除去工程を適用することにより、シリコンウェハの表面に残された酸化膜の破片が生ずるのを防止し、その破片により生じていた障害を防止することができる。
【0059】
【発明の効果】
本発明によれば、圧力室の形成過程で生ずる振動板のひさしをノズル板の貼り合わせ前に除去したので、ノズル板の接着不良やノズルの目詰まりを防止し、もって製品の歩留まりを良くして、インクジェット式記録ヘッドのコストを下げることができる。
【0060】
本発明によれば、エッチングマスクのひさしを除去すると共に、振動板のエッチングの有無を選択可能とし、ヘッドのコンプライアンスを調整可能に構成したので、製品の均一性が向上し製品の歩留まりを良くして、インクジェット式記録ヘッドのコストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェット式記録ヘッドの斜視図一部断面図である。
【図2】本発明の圧電体素子の積層構造を説明する断面図である。
【図3】本発明のインクジェット式記録ヘッドにおける圧電体素子の製造方法を説明する製造工程断面図である。
【図4】実施形態1のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する製造工程断面図である。(A)は絶縁膜形成工程、(B)は圧電体薄膜形成工程および(C)は圧電体素子成形工程である。
【図5】実施形態1のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する製造工程断面図である。(A)は振動板エッチング工程、(B)は圧力室エッチング工程および(C)はひさし除去工程である。
【図6】実施形態2のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する製造工程断面図である。(A)はレジスト層形成工程、(B)はひさし除去工程および(C)は除去工程である。
【図7】従来の製造方法における問題点を説明する図である。
【符号の説明】
100…インクジェットプリンタ
10…ノズル板
11…ノズル
20…圧力室基板
21…キャビティ(圧力室)
22…側壁
23…リザーバ
24…供給口
30…振動板
31…インクタンク口
40…圧電体素子
101…シリコン基板
301…酸化ケイ素(SiO2)膜
302…下部電極膜
303…ひさし部分
401…圧電体層
402…上部電極膜
501…マスク
Claims (6)
- 圧力室が設けられた圧力室基板と、前記圧力室基板上に設けられた振動板と、前記振動板上に設けられた圧電体素子と、を備えたインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、
前記圧力室を形成するための前記圧力室基板の一方の面に前記振動板を形成する振動板形成工程と、
前記圧力室基板の他方の面にエッチングマスクを形成するエッチングマスク形成工程と、
前記エッチングマスクを前記圧力室の形状に合わせてエッチングし、前記圧力室基板を露出させるマスクエッチング工程と、
露出した前記圧力室基板を前記振動板が露出するまでエッチングする圧力室基板エッチング工程と、
前記エッチングマスクと前記圧力室基板とにより前記圧力室の開口端部に形成された当該エッチングマスクのひさし部分を、当該エッチングマスクを選択的にエッチングすることによって取り除くひさし除去工程と、を備えたことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。 - 前記ひさし除去工程の前に、前記振動板がエッチングされることを防止するためのレジスト層を、前記圧力室において露出している前記振動板の当該圧力室側に形成するレジスト形成工程と、
前記ひさし除去工程の後に、前記振動板の前記圧力室側に形成されたレジスト層を除去する除去工程と、を備えた請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。 - 前記ひさし除去工程では、前記エッチングマスクを前記圧力室基板より高いエッチングレートでエッチングするエッチング液によって前記エッチングマスクのひさし部分を取り除く請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
- 前記エッチング液は、フッ化アンモニウム等の緩衝剤がフッ化水素酸に所定の割合で混合されたものである請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
- 前記エッチングマスクは、酸化ケイ素であり、前記圧力室基板は、シリコンにより形成されている請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
- 前記振動板上に、電極膜で挟まれた前記圧電体素子を形成する工程をさらに備える請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
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