JP3682933B2 - 車両のロール制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車等の車両の走行時において、横加速度の発生により車体に生じるロール運動を当該横加速度の方向と大きさに応じてスタビライザーの捩り剛性力を制御しつつ抑制する車両のロール制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の形式の車両用ロール制御装置としては、例えば、特許出願人が先に提案した平成7年特許出願公開第40731号公報にみられるような油圧可変型のロール制御装置が知られている。
【0003】
すなわち、このものは、前後輪における各左右の車輪のサスペンションアームを連結するスタビライザーをそれぞれトーションバーの中央部分で二分割し、これら二分割した部分の一方を各スタビライザーの剛性力可変用油圧式ロータリアクチュエータ(以下、単にアクチュエータという)のハウジング側に、また、他方をロータ側にそれぞれ固定している。
【0004】
前後輪側における両アクチュエータの各対応する作動油室は、それぞれ給排流路によって相互に連通されており、かつ、これらの給排流路から枝分れした給排流路が直列に配設したフェールセーフバルブと差圧制御バルブとを通して油圧源に連通されている。
【0005】
また、差圧制御バルブとフェールセーフバルブの各切り換え用電磁ソレノイドは、車体側に発生した横加速度の方向と大きさに対応して車体横加速度信号を出力する制御装置へと結ばれている。
【0006】
上記制御装置は、車両の走行中において車体に横加速度が作用したときに当該横加速度の方向と大きさを車体横加速度信号として検出し、この車体横加速度信号でフェールセーフバルブをノーマル位置からオフセット位置に切り換えると共に、車体横加速度信号の方向と大きさに対応して差圧制御バルブを切り換え制御するようにしてある。
【0007】
一方、フェールセーフバルブは、ノーマル位置にあるときに差圧制御バルブを通して油圧源をアンロードしつつ、かつ、前後輪側のアクチュエータをブロックし、オフセット位置では、油圧源をオンロードして差圧制御バルブと各アクチュエータを相互に連通し、これらアクチュエータを作動状態に切り換える。
【0008】
差圧制御バルブは、車体横加速度信号である制御信号電流が基準電流のときに中立位置を保持して差圧ゼロの状態を保つと共に、基準電流からのプラスおよびナイナス側への変化とこれら制御信号電流の電流値変化に対応して所定の方向に所定の量だけ切り換え動作して差圧制御を行う。
【0009】
かくして、車体に横加速度が作用したときにフェールセーフバルブがオフセット位置に切り換わって油圧源をオンロード状態にすると共に、車体に作用した横加速度の方向と大きさに対応して差圧制御バルブが前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータの両作動油室に加わる差圧を並行して制御する。
【0010】
このことから、車両の走行状態への操作(自動車であればイグニッションのオン操作)と連動して制御装置をオンにし、このとき制御装置が差圧制御バルブに制御信号電流として基準電流を流すようにしておく。
【0011】
これにより、直進走行時のように車体に横加速度が作用しないときには、制御装置が基準電流により差圧制御バルブを差圧ゼロの状態である中立位置に保ったまま、フェールセーフバルブへの通電を断って当該フェールセーフバルブをノーマル位置に保持し、当該フェールセーフバルブを通して油圧源をアンロードすることで省エネルギーを図る。
【0012】
また、これと同時に、フェールセーフバルブが前後輪用のスタビライザーに設けたアクチュエータをブロックし、前後輪用のスタビライザーを通常のスタビライザーとして作用させることになる。
【0013】
それに対して、車両が旋回走行(コーナリング)に入って車体に横加速度が作用するようになると、制御装置で検出した車体横加速度信号に基づいてフェールセーフバルブに通電が行われ、フェールセーフバルブをオフセット位置に切り換えて油圧源をオンロード状態にすると共に、差圧制御バルブを各アクチュエータへと連通する。
【0014】
そして、これと併せて、制御装置が当該横加速度の方向と大きさに対応して基準電流からプラスまたはマイナス側にずれた制御信号電流を発生する。
【0015】
この制御信号電流により差圧制御バルブを車体に作用した横加速度の方向と大きさに対応して所定の方向に所定の量だけ切り換え動作し、これら差圧制御バルブで発生する差圧を制御して前後輪用のスタビライザーに設けた各アクチュエータに並行して加える。
【0016】
その結果、前後輪用のアクチュエータが車体横加速度の方向と大きさに対応した方向の回転力を発生し、これら回転力により前後輪用のスタビライザーに捩り剛性力を与えてそのとき遠心力で車体に作用するロールモーメントと対抗する反対方向のロールモーメントを車体に加え、当該車体に生じるロール運動を効果的に抑制する。
【0017】
次いで、車両が旋回走行を終えて直進走行に入ると、制御装置からの制御信号電流が再び基準電流になって差圧制御バルブが中立位置を保持し、かつ、車体横加速度信号もなくなってフェールセーフバルブがノーマル位置をとる。
【0018】
これにより、フェールセーフバルブが、前後輪用のアクチュエータをそれぞれブロックして前後輪用のスタビライザーを通常の作用状態に戻すと共に、油圧源をもアンロードして制御装置はオン操作したときの元の状態に戻る。
【0019】
一方、車体に横加速度が作用しない状態で車両が走行しているとき(例えば、直進走行時)に、制御装置の基準電流がゼロになるような異常事態が発生したときには、差圧制御バルブが前後輪用のアクチュエータの回転力を最大に制御する差圧最大位置(制御装置をオン操作する前の位置)へと切り換わる。
【0020】
そのために、前後輪用のアクチュエータに加わる差圧が最大制御値となり、前後輪用のスタビライザーを通して車体を一方側に大きく傾けようとするが、しかし、このときには、制御装置から出力される車体横加速度信号もなくなっているのでフェールセーフバルブがノーマル位置に戻っている。
【0021】
したがって、前後輪側のアクチュエータがフェールセーフバルブによって共にブロックされ、前後輪におけるスタビライザーを通常の作用状態の下で動作させつつ車体のロールを抑制してフェールセーフを行うと同時に、フェールセーフバルブで油圧源をアンロードして省エネルギーをも果すことになる。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、上記した従来の車両のロール制御装置にあっては、車体に生じた横加速度を制御装置で検出して差圧制御バルブを切り換え制御しつつ当該差圧制御バルブで横加速度に応じた差圧を発生する。
【0023】
そして、この差圧を前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに加え、これら差圧により前後輪側のアクチュエータを通して各スタビライザーにそれぞれ作用する剛性力の配分比を一定値に保って車体のロール運動を抑制するようにしている。
【0024】
かくして、旋回走行時に遠心力で車体が横方向へと傾くのを前後輪側でそれぞれ適切に抑え、設計上でのタイヤのもつ能力を最大限に保つことで旋回走行中でのステアリング特性の向上を図っている。
【0025】
この点において、上記した従来の車両のロール制御装置は、旋回走行時の安定性(安全性)の確保という大きな面でこれをみれば極めて有効な手段であると言うことができる。
【0026】
しかし、その反面、前後輪側のアクチュエータを通して前後輪用のスタビライザーに加える付加剛性力の配分比が常に不変であることから、旋回走行の全般に亙っての車両としてのステアリング特性は何等変わらず、このような点を含めて従来の車両のロール制御装置みた場合は必ずしも最良のものとは言えない。
【0027】
何となれば、車両のステアリング特性は、走行時の安定性を考慮して通常弱アンダステアリングにセッティングされているのが一般であって、このように安定であるということは逆に変化に対して鈍感であるということになる。
【0028】
そのために、前後輪側のアクチュエータによる前後輪用のスタビライザーへの付加剛性力の配分比が不変であると、旋回走行の初期から終期に亙っての全般のステアリング特性が予め車両にセッティングされた弱アンダステアリングのままとなる。
【0029】
その結果、旋回走行の初期の時点にあっては、ハンドルを切った程には車両が内側に向かないという回頭性の悪さがでてくるし、また、ハンドルを戻して直進走行へと復帰する終期の時点にあっても、ハンドルを戻した程には車両が外側に向かないという収斂性の悪さがでてくる。
【0030】
勿論、これを防ぐためには、前後輪側のアクチュエータの有効受圧面積に差を与えて車体が横加速度を受けたときに前後輪用のスタビライザーの一方のロール剛性力が他方のロール剛性力よりも大きくなるように車体のロール制御を行ってやればよい。
【0031】
すなわち、このようにすれば、旋回走行時に車体に生じた横加速度によって有効受圧面積を大きくとった側の荷重移動が他方の荷重移動よりも大きくなり、荷重移動が大きくなった側の左右輪のトータルでのコーナリングフォースが小さくなる。
【0032】
コーナリングフォースが小さいと遠心力に対して滑り易くなり、当該有効受圧面積を大きくとった側の左右輪が他方の左右輪に比べて大きく外側へと滑り、車両としてのステアリング特性が変わる。
【0033】
このことから、後輪側におけるアクチュエータの有効受圧面積を大きくとってやれば、車両としてのステアリング特性がオーバステアリング傾向となってハンドルを切ったときとハンドルを戻したときの車両の向きの変化が俊敏となり、旋回走行の初期での車両の回頭性と終期での収斂性が向上することになる。
【0034】
しかし、このようにしたとても、前後輪用のスタビライザーに作用する付加剛性力の配分比は不変であることから、旋回途中でもステアリング特性がオーバステアリング傾向を保持したままとなり、外乱に対し不安定となってギャップの乗り越しや旋回途中でのブレーキングでスピンに陥る危険性が生じる。
【0035】
したがって、この発明の目的は、旋回走行中での安定性と操縦性の両方を確保しつつ、かつ、これらと併せて、旋回走行時における過渡的な初期での回頭性や終期での収斂性をも良好に保つことができる油圧可変型の車両用ロール制御装置を提供することである。
【0036】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の一つの手段は、 制御装置からの車体横加速度信号によって差圧制御バルブを切り換え制御しつつ、当該差圧制御バルブで前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに加わる差圧を制御して車体のロールを抑制するようにした油圧可変型のロール制御装置において、上記前後輪用のスタビライザーの一方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路に、絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装し、更に、各絞りの下流側に調圧器からなる圧力調整機構を設け、当該調圧器をケースと、ケース内に往復動自在に挿入した仕切部材と、ケース内に仕切部材で区画された二つの可変容積室とで構成し、この調圧器の可変容積室を個々に剛性力可変用アクチュエータの各給排流路に流路を介して繋いだことを特徴とする。
同じく他の手段は、制御装置からの車体横加速度信号によって差圧制御バルブを切り換え制御しつつ、当該差圧制御バルブで前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに加わる差圧を制御して車体のロールを抑制するようにした油圧可変型のロール制御装置において、上記前後輪用のスタビライザーの一方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路に、絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装し、更に、各絞りの下流側に調圧器からなる圧力調整機構を設け、当該調圧器をケースと、ケース内に往復動自在に挿入した仕切部材と、ケース内に仕切部材で区画された二つの可変容積室とで構成し、この調圧器の可変容積室を剛性力可変用アクチュエータの給排流路に直列に接続させたことを特徴とする。
同じく,他の手段は、制御装置からの車体横加速度信号によって差圧制御バルブを切り換え制御しつつ、当該差圧制御バルブで前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに加わる差圧を制御して車体のロールを抑制するようにした油圧可変型のロール制御装置において、上記前後輪用のスタビライザーの一方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路に、絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装する一方、他方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路には、上記絞りに対して流動抵抗を異にする絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装し、更に、各絞りの下流側に調圧器からなる圧力調整機構を設け、当該調圧器をケースと、ケース内に往復動自在に挿入した仕切部材と、ケース内に仕切部材で区画された二つの可変容積室とで構成し、この調圧器の可変容積室を個々に剛性力可変用アクチュエータの各給排流路に流路を介して繋いだことを特徴とする。
更に別の手段は、 制御装置からの車体横加速度信号によって差圧制御バルブを切り換え制御しつつ、当該差圧制御バルブで前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに加わる差圧を制御して車体のロールを抑制するようにした油圧可変型のロール制御装置において、上記前後輪用のスタビライザーの一方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路に、絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装する一方、他方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路には、上記絞りに対して流動抵抗を異にする絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装し、更に、各絞りの下流側に調圧器からなる圧力調整機構を設け、当該調圧器をケースと、ケース内に往復動自在に挿入した仕切部材と、ケース内に仕切部材で区画された二つの可変容積室とで構成し、この調圧器の可変容積室を剛性力可変用アクチュエータの給排流路に直列に接続したことを特徴とする。
【0037】
すなわち、上記のように構成することにより、車体に生じた横加速度に応じて差圧制御バルブにより制御された差圧は、当該差圧の立ち上がり時(増大時)および下降時(減少時)の如何を問わず横加速度の変化によって作動油の流れが生じたときに、給排流路に介装した絞りの流動抵抗或いは流動抵抗差で一方のアクチュエータに対する伝達に時間的な遅れが生じる。
【0038】
この遅れによって前後輪側のそれぞれのアクチュエータが前後輪用のスタビライザーに対して加える付加剛性力の立ち上がりおよび下降に時間的な差が生じることになる。
【0039】
その結果、付加剛性力の立ち上がり時には、差圧の伝達に遅れを生じた側のスタビライザーのロール剛性力よりも他方の側のスタビライザーのロール剛性力が大きくなる。
【0040】
また逆に、付加剛性力の下降時にあっても、上記差圧の伝達に遅れを生じた側のスタビライザーのロール剛性力が他方の側のスタビライザーのロール剛性力よりも大きくなる。
【0041】
ロール剛性力が大きくなると、旋回走行時における左右車輪間の荷重移動が大きくなって左右車輪のトータルでのコーナリングフォースが小さくなり、ロール剛性力が大きくなった側の左右車輪がより大きく外側へと滑って車両としてのステアリング特性がオーバステアリングまたはアンダステアリング傾向に切り換わる。
【0042】
続いて、差圧の伝達に遅れを受けない側のアクチュエータによる付加剛性力が車体の横加速度に見合った値(所定値またはゼロ)になると、この側のアクチュエータへの作動油の給排が止まって当該アクチュエータは付加剛性力をその値に保ったまま停止する。
【0043】
一方、その間にも、差圧の伝達に遅れを生じた側のアクチュエータには作動油の給排が継続して行われ、当該アクチュエータによる付加剛性力が上記他方のアクチュエータの付加剛性力に追い付いて同じ値に達したときに、前後輪側のアクチュエータに対する作動油の給排が共に止まって絞りによる流動抵抗の影響が消失し、これら両アクチュエータは同じ差圧状態を保って停止する。
【0044】
かくして、当該ロール制御装置は、以後、車体に生じた横加速度が一定で変化しない限り、ステアリング特性を予め車両にセッティングしておいた弱アンダステアリングに保って、スタビライザーに対し所期の付加剛性力を加えつつ車体のロールを抑制することになる。
【0045】
このことから、絞りとチェックバルブを並列にして前輪側のアクチュエータの給排流路にそれぞれ介装するなり、それと併せて同時に後輪側のアクチュエータの給排流路にも流動抵抗の小さい絞りとチェックバルブをそれぞれ並列にして介装したとする。
【0046】
すると、差圧が立ち上がる旋回走行の初期におけるハンドルの切り始め、および差圧が下降する終期での直進走行に戻るハンドルの戻し時における過渡期において、前輪側のアクチュエータに加わる差圧の立ち上がりおよび下降が後輪側のそれに比べて遅れる。
【0047】
その結果、差圧が立ち上がる旋回走行の初期のハンドルを切り始め時には、後輪用のスタビライザーのロール剛性配分が大きくなって荷重移動が大となり、後方の左右車輪が外側へとより大きく滑ることから、ステアリング特性がオーバステアリング傾向となってカーブが切り易くなり、旋回走行の初期である過渡期での車両の回頭性が向上する。
【0048】
それに対して、差圧が下降する直進走行へと戻る終期でのハンドルの戻し時には、上記と逆に、前輪用のスタビライザーのロール剛性配分が大きくなって前方の左右車輪が外側へとより大きく滑り、ステアリング特性がアンダステアリング傾向となる。
【0049】
しかし、これによっては、予め車両に設定された弱アンダステアリングのセッティングが増すだけで、特に、車両としての走行安定性の面で阻害要因となることはない。
【0050】
そして、これらの過渡期を過ぎた旋回走行中および当該旋回走行から直進走行に戻った後は、前輪側のアクチュエータの差圧が後輪側のアクチュエータの差圧に車体の横加速度が一定或いはゼロを保って両アクチュエータが同じ差圧状態の下で停止し、これらアクチュエータに対する作動油の給排が止まって絞りによる流動抵抗の影響が消失する。
【0051】
そのために、ステアリング特性が予め車両にセッティングしておいた弱アンダステアリングに復帰し、外乱に対し車両がふらつかない安定性の高いステアリング特性に戻ることになる。
【0052】
一方、絞りとチェックバルブを上記とは逆にして後輪側或いは前後輪側の給排流路へと介装するようにしてやれば、これら絞りによる作用が前後輪で先の場合と反対になって、旋回走行の初期におけるハンドルの切り始めと直進走行に戻る終期でのハンドルの戻し時において、後輪側のアクチュエータに加わる差圧の立ち上がりおよび下降が前輪側に比べて後輪側で遅れる。
【0053】
その結果、差圧が立ち上がる旋回走行の初期のハンドルを切り始め時には、前輪用のスタビライザーのロール剛性配分が大きくなって前方の左右車輪が外側へとより大きく滑り、ステアリング特性がアンダステアリング傾向となる。
【0054】
しかし、これによっては、予め車両に設定された弱アンダステアリングのセッティングが増すだけで車両としての走行安定性の面で特に阻害要因となることはない。
【0055】
それに対して、差圧が下降する直進走行へと戻る終期でのハンドルの戻し時には、上記と逆に、後輪側のスタビライザーのロール剛性配分が大きくなって後方の左右車輪が外側へとより大きく滑り、ステアリング特性がオーバステアリング傾向となることからハンドルを戻す方向に速やかに車両が向きを変え、旋回走行から直進走行に戻る過渡期での車両の収斂性が向上する。
【0056】
しかも、これらの過渡期を過ぎた旋回走行中と直進走行に戻った後は、先の場合と同様に、ステアリング特性が本来の弱アンダステアリングに復帰して外乱に対し車両がふらつかない安定性の高いステアリング特性に戻ることになる。
【0057】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態は図9,図10に示されているが、これを説明する前に基本的な構成を説明する。図1は、この発明による油圧可変型の車両用ロール制御装置の基本的な油圧回路の系統図として示したものである。
【0058】
すなわち、前輪用のスタビライザー1fは、トーションバーの部分を中央で二分割し、この分割した部分の一方を前輪側におけるロータリ式のアクチュエータ2fのハウジング側に、また、他方をロータ側に固定して構成してある。
【0059】
同様に、後輪用のスタビライザー1rもまた、それをトーションバー部分の中央で二分割し、この分割した部分の一方を後輪側におけるロータリ式のアクチュエータ2rのハウジング側に、また、他方をロータ側に固定することによって構成してある。
【0060】
この実施の形態の場合、上記した前輪側のアクチュエータ2fと後輪側のアクチュエータ2rは、図2に示すように、内壁面に180度の間隔を保って構成した二つの隔壁3a,3bをもつハウジング4と、このハウジング4の内部に対して外周面に同じく180度の間隔を置いて構成した二枚のベーン5a,5bをもつロータ6を回動自在に納めて構成してある。
【0061】
ロータ6は、中心部分をハウジング4の内壁に設けた隔壁3a,3bの先端に摺接し、かつ、ベーン5a,5bの先端をハウジング4の内壁に摺接させることによって、ハウジング4内をロータ6で四つの作動油室7a,7b,8a,8bに区画している。
【0062】
これら四つの作動油室7a,7b,8a,8bのうち対角位置にある作動油室7aと7bおよび作動油室8aと8bは、ロータ6に穿った通孔9a,9bでそれぞれ互いに連通しており、かつ、ハウジング4には、作動油室7a,8aに開口するポート10,11が穿設してある。
【0063】
これにより、前後輪側のアクチュエータ2f,2rは、ポート10,11を通して作動油室7a,7bと作動油室8a,8b間に差圧を加え、この差圧の向きを変えることでそれぞれの前後輪用のスタビライザー1f,1rに対して所定の方向の捩り力(付加剛性力)を与えるようにしてある。
【0064】
かくして、前輪側のアクチュエータ2fは、前輪用のスタビライザー1fに対する剛性力可変用のアクチュエータとして作用すると共に、後輪側におけるアクチュエータ2rは、後輪用のスタビライザー1rに対する剛性力可変用アクチュエータとしてそれぞれ作用することになる。
【0065】
図1に戻って、前後輪側のアクチュエータ2f,2rにおけるそれぞれのポート10,11は、それらから延びる給排流路12a,12b,13a,13bのうち互に対応するもの同志を、すなわち、同じ方向のロール反力が働く給排流路12a,13aと給排流路12b,13b同志を一緒にして、個々に差圧制御バルブ14の出力側である制御ポートA,Bへと結んでいる。
【0066】
差圧制御バルブ14から前輪側のアクチュエータ2fの各ポート10,11に向う給排流路12a,12bには、絞り15a,15bと作動油の排出側の流れのみを許容するチェックバルブ16a,16bとをそれぞれ並列にして介装してある。
【0067】
上記差圧制御バルブ14の入力側である圧力ポートPと戻りポートRは、油圧回路17a,17bを通して油圧源18の油圧ポンプ19とリザーバ20とにそれぞれ通じている。
【0068】
そして、これら油圧回路17a,17bの途中にスプリングオフセット式の電磁オン・オフバルブで構成したフェールセーフバルブ21を介装し、当該フェールセーフバルブ21で制御系の異常発時におけるフェールセーフ効果を果すようにしてある。
【0069】
なお、上記した差圧制御バルブ14とフェールセーフバルブ21としては、従来から各種の油圧機器において広く一般に用いられているものをそのまま適用すればよく、それらの構成についてはよく知られていることであるのでここでは詳細な説明を省略する。
【0070】
一方、上記と併せて、車体に生じた横加速度によりフェールセーフバルブ21をオフセット位置に切り換えると共に、差圧制御バルブ14を制御動作して前後輪側のアクチュエータ2f,2rにより前後輪用のスタビライザ1f,1rのそれぞれの捩り剛性力を制御するための制御装置22が配設してある。
【0071】
上記制御装置22は、車体に生じた横加速度の方向と大きさを車体横加速度信号として検知する横加速度検出器23(車体に設けた横加速度センサ)と、これら車体横加速度信号を処理して差圧制御バルブ14とフェールセーフバルブ21を制御動作するコントローラ24とからなっている。
【0072】
コントローラ24は、二つの出力端子25,26を備え、これらの各出力端子25,26を信号線27,28で差圧制御バルブ14の電磁ソレノイド14aとフェールセーフバルブ21の電磁ソレノイド21aに結び、当該制御装置22で差圧制御バルブ14とフェールセーフバルブ21とを切り換え制御するようにしてある。
【0073】
次に、図1のように構成した基本的な車両のロール制御装置の作動について説明する。
【0074】
例えば、車両が直進走行をしているときのように車体に対するロール制御を必要としないときには、制御装置22における横加速度検出器23からの車体横加速度信号(検出信号)がないので、当該制御装置22は、先に述べた従来例と同様にコントローラ24の出力端子25からのみ基準電流を出力する。
【0075】
これによって、フェールセーフバルブ21が図1のノーマル位置を保持したまま、差圧制御バルブ14が図1の状態から制御差圧ゼロの中立位置へと切り換わる。
【0076】
そのために、油圧源18の油圧ポンプ19から吐出された作動油は、フェールセーフバルブ21により当該油圧源18のリザーバ20へとアンロードされて省エネルギーが図られる。
【0077】
また、フェールセーフバルブ20は、これと同時に、前後輪側のアクチュエータ2f,2rの各ポート10,11を給排流路12a,12b,13a,13bの部分でそれぞれブロックし、これら前後輪側のアクチュエータ2f,2rを剛体化して前後輪用のスタビライザー1f,1rを通常のスタビライザーとして作用させることになる。
【0078】
それに対して、車両が旋回走行に入って車体に横加速度が発生すると、制御装置22の横加速度検出器23が車体に作用した横加速度の方向と大きさとを検出し、これを車体横加速度信号としてコントローラ24に入力する。
【0079】
コントローラ24は、この車体横加速度信号に基いて出力端子26から信号線28を通してフェールセーフバルブ21の電磁ソレノイド21aに対し通電を行い、当該フェールセーフバルブ21を図1における下側のノーマル位置から上側のオフセット位置へと切り換える。
【0080】
これにより、油圧源18の油圧ポンプ19から吐出された圧力作動油が差圧制御バルブ14の圧力ポートPに送り込まれると共に、差圧制御バルブ14の戻りポートRは油圧源18のリザーバ20へと連通される。
【0081】
一方、コントローラ24は、横加速度検出器23からの車体横加速度信号に基いて車体の横加速度の方向と大きさに対応した制御信号電流を演算し、当該制御信号電流を出力端子25から次々と出力する。
【0082】
上記コントローラ24の出力端子25から出力された制御信号電流は、信号線27を通して差圧制御バルブ14の電磁ソレノイド14aに通電され、当該差圧制御バルブ14を車体に生じた横加速度の方向と大きさに対応して切り換え制御する。
【0083】
これにより、差圧制御バルブ14は、制御ポートA,B間における差圧を車体に生じた横加速度の方向と大きさに対応して制御しつつ当該制御ポートA,Bを通して出力し、当該差圧を給排流路12a,12b,13a,13bから前後輪側のアクチュエータ2f,2rの各ポート10,11に加える。
【0084】
このとき、上記差圧制御バルブ14によって制御された差圧は、後輪側のアクチュエータ2rのポート10,11間には給排流路13a,13bを通して直に伝えられる。
【0085】
それに対して、前輪側のアクチュエータ2fのポート10,11間には、給排流路12a,12bにより絞り15a,15bとチェックバルブ16a,16bを通して伝えられることになる。
【0086】
そのために、前後輪側のアクチュエータ2f,2rは、これらの差圧によって以下のように動作しつつ、前後輪用のスタビライザー1f,1rに対し付加剛性力を加えて車体のロールを抑制する。
【0087】
なお、ここで、上記した車体のロール抑制動作を説明するに当り、その理解を容易にするために、次のような設定条件の下で車体のロール制御が行われるものとする。
【0088】
車体に生じた横加速度の方向と大きさに応じて制御装置22から出力される基準電流の増加分である制御信号電流X(例えば、右旋回時)と減少分である制御信号電流−X(左旋回時)が図3に示すような特性をもち、かつ、差圧制御バルブ14がこれら増加分および減少分の制御信号電流X,−Xに比例した差圧を出力するものとする。
【0089】
また、差圧制御バルブ14から前後輪側のアクチュエータ2f,2rの各ポート10,11に通じる給排流路12a,12bおよび給排流路13a,13bでの流動抵抗(損失)を無視したとする。
【0090】
すると、後輪側のアクチュエータ2rの両ポート10,11間に作用する差圧は、右旋回時と左旋回時においてそれぞれ図4において実線で示したように、図3の制御信号電流X,−Xに比例した特性x(右旋回時),−x(左旋回時)となる。
【0091】
それに対して、前輪側のアクチュエータ2fのポート10,11間に作用する差圧は、図4に一点鎖線で示されているように、給排流路12a,12bを通して作動油が流れている限り絞り15a,15bによる圧損を受けて当該作動油の流量に応じた圧力下降を生じる。
【0092】
このことから、旋回走行時の初期におけるハンドルの切り始めの差圧の変化時のように、絞り15aとチェックバルブ16b或いは絞り15bとチェックバルブ16aを通して作動油が流れている過渡期において、後輪側のアクチュエータ2rへの差圧の伝達に比べて前輪側のアクチュエータ2fへの差圧の伝達に遅れが生じる。
【0093】
すなわち、前輪側のアクチュエータ2fに作用する差圧は、後輪側のアクチュエータ2rに作用する差圧の特性x,−xに比べて図4に一点鎖線で示したような特性y(右旋回時),−y(左旋回時)となる。
【0094】
この前輪側のアクチュエータ2fに作用する差圧の伝達の遅れによって、前後輪用のスタビライザー1f,1rに対する付加剛性力の立ち上がりに時間的な差が生じ、その間、後輪用のスタビライザー1rのロール剛性力が前輪用のスタビライザー1fのロール剛性力よりも大きくなる。
【0095】
ロール剛性力が大きくなると、旋回走行時における左右車輪間の荷重移動が大きくなって左右車輪のトータルでのコーナリングフォースが小さくなり、当該左右車輪が滑り易くなってより大きく外側へと滑る。
【0096】
その結果、旋回走行時における初期のハンドルを切り始め時には、後輪側の左右車輪が外側へとより大きく滑ってステアリング特性がオーバステアリング傾向となり、カーブを切り易くなることから車両としての回頭性が向上する。
【0097】
そして、車両が上記した初期の経過を経て旋回走行に入ると、当該旋回走行中は車体に生じる横加速度が一定となって制御装置22からの制御信号電流が一定値となり変化しないようになる。
【0098】
制御装置22からの制御信号電流が一定値になると、差圧制御バルブ14の制御差圧も一定となって後輪側のアクチュエータ2rの動きが止まり、続いて、前輪側のアクチュエータ2fの差圧が後輪側のアクチュエータ2rの差圧に追い付いて同じ値となる。
【0099】
その結果、この時点で給排流路12a,12b,13a,13bを通る作動油の流れがなくなって絞り15a,15bによる圧力下降が消失し、これら前後輪側のアクチュエータ2f,2rは同じ差圧を保って停止する。
【0100】
これにより、ステアリング特性が、予め車両にセッティングされた弱アンダステアリングとなって外乱に対し車両がふらつかない安定性の高いステアリング特性に戻ると共に、前後輪側のアクチュエータ2f,2rが制御装置22からの制御信号電流に応じた差圧を保持し、所期した付加剛性力を前後輪用のスタビライザー1f,1rに加えて車体のロールを効果的に抑制することになる。
【0101】
また、旋回走行から直進走行に戻る終期でのハンドルの戻し時にあっては、上記と逆の絞り15a,15bとチェックバルブ16a,16bを通して作動油が流れるために、同じく図4にみられるように、前輪側のアクチュエータ2fにおける差圧の伝達が後輪側のアクチュエータ2rへの差圧の伝達に比べて遅れることになる。
【0102】
この前輪側のアクチュエータ2fにおける差圧の伝達の遅れにより、この場合には、当該前輪側のアクチュエータ2fの付加剛性力が後輪側のアクチュエータ2rの付加剛性力よりも大きくなる。
【0103】
そのために、前輪用のスタビライザー1fのロール剛性配分が大きくなって前方の左右車輪が外側へとより大きく滑り、ステアリング特性がアンダステアリング傾向となる。
【0104】
しかし、これによっては、予め車両に設定された弱アンダステアリングのセッティングが増すだけで、特にこれが車両としての走行安定性の面で阻害要因となることはない。
【0105】
そして、車両が旋回走行から直進走行に戻ったのちは、車体に生じる横加速度がゼロとなって制御装置22からの制御信号電流が基準電流となり、差圧制御バルブ14の制御差圧が旋回走行開始前のゼロの状態になって前後輪側のアクチュエータ2f,2rによる付加剛性力が消失する。
【0106】
これにより、前後輪用のスタビライザー1f,1rのロール剛性力が旋回走行開始前の状態に戻ってステアリング特性が予め車両にセッティングしておいた初期の状態へと復帰し、ステアリング特性を弱アンダステアリングにして外乱に対し車両がふらつかない安定性の高いステアリング特性に戻ることになる。
【0107】
なお、上記した車体のロール制御時において、絞り15a,15bと並列にして介装したチェックバルブ16a,16bは、作動油の供給側の流れに対しては閉じたまま当該作動油を絞り15a,15bからのみ流すと共に、排出側の流れに対しては容易に開いて殆ど抵抗なく作動油を流すように作用する。
【0108】
したがって、前回走行時におけるハンドルの切り始めと戻し時の何れにあっても、絞り15a,15bによる供給側の作動油の流れの時間遅れに排出側の作動油の流れが影響を与えることがなく、前輪用のスタビライザー1fに対して所期の遅れをもった付加剛性力を加えることになる。
【0109】
図5は、これまで述べた図1の基本回路とは反対に、絞り15a、15bとチェックバルブ16a、16bを後輪側の給排流路13a、13bの途中に介装した場合の油圧回路の系統図を示したものである。
【0110】
この場合には、差圧制御バルブ14で制御された差圧が前輪側のアクチュエータ2fへと給排流路12a,12bを通して直に伝えられるのに対して、後輪側のアクチュエータ2rには、給排流路13a,13bから絞り15a,15bとチェックバルブ16a,16bを通して伝えられる。
【0111】
これにより、前後輪側のアクチュエータ2f,2rに対して作用するそれぞれ差圧の特性x,−xとy,−yが図4において逆転し、旋回走行での初期のハンドルの切り始めと終期でのハンドルの戻し時にける後輪側への差圧の伝達が前輪側への差圧の伝達に比べて遅れる。
【0112】
そのために、旋回走行時の初期のハンドルを切り始め時には、前輪側のロール剛性配分が大きくなって前方の左右車輪が外側へとより大きく滑り、ステアリング特性がアンダステアリング傾向となる。
【0113】
しかし、これによっては、予め車両に設定された弱アンダステアリングのセッティングが増すだけで車両としての走行安定性の面で特に阻害要因となることはない。
【0114】
それに対して、直進走行に戻る終期でのハンドルの戻し時にあっては、上記とは逆に、後輪側のロール剛性配分が大きくなって後方の左右車輪が外側へとより大きく滑り、ステアリング特性がオーバステアリング傾向となることからハンドルを戻す方向に対して速やかに車両が向きを変え、走行車両としての収斂性が向上する。
【0115】
しかも、ハンドルを切り始めた初期の過渡期を過ぎて旋回走行に入った後と旋回走行から直進走行に戻った後は、先の図1の実施の形態の場合と同様に、車体に生じる横加速度が一定値或いはゼロとなってとなって制御装置22からの制御信号電流が一定値または基準電流となる。
【0116】
差圧制御バルブ14の制御差圧が一定値或いはゼロを保つようになると、何れの場合にあっても前輪側のアクチュエータ2fの動きが止まると共に、これに遅れて後輪側のアクチュエータ2rが止まる。
【0117】
その結果、給排流路12a,12b,13a,13bを通る作動油の流れがなくなって絞り15a,15bによる圧力降下が消失し、前後輪側のアクチュエータ2f,2rに作用する差圧は同圧またはゼロとなる。
【0118】
したがって、旋回走行中は、前後輪側のアクチュエータ2f,2rが差圧制御22からの制御信号電流に応じた所定の付加剛性力を前後輪用のスタビライザー1f,1rに加えつつ車体のロールを抑制し、また、直進走行に戻った後は、ステアリング特性が本来の弱アンダステアリングに復帰して外乱に対し車両がふらつかない安定性の高い特性に戻ることになる。
【0119】
図6は、前輪側のアクチュエータ2fに通じる給排流路12a,12bに絞り15a,15bとチェックバルブ16a,16bをそれぞれ並列にして介装すると共に、後輪側のアクチュエータ2rに通じる給排流路13a,13bにも、上記絞り15a,15bに対して流動抵抗を異にする絞り15c,15dとチェックバルブ16a,16bをそれぞれ並列にして介装した場合の他の基本的な油圧回路の系統図を示している。
【0120】
そして、このものにあっても、旋回走行の初期および終期における過渡的な作動油の流動に際して、給排流路12a,12b側の絞り15a,15bと給排流路13a,13b側の絞り15c,15dとの流動抵抗の相違により、前輪側のアクチュエータ2fと後輪側のアクチュエータ2rとの間でそれぞれの差圧の伝達に時間的な差が生じる。
【0121】
このことから、給排流路12a,12b側の絞り15a,15bの絞り抵抗を給排流路13a,13b側の絞り15c,15dの絞り抵抗よりも大きくしてやれば、図1の系統図と同様に、前輪側のアクチュエータ2fへの差圧の伝達が後輪側のアクチュエータ2rへの差圧の伝達よりも遅れる。
【0122】
また、絞り抵抗の大きさを上記と逆にしてやれば、今度は、図5の系統図と同様に、前輪側のアクチュエータ2fへの差圧の伝達よりも後輪側のアクチュエータ2rへの差圧の伝達に遅れが生じる。
【0123】
したがって、これらのものによっても、旋回走行中でのステアリング特性を車両にセッティングされた弱アンダステアリングに保って車両としての安定性と操縦性の両方を確保しつつ、かつ、前者にあっては、旋回走行の開始初期のステアリング特性をオーバステアリング傾向にして車両の回頭性を向上し得ること、および、後者の場合では、旋回走行の終期におけるステアリング特性を同じくオーバステアリング傾向にして車両の収斂性を向上し得ることは、これまでの図1および図5の作動説明に基いて容易に理解できよう。
【0124】
しかも、特に、これらのものによれば、絞り15a,15bの絞り抵抗と絞り15c,15dの絞り抵抗を選ぶことによって、旋回走行の初期と終期にけるステアリング特性を車両の運動特性に合わせて設定し得ることから、車両としての回頭性および収斂性をより好ましい形で適切に向上させることが可能になる。
【0125】
図7と図8は、これまで述べてきた図1,図5および図6の系統図における絞り15a,15b,15c,15dの下流側である給排流路12a,12bと給排流路13a,13b、或いは、前後輪側のアクチュエータ2f,2rの作動油室7b,8bの一方(図1,図5の場合)または両方(図6の場合)の部分に圧力調整機構29a,29bであるアキュムレータ30a,30bを設けた場合の参考例として示している。
【0126】
このものによれば、絞り15a,15b(15c,15d)で圧力降下した圧油は、アクチュエータ2f(2r)の作動油室7a,7b,8a,8bへと流入すると同時に、アキュムレータ30a,30bのガス室を圧縮してその内部へも浸入する。
【0127】
このことから、これら絞り15a,15b(15c,15d)とそれらの下流側に設けたアキュムレータ30a,30bとは、互いに協同して一次遅れ要素を構成することになる。
【0128】
その結果、アクチュエータ2f(2r)の作動油室7a,7b,8a,8bに作用する差圧は、差圧制御バルブ14から出力される差圧に対してこれまで述べた絞り15a,15b(15c,15d)だけの各実施の形態に比べて、さらに遅れた図4に破線で示すような特性z,−zとなる。
【0129】
また、旋回走行中と直進走行に戻ったときには、制御装置22からの出力電流が制御信号電流或いは基準電流となり、前後輪側のアクチュエータ2f,2rへの作動油の給排がなくなって両アクチュエータ2f,2rの動きが止まる。
【0130】
これにより、差圧を所定値或いはゼロに保ってステアリング特性を車両にセッティングされた弱アンダステアリングに保持することになるのは、これまで述べた図1,図5および図6の各基本的な系統図の場合と同様である。
【0131】
以上により、旋回走行の初期および終期の過渡期において、両アクチュエータ2f,2rへの一方の差圧の立ち上がりおよび下降を大きく遅らせて、過渡的なステアリング特性をよりオーバステアリング傾向としつつ車両の回頭性および収斂性をさらに効果的に向上させることになる。
【0132】
図9と図10は、本発明の各実施の形態を示し、基本的な油圧回路の系統図は図1、図5、又は図6に示すものと同じであり、圧力調整機構として調圧器34を利用したものである。即ち、この調圧器34をケース31と、ケース31内に往復動自在に挿入した仕切部材32と、ケース31内に仕切部材32で区画された二つの可変容積室35a、35bとで構成している。油圧回路の基本的な作用効果は図1,図5,図6の場合と同じであるので詳細は省略する。
【0133】
そして、図9の実施の形態にあっては、仕切部材32によって区画されたケース31内の可変容積室35a,35bを、それぞれ流路36a,36bを通して給排流路12a(13a),12b(13b)へと結んでいる。
【0134】
それに対し、図10の実施の形態では、圧力調整機構29cを調圧器34で構成した点は同じであるが、仕切部材32で区画したケース31内の可変容積室35a,35bが給排流路12a(13a),12b(13b)の一部を形作るように直列に接続されている
【0135】
これにより、絞り15a,15b(15c,15d)と圧力調整機構29c内の可変容積室35a,35bとは、差圧の伝達に際して互いに協同して一次遅れ要素を構成することになる。
【0136】
したがって、これらによれば、給排流路12a,12b(13a,13b)に対して共通の圧力調整機構29cを用いつつ、上記で述べた先の図7および図8の参考例と同じ作用を行い得ることは明らかである。
【0137】
また、図11は他の参考例に係り、これは、圧力調整機構29dを構成するに当って、アクチュエータ2f(2r)のハウジング4とロータ6(図2参照)の間にニュートラルスプリング37を介装した場合を示している。
【0138】
このようにすることにより、アクチュエータ2f(2r)の作動に際して、当該アクチュエータ2f(2r)における各作動油室7a,7bと8a,8b(図2参照)がアキュムレータとしての機能を発揮しつつ動作することになる。
【0139】
このことから、図7,図8,図9および図10のように別個に圧力調整機構を設けてやることなく、絞り15a,15b(15c,15d)とアクチュエータ2f(2r)が互いに協同して一次遅れ要素を構成し、それによって、同様の作用を行い得ることはことになる。
【0140】
さらに、先の図1,図5および図6の系統図のものを含めてこれら何れの参考例と図9,図10の実施の形態の場合にあっても、直進走行時や旋回走行時の如何を問わず、制御装置22の異常発生や差圧制御バルブ14とフェールセーフバルブ21に対するそれぞれの信号線27,28の断線など制御システムに異常が発生したときには、これを制御装置22が検知して差圧制御バルブ14とフェールセーフバルブ21の動作を停止する。
【0141】
これにより、差圧制御バルブ14は、制御開始前の状態である図1に示す片側の差圧最大位置をとると共に、フェールセーフバルブ21は、同じく図1のノーマル位置に戻って油圧源18の油圧ポンプ19から吐出される作動油をリザーバ20へとアンロードする。
【0142】
このように、油圧ポンプ19がフェールセーフバルブ21でアンロード状態に切り換えられることから、差圧制御バルブ14が一方の差圧最大位置をとったとしても、アクチュエータ2f,2rが油圧ポンプ19からの圧力作動油で制御動作することはない。
【0143】
しかも、フェールセーフバルブ21のノーマル位置への切り換わりに伴い、アクチュエータ2f,2rは、当該フェールセーフバルブ21によってそれぞれブロックされる。
【0144】
その結果、スタビライザー1f,1rに対してそれらを捩るような外力が働いたとしても、これらスタビライザー1f,1rは、ブロックによって剛体化されたアクチュエータ2f,2rによって少なくとも通常のスラビライザーとしての機能を保持しつつ車体のロールを抑制する。
【0145】
ただし、上記した異常事態の発生前における差圧制御バルブ14の制御動作の状況によっては、当該差圧制御バルブ14がアクチュエータ2f,2rをフリーにするアンダーラップの切り換え位置を経て一方の差圧最大位置をとる場合が生じる。
【0146】
しかし、差圧制御バルブ14は、その構造上からアンダーラップ位置においてアクチュエータ2f,2rをフリーにするのは一瞬のことであり、しかも、当該アンダーラップ位置での作動油の流れに対して作用する絞り抵抗も大きい。
【0147】
このことから、アクチュエータ2f,2rに作用しているそれぞれの差圧が差圧制御バルブ14を通して抜け、スタビライザー1f,1rが効かなくなるようなこともない。
【0148】
このようにして、旋回走行時の車体のロール制御中における制御系の異常発生に際しては、アクチュエータ2f,2rをブロック状態に保って前後輪用のスタビライザー1f,1rの捩り剛性力を制御中の状態に維持する。
【0149】
かくして、フェールセーフ動作が行われたとしても、その前後での車体のロール剛性やステアリング特性は変わらず、車両の操縦特性に大きな変化をきたすことなく確実にフェールセーフ動作が行われることになる。
【0150】
なお、これまで述べてきた参考例や図9,図10の実施の形態にあっては、前後輪用のスタビライザー1f,1rをトーションバーの中央部分で二分割し、この二分割した部分の一方をロータリ式のアクチュエータ2f,2rのハウジング4側に対して、また、他方をロータ6側に対してそれぞれ固定して油圧可変用のスタビライザーとした場合を例にとって説明してきた。
【0151】
しかし、必ずしも上記のようにロータリ式のアクチュエータ2f,2rを用いて油圧可変用のスタビライザーを構成する必要はなく、例えば、図12の参考例で示したように、通常のスタビライザー38f,38rを用いてそれぞれの一端と車体との間に油圧シリンダからなるアクチュエータ39f,39rを介装した油圧可変用のスタビライザーを用いたとしても、同様にしてこの発明を適用し得ることは明白である。
【0152】
【発明の効果】
以上のように、請求項1の発明によれば、前後輪用のスタビライザーの一方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路に絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列に介装したことにより、当該アクチュエータに対する過渡的な差圧の立ち上がりと下降を他方のアクチュエータよりも遅らせることができる。
【0153】
その結果、上記差圧の立ち上がりと下降時の遅れ特性を前輪側のアクチュエータにもたせることによって旋回走行の初期での車両の回頭性を、また、後輪側のアクチュエータに対してもたせることによって直進走行に戻る終期での車両の収斂性をそれぞれ向上させるこができる。
【0154】
したがって、車両の旋回走行時における前後輪側のロール剛性配分を主眼にしてロール制御特性を設定しつつ、かつ、上記差圧の過渡的な遅れ特性を調整することでバランスのよいステアリング特性を得ることが可能になる。
【0155】
請求項2の発明によれば、前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路の両方に絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列に介装し、これら両方の給排流路に介装した絞りの絞り抵抗に差を与えるようにしたことにより、両方の絞りの絞り抵抗差を選ぶことで前後輪側のアクチュエータへの差圧の過渡的な立ち上がりと下降時の遅れ特性を調整し、車両としての回頭性および収斂性をより好ましい形で適切に向上させつつスアリング特性を車両の運動特性に合わせて設定することができる。
【0156】
更に各請求項1,2の発明によれば、剛性力可変用アクチュエータの給排流路に介装した各絞りの下流側にそれぞれ調圧器からなる圧力調整機構を設けたことにより、これら絞りとそれらの下流側に設けた圧力調整機構とが互いに協動して一次遅れ要素を構成するために、車両の旋回走行の初期および終期における前後輪側のアクチュエータの一方の差圧の立ち上がり特性および下降特性をより大きく遅らせて、車両としての回頭性および収斂性をさらに効果的に向上させることができる。
【0158】
更に、各請求項1,2の発明によれば、絞りと組み合わせて一次遅れ要素を構成する調圧器からなる圧力調整機構を各給排流路ごとに共用とし、それによって、ロール制御装置の車両への搭載をも容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による車両のロール制御装置の基本的な系統図を示す油圧回路図である。
【図2】上記ロール制御装置に使用されるアクチュエータの拡大縦断面図である。
【図3】車体に生じた横加速度に応じて制御装置から出力される制御信号電流の特性を示すグラフである。
【図4】上記制御装置から出力される制御信号電流に基いて前後輪側のアクチュエータに作用する差圧の変化特性を示すグラフである。
【図5】この発明による車両のロール制御装置の参考例として図1と同じく系統的に示す油圧回路図である。
【図6】この発明による車両のロール制御装置のさらに他の参考例として図1と同じく系統的に示す油圧回路図である。
【図7】この発明の別の参考例として系統的に部分図で示す油圧回路図である。
【図8】同上の変形例を部分図として系統的に示す油圧回路図である。
【図9】本発明の一実施の形態を系統的に部分図で示す油圧回路図である。
【図10】本発明の他の実施の形態を部分図として系統的に示す油圧回路図である。
【図11】さらに、別の参考例を部分図として示す油圧回路図である。
【図12】更に別の参考例としてロール制御装置を部分図で示す油圧回路図である。
【符号の説明】
1f,38f 前輪用のスタビライザー
1r,38r 後輪用のスタビライザー
2f,39f 前輪側スタビライザーの剛性力可変用アクチュエータ
2r,39r 後輪側スタビライザーの剛性力可変用アクチュエータ
12a,12b,13a,13b 給排流路
14 差圧制御バルブ
15a,15b,15c,15d 絞り
16a,16b チェックバルブ
18 油圧源
19 油圧ポンプ
20 リザーバ
21 フェールセーフバルブ
22 制御装置
23 横加速度検出器
24 コントローラ
29a,29b,29c,29d 圧力調整機構
30a,30b アキュムレータ
31 ケース
32 仕切部材
33a,33b スプリング
34 調圧器
35a,35b 可変容積室
36a,36b 流路
37 ニュートラルスプリング

Claims (4)

  1. 制御装置からの車体横加速度信号によって差圧制御バルブを切り換え制御しつつ、当該差圧制御バルブで前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに加わる差圧を制御して車体のロールを抑制するようにした油圧可変型のロール制御装置において、上記前後輪用のスタビライザーの一方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路に、絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装し、更に、各絞りの下流側に調圧器からなる圧力調整機構を設け、当該調圧器をケースと、ケース内に往復動自在に挿入した仕切部材と、ケース内に仕切部材で区画された二つの可変容積室とで構成し、この調圧器の可変容積室を個々に剛性力可変用アクチュエータの各給排流路に流路を介して繋いだことを特徴とする車両のロール制御装置。
  2. 制御装置からの車体横加速度信号によって差圧制御バルブを切り換え制御しつつ、当該差圧制御バルブで前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに加わる差圧を制御して車体のロールを抑制するようにした油圧可変型のロール制御装置において、上記前後輪用のスタビライザーの一方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路に、絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装し、更に、各絞りの下流側に調圧器からなる圧力調整機構を設け、当該調圧器をケースと、ケース内に往復動自在に挿入した仕切部材と、ケース内に仕切部材で区画された二つの可変容積室とで構成し、この調圧器の可変容積室を剛性力可変用アクチュエータの給排流路に直列に接続させたことを特徴とする車両のロール制御装置。
  3. 制御装置からの車体横加速度信号によって差圧制御バルブを切り換え制御しつつ、当該差圧制御バルブで前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに加わる差圧を制御して車体のロールを抑制するようにした油圧可変型のロール制御装置において、上記前後輪用のスタビライザーの一方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路に、絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装する一方、他方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路には、上記絞りに対して流動抵抗を異にする絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装し、更に、各絞りの下流側に調圧器からなる圧力調整機構を設け、当該調圧器をケースと、ケース内に往復動自在に挿入した仕切部材と、ケース内に仕切部材で区画された二つの可変容積室とで構成し、この調圧器の可変容積室を個々に剛性力可変用アクチュエータの各給排流路に流路を介して繋いだことを特徴とする車両のロール制御装置。
  4. 制御装置からの車体横加速度信号によって差圧制御バルブを切り換え制御しつつ、当該差圧制御バルブで前後輪用のスタビライザーの剛性力可変用アクチュエータに加わる差圧を制御して車体のロールを抑制するようにした油圧可変型のロール制御装置において、上記前後輪用のスタビライザーの一方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路に、絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装する一方、他方の剛性力可変用アクチュエータに通じる各給排流路には、上記絞りに対して流動抵抗を異にする絞りと作動油の供給流れを止めるチェックバルブをそれぞれ並列にして介装し、更に、各絞りの下流側に調圧器からなる圧力調整機構を設け、当該調圧器をケースと、ケース内に往復動自在に挿入した仕切部材と、ケース内に仕切部材で区画された二つの可変容積室とで構成し、この調圧器の可変容積室を剛性力可変用アクチュエータの給排流路に直列に接続したことを特徴とする車両のロール制御装置
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