JP3680259B2 - ディーゼル機関の燃料噴射装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はディーゼル機関の燃料噴射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、1燃焼サイクル内において主噴射に先立ちパイロット噴射を行うようにしたディーゼル機関の燃料噴射装置が知られている。このようにパイロット噴射を行うと、主噴射による燃料が容易に着火しうるようになる。また、パイロット噴射の回数が多くなるにつれてさらに容易になると考えられる。
【0003】
一方、機関冷間始動時には大きなフリクションを克服する必要があり、機関暖機運転を速やかに完了する必要があり、機関から排出される未燃HCをできるだけ低減する必要があるので、主噴射による燃料を確実に着火燃焼させることが必要となる。
そこで、機関冷間始動時にパイロット噴射を行うと共に、機関回転数又は機関冷却水温度が低いときには高いときに比べてパイロット噴射の回数を多く設定するようにしたディーゼル機関の燃料噴射装置が公知である(特開平6−129296号公報参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、例えば機関回転数が低いときでも筒内温度が高ければ主噴射による燃料は比較的容易に着火燃焼しうる。しかしながら、パイロット噴射の回数が多くなるとその分主噴射の燃料噴射量が減少されるのが一般的であるので、上述の燃料噴射装置のように、単に機関回転数が低いということでパイロット噴射の回数を多くするとフリクションを克服するのに十分な機関出力トルクを得ることができない恐れがあるという問題点がある。また、各パイロット噴射の燃料噴射量及び燃料噴射時期もパイロット噴射の回数に基づいて設定されるので、これら燃料噴射量及び燃料噴射時期も必ずしも最適なものとは言えないことになる。
【0005】
そこで本発明の目的はパイロット噴射の形態を最適に設定することができるディーゼル機関の燃料噴射装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために1番目の発明によれば、1燃焼サイクル内において主噴射に先立ち少なくとも1回の着火源形成用パイロット噴射を行うようにしたディーゼル機関の燃料噴射装置において、着火源形成用パイロット噴射が行われないと仮定したときの、主噴射による燃料の目標着火時期における筒内温度を機関運転状態に基づき予測し、予測された筒内温度に基づいて着火源形成用パイロット噴射の形態を設定し、前記着火源形成用パイロット噴射の形態が着火源形成用パイロット噴射の回数により定められる。即ち1番目の発明では、主噴射による燃料の目標着火時期における筒内温度が予測され、この予測された筒内温度に基づいて着火源形成用パイロット噴射の形態が設定されるので、この形態が主噴射による燃料の着火のために最適に設定される。
【0007】
また、1番目の発明では、前記予測された筒内温度に基づいて着火源形成用パイロット噴射の回数が設定される。
【0008】
また、2番目の発明によれば1番目の発明において、主噴射による燃料がその目標着火時期に着火するように着火源形成用パイロット噴射の形態を設定するようにしている。即ち2番目の発明では、着火源形成用パイロット噴射の形態の設定によって主噴射による燃料の着火時期が制御される。
また、3番目の発明によれば1番目の発明において、機関における一つ前の燃焼時におけるクランクシャフトの角速度を検出し、検出された角速度に基づいて前記筒内温度を予測するようにしている。
【0009】
また、4番目の発明によれば1番目の発明において、同一の気筒における一つ前の燃焼時の燃焼状態を検出し、検出された燃焼状態に基づいて前記筒内温度を予測するようにしている。即ち、燃焼が悪化すると筒内に残留する未燃HCが増大し、この残留未燃HCは次の燃焼時に筒内温度の上昇を抑制する。残存未燃HC量は同一の気筒における一つ前の燃焼時の燃焼状態に依存する。そこで4番目の発明では、同一の気筒における一つ前の燃焼時の燃焼状態に基づいて前記筒内温度を予測するようにしている。
【0010】
また、5番目の発明によれば1番目の発明において、着火源形成用パイロット噴射が行われないと仮定したときの、主噴射による燃料の目標着火時期における主噴射による燃料の着火可能温度を機関運転状態に基づき予測し、前記予測された筒内温度と予測された着火可能温度とに基づいて着火源形成用パイロット噴射の形態を設定するようにしている。即ち、噴射された燃料が着火するか否かは筒内温度のみでは判断できず、筒内温度と着火可能温度とを比較して初めて判断できる。そこで5番目の発明では、前記予測された筒内温度と予測された着火可能温度とに基づいて着火源形成用パイロット噴射の形態を設定するようにしている。
【0011】
また、6番目の発明によれば1番目の発明において、機関始動時に前記筒内温度の予測及び前記パイロット噴射の形態の設定を行うようにしている。
また、7番目の発明によれば1番目の発明において、1燃焼サイクル内において前記着火源形成用パイロット噴射に先立ち少なくとも1回の予混合気形成用パイロット噴射を行うことが可能になっており、予混合気形成用パイロット噴射の形態を前記予測された筒内温度に基づいて設定すると共に、予混合気形成用パイロット噴射の燃料噴射量だけ主噴射の燃料噴射量を減少させるようにしている。即ち7番目の発明では、予混合気形成用パイロット噴射の燃料噴射量だけ主噴射の燃料噴射量が減少されるので、主噴射による燃料の着火燃焼が容易にされ、このとき予混合気形成用パイロット噴射の形態が前記予測された筒内温度に基づいて設定される。
【0012】
また、8番目の発明によれば1番目の発明において、主噴射を複数回に分割して行うようにしている。即ち8番目の発明では、主噴射1回当たりの燃料噴射量が減少されるので、主噴射による燃料の着火燃焼が容易にされる。
また、9番目の発明によれば1番目の発明において、前記着火源形成用パイロット噴射の形態が、着火源形成用パイロット噴射の回数と、着火源形成用パイロット噴射の燃料噴射量または燃料噴射時期とにより定められる。
また、10番目の発明によれば5番目の発明において、前記予測された着火可能温度から前記予測された筒内温度を差し引いて得られる温度差が予め定められた第1の設定値よりも大きいときには着火源形成用パイロット噴射を2回行い、該温度差が該第1の設定値よりも小さいときには着火源形成用パイロット噴射を1回だけ行うようにしている。
また、11番目の発明によれば7番目の発明において、着火源形成用パイロット噴射が行われないと仮定したときの、主噴射による燃料の目標着火時期における主噴射による燃料の着火可能温度を機関運転状態に基づき予測し、該予測された着火可能温度から前記予測された筒内温度を差し引いて得られる温度差が予め定められた第2の設定値よりも大きいときには予混合気形成用パイロット噴射を行うかまたは主噴射を2回行い、該温度差が該第2の設定値よりも小さいときには着火源形成用パイロット噴射を禁止すると共に主噴射を1回だけ行うようにしている。
また、12番目の発明によれば7番目の発明において、機関負荷が予め定められた設定負荷よりも低いときには予混合気形成用パイロット噴射を行うと共に主噴射を1回だけ行い、機関負荷が該設定負荷よりも高いときには予混合気形成用パイロット噴射を禁止すると共に主噴射を2回行うようにしている。
また、13番目の発明によれば7番目の発明において、着火源形成用パイロット噴射が行われないと仮定したときの、主噴射による燃料の目標着火時期における主噴射による燃料の着火可能温度を機関運転状態に基づき予測し、該予測された着火可能温度から前記予測された筒内温度を差し引いて得られる温度差が予め定められた第3の設定値よりも大きいときには予混合気形成用パイロット噴射を2回行い、該温度差が該第3の設定値よりも小さいときには予混合気形成用パイロット噴射を1回だけ行うようにしている。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1を参照すると、機関本体1は例えば4つの気筒#1,#2,#3,#4を具備する。各気筒はそれぞれ対応する吸気枝管2を介して共通のサージタンク3に接続され、サージタンク3は吸気ダクト4及びインタークーラ5を介して過給機、例えば排気ターボチャージャ6のコンプレッサ6cの出口部に接続される。コンプレッサ6cの入口部は空気吸い込み管7を介してエアクリーナ8に接続される。サージタンク3とインタークーラ5間の吸気ダクト4内にはアクチュエータ9により駆動されるスロットル弁10が配置される。なお、排気タービン6tの排気流入口にはその開口面積を変更可能な可変ノズル機構6vが取り付けられている。可変ノズル機構6vにより排気タービン6tの排気流入口面積を小さくすれば排気圧力が低い機関低回転運転時にも過給圧を高めることができる。
【0014】
一方、各気筒は排気マニホルド11及び排気管12を介して排気ターボチャージャ6の排気タービン6tの入口部に接続され、排気タービン6tの出口部は排気管13を介してNOX 還元触媒14を収容したケーシング15に接続され、ケーシング15は排気管16に接続される排気管13内にはアクチュエータ17により駆動される排気絞り弁18が配置される。NOX 還元触媒14は例えば銅を担持したゼオライトを具備する。このNOX 還元触媒14は流入する排気中にHC,COのような還元剤が含まれていると酸化雰囲気でもNOX を還元することができる。なお、機関1の燃焼順序は#1−#3−#4−#2である。
【0015】
各気筒は筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁20を具備する。各燃料噴射弁20は共通の燃料用蓄圧室又はコモンレール21を介し吐出量を制御可能な燃料ポンプ22に接続される。燃料ポンプ22は低圧ポンプ(図示しない)を介して燃料タンク(図示しない)に接続されており、燃料ポンプ22から吐出された燃料はコモンレール21に供給され、次いで各燃料噴射弁20に供給される。燃料ポンプ22はコモンレール21内の燃料圧が予め定められた目標燃料圧になるように吐出量が制御される。なお、この目標燃料圧は例えば機関運転状態に応じて定めることができる。
【0016】
さらに図1を参照すると、排気マニホルド11とスロットル弁10下流の吸気ダクト4とが排気再循環(以下EGRと称す)通路23を介して互いに接続され、EGR通路23内にはアクチュエータ24により駆動されるEGR制御弁25が配置される。
電子制御ユニット(ECU)30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31を介して相互に接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、常時電源に接続されているB−RAM(バックアップRAM)35、入力ポート36、及び出力ポート37を具備する。機関本体1には機関冷却水温に比例した出力電圧を発生する水温センサ38が取り付けられる。スロットル弁10下流の吸気ダクト4内には吸気圧力PMに比例した出力電圧を発生する吸気圧力センサ39と、吸気ダクト4内の吸入空気温度THAに比例した出力電圧を発生する吸気温センサ40とが配置される。スタータモータ(図示しない)を駆動するバッテリ(図示しない)の電圧VBに比例した出力電圧を発生する電圧センサ41がバッテリに取り付けられる。コモンレール21にはコモンレール21内の燃料圧に比例した出力電圧を発生する燃料圧センサ42が取り付けられる。これらセンサ38,39,40,41,42の出力電圧はそれぞれ対応するAD変換器44を介して入力ポート36に入力される。また、スタータモータスイッチ(図示しない)がONであることを表す出力パルスを発生するスイッチセンサ47が入力ポート36に接続される。さらに、入力ポート36にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ45が接続される。CPU34ではクランク角センサ45の出力パルスに基づいてクランクシャフトの角速度及び機関回転数Nが算出され、吸気圧力センサ39の出力電圧に基づいて吸入空気量Gaが算出される。
【0017】
一方、出力ポート37はそれぞれ対応する駆動回路46を介して可変ノズル機構6v、各アクチュエータ9,17,24、各燃料噴射弁20、及び燃料ポンプ22にそれぞれ接続される。
ところで、コモンレール21を設けると各気筒の1燃焼サイクル内に燃料を複数回噴射することが可能になる。そこで本実施態様では、機関出力トルクを発生させるべく概ね圧縮上死点周りで行われる主噴射とは別に、主噴射から進角側に時期的間隔を隔ててパイロット噴射を行うようにしている。
【0018】
パイロット噴射は主噴射に先立って少量の燃料を噴射するものである。このパイロット噴射は例えば主噴射よりも前の圧縮行程、即ち例えば圧縮上死点前(以下BTDCと称する)70から0°クランク角(以下CAと称する)程度で行われ、主噴射に対する時期的間隔が大きいときには予混合気を形成し、小さいときは主噴射による燃料を着火燃焼させるための着火源を形成する。また、複数回のパイロット噴射を行うことも可能であり、従って予混合気形成用パイロット噴射と着火源形成用パイロット噴射との両方を行うこともできるし、予混合気形成用パイロット噴射及び着火源形成用パイロット噴射をそれぞれ複数回行うこともできる。ここで、燃焼時にはまず着火源形成用パイロット噴射による燃料が着火し、次いでこれを着火源として主噴射による燃料が着火し、主噴射による燃焼火炎により予混合気形成用パイロット噴射による燃料が燃焼する。燃料噴射時期だけでなく、この意味でも着火源形成用パイロット噴射と予混合気形成用パイロット噴射とは全く性質を異にしている。
【0019】
さらに、主噴射を複数回に分割して行うことも可能である。即ち、例えば主噴射を2回に分割した場合には、主噴射で噴射すべき全燃料量の半分ずつが各主噴射において噴射される。このようにすると、主噴射1回当たりの燃料噴射量を低減することができる。
図2には1燃焼サイクル内における燃料噴射作用の形態、即ち、各燃料噴射の回数、燃料噴射時間、及び燃料噴射時期、の例が燃料噴射弁20の開弁期間の形で概略的に示されている。図2(A)に示す例では、主噴射が1回だけ行われ(M)、着火源形成用パイロット噴射が1回だけ行われ(IP)、予混合気形成用パイロット噴射は行われない。図2(B)に示す例では、主噴射が1回だけ行われ(M)、着火源形成用パイロット噴射が1回だけ行われ(IP)、予混合気形成用パイロット噴射が1回だけ行われる(PP)。図2(C)に示す例では、主噴射が2回だけ行われ(M1,M2)、着火源形成用パイロット噴射が1回だけ行われ(IP)、予混合気形成用パイロット噴射は行われない。なお、本実施態様では1燃焼サイクル内において、主噴射、着火源形成用パイロット噴射、及び予混合気形成用パイロット噴射がそれぞれ最大で2回行われ、先に行われるものを第1の燃料噴射と称し、後に行われるものを第2の燃料噴射と称することにする。
【0020】
次に、機関始動時における燃料噴射形態の決定方法について説明する。
第1及び第2の主噴射の燃料噴射時間の合計を総燃料噴射時間TAUMTで表すと、本実施態様では機関始動時における主噴射の総燃料噴射時間TAUMTが次式により算出される。
TAUMT=TAUT−(TAUIPT+TAUPPT)
ここでTAUTは総燃料噴射時間、TAUIPTは着火源形成用パイロット噴射の総燃料噴射時間、TAUPPTは予混合気形成用パイロット噴射の総燃料噴射時間をそれぞれ表している。総燃料噴射時間TAUTは機関始動に最適な1燃焼サイクルで噴射されるべき総燃料量を表す燃料噴射時間であり、予め実験により求められている。この総燃料噴射時間TAUTは例えば機関冷却水温度THWと機関回転数Nとの関数として予めROM32内に記憶されている。
【0021】
その上で、主噴射を1回だけ行うべきときの第1及び第2の主噴射の燃料噴射時間TAUM(1),TAUM(2)は次式により算出される。
TAUM(1)=TAUMT, TAUM(2)=0
一方、主噴射を2回だけ行うべきときには次式により算出される。
TAUM(1)=TAUM(2)=TAUMT/2
同様に、着火源形成用パイロット噴射を1回だけ行うべきときの第1及び第2の着火源形成用パイロット噴射の燃料噴射時間TAUIP(1),TAUIP(2)は次式により算出される。
【0022】
TAUIP(1)=TAUIPT, TAUIP(2)=0
着火源形成用パイロット噴射を2回だけ行うべきときには次式により算出される。
TAUIP(1)=TAUIP(2)=TAUIPT/2
また、予混合気形成用パイロット噴射を1回だけ行うべきときの第1及び第2の予混合気形成用パイロット噴射の燃料噴射時間TAUPP(1),TAUPP(2)は次式により算出される。
【0023】
TAUPP(1)=TAUPPT, TAUPP(2)=0
着火源形成用パイロット噴射を2回だけ行うべきときには次式により算出される。
TAUPP(1)=TAUPP(2)=TAUPPT/2
着火源形成用パイロット噴射を行うべきでないときには次のようになる。
【0024】
TAUPP(1)=TAUPP(2)=0
次に、着火源形成用パイロット噴射の総燃料噴射時間TAUIPTの算出方法について説明する。
主噴射が開始されてから、主噴射による燃料が着火するまでの着火遅れ期間が長くなると未燃HC量が増大し、その結果機関から多量の未燃HC量が排出され、筒内に多量の未燃HCが残留する。また、機関暖機運転を速やかに完了できないだけでなく、振動、騒音も大きくなる。そこで本実施態様では、主噴射による燃料の目標着火時期IGTを設定し、主噴射による燃料が目標着火時期IGTに着火するように、燃料噴射形態を設定している。
【0025】
詳しく説明すると、クランク角が圧縮上死点に近づくにつれて筒内温度が上昇し、着火源形成用パイロット噴射が行われないか又は着火源形成用パイロット噴射による燃料が着火燃焼しないと仮定したときの筒内温度TCは図3の破線で示されるように上昇する。この目標着火時期IGTにおいて、筒内温度TCが主噴射による燃料の着火可能温度TIよりも低いと主噴射による燃料が着火せず、着火したとしても十分に燃焼しない。この状態は特に機関冷間始動時に起こりうる。
【0026】
一方、着火源形成用パイロット噴射による燃料が着火燃焼すると図3の実線で示されるように筒内温度TCが上昇し、その結果目標着火時期IGTにおいて筒内温度TCを着火可能温度TIよりも高くすることができ、従って主噴射による燃料を着火させて十分に燃焼させることができる。そこで本実施態様では、着火源形成用パイロット噴射を1燃焼サイクル内において少なくとも1回行うと共に、目標着火時期IGTにおいて筒内温度TCが着火可能温度TIよりも高くなるように着火源形成用パイロット噴射の形態を設定している。
【0027】
主噴射による燃料の目標着火時期IGTは機関回転数Nや主噴射の燃料噴射時期のような機関運転状態に基づいて設定することができる。しかしながら本実施態様では、説明を簡単にするために目標着火時期IGTを一定にしている。
この目標着火時期IGTにおける筒内温度及び主噴射による燃料の着火可能温度は各燃料噴射の形態を決定すべき時点において当然知ることができず、予測せざるを得ない。ところが、目標着火時期IGTにおける筒内温度は機関における一つ前の燃焼時、即ち例えば1番気筒の筒内温度は2番気筒の燃焼時におけるクランクシャフトの角速度VCAM0が高くなるにつれて高くなる。また、目標着火時期IGTにおける筒内温度は例えば機関冷却水温THW、吸気温度THA、吸気圧力PM、バッテリ電圧VBにも依存する。そこで、これらVCAM0,THW,THA,PM,VBに基づいて目標着火時期IGTにおける筒内温度TCEを予測するようにしている。なお、この予測筒内温度TCEはVCAM0,THW,THA,PM,VBの関数として予め求められており、ROM32内に記憶されている。また、一つ前に燃焼が行われる気筒の圧縮上死点周り又は爆発行程時におけるクランクシャフト角速度に基づいて次に燃焼が行われる気筒の予測筒内温度TCEを求めることもできる。
【0028】
機関始動時には燃焼が行われる毎に目標着火時期IGTにおける筒内温度が上昇するので、機関における一つ前の燃焼時におけるクランクシャフトの角速度に基づき予測筒内温度TCEを求めるようにすると、正確に筒内温度を予測できる。ところが、筒内に未燃HCが残留していると、次の圧縮行程時にこの残留未燃HCが気化するので、その分だけ筒内温度が低下する。この筒内温度の低下分は残留未燃HC量に依存し、残留未燃HC量は同一の気筒における一つ前の燃焼時の燃焼状態に依存し、燃焼状態は燃焼時における機関回転数Nの変化率やクランクシャフト角速度の形で表すことができる。そこで、同一の気筒における一つ前の燃焼時の機関回転数Nの変化率及びクランクシャフト角速度を検出し、これら機関回転数Nの変化率及びクランクシャフト角速度に基づいて上述の予測筒内温度TCEを補正するようにしている。
【0029】
一方、燃料の着火可能温度は筒内圧力に依存する。そこで、まず目標着火時期IGTにおける筒内圧力PCEを予測し、この予測筒内圧力PCEに基づいて目標着火時期IGTにおける着火可能温度TIEを予測するようにしている。ここで、予測筒内圧力PCEは上述した予測筒内温度TCEと同様に、VCAM0,THW,THA,PM,VBの関数として予め求められており、ROM32内に記憶されている。また、予測着火可能温度TIEも予測筒内圧力PCEの関数として予めROM32内に記憶されている。
【0030】
着火源形成用パイロット噴射の総燃料噴射時間TAUIPTの算出方法に話を戻すと、この総燃料噴射時間TAUIPTは目標着火時期IGTにおいて実際の筒内温度を予測着火可能温度TIEよりも高くする温度上昇を得るのに必要な燃料噴射時間である。この総燃料噴射時間TAUIPTは予め実験により求められており、温度差DIFの関数として予めROM32内に記憶されている。具体的には、温度差DIF(=予測着火可能温度TIE−予測筒内温度TCE)が大きくなるにつれて総燃料噴射時間TAUIPTが大きくなる。
【0031】
ところで、筒内(又は燃焼室内)に噴射された燃料は筒内を拡散しながら空気と混合し、可燃混合気を形成する。ところが、温度差DIFが大きいときには機関回転数Nが低い場合が多く、このとき筒内に強い空気流れが存在しないので燃料と空気の混合が促進されにくい。また、温度差DIFが大きいときには着火源形成用パイロット噴射の総燃料噴射時間TAUIPTも大きくなっており、このような多量の燃料を1回の燃料噴射作用で噴射すると、この多量の燃料の全てが短時間のうちに空気と十分に混合できない恐れがある。そこで、温度差DIFが予め定められた設定値D0よりも大きいときには着火源形成用パイロット噴射を2回行うようにしている。その結果、着火源形成用パイロット噴射1回当たりの燃料噴射量が少なくなるので空気との十分な混合が確保され、着火源形成用パイロット噴射による燃料を確実に着火燃焼させることができる。なお、温度差DIFが設定値D0よりも小さいときには着火源形成用パイロット噴射が1回だけ行われる。
【0032】
着火源形成用パイロット噴射が2回だけ行われるときには第1及び第2の着火源形成用パイロット噴射の燃料噴射時期ITIP(1),ITIP(2)が設定され、1回だけ行われるときには第1の着火源形成用パイロット噴射の燃料噴射時期ITIP(1)が設定される。この場合、予測筒内温度TCEが低いとき程目標着火時期IGTに対する進角量が大きくなるように燃料噴射時期ITIP(i)(i=1,2)が定められる。即ち、筒内温度が低いときには着火源形成用パイロット噴射による燃料が着火燃焼しにくい。そこで、燃料噴射時期ITIP(i)を進角させることにより、着火源形成用パイロット噴射による燃料と空気との混合が促進されるようにしている。なお、この燃料噴射時期ITIP(i)は予測筒内温度TCEの関数として予めROM32内に記憶されている。
【0033】
このようにして着火源形成用パイロット噴射の形態、即ち燃料噴射時間、回数、及び燃料噴射時期が決定される。
ところで、上述の温度差DIFが比較的大きいときには、着火源形成用パイロット噴射の形態を最適にしても主噴射による燃料が良好に燃焼しない恐れがある。一方、上述したように燃料噴射1回当たりの燃料噴射量を少なくすると良好な燃焼を得ることができ、主噴射1回当たりの燃料噴射量を少なくするためには主噴射を2回に分けて行う方法と、予混合気形成用パイロット噴射を行ってその分主噴射の燃料噴射量を少なくする方法とが考えられる。そこで、温度差DIFが予め定められた設定値D1よりも小さいときには予混合気形成用パイロット噴射を禁止すると共に主噴射を1回だけ行い、DIFがD1よりも大きいときには予混合気形成用パイロット噴射を行うか又は主噴射を2回行うようにしている。
【0034】
予混合気形成用パイロット噴射を行うと、このとき噴射された燃料は着火燃焼するまでに筒内の空気と十分混合することができ、従って未燃HCを低減することができる。ところが予混合気形成用パイロット噴射の燃料噴射量が多くなり、従って主噴射の燃料噴射量が少なくなると、機関出力が低下して機関始動を速やかに完了できない恐れがある。
【0035】
そこで機関負荷Lを検出し、機関負荷Lが予め定められた設定値L0よりも低いときには予混合気形成用パイロット噴射を行うと共に主噴射を1回だけ行い、機関負荷Lが設定値L0よりも高いときには予混合気形成用パイロット噴射を禁止すると共に主噴射を2回行うようにしている。本実施態様では、機関負荷Lは機関冷却水温THW、バッテリ電圧VB、及び機関回転数Nの関数として予め求められており、ROM32内に記憶されている。言い換えると、予混合気形成用パイロット噴射と、2回の主噴射とが機関負荷Lに応じて選択的に行われる。
【0036】
即ち、温度差DIFが設定値D1よりも小さいとき、又はDIFがD1よりも大きくかつ機関負荷Lが設定値L0よりも高いときには予混合気形成用パイロット噴射の総燃料噴射時間TAUPPTが零にされる。これに対し、DIFがD1よりも大きくかつLがL0よりも低いときには予混合気形成用パイロット噴射の総燃料噴射時間TAUPPTが温度差DIFに基づいて算出される。具体的には、温度差DIFが大きいときほど主噴射による燃料が燃焼しにくいので、温度差DIFが大きくなるにつれて総燃料噴射時間TAUPPTが大きくなる。この総燃料噴射時間TAUPPTは予め実験により求められており、温度差DIFの関数として予めROM32内に記憶されている。
【0037】
この場合、予混合気形成用パイロット噴射の回数及び燃料噴射時期は着火源形成用パイロット噴射の場合と同様に決定される。即ち、温度差DIFが予め定められた設定値D2よりも大きいときには予混合気形成用パイロット噴射が2回行われ、DIFがD2よりも小さいときには1回だけ行われる。また、予測筒内温度TCEが低いとき程目標着火時期IGTに対する進角量が大きくなるように燃料噴射時期ITPP(i)(i=1,2)が定められる。このようにすると、予混合気形成用パイロット噴射による燃料を良好に燃焼させることができる。なお、この燃料噴射時期ITPP(i)は予測筒内温度TCEの関数として予めROM32内に記憶されている。また、予混合気形成用パイロット噴射による燃料が着火源形成用パイロット噴射による燃料よりも先に着火しないように燃料噴射時期ITPP(i)が定められている。
【0038】
一方、主噴射を2回行うときには燃料噴射に必要な時間、即ち第1の主噴射を開始してから第2の主噴射が完了するまでの時間が主噴射を1回だけ行うときよりも長くなる。このため、第2の主噴射の末期に噴射された燃料がいわゆる後燃えのように燃焼する恐れがある。そこで、主噴射を2回行うときには1回だけ行うときに比べて第1の主噴射の燃料噴射時期ITM(1)を進角補正するようにしている。なお、第2の主噴射の燃料噴射時期は第1の主噴射から一定の時期的間隔を隔てて定められる。
【0039】
図4から6は本実施態様における燃料噴射形態の決定ルーチンを示している。このルーチンは予め定められたクランク角度毎の割り込みによって実行される。
図4から6を参照すると、まずステップ100ではスタータモータスイッチがオンであるか否かが判別される。スタータモータスイッチがオフのときには処理サイクルを終了し、スタータモータスイッチがオンのときには次いでステップ101に進む。ステップ101では機関回転数Nが設定値N1(例えば300rpm)よりも低いか否かが判別される。N≧N1のときには処理サイクルを終了し、N<N1のときには次いでステップ102に進む。即ち、本実施態様ではスタータモータスイッチがオンでありかつN<N1のときに機関始動時であると判断される。ステップ102では総燃料噴射時間TAUTが算出され、続くステップ103では予測筒内温度TCEが算出される。続くステップ104では予測筒内温度TCEが補正される。続くステップ105では予測筒内圧力PCEが算出される。続くステップ106では予測着火可能温度TIEが算出され、続くステップ107では温度差DIFが算出される(DIF=TIE−TCE)。
【0040】
続くステップ108では着火源形成用パイロット噴射の総燃料噴射時間TAUIPTが算出される。続くステップ109では温度差DIFが設定値D0よりも大きいか否かが判別される。DIF>D0のときには次いでステップ110に進み、第1及び第2の着火源形成用パイロット噴射の燃料噴射時間TAUIP(1),TAUIP(2)がそれぞれTAUIPT/2とされる。即ち、着火源形成用パイロット噴射が2回だけ行われる。続くステップ111では第1及び第2の着火源形成用パイロット噴射の燃料噴射時期ITIP(1),ITIP(2)がそれぞれ算出される。次いでステップ114に進む。これに対し、DIF≦D0のときには次いでステップ112に進み、TAUIP(1)がTAUIPTとされ、TAUIP(2)が零とされる。即ち、着火源形成用パイロット噴射が1回だけ行われる。続くステップ113では第1の着火源形成用パイロット噴射の燃料噴射時期ITIP(1)が算出される。次いでステップ114に進む。
【0041】
ステップ114では温度差DIFが設定値D1よりも小さいか否かが判別される。DIF<D1のときには次いでステップ115に進み、予混合気形成用パイロット噴射の総燃料噴射時間TAUPPTが零にされる。予混合気形成用パイロット噴射が一切行われない。次いでステップ124に進む。これに対し、DIF≧D1のときには次いでステップ116に進み、機関負荷Lが算出される。続くステップ117では機関負荷Lが設定値L0よりも小さいか否かが判別される。L<L0のときには次いでステップ118に進み、TAUPPTが算出される。続くステップ119では温度差DIFが設定値D2よりも大きいか否かが判別される。DIF>D2のときには次いでステップ120に進み、第1及び第2の予混合気形成用パイロット噴射の燃料噴射時間TAUPP(1),TAUPP(2)がそれぞれTAUPPT/2とされる。即ち、予混合気形成用パイロット噴射が2回だけ行われる。続くステップ121では第1及び第2の予混合気形成用パイロット噴射の燃料噴射時期ITPP(1),ITPP(2)がそれぞれ算出される。次いでステップ124に進む。
【0042】
これに対し、ステップ119においてDIF≦D2のときには次いでステップ122に進み、TAUPP(1)がTAUPPTとされ、TAUPP(2)が零とされる。即ち、予混合気形成用パイロット噴射が1回だけ行われる。続くステップ123では第1の予混合気形成用パイロット噴射の燃料噴射時期ITPP(1)が算出される。次いでステップ124に進む。
【0043】
ステップ124では主噴射の総燃料噴射時間TAUMTが算出される(TAUMT=TAUT−(TAUIPT+TAUPPT))。続くステップ125では第1の主噴射の燃料噴射時間TAUM(1)がTAUMTとされ、第2の主噴射の燃料噴射時間TAUM(2)が零とされる。即ち、主噴射が1回だけ行われる。次いで処理サイクルを終了する。
【0044】
一方、ステップ117においてL≧L0のときには次いでステップ126に進み、TAUPPTが零とされる。即ち、予混合気形成用パイロット噴射が一切行われない。続くステップ127では主噴射の総燃料噴射時間TAUMTが算出され、続くステップ128では第1及び第2の主噴射の燃料噴射時間TAUM(1),TAUM(2)がそれぞれTAUMT/2とされる。即ち、主噴射が2回だけ行われる。続くステップ129では第1の主噴射の燃料噴射時期ITM(1)が補正される。次いで処理サイクルを終了する。
【0045】
【発明の効果】
パイロット噴射の形態を最適に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】内燃機関の全体図である。
【図2】1燃焼サイクルで行われる燃料噴射の形態を説明するための図である。
【図3】筒内温度と着火可能温度との関係を示す概略線図である。
【図4】燃料噴射形態の決定ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】燃料噴射形態の決定ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】燃料噴射形態の決定ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
1…機関本体
20…燃料噴射弁
21…コモンレール
Claims (13)
- 1燃焼サイクル内において主噴射に先立ち少なくとも1回の着火源形成用パイロット噴射を行うようにしたディーゼル機関の燃料噴射装置において、着火源形成用パイロット噴射が行われないと仮定したときの、主噴射による燃料の目標着火時期における筒内温度を機関運転状態に基づき予測し、該予測された筒内温度に基づいて着火源形成用パイロット噴射の形態を設定するようにし、前記着火源形成用パイロット噴射の形態が着火源形成用パイロット噴射の回数により定められるディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 主噴射による燃料がその目標着火時期に着火するように着火源形成用パイロット噴射の形態を設定するようにした請求項1に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 機関における一つ前の燃焼時におけるクランクシャフトの角速度を検出し、該検出された角速度に基づいて前記筒内温度を予測するようにした請求項1に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 同一の気筒における一つ前の燃焼時の燃焼状態を検出し、該検出された燃焼状態に基づいて前記筒内温度を予測するようにした請求項1に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 着火源形成用パイロット噴射が行われないと仮定したときの、主噴射による燃料の目標着火時期における主噴射による燃料の着火可能温度を機関運転状態に基づき予測し、前記予測された筒内温度と該予測された着火可能温度とに基づいて着火源形成用パイロット噴射の形態を設定するようにした請求項1に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 機関始動時に前記筒内温度の予測及び前記パイロット噴射の形態の設定を行うようにした請求項1に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 1燃焼サイクル内において前記着火源形成用パイロット噴射に先立ち少なくとも1回の予混合気形成用パイロット噴射を行うことが可能になっており、予混合気形成用パイロット噴射の形態を前記予測された筒内温度に基づいて設定すると共に、予混合気形成用パイロット噴射の燃料噴射量だけ主噴射の燃料噴射量を減少させるようにした請求項1に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 主噴射を複数回に分割して行うようにした請求項1に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 前記着火源形成用パイロット噴射の形態が、着火源形成用パイロット噴射の回数と、着火源形成用パイロット噴射の燃料噴射量または燃料噴射時期とにより定められる請求項1に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 前記予測された着火可能温度から前記予測された筒内温度を差し引いて得られる温度差が予め定められた第1の設定値よりも大きいときには着火源形成用パイロット噴射を2回行い、該温度差が該第1の設定値よりも小さいときには着火源形成用パイロット噴射を1回だけ行うようにした請求項5に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 着火源形成用パイロット噴射が行われないと仮定したときの、主噴射による燃料の目標着火時期における主噴射による燃料の着火可能温度を機関運転状態に基づき予測し、該予測された着火可能温度から前記予測された筒内温度を差し引いて得られる温度差が予め定められた第2の設定値よりも大きいときには予混合気形成用パイロット噴射を行うかまたは主噴射を2回行い、該温度差が該第2の設定値よりも小さいときには着火源形成用パイロット噴射を禁止すると共に主噴射を1回だけ行うようにした請求項7に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 機関負荷が予め定められた設定負荷よりも低いときには予混合気形成用パイロット噴射を行うと共に主噴射を1回だけ行い、機関負荷が該設定負荷よりも高いときには予混合気形成用パイロット噴射を禁止すると共に主噴射を2回行うようにした請求項7に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
- 着火源形成用パイロット噴射が行われないと仮定したときの、主噴射による燃料の目標着火時期における主噴射による燃料の着火可能温度を機関運転状態に基づき予測し、該予測された着火可能温度から前記予測された筒内温度を差し引いて得られる温度差が予め定められた第3の設定値よりも大きいときには予混合気形成用パイロット噴射を2回行い、該温度差が該第3の設定値よりも小さいときには予混合気形成用パイロット噴射を1回だけ行うようにした請求項7に記載のディーゼル機関の燃料噴射装置。
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