JP3677958B2 - ε−カプロラクタム製造用触媒およびこれをもちいてなるε−カプロラクタムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はε−カプロラクタムの製造用触媒およびこれを用いてなるε−カプロラクタムの製造方法に係わり、さらに詳しくはシクロヘキサノンオキシムの気相ベックマン転位反応によってε−カプロラクタムを製造するに有用な、結晶が連晶であるペンタシル型ゼオライトよりなる触媒の提供、およびこれを用いてなるε−カプロラクタムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ε−カプロラクタムはナイロン等の原料として用いられる重要な化学原料であり、その製造方法としては従来より硫酸を触媒として液相反応条件下にシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位する方法が工業的に採用されている。
【0003】
また触媒として固体酸を用い、気相反応条件下にシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位させることによってε−カプロラクタムを製造する方法も種々提案されている。例えば硼酸系触媒(特開昭53−37686号公報、同46−12125号公報)、シリカ・アルミナ系触媒(英国特許第881927号)、固体リン酸触媒(英国特許第881956号)、Y型ゼオライト触媒(Journal of Catalysis 6 247(1966))、結晶性アルミノシリケート触媒(特開昭57−139062号公報)および結晶骨格中のケイ素/ケイ素以外の金属原子比が500以上である結晶性メタロシリケート触媒(特公平4−40342号公報)等を用いる方法が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来公知の硫酸を触媒として用いる方法では、多量の発煙硫酸を必要とするだけでなく、ベックマン転位反応生成物からε−カプロラクタムを回収する為には硫酸をアンモニアにより中和する必要があり、この工程でε−カプロラクタム1トンあたり約1.5トンもの多量の硫酸アンモニウムが副生するという問題がある。一方、このような問題点を解決する方法として、前記のような様々な触媒を用いる気相ベックマン転位が提案されているが、触媒の性能面で十分とは言えず、シクロヘキサノンオキシムの転化率とε−カプロラクタムの選択率の更なる改良が望まれている。
【0005】
本発明者らはこのような現状に鑑み、シクロヘキサノンオキシムの気相ベックマン転位反応に用いる触媒として、シクロヘキサノンオキシムの転化率とε−カプロラクタムの選択率に優れた触媒を見いだすことを目的として鋭意検討を重ねた結果、特定の結晶形態を持ったペンタシル型ゼオライトが上記目的を全て満足する優れた触媒作用を発揮することを見出し本発明に至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、結晶が多数の突起を有する連晶であるペンタシル型ゼオライトよりなるε−カプロラクタム製造用触媒を提供するにある。
【0007】
さらに本発明は、ペンタシル型ゼオライトを触媒として気相反応条件下にシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位することによりε−カプロラクタムを製造する方法において、結晶が多数の突起を有する連晶であるペンタシル型ゼオライトを触媒として使用することを特徴とするε−カプロラクタムの製造方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の態様】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明に於いて使用するペンタシル型ゼオライトとしては、図1の走査電子顕微鏡写真で示すようにゼオライトの個々の結晶がカリフラワー状に発達した多数の突起(結晶)を有する連晶であるペンタシル型ゼオライトの使用を必須とする。ペンタシル型ゼオライトの結晶形態が図2の走査電子顕微鏡写真で示すように、母結晶に対し突起(結晶)を1個〜数個有する連晶では優れた触媒能を発揮し得ない。
【0009】
本発明に使用する多数の突起を有する連晶であるペンタシル型ゼオライトがいかなる生成工程を経て行われるのか明確ではないが、図2に見られる如く、ペンタシル型ゼオライトの生成に於いては、最初に成長を始めた結晶(母結晶)上の(010)面に、該結晶とはC軸を共有して互いに90°回転した状態で突起(結晶)が発生する。突起が生成しやすい条件下であれば、生成した突起の(010)面に更に突起が生成し、これが繰り返へされることにより図1に示すように母結晶上に数百以上の多数の結晶が生成した、外観がカリフラワー状の結晶を得ることができる。
【0010】
本発明に於いて使用するゼオライトは、結晶寸法が約5μm以下、通常約2μm以下で、その結晶骨格が主にケイ素と酸素から構成されかつケイ素以外の金属成分の含有量(原子比)がケイ素の1/500以下である結晶性ゼオライトである。結晶中に含まれてよいケイ素以外の金属元素としてはAl, B, Fe, Ti, Zr 等が挙げられる。かかる結晶性ゼオライトには種々の結晶型が知られているが、本発明に於いてはペンタシル型構造に属するものであり、就中、MFI構造の高シリカゼオライトが好ましい。
【0011】
多数の突起を有する連晶のペンタシル型ゼオライトの製造方法は特に制限されるものではないが、例えば、ケイ素化合物、水、水酸化テトラプロピルアンモニウム、さらに必要に応じてAl、B、Fe、Ti、Zrの化合物、アルカリ金属水酸化物、アンモニア、エタノールなどの溶媒を混合して、80℃〜200℃の温度条件で自圧下に攪拌しながら、あるいは静置条件で2時間以上反応させることによって合成される。これらの反応条件、共存する成分の有無等によりペンタシル型ゼオライトの結晶形態(結晶の大きさ、連晶の突起の数)は変化する。特に水熱合成時のテトラエチルシリケート、水、水酸化テトラプロピルアンモニウムの濃度、就中Siとのモル比及び水熱合成温度はペンタシル型ゼオライトの結晶(連晶)の突起の数に大きな影響を与える要因であり、水/Siモル比を低く、或いは水熱合成温度を高くすることによって、連晶の突起の数が多くなる傾向にある。しかし突起の数は水/Siモル比、水熱合成温度だけで一義的に決められるものではなく共存する成分(Al、B、Fe、Ti、Zrの化合物、アルカリ金属水酸化物、アンモニア、エタノールなど)の有無あるいはそれらの濃度によって大きく変化するので、簡易実験により生成するゼオライトの形態を走査電子顕微鏡等で確認しつつ水熱合成条件を設定すればよい。
【0012】
このようにして得られた結晶が多数の突起を有する連晶であるペンタシル型ゼオライトは、気相反応条件下にシクロヘキサノンオキシムよりラクタムを製造する触媒として適用される。反応は通常の固定床または流動層方式の気相接触反応で実施する。原料のシクロヘキサノンオキシムは原料気化器を通して気化させ、気体状態で触媒と接触させるが、その際シクロヘキサノンオキシム単独で供給してもよいがメタノール、エタノールなどの低級アルコールの蒸気とともに供給するのが好ましい。反応系内には窒素、二酸化炭素などの不活性ガスを共存させるのも好ましい。
【0013】
反応温度は通常約250℃〜約450℃、好ましくは約300℃〜約420℃の範囲である。原料の供給速度WHSVは約0.1〜約30h-1、好ましくは約0.5〜約10h-1の範囲から選ばれる。ここにWHSVは触媒単位重量当たりに供給されるシクロヘキサノンオキシムの1時間当たりの重量で定義される。
【0014】
シクロヘキサノンオキシムとともに低級アルコールを反応系に共存させる場合には、シクロヘキサノンオキシムに対してモル比で約0.1〜約20倍が好ましい。シクロヘキサノンオキシムと共に水を共存させることも出来る。水の量はシクロヘキサノンオキシムに対してモル比で約0.06以上であるのが好ましい。
さらには、反応系にアンモニアあるいはメチルアミンのような低級アミンを共存させることも効果がある。
【0015】
長期間の使用によって活性が低下した触媒は、酸素含有ガスによって400℃〜600℃で焼成することによって容易に元の活性に回復させることが出来るので、触媒は繰り返し使用することが出来る。
【0016】
反応生成物からのε−カプロラクタムの精製は、反応混合ガスを冷却して凝縮せしめ、ついで蒸留、抽出、晶析などにより実施することが出来る。
【0017】
本発明の特定形状を有するペンタシル型ゼオライトが何故優れた触媒活性及び選択性を発現するのかその理由は詳らかではないが、以下の如く推測される。
【0018】
即ち、本発明者等は、母結晶に対し突起が1個〜数個存在する粒子について解析した結果、走査電子顕微鏡写真、図2b、図2cから明確なように突起の接合部は4角錐状であり、同様にして突起の数が図2aよりも多い粒子(図3a )についても解析した結果、写真(図3b、図3c)に示すように接合部は全て相似形である。このように突起と母結晶の接合部は各々の結晶の異なる結晶面で接合しているために、Si-O-Si 結合が母結晶と突起との間で完全な状態にある訳ではなく部分的に結合が切れている。図2、図3に示した連晶の場合、母結晶と突起は互いに90°回転した方位関係を有しているため切断された結合には規則性が発現している。この結果ゼオライトの結晶内部にランダムではない一列に配向したある秩序を持ったネストシラノールが生成する。結合の切断されたところでは、模式的に表すと下記に示すようにネストシラノールが配列していると推測される。
【0019】
【0020】
本発明者らはこのように本発明の触媒を用いる場合には、連晶に起因して生成したネストシラノールがゼオライト結晶の外表面だけでなく、外表面から数層の結晶内に、突起と母結晶との接合面に沿って秩序を持って存在しており、これが触媒能に寄与していると考える。
【0021】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0022】
実施例1
ステンレス製オートクレーブにテトラエチルオルソシリケート416g、水酸化テトラプロピルアンモニウム44.7g、水360g、水酸化カリウム5.4gからなる混合液を仕込み、105℃の温度条件下に96時間水熱合成してゼオライト結晶を得た。
結晶を濾過、乾燥後、窒素ガス流通下に530℃にて3時間焼成し続いて530℃で酸素2%、窒素98%からなる混合ガス流通下に3時間焼成した。
焼成されたゼオライトはさらに100℃で沸騰する水の中で3時間処理し、ついで7.5重量%の硝酸アンモニウム水溶液5容量部と28重量%のアンモニア水溶液8容量部の混合液で90℃で1時間処理して濾過した。濾過残渣を再び7.5重量%硝酸アンモニウム水溶液と28重量%アンモニア水溶液の混合液で90℃1時間処理して濾過した。さらに濾過残渣を7.5重量%硝酸アンモニウム水溶液と28重量%アンモニア水溶液の混合液で処理して濾過し乾燥して触媒を得た。この触媒はX線回折を(図4)、走査電子顕微鏡像を(図5)および電子線回折パターンを(図6)に示す。これらから明らかなようにこの触媒は多数の突起を有する結晶性の良好なペンタシル型ゼオライトであることがわかる。 このようにして調製された触媒0.375gを、内径1cmの石英製反応管に充填し、窒素ガス流通下に350℃で1時間予熱処理した。ついでメタノール/シクロヘキサノンオキシムの重量比が1.8になるよう反応管に供給し反応させた。この時のシクロヘキサノンオキシムの空間速度(WHSV)は8h-1であり、反応炉の温度は325℃であった。反応生成物は水冷下に捕集し、ガスクロマトグラフで分析したところ、シクロヘキサノンオキシムの反応率は99.7%であり、εカプロラクタムの選択率は95.1%であった。
【0023】
比較例1
オートクレーブに仕込んだ液の組成が、テトラエチルオルソシリケート104g、水酸化テトラプロピルアンモニウム23.3g、水972g、水酸化カリウム1.3gからなる以外は実施例1と同様にして水熱合成した。ついで実施例1と同様にして濾過、乾燥、焼成し沸騰水での処理、硝酸アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合液での処理を行い、触媒を得た。この触媒のX線回折を(図7)に走査電子顕微鏡像を(図8)および電子線回折パターンを(図9)に示す。 これらから明らかなようにこの触媒は突起が僅かな結晶性の良好なペンタシル型ゼオライトである。
このようにして得た触媒を用いた他は実施例1と同様にしてシクロヘキサノンオキシムの転位反応を行った結果、シクロヘキサノンオキシムの反応率は58.5%であり、εカプロラクタムの選択率は88.3%であった。
【0024】
【発明の効果】
以上の記述から明らかな如く、本発明の触媒を用いた場合には従来技術に比較し、シクロヘキサノンオキシムの転化率が向上するのみならずε−カプロラクタムへの選択率も改善される。選択率が改善される結果、副生成物としての高沸点化合物の生成が減少する為に触媒上への炭素析出も改善され触媒寿命が改善される。また本触媒は高いWHSVを採用でき、触媒あたりの生産性が極めて高く、長期間の反応によって触媒上に炭素析出が起こり活性が低下した場合には、触媒を酸素含有ガスによって高められた温度で処理することによって容易に活性を元の状態に回復させることが出来る等、その工業的価値は頗る大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】結晶が多数の突起を有する連晶よりなるペンタシル型ゼオライトの粒子構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2】aは突起が少ないゼオライトの粒子構造、b、cは突起が少ないゼオライトの結晶の構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3】aは図2よりも突起が多いゼオライトの粒子構造、b、cはゼオライトの結晶の構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図4】X線回折スペクトルを示す。
【図5】実施例1で得られた触媒の粒子構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1で得られた触媒の結晶の構造を示す電子線回折パターンである。
【図7】X線回折スペクトルを示す。
【図8】比較例1で得られた触媒の粒子構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例1で得られた触媒の結晶の構造を示す電子線回折パターンである。
Claims (2)
- 結晶が多数の突起を有する連晶であるペンタシル型ゼオライトよりなるε−カプロラクタム製造用触媒。
- ペンタシル型ゼオライトを触媒として気相反応条件下にシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位することによりε−カプロラクタムを製造する方法において、結晶が多数の突起を有する連晶であるペンタシル型ゼオライトを触媒として使用することを特徴とするε−カプロラクタムの製造方法。
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