JP3676728B2 - 排水の加熱滅菌方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は排水の加熱滅菌方法及び装置に関し、とくに微生物及び/又はウィルス(細菌、糸状菌、酵母、らん藻、原生動物、ウィルス・ファージ、プリオン等から選択された1以上のものをいう。以下、同じ。)の存在が懸念される排水を不活化する加熱滅菌方法及び装置に関する。本発明は、とくに微生物及び/又はウィルスの存在が懸念される排水や廃液等(以下、纏めて排水という。)を排出する血液製剤等の製薬工場や病院等の施設に有効に適用できる。
【0002】
【従来の技術】
加熱滅菌方法は、比較的小さな装置で排水を連続的に処理できるので、経済的な滅菌が期待できる。ただし、熱交換器を用いた場合は、熱処理時に固化変性した排水中の微生物・ウィルスその他の有機物が配管内に沈澱・付着して管路を閉塞するおそれがある。本発明者等は、排水を蛋白質が沈澱しないpHとして熱交換器に通すことにより、配管の閉塞を生じさせない熱交換器利用の滅菌技術を開発し、特願2000-165344に開示した。
【0003】
図4を参照するに、同出願の滅菌装置は、微生物及び/又はウィルス含有排水Aを貯める排水槽1、排水槽1中の排水AのpHを調整するpH調整装置33、排水Aを滅菌温度に加熱する加熱器6、排水Aを滅菌温度で所要時間保持する保持管7、及び排水槽1中の排水Aを加熱器6へ送る送水管10を有し、pH調整装置33により排水Aを微生物及び/又はウィルスの構成蛋白質が滅菌による変性後も沈澱しないpHとしたのち加熱器6へ送る。加熱器6及び保持管7を備えた加熱処理装置5による滅菌効果は排水AのpHにより影響されない。同図の滅菌装置によれば蛋白質の管路への沈澱が抑制できるので、メンテナンス及び管理の容易化、ランニングコストの低減が図れる。
【0004】
更に、送水管10と加熱器6との間に第一及び第二予熱器15、16を設け、加熱器6へ通す前の排水Aを滅菌温度に保持後の滅菌済排水Eとの熱交換で昇温する。予熱器15、16は、排水Aの昇温及び滅菌済排水Eの降温に必要なエネルギーを節減してランニングコストの抑制に寄与する。同図の符号8は加熱器6の出口の液温を測定する温度センサ、符号9は保持管7内の圧力を測定する圧力センサを示す。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図4の滅菌装置では、装置全体が正常に動作する限り連続的且つ経済的な滅菌が可能であるが、排水の初期投入段階等において何らかの異常(流量制御不能、ポンプ故障等)が生じ、加熱器6による昇温が所定の滅菌温度に達しない場合には、加熱器6及び保持管7内の少なくとも一部分の排水Aが滅菌不充分となるおそれがある。滅菌不充分な排水Aが加熱器6や保持管7に発生すると、加熱器6や保持管7だけでなく、それより下流側の系内配管(以下、滅菌装置の下流路ということがある。)までもが未滅菌排水によって汚染されてしまうという問題点がある。
【0006】
下流路が微生物やウィルスで汚染されると、加熱器6の昇温機能が回復し、保持管7で滅菌された滅菌済排水Eが滅菌装置の下流路(予熱器16、中温排水Fの配管、予熱器15及び放水路14)を経由して放流水Hとして放出されるようになっても、既に汚染された下流路を流れる過程で滅菌済排水Eが再汚染されてしまう可能性がある。従って、滅菌装置の下流路が汚染された場合は、下流路の分解・滅菌という大規模な消毒処理操作や工事等が必要となる。排水を連続的に加熱滅菌する処理では、滅菌装置の下流路の微生物及び/又はウィルスによる汚染を防ぎ、下流路での再汚染を避ける対策が必要である。
【0007】
そこで本発明の目的は、滅菌済排水が汚染配管により再汚染されるのを防止して滅菌済排水の品質を安定させる加熱滅菌方法及び装置を提供することにある。また本発明の他の目的は、排水の加熱滅菌処理の運転開始時における配管汚染の発生を防止する加熱滅菌方法及び装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、食品取扱施設等で見られる炭水化物、脂肪およびタンパク質等の有機物の付着による汚れの洗浄液に注目した。微生物及び/又はウィルスはそれ自体有機物であり、また他の有機物に寄生するものであるから、加熱滅菌処理の異常時、即ち温度降下時に発生する滅菌不充分な排水を前記洗浄液で置換すれば、滅菌不充分な排水による滅菌装置の下流路の汚染(微生物及び/又はウィルスの付着・沈着等による残存)を防ぐことができるはずである。本発明は、この知見に基づく研究開発の結果、完成に至ったものである。
【0009】
図1を参照するに、本発明の排水の加熱滅菌方法は、排水Aを予熱器 15 、 16 の低温流路経由で加熱器6に送って滅菌温度とし所要時間保持のうえ予熱器15、16の高温流路で冷して系外へ流出させる滅菌方法において、排水槽1の排水A又は洗浄液槽17の洗浄液Iを選択的に予熱器15、16の低温流路へ送る入口弁装置18と、予熱器15、16の高温流路の流出水を選択的に放流路14、排水槽1又は洗浄液槽17へ送る出口弁装置21とを設け、排水滅菌操作時に入口弁装置18で排水Aを系内へ送ると共に出口弁装置21で予熱器15、16の高温流路の流出水を放流路14に送り、加熱器6の出口の温度不足検出時に、入口弁装置18で洗浄液Iを系内へ送ると共に出口弁装置21で系内の排水Aを排水槽1へ送出して系内を洗浄液Iで置換したのち洗浄液Iを洗浄液槽17に還流して系内で循環させてなるものである。
【0010】
好ましくは、加熱器6の出口温度の回復まで洗浄液Iの洗浄液槽17への還流を持続し、加熱器6の出口温度の回復に応ずる排水滅菌操作の再開時に入口弁装置18で排水Aを系内へ送ると共に出口弁装置21で予熱器15、16の高温流路の流出水を放流路14へ送る。更に好ましくは、洗浄液Iを、系内に付着・沈着した有機物を洗い出す濃度の水酸化ナトリウム溶液とする。
【0011】
また本発明による排水の加熱滅菌装置は、水を滅菌温度に加熱する加熱器6、加熱器6からの水を所要時間保持する保持管7、保持管7に連なる高温流路と加熱器6に連なる低温流路とを有し両流路間で伝熱する予熱器15、16、排水槽1又は洗浄液槽17を選択的に予熱器15、16の低温流路へ接続する入口弁装置18、予熱器15、16の高温流路を選択的に放流路14、排水槽1又は洗浄液槽17へ接続する出口弁装置21、加熱器6の出口温度を検出する温度センサ8、及び排水滅菌操作時に入口及び出口弁装置18、21で排水槽1及び放流路14を選択し且つ加熱器6の出口の温度不足検出時に入口及び出口弁装置18、21で洗浄液槽17及び排水槽1を選択して入口弁装置 18 から出口弁装置 21 に至る系内を洗浄液Iで置換したのち出口弁装置21で洗浄液槽17を選択して洗浄液Iを系内で循環させる滅菌制御装置31を備えてなるものである。
【0012】
好ましくは、滅菌制御装置31により、加熱器6の出口温度の回復まで洗浄液Iの系内循環を持続し且つ加熱器6の出口温度の回復に応ずる排水滅菌操作の再開時に入口及び出口弁装置18、21で排水槽1及び放流路14を選択する。図示例では二つの予熱器15、16を使っているが、これは設計上の便宜のためであり、単一又は三つ以上の予熱器を使うことが可能である。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1は、血液製剤等の製薬施設・工場や病院等から排出されるCIP(Cleaning in Place;生産状態のままで、特に装置に追加的機器を取り付けることなく又は生産設備を分解することなく行われる自動洗浄をいう。以下同じ。)排水、洗浄室からの洗浄排水、床排水等の排水の滅菌に本発明を適用した実施例のブロック図を示す。排水Aを滅菌温度に加熱する加熱器6と、加熱器6の出口に連通し滅菌温度の排水を所要時間保持するホールディングチューブ等の保持管7と、保持管7に連なる高温流路と加熱器6に連なる低温流路とを有し両流路間で伝熱する第一予熱器15及び第二予熱器16とにより微生物・ウィルスの種類に応じた滅菌路を構成する。
【0014】
予熱器15、16の低温流路は、弁19又は20を介して排水槽1又は洗浄液槽17へ選択的に接続される。図示例では弁19及び20により入口弁装置18を構成する。また予熱器15、16の高温流路は、弁22、23又は24を介して放流路14、排水槽1又は洗浄液槽17へ選択的に接続される。図示例では弁22、23又は24により出口弁装置21を構成する。
【0015】
滅菌処理時は、入口弁装置18により予熱器15、16の低温流路を排水槽1に接続し、出口弁装置21により予熱器15、16の高温流路を放流路14に接続する。排水槽1から入口弁装置18経由で第一予熱器15に処理対象の排水Aを供給し、第一予熱器15の低温流路で昇温された昇温排水Bを第二予熱器16の低温流路へ送り、そこでさらに昇温した昇温排水Cを加熱器6に加える。図示例では加熱器6を水蒸気Gと排水との熱交換によるものとし、排水を所定の滅菌温度(例えば135℃)に加熱して高温排水Dとする。排水を滅菌温度に所定時間(例えば90秒)保持するため、保持管7へ送る。
【0016】
所定の滅菌温度に所定時間保持した滅菌済排水Eを第二予熱器16の高温流路に戻し、昇温排水Cとの熱交換により冷して中温排水Fとする。その中温排水Fを第一予熱器15の高温流路へ送り、昇温排水Bとの熱交換により所定排出温度まで降温させた後、放流水Hとして出口弁装置21経由で放流路14へ送り、系外(例えば下水路)へ放流する。
【0017】
好ましくは、加熱器6による加熱温度及び保持管7による保持時間を調節可能とし、微生物・ウィルスの種類に応じて6桁滅菌(初期生菌数N0に対する滅菌後の生菌数Nの生存割合(=N/N0)が100万分の1(10-6)以下の滅菌)を確保できるようにする。本発明者は、血液製剤の製薬施設からの排水Aについて、滅菌路において135℃に90秒以上保持することにより、混在の危険性が否定できない細菌類及びヒト免疫不全ウィルス(HIV)、B型肝炎ウィルス(HBV)やC型肝炎ウィルス(HCV)等の肝炎ウィルス、その他現在、血液と血液製剤で感染が確認されている全てのウィルス(WHO:GLOBAL BLOOD SAFETY INITIATIVE、1992年、p374参照)が6桁滅菌できることを実験的に確認した。
【0018】
図示例では、加熱器6の出口の高温排水Dの温度を温度センサ8により検出し、温度センサ8の出力と連動する加熱制御装置32の蒸気流量制御弁25の開度調節によって加熱器6の滅菌温度を制御している。保持管7による保持時間では6桁滅菌が確保できないような加熱器6の出口の温度低下又はその持続、例えば(滅菌温度−3℃)の液温の1分間以上の持続は温度不足に該当する。また、加熱器6により排水を滅菌温度より3℃程度高温に加熱し、加熱器出口で(滅菌温度−3℃)程度の液温が検出された時点で温度不足と判断してもよい。
【0019】
例えば、温度センサ8で(滅菌温度−3℃)の液温の1分間以上の持続を検出した場合は、滅菌制御装置31の信号により入口弁装置18における弁19を閉めると共に弁20を開け、系内に洗浄液Iを送入する。同時に滅菌制御装置31の信号により出口弁装置21における弁22を閉めると共に弁23を開け、系内に残存している未滅菌排水(未不活化液)を排水槽1へ返送する。本発明では、温度センサ8以降の保持管7や予熱器15、16のボリュームが例えば1分間滞留分以上を確保しているため、入口弁装置18及び出口弁装置21の上記制御によって、未滅菌排水が予熱器15、16の高温流路から系外に放流されることを阻止できる。
【0020】
系内の未滅菌排水が全て排水槽1に返送されるまで洗浄液Iを送入したのち、滅菌制御装置31の信号により出口弁装置21における弁23を閉めると共に弁24を開け、系内に洗浄液Iを循環させる。この循環により、排水槽1への返送過程において加熱器6及び保持管7の下流路(図示例では予熱器16、中温排水Fの配管及び予熱器15)に付着・沈着した微生物及び/又はウィルスを含む有機物を洗い流す。
【0021】
洗浄液Iの一例は、系内に付着・沈着した有機物を洗い出す濃度の水酸化ナトリウム溶液である。水酸化ナトリウム溶液は、後述するように導電率により濃度を測定することができ、洗浄液Iの濃度の常時監視が容易に行える利点がある。ただし、本発明で用いることができる洗浄液Iは水酸化ナトリウム溶液に限定されず、従来から食品取扱施設等において有機物の洗浄に使用されている他のアルカリ性洗剤、中性洗剤、酸性洗剤を使用することができる(HACCP:衛生管理計画と実践データ編、厚生省生活衛生局監修、中央法規出版、1997.12.10発行、p.166-167参照)。
【0022】
すなわち本発明によれば、温度センサ8による加熱器6の出口温度不足の検出に応答して、系内に残存している未滅菌排水を排水糟1へ返送すると共に洗浄液Iを系内に循環させることにより、異常時における未滅菌排水の系外への排出と共に未滅菌排水による系内配管の汚染を防ぐことができる。系内配管の汚染を防止することにより滅菌済排水の再汚染を防止し、再汚染された排水の系外への排出が回避できるので、滅菌済排水の安定した品質が確保できる。
【0023】
こうして、本発明の目的である「滅菌済排水が汚染配管により再汚染されるのを防止して滅菌済排水の品質を安定させる加熱滅菌方法及び装置」の提供が達成できる。
【0024】
好ましくは、加熱器6の出口温度の回復まで洗浄液Iの洗浄液槽17への還流を持続し、加熱器6の出口温度の回復に応じて加熱器6により洗浄液Iを滅菌温度に加熱する。従来、低温の排水Aの流入開始時に加熱器6の加熱不足が発生しがちとなる問題が指摘されており、加熱器6の出口温度の異常からの回復時にも排水Aの流入再開時に加熱器6の加熱不足が起こるおそれがある。系内を滅菌温度に加熱した洗浄液Iで充填した上で排水Aの流入を開始すれば、保持管7から戻る高温の洗浄液Iにより予熱器15、16が働くので、加熱器6の加熱不足が防止できる。
【0025】
すなわち、加熱器6の出口温度の異常時に洗浄液Iを系内で循環させ、加熱器6の出口温度の回復に応じて排水滅菌操作を再開することにより、本発明の他の目的である「排水の加熱滅菌処理の運転開始時における配管汚染の発生を防止する加熱滅菌方法及び装置」の提供が達成できる。
【0026】
必要に応じて入口弁装置18と予熱器15、16との間に流量調節器12を設け、排水滅菌操作の再開時に排水Aの流量を加熱器6で滅菌温度に昇温できる初期流量に調整してもよいが、洗浄液Iを系内で循環させつつ加熱器6の出口温度の回復に応じて排水Aの流入を再開した場合は、排水Aの初期流量を調節せずとも加熱器6の加熱不足は発生しないことを本発明者は実験的に確認した。
【0027】
【実施例】
90m3/日の排水Aを10時間で滅菌処理すると仮定して図1に示す装置を試設計し、図2の流れ図の動作態様で滅菌処理が可能であることを確認した。図2の流れ図では洗浄液Iとして水酸化ナトリウム溶液を使用し、ステップ201においてスタートアップ時に水酸化ナトリウム溶液で系内を充填した。この時、入口弁装置18の弁19を閉じると共に弁20を開き、出口弁装置21において弁22、23を閉じると共に弁24を開く。
【0028】
図示例では、洗浄液槽17に、弁27及び28を介して高濃度水酸化ナトリウム貯蔵タンク3及び希釈水Wの供給管を接続している。また、水酸化ナトリウム溶液の導電率を計測する導電率計(電気伝導度計)29と、導電率計29の出力に応じ水酸化ナトリウム及び希釈水Wを洗浄液槽17へ供給して水酸化ナトリウム溶液の濃度を制御する洗浄液濃度制御装置30とを設けている。本発明者は、水酸化ナトリウム溶液の濃度を導電率計29の検出値として測定できることを表1及び図3のグラフに示すように実験的に確認し、水酸化ナトリウム溶液の濃度の常時監視が可能であることも確認した。
【0029】
【表1】
【0030】
ステップ202において、水酸化ナトリウム溶液の濃度を導電率計29により検出し、導電率計29の出力を洗浄液濃度制御装置30へ入力する。導電率計29の出力が系内に付着・沈着した有機物を洗い出す濃度と異なる場合は、洗浄液濃度制御装置30の制御下で弁27、28の開閉により高濃度水酸化ナトリウム及び希釈水Wを洗浄液槽17へ適宜注入して所要の濃度値に調整する。
【0031】
次いで、ポンプ11により水酸化ナトリウム溶液を系内で循環させながら加熱器6により過熱し、ステップ203において温度センサ8により加熱器6の出口温度を測定した。温度センサ8の出力を加熱制御装置32に加え、温度測定値が滅菌温度と異なる場合にはステップ204において加熱制御装置32の制御下で蒸気流量制御弁25の開閉により水蒸気Gを適宜加熱器6へ送入して所要の滅菌温度に調整した。
【0032】
水酸化ナトリウム溶液を滅菌温度に調整した後、ステップ205において入口弁装置18により弁20を閉めて弁19を開け、出口弁装置21により弁23、24を閉めて弁22を開け、予熱器15、16を介して排水Aの加熱器6への流入を開始した。本設計の保持管7において90秒の保持時間が確保できる最大流量は150リットル/分であることから、排水Aの初期流量を150リットル/分として流入を開始したところ、ステップ206において温度センサ8の指示は135℃であった。すなわち、水酸化ナトリウム溶液を系内で循環させ、加熱器6の出口温度の回復に応じて排水Aの流入を開始するステップ201〜205のスタートアップ処理により、排水Aの加熱滅菌処理開始時における加熱器6の加熱不足の発生を避けられることが確認できた。
【0033】
比較のため、図1の装置に、前記スタートアップ処理を行わずに90m3/日の排水A(温度30℃)を150リットル/分の流量で流入させたところ、排水Aの流入初期段階において加熱器6の出口の温度センサ8は90℃程度までしか上昇しなかった。排水Aの流入の継続により加熱器6の出口温度は135℃の滅菌温度に上昇したが、滅菌温度まで上昇後に滅菌済排水E中の生菌数を確認したところ6桁滅菌が確保できていないことが確認された。これは、流入初期段階の滅菌不充分な排水Aが加熱器6の下流路へ流れ出たことにより下流路が微生物やウィルスにより汚染され、滅菌温度まで上昇した後も下流路で再汚染が起こるからと考えられる。
【0034】
また、図1の装置において加熱器6の出口の温度不足が発生したと仮定し、ステップ208において入口弁装置18により弁19を閉めて排水Aの流入を停止させた。実際に温度不足が発生した場合は、ステップ209において温度不足の原因の調査・修理を行う。排水Aの流入を停止したのちステップ201に戻り、入口弁装置18の弁20を開けて系内に水酸化ナトリウム溶液を送入し、同時に出口弁装置21の弁23を開けて系内に残存している未滅菌排水を排水槽1へ返送した。系内の未滅菌排水を全て排水槽1に返送したのち、出口弁装置21の弁24を開けて系内に水酸化ナトリウム溶液を循環させ、更にステップ201〜206を繰り返して排水1の流入を再開した。排水1の流入再開後に排出された滅菌済排水E中の生菌数を計測したところ、6桁滅菌が確保できていることが確認できた。すなわち上述した比較実験との対比から、本発明におけるスタートアップ処理が配管汚染の発生を防止し、排水の6桁滅菌を確保するために極めて有効であることが確認できた。所要量の排水Aの滅菌処理が終了した時は、ステップ210において滅菌(不活化)処理を終了する。
【0035】
図示例では、2段の予熱器15、16を冷温流体と同量の高温流体が流入する熱交換器としている。例えば排水Aの受け入れ温度を30℃とし、90m3/日の排水Aを加熱器6で135℃に昇温して90秒保持するとした場合、第一予熱器15、第二予熱器16の伝熱面積をそれぞれ45m2、加熱器6の伝熱面積を8m2とすると、排水Aは第一予熱器15により75℃の昇温排水Bとなり、第二予熱器16により120℃の昇温排水Cとなり、加熱器6により135℃の高温排水Dとなる。また、保持管7から排出される滅菌済排水Eは第二予熱器16により90℃まで降温して中温排水Fとなり、第一予熱器15により45℃の放流水Hとなる。この場合、加熱器6には4KGの蒸気圧力で300kg/時の水蒸気Gを投入すれば足りる。
【0036】
他方、90m3/日の排水Aをキルタンク(直接蒸気投入式の密閉容器)又は単一の直接熱交換器を用いて135℃、90秒保持の滅菌処理をする場合は、必要な蒸気量は2,200kg/時となる。更にこの場合は、保持管7通過後の滅菌済排水Eを降温するため、別途に降温エネルギーを加えるか又は降温する時間とスペースが必要となる。このことから、本発明のように予熱器15、16を設けることにより、外部から供給するエネルギーの節減により省エネルギーが図れることを確認できた。
【0037】
本発明は予熱器を1台の熱交換器とした場合も適用できるが、熱交換器1台で30℃の排水Aを120℃まで昇温しようとすると熱交伝面を大きくする必要があり、熱交伝面が大きくなると偏流が発生しやすくなり、偏流は排水Aの温度分布ムラの原因となる。加熱滅菌における排水Aの温度分布ムラの発生は、滅菌温度に加熱できない部分が生じるおそれがあるので好ましくない。図1の実施例では、低温流体と同量の高温流体とが流入する熱交換器を直列に接続した多段熱交換器を予熱器15、16とし、多段熱交換器15、16での放熱により高温流路出口の放流水Hを例えば下水道に放流可能な温度に降温する。
【0038】
図1における加熱器6、及び予熱器15、16として使う熱交換器に特に制限はないが、例えばスパイラル式熱交換器とすることができる。スパイラル式熱交換器は多管式熱交換器に比し流路が単一で滑らかである。このため、熱交換器の配管内にスケールが付着すると付着箇所の断面積が小さくなることによって流速が増大し、スケールを剥離させる自己浄化作用が働く。従ってスパイラル式熱交換器の使用により、スケールが付着し難くメンテナンスが容易な装置とすることが期待できる。
【0039】
本発明では、加熱器6の温度不足検出時及びスタートアップ時に洗浄液Iを系内に充填するので系内管路への蛋白質等の有機物の沈澱を抑制できるが、系内管路にスケールが沈澱・付着した場合の対策として、ライン洗浄ユニット(図示せず)を別途設けてもよい。好ましくは系内管路をステンレス製とし、ライン洗浄ユニットから硝酸を循環させる。硝酸はスケールを溶解すると共にステンレス配管に不動態皮膜を形成し耐食性を増加させる。不動態皮膜の形成により寿命の長い装置とすることが期待できる。ライン洗浄ユニットは、系内管路のあらゆる部分に十分な量の適切な温度の洗浄液又は蒸気を行き渡らせる従来技術のCIPユニットとすることができる。加熱器6を熱交換器とした場合は、加熱器6の出口蒸気をライン洗浄ユニットへ導いて再利用することにより、全ての系内管路及び装置を熱洗浄ないし熱滅菌(Sterilization-in-place、SIP)することが可能である。薬液のみでなく蒸気を用いた簡易滅菌により、装置の開放点検などの頻度を減らし、メンテナンスの更なる容易化を図ることができる。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による排水の加熱滅菌方法及び装置は、加熱器出口の温度不足検出時に、洗浄液を加熱器へ送ると共に系内の排水を排水槽へ送出ののち洗浄液を系内で循環させるので、次の顕著な効果を奏する。
【0041】
(イ)加熱器の出口温度不足時における未滅菌排水の系外への排出と未滅菌排水による系内配管の汚染とを確実に防ぐことができる。
(ロ)加熱器の出口温度不足時に洗浄液を系内で循環させ、加熱器の出口温度回復に応じて排水滅菌操作を再開することにより、排水滅菌処理の運転開始時における系内配管の汚染の発生を確実に防止できる。
(ハ)系内配管の汚染を防止することにより滅菌済排水の再汚染を防止でき、滅菌済排水の安定した品質が確保できる。
(ニ)薬液による消毒では不充分な細菌、ウイルスに対しても所定の高い温度(致死温度)に昇温することができ、確実に不活化することが可能である。
【0042】
(ホ)対象ウィルスによって、任意に設定温度(不活化温度)を変更でき、将来の未知の細菌やウィルスに対しても対応可能である。
(ヘ)多段熱交換方式で処理するので、直接蒸気投入等のバッチ式熱処理法に比し、従来捨てられていた熱交換器前後の放熱分を有効に回収することが可能になり、エネルギーを節減できる。
(ト)連続処理が可能なため、省スペースが可能であり且つコンパクトな装置設計が可能である。
【0043】
(チ)洗浄液に使う水酸化ナトリウム溶液は、所定濃度低下時まで継続利用でき、回収再利用も可能であり、消費量を抑え低コストで利用できる。
(リ)不活化行程の熱源は蒸気のみであり、薬液処理に比べ環境を汚染する可能性が低い。また、薬液処理では大量の薬液が必要となりコストが嵩むが本システムは処理のランニングコストを低減することができる。
(ヌ)熱交換器の種類は問わないが、スパイラル式熱交換器であれば、管内の自浄作用が働き、スケール防止に効果を発揮することが可能である。
(ル)加熱用に供給される蒸気は、これを管路洗浄ユニット(CIPユニット)に再利用して熱消毒(SIP)をも兼ねさせ有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、本発明の一実施例の図式的ブロックである。
【図2】は、前記実施例の動作の流れ図の一例である。
【図3】は、水酸化ナトリウム水溶液の導電率と濃度との関係を示すグラフである。
【図4】は、従来技術による加熱滅菌方法の一例の図式的ブロックである。
【符号の説明】
1…排水槽
3…高濃度水酸化ナトリウム貯蔵タンク
5…加熱処理装置 6…加熱器
7…保持管 8…温度センサ
9…圧力センサ 10…送水管
11…ポンプ 12…流量調節器
14…放流路 15…第一予熱器
16…第二予熱器 17…洗浄液槽
18…入口弁装置
19、20、22、23、24、27、28…弁
21…出口弁装置 25…蒸気流量制御弁
29…導電率計(電気伝導度計)
30…洗浄液濃度制御装置 31…滅菌制御装置
32…加熱制御装置 33…pH調整装置
34…温度センサ
A…排水 B…昇温排水
C…昇温排水 D…高温排水
E…滅菌済排水 F…中温排水
G…水蒸気 H…放流水
I…洗浄液 W…希釈水
Claims (13)
- 排水を予熱器低温流路経由で加熱器に送って滅菌温度とし所要時間保持のうえ予熱器高温流路で冷して系外へ流出させる滅菌方法において、排水槽の排水又は洗浄液槽の洗浄液を選択的に予熱器低温流路へ送る入口弁装置と、予熱器高温流路の流出水を選択的に放流路、排水槽又は洗浄液槽へ送る出口弁装置とを設け、排水滅菌操作時に入口弁装置で排水を系内へ送ると共に出口弁装置で予熱器高温流路の流出水を放流路に送り、加熱器出口の温度不足検出時に、入口弁装置で洗浄液を系内へ送ると共に出口弁装置で系内の排水を排水槽へ送出して系内を洗浄液で置換したのち洗浄液を洗浄液槽に還流して系内で循環させてなる排水の加熱滅菌方法。
- 請求項1の加熱滅菌方法において、前記加熱器出口温度の回復まで前記洗浄液の洗浄液槽への還流を持続し、前記加熱器出口温度の回復に応ずる排水滅菌操作の再開時に入口弁装置で排水を系内へ送ると共に出口弁装置で予熱器高温流路の流出水を放流路に送ってなる排水の加熱滅菌方法。
- 請求項1又は2の加熱滅菌方法において、前記洗浄液を系内に付着・沈着した有機物を洗い出す濃度の水酸化ナトリウム溶液としてなる排水の加熱滅菌方法。
- 請求項3の加熱滅菌方法において、前記洗浄液槽に導電率計と洗浄液濃度制御装置とを設け、導電率計による水酸化ナトリウム溶液の導電率に応じ水酸化ナトリウム溶液の濃度を制御してなる排水の加熱滅菌方法。
- 請求項1から4の何れかの加熱滅菌方法において、前記加熱器を水蒸気と排水又は洗浄液との熱交換器とし、該熱交換器に排水又は洗浄液の温度計と水蒸気流量制御弁とを設け、温度計の出力に応じ流量制御弁を操作して排水又は洗浄液を滅菌温度に加熱してなる排水の加熱滅菌方法。
- 請求項1から5の何れかの加熱滅菌方法において、前記予熱器での放熱により高温流路出口の流出水を放流可能な温度に降温させてなる排水の加熱滅菌方法。
- 水を滅菌温度に加熱する加熱器、加熱器からの水を所要時間保持する保持管、保持管に連なる高温流路と加熱器に連なる低温流路とを有し両流路間で伝熱する予熱器、排水槽又は洗浄液槽を選択的に予熱器低温流路へ接続する入口弁装置、予熱器高温流路を選択的に放流路、排水槽又は洗浄液槽へ接続する出口弁装置、前記加熱器出口の温度を検出する温度センサ、及び排水滅菌操作時に入口及び出口弁装置で排水槽及び放流路を選択し且つ加熱器出口の温度不足検出時に入口及び出口弁装置で洗浄液槽及び排水槽を選択して入口弁装置から出口弁装置に至る系内を洗浄液で置換したのち出口弁装置で洗浄液槽を選択して洗浄液を系内で循環させる滅菌制御装置を備えてなる排水の加熱滅菌装置。
- 請求項7の加熱滅菌装置において、前記滅菌制御装置により、前記加熱器出口温度の回復まで前記洗浄液の系内循環を持続し且つ前記加熱器出口温度の回復に応ずる排水滅菌操作の再開時に入口及び出口弁装置で排水槽及び放流路を選択してなる排水の加熱滅菌装置。
- 請求項7又は8の加熱滅菌装置において、前記洗浄液を系内に付着・沈着した有機物を洗い出す濃度の水酸化ナトリウム溶液としてなる排水の加熱滅菌装置。
- 請求項9の滅菌装置において、前記洗浄液槽に水酸化ナトリウム貯蔵タンクと、希釈水供給管と、水酸化ナトリウム溶液の導電率を計測する導電率計と、導電率計の出力に応じ水酸化ナトリウム及び希釈水を洗浄液槽へ供給して水酸化ナトリウム溶液の濃度を制御する洗浄液濃度制御装置を設けてなる排水の加熱滅菌装置。
- 請求項7から10の何れかの滅菌装置において、前記加熱器を水蒸気と排水又は洗浄液との間の熱交換器とし、該熱交換器に水蒸気流量制御弁を設け、前記温度センサの出力に応じ流量制御弁を操作して排水又は洗浄液を滅菌温度に加熱してなる排水の加熱滅菌装置。
- 請求項7から11の何れかの滅菌装置において、前記入口弁装置と予熱器との間に流量調節器を設けてなる排水の加熱滅菌装置。
- 請求項7から12の何れかの滅菌装置において、前記予熱器を直列に接続した多段熱交換器とし、該多段熱交換器での放熱により高温流路出口の流出水を放流可能な温度に降温してなる排水の加熱滅菌装置
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