JP3676298B2 - 化学物質の検出装置および化学物質の検出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、化学物質の検出装置および化学物質の濃度測定方法に関し、特に、ごみ焼却施設等の排ガス中にごく微量含まれるダイオキシン類やその前駆体を高精度に検出するための化学物質の検出装置および化学物質の検出方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、ごみ焼却施設から排出される排ガス中に含まれるダイオキシン類を低減させるために、排ガス中に含まれるダイオキシン類またはその前駆体をリアルタイムに測定して焼却炉の燃焼制御に用いる試みが始まっている。ダイオキシン類の測定には、高分解能のGC/MS(ガスクロマトグラフ/質量分析計)による測定法が知られているが、この方法は複雑な前処理を要するため、試料採取から結果が判明するまでに数週間を要するのが現状である。したがって上記のようなリアルタイム制御に適用することは極めて困難である。この問題を解決するため、大気圧化学イオン化法により排ガス中に含まれるダイオキシン類やその前駆体をイオン化し、このイオンを三次元四重極質量分析計によって測定するオンラインモニターが開示されている。なお、このオンラインモニターについては、第11回廃棄物学会研究発表会講演論文集 2000にその詳細が記載されているので、必要があればこちらを参照されたい。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記大気圧化学イオン化法ではつぎのような問題点があった。まず、その計測原理のため、負イオンになりにくい分子を計測する感度が低く、精密な制御には適用し難かった。つぎに、計測対象化学物質のイオン化確率は、雰囲気ガス組成によって大きく影響を受ける。このため、計測される電気的な信号強度からその濃度を算出するためには、高価なC同位体を含む化学物質を内部標準試料として使用必要があるため、測定に要するコストが高くなっていた。
【0004】
つぎに、上記大気圧化学イオン化法においては、ダイオキシン類の濃度と相関があるとされ、かつ、計測感度の比較的高いフェノール類を検出する場合が一般的である。しかし、フェノール類は配管に付着しやすいためメモリー効果が大きく、配管に工夫しないと感度よく測定できない。また、このメモリー効果のため、排ガスがきれいになってもフェノール類が検出されて測定精度が低下する。さらに、測りたい前駆体よりもイオン化されやすい物質が排ガス中に存在する場合には、そちらの方が先にイオン化してしまい、測定したい物質を正確に測定することが困難である。
【0005】
また、ある炉において、ある1つの前駆体(例えばトリクロロフェノール)がダイオキシン類濃度の最適な指標物質であったとしても、他の炉においては炉の種類や燃焼条件等が異なる場合がある。このため、他の炉において前記ある炉における指標物質が最適であるとは限らず、一つの前駆体が計測できるだけでは汎用性が低い。すなわち、汎用性を高めるためには、様々な種類の化学物質を、できれば同時に検出できる方が好ましい。
【0006】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、検出対象化学物質の検出感度を向上させること、焼却炉や加熱炉その他の燃焼炉を運転している最中であってもその燃焼条件を制御できる程度に検出対象化学物質の検出速度を向上させること、検出設備の低コスト化を図ることのうち少なくとも一つを達成できる化学物質の検出装置および化学物質の検出方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、請求項1に係る化学物質の検出装置は、電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ手段と、所定の信号強度よりも高い信号強度を示す濃度で存在する不純物の軌道共鳴周波数に対応した周波数においては、所定の信号強度よりも低い信号強度を示す濃度で存在する不純物の軌道共鳴周波数に対応する周波数帯における電圧振幅よりも大きい電圧振幅を有するSWIFT波形を生成する任意波形発生手段と、この任意波形発生手段で生成された前記SWIFT波形を、前記イオントラップ手段に閉じ込められているイオン群に与えて前記不純物を除去した後に、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この発明では、特定の信号強度よりも高い濃度で存在する不純物の質量数に対応する周波数のSWIFT波形の電圧振幅を高くし、不純物の濃度が低い質量数に対応する周波数においては電圧振幅を低くすることで、特に濃度の高い不純物を選択的に除去できる。これによって、不純物を選択的に除去できるので、SWIFTに要するエネルギーが少なくて済む。また、電源装置を小型にできるので、無闇に大きな電源を使用しなくともよいため、経済的である。ここで、SWIFT波形の電圧振幅を高くする不純物は、少なくとも検出対象化学物質の信号強度と同じ程度の信号強度を示す濃度で存在する不純物を対象とすることが好ましい。さらに少ない質量数存在する不純物を対象としてもよいが、そうするとSWIFTに要するエネルギーが大きくなるため、検出対象化学物質の信号強度の5割以上の信号強度を持つ不純物を対象とすることが好ましい。
【0009】
さらに、不純物除去の際にはSWIFT波形を与えるだけなので、素早く不純物が除去できる。また、この発明に係るイオン化においては、イオン化に要するエネルギーを適度に設定しているため、無闇に各種の分子を解離したりイオン化したりすることがない。このため、フラグメントの発生が非常に少ないので、不純物を取り除く過程で除去すべき不純物も極めて少なくなる。その結果、SWIFT電圧を低く抑えることができるので、残すべき検出対象化学物質を壊さないで済み、質量分析手段の検出感度を高くできる。また、無闇に大きな電源を用意する必要はなく、装置の製造コストを抑えることができる。さらに、この発明に係る化学物質の検出装置では、余分なフラグメントイオンの発生を極めて小さく抑えることができる。これによって、イオントラップ内に余分なイオンが多量に存在することによるトラップ効率低下を小さく抑えることができる。ここで、質量分析手段には、特に飛行時間計測方式のものを使用すると、計測時間を短くできるので好ましい。また、イオントラップ手段には電界や磁界その他の電磁気学的力によってイオンを内部に閉じ込めるものが使用できる。電界や磁界等はそれぞれ単独で使用してもよく、またこれら複数を適宜組み合わせて使用してもよい。このようなイオントラップ手段としては、高周波電界が内部に形成されるイオントラップが知られており、これは取り扱いが比較的容易であるため好ましい(以下同様)。
【0010】
なお、この発明にいう検出対象化学物質は、焼却炉等の排ガス中に含まれるダイオキシン類の前駆体やダイオキシン類そのものをいう。したがって、この発明に係る化学物質の検出装置では、ダイオキシン類と相関の高い前駆体を検出して排ガス中に含まれるダイオキシン類濃度を推定することができる。また、直接排ガス中に含まれるダイオキシン類を検出してその濃度を求めたりすることもできる。後者は前駆体による推定値を検定する際にも使用できる。ここで、ダイオキシン類とは、一般にダイオキシン類やフランやコプラナーPCBと呼ばれる分子を含むものである。また、前駆体には、例えばトリクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、モノクロロベンゼン等のベンゼン類や、トリクロロフェノール等のフェノール類が含まれる。
【0011】
また、SWIFTとはStored Waveform Inverse Fourier Transformであり、詳細は、文献"Development of a Capillary High-performance Liquid Chromatography Tandem Mass Spectrometry System Using SWIFT Technology in an Ion Trap/Reflectron Time-of-flight Mass Spectrometer" Rapid Communication in mass spectrometry, vol. 11 1739-1748(1997) を参照されたい。
【0012】
また、請求項2に係る化学物質の検出装置は、電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ手段と、周波数が大きくなるにしたがって電圧振幅を小さくしたSWIFT波形を発生させる任意波形発生手段と、前記SWIFT波形を前記イオントラップ手段に閉じ込められているイオン群に与えて前記不純物を除去した後に、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この発明に係る化学物質の検出装置は、質量数の大きい不純物に対して、質量数の小さい不純物に与えるエネルギーと同程度のエネルギーを与えるようにしてある。一般に、イオントラップにおける軌道共鳴周波数は質量数の関数であるが、質量数が大きくなるほど、周波数は小さくなり、質量数間隔1に相当する周波数間隔が狭くなる。一方、従来文献"Development of a Capillary High-performance Liquid Chromatography Tandem Mass Spectrometry System Using SWIFT Technology in an Ion Trap/Reflectron Time-of-flight Mass Spectrometer" Rapid Communication in mass spectrometry, vol. 11 1739-1748(1997)等で一般に行われているSWIFT波形の生成では、電圧振幅が一定の周波数スペクトルを逆フーリエ変換により時間領域に変換することによりSWIFT波形を生成している。この場合、一定の周波数間隔で一定の電圧振幅を持つ形の和の波形を生成することになる。したがってこの場合、質量数が大きいほど、質量数間隔1あたりの正弦波の数が少ないため、質量数間隔1あたりのエネルギーは少ない。すなわち、質量数が大きい分子に加えられるエネルギーは相対的に小さくなってしまう。
【0014】
これに対し本発明では、正弦波の数が少なくなった分正弦波の電圧振幅を大きくして補正するため、質量数の大きいイオンに対しても十分なエネルギーを与えることができるので、このような不純物でもより確実に除去できる。また、質量数の小さいイオンには必要十分な範囲でエネルギーを与えることができるので、エネルギーの使用効率を高くできる。さらに、無闇に大きな電源装置も不要となるので、装置の設置コストも低減できる。
【0015】
また、請求項3に係る化学物質の検出装置は、電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ手段と、SWIFTによる除去対象分子の質量数に関わらず電圧振幅が一定の分布を持つSWIFT波形を発生させる任意波形発生手段と、前記SWIFT波形を前記イオントラップ手段に閉じ込められているイオン群に与えて前記不純物を除去した後に、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この化学物質の検出装置は、周波数が小さくなるにしたがって電圧振幅を大きくしたSWIFT波形の周波数スペクトルを、質量数を横軸として変換したときに単位質量数あたりの電圧振幅が略一定値となるようにしてある。このため、SWIFTによる除去の対象とするどのような質量の分子に対しても略一定のエネルギーを与えることができる。これによって、質量数の大きいイオンに対しても十分なエネルギーを与えることができるので、このような不純物でもより確実に除去できる。また、質量数の小さいイオンには必要十分な範囲でエネルギーを与えることができるので、エネルギーの使用効率を高くできる。さらに、無闇に大きな電源装置も不要となるので、設置コストも低減できる。
【0017】
また、請求項4に係る化学物質の検出方法は、電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、上記イオン群に含まれる不純物の分布を測定し、所定の割合以上存在する不純物に対応する周波数成分を含むSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去する不純物除去工程と、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
この化学物質の検出方法においては、所定の割合以上存在する不純物を選択的に除去するようにしてある。このため、すべての不純物を除去する場合と比較して少ないエネルギーで必要十分な不純物を除去できる。このため、電源装置を小さくでき、経済的である。ここで、所定の割合とは、少なくとも計測対象化学物質の信号強度と同じ程度の強度以上存在する不純物を対象とすることが好ましい。さらに小さい信号強度の不純物を対象としてもよいが、そうするとSWIFTに要するエネルギーが大きくなるため、上記計測対象化学物質の信号強度の5割以上の信号強度を有する不純物を対象とすることが好ましい。
【0019】
また、請求項5に係る化学物質の検出方法は、電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、所定の信号強度よりも高い信号強度を示す濃度で存在する不純物の軌道共鳴周波数に対応した周波数においては、所定の信号強度よりも低い信号強度を示す濃度で存在する不純物の軌道共鳴周波数に対応する周波数帯における電圧振幅よりも大きい電圧振幅を有するSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去する不純物除去工程と、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
この発明に係る化学物質の検出方法では、所定の信号強度よりも高い信号強度を示す濃度で存在する不純物に対応する周波数のSWIFT波形の電圧振幅を高くし、不純物の濃度が低い部分の周波数は電圧振幅を低くしてある。このため、特に濃度の高い不純物を選択的に除去できるので、濃度の低い不純物除去に要するエネルギーを小さくできる。これによって、SWIFTに要するエネルギーが少なくて済み、また、電源装置も小型にできるので、無闇に大きな電源を使用しなくともよく、経済的である。ここで、SWIFT波形の電圧振幅を高くする不純物は、少なくとも計測対象化学物質の信号強度と同じ程度の信号強度を持つ不純物を対象とすることが好ましい。さらに少ない質量数存在する不純物を対象としてもよいが、そうするとSWIFTに要するエネルギーが大きくなるため、上記計測対象化学物質の信号強度の5割以上の信号強度を持つ不純物を対象とすることが好ましい。
【0021】
また、請求項6に係る化学物質の検出方法は、電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、含まれる周波数が大きくなるにしたがって電圧振幅を小さくしたSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去する不純物除去工程と、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
この発明に係る化学物質の検出方法は、質量数の大きい不純物に対しては、質量数の小さい不純物に与えるエネルギーと同程度のエネルギーを与えるようにしてある。一般に、イオントラップにおける軌道共鳴周波数は質量数の関数であるが、質量数が大きくなるほど、周波数は小さくなり、質量数間隔1に相当する周波数間隔も狭くなる。一方、従来文献"Development of a Capillary High-performance Liquid Chromatography Tandem Mass Spectrometry System Using SWIFT Technology in an Ion Trap/Reflectron Time-of-flight Mass Spectrometer" Rapid Communication in mass spectrometry, vol. 11 1739-1748(1997)などで一般に行われているSWIFT波形の生成では、電圧振幅が一定の周波数スペクトルを逆フーリエ変換により時間領域に変換することによりSWIFT波形を生成している。この場合、一定の周波数間隔で一定の電圧振幅の正弦波形の和の波形を生成することになる。したがってこの場合、質量数が大きいほど、質量数間隔1あたりの正弦波の数が少ないため、質量数間隔1あたりのエネルギーは少ない。すなわち、質量数が大きい分子に加えられるエネルギーは相対的に小さくなってしまう。
【0023】
これに対し本発明では、相対的に小さくなった分正弦波の電圧振幅を大きくして補正するため、質量数の大きいイオンに対しても十分なエネルギーを与えることができるので、このような不純物でもより確実に除去できる。また、質量数の小さいイオンには必要十分な範囲でエネルギーを与えることができるので、エネルギーの使用効率を高くできる。さらに、無闇に大きな電源装置も不要となるので、設置コストも低減できる。
【0024】
また、請求項7に係る化学物質の検出方法は、電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、SWIFTによる除去対象分子の質量数に関わらず電圧振幅が一定の分布を持つSWIFT波形を発生させる任意波形発生工程と、前記SWIFT波形を前記イオントラップ手段に閉じ込められているイオン群に与えて前記不純物を除去した後に、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
この化学物質の検出方法は、周波数が小さくなるにしたがって電圧振幅を大きくしたSWIFT波形の周波数スペクトルを、質量数を横軸として変換したときに質量数あたりの電圧振幅が略一定値になるになるようにしてある。このため、SWIFTによる除去の対象とするどのような質量の分子に対しても略一定のエネルギーを与えることができる。これによって、質量数の大きいイオンに対しても十分なエネルギーを与えることができるので、このような不純物でもより確実に除去できる。また、質量数の小さいイオンには必要十分な範囲でエネルギーを与えることができるので、エネルギーの使用効率を高くできる。さらに、無闇に大きな電源装置も不要となるので、設置コストも低減できる。
【0026】
また、請求項8に係る化学物質の検出方法は、電界、磁界その他の手段によって、イオン化された複数の質量数が異なる検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、複数の検出対象化学物質の質量数に対応する複数の周波数帯においては電圧振幅を与えないSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去し、複数の検出対象化学物質を残す工程と、前記複数の検出対象化学物質のうち、質量数の大きな親分子のフラグメントが、質量数が小さい他の親分子をフラグメント化する際に与えるTICKLE周波数によりフラグメント化してしまう質量数の範囲に重なる際、質量数が小さい検出対象化学物質から順にフラグメント化するフラグメント化工程と、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
この化学物質の検出方法では、複数存在する検出対象化学物質のうち質量数の小さい検出対象化学物質から順にフラグメント化するようにしてある。このため、質量数の小さい検出対象化学物質のフラグメント化によって、この検出対象化学物質よりも質量数の大きい物質のフラグメントが壊れないようにできる。これによって、複数の検出対象化学物質をすべて検出できるので、質量分析における感度を高くして、より精度の高い測定ができる。
ここで、TICKLEとは、検出対象化学物質をフラグメント化させて、検出対象化学物質と質量数が近似する不純物と検出対象化学物質とを分離する操作であり、詳細は、上記文献 Development of a Capillary High-performance Liquid Chromatography Tandem Mass Spectrometry System Using SWIFT Technology in an Ion Trap/Reflectron Time-of-flight Mass Spectrometer" を参照されたい。
【0028】
また、請求項9に係る化学物質の検出方法は、電界、磁界その他の手段によって、イオン化された複数の質量数が異なる検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、複数の検出対象化学物質の質量数に対応する複数の周波数帯においては電圧振幅を与えないSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去し、複数の検出対象化学物質を残す工程と、前記検出対象化学物質の同位体のうち少なくとも2種類の同位体に対応する周波数を含むTICKLE波形を与えて、当該検出対象化学物質の同位体のうち少なくとも2種類をフラグメント化するフラグメント化工程と、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、を有することを特徴とする。
【0029】
この化学物質の検出方法は、検出対象化学物質の同位体のうち少なくとも2種類の同位体に対応する周波数を含むTICKLE波形を与えて、検出対象化学物質の同位体のうち少なくとも2種類をフラグメント化し、質量分析に供する。このように、質量分析においては複数の同位体を使用するので、排ガス中に極微量しかダイオキシン類やその前駆体が存在しない場合でも、検出精度を高くできる。また、焼却炉の燃焼制御に使用した場合には制御の精度も高くできる。
【0030】
また、イオン化の際に発生するフラグメントも極めて少ないため、検出対象化学物質をフラグメント化する場合には、目的とする検出対象化学物質を効率的にフラグメント化で きる。その結果、ほとんどすべての検出対象化学物質のフラグメントを質量分析手段の測定対象とすることができるので、質量分析手段の検出感度を高くでき、より緻密に燃焼制御ができる。
【0031】
また、請求項10に係る化学物質の検出方法は、上記質量分析工程においては、検出対象化学物質から生成されるフラグメントの同位体のうち少なくとも2種類を計測対象とすることを特徴とする。
【0032】
この化学物質の検出方法は、検出対象化学物質から生成されるフラグメントの同位体のうち少なくとも2種類を質量分析の対象とする。このように、質量分析においては複数のフラグメントの同位体を使用するので、排ガス中に極微量しかダイオキシン類やその前駆体が存在しない場合でも、検出精度を高くできる。また、焼却炉の燃焼制御に使用した場合には制御の精度も高くできる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの或いは実質的に同一のものが含まれる。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものが含まれるものとする。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に係る化学物質の検出装置を示す説明図である。この化学物質の検出装置100は、イオン化室1と、ガス導入装置2と、イオン化手段である真空紫外光ランプ3と、質量分析手段である飛行時間型の質量分析計4とを備えている。イオン化室1にはイオントラップ手段であるRF(Radio Frequency:高周波)リングを備えたRFイオントラップ装置10が備えられている。これは、内部に形成される高周波電界によって、イオン化された排ガス中の検出対象化学物質をトラップ11内に閉じ込めておく。
【0035】
手段には電界や磁界その他の電磁気学的力によってイオンを内部に閉じ込めるものが使用できる。そして、電界や磁界等はそれぞれ単独で使用してもよく、またこれらを適宜組み合わせて使用してもよい。このようなイオントラップ手段としてはいくつかの種類が知られており、中でも高周波電界が内部に形成される上記RFイオントラップ装置11は取り扱いが比較的容易であるため好ましい。また、他のイオントラップ手段としては、このRF型の他、直流電圧と静磁場とによるペニング(Penning)トラップを使用することもできる。
【0036】
イオントラップ手段であるRFイオントラップ装置10は、第一エンドキャップ12と第二エンドキャップ13とRFリング14とから構成されており、三次元四重極型である。図1に示すように、RFリング14は、第一エンドキャップ12と第二エンドキャップ13との内部に配置されている。また、RFリング14にはトラップ電圧を印加するための高周波電源装置21が接続されており、RFリング14にトラップ電圧として高周波電圧を印加する。この高周波によって、イオン化された排ガス中の検出対象化学物質その他の物質がトラップ11内に閉じ込められる。また、第一および第二エンドキャップ12および13には任意波形発生手段である任意波形発生装置20が接続されており、後述するSWIFTおよびTICKLE時には両エンドキャップ間に特定の周波数を持つ電圧を印加する。
【0037】
ガス導入装置2にはガス噴射管5が備えられており、ガス噴射管5は、パルスバルブのようなオリフィスを用いた開閉弁あるいはキャピラリ管により形成されている。ガス噴射管5に導入された焼却炉等の排ガスGsはイオン化室1に導入される。ガス噴射管5の周囲にはヒータ6が設けられている。ヒータ6は検出対象化学物質がガス噴射管5の内壁に付着することを防止するための加熱装置である。
【0038】
イオン化室1は、検出対象化学物質にエネルギーを与えてイオン化するためのイオン化手段として真空紫外光ランプ3を備えている。真空紫外光ランプ3は、Ar、Kr、Xe等の希ガスや、H2、O2、Cl2等をAr、Heに添加したガスの放電により真空紫外光Lを発生する。本実施の形態においては、121.6nmの波長を持つ、水素プラズマからのLyman α光を用いている。
【0039】
真空紫外光ランプ3は、放電するガスの種類を変えることで、発生する真空紫外光の光子エネルギー量を変えることができる。このため、検出対象化学物質のイオン化ポテンシャルに合わせて、これよりも大きく検出対象化学物質を解離させない程度の光子エネルギーを与えることができる。これによって、光子エネルギー量より高いイオン化ポテンシャルを持つ混在物質のイオン化を阻止すると共に、検出対象化学物質のフラグメント化を抑制することができる。
【0040】
また、イオン化手段は、真空紫外光ランプ3に代えて、レーザーあるいはその高調波を用いることもできる。この場合、波長可変レーザーを使用することにより、発生する光子エネルギー量を変化させることで、イオン化する物質を選別することができる。波長可変レーザーには、周知のものを用いることができる。なお、この発明には50nm以上200nm以下の波長をもつ真空紫外光が適用でき、より好ましくは100nm以上200nmであり、不要なフラグメント発生をより少なく抑える観点からは112nm以上138nmの範囲が望ましい。
【0041】
さらに、検出対象化学物質にエネルギーを与えてイオン化する手段としては、真空紫外光の波長を持つレーザー、エキシマランプを使用してもよい。また、例えばHeイオン等のイオンを粒子加速器で打ち出して、イオン化室1内のサンプルガス中に含まれる検出対象化学物質に衝突させてもよい。さらに、電子ビームをセクターで分離して10eV程度のエネルギーを持つものを取り出し、イオン化室1内の排ガス中に含まれる検出対象化学物質に衝突させてもよい。
【0042】
質量分析手段である飛行時間型の質量分析計4は、イオン化室1内でイオン化された排ガス中の検出対象化学物質のイオンについて、その質量を測定することで検出対象化学物質を特定する。イオン化された検出対象化学物質は、上記RFイオントラップ装置10の第二エンドキャップ13にパルス状の引出し電圧を印加することによって質量分析計4に導入され、質量分析計4内を飛行する。飛行したイオンはイオン検出器30によって検出され、ここで検出された信号はプリアンプ31によって増幅された後、データ処理装置32に取り込まれデータ処理される。なお、本実施の形態においては、イオン検出器にマイクロチャネルプレートが用いられており、イオンの検出感度を高めている。質量分析計4はその飛行時間を測定する。飛行時間と飛行物質の質量との間には高度の対応関係があるので、飛行時間から飛行物質の質量を検出し、この質量から物質を同定するのである。
【0043】
つぎに、図2を用いてこの化学物質の検出装置100を用いて排ガス中の検出対象である前駆体を検出する手順について説明する。ここで、図2は、この発明の実施の形態1に係る化学物質の検出方法を示すフローチャートである。まず、イオン化室1に焼却炉の排ガスGsを導入する(ステップS101)。つぎに、真空紫外光ランプ3からイオン化室1内に導入された排ガスGsに対して真空紫外光Lを照射し、排ガスGsが真空紫外光Lから光子エネルギーを受け取ってイオン化される(ステップS102)。ここで、検査対象物質である前駆体のイオン化ポテンシャルは8.5〜10.0eVの範囲である。また、上述したように、本実施の形態で使用する真空紫外光は121.6nmの波長を持っており、その光子エネルギーは10.1eVである。このように、前駆体のイオン化ポテンシャルよりもやや大きい程度のエネルギーを与えるため、余分なエネルギーを前駆体に与えないで前駆体をイオン化できる。
【0044】
その結果、イオン化した検出対象化学物質である前駆体を効率よく計測できるようになった。これは、真空紫外光によるイオン化においてはフラグメントの発生が非常に少ないため、イオン化した前駆体のほとんどすべてを質量分析計4の測定対象とすることができるからである。特に、焼却炉からの排ガス中には極めて微量の前駆体しか存在しないため、この効果は大きい。また、トラップ11のトラップ効率低下を抑えることができる。ここで、フラグメント化したイオンが多い場合には、トラップ11内に閉じ込められているイオンによって生ずるイオンの作るポテンシャルがトラップのポテンシャルを打ち消すように作用する。しかし、この真空紫外光によるイオン化では、余分なフラグメントイオンの発生を極めて小さく抑えることができるので、イオントラップ装置11のトラップ効率低下を小さくすることができる。
【0045】
さらに、つぎに説明するSWIFT電圧を低く抑えることができる。ここで、SWIFTとは、不純物を除去するために特定の周波数を持つ電圧波形をトラップ11の第一エンドキャップ12と第二エンドキャップ13間に与えることによってイオンの軌道を変える操作をいう。フラグメントの発生が多いイオン化方法においては、SWIFTの過程で除去しておくべき質量数に、検出対象化学物質である前駆体、あるいは他の物質を親分子とする大量のフラグメントが発生してしまう。これをSWIFTで除去するためには非常に大きな電圧を必要とするため、出力の大きなSWIFT電圧発生装置(任意波形発生器)が必要である。一方、SWIFT電圧を大きくすると、壊したい質量数以外の質量数を持つ分子も壊してしまうので、残したい前駆体も壊してしまう。その結果、質量分析においては分析精度の低下を招いてしまう。
【0046】
この発明に係るイオン化においてはフラグメントの発生が非常に少ないため、SWIFTの過程で除去すべきフラグメントも極めて少なくなる。その結果、SWIFT電圧を低く抑え、且つ残すべき前駆体も壊さないで済むので、上記問題点はほとんど回避できる。また、SWIFT後に残った親分子へ後述するTICKLEをかける場合やCOOLINGしたりする場合にも、フラグメントの多いイオン化方法では種々の親分子からフラグメントが発生してしまう。その結果、目的とする前駆体以外のフラグメントが不純物として含まれる結果、質量分析の精度低下を引き起こしていた。しかし、この発明に係るイオン化方法によれば、イオン化の際に発生するフラグメントが極めて少ないため、この問題点もほとんど回避できる。
【0047】
つぎにSWIFTについて説明する。これは、排ガス中に存在している検出対象化学物質以外の不要物質を除去するための操作である。このために、RFイオントラップ装置10の第一エンドキャップ12と第二エンドキャップ13との間に、任意波形発生装置20によって取り除きたい物質の軌道共鳴周波数に対応した広域帯の周波数で電圧を印加する。これによって、この発明に係る不純物除去手段を形成している。なお、この広域帯の周波数からは、検出対象化学物質の質量数の周波数に対応する軌道共鳴周波数は除かれている。これによって、取り除きたい物質は大きな振幅で振られることになり、RFイオントラップ装置10の壁に衝突して電荷を失ってイオンとしては存在しなくなる。検出対象化学物質はRFリング14に印加されるトラップ電圧によって、トラップ11内に閉じ込められたままである。このような操作をSWIFTといい、この操作によって検出対象化学物質以外の不純物を取り除くことができる(ステップS103)。
【0048】
つぎにTICKLEについて説明する。TICKLEは検出対象化学物質をフラグメント化させて、検出対象化学物質と質量数が近似する不純物と検出対象化学物質とを分離する操作である。そして、親分子である検出対象化学物質の分子から生成されたフラグメントの質量数を測定することで、検出対象化学物質を特定する。また、当該フラグメントの量を測定すれば、検出対象化学物質の濃度も求めることができる。TICKLEは、上述したSWIFTとは異なり、親分子である検出対象化学物質の軌道共鳴周波数に対応する周波数で第一エンドキャップ12と第二エンドキャップ13との間に電圧を印加する。このときには、任意波形発生装置20によって前記エンドキャップ間に前記周波数の電圧を印加する。これによって、本発明に係るフラグメント化手段を構成する。そして、検出対象化学物質のイオンをトラップ11内に共存する他の物質と衝突させて、検出対象化学物質をフラグメント化する。これによってTICKLEによるフラグメント化が完了する(ステップS104)。
【0049】
TICKLEによるフラグメント化が完了したら、RFリング14に対する電圧の印加を止めて、第二エンドキャップ13にパルス状の引出し電圧を印加することによって、フラグメント化された検出対象化学物質のイオンを質量分析計4側に引き出す(ステップS105)。この検出対象化学物質のイオンは質量分析計4内を飛行し、質量分析計4によってその飛行時間が測定される。上述したとおり、飛行時間と飛行物質の質量との間には高度の対応関係があるので、飛行時間から飛行物質の質量を検出し、この質量から物質を同定して(ステップS106)、測定が終了する(ステップS107)。
【0050】
この実施の形態で使用する飛行時間型の質量分析計は、数10μ秒で一回の計測が完了するため、計測時間が非常に早く、応答性に優れるという利点がある。このため、特に、実際のプラントにおいてリアルタイムで燃焼条件を制御する際に好適である。なお、他の質量分析手段としては、電場型、RFコイル型等の質量分析手段も使用できる。特にRFコイル型はトラップ11の出口にイオン検出器を設けるだけでよいので、簡単な構造で質量分析器を構成できる。
【0051】
(実施の形態2)
この発明に係る化学物質の検出装置100は、トラップ11内へ導入した排ガスに真空紫外光を直接照射することで、計測対象物質をイオン化する。そして、これにSWIFTおよびTICKLEをかけて計測対象物質のイオンをフラグメント化する。このため、これまでのイオン化と同じ条件ではSWIFTやフラグメント化が必ずしも成功しない場合がある。そこで、ここでは、SWIFTおよびTICKLEの条件について説明する。図3は、トラップ周波数を一定とした場合におけるRF電圧に対するイオン信号強度分布を示した説明図である。また、図4は、RF電圧を一定とした場合におけるRF周波数に対するイオン信号強度分布を示した説明図である。
【0052】
これまで用いられてきた真空紫外光以外との組み合わせによるイオン化では、トラップ11の外部で検出対象化学物質をイオン化していた。そして、検出対象化学物質をフラグメント化するときには、外部から不活性ガスや窒素ガス等の衝突ガスをトラップ11内に供給して、検出対象化学物質をフラグメント化していた。したがって、被測定ガスである排ガスに含まれる水蒸気や酸素等の大気成分はトラップ11内にほとんど存在していなかった。このため、図3(a)や図4(a)に示すようなイオン信号強度分布を示していた。
【0053】
しかし、この発明に係るイオン化方法では、トラップ11内に導入した排ガスに真空紫外光を直接照射して検出対象化学物質をイオン化する。したがって、トラップ11内には排ガス中に存在する水蒸気や酸素等の大気成分が存在することになる。このような水蒸気や酸素等の大気成分分子が検出対象化学物質と共存する環境下で、後述するTICKLE電圧を印加して検出対象化学物質をフラグメント化すると、フラグメントがトラップできない条件が発生することがある。例えば、RF電圧が1500Vを超えると、もはやフラグメントはトラップできない(図3(b))。また、RF周波数が1.0MHzよりも小さくなると、もはやフラグメントはトラップできない(図4(b))。ここで、トラップ条件とは、RFリング14に印加するRF電圧およびRF周波数の値をいう。これは、上記水蒸気、すなわち水の分子や酸素分子は極性を持つため、フラグメント化した検出対象化学物質のイオンの軌道が大きくなる結果、当該イオンがトラップ11の壁面に衝突して電荷を失うことが原因であると考えられる。
【0054】
そこで、上記水分子や酸素分子が共存してもフラグメント化した検出対象化学物質のイオンをトラップできるように、トラップ条件を調整する必要がある。例えば、TCB(質量数180、182、184)を親分子として、ここから塩素が一個取れたフラグメント(質量数145、147)、塩素二個と水素一個とが取れたフラグメント(質量数109、111)および塩素三個と水素一個とが取れたフラグメント(質量数74)を検出する場合を考える。従来のイオン化方法においては、RF周波数が1.0MHzの場合にRF電圧を1000V以上2000V以下とすると好適にフラグメントイオンがトラップできた(図3(a)参照)。
【0055】
酸素および水分子の共存下においては、同じ周波数条件において、RF電圧を700V以上1300V以下にすると好適にトラップでき、さらには900V以上1100V以下とするとより安定してフラグメントイオンをトラップできる(図3(b)参照)。また、RF電圧を1600Vとした場合には、従来法においてはRF周波数を1.0MHzが適当であったが、この方法においてはRF周波数を1.2MHz以上1.7MHz以下の範囲とすると安定してフラグメントイオンをトラップできる。さらには、RF周波数を1.4MHz以上1.6MHz以下の範囲とすると、さらに安定してフラグメントイオンをトラップできる(図4(b)参照)。
【0056】
(実施の形態3)
SWIFT時には高い質量を持つ親分子である計測対象物質のトラップ効率を高くする必要がある。一方、TICKLE時には低い質量数を持つフラグメント化された計測対象物のトラップ効率を高くする必要がある。したがって、SWIFT時にはRFリング14に印加するエネルギー値、すなわちRF電圧とRF周波数との積が高くなる設定とする。そしてTICKLE時には、RF電圧とRF周波数との積が小さくなる設定とする。このようにすることによって、SWIFTおよびTICKLE時における計測対象物質やこのフラグメントのトラップ効率を高くすることができる。
【0057】
例えば、RF周波数を1MHzで一定として、SWIFT時において1600Vでトラップし、TICKLE時には1000Vでトラップする。また、RF電圧を1600Vで一定としておき、SWIFT時にはRF周波数を1.4MHzでトラップして、TICKLE時には1.0MHzでトラップしてもよい。また、RF周波数とRF電圧とを両方変化させてもよい。なお、この変化はステップ応答的に変化させてもよいし、徐々に変化させるようにしてもよい。なお、検出対象化学物質は、ある一定の寿命でトラップ11から外部へ散逸していくため、TICKLEに要する時間を短くする方向に適正化した方がよい。具体的にはTICKLE電圧を高くするようにするとよい。
【0058】
検出対象化学物質は、TICKLEによってフラグメント化した後は、フラグメント化する前よりも質量数が小さくなっているため、少なくともTICKLE終了後にはRFリング14に印加するRF電圧をTICKLE前よりも小さくするか、RF周波数を大きくする必要がある。しかし、RFリング14に印加するRF電圧を小さくするかRF周波数を大きくする方向に変化させると、質量数の小さいフラグメントのトラップ効率が低下する。したがって、この状態でTICKLE終了後あまり時間が経過すると、当該フラグメントが減少して質量分析計4における検出感度が低下する。このため、TICKLE波形を入力後、検出対象化学物質がフラグメント化される時間が経過してからただちに、上記のように切替えることが好ましい。
【0059】
(実施の形態4)
SWIFTにおいては、検出対象化学物質以外の物質を除去するが、このときに必ず除去しなければならないのは、検出対象化学物質をフラグメント化したときに発生するフラグメントイオンと同程度の質量数をもつ不純物である。これは、TICKLEによるフラグメント化の後における質量分析において、この不純物もフラグメントイオンと共に測定される結果、検出対象化学物質の計測精度が低下するからである。また、上記以外の不純物も、これらがトラップ11内へ大量に存在する場合にはトラップ11が飽和し、トラップ効率が低下してしまうため、検出対象化学物質以外の不純物はSWIFT時に極力除去しておいた方がよい。
【0060】
しかし、検出対象化学物質以外の不純物をすべて除去するためには、非常に広い質量数の範囲に対応する周波数成分をもつSWIFT波形を印加しなければならない。しかしながら、広い範囲の周波数成分を持つSWIFT波形は、単位周波数当たりのエネルギーが小さくなるため、ある質量数を持つ分子に加えることのできるエネルギーも小さくなってしまう。その結果、不純物の除去効率が低下して、検出対象化学物質の検出精度も低下してしまう。したがって、広い範囲の周波数成分を持つSWIFT波形を加える場合には、SWIFT波形発生源である高周波発生装置21を高性能にしたり、この出力を増幅するアンプの出力を大きくしたり、増幅周波数の帯域を広くする必要がある。その結果、装置が大型化したり、高価になったりしてしまう。
【0061】
そこで、排ガス中に含まれる不純物の質量スペクトルを調べ、最低限除去しなければならない質量数の範囲に対応する周波数成分を持つSWIFT波形によって不純物を除去するようにする。最低限除去しなければならない質量数の範囲は、例えば、質量スペクトルの信号強度がある一定値以上の値を持つ不純物を含むようにすることで決定できる。この一定値は、少なくとも計測対象化学物質の信号強度と同程度とし、この値以上の信号強度を持つ不純物を対象とすることが好ましい。なお、さらに少ない質量数存在する不純物を対象としてもよいが、そうするとSWIFTに要するエネルギーが大きくなる。このため、計測対象化学物質の信号強度の5割以上の強さを有する信号強度である不純物を対象とすることが好ましい。
【0062】
ある焼却炉の例においては、例えば質量数が48以上355以下の範囲が最低限除去しなければならない範囲となっているので、この範囲に対応する周波数成分を持つSWIFT波形によって不純物を除去する。このようにすると、トラップ11に投入するエネルギーを無闇に大きくしなくとも、実用上十分な精度で検出対象化学物質を測定できる。これによって、無闇に大きな装置を使用する必要がなくなり、装置のコストも抑えることができる。
【0063】
(実施の形態5)
図5は、SWIFT周波数と振幅との関係およびイオン信号と質量数との関係を示した説明図である。ここで、図5における質量数は、同図中のSWIFT周波数に対応する。また、図6は、この発明の実施の形態5に係るSWIFT波形の周波数スペクトルを示す説明図である。周波数スペクトルは、SWIFT波形やTICKLE波形の強度(電圧振幅)を、SWIFT波形等の周波数に対する関数として表したものである。非常に濃度の高い不純物を除去するためには非常に高いSWIFT電圧を印加する必要があるが、従来のSWIFTにおいてはすべての質量数に相当する周波数を同じ電圧振幅で印加する。すなわち、SWIFT電圧は、濃度の最も高い不純物を除去するために必要な電圧によって決定される。このため、非常に濃度が高い不純物を除去する場合には、全体として非常に高い電圧振幅が必要となるので、エネルギーの使用効率が低下する。
【0064】
また、電源装置も容量の大きいものが必要となるため、コスト増加を招く。さらに、検出対象化学物質である親分子を残すために、SWIFT波形からは当該検出対象化学物質の質量数に対応する周波数帯は除かれているが、高い電圧振幅を印加した場合には、同じ周波数帯だけ除いていても実際に残る質量数の範囲が小さくなる。その結果、検出対象化学物質も一部除去されてしまい、検出精度が低下するという問題もあった。これは、実際のSWIFT波形の周波数スペクトルは図5(a)の実線で示すような理想的な矩形ではなく、図5(b)の破線で示すようなやや末広がりの形状になることが原因である。すなわち、SWIFT波形の周波数スペクトルが実際には末広がりの形状になるため、図中ΔFで示す検出対象化学物質の質量数に対応する周波数帯が小さくなる結果、検出精度が低下するからである。
【0065】
このため、図6に示すように、濃度の高い不純物の質量数に対応する周波数のSWIFT波形の電圧振幅を高くし、不純物の濃度が低い部分は電圧振幅を低くする。このようにして、特に濃度の高い不純物を選択的に除去できる。ここで、SWIFT波形の電圧振幅を高くする不純物は、少なくとも計測対象化学物質の信号強度と同程度の信号強度を持つ不純物を対象とすることが好ましい。さらに少ない質量数存在する不純物を対象としてもよいが、そうするとSWIFTに要するエネルギーが大きくなる。このため、計測対象化学物質の信号強度の5割以上の信号強度を有する不純物を対象とすることが好ましい。これによって、全体としてはSWIFT波形の電圧振幅を低く抑えることができるので、エネルギーの使用効率を高くして不純物を除去できる。また、電源装置も容量が小さいものを使用できるので、電源装置を小型にでき、コストも低く抑えることができる。さらに、SWIFT操作をしても、検出対象化学物質も確実に残すことができるので、質量分析計4における検出精度を高くすることができる。
【0066】
(実施の形態6)
図7は、従来におけるSWIFT波形の周波数スペクトルを示す説明図である。また、図8は、この発明の実施の形態6に係るSWIFT波形の周波数スペクトルを示す説明図である。ここで、両図中の(b)は、SWIFT波形の周波数スペクトルを、質量数を横軸として、すなわち質量数の関数として変換したものである。通常のSWIFT波形は、イオンの共振周波数が大きくなっても振幅の大きさが変化しない矩形状の周波数スペクトルを逆フーリエ変換して発生させる(図7(a))。このときのSWIFT波形は、取り除きたい不純物の質量数に対応した共鳴周波数が重畳した波形となっている。この波形は、理想的にはある質量範囲に対応したすべての軌道共鳴周波数を含む、連続的な波形となる。しかしながら、実際には必ず有限個の共鳴周波数のデータを基に逆フーリエ変換をするため、得られるSWIFT波形に含まれる周波数成分は離散的で、その周波数ピッチは一定となる。これを逆に質量数に換算してみると、質量数が大きい領域では周波数ピッチが粗く、質量数が小さい領域では周波数ピッチが細かくなっている。
【0067】
このようなSWIFT波形を使用すると、質量数の小さいイオンは高いエネルギー密度で振幅が与えられ、反対に質量数の大きいイオンは小さいエネルギー密度でしか振幅が与えられない(図7(b))。このため、質量数の小さいイオンは容易に壊すことができるが、質量数の大きいイオンは壊れにくく、不純物として残ってしまう。そして、TIKCLによって余分なフラグメントを発生させて質量分析の精度を低下させてしまう。
【0068】
そこで、イオンの質量数に対応した共鳴周波数が大きくなるにしたがって、電圧振幅を小さくした周波数スペクトルを逆フーリエ変換して生成されるSWIFT波形を用いる(図8(a))。このようにすると、質量数の大きいイオンに対しても十分なエネルギーを与えることができる(図8(b))。すなわち、SWIFTによる除去対象分子の質量数に関わらず電圧振幅が一定の分布を持つSWIFT波形を与えることができるため(図8(b))、質量数の大きいイオンであってもより確実に除去できる。また、質量数の小さいイオンには必要十分な範囲でエネルギーを与えることができるので、エネルギーの使用効率を高くできる。また、無闇に大きな電源装置も不要となるので、設置コストも低減できる。
【0069】
(実施の形態7)
図9は、この発明の実施の形態7に係るSWIFT波形の周波数スペクトルを示す説明図である。また、図10は、この発明の実施の形態7に係るTICKLE波形の周波数スペクトルを示す説明図である。この化学物質の検出装置100で、ダイオキシン類の前駆体等である検出対象化学物質を計測するときには、複数の検出対象化学物質を同時に計測すると、より検出精度を高くすることができる。特に、焼却炉の排ガス中に含まれる前記ダイオキシン類の前駆体は極めて微量であるため、検出精度を高めることは焼却炉の燃焼条件をリアルタイムで制御する場合には極めて重要である。
【0070】
そこで、複数の検出対象化学物質を同時に計測するために、SWIFTの際には当該検出対象化学物質の質量数に対応した共鳴周波数帯における電圧振幅を0とした、すなわち電圧振幅を与えないSWIFT波形の周波数スペクトルを用いる(図9)。そして、このSWIFT波形の周波数スペクトルを逆フーリエ変換してSWIFT波形を生成する。この逆変換後のSWIFT波形を使用してSWIFTをかけると、当該検出対象化学物質はイオントラップ装置10のトラップ11に閉じ込められたままになるため、他の不純物と分離できる。
【0071】
つぎに、上記複数の検出対象化学物質の質量数に対応する周波数帯に大きな振幅を持つTICKLE周波数スペクトルを逆フーリエ変換して生成したTICKLE波形によって検出対象化学物質をフラグメント化する(図10(a))。そして、フラグメント化された検出対象化学物質のイオンを質量分析計4(図1参照)で計測して、検出対象化学物質を同定し、その濃度を求めることができる。また、上記複数の検出対象化学物質の質量数に対応する周波数すべてを包含する範囲に大きな振幅を持つTICKLE周波数スペクトルを逆フーリエ変換して生成したTICKLE波形によってTICKLEをかけてもよい(図10(b))。さらに、上記複数の検出対象化学物質の質量数に対応するそれぞれの周波数を、単一で順次与えてもよい。
【0072】
(実施の形態8)
上述したとおり、複数の検出対象化学物質を同時に計測すると、検出精度を高くできるので好ましい。しかし、複数の検出対象化学物質を同時に計測する場合には、つぎのような問題点がある。例えば、TCB(トリクロロベンゼン)、DCB(ジクロロベンゼン)を親分子とするフラグメントパターンを一度に得る場合には、TCBのフラグメントは質量数145であり、質量数146であるDCBと質量数が1しか異なっていない。このため、TCBとDCBとへ同時にTICKLEをかけると、DCBのTICKLE周波数によって近接したTCBのフラグメントが一部壊れてしまう場合がある。こうなると、TCBをフラグメント化することによって質量数がTCBと同程度の不純物からTCBを分離し、当該フラグメントの信号を測定することでTCBの濃度等を求めることができなくなる。その結果、TCBの検出精度が低下してしまう。したがって、実施の形態7に係るTICKLEにおいては、質量数に対応する周波数を正確に与えたり、TICKLE電圧を適性化したりする等、各種の注意を要する。しかも、このような注意をしても、適切にフラグメント化できない場合もある。
【0073】
そこで、本実施の形態においては、質量数の小さい検出対象化学物質からTICKLEで壊してフラグメント化し、当該検出対象化学物質の質量数の範囲における検出対象化学物質や不純物等を除去しておく。その上で、より質量数の大きい検出対象化学物質に対してTICKLEをかけて、前記質量数の小さい検出対象化学物質の存在していた質量数の範囲に、当該質量数の大きい検出対象化学物質のフラグメントを生成させる。
【0074】
このようにすれば、質量数の大きい検出対象化学物質をフラグメント化する際には、質量数の小さい検出対象化学物質が既にフラグメント化されているので、前記質量数の大きい検出対象化学物質のフラグメントが質量数の小さい検出対象化学物質のTICKLEによって壊されることはない。したがって、質量数の異なる複数の検出対象化学物質を同時に検出しても、精度の高い測定ができるようになる。
【0075】
具体的に、TCB(質量数180、182、184、186)、DCB(質量数146、148、150)およびMCB(モノクロロベンゼン:質量数112、114)を同時に検出する場合を考える。TICKLEの前に、SWIFTによってこれらの検出対象化学物質を残してその他の不純物を除去する。つぎに、MCBをフラグメント化するために、MCBの質量数に対応するTICKLE周波数を第一および第二エンドキャップ12および13に印加して、質量数77のフラグメントを生成する。このとき、イオントラップ装置10のトラップ11内には、質量数112〜114の物質は存在していない。
【0076】
MCBをフラグメント化した後は、上記DCBの質量数に対応したTICKLE周波数を印加してDCBをフラグメント化する。このフラグメントは、DCBから塩素が一個分離した質量数111と113のもの、および塩素二個と水素一個とが分離した質量数75のものである。最後に、上記TCBの質量数に対応した周波数を印加してTCBをフラグメント化する。このとき生成するフラグメントは、塩素が一個分離した質量数145、147、149のものと、塩素二個と水素一個とが分離した質量数109、111のもの、および塩素三個と水素一個とが分離した質量数74のものである。なお、上記フラグメントは、それぞれある程度の時間差を設けて逐次それぞれのTICKLE周波数を印加する。
【0077】
検出対象化学物質のフラグメント化が終了したら、イオントラップ装置10の第一および第二エンドキャップ12および13間に電圧を印加しないで、トラップ11内のフラグメントイオンをCoolingする。Coolingとは、フラグメントイオンがトラップ11内の中性ガスと衝突してエネルギーを失うことであり、これによってフラグメントイオンが冷却される。Coolingによって質量分析計4による質量計測の精度を向上させることができる。
【0078】
Cooling終了後、第二エンドキャップ13に引出し電圧を印加することで上記フラグメントを質量分析計4に導いて、その質量を測定することによって、検出対象化学物質の濃度を測定できる。具体的にMCBの濃度は、質量数77のフラグメント信号強度を、DCBの濃度は質量数113および75のフラグメント信号強度を選んで求めることができる。そして、TCBの濃度は、質量数145、147、149、109、74の信号強度等、上記MCBおよびDCBのフラグメントと重ならない質量数を選択して求めることができる。
【0079】
また、検出対象化学物質から生成されるフラグメントの質量数が重ならない検出対象化学物質同士、例えばTCBとTCPとは同時にTICKLE波形によって壊すことができる。例えば、まずMCBとMCPとをフラグメント化し、つぎにDCBとDCPとを、最後にTCBとTCPとを壊すことで、六種類の検出対象化学物質を同時に計測することができる。なお、この場合には二種類ずつフラグメント化するため、フラグメント化に要する時間は一種類のときのおよそ3倍で済む。
【0080】
(実施の形態9)
検出対象化学物質には同位体を持つものがあり、同じ検出対象化学物質であっても異なる質量数を持つ。例えば、MCBは質量数が112と114との同位体を持っている。これは、ベンゼン環に結合している塩素の質量数に35と37との二種類があるためである。このような同位体を持つ検出対象化学物質においては、一種類の質量数に係る検出対象化学物質の密度は、当該検出対象化学物質全体の密度よりも低いため、一種類の質量数のみを質量分析計4における計測対象物質とすると、計測感度の低下を招いてしまう。
【0081】
上記MCBを例にとれば、質量数112のMCBのみを計測対象とした場合には質量数114のMCBは計測されない。その結果、MCB全体としては計測されなかった質量数114のMCBの分だけ、濃度が低く検出されることになる。特に、焼却炉の排ガスにおける検出対象化学物質であるダイオキシン類の前駆体は、その濃度が極めて低いため、少しでも検出感度を高くする必要がある。
【0082】
そこで、うち少なくとも2個の検出対象化学物質の同位体すべてまでをフラグメント化すれば、上記計測感度の低下という問題は回避できる。ここでは、TCBの同位体を例にとって説明するが、この発明の適用対象はTCBに限られるものではなく、同位体を持つ検出対象化学物質であればすべて適用できる。図11は、この発明の実施の形態9に係るTICKLE波形の周波数スペクトルを、質量数を横軸として変換した説明図である。なお、同図(a)は、TCBイオンにおける同位体の分布を示している。
【0083】
例えば、検出対象化学物質のすべての同位体をフラグメント化したり、すべての同位体から理論的に濃度の低い同位体を除いたり、あるいは不純物の混入割合の多い質量数を除いた検出対象化学物質の同位体をフラグメント化したりすることができる。このときのTICKLE波形は、少なくとも2個の検出対象化学物質のうちすべてまでの同位体に対する質量数を含むようにした、広い共鳴周波数帯の範囲で大きな振幅を与える周波数スペクトルを逆フーリエ変換したものが使用できる(図11(b))。
【0084】
また、共鳴周波数がイオンに影響を与える質量数にはある幅があるため、振幅が一定の周波数スペクトルを使用した場合、質量数が最大と最小の同位体にはTICKLEがかかりにくく、中間の同位体は相対的にTICKLEがかかりやすいという現象がある。このため、検出対象化学物質同位体の質量数が最大の部分と最小の部分とにおける電圧振幅を大きくとった周波数スペクトルとすると、TICKLEの対象としている複数の同位体すべてに略一定のTICKLEをかけることができる。これによって、略均一にフラグメント化させることができる。また、フラグメント化の対象である同位体のうち質量数が最大の部分と最小の部分とにおいて電圧振幅を大きくとり、質量数が中程度の部分における電圧振幅を相対的に小さくとった周波数スペクトルとしてもよい(図11(c)の実線)。さらに、イオンの信号強度が相対的に低い同位体においては、電圧振幅をイオンの信号強度が相対的に高い同位体における電圧振幅よりも小さくした周波数スペクトルを使用してもよい(図11(c)の破線)。
【0085】
一方、ある一つの同位体と略同一の質量数をもつ不純物が大量に存在する場合がある。例えば、図11(d)において質量数180のTCB同位体と同じ質量数を持つ不純物が大量に存在していたとする。このような場合には、その同位体を除いた複数の同位体をフラグメント化し、大量の不純物をフラグメント化させないことで、精度の高い計測を行うようにしてもよい。この場合には、その同位体(ここではTCBの同位体)の中から同じ質量数に不純物があまり含まれていない複数の同位体を選び、その質量数に対応する複数の共鳴周波数からなる周波数スペクトルを逆フーリエ変換したTICKLE波形を使用することができる(図11(d))。
【0086】
(実施の形態10)
検出対象化学物質にも同位体は存在するが、検出対象化学物質のフラグメントにも同様に同位体が存在する。したがって、フラグメントの測定についても実施の形態8で述べたことと同様な問題が存在する。従来は、一つのフラグメントのみで検出対象化学物質の濃度を測定するか、フラグメントの出現パターンマッチングをとることによって、検出対象化学物質の濃度を見積もっていた。
【0087】
しかし、焼却炉の排ガス中に含まれるダイオキシン類の前駆体のように、極めて低い濃度でしか存在しない物質においてフラグメントの一つの同位体のみを測定したのでは、十分な感度の測定はできない。また、複数のフラグメントによるパターンマッチングであっても、一つの同位体のみでは絶対的なフラグメントの量が少なく、統計的に濃度を見積もるためには不十分である。
【0088】
そこで、検出対象化学物質から生成されるフラグメントの同位体のうち少なくとも2種類を計測対象とする。具体的には、あるフラグメントのスペクトル(信号電圧)のうち、複数現れる同位体のスペクトルの最大値をそれぞれ加算した値、または、複数現れる同位体のスペクトルの面積をそれぞれ加算した値を質量分析計4の計測値として使用する。このようにすると、あるフラグメントの同位体をすべて使用できるので、計測対象物質の濃度が極めて低い場合であっても、質量分析計4における測定では計測感度を高くできる。また、ある同位体の質量数に不純物のフラグメントが表れている場合等、ノイズ成分の大きなスペクトルが存在する場合には、その同位体のスペクトルを除いた同位体の質量数を選択して、計測対象物の濃度を求めればよい。このようにすると、不純物等のノイズを排除できるので、より精度の高い計測ができる。
【0089】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明に係る化学物質の検出装置(請求項1)では、特定の信号強度よりも高い信号強度を与える、高い濃度で存在する不純物の質量数に対応する周波数のSWIFT波形の電圧振幅を高くし、不純物の濃度が低い部分は電圧振幅を低くした。このため、特に濃度の高い不純物を選択的に除去できるので、不純物を選択的に除去できるので、SWIFTに要するエネルギーが少なくて済む。これによって、電源装置を小型にできるので、無闇に大きな電源を使用しなくともよく、経済的である。
【0090】
また、この発明に係る化学物質の検出装置(請求項2)では、質量数の大きい不純物に対しては、質量数の小さい不純物に与えるエネルギーよりも大きなエネルギーを与えるようにした。また、この発明に係る化学物質の検出装置(請求項3)では、周波数が小さくなるにしたがって電圧振幅を大きくしたSWIFT波形の周波数スペクトルを、質量数を横軸として変換したときに単位質量数あたりの電圧振幅が略一定値となるようにした。このため、質量数の大きい不純物に対して十分なエネルギーを与えてこれを除去し、質量数の小さいイオンには必要十分な範囲でエネルギーを与えることができるので、エネルギーの使用効率を高くできる。これによって、無闇に大きな電源装置も不要となるので、設置コストも低減できる。
【0091】
また、この発明に係る化学物質の検出方法(請求項4)では、所定の割合以上存在する不純物を選択的に除去するようにした。このため、すべての不純物を除去する場合と比較して少ないエネルギーで必要十分な不純物を除去できる。また、エネルギーも少なくて済むので、電源装置を小さくでき、経済的である。
【0092】
また、この発明に係る化学物質の検出方法(請求項5)では、所定の信号強度よりも高い信号強度を与える不純物に対応する周波数のSWIFT波形の電圧振幅を高くし、不純物の濃度が低い部分の周波数は電圧振幅を低くした。このため、特に濃度の高い不純物を選択的に除去できるので、濃度の低い不純物除去に要するエネルギーを小さくできる。これによって、不純物の除去に要するエネルギーが少なくて済み、また、無闇に大きな電源を使用しなくともよいので経済的である。
【0093】
また、この発明に係る化学物質の検出方法(請求項6)では、質量数の大きい不純物に対しては、質量数の小さい不純物に与えるエネルギーよりも大きなエネルギーを与えるようにした。また、この発明に係る化学物質の検出方法(請求項7)では、周波数が小さくなるにしたがって電圧振幅を大きくしたSWIFT波形の周波数スペクトルを、質量数を横軸として変換したときに質量数あたりの電圧振幅が略一定値となるようにした。これによって、質量数の大きいイオンに対しては十分なエネルギーを与えてこれを除去し、質量数の小さいイオンには必要十分な範囲でエネルギーを与えることができるので、エネルギーの使用効率を高くできる。これによって、無闇に大きな電源装置も不要となるので、設置コストも低減できる。
【0094】
また、この発明に係る化学物質の検出方法(請求項8)では、複数存在する検出対象化学物質のうち、質量数の大きな親分子のフラグメントが、質量数が小さい他の親分子をフラグメント化する際に与えるTICKLE周波数によりフラグメント化してしまう質量数の範囲に重なる際、質量数の小さい検出対象化学物質から順にフラグメント化するようにした。このため、複数の検出対象化学物質をすべて検出できるので、質量分析における感度を高くして、より精度の高い測定ができる。
【0095】
また、この発明に係る化学物質の検出方法(請求項9)では、この化学物質の検出方法は、検出対象化学物質の同位体のうち少なくとも2種類の同位体に対応する周波数を含むTICKLE波形を与えて、検出対象化学物質の同位体のうち少なくとも2種類をフラグメント化し、質量分析に供するようにした。このように、質量分析においては複数の同位体を使用するので、排ガス中に極微量しかダイオキシン類やその前駆体が存在しない場合でも、検出精度を高くできる。
【0096】
また、この発明に係る化学物質の検出方法(請求項10)では、検出対象化学物質から生成されるフラグメントの同位体のうち少なくとも2種類を質量分析の対象とするようにした。このように、質量分析においては複数のフラグメントの同位体を使用するので、排ガス中に極微量しかダイオキシン類やその前駆体が存在しない場合でも、検出精度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1に係る化学物質の検出装置を示す説明図である。
【図2】 この発明の実施の形態1に係る化学物質の検出方法を示すフローチャートである。
【図3】 トラップ周波数を一定とした場合におけるRF電圧に対するイオン信号強度分布を示した説明図である。
【図4】 RF電圧を一定とした場合におけるRF周波数に対するイオン信号強度分布を示した説明図である。
【図5】 SWIFT周波数と振幅との関係およびイオン信号と質量数との関係を示した説明図である。
【図6】 この発明の実施の形態5に係るSWIFT波形の周波数スペクトルを示す説明図である。
【図7】 従来におけるSWIFT波形の周波数スペクトルを示す説明図である。
【図8】 この発明の実施の形態6に係るSWIFT波形の周波数スペクトルを示す説明図である。
【図9】 この発明の実施の形態7に係るSWIFT波形の周波数スペクトルを示す説明図である。
【図10】 この発明の実施の形態7に係るTICKLE波形の周波数スペクトルを示す説明図である。
【図11】 この発明の実施の形態9に係るTICKLE波形の周波数スペクトルを、質量数を横軸として変換した説明図である。
【符号の説明】
1 イオン化室
2 ガス導入装置
3 真空紫外光ランプ
4 質量分析計
5 ガス噴射管
6 ヒータ
10 イオントラップ装置
11 トラップ
12 第一エンドキャップ
13 第二エンドキャップ
14 RFリング
20 任意波形発生装置
21 高周波電源装置
30 イオン検出器
31 プリアンプ
32 データ処理装置
100 化学物質の検出装置
Gs 排ガス
L 真空紫外光
Claims (10)
- 電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ手段と、
所定の信号強度よりも高い信号強度を示す濃度で存在する不純物の軌道共鳴周波数に対応した周波数においては、所定の信号強度よりも低い信号強度を示す濃度で存在する不純物の軌道共鳴周波数に対応する周波数帯における電圧振幅よりも大きい電圧振幅を有するSWIFT波形を生成する任意波形発生手段と、
この任意波形発生手段で生成された前記SWIFT波形を、前記イオントラップ手段に閉じ込められているイオン群に与えて前記不純物を除去した後に、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析手段と、
を備えたことを特徴とする化学物質の検出装置。 - 電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ手段と、
周波数が大きくなるにしたがって電圧振幅を小さくしたSWIFT波形を発生させる任意波形発生手段と、
前記SWIFT波形を前記イオントラップ手段に閉じ込められているイオン群に与えて前記不純物を除去した後に、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析手段と、
を備えたことを特徴とする化学物質の検出装置。 - 電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ手段と、
SWIFTによる除去対象分子の質量数に関わらず電圧振幅が一定の分布を持つSWIFT波形を発生させる任意波形発生手段と、
前記SWIFT波形を前記イオントラップ手段に閉じ込められているイオン群に与えて前記不純物を除去した後に、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析手段と、
を備えたことを特徴とする化学物質の検出装置。 - 電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、
上記イオン群に含まれる不純物の分布を測定し、所定の割合以上存在する不純物に対応する周波数成分を含むSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去する不純物除去工程と、
前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、
を有することを特徴とする化学物質の検出方法。 - 電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、
所定の信号強度よりも高い信号強度を示す濃度で存在する不純物の軌道共鳴周波数に対応した周波数においては、所定の信号強度よりも低い信号強度を示す濃度で存在する不純物の軌道共鳴周波数に対応する周波数帯における電圧振幅よりも大きい電圧振幅を有するSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去する不純物除去工程と、
前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、
を有することを特徴とする化学物質の検出方法。 - 電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、
含まれる周波数が大きくなるにしたがって電圧振幅を小さくしたSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去する不純物除去工程と、
前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、
を有することを特徴とする化学物質の検出方法。 - 電界、磁界その他の手段によって、イオン化された検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、
SWIFTによる除去対象分子の質量数に関わらず電圧振幅が一定の分布を持つSWIFT波形を発生させる任意波形発生工程と、
前記SWIFT波形を前記イオントラップ手段に閉じ込められているイオン群に与えて前記不純物を除去した後に、前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、
を備えたことを特徴とする化学物質の検出方法。 - 電界、磁界その他の手段によって、イオン化された複数の質量数が異なる検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、
複数の検出対象化学物質の質量数に対応する複数の周波数帯においては電圧振幅を与えないSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去し、複数の検出対象化学物質を残す工程と、
前記複数の検出対象化学物質のうち、質量数の大きな親分子のフラグメントが、質量数が小さい他の親分子をフラグメント化する際に与えるTICKLE周波数によりフラグメント化してしまう質量数の範囲に重なる際、質量数が小さい検出対象化学物質から順にフラグメント化するフラグメント化工程と、
前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、
を有することを特徴とする化学物質の検出方法。 - 電界、磁界その他の手段によって、イオン化された複数の質量数が異なる検出対象化学物質のイオンを含むイオン群を閉じ込めるイオントラップ工程と、
複数の検出対象化学物質の質量数に対応する複数の周波数帯においては電圧振幅を与えないSWIFT波形を前記イオン群に与えて不純物を除去し、複数の検出対象化学物質を残す工程と、
前記検出対象化学物質の同位体のうち少なくとも2種類の同位体に対応する周波数を含むTICKLE波形を与えて、当該検出対象化学物質の同位体のうち少なくとも2種類をフラグメント化するフラグメント化工程と、
前記検出対象化学物質またはこのフラグメントの質量を測定する質量分析工程と、
を有することを特徴とする化学物質の検出方法。 - 上記質量分析工程においては、検出対象化学物質から生成されるフラグメントの同位体のうち少なくとも2種類を計測対象とすることを特徴とする請求項4〜9のいずれか一つに記載の化学物質の検出方法。
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