JP3672824B2 - 移動体通信装置及び無線通信システム切替方法 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、移動体通信装置および無線通信システム切替方法に係り、さらに詳しくは、2以上の無線通信システムの提供する通信回線から少なくとも一つの無線通信回線を選択する無線通信装置、および、この無線通信システムにおける無線通信システム切替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に無線通信システムは、多数の無線通信回線を提供している。このため、携帯電話などの移動体通信装置は、通信回線を選択する回線選択部を備え、この回線選択部が選択した通信回線により通信を行っている。通信回線を決定する際、この回線選択部が選択可能な通信回線を順次に選択していき、使用可能な通信回線、すなわち、システム側からの無線信号を受信できる回線を見つけだす回線サーチが必要となる。
TDMA(Time Division Multiple Access)方式の携帯電話機の場合であれば、通信回線は周波数及びタイムスロットにより規定され、CDMA(Code Division Multiple Access)方式の携帯電話機の場合であれば、通信回線は周波数及び拡散符号により規定される。通信回線を規定するこれらの情報は回線情報と呼ばれる。
【0003】
例えば、TDMA方式の一つであるGSM(Global System for Mobile communications)方式を採用したシステムであれば、選択可能な周波数及びタイムスロットの組合せにより数百種類の通信回線を選択することができる。このため、回線切替が必要になった場合には、選択可能な通信回線を規定した回線リストから通信回線を順次に選択し、その回線状態をチェックしていく(回線サーチ)。そして、回線状態の良好な通信回線を発見すれば、その通信回線を捕捉する。その後、この通信回線の回線状態が悪化すれば同様の回線サーチを再び行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この様な回線サーチでは、回線リストから順次に通信回線を選択するので、1回の回線チェックにより回線状態の良好な通信回線を発見できる場合もあるが、数百回の回線チェックを行った後に、はじめて回線状態の良好な通信回線を発見できる場合もある。回線状態のチェック動作に要する時間は通信方式により異なるが、このチェック動作に長い時間を要する場合がある。回線サーチに要する時間が長くなると、システムからの無線信号を受信可能なサービスエリア内であっても、ユーザが直ちに無線通信装置を使用できない状態が生ずるという問題があった。
【0005】
この様な課題を解決するため、従来よりシステム側装置(例えば基地局)が移動体通信装置に対し、周辺セルの通信回線の情報を含む無線信号を送信するシステムがあった。例えば、GSM方式のシステムでは、移動体通信装置がモニターしている基地局からの無線信号(この無線信号に対応するセルをサービングセルと呼ぶ)のチャネル情報に、サービングセルに隣接するセル(ネイバリングセル)の周波数の情報が含まれている。この様なネイバリングセルの周波数情報を予め取得しておけば、移動体通信装置がサービングエリアから出た場合に、これらの通信回線についてのみ回線サーチを行うことにより、回線リストに基づく順次の回線サーチに比べ、短時間の回線サーチより次の通信回線を捕捉することができる。
【0006】
ここで、2以上の無線通信システムの提供する通信回線から、いずれかの通信回線を選択して使用することができる移動体通信装置(いわゆるデュアルモード機)の場合について考える。デュアルモード機の回線サーチは、同一システム内での回線切替時と、システム切替時に行われる。
同一システム内での回線切替とは、現在捕捉中の通信回線を提供している無線通信システムの提供する他の通信回線を選択することである。一方、システム切替とは、現在捕捉中の通信回線を提供している無線通信システム(切替前システム)とは異なる無線通信システム(切替後システム)の提供する通信回線を選択することである。
【0007】
同一システム内での回線切替であれば、前述のGSM方式の場合と同様にして、システム側通信装置から予め周辺セルの情報を受信し、回線サーチを迅速化することができる。ところが、システム切替の場合には、切替後システムに関して回線サーチを行う必要があるが、切替後システムの情報を異なるシステムである切替前システムから受信することはできない。このため、回線リストに基づく順次サーチをすることになり、回線サーチに長い時間を要する場合には、システム切替も迅速に行うことができない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、無線通信システム間のシステム切替時に行われる回線サーチの時間を短縮し、システム切替を迅速に行うことができる無線通信システム切替方法及び移動体通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による無線通信システム切替方法は、第1の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信された受信信号から無線ゾーンの位置情報を抽出する第1の抽出ステップと、第2の無線通信システムの提供する2以上の無線ゾーンの位置情報をその回線情報に関連づけて記憶する記憶ステップと、前記記憶ステップにより記憶された2以上の無線ゾーンと、前記第1の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンとの重複面積をそれぞれ求める面積演算ステップと、第2の無線通信システムの提供する2以上の無線ゾーンのうち、前記面積演算ステップにより求められた重複面積が大きい無線ゾーンの無線通信回線を優先的に選択する回線選択ステップとを備えたものである。
【0010】
本発明による無線通信システム切替方法は、第1の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信された受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第1の抽出ステップと、静止軌道より高度の低い定軌道上を周回する移動衛星を用いた第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信した受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第2の抽出ステップと、前記第2の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンの位置情報をその受信時刻およびその回線情報に関連づけて記憶する記憶ステップと、前記記憶ステップにより記憶された受信時刻と現在時刻との差分を求め、この差分の衛星周期に対する周期誤差を求める誤差演算ステップと、衛星の移動速度、衛星の移動方向および前記誤差演算ステップにより求められた周期誤差を用いて、前記記憶ステップにより記憶された無線ゾーンの現在位置について、前記第1の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンとの重複面積をそれぞれ求める面積演算ステップと、第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンのうち、前記面積演算ステップにより求められた重複面積が大きい無線ゾーンの通信回線を優先的に選択する回線選択ステップとを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、受信された受信信号から無線ゾーンの位置情報を抽出する第1の抽出ステップと、第2の無線通信システムの提供する2以上の無線ゾーンの位置情報をその回線情報に関連づけて記憶する記憶ステップと、記憶ステップにより記憶された2以上の無線ゾーンと、第1の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンとの重複面積をそれぞれ求める面積演算ステップと、第2の無線通信システムの提供する2以上の無線ゾーンのうち、面積演算ステップにより求められた重複面積が大きい無線ゾーンの無線通信回線を優先的に選択する回線選択ステップとを備えるように構成したので、システム切替の際に、無線ゾーンが地理的近い通信回線を優先的に選択することができ、システム切替を迅速に行うことができる。
【0012】
この発明は、受信された受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第1の抽出ステップと、静止軌道より高度の低い定軌道上を周回する移動衛星を用いた第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信した受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第2の抽出ステップと、第2の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンの位置情報をその受信時刻およびその回線情報に関連づけて記憶する記憶ステップと、記憶ステップにより記憶された受信時刻と現在時刻との差分を求め、この差分の衛星周期に対する周期誤差を求める誤差演算ステップと、衛星の移動速度、衛星の移動方向および誤差演算ステップにより求められた周期誤差を用いて、記憶ステップにより記憶された無線ゾーンの現在位置について、第1の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンとの重複面積をそれぞれ求める面積演算ステップと、第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンのうち、面積演算ステップにより求められた重複面積が大きい無線ゾーンの通信回線を優先的に選択する回線選択ステップとを備えるように構成したので、移動衛星を用いた無線通信システムヘのシステム切替時にもシステム切替を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明による移動体通信装置MSを含むシステム構成例を示した概略図である。図中のSS、BSsは、それぞれ衛星通信システムを構成する通信衛星、基地局であり、BStは地上通信システムを構成する基地局である。通信衛星SSおよび基地局BStは、それぞれ地表面上に複数の無線ゾーン(不図示)を形成しており、移動体通信装置MSはこの無線ゾーン内において無線信号を受信することができ、衛星通信システムの提供する無線通信回線(衛星回線)および地上通信システムの提供する無線通信回線(地上回線)から、いずれかの通信回線を選択して使用することができる。
【0014】
図2は、本発明による移動体通信装置MSの一構成例を示したブロック図であり、衛星回線を捕捉する衛星系ユニットUAと、地上回線を捕捉する地上系ユニットUBからなる。なお、本実施の形態では、衛星通信システムが第1の無線通信システム(切替前システム)に相当し、地上通信システムが第2の無線通信システム(切替後システム)に相当する。
【0015】
衛星系ユニットUAは、アンテナ部1A、回線監視部20A、位置情報抽出部21A、回線リスト6Aおよび回線選択部7Aからなる。アンテナ部1Aはシステム側通信装置である通信衛星SSからの無線信号を受信し、この受信信号に基づき回線監視部20Aが通信回線の回線状態を監視する。また、位置情報抽出部21Aはこの受信信号から無線ゾーンの位置情報を抽出し、地上系ユニットUBへ出力する。回線リスト6Aは選択可能な全ての衛星回線を予め規定しており、回線選択部7Aはこの回線リスト6Aの記憶データに基づき衛星回線を選択する。
【0016】
地上系ユニットUBは、アンテナ部1B、回線監視部20B、位置情報抽出部21B、位置情報記憶部3B、位置情報書込部4B、位置情報検索部5B、回線リスト6Bおよび回線選択部7Bからなる。アンテナ部1Bはシステム側通信装置である基地局BStからの無線信号を受信し、この受信信号に基づき回線監視部20Bが通信回線の回線状態を監視する。また、位置情報抽出部21Bはこの受信信号から無線ゾーンの位置情報を抽出し、抽出された無線ゾーンの位置情報は、位置情報書込部4Bにより位置情報記憶部3Bに書き込まれて記憶保持される。回線リスト6Bは選択可能な全ての地上回線を予め規定している。回線選択部7Bは、位置情報検索部5Bによる位置情報記憶部3B内のデータ検索結果、または、回線リスト6Bの記憶データに基づき、地上回線を選択する。
【0017】
回線リスト6A、6Bは、それぞれ回線選択部7A、7Bの選択可能な通信回線を記憶する記憶装置であり、回線リスト6Aには衛星回線の回線情報が記憶保持されており、回線リスト6Bには地上回線の回線情報が記憶保持されている。ここで、回線情報とは、通信回線を捕捉する際に必要となる情報であり、例えば、TDMA方式では周波数及びタイムスロット、CDMA方式では周波数と拡散符号である。
【0018】
回線リスト6A、6Bは、ROM、EPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置により実現することができる。また、ハードディスク、光ディスク、ROM、EPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置から必要に応じて回線情報をコピーしたDRAM、SRAM等の揮発性記憶装置として実現することもできる。
【0019】
図3は、回線リスト6Bを構成するデータの一例を示した図である。ここでは一例として通信方式がTDMA方式の場合について説明する。回線リスト6Bでは、無線信号の搬送波の周波数F1、F2、F3…と、同期タイミングを示すタイムスロットT1、T2、T3…の組合せにより選択可能な数百種類の通信回線が、回線情報として規定されている。例えば、アドレス1には通信回線「F1−T1」(周波数がF1かつタイムスロットがT1を表す。以下同様)、アドレス10には通信回線「F3−T5」が規定されている。
【0020】
回線選択部7A、7Bは、待ち受け時の回線切替において通信回線を選択する回路であり、同一の無線通信システムにおいて回線切替を行う場合の回線選択だけでなく、地上通信システム、衛星通信システム間でシステム切り替えを行う場合の回線選択も行う。
回線選択部7Aは、常に回線リスト6Aに基づき通信回線を選択するのに対し、回線選択部7Bは、回線リスト6Bまたは位置情報検索部5Bの出力に基づき通信回線を選択する。
【0021】
すなわち、回線選択部7Aは、地上系から衛星系へのシステム切替、衛星通信システム内での回線切替のいずれの場合であっても、回線リスト6Aに対しアドレス信号を生成して通信回線を選択し、その回線情報を読み出す。そして、読み出された回線情報は回線監視部20Aへ送られる。
【0022】
一方、回線選択部7Bは、衛星系から地上系ヘシステム切替を行う場合には、回線サーチ時に位置情報検索部5Bに対し検索要求を出力し、位置情報検索部5Bの出力する回線情報を回線監視部20Bへ送るが、地上通信システム内での回線切替の場合には、検索要求を出すことなく、回線選択部7Aと同様、回線リスト6Bに対しアドレス信号を生成して通信回線を選択し、その回線情報を読み出す。
【0023】
回線監視部20A、20Bは、通信回線の回線状態を監視する回線監視部であり、回線選択部7A、7Bの出力する回線情報に基づき通信回線の回線状態を検出し、その検出結果を回線選択部7A、7Bへ返す。回線監視部20Aは衛星回線の回線状態を監視し、回線監視部20Bは地上回線の回線状態を監視する。
【0024】
これらの検出結果は回線状態の良否を示す2値データ又は多値データであり、検出された回線状態が所定の品質レベルに満たない場合には、回線選択部7A、7Bが、更に他の通信回線を選択する。一方、回線状態が所定の品質レベルを満たす場合には、回線選択部7A、7Bはその通信回線を捕捉する。すなわち、移動体通信装置MSは捕捉された通信回線を提供するシステム側通信装置に対し位置登録を行う。また、回線監視部20A、20Bは、引き続きシステム側通信装置からの無線信号をモニターし、捕捉中の通信回線の回線状態を監視する。
【0025】
位置情報抽出部21A、21Bは、受信信号のチャネル情報に基づき、通信回線の情報を抽出する。位置情報抽出部21A、21Bにより抽出される情報には、少なくとも無線ゾーンの位置情報が含まれる。位置情報抽出部21Bにより抽出された位置情報は位置情報書込部4Bへ出力され、位置情報抽出部21Aにより抽出された情報は地上系ユニットUBへ出力され、位置情報検索部5Bへ入力される。すなわち、位置情報書込部4Bには地上通信システムの情報が入力され、位置情報検索部5Bには衛星通信システムの情報が入力される。
【0026】
ここで、無線ゾーンの位置情報とは、同一通信回線がカバーする地理的位置および範囲を示す情報である。図4は、無線ゾーンの一例としてセルラ方式におけるセルを模式的に示した図である。セルラ方式では無線ゾーンはセルと呼ばれ、一般に6角形に形成される。従って、この場合には、セルの各頂点位置P1〜P6を表す6組の経度および緯度X1〜X6、Y1〜Y6からなるデータを無線ゾーン(セル)の位置情報とすることができる。なお、一般に、無線ゾーンが多角形であれば、その位置情報は各頂点の経度および緯度で表すことができ、無線ゾーンが円形の場合には中心点の位置(緯度および経度)と半径で表すことができる。
【0027】
位置情報書込部4Bは、回線選択部7Bからの書込要求信号に基づき、待ち受け時に捕捉した通信回線の情報を位置情報記憶部3Bに書き込む。すなわち、回線サーチ時に回線状態の良好な通信回線が発見されると、回線選択部7Bが回線情報とともに書込要求信号を出す。位置情報書込部4Bは、この書込要求信号に基づき、位置情報抽出部21Bの出力する位置情報を回線情報とともに位置情報記憶部3Bへ書き込む。
【0028】
位置情報記憶部3Bは、位置情報抽出部21Bにより抽出された無線ゾーンの位置情報をその回線情報に関連づけて記憶する記憶装置であり、書込可能な記憶装置、すなわち、DRAM、SRAM等の揮発性記憶装置や、フラッシュメモリ、EPROM等の不揮発性記憶装置により実現することができる。図5は、位置情報記憶部4を構成するデータの一例を示した図である。例えば、無線ゾーンの位置情報「(Xa1,Ya1)、(Xa2,Ya2)、…、(Xa6,Ya6)」が回線情報「F1−T1」とともに同一アドレス(アドレス1)に記憶され、関連づけられている。
【0029】
位置情報検索部5Bは、回線選択部7Bからの検索要求信号に基づき、位置情報記憶部3Bに記憶された位置情報の検索を行い、検索された通信回線の関連づけられた回線情報を出力する検索回路であり、面積演算部としての積分演算部50Bと、面積比較部51Bからなる。
【0030】
積分演算部50Bは、現在捕捉中の通信回線の無線ゾーンと、回線記憶部3B内に記憶されている各無線ゾーンとの重複面積を求める演算回路である。面積比較部51Bは、求められた各重複面積を比較し、その比較結果に基づき位置情報記憶部3Bから回線情報を読み出す。
衛星系から地上系ヘシステム切替を行う場合、まず、回線選択部7Bが検索要求信号を出す。積分演算部50Bは、この検索要求信号に基づき、位置情報抽出部21Aから衛星回線の無線ゾーンの位置情報(第1の位置情報)を受け取る。この第1の位置情報は、現在捕捉中の無線ゾーンの位置情報である。
【0031】
次に、積分演算部50Bは、位置情報記憶部3Bから地上回線の無線ゾーンの位置情報(第2の位置情報)を順次に読み出す。この第2の位置情報は、過去に抽出され記憶された位置情報である。積分演算部50は、第2の位置情報のそれぞれについて、第1の位置情報との重複面積を求める。この重複面積は積分演算によって求めることができるが、他の演算方法により近似的に求められるものであってもよい。
【0032】
面積比較部51Bは、積分演算部50Bの求めた各重複面積を比較し、その比較結果に基づき、位置情報記憶部3Bから回線情報を読み出す。すなわち、第1の位置情報との重複面積が最大となる無線ゾーンを発見し、この無線ゾーンに対応する通信回線の回線情報を読み出して、回線選択部7Bへ出力する。
位置情報検索部5Bにより得られた無線ゾーンの重複面積が最も大きな通信回線について回線監視部20Bが回線状態を検出する。その結果、回線状態が良好でない場合には、回線選択部7Bの指示に基づき、重複面積の次に大きな通信回線の回線情報を位置情報検索部5Bが検索する。この様にして、第1の位置情報との距離が近い第2の位置情報(すなわち、衛星回線の無線ゾーンに近い地上回線の無線ゾーン)から順に検索していき、検索された位置情報が関連づけられた回線情報を順に出力していく。
【0033】
図6は、位置情報抽出部21Aの抽出した位置情報(第1の位置情報)および位置情報記憶部4B内に記憶された位置情報(第2の位置情報)の一例を示した図であり、位置情報検索部5Bの動作の一例を具体的に説明するための図である。
図中に破線で示した6角形の領域Zaは、第1の位置情報により特定される無線ゾーンである。すなわち、無線ゾーンZaは、衛星通信システムの提供する無線ゾーンであり、同一の通信衛星SSの提供する同一通信回線を捕捉可能な地理的範囲を示している。
図中に実線で示した6角形の領域Ziは、第2の位置情報により特定される無線ゾーンである。無線ゾーンZiは、いずれも地上通信システムの提供する無線ゾーンであり、それぞれが同一通信回線を捕捉可能な地理的範囲を示している。
【0034】
一般に衛星通信システムの無線ゾーンは、数十kmから数百km程度であるのに対し、地上通信システムの無線ゾーンは数km以下である場合が多く、図示したように衛星系の無線ゾーンの方が大きくなっている。
移動体通信装置MSが衛星回線を捕捉している場合に、地上回線へ切り替える場合について図6を用いて説明する。無線通信システムの切り替え時に、回線選択部7Bから位置情報検索部5Bへ検索要求信号が出力される。
【0035】
積分演算部50Bは、回線選択部7Bからの検索要求信号に基づき、無線ゾーンZaの位置情報を位置情報抽出部21Aから受け取り、無線ゾーンZiの位置情報を位置情報記憶部3Bから読み出して、無線ゾーンZi、Zaの頂点座標に基づき、各無線ゾーンZiと無線ゾーンZaとの重複面積を積分演算によって求める。
【0036】
面積比較部51Bは、積分演算部50Bの求めた各重複面積を比較する。図6中の無線ゾーンZiに付した番号は、この比較結果を示したものである。番号0を付した無線ゾーンZiは、無線ゾーンZaとの重複部分がないことを意味し、重複面積が大きい無線ゾーンZiから順に番号1、2、3…を付している。
【0037】
面積比較部51Bは、まず、重複面積が最大の「1」を付した無線ゾーンZiの回線情報を位置情報記憶部3Bから読み出して回線選択部7Bへ出力する。そして、回線監視部20Bがこの通信回線の回線状態をチェックした結果、回線状態が良好でなければ、重複面積が次に大きい無線ゾーンZiの回線情報をさらに出力する。この様にして、番号1、2、3…の順で、面積比較部51Bから地上回線の回線情報が与えられ、回線監視部20Bが順に回線状態をチェックする。なお、無線ゾーンZiの重複面積が同一である通信回線に関しては、その選択の順序は任意である。
【0038】
図7のステップS100〜S109は、図2に示した地上系ユニットUBの動作の一例を示したフローチャートであり、衛星系から地上系へのシステム切替時の動作を示した図である。このプロセスは、システム切替のイベント発生により実行される。回線切替イベントは、衛星回線を捕捉している待ち受け時に、回線監視部20Aが衛星回線の回線状態の悪化を検出した場合や、ユーザが入力キー等の入力装置を操作してシステム切替を指示した場合等に発行される。
【0039】
まず、システム切替のイベントを受信した回線選択部7Bは検索要求信号を出力する。この検索要求信号に基づき、積分演算部50Bが、位置情報抽出部21Aから第1の位置情報を受信するとともに、位置情報記憶部3Bから第2の位置情報を読み出し、重複面積の演算を行う(S100)。そして、面積比較部51Bが、求められた重複面積の比較を行う(S101)。
【0040】
次に、面積比較部51Bが、重複面積が最大となる通信回線の回線情報を回線情報記録部3Bから読み出して出力し、回線選択部7Bは、位置情報検索部5Bから出力された通信回線を選択する(S103)。通信回線を選択した回線選択部7Bは、その回線情報を回線監視部20Bへ送り、その回線チェックを指示する。回線監視部20Bは、この通信回線の回線状態を検出し、その検出結果を回線選択部7Bに返す(S104)。
【0041】
回線状態が良好でない場合(S105)、面積比較部51Bは、回線選択部7Bの指示に基づき、重複面積が次に大きな通信回線を回線選択部7Bが選択し、回線状態のチェックを繰り返す(S102〜S104)。一方、回線状態が良好であれば、回線選択部7Bはその通信回線を捕捉し、このプロセスを終了する(S105)。
ただし、ステップS100において第2の無線ゾーンがいずれも第1の無線ゾーンと重複しない場合、面積比較部51Bは回線選択部7Bに対し「該当データなし」の情報を返す(S102)。また、第1の無線ゾーンZaに重複する第2の無線ゾーンZiの全てについて、回線状態が良好でない場合にも「該当データなし」の情報を返す(S102)。
【0042】
「該当テータなし」の情報を受け取った回線選択部7Bは通常の回線サーチを開始する(S106〜S108)。すなわち、回線選択部7Bが回線リスト6Bから通信回線を順次に選択し、回線監視部20Bがその回線状態をチェックしていく動作を、回線状態の良好な通信回線が発見されるまで繰り返して通信回線を捕捉する。
ステップS108において通信回線を捕捉した場合、回線選択部7Bは書込要求信号を出力する。位置情報書込部4Bは、この書込要求信号に基づき、位置情報抽出部21Bの出力する回線情報を位置情報記憶部3Bに書き込んでこのプロセスを終了する(S109)。
【0043】
図8のステップS200〜S202は、図2に示した衛星系ユニットUAの動作の一例を示したフローチャートであり、地上系から衛星系へのシステム切替時の動作を示した図である。このプロセスは、システム切替のイベント発生により実行される。回線切替イベントは、地上回線を捕捉している待ち受け時に、回線監視部20Bが地上回線の回線状態の悪化を検出した場合や、ユーザが入力キー等の入力装置を操作してシステム切替を指示した場合等に発行される。
【0044】
システム切替のイベントを受信した回線選択部7Aは、回線リスト6Aに記憶された通信回線のいずれかを選択する。すなわち、回線リスト6Aに対しアドレス信号を生成し、回線リスト6Aから回線情報を読み出す(ステップS200)。
通信回線を選択した回線選択部7Aは、その回線情報を回線監視部20Aへ送り、その回線チェックを指示する。回線監視部20Aは、この通信回線の回線状態を検出し、その検出結果を回線選択部7Aに返す(S201)。
回線状態が良好でない場合(S202)、回線選択部7Aが回線リスト6Bから他の通信回線を読み出し、回線監視部20Aが回線状態を検出する動作を繰り返す(S200〜S201)。一方、回線状態が良好であれば、回線選択部7Aはその通信回線を捕捉する(S202)。
【0045】
本実施の形態によれば、システム切替の際、現在捕捉中の通信回線の無線ゾーンに地理的に最も近い無線ゾーンを有する通信回線を優先的に選択することができる。一般に、システム切替前に捕捉していた通信回線の無線ゾーンと、システム切替後に捕捉される通信回線の無線ゾーンとは地理的に近い位置にある。このため、本実施の形態による移動体通信装置を用いれば、システム切替時の回線サーチの時間を大幅に短縮することができ、システム切替を迅速に行うことができる。
【0046】
本実施の形態では、衛星通信システムの提供する無線ゾーンの位置情報については最新の情報のみを用い、過去に抽出された情報は用いていない。このため、本実施の形態における衛星通信システムは、無線ゾーンの位置情報が変化しない静止衛星を用いたシステムのみならず、無線ゾーンの位置情報が変化する移動衛星(非静止衛星)を用いたシステムにも適用することができる。
【0047】
さらに、本実施の形態では、衛星通信システムから地上通信システムヘ切り替える場合について説明したが、位置情報を用いてシステム切替を行う本発明の適用範囲はこの様な場合に限定されず、異なる通信システムである第1の無線通信システムから第2の無線通信システムヘ切り替える場合一般に適用することができる。例えば、異なる地上通信システム間でシステム切替を行う場合や、異なる衛星通信システム間でシステム切替を行う場合にも適用することができる。
【0048】
また、ユニットUAを地上回線を捕捉する地上系ユニットとし、ユニットUBを静止衛星を介した衛星回線を捕捉する静止衛星系ユニットとすれば、地上通信システム(ユニットUA側)から衛星通信システム(ユニットUB側)へのシステム切替を行う場合にも本発明を適用することができる。
なお、図2に示したユニットUAとユニットUBを構成するブロックのうち共有化できるブロック、例えば、アンテナ1Aと1B、回線選択部7Aと7B、回線リスト3Aと3Bを1つの構成部分とすることもできる。また、アンテナ1A、1Bおよび記憶装置3A、6A、6Bを除く各ブロックはソフトウエアにより実現することもできる。
【0049】
実施の形態2.
衛星通信システムから地上通信システムヘシステム切替を行う場合について説明したが、本実施の形態では、図2に示した移動体通信装置MSが、異なる地上通信システム間でシステム切替を行う場合について、さらに説明する。
図9は、本発明による移動体通信装置MSを含むシステム構成例を示した概略図である。図中のBS−A、BS−Bは、それぞれ異なる地上通信システムを構成する基地局であり、両方の地上通信システムの提供する無線通信回線から、いずれかの通信回線を選択して使用することができる。
【0050】
移動体通信装置MSのブロック図は図2の場合と同じであるが、本実施の形態では、図2に示したユニットUA、UBを、それぞれ異なる地上通信システムの通信回線を捕捉する回線選択ユニットとし、実施の形態1と同様、ユニットUBが第1の無線通信システム(切替前システム)に対応し、ユニットUAが第2の無線通信システム(切替後システム)に対応するものとする。
【0051】
図10は、位置情報抽出部21Aの抽出した位置情報(第1の位置情報)および回線情報記憶部4B内に記憶された位置情報(第2の位置情報)の一例を示した図であり、位置情報検索部5Bの動作の一例を具体的に説明するための図である。
図中の破線で囲んだ6角形の領域Za〜Zeが、第1の通信システムの提供する無線ゾーンであり、無線ゾーンZaが第1の位置情報により特定される無線ゾーン、すなわち、GSM方式のサービングセルに相当する無線ゾーンであるものとする。
図中の実線で囲んだ6角形の領域Z1〜Z5が第2の位置情報により特定される無線ゾーンである。すなわち、無線ゾーンZ1〜Z5は、位置情報記憶部3Bにその位置情報が記憶された第2の通信システムの提供する無線ゾーンである。
無線ゾーンZaと無線ゾーンZ1〜Z5との重複面積は、ハッチングを付した領域a1、a2およびa4であり、一番大きい重複領域がa2、次に大きい重複領域がa1であり、無線ゾーンZ3およびZ5については重複領域が存在しない。
【0052】
積分演算部50Bは、無線ゾーンZ1〜Z6およびZaの各頂点座標(経度および緯度)に基づき、積分演算を行って重複面積a1〜a5を求める(a3=a5=0)。そして、面積比較部51Bが、重複領域a1〜a5を比較し、重複領域が最大の無線ゾーンZ2の回線情報を出力する。この時、無線ゾーンZ2の回線状態が良好でなければ、重複領域が次に大きい無線ゾーンZ1の回線情報を出力する。
この様にして、Z2、Z1、Z4の順で回線チェックを行い、回線状態の良好な通信回線が発見できればその通信回線を捕捉し、回線状態の良好な通信回線を捕捉できない場合には、回線リスト6Bに基づく回線チェックを行う。
【0053】
本実施の形態によれば、異なる地上通信システム間でシステム切替を行う場合にも、実施の形態1の場合と全く同様に本発明を適用することができ、同様の効果が得られる。
【0054】
実施の形態3.
実施の形態1、2では、一方の無線通信システム(ユニットUA側)から他方の無線通信システム(ユニットUB側)へのシステム切替に本発明を適用した場合について説明したが、本実施の形態では、異なる2つの無線通信システム間で行われる双方向のシステム切替にともに本発明を適用する場合について説明する。
【0055】
図11は、本発明による移動体通信装置MSの一構成例を示したブロック図であり、衛星系ユニットUAと、地上系ユニットUBからなる。なお、衛星系ユニットUAは、静止衛星からの衛星回線を捕捉するためのユニットである。また、図2に示したブロックに相当するブロックには同一の符号を付して説明を省略する。また、各ブロックの符号の末尾には、そのブロックが属するユニットUA、UBを示すAまたはBを付している。
図11に示したユニットUA、UBは同一の構成であり、衛星系ユニットUAの位置情報抽出部21Aが抽出した情報は地上系ユニットUBの位置情報検索部5Bへ出力されている。同様にして、地上系ユニットUBの位置情報抽出部21Bが抽出した情報は、衛星系ユニットUAの位置情報検索部5Aへ出力されている。
【0056】
また、各ユニットUA、UBのシステム切替時の動作は、ともに図7のフローチャートに示した通りである。すなわち、衛星系から地上系ヘシステム切替を行う場合には、位置情報検索部5Bが、位置情報抽出部21Aの出力する衛星回線の情報と、位置情報記憶部3Bに記憶されている地上回線の情報とに基づき、データ検索を行う。一方、地上系から衛星系ヘシステム切替を行う場合には、位置情報検索部5Aが、位置情報抽出部21Bの出力する地上回線の情報と、位置情報記憶部3Aに記憶されている衛星回線の情報とに基づき、データ検索を行う。
【0057】
本実施の形態によれば、異なる2つの無線通信システムの、任意の一方を第1の無線通信システム(切替前システム)とし、他方を第2の無線通信システム(切替前システム)とすることができる。すなわち、異なる2つの無線通信システム間で行われるシステム切替の双方向に関して、ともに位置情報を用いた回線サーチを行うことができる。従って、システム切替時の回線サーチの時間を、双方向に関してともに短縮することができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、衛星通信システム、地上通信システム間でシステム切替を行う場合について説明したが、本発明は異なる無線通信システム間で切り替えを行う場合一般に適用することができる。例えば、異なる地上通信システム間でシステム切替を行う場合にも適用することができる。さらに、静止衛星を用いた衛星通信システムであれば、異なる衛星通信システム間でシステム切替を行う場合にも適用することができる。
【0059】
実施の形態4.
通信衛星には、静止軌道(高度 35,786km の円軌道)上を地球自転周期で周回する静止衛星と、静止軌道よりも高度の低い軌道上をより短い周期で周回する移動衛星(非静止衛星)がある。静止衛星が無線ゾーンを形成するシステム(静止衛星通信システム)では、無線ゾーンの位置は不変であるが、移動衛星が無線ゾーンを形成するシステム(移動衛星通信システム)では、時間とともに無線ゾーンが移動して、その位置情報が変化する。
このため、実施の形態1では、移動衛星通信システムを第1の無線通信システム(切替前のシステム)とする場合について説明したが、本実施の形態では、移動衛星通信システムを第2の無線通信システム(切替前のシステム)とする場合について説明する。
【0060】
図12は、本発明による移動体通信装置MSの一構成例を示したブロック図であり、地上回線を捕捉する地上系ユニットUAと、衛星回線を捕捉する衛星系ユニットUBからなる。なお、図2に示したブロックに相当するブロックには同一の符号を付して説明を省略する。また、各ブロックの符号の末尾には、そのブロックが属するユニットUA,UBを示すAまたはBを付している。
図2の移動体通信装置MSを含むシステム構成例は、図1と同様であり、移動体通信装置MSは、衛星回線および地上回線から、いずれかの通信回線を選択して使用することができる。ただし、本実施の形態では、図1の通信衛星SSを移動衛星とし、衛星系ユニットUBは移動衛星SSの提供する通信回線を捕捉するものとする。
【0061】
地上系ユニットUAは、回線監視部20A、位置情報抽出部21A、回線リスト6Aおよび回線選択部7Aからなり、図2のユニットUAと同一の構成である。
衛星系ユニットUBは、アンテナ部1B、回線監視部20B、位置情報抽出部21B、位置情報記憶部3NB、位置情報書込部4NB、位置情報検索部5NB、回線リスト6B、回線選択部7B、タイマー部8Bおよび周期誤差処理部9Bからなり、図2のユニットUBと比較すれば、位置情報記憶部3NB、位置情報書込部4NBおよび位置情報検索部5NBが異なり、さらにタイマー部8Bおよび周期誤差処理部9Bが追加されている。
【0062】
タイマー部8Bは時間経過を計測して時刻を出力する時計回路により構成される。ただし、タイマー部8Bの出力する時刻は、当該装置MS内部でのみ用いられる時刻であっても良い。例えば、リセット時又は電源投入時等を基準とする時刻であっても良い。本実施の形態では、時刻として時分及び日付(月及び日)を用いるが、必要に応じて年とともに、或いは、時分のみを用いてもよい。
【0063】
位置情報書込部4NBは、位置情報抽出部21B、タイマー部8Bおよび回線選択部7Bの出力信号に基づき、待ち受け時に受信した衛星回線の情報をその捕捉時刻とともに位置情報記憶部3NBに書き込む。すなわち、回線サーチ時に回線状態の良好な衛星回線が発見されると、回線選択部7Bが回線情報とともに書込要求信号を出す。位置情報書込部4NBは、この書込要求に基づき、タイマー部8Bの出力する時刻を、回線情報および位置情報抽出部21Bの出力する位置情報とともに位置情報記憶部3NBへ書き込む。
【0064】
位置情報記憶部3NBは、通信回線の受信時刻をその通信回線の回線情報および無線ゾーンの位置情報に関連づけて記憶する記憶装置であり、書込可能な記憶装置、すなわち、DRAM、SRAM等の揮発性記憶装置や、フラッシュメモリ、EPROM等の不揮発性記憶装置により実現することができる。
【0065】
図13は、位置情報記憶部3NBを構成するデータの一例を示した図である。例えば、受信時刻「9月2日10:00」が回線情報「F1−T1」および位置情報「(Xa1,Ya1)、(Xa2,Ya2)、…、(Xa6,Ya6)」と同一アドレス(アドレス1)に記憶され、関連づけられている。
【0066】
周期誤差処理部9Bは、誤差演算部90Bと許容値比較部91Bからなり、位置情報記憶部3NBに記憶された受信時刻に基づき、周期誤差を求める。周期誤差とは、過去の信号受信時の移動衛星SSの位置から、同一の移動衛星SSの現在位置までの距離と方向(相対位置)であり、誤差演算部90Bによって求められる。また、許容誤差比較部91Bは、周期誤差に基づき、その受信時刻に関連づけて記憶された位置情報について、重複面積の演算を行う必要があるか否かを判断する。
【0067】
誤差演算部90Bは、移動衛星SSからの信号受信後の経過時間に基づいて、移動衛星SSの相対位置を求める。誤差演算部90Bは、位置情報検索部5NBから受信時刻を受け取ると、この受信時刻とタイマー部8Bの出力する現在時刻との差分Δt、すなわち、受信時刻から現在までの経過時間を求める。次に、この経過時間の、予め与えられた移動衛星の周回周期(衛星周期)Tに対する周期誤差を求める。
この周期誤差は、受信時刻と現在時刻との差分Δtを衛星周期Tで割った商をnとすると、{Δt−T×n}と{Δt−T×(n+1)}のうち、絶対値の小さい方の値である。通信衛星の方向は周期誤差の符号で表され、前者の場合には移動衛星の移動方向と同一方向を意味する「正」の符号となり、後者の場合には移動衛星の移動方向と逆方向を意味する「負」の符号となる。
【0068】
図14は誤差演算部90Bの動作の一例を説明するための説明図である。ここでは、移動体通信装置MSが、矢印Aの方向に移動している通信衛星SSoからの無線信号を時刻Toに受信したものとする。
その後の時刻Taにおいて、通信衛星がSSaの位置にあるならば、{(Ta−To)−T×n}<{T×(n+1)−(Ta−To)}となるため、周期誤差は{(Ta−To)−T×n}、すなわち、通信衛星SSaまでの距離が{(Ta−To)−T×n}で、方向が矢印Aと同じ方向と求めることができる。
一方、時刻Tbに通信衛星がSSbの位置にあるならば、{(Tb−To)−T×n}>{T×(n+1)−(Tb−To)}となるため、周期誤差は{(Tb−To)−T×(n+1)}、すなわち、通信衛星SSbまでの距離が{T×(n+1)−(Tb−To)}で、方向が矢印Aと逆の方向と求めることができる。
なお、上記周期誤差の次元は時間であるが、衛星軌道(高度)と衛星周期が決まれば、移動衛星の移動速度も決まるため、周期誤差の絶対値は、通信衛星SSoと通信衛星SSa,SSbとの距離と等価である。
【0069】
許容値比較部91Bは、誤差演算部90Bにおいて求められた周期誤差の絶対値を予め定められた許容値と比較する比較回路であり、受信時刻に関連づけられた無線ゾーンの位置情報に関し、積分演算部50Bにおいて重複面積を求めることができるか否かを判断する。すなわち、この許容値は、後述する位置情報補正部52Bにおいて補正することができる範囲として予め定められる。
比較の結果、周期誤差が許容範囲内である場合には、位置情報の補正を行うために、求められた周期誤差は位置情報検索部5NBへ出力される。一方、周期誤差が許容範囲外である場合には重複面積を求めることができないため、「許容範囲外」の通知が位置情報検索部5NBへ出力される。
【0070】
位置情報検索部5NBは、図2の位置情報検索部5Bに位置情報補正部52Bを追加して構成され、無線ゾーンの位置情報を補正しつつ、位置情報記憶部3NBに記憶された位置情報の検索を行い、検索された通信回線の関連づけられた回線情報を出力する検索回路である。
地上系から衛星系ヘシステム切替を行う場合、回線選択部7Bが検索要求信号を出す。積分演算部50Bは、この検索要求信号に基づき、まず、位置情報抽出部21Aから地上回線の無線ゾーンの位置情報(第1の位置情報)を受け取るとともに、位置情報記憶部3Bから衛星回線の無線ゾーンの位置情報(第2の位置情報)と、それに関連づけられた受信時刻とを読み出す。
【0071】
次に、受信時刻を周期誤差処理部9Bへ出力し、求められた周期誤差または「許容範囲外」の通知を受信する。「許容範囲外」の通知を受け取った場合には、積分演算を行わず、重複面積を「0」とする。一方、周期誤差を受け取った場合には、第2の位置情報と周期誤差を位置情報補正部52Bへ出力し、補正後の位置情報を受け取り、第1の位置情報と補正後の第2の位置情報に基づき、両無線ゾーンの重複面積を求める。この様にして、位置情報記憶部3NBに記憶された第2の位置情報のそれぞれについて、第1の位置情報との重複面積を求める。
【0072】
面積比較部51Bは、積分演算部50Bの求めた各重複面積を比較し、その比較結果に基づき、位置情報記憶部3Bから回線情報を読み出す。すなわち、第1の位置情報との重複面積が最大となる無線ゾーンを発見し、この無線ゾーンに対応する通信回線の回線情報を読み出しで、回線選択部7Bへ出力する。
【0073】
位置情報補正部52Bは、周期誤差に基づき、第2の位置情報の補正を行う。すなわち、位置情報補正部52Bは、予め与えられている移動衛星SSの移動速度および移動方向を用いて、周期誤差を緯度及び経度に換算する。そして、第2の位置情報を構成する各位置情報、すなわち、各頂点度標の緯度及び経度にそれぞれ加算して、受信時の位置情報を現在の位置情報に補正する。
【0074】
図15のステップS300〜S313は、図12に示した衛星系ユニットUBの動作の一例を示したフローチャートであり、地上系から衛星系へのシステム切替時の動作を示した図である。このプロセスは、システム切替のイベント発生により実行される。
システム切替のイベントを受信した回線選択部7Bが、検索要求信号を出力すると、この検索要求信号に基づき、積分演算部50Bが、位置情報抽出部21Aから第1の位置情報を受信するとともに、位置情報記憶部3Bから第2の位置情報及び受信時刻を読み出す。
【0075】
誤差演算部90Bは、読み出された受信時刻とタイマー部8の出力する現在時刻に基づき、周期誤差を求める(ステップS300)。そして、許容値比較部91Bが、周期誤差の絶対値と所定の許容値との比較を行って、周期誤差を出力する(ステップS301)。
次に、位置情報補正部52Bが、求められた周期誤差に基づき、読み出された第2の位置情報を補正し(ステップS302)、積分演算部50Bが、補正された第2の位置情報と、第1の位置情報との重複面積を求める(ステップS302)。
【0076】
この様にして、位置情報記憶部3NBに記憶されている全ての第2の位置情報について、第1の位置情報との重複面積を順次に求めていき(ステップS304)、その後の動作(ステップS305〜S313)は、図7に示したフローチャートのステップS101〜S109と同様である。
なお、衛星系から地上系へのシステム切替時の動作は、図8に示したフローチャートと同様である。
【0077】
位置情報記憶部3NBに記憶保持されている第2の位置情報は、過去(信号受信時)の位置情報である。従って、第2の無線通信システムが移動衛星通信システムであれば、現在の位置情報は記憶されている位置情報とは異なり、第1の位置情報との現在の重複面積を求めることはできない。
しかしながら、周期誤差を用いて第2の位置情報を補正し、補正された第2の位置情報について、第1の位置情報との重複面積を求めることにより、現在の重複面積を求めることができる。
【0078】
従って、本実施の形態によれば、移動衛星通信システムが第2の無線通信システム(切替後システム)であっても、システム切替の際、現在捕捉中の通信回線の無線ゾーンに地理的に最も近い無線ゾーンを有する通信回線を優先的に選択することができる。従って、移動衛星通信システムヘのシステム切替時の回線サーチの時間を大幅に短縮することができる。
なお、本実施の形態では、位置情報補正部52Bが、周期誤差を用いて第2の位置情報を補正しているが、第1の位置情報を逆方向に補正してもよく、いずれの場合でも積分演算部50Bにおいて同じ重複面積が求められる。
【0079】
また、本実施の形態では、周期誤差処理部9Bに許容値比較部91Bを備えた場合について説明したが、許容範囲が広い場合には、許容値比較部91Bを備えることなく構成し、常に周期誤差を出力してもよい。
また、本実施の形態では、地上系ユニットUAが地上回線を捕捉するユニットである場合について説明したが、静止衛星からの衛星回線を捕捉するユニットであってもよい。
【0080】
実施の形態5.
図16は、本発明による移動体通信装置MSの他の構成例を示したブロック図であり、図15において、ユニットUAを図2に示したユニットUBと同一の構成としたものである。なお、本実施の形態では、図15の場合と同様、図16中のUAが地上回線を捕捉する地上系ユニットであり、UBが移動衛星からの衛星回線を捕捉する衛星系ユニットであるものとする。
【0081】
本実施の形態によれば、地上系から衛星系ヘシステム切替を行う際には、実施の形態4の場合と同様にして、移動体通信システムヘのシステム切替時の回線サーチの時間を大幅に短縮することができる。また、衛星系から地上系ヘシステム切替を行う際には、実施の形態1、3の場合と同様にして、移動体通信システムヘのシステム切替時の回線サーチの時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明による移動体通信装置MSを含むシステム構成例を示した概略図である(実施の形態1)。
【図2】図1に示した移動体通信装置MSの一構成例を示したブロック図である。
【図3】図2に示した回線リスト6Bを構成するデータの一例を示した図である。
【図4】無線ゾーンの一例としてセルラ方式におけるセルを模式的に示した図である。
【図5】図2に示した位置情報記憶部4を構成するデータの一例を示した図である。
【図6】第1の位置情報および第2の位置情報の一例を示した図であり、図2に示した位置情報検索部5Bの動作の一例を具体的に説明するための図である。
【図7】図2に示した地上系ユニットUBの動作の一例を示したフローチャートであり、衛星系から地上系へのシステム切替時の動作を示した図である。
【図8】図2に示した衛星系ユニットUAの動作の一例を示したフローチャートであり、地上系から衛星系へのシステム切替時の動作を示した図である。
【図9】本発明による移動体通信装置MSを含むシステム構成例を示した概略図である(実施の形態2)。
【図10】第1の位置情報および第2の位置情報の一例を示した図であり、図2に示した位置情報検索部5Bの動作の一例を具体的に説明するための図である。
【図11】本発明による移動体通信装置MSの一構成例を示したブロック図である(実施の形態3)。
【図12】本発明による移動体通信装置MSの一構成例を示したブロック図である(実施の形態4)。
【図13】図12に示した位置情報記憶部3NBを構成するデータの一例を示した図である。
【図14】図12に示した誤差演算部90Bの動作の一例を説明するための説明図である。
【図15】図12に示した衛星系ユニットUBの動作の一例を示したフローチャートであり、地上系から衛星系へのシステム切替時の動作を示した図である。
【図16】本発明による移動体通信装置MSの他の構成例を示したブロック図である(実施の形態5)。
Claims (10)
- 第1の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信された受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第1の抽出ステップと、
第2の無線通信システムの提供する2以上の無線ゾーンの位置情報をその回線情報に関連づけて記憶する記憶ステップと、
前記記憶ステップにより記憶された2以上の無線ゾーンと、前記第1の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンとの重複面積をそれぞれ求める面積演算ステップと、
第2の無線通信システムの提供する2以上の無線ゾーンのうち、前記面積演算ステップにより求められた重複面積が大きい無線ゾーンの無線通信回線を優先的に選択する回線選択ステップとを備えたことを特徴とする無線通信システム切替方法。 - 第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信した受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第2の抽出ステップを備え、
記憶ステップが、前記第2の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンの位置情報をその回線情報に関連づけて記憶することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム切替方法。 - 第1の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信された受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第1の抽出ステップと、
静止軌道より高度の低い定軌道上を周回する移動衛星を用いた第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信した受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第2の抽出ステップと、
前記第2の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンの位置情報をその受信時刻およびその回線情報に関連づけて記憶する記憶ステップと、
前記記憶ステップにより記憶された受信時刻と現在時刻との差分を求め、この差分の衛星周期に対する周期誤差を求める誤差演算ステップと、
衛星の移動速度、衛星の移動方向および前記誤差演算ステップにより求められた周期誤差を用いて、前記記憶ステップにより記憶された無線ゾーンの現在位置について、前記第1の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンとの重複面積をそれぞれ求める面積演算ステップと、
第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンのうち、前記面積演算ステップにより求められた重複面積が大きい無線ゾーンの通信回線を優先的に選択する回線選択ステップとを備えたことを特徴とする無線通信システム切替方法。 - 面積演算ステップは、衛星の移動速度、衛星の移動方向および誤差演算ステップにより求められた周期誤差に基づき、記憶ステップにより記憶された無線ゾーンの位置情報を補正する補正演算ステップと、
前記補正演算ステップにより補正された無線ゾーンについて、第1の抽出ステップにより抽出された無線ゾーンとの重複面積をそれぞれ求める積分演算ステップとを備えたことを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム切替方法。 - 面積演算ステップは、誤差演算ステップにより求められた周期誤差を予め定められた許容誤差と比較する誤差比較ステップを備え、この比較結果に基づき重複面積を求めることを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム切替方法。
- 第1の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信された受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第1の抽出部と、
第2の無線通信システムの提供する2以上の無線ゾーンの位置情報をその回線情報に関連づけて記憶する記憶部と、
前記記憶部により記憶された2以上の無線ゾーンと、前記第1の抽出部により抽出された無線ゾーンとの重複面積をそれぞれ求める面積演算部と、
第2の無線通信システムの提供する2以上の無線ゾーンのうち、前記面積演算部により求められた重複面積が大きい無線ゾーンの無線通信回線を優先的に選択する回線選択部とを備えたことを特徴とする移動体通信装置。 - 第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信した受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第2の抽出部を備え、
記憶部が、前記第2の抽出部により抽出された無線ゾーンの位置情報をその回線情報に関連づけて記憶することを特徴とする請求項6に記載の移動体通信装置。 - 第1の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信された受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第1の抽出部と、
静止軌道より高度の低い定軌道上を周回する移動衛星を用いた第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンにおいて受信した受信信号から、その無線ゾーンの位置情報を抽出する第2の抽出部と、
第2の抽出部により抽出された無線ゾーンの位置情報をその受信時刻およびその回線情報に関連づけて記憶する記憶部と、
前記記憶部により記憶された受信時刻と現在時刻との差分を求め、この差分の衛星周期に対する周期誤差を求める誤差演算部と、
衛星の移動速度、衛星の移動方向および前記誤差演算部により求められた周期誤差を用いて、記憶部内に記憶された無線ゾーンと、第1の抽出部により抽出された無線ゾーンとの現在における重複面積をそれぞれ求める面積演算部と、
第2の無線通信システムの提供する無線ゾーンのうち、前記面積演算部により求められた重複面積が大きい無線ゾーンの通信回線を優先的に選択する回線選択部とを備えたことを特徴とする移動体通信装置。 - 面積演算部は、誤差演算部により求められた周期誤差に基づき、衛星の移動速度および移動方向を用いて、記憶部により記憶された無線ゾーンの位置情報を補正する補正演算部と、
前記補正演算部により補正された無線ゾーンについて、第1の抽出部により抽出された無線ゾーンとの重複面積をそれぞれ求める積分演算部とを備えたことを特徴とする請求項8に記載の移動体通信装置。 - 面積演算部は、誤差演算部により求められた周期誤差を予め定められた許容誤差と比較する誤差比較部を備え、この比較結果に基づき重複面積を求めることを特徴とする請求項8に記載の移動体通信装置。
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